連鎖は続くヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
14.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/21〜03/23
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●本文
●Angreifer
慌しい足音が複数、石造りの廊下に響く。
「どうか、お待ちを‥‥お待ちになって下さいっ」
追い縋る声を聞き流し、大股で歩く先には厚い木造の扉が立ち塞がる。
力を込めて開け放った扉の向こうには、老いた男が二人。
部屋の外の騒ぎを聞きつけていたか、どちらも驚く様子もなく。折り目正しい執事は主人が取り込み中である旨を告げて、闖入者の非礼を言外に咎め。
執事よりも更に年を取っている一族の長は、椅子から腰を浮かせる事もなく、目を向ける事もない。
「‥‥鍵を、譲り受けにきた」
抑えた声に老執事の表情は強張るが、老いたる長の表情は変わらず。
しかしその手に握られた黒い剣に気付くと、僅かながら白い眉を顰めた。
●in London
『−−族長ニーベルング率いるニーベルンゲンの一族は、宝を護りて深き黒き森に潜む。
或る時、ブルグントの魔族が宝を狙いてニーベルンゲン一族を滅ぼさんと、黒き森に攻め入る。
ブルグント族の放つ猛毒は、誇り高きニーベルンゲンの騎士達を蝕み。
決して倒れぬ英雄ジークフリートも、妻クリームヒルトを遺して裏切りの一矢に地へ伏し。
妙なる宝は、ブルグント族の手に陥る。
遺されしクリームヒルト、僅かに生き残りし若き騎士達を率い。
その身を投げ打ちて、東方の王の助力を得ん。
猛毒にて騎士を蝕むブルグントの魔族と、炎にて魔族を討つニーベルンゲンの騎士の激しき戦、幾たびに渡り。
遂にクリームヒルト、夫の宝剣バルムンクとその命を以ってブルグント族の王を討ち果たす。
戦場となりし黒き森は、両者の炎と毒で朽ち枯れ、空から流星と雷と雹が堕ち。
焼け崩れて凍りし地は大きく裂け、全てを地の底へ飲み込む。
かくしてニーベルンゲン一族とブルグント族、ことごとく滅びん−−』
「‥‥これが、全文であるか?」
書き出した紙を手にしたレオン・ローズの問いに、フィルゲン・バッハは古い鍵付の本の表紙を指でなぞる。
「うん。いろいろと余計な枝葉も入っていたけど、ニーベルンゲンに関しては‥‥」
フィルゲンの言葉を、不意にけたたましいブザーが遮った。
「こんな時間に、お客さん?」
時計を見れば、既に針は午後の10時を表示している。
「ふむ。ここは、出てやるとするか」
仕方ないという風に、レオンは椅子から腰を上げて部屋から出る。
そして数分もたたずに、何故か旅行鞄を持って戻ってきた。
「誰だった? セールスとか」
「いいや。フィルゲン君に、客だ」
振り返ったフィルゲンは、同居人の後ろに控えた『客人』に眼を瞬かせる。
「あなたは‥‥」
丁寧に頭を下げる老執事に、フィルゲンは慌てて立ち上がった。
「大叔父さんが、入院した!?」
素っ頓狂な声に、リビングのソファに落ち着かなく座った執事は頭を下げる。
「はい。不意の襲撃に、傷を負われ‥‥命に別状はございませんが、念のためにとシュトゥットガルトの病院にて療養いただいております。私どもがおりながら、まことに申し訳ない限りでございます」
「え、でも、大叔父さんに付いてなくていいの?」
「はい。旦那様より、火急の用件を承っております」
鞄から布包みを取り出すと、執事はテーブルにそれを広げる。
