Limelight:LandOfLiarsアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 6.3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 03/30〜04/01

●本文

●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
 隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
 看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
 扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
 地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
 その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされていた。そしてフロア奥、一段高くなった場所には、スピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいる−−。

「で、今年もやるのかい?」
 音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)の単刀直入な問いに、オーナーの佐伯・炎(さえき・えん)はカレンダーを眺めて煙草のフィルターを噛んだ。
「そういや、もう四月なんだな‥‥」
『四月嫌い』は相変わらず健在なのか、憂鬱そうに深く佐伯は嘆息する。
「‥‥嬉々としてネタを考えてるのとか、もういるのかねぇ」
「いるんじゃないかな。気合、入れてたりしてね」
「また『優勝』と称して、正月みたいな無理難題を要求されなきゃいいが」
 渋い顔で腕組みをして唸る佐伯に、川沢はいつものコーヒーを傾けながらくつくつと笑った。

●四月馬鹿、再び。
『四月馬鹿ゲーム−−。
 早い話が、4月1日の間に『嘘をついて見破られないか』と『嘘に騙されないか』というだけの『遊び』である。
 昨年も盛況(?)であったため、今年も開催される事となった。

 ルールらしきものは、次の通り。
 ・期間は4月1日の深夜0時丁度から、21時00分まで。それまでに『嘘』がばれなかったら、21時を過ぎた時点で『嘘』をばらす事。
 ・『嘘』は一人(または一グループ)一つまで。
 ・一つの『嘘』を、複数人で組んで仕込むのはOK。
 ・他の人を誹謗中傷する『嘘』は、ルール違反。あくまでもドッキリ程度の『楽しい嘘』を。

 去年同様『客を騙す』という意味で、突発的なハプニング・イベントを行ってもOK。
 なお最後まで嘘を見破られなかった者は、ささやかな『野望』が叶えられる‥‥らしい』


 −−『嘘』が許される特別な一日。アナタハ ダレヲ ダマシマスカ‥‥?

●今回の参加者

 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1646 聖 海音(24歳・♀・鴉)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)

●リプレイ本文

●ウソのホントとホントのウソ
 レトロなランプの下で、春風に暖簾(のれん)が揺れていた。
「‥‥暖簾?」
 不思議顔で、篠田裕貴(fa0441)は立ち尽くし。
「こりゃあ、佐伯さんが何か企んでるな」
 面白そうなLUCIFEL(fa0475)が、扉を押し開けた。

