EtR:水面下の影ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
17.6万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
03/14〜03/17
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●本文
●木舟か、はたまた泥舟か
標高2917mあるオリンポス山。その山腹に、オリンポス遺跡はある。
探索が続けられる第三階層には、ただただ一面の水が広がっており、その上に一つ二つと島が浮かんでいた。
先の探索で判明したのは、そんな洞窟内にどこまでも延々と広がる水と、やはり大小さまざまな島が点在しているという光景。
水深不明の水中には、魚の類が棲息していると見受けられ。何らかの『害を及ぼそうとする』存在もまた、未だ水面下に潜んでいる事に変わりはない。
だが水の上を飛び回ったり、光で照らすなどしても、襲ってくる様子はなく。現状では水中に足を踏み入れた者や、水面を移動する事で襲撃行動に及ぶ事が確認された。
一方、点在している島のうち岸に一番近い島は、陸が地上に露出した島ではなく、長い年月を経て出来上がった、一種の『浮島』のようなモノだと判明した。
一時的に岸まで寄せた浮島ではあるが、それが先へ進むための『足場』となるかどうかは不明瞭で。それを承知で活用していくか、別の手段を考えるかは探索に向かう者の判断に委ねられる。
●リプレイ本文
●モノと頭は使い様
えっちょらおっちらと苦心しながら荷を運ぶ姿は、遠く上方から見れば蟻の様に見えたかもしれない。
青いビニールシートに巻いた俵のような物体や様々な『機材』を、十人が協力し合って運んでいた。
「軽いけど、かさ張るわね。それ」
軽い筒物を抱える富士川・千春(fa0847)は、俵状の物体を担ぎ、あるいは引き摺る男達を見やる。
「でも全員が乗るには、さすがに小さいですよ」
演奏家の相沢 セナ(fa2478)は、指を痛めないよう肩にザイルをかけていた。
「メンバーの半数は飛べるし、浮島も使いモノになるんなら、ひとまずコレでなんとかなるだろう」
軽々と運ぶヘヴィ・ヴァレン(fa0431)の言葉に、ひぃふぅみぃとベス(fa0877)が翼を持つ者の数え。その指が、ふと止まった。
「‥‥ぴゃ? 見慣れない人がいるよ?」
「こら。いきなり、ご挨拶だな」
苦笑する小塚透也(fa1797)に、ベスはぺろっと小さく舌を出して笑う。
「でも良かったね、氷さん。トーヤ君がきたから、あたしと氷さんとの漫才コンビ解消だね」
「そうか‥‥やっと、ベスちゃんから解放されるか‥‥」
引き摺るように俵状の物体を運ぶ早切 氷(fa3126)が、大きく口を開けて酸素を取り込んだ。
「ぴ、違うよ? 氷さんと、トーヤ君のコンビ」
「‥‥待て」
「なんで、そうなんだ」
「だって、あたしは燐ちゃんがいるもん」
二人から突っ込まれたベスは、ぐぃと友人を引っ張り。ベスに腕を組まれた燐 ブラックフェンリル(fa1163)が、てへりと笑う。
「下の方って、初めてなんだよね〜。何かあったら、ベスちゃん助けてね!」
「勿論だよ、燐ちゃん!」
「‥‥逆じゃねーの?」
「ぴよ〜?」
氷の指摘に、ベスは身体ごと首を傾けた。
「まったく‥‥レッドもなんとか言ってやってくれよ」
荷物を抱え直しながら透也が援護を求めれば、Cardinal(fa2010)はそんな主張も面白そうに眺め。
「久し振りに一緒に仕事が出来て、嬉しいんだろう」
「ああ、現場が現場だしな。辛気臭くなるより、いいんじゃないか」