現れた鈍く輝く鍵を、フィルゲンはじっと見つめ。
「これ、何?」
「黒森の地下深部に到る、鍵でございます」
執事の言葉に、重い沈黙が降りる。
そこへ突然、ガラスの割れる音が響いた。
「む‥‥フィルゲン君の部屋であるな」
「まさか、泥棒とか?」
息を呑んで顔を見合わせ、耳をすませて物音を窺う。
しかし、それ以上は何も起きず。
仕方なく立ち上がったフィルゲンは、おもむろに扉を開いて中を覗いた。
冷たい風に、ゆらゆらとカーテンがはためいている。
視線を動かして人気がない事を確認し、おもむろに部屋へ入ると。
「うわ‥‥やられた‥‥」
苛立たしげに、フィルゲンがガシガシと髪をかきむしる。
「どうかしたか?」
「本を‥‥持って行かれた。書き出した訳と一緒に」
苦々しげな相方に、レオンははてと首を傾げ。
「訳は、これであろう?」
ずっと持ったままの紙を、ぴらりと見せた。
「‥‥100回くらい、死んでこいっ!」
「ちょ、待て、蹴るでない。ここは、礼を言うべきところではないのかぁぁぁーっ!」
いつもの二人のやり取りに、執事は聞かぬ振りで静かに出された紅茶のカップを傾けた。
●リプレイ本文
●手分け
「あの、シヴェルさん。これを老ダーラントへ、渡してもらえませんか?」
鏑木 司(fa1616)がシヴェル・マクスウェル(fa0898)へおずおずと差し出したのは、封緘した一通の白い封筒だった。
「了解。ちゃんと預かったよ」
受け取るシヴェルへ、今度は小さな野草の花束が差し出される。
先刻まで花を摘んでいたセシル・ファーレ(fa3728)は、急いで戻ってきたのか息を弾ませていた。
「これも一緒に、お見舞いに‥‥セシルの代わりに、持っていって下さい」
バイクを飛ばせば風圧で散ってしまいそうな花束を、それでも彼女は頷いて受け取る。
「気をつけてな」
声をかければ、セシルは笑顔を返し。
「それじゃあ、こっちも行くわね。私がいないからって、みんな無理しないでよ」
軽くウィンクをして、羽曳野ハツ子(fa1032)も手配されたタクシーに乗り込んだ。
「城のメイドさん達には、僕からも連絡しておくから」
「アテにしてるわよ、フィル」
窓から顔を出したハツ子の頬へ、フィルゲン・バッハは別れの挨拶をし。
「じゃあ、私も行くか」
シヴェルもヘルメットを被り、大型バイクNR750のエンジンをかける。
走り去ったバイクと車を見送った深森風音(fa3736)は、深く一つ息を吐いた。
「それじゃあ、私達も行こうか」
「そうだな」
Cardinal(fa2010)が短く答え、神保原和輝(fa3843)も後へ続く。
再度、既に見えない車影を振り返った早河恭司(fa0124)は、先を行く者の背中を追い、執事が用意した車へと向かった。
シヴェルは、老ダーラントが入院する病院へ。
ハツ子は、襲撃の現場となったバッハ家の古城へ。
そして残る者達は、黒森の地下に広がる遺跡へと。
手分けをして、行動を開始した。
●狡猾
受付で病室の番号を確認し、大股で廊下を進む。
目的の番号に近づくにつれ、剣呑とした空気がチリチリと褐色の肌を刺した。
病室の前、廊下に設置された椅子には、畏まった服装に硬い表情をした中年から壮年の男女が数人、集まって話をしている。
曰く付き、時代錯誤、独断独裁、偏屈偏狭‥‥。
静かな廊下に漏れ聞こえる会話の切れ端は、どれも眉を顰めるニュアンスで。
近づくシヴェルに気付いたか、それは突然止んだ。
「失礼、何の御用でしょう」
壮年の男が、慇懃無礼にシヴェルへ声をかける。
「ダーラント・バッハ氏の見舞いに。氏とは、黒森の件で浅からぬ縁があってね」