「佐伯さん、その格好‥‥っ」
 事務所では、ラシア・エルミナール(fa1376)が堪えきれぬ笑いを、ソファのクッションへぶつけている。
「そんなに可笑しいか?」
 作務衣に割烹着な格好の佐伯 炎が、心外そうに聞き。
「うん、可笑しい」
 ラシアが即答し、一方で聖 海音(fa1646)は目を輝かせていた。
「居酒屋へ転向されるなら、芸能界を引退した暁にはアルバイトとして雇って頂きたいです!」
「にしても、ライブ居酒屋ハウスはないよ」
「面白そうだろ?」
 ラシアに言い返す佐伯へ、川沢一二三は涼しい顔で珈琲を入れる。
「下手に大仰なネタを考えるから」
「あからさまに明るく言うな」
「だけど、最近「黒い」「怖い」って言われるしね。この際、言外に含むのは止めようかと」
「黒い、ですか?」
 きょとんとする美森翡翠(fa1521)は黒髪を揺らし、説明を求めるように傍らの海音を見上げる。
「でも‥‥年季も入ってますし、もう無理です‥‥よね? 清らかで真っ白な川沢様は‥‥」
 何気に酷い事をサックリ言う海音は、首を横に振った。
「想像出来ませんでした。やはり、川沢様は黒笑いナシでは‥‥」
「どういう意味だい、それは」
 微妙に肩を落とす川沢に、ちょうどやってきた慧(fa4790)が小首を傾げ。
「え? 川沢さん、黒笑顔やめるの?」
「一二三さん、炎さん、こんにちは〜!」
 一緒に現れた紗綾(fa1851)は、元気のいい挨拶と共に抱き付きに行く。
「相変わらず、激しい挨拶表現だな」
 首から紗綾をぶら下げた佐伯の服装に、慧は疑問の表情を浮かべた。
「あの、表の暖簾は?」
「ああ。店のイメージチェンジをしようと思ってな」
「えーっ、前の雰囲気の方が好きだったな」
「不評だねぇ」
 しょんぼりとする慧に、にやにやと笑いながらLUCIFELが続く。
「ハーイ、お久しぶり。川沢さん、佐伯さん♪」
 そこへ、アイリーン(fa1814)が満面の笑みで現れた。
「久し振りで、やけに元気だな」
「ふっふっふー、ご機嫌でしょ? 実はね。ロンドンで、ラジオ番組を一つ任せてもらえそうなのよ〜!」
 佐伯の言葉に、嬉しそうなアイリーンは指でVサインを作る。
「タイトルはずばり、『アイリーンのアフタヌーン・ティー』よ。ティー・タイムに合わせた番組で、ゲストやリスナーからオススメの店を紹介したり、リクエスト曲を集めたり。こっちじゃ聞けないだろうけど、そのうち日本のオススメ店で『Limelight』を紹介しちゃうんだから♪ そしたら、観光客がわんさかよ」
「新境地開拓か。俺も、俳優に転身しようと思ってな。お互い、頑張ろうぜ」
 アイリーンを励ますLUCIFELに、ふと海音が考え込む。
「そういえばLUCIFEL様はドラマのお仕事、されていませんでしたけど」
「ああ。『愛の歌い手から愛の演者へ』ってトコかな。愛を歌として伝えるのもいいんだが、まだまだ足りねぇ。俺としては、更に愛を伝えたい訳で‥‥目指すは恋愛ドラマの貴公子、みたいなとこか♪」
「恋愛ドラマの貴公子〜? ルシフ君が〜?」
 疑わしげに上目遣いの紗綾へ、LUCIFELがにじり寄り。
「紗綾には、まだ俺の愛が伝わってないみたいだな」
「慧君がいるから、ルシフ君の愛はいいもんっ」
 本能的に危機を察したか、紗綾が慌てて慧の後ろに逃げた。
 そんな賑やかな事務所へ、黒い衣装に黒いヴェールで顔を隠したマリーカ・フォルケン(fa2457)が姿を見せる。
「マリーカさん、どうかしたの?」
 物憂げな様子に気付き、アイリーンが心配そうに声をかけた。
「いえ‥‥今日は、『歌い手としての私自身』を弔おうと思いまして。恋人と結婚の話が持ち上がったんですけれど、その為には彼が歌を捨ててほしいと‥‥断腸の思いで『歌』を捨てる決意をしました」
 とつとつと語るマリーカに、空気は一転して重くなり。
「そんな事いう人なんか、駄目だよっ!」
「そうですよ。マリーカさんが歌を大切にしているなら、尚更です」
 カップル約一組が、猛然と反論した。
「いっそ、理解のない相手なんかこっちから捨てて、もっと理解のある相手を選んだ方がいいと思うぞ。例えば、俺みたいな」
 真剣に訴える紗綾と慧に、LUCIFELが調子を合わせる。
「あたしだったら‥‥音楽と慧君と、どっちかなんて言われたら‥‥選べないよぅ〜」
 ウサギのぬいぐるみを抱き、うりゅと泣き出しそうな紗綾の頭を「よしよし」とラシアが撫でて慰めた。
「ゴメン、ちょっと仕事の方で出るのが遅れちゃって‥‥って、紗綾、どうしかした?」
 一番最後に事務所へ到着した早河恭司(fa0124)は、到着早々の『騒ぎ』に怪訝な顔をして尋ねる。
「まぁ‥‥少し、ネタが悪かったね」
 苦笑いの川沢が、マリーカを見やり。
「そうですわね‥‥ごめんなさい。歌はやめませんから、安心して下さい。いまお付き合いしている方は、わたくしの歌も愛して下さっていますから」
「ホント?」
 青い目に涙をためて聞き返す紗綾に、マリーカは頷いた。
「う〜‥‥よかったぁ〜」
「ああ、もう。泣くんじゃないの」
 今度は嬉し泣く紗綾の背中をラシアがぽんと叩き、慧も髪を撫でてなだめる。
「で、恭司はまた、随分とめかし込んで来たんだね」
 声をかける裕貴に、白で統一したスーツ姿の恭司が肩を竦めた。
「めかし込むっていうか‥‥実は最近、副業でホスト始めたんだよ。どっかの兎のお菓子が食費を圧迫してるのと、ある小鳥に調理道具を買わされて‥‥っていうのは、冗談だけど」
「しょ、食費圧迫してないもん。あたしだって、ちゃんとお菓子作ってこれるし。今日だって、林檎のケーキ作ってきたんだよっ」
 胸を張って、涙目の紗綾が持参した白い箱を指差す。
「じゃあ、全員揃ったところで場所を移すか」
 戻ってきた明るい空気に、佐伯が切り出した。

