EtR:四つの柱ヨーロッパ
種類 |
ショート
|
担当 |
風華弓弦
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
5Lv以上
|
難度 |
やや難
|
報酬 |
31.3万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
03/23〜03/26
|
●本文
●道標か、それとも
現状での最深部である第三階層は一面の水が広がっており、その水面には大小や形状様々な小さな島が、ぽつりぽつりと浮かぶ。
探索を進める中で、それのほとんど地面ではなく、ただ水面を漂う浮島である事が判っている。
更に岸近くで何度か遭遇した『蔓』に関しても、いささか乱暴な方法ではあったが『排除』がなされた。
『蔓』の本体の腹の中からは、細やかな仕上げがされた銀の細工品が零れ出し。
行く手にはまだ、水中を自在に泳ぐ魚の様なNWの姿が探索者達を脅かす。
そして空洞のおおよそ中央と目される位置に在る、動かぬ四つの浮島。
島の中心には楔のように冷たく細い四角柱が穿たれており、奇妙な事に先端近くの二箇所が回転するようになっていた。
その四面には紋様が刻まれており、その全てが違う形と意味を模していた。
すなわち、上部の回転部には四方(四つの方角)を。
また下部の回転部には、いわゆる四大元素を。
それが意味するところを知るところまでは、先の調査では到らず。
横たわる水の深さも謎も、ようとして知れなかった。
●リプレイ本文
●蟻の行軍 Case2
数日前と同じように、大きな荷物を抱えた列がえっちらおっちらと進んでいく。
青いビニールシートに巻いた、俵のような物体−−発泡スチロール製のフロートに、補強用の金属パイプ、ザイルにといった急ごしらえの即席ボートの材料に、今回は救命胴衣が入った袋も加わっていた。
その上、前回の十人による分担作業に対して、今回の探索メンバーは七人。
必然的に、一番かさ張るフロートの数は減らさざるをえない。
「心なしか‥‥荷運びをしてると、気が落ち着くな。それにしても、単に重さだけなら十分持てるが、大きさがネックか」
軽々とフロートを担いでいるヘヴィ・ヴァレン(fa0431)に対し、早切 氷(fa3126)は脱力気味にフロートを運んでいる。
「今回ばかりは、さすがに持ってくれ‥‥とは、言えないな‥‥」
「まぁ、当然でござろう」
七枷・伏姫(fa2830)に賛同され、氷は失意の溜め息をついた。
「この遺跡にくるのは初めてだから、よろしくね」
「ぴよ? 大丈夫だよ〜、竜華さん強そうだもん」
「ありがと。でも先に注意点とかあったら、念のために聞いておきたいんだけど」
今回、初めて遺跡に足を踏み入れる竜華(fa1294)に、ベス(fa0877)は「ん〜と」と考え込み。
「三つ目の階層は、まだよく判らないけど水ばっかりでね。だから、ポケットサイズ超小型ミニマム持ち運び簡単組立式筏で‥‥」
「‥‥単なる、フロートを組んで作った筏だろう」
「それで進んで行くと、おっきい魚がいて‥‥」
「あれは魚ではなく、NWだ」
突っ込みどころの多いベスの説明に、聞き捨てならなかったのか御鏡 炬魄(fa4468)が適宜修正を入れ、竜華は面白そうに二人の話を聞く。
「 NWになんか負けないぞ〜
皆と一緒だから負けないぞ〜
仲間がいるから負けないぞ〜 」
降魔の木刀を振り振り唄う燐 ブラックフェンリル(fa1163)の声が、陰鬱な空間に明るく暢気に響いた。
『現場』に着くと、まず引き上げておいた筏に異常がないかを確認する。
次に今回持ち運んだフロートを使って、もう一つの筏作りに取り掛かった。
作業はヘヴィが中心になって、手際よく進められ。
探索の準備は、順調に整った。
●目標、大物一本釣り?