彼女がウェストポーチから一通の封書を差し出せば、男はそれを受け取り、一番年長の男に手渡す。
裏と表に何度か返した末、封筒は開封される事無くシヴェルの手元へ戻された。
「長い話して負担をかけないよう、医者から言われてます。どうか、手短に」
「判った」
スライド式の戸を引いて、シヴェルは部屋へ入り。
後に続く男を、振り返って制した。
「氏が、二人で話したいと」
男が納得のいかぬ表情をしたのも束の間、ベットを凝視し、「判りました」と部屋を出る。
完全に戸が閉まるのを確認したシヴェルは、小さな花束と手紙をサイドテーブルに置き、ベット脇の丸い座面の椅子へ腰掛けた。
口には呼吸器、腕には点滴を固定され、枕元では様々な機器が規則正しい音を刻み。老いたる半竜人は、さもつまらなそうにベットへ身を横たえている。
「これでいいかな?」
おもむろに、彼女が声をかければ。
(「結構」)
言葉の代わりに、言葉と同じくらい重く響く思考が、彼女の頭の中で答えた。
「見舞いついでに、聞きたい事が二つほどあってね」
老齢の怪我人に負担をかけぬよう、シヴェルは手短に用件を話す。
襲撃者が、件のルーペルト・バッハと名乗る者か、否か。そして、フィルゲンへ黒森の鍵を託した理由。それが、彼女の質問だった。
(「今回の一件‥‥おぬしらの呼び名に倣うならば、ルーペルトが仕掛けた事には相違ない。嘆かわしい限りだがな。もっとも‥‥外の連中とて、大差ないが」)
「あの人達は、バッハ家の?」
戸へちらと目をやってシヴェルが問えば、老人は低く笑う。
(「あれらは、いつ儂が死ぬかを危惧しておる。その後、如何にあの遺跡をWEAへ厄介払いしようかとな。だが‥‥以前にも言った通り、アレは子供の玩具の如くいじり回すべきモノではない」)
「でも、別の者達は既に最深部へ向かっている。そうなる事が目に見えていて、何故わざわざフィルゲンに鍵を?」
(「血筋も後ろ盾もない者が、口さがない者を納得させる為には、何が必要かね?」)
投げ返された問いに、シヴェルはサイドテーブルを凝視した。
小さな野の花の束の、その下に置いた封筒を−−。
●嵐の後
壊れた窓から入ってくる冷たい風に、デジタルビデオカメラを回すハツ子は思わず身を竦めた。
城の奥にある執務室の様な部屋は、まるで嵐が飛び込んだ後のような有り様だ。
絨毯は引き裂かれて床が剥き出しになって、その上に紙束が散乱している。
陶器や硝子製の調度品は粉々に砕け散り、本棚からも何冊かの本が飛び出し、落ちている。
彼女の『撮影』を待って、メイド達が部屋の片づけを始めた。
「何かなくなった物なんか、ないかしら?」
カメラを回したまま聞けば、メイドの一人が困った表情で首を振る。
「この状態では‥‥すぐには、判りかねます」
「そっか。それにしても、凄いわね‥‥」
ひとしきり部屋を撮影したハツ子は、カメラを回したまま携帯で部屋の様子を撮影しておく。電波は届かないため、後で誰かに見てもらう事になるだろう。
一通りの作業を終え、黙々と作業を進める勤勉なメイド達の邪魔にならないよう、部屋の中央より少し外れたテーブルの傍へ移動する。
ふと手が触れた奇妙な感触に見下ろせば、硬いオーク材のテーブルの上には物がなく、焼け焦げた跡と幾つかの傷が刻まれていた。
「‥‥あら?」
ささくれた木に気をつけて、傷を指で辿る。
ある傷は、均等で真っ直ぐな断面。例えば、刃物で切りつけた様な。
別の傷は湾曲しながら抉る、並んだ痕跡。まるで、爪を叩きつけた様な。
気になって書棚や床に残った傷を調べれば、微妙に痕跡の違う傷が三つ四つと見つかる。