他人事のように、御鏡 炬魄(fa4468)もまたCardinalへ同意する。
「それにしても、ホワイトデーにアイドル達と遺跡探検か‥‥なんだか世知辛いねぇ」
別の意味でもぼやく氷に、セルゲイ・グラズノフ(fa4965)は肩を竦める。
「返さずに済んだとか、思ってないよな」
「それ以前に、貰ってないし」
「‥‥」
「‥‥」
陽の当たらぬ閉鎖空間に、悲哀の空気が漂った。
狭い通路を抜けて、一行は漸く現在の最深部である三つ目の階層へと到達する。
前回の探索を終えた時から、様子はほとんど変わっておらず。
引き寄せた浮島は、そのまま岸に寄せられていた。
「水の流れが、ほとんどないんだな」
死んだように静かな水面へ、Cardinalが目を細める。
「それじゃあ、さっさと『仕事』に取り掛かるとするか」
『荷物』を降ろして並べたヘヴィが腕捲りをし、セナがザイルを、千春が長い円筒を持ってきた。
●釣り比べと力比べ
色々と苦心した末、十人は時間をかけて発泡スチロール製のフロートを棒とザイルで繋いだ簡易の筏を組み上げていた。
「ポケットサイズ超小型ミニマム持ち運び簡単組立式筏の準備も出来たし、いざ探検にしゅっぱーつ!」
元気よく、拳を突き上げて宣言するベスに。
「ベスさん‥‥ポケットでもなければ、超小型でもミニマムでもないから。それに、出発前にやる事があるわよ」
一応、お約束的に千春が手を振って突っ込んだ。
フロートの一部や、振動ナイフを紐に括りつけ。
『アングラー』達は、思い思いの『疑似餌』を水面に投げてみる。
「それで‥‥引っかかるのか?」
それぞれの『作戦』を試みる者達へ、透也は疑わしげな視線を投げた。
「判らん。だが水を蜘蛛の巣の様に利用して、獲物らしき何かが水に入り込んだ時‥‥つまり、『ある程度の規模を持つ継続的な振動』に反応するんじゃねえかと踏んでるんだが」
答えながらヘヴィは、フロートを結んだロープを引いたり放したりと繰り返し。
少し離れた場所では、セルゲイがイルカの浮き輪を投げてみる。
浮きモノだけでなく、千春はヴァイヴレードナイフを結んで挑戦し。
更には、ベスが千春の書いた地図を元にサーチペンデュラムを使ってみるが、蔓の『本体』を知る訳ではないためか成果は上がらない。
「大きな石か岩でもあれば、それを投げ入れてみるんだがな」
萎びた草の上に座ったCardinalが、ぼそりと呟いた。
−−そして、数十分後。
「‥‥かかりませんね」
注意深く様子を窺っていたセナが、微かに波紋が漂う水面を眺め。
氷は既に午睡を貪り、燐もつられてうつらうつらと舟を漕いでいる。
「やっぱ、『活きのいい獣人』でなきゃダメとかな」
そんな背後の様子を、不穏な笑みでヘヴィがちらりと見やった。
何だかチャプチャプという水音と、奇妙な浮遊感がする。
奇妙な違和感を感じて、目を開ければ。
「うわぁぁぁぁぁ〜、待てぇぇぇぇぇ〜っ!!」
氷はマット型浮き輪ごと縄でぐるぐる巻きにされ、水面を漂っていた。
「暴れると、沈むぞ」
ごく当然なアドバイスを、セルゲイが投げる。
「一度、捕まえ損なっている『餌』だから、かかりもいいだろう」
「理不尽だーっ!」
「だって氷さん、聞いても反対しなかったしね」
ベスと燐が顔を見合わせ、「ねー」と言葉を交し合う。
「否応ナシで、拒否権ナシとも言うな」
淡々と、炬魄が客観的事実に述べ。
そして−−。
「‥‥フィッシュ」
ヘヴィが握る綱に、アタリがきた。
氷へ絡みつく蔓のようなモノを、炬魄やセルゲイが鎌や刀で断ち切り、あるいは完全獣化して水に入ったCardinalが掴む。
蔓を引っ張るCardinalをヘヴィや燐、それに透也達が助け。
堆積物で出来た脆い岸を破壊しながら、ソレは水の外へと引きずり出された。