「よし‥‥縛るか」
ロープを片手に薄い笑いを浮かべた氷が、いたいけな少女ににじり寄る。
「ぴぇ‥‥縛るの?」
「うん、縛るの」
「ベスに何するんだ、コルァーー!!」
めぎょっ。
燐の一喝と共に、木刀が氷の頭にメリ込んだ。
「‥‥NWとの戦闘前から、負傷者を出すか」
前のめりにノビる氷へ、炬魄が嘆息する。
「だって〜! ベスが囮をやる事ないよ、また氷さんに頼もう? 今の間に、す巻きにして!」
さりげに不穏な発言を続ける燐の手を、ぎゅっとベスが握った。
「燐ちゃん。これは誰かがやらなくちゃいけない事だし、あたしに出来るベストの事だと思うんだよね! だから、あたし‥‥っ!」
「ベス‥‥っ!」
「はいはい、カットね」
芝居がかって盛り上がる二人を、竜華が制する。
「それで、話に聞くと相手は随分大きいそうだけど。囮で岸までおびき寄せるったって、できるの?」
竜華の指摘に、ヘヴィは腕組みをして低くうめいた。
「判らん。どこがドレくらい深いかも、判らんからな」
「ぴ〜。サーチペンデュラムで、NWの場所とか判らないかなぁ?」
首を捻るベスに、炬魄は首を横に振る。
「探す対象についてある程度の知識がなければ、効果がないだろう。それにこの周辺ならともかく、中心部近くは詳しい地図もない」
「そだったね‥‥」
思い当たって、更にベスは意気消沈した。
第二階層と違い、自由な移動が難しい第三階層では、全員でローラー的に調べる事も出来ない。従って、調査も水の向こうの『奥』へと直線的に進んでいる。
「どうこう言っていても、埒が明かないでござる。例え試みでも何もせぬよりは、やるに越した事はないのではござらぬか‥‥とはいえ、拙者は見ているのみで、申し訳ないでござるが」
刀の柄に手をかけた伏姫は、申し訳なさげに狐の尻尾をふるりと振った。
−−そして、数十分後。
「‥‥かからないね」
岸に近い浮島の縁に座って足で水をかいたり、水面に『破雷光撃』を放つなどして試みていたベスが戻ってくる。
「やっぱり、氷さんが餌でないとダメなんだよ!」
「ダメじゃねぇっ!」
燐の力説に、氷は全力で否定した。
「ともあれ、ここで相手が浮いてくるのをぼーっと待ってるわけにもいかないしな‥‥危険ではあるが、例の柱のある浮島を調べる事も考えた方がいいんじゃないか?」
「そうだな‥‥幸い、あそこまで行っちまえば襲ってこないようだし」
状況を見て切り出した炬魄に、ヘヴィも乱暴に髪を掻いて唸った。
●柱の紋様
翼を持つ者達が上から水面下の動きを警戒しつつ、飛べない者達はオールを操り。
念のために全員が救命胴衣を着用し、できるだけ急いで筏を進ませた一行は、場所を第三階層の中心付近と目される柱へと移動していた。
「さて、問題のコイツだが‥‥アテはありそうか?」
ごりごりと、ヘヴィが回転部分を回し。
「岸の傍にいたNWの腹から、北風、東風、西風、南風の四つの紋章が出てきたのに鑑みて、上を方位、下を風の紋様に合わせてみるのはどうでござろうか。それでも何もないようなら、それぞれの紋章を持った者がその方向に立ってみては」
伏姫の提案に、先の探索で手に入れた銀細工を持ってきた者達は、各々のそれを取り出してみるが。
「残念だが‥‥紋章は、四種揃っていないようだな」
それぞれが手にした紋章を見比べて、炬魄が苦笑する。
「ふむ‥‥ならば、柱の印を合わせて試みるしかなさそうでござるな」
伏姫の言葉に、ベスがぐるりと仲間の顔を見回した。
「えっと、あたしとヘヴィさんと炬魄さんが飛べるから、残り三つで待機して、指示を貰って動かせばいいかな?」
「それが一番手っ取り早いか」
「じゃあ、指示を頼んだぞ」
ヘヴィに続いて炬魄も翼を広げ、二人の男達は別々の島へと移動する。