「襲った相手は、複数なのかしら」
傷跡もビデオカメラに収めると、ハツ子は邪魔にならぬよう部屋を出た。
「それにしても、例の訳文は‥‥単純に考えてニーベルンゲンがバッハ家で、ブルグントがダークサイドかそれに類するもの。そんな感じなのかしらね‥‥」
彼女の呟きに、答える者はない。
傍を離れない『案内役』のメイド二人を従えたハツ子は、考えを巡らせながら長い廊下を歩く−−。
●推察と憶測
封じられている筈の分厚い扉は、開け放たれていた。
「これは‥‥どういう事だ?」
訝しげに見やるCardinalに、執事は恐縮して頭を下げる。
「旦那様の御身を守る為、私めが独断にて、こちらの鍵を‥‥」
言葉の語尾は歯切れが悪いものの、結果は目の前の状況を見れば明らかだった。
「でも一番重要な深部には、僕が預かった鍵がなくちゃ行けないんだよね」
フィルゲンの確認に、執事は畏まって頭を下げる。
「これだと、中で待ち伏せをしている可能性もあるって事か‥‥なんとも言えない状況だね」
風音は暗い穴を覗き込んで唸り、その間も黙々と和輝は装備の点検をしていた。
「やっぱり‥‥行くのかい?」
微妙に嫌そうに、フィルゲンが尋ねる。これまでの『探索』とは違い、中に明確な害意を持つ『敵』が潜んでいるとなると、非戦闘員としては腰が引けるのだろう。
「えっと‥‥最深部の鍵が壊されていないか、確認しにいく‥‥とか?」
司が首を傾げて提案し。
「では、その線で」
少年の提案に、和輝が乗っかった。
「件のルーペルト氏が、出迎えの用意をしてくれていたりしてね」
「それは、どうかな」
そんな会話を交わしながら、風音と恭司も準備を終えて荷物を手にし。
「時間がありませんし、行きましょう。アライグマさん」
容赦なく、セシルが縞々模様の尻尾を引っ張っる。
「ぼ、僕の意思はぁぁぁ〜っ!?」
否応なく引き摺られていくフィルゲンの叫びを、再び閉じられる重い扉が闇に押し込めた。
扉が開け放たれたままになっていた為か、どうかは不明であるが。
一行が遺跡に足を踏み入れると、餓えた蟲達が勢い集まり、襲ってくる。
「 出来るのなら守りたい
平和な暮らし 楽しい日常を 」
FIREROCKを通した声は、衝撃波のような見えざる力となって実体化したNWを撃つ。
その音圧に抗したモノは、和輝が矢を射ち。
それすらかいくぐって来たモノは、Cardinalが剛腕で殴り飛ばす。
「これは‥‥日本で言うところの、『ぼぇ〜』?」
「‥‥違うから」
興味深げなフィルゲンに、脱力気味で恭司は首を振った。
「それで、ルーペルトって人に心当たりはないんだ」
「何度も聞かれるんだけどね‥‥名前も顔も、サッパリ。申し訳ないけど」
繰り返される質問に、フィルゲンも恐縮しきりで。
「でもまぁ、セシルさんの似顔絵も確認して、ひとまず従兄弟らしいって事は判ったし‥‥後は何が目的で動いているか、かな。探究心は好意を持てるけど、やり方がね」
足場の悪い足元に気をつけながら、風音が呟いた。
二番目の遺跡と同じく、最初は洞窟のような遺跡は、やがて石積みの明確な『通路』に出る。
だが、内部の崩壊は先の遺跡より著しく、崩れた壁や落ちた天井へ司が視線を走らせた。
「これが、本にあったニーベルンゲン一族とブルグント族が戦った痕跡なんでしょうか。地の底に飲み込まれたという‥‥」
「その本って、900年ほど前に書かれたのよね? となると、ここは1000年ほど前の遺跡になる‥‥計算かな」
話の端々を聞いていた和輝が、注意深く進行方向に目を凝らす。
「そうなるけど‥‥そうなると、ちょっとおかしいんだよね」