『四月馬鹿ゲーム』−−4月1日だけ許される、騙し合い。
 嘘を見破られなかった『勝者』は、ささやかな『野望』が叶えられるとあって、参加者もそれなりに気合が入っている。
 その一方で。
「あたしは、嘘が思いつかなかったのですの」
 残念そうに、翡翠は『リタイア』を告げた。

●明るい探り合い
「お母さんと一緒に、お花見弁当作りましたの〜」
 ぶかぶかの作務衣に割烹着を着た翡翠が、持参した大きな重箱を運んでくる。「従業員をしてみたい」という希望ながらも、さすがに年齢的に難しく。ならば「開店時間まで」と、佐伯が衣装を借したのだ。
「わぁ‥‥とっても豪華なお弁当ね」
 蓋を開けたアイリーンの言葉に、翡翠は照れた微笑をみせる。
 筍の煮物に桜鯛の木の芽焼き、菜の花の胡麻和え、蕗(ふき)の青煮、たらこ入りの卵焼き、アスパラガスの田楽、人参と椎茸とサヤエンドウと高野豆腐の煮物、焼きハマグリ、醤油ベースの鳥の唐揚げと、季節物から山海の幸を詰め込んでいる。
 別のお重には、桜茶用の塩付け桜の花を細かく刻んで混ぜた雑穀ご飯と竹の子ご飯の御握りが、交互に彩りよく並んでいた。
「唐揚げ、ちょっと揚げ過ぎちゃったですけど‥‥他のは、お母さんが作ってくれたですの」
 緑茶を入れながら、恥ずかしそうに翡翠が説明する。
「じゃあこれ、翡翠さんが作ったんだ。美味しいよ」
 唐揚げを取る紗綾に、小さく翡翠は頷いた。
「えっと‥‥あたしが下味つけて、お母さんに隣で見てもらいながら揚げましたの」
「気持ちが込められていて、とても美味しいですよ」
 海音が褒めれば、嬉しそうに翡翠は別の包みを取り出した。
「甘味に道明寺の桜餅と、あとヨーグルトクリームの上に苺ゼリーをのせたのも持ってきました。春って言ったら、苺かなって」
「あら‥‥デザートでしたら、私も桜ゼリーを作ってみました。桜リキュールを使ってますが、アルコールは飛ばしてますので、未成年の方でも大丈夫です。乗せてある桜も塩抜きしてありますので、食べられますし‥‥あと、桜の花びらの形のクッキーもありますよ」
「さすが海音、綺麗だね」
「ありがとうございます」
 デザートを披露した海音は、裕貴の感想ににっこりと笑みを返す。
「裕貴様は、今日は?」
「うん。クグロフを作ってきたんだけど‥‥打ち上げの時に出そうと思ってるよ」
「まぁ、楽しみです」
 手を打つ海音の指に光るものを見つけて、裕貴が眼を瞬かせた。
「海音、それ‥‥」
 裕貴の指摘に、他の者も海音の手元を覗き込む。
「指輪、だね。左手の薬指」
 恭司が見たまんまを指摘し、説明を求める期待の視線が海音に集まった。
「ええと‥‥実は先日、レオン様と婚約いたしました‥‥」
 ほんのり頬を染めて、海音が打ち明ける。
「うわぁ〜。海音さん、おめでとう!」
 手を打ってはしゃぐ紗綾は、思い出したようにラシアへちらりと視線を投げ。
「結婚式は決まってるの? あのね、ラシアさんもこの間、式を挙げたんだよ〜!」
「え、本当に?」
 切り出す紗綾に恭司が聞き返し、今度はラシアへ視線が移った。
「えっと‥‥実はこっそり、身内だけで結婚式まで終わらせちゃった」
 居心地悪そうに明後日の方向を向きながらラシアは左手をあげ、薬指の『慈愛の指輪』をみせる。
「ラシアさんのウェディングドレス、とっても綺麗だったんだよ〜っ!」
「いいなぁ。僕も見たかったよ」
 うっとりと目を閉じる紗綾に、慧が残念そうな顔をした。
「それで、新居は? あと、新婚旅行とか〜」
「その辺は忙しいから、ね」
 LUCIFELの追求に、ひらりと手を振ってラシアがかわす。
「仲が良くて、いいな。俺は‥‥別れたし‥‥」
 微妙に言い辛そうな裕貴の呟きに、海音が口元を手で隠して驚きの声をあげた。
「あんなに仲睦まじいお二人でしたのに‥‥」
「だって、あの男って‥‥確かに背は高いし、超美男子だしでパッと見、完璧に見えるけど。性格は激しく俺様だし、俺いっつも振り回されてばっかりだしッ! 一緒に居ると正直言って、疲れるっていうか‥‥ストレス溜まって仕方ないんで。別れた方が、お互いの為になるかなって‥‥」
 語尾を濁す彼を、何故か海音は笑顔で見守り。
「‥‥何?」
 視線を感じて、裕貴が問えば。
「いえ。お話をする裕貴様の表情‥‥輝いてましたから」
「輝いてって、そんな事‥‥っ」
 否定しようにも微笑みで返す海音に、裕貴は肩を落とした。