「じゃあ、俺達は仲良く見物組だな。やー、頼れる仲間で嬉しいよ。うん」
「何が起きるか、判らんでござるよ?」
浮島に座り込み、早速大きな欠伸をする氷へ、伏姫が忠告しておく。
「何か起きたら、それはそれで万々歳だろ。変な封印を解いたとかなら、また話は別だけどな」
涼しい顔で、氷はひらりと手を振った。
まずベスが方位磁石で確認し、磁石の示す東西南北の位置を、四人がそれぞれ該当する方向に合わせる。
柱に刻まれた紋様の数は、合計で八つ。
上部の回転箇所には『半分が波線に隠れた太陽』『丸い太陽』『半分が直線に隠れた太陽』『輝く一つの星』の四種類。
下部の回転箇所には、『炎』『少しカーブした斜線』『涙滴』『山のようなギザギザ模様』の四種類。
「上の四方は、こうだろうな。『輝く一つの星』とは北極星の事だろう。だから、北になる。ならば、後は太陽の軌道を考えれば良い。東より出で、南天を通り、西へと沈むなら、南には『丸い太陽』が配置されて然るべき」
紋様から方角を説明する炬魄に、北を合わせたベスが首を傾げる。
「じゃあ、東と西は?」
「見解の問題だろう。地平線より出でて水平線へと沈むか、水平線より出でて地平線へと沈むか」
「オリンポス山から見ると、東が海で西が陸になるな‥‥」
西側に立つヘヴィが『半分が直線に隠れた太陽』を合わせ。
「じゃあ、こっちは波線でいい?」
東側では、竜華が『半分が波線に隠れた太陽』を風の模様に重ねる。
「それを内側に向けるか、外側に向ければ、仕掛けが動くのではないかと思うのでござるが‥‥」
提案した伏姫が作業を見守り、四人は声を掛け合って絵柄の向きを変えてみる。
−−が、何かが起きる様子はなく。
「むぅ‥‥外れでござったか」
「そのようだな。ただ、恐らく正解の絵柄を向ける方向は、おそらく内側に‥‥だろう。絶対とも言い切れんが、こう言う仕掛けは観測者あっての物だからな」
南を担当する炬魄が、太陽の通る道を指で描いてみせる。
「伏姫の案は、いい線いってると思ったんだけどな‥‥後は、四大だっけ?」
思案する竜華に、炬魄が頷いた。
「キリスト教の四大天使に準えるなら、ミカエルは東で火、ガブリエルが北で水、ラファエルは西に風となり、ウリエルが南に地だな。しかし、ここはギリシャ遺跡‥‥むしろカバラの方位で試みた方が、信憑性がありそうだ」
「ぴえ? それって、ドッチ?」
「北が地、東が風、南は火、西に水ね」
「は〜い」
竜華の指示に従って、それぞれの方向を合わせ直す。
そして、合わせた面を内側へ揃えれば。
ズズ‥‥と、柱を伝って重い振動が響いた。
「‥‥何だ?」
異常があればいつでも飛び立てるよう、ヘヴィが身構える。
「あれ、見てあれ!」
NWの警戒も兼ねて周囲に注意を払っていた燐が、声を上げて水面を指差した。
幾つもの波紋が、静かだった水を波立たせ。
水中から細い柱が次々と、何本も伸びてきた。
それらは全てが、平行に二列に並んでいて。
「おい‥‥下から、何か上がってくるぞ!」
氷が目を凝らす間にも、文様が刻まれた四つの柱が区切った空間へ、柱を伝う振動と共に、何かがせり上がってくる。
それはやがて、浮島をも押し上げ。
水中に放り出されないよう、飛べない者達は慌てて筏に移動する。
誰もが茫然と見守る中で、石の台座のようなモノが水上へと姿を現し、がくんと止まった。
「ナンだろう‥‥これ」
水面に立つ波紋に筏が揺れ、落とされないようにロープに掴まりながらも、燐が疑問を口にする。
「上に何か、落ちてるな」
注意深く、ヘヴィが水を滴らせる台座に降り立ち。
その中央付近に集まって転がっている装飾品の一つを、拾い上げた。
「また、だな。ブロ−チだ、それも四種類」