体長1mほどのソレは、水に戻ろうと身体をうねらせ、跳ねて暴れる。
ぬるりとした体表と寸胴なフォルムは、一見すると巨大なヒルかナマコの様に見える。
だが辛うじて、短い胸ビレと尾ビレを持ち。
頭部にある円形の大きな口からは、数本の蔓のような触手が延びている。
長さが微妙に不揃いなのは、先の探索で寸断されたせいもあるのだろう。
蔓を鞭の様に振り回し、あるいは掴むCardinalの腕を捻じ切りそうな勢いで締め付ける。
「なにこれ、気持ち悪‥‥っ」
「絶対、逃がすな! 今の間にやれ!」
燐は眉を顰める間にも、ヘヴィが仲間達へ声をかけ。
引き摺り上げるのを手伝っていたベスやセナ達が、武器を手に取る。
「さて。落としてやるべき『首』は、どこなんだか」
苦笑いを浮かべながら、炬魄が刈り取る刃を軟体の胴体に穿ち。
「さすがに、『破雷光撃』は‥‥不味いか」
セルゲイは日本刀からIMIUZIに持ち替え、至近距離から弾丸を次々と撃ち込む。
「コア、見えた?」
「ううん。見えないね。魚だったら、頭の方にあると思うんだけど」
矢をつがえ、弓を構えた千春が問えば、ベスは首を横に振った。
「身体の下に、隠れているのかしら」
「おそらくは、そうでしょう。力を削いでから、調べるしかないですね」
やはり弓を手にしたセナもまた、ほぼ一方的な『戦況』を見守る。
やがて、締め付ける蔓の力が弱まり。
刻まれた箇所からぐちゃぐちゃと肉片を散らし、跳ねて抵抗していた胴も、ずるずると頭部と尻尾を引き摺って、のたうつ程度となる。
Cardinalを助けて蔓を引いていた者達も、『解体作業』に加勢すれば。
ものの数分もしないうちに、ソレは文字通りの只の肉塊と成り果てた。
じくじくと膿んだような肉を、散弾が抉り。
顔を顰めたヘヴィは、肉の中から硬質の結晶のようなモノを引き千切る。
「ほらよ、頼んだ」
放り投げて落ちたコアを、幾つもの刃が粉砕し。
辺りは、静寂を取り戻した。
「ところで‥‥気になったんだが」
よほど生命力が強かったのか、コアを失ってもまだビクビクと蠢く物体へ、炬魄がモウイングを振り下ろす。
肉は難なく、ザックリと裂け。
そこから、小さな何かが次々と零れ落ちる。
「‥‥ナンだ、これ」
注意深く透也が一つを取り上げれば、それは弾力もなく硬く。
「判らん。ただ、奇妙な手ごたえがしたんでな」
拾い上げた透也が水辺へ近寄って、どんよりとした冷たい水で洗ってみれば。
付着物が落ちた下から、銀色の細工が現れた。
●処女航海
水音とともに、水面を次々と丸い波紋が広がっていく。
フロートで作り上げた筏は、のろのろと水の上を進んでいた。
「これ、なんなんだろうね。NWが間違えて食べたのかな?」
ライトの光にキラキラと輝く銀細工のブローチをかざした燐は、裏に表に返して不思議そうに眺める。
NWの体内から現れたブローチは一つ二つどころではなく、四種類の銀細工が数個ずつ発見された。それらは、獣人達の間でも『エウロスの紋章』『ゼフィロスの紋章』『ノトスの紋章』『ボレアスの紋章』なるオーパーツとして、知られている。
「どうだろうな。遺跡と何か関係があるのか、全くないのか‥‥」
オールで水をかきながらCardinalが呟き、『餌』にされた氷も同じ労働に勤しんでいる。
七人の翼を持つ者達は、筏で休息を取りつつ、交代で上から行く先を監視していた。
「‥‥この辺り、浮島の位置が変わってるわね」
以前に調べた時の手製の地図と比較し、千春が首を傾げる。
「ここいら一帯は、水の流れがあるのか?」
そんな透也の疑問は、すぐに氷解した。
進む筏を見下ろせば、その下の水の濃さが黒っぽく色を増す。
そして俄かに、水面が盛り上がった