フィルゲンの言葉に、和輝は後ろを振り返った。
「おかしい?」
「うん。中世期、黒森は既に深い森だった。となると、荒廃した筈の『森』が回復するのが早すぎる。それにブルグント族との決戦は、なんで黒森だったんだろう。ニーベルンゲンからの略奪品を、拠点に持ち帰らなかったのかな」
考え込むフィルゲンに、答える者はなく。
思案の沈黙と同時に押し寄せる静寂に、恐々とセシルは手近な尻尾をにぎゅっと掴んだ。
「本の訳についても、改めて考察を立てる必要がありそうですけど‥‥ニーベルンゲン一族というのはバッハ家を指しているのでしょうか。直接ではなくて、こう‥‥比喩的にとか‥‥」
「それなら、こんな説もある。『ニーベルングの宝を持つ者が、ニーベルンゲンと呼ばれる』と」
彼なりに調べていたのか、Cardinalが一つの推察を提示する。
「しかし‥‥調べてみて思ったが、古い『話』では割と当たり前に人が竜になったり、狼になったりするんだな」
「みんな、獣人がモデルだったりするんでしょうか」
司の疑問に、「そうだね」とフィルゲンが頷いた。
「如何にして獣人が誕生したかは不明だけど、僕らのご先祖様は恐らく人と同じくらい昔から、人に混じって暮らしていたんだろう。時には神格化され、あるいは魔物に貶められ。排斥を恐れ、人々やあるいは自らが物語や歌という形に話を歪めて隠蔽し、後世の僕らに色々な事を残した‥‥ところで、セシル君。そろそろ、尻尾から手を放す気はないかい?」
「だって、怖いですから」
恨めしげに尋ねるフィルゲンに、セシルはにっこりと笑顔で誤魔化す。
「ついでに、今すぐじゃなくていいので、最初にお城へ行った理由を教えて下さいね? 個人的な事ならいいですけど」
「‥‥ごく、個人的な事デスがナニカ?」
カクカクと、硬い表情でフィルゲンが答えた。
●扉の先
やはり鉄で出来た扉の前で、一同は固唾を飲んでいた。
カチリと無機質な音がして鍵が外れ、砂埃を落としながら扉が開く。
中を覗いたフィルゲンは、尻尾の毛まで逆立ち。
くるりと仲間達へ振り返る。
「‥‥行くの、止めない?」
「今更、何を」
当然の如く、束になって返ってくるのは非難の視線。
渋々、フィルゲンが脇へ退く。
不意の襲撃がないかを、Cardinalと和輝が後ろに立って警戒し。
残る者達は、扉の向こうを覗き込む。
しっかりした床は、1mほどで闇に消えていた。
視線を降ろすと垂直に穴が穿たれており、ライトで照らしても『床』は見えない。
四角い穴は、一辺が10mほどある。が、階段や梯子はなく、きっちりと詰まれた石積みの壁は足がかりになりそうな場所がほとんどない。
「崩れてないのか‥‥ここは」
「まるで、奈落に続く穴だね」
恭司や風音が穴の底を窺うが、音も風もなく。
「様子、見てきます」
「一人では危険だし、私も行くよ」
司が名乗りを上げ、和輝が後に続いた。
和輝のランプを頼りに、速度に注意しながら真っ直ぐに20mか30mほども下れば。
がらんとした、広い空間に出た。
「うわ‥‥」
ライトを向けた先に、司は息を飲む。
洞窟の天井一面に、びっしりと。
太い、乳白色の木の根のような物体が、這い広がっていた。
白い物体の一部は、天井を突き破って地中に消えている。
人の手に寄るものではなく自然と出来上がった空間なのか、床や天井はごつごつとした岩肌が露出し、白い物体は天井に集中していた。
「まるで‥‥天井を支えているみたいね」
呆気に取られた和輝が、その光景の印象を口にする。
「ひとまず、上の人達に知らせに戻りましょう」
竜の翼を打って、司が促し。
二人は再び、縦穴を登った。