サファイアの付いた『アクアブロ−チ』を、ヘヴィは仲間にも判るよう掲げて見せた。
他にも、アンバ−があしらわれた『ガイアブロ−チ』、クリスタルをはめ込んだ『エアロブロ−チ』、ルビ−が輝く『フレアブロ−チ』が無造作に転がっている。
「これは、どういう‥‥」
「危ない!」
驚く伏姫の言葉を遮り、ベスが警告の声を上げる。
波に翻弄される筏の真下で、黒い影が浮かび上がろうとしていた。
●水を越えた先
盛り上がった水の上を、筏が滑る。
「振り落とされるな!」
竜華が燐の救命胴衣を掴み、氷と伏姫もロープや補強の鋼材をしっかりと握っていた。
「くっ‥‥地上なら、思い知らせてやるのに!」
歯噛みをする竜華の前で、甲殻に覆われたNWの頭が水上に浮かび、再び潜行を開始する。
「ヘヴィさん、これ!」
舞い降りたベスが、『降魔杵』を射撃の腕を信じてヘヴィへ手渡し。
「すまんが、注意を引き付けてくれ」
「うん!」
勢いよく首を縦に振って、ベスは再び翼を広げた。
「早く上がれ!」
柱の一つにロープを結んだ炬魄が、その先端を漂う筏まで運び、投げ落とした。
NWが再びの襲撃体勢を整える隙に、ロープを掴んだ竜華と氷の二人の白虎が、船を台座に手繰り寄せる。
氷が燐を押し上げ、伏姫は軽い足取りで台座へと登り。
再び、水が盛り上がる。
NWが台座へ体当たりしたのか、地響きがして。
台座に這い登る竜華と氷を追うように、再び甲殻の頭が水から現れた。
「こっちだよー!」
ライトブレードを抜いたベスが、それをかすめて飛び。
「えぇい、渾身の木刀スカッドミサイルー!」
援護とばかりに、燐が『降魔の木刀』をブン投げる。
‥‥もっとも、硬い音を立てて甲殻に弾かれ、あらぬ方向へすっ飛んでいったが。
一方、台座へぶつかったNWの身体は、そのまま水上に持ち上がり。
大型の魚のようなフォルムが、姿を現す。
「な‥‥!?」
「別の足場が、下から‥‥!」
驚く氷の脇から、竜華が水面を指差した。
柱に囲まれた台座だけでなく、次々と水中から石の足場が姿を現している。
「喰らえっ!」
それまで『降魔杵』を手に集中していたヘヴィが、大きく振りかぶり。
動きが鈍くなったNWの頭に向け、赤銅色の独鈷杵を投げ放つ!
我に返った者達も、それを追ってそれぞれの獲物を振るい。
頭部を覆う甲殻を、砕いた。
だが、戦闘はそこまでだった。
苦痛か、それとも地に上がった為か、巨大な魚は身を躍らせ。
足場から滑り落ちて、大きな水飛沫が上がる。
露わになったコアを煌めかせ、『降魔杵』を突き立てたまま。
その姿は、水の底へと沈んでいった。
NWを持ち上げた足場は、その後も次々と水面に連なり。
繋がったそれは、一本の細い『橋』となる。
手すりもなく、幅も2mほどしかない水上に現れた『橋』を一行は駆け抜けて。
ようやく、『向こう岸』へと辿り着いた。
「‥‥で?」
疲れた表情で、氷はソレを見上げる。
「どう見ても、扉ね」
ごく当然の言葉を、竜華が返した。
橋を渡りきった一行を待っていたのは、高さ3mほどの両開きの石扉。
とりあえず、ヘヴィが力を込めて押したり引いたりしてみるものの、ビクとも動かず。
「何か、模様があるでござるな」
伏姫が、石の表面に刻まれた溝を指でたどる。
それは、全く同じ大きさの正方形を二つ組み合わせた、正八角形。
二枚の石扉をまたぐ様に描かれた八角形の角ごとに、何かをはめ込む為の『窪み』が彫られていた。
「ぴよ? これ、全部形が違うね」
「うん。紋章に似てるのもあれば、丸いのも‥‥」
その一つ一つを、ベスと燐が揃って覗き込む。
「鍵になるものが、八つ必要‥‥という訳か」
腕組みをした炬魄は、じっと扉を見上げた。