さすがに筏に乗った者達も『異変』に気付き、慌ててオールを操い、あるいは身体でバランスを取って転覆から逃れようとする。
その大きさは、筏と比較しても体長3〜4mはあると思われた。
千春やセナが次々と矢を放つが、頭部をみっしりと覆う硬い殻に阻まれ。
特徴的な複眼がランプの光に反射して、巨体は再び水に沈む。
沈む際の水の引き込みに、Cardinal達は筏を組むザイルや骨組み掴んで放り出されるのを堪え。
上下する水面に、周りの浮島が漂っていく。
次の『襲撃』を警戒する中で、注意深く辺りを見回していたベスは奇妙な事に気がついた。
ゆらゆらと上下に漂いつつも、位置を変えない浮島がある。
『視点』を飛ばせば、更におかしな物が目に飛び込む。
細く四角い柱が浮島の真ん中に突き出し、それが島を流さないように固定しているのだ。
しかも、『動かない浮島』は一つではない。
正方形の角に配置されたように、四つ。
そのドレにも、楔のように四角柱が突き立てられている。
「あそこに、変なのがあるよー!」
手を口に当てて大声で仲間達に知らせ、ベスは四つの浮島を指差した。
「漕ぐぞ!」
Cardinalが力強くオールを振るい、ヘヴィやセルゲイも協力する。
水に視線を走らせる燐は、黒い影が浮上してくるのを警戒し。
「きたよ!」
再びの襲撃を告げる。
盛り上がる水に押されるように、筏は水面を滑り。
懸命に氷が進路を操って、ベスが示した浮島の一つにぶつける。
柱が水中から伸びている為なのか、巨大なNWの影は四つの浮島の周囲を暫くぐるぐると回り。
やがて一行が動かないのを見て諦めたか、その影は水底深くに沈んでいった。
「ぴや〜、おっきかった〜!」
「うん。怖かったね〜っ!」
ベスと燐は、手を取り合ってひとまずの無事を喜ぶ。
その間にもCardinalやセルゲイ、そしてヘヴィが筏を調べ始めた。
一方で炬魄は気になるのか、筏が乗り付けた浮島の柱を注意深く観察し。
セナや千春、透也が残った三つの島へとそれぞれ飛んだ。
念入りに、筏と柱を調べた後。
まだ上下に揺れる浮島の一つに集まり、十人は状況と情報を纏めにかかった。
「筏の方は、特に大きな損傷は見つからなかった。念のために、できるだけザイルは固く結び直しておいたがな。で、そっちはどうだった」
筏の状態を報告したヘヴィは、四本の柱を調べた者達に話を促す。
「材質は、どれも石ね。かなり硬いみたいで、汚れてはいても磨り減った様子がないわ」
まず千春が口を開き、セナが彼女に頷く。
「それから、先端の方が動くみたいで‥‥そこには、紋様が幾つか刻まれていました。四つの柱のどれも同じで、八種類です」
「ああ。四面で一組、それが二箇所で八つだ」
セナの言葉を受けて、炬魄が簡単に要点を纏めた。
問題の四角柱は、大人の胸の高さほどが浮島の上に突き出している。
そのどれもが、柱の二箇所が回転する仕掛けになっていた。
並び順は、いずれも同じ。
上部の回転箇所には『半分が波線に隠れた太陽』『丸い太陽』『半分が直線に隠れた太陽』『輝く一つの星』の四種類。
下部の回転箇所には、『炎』『少しカーブした斜線』『涙滴』『山のようなギザギザ模様』の四種類。
「察するに、上は東西南北の四方。下は、火風水土の四大元素のようだな」
「ぴゃ〜」
「へぇ〜」
炬魄の推察に、ベスと燐が揃ってと感嘆の声を上げた。
「試しにぐるぐる適当に回してみたけど、何も起きなかった。何か、特別な組み合わせがあるのかな」
思案する透也が、その考えを口にする。
「上下の図柄だけでなく、他にも鍵があるかもしれないな‥‥」
セルゲイもまた、腕組みをして唸り。
解けぬ謎を抱えたまま探索期間を迎えた一行は、報告の為に地上と戻った。