●ハプニング・ライブ

「 あなたの気持ちが醒めてきたのは分かっているわ
  永い年月を共に過ごした二人だから
  何時しかお互い別の夢を見るようになったと気付いた時に
  こんな日が来ると分かっていたの

  でも お願い 今日だけはわたしを騙して
  まだ わたしを愛していると信じさせて
  明日になったら きちんとお別れが言えるから
  もう少しだけ 夢を見させて
  お願い‥‥ 」

 ゆったりと唄うマリーカが、静かにピアノを弾き終える。
 営業時間に入ると、有志による突発ライブが行われていた。
 マリーカと入れ替わりで現れたのは、恭司と紗綾、慧の即席ユニット『mix drops』。
 三人は白い衣装で揃え、僅かに照明を落としただけの飾らない演出で。
 恭司がサン・ライトを爪弾き、紗綾は茶目っ気のある軽やかなピアノを弾き、アコースティックに奏でる曲は『fabbing snow』−−嘘つきな雪。
 伸びやかな慧の歌声を中心に、アンダンテの明るいポップスがフロアに広がる。

『 風花に誘われて
  僕らきっとまた巡り逢う

  優しい君の無邪気な嘘も
  4月に舞降る最後の雪も
  全て受け止めて
  抱きしめてあげる
  夢が夢で終わらないように 』

 軽やかな演奏を披露し、聴衆に手を振って、三人はステージを降りる。
 その途中、ふと紗綾が小首を傾げた。
「慧君って、髪‥‥染めてたっけ?」
 慧の髪はちょうどプリンのように、金髪の根元が黒くなっていて。
「うん。実は僕、地毛は黒いんだよね。最近、仕事のスケジュールがきつくて染め直せなくて‥‥」
 答える慧に、「そっかぁ」と紗綾は納得する。
「忙しいの、無理しないようにね」
 労わる紗綾に、慧は笑顔で頷いた。

●嘘晴らし
「それで、嘘は誰が何だったですの?」
 早めに店が終わった後、真っ先に翡翠が切り出した。
 マリーカの引退。恭司のホスト話。LUCIFELの俳優転身、アイリーンのラジオ番組。海音の婚約。ラシアと紗綾が組んだ、ラシアの結婚。そして慧の髪。
 これらの嘘で最も疑われなかったのは、アイリーンと慧の嘘だった。
「じゃあ、恭司さん。この『黄金のマント』を羽織って、ステージ上でポーズを‥‥」
「えぇぇ!?」
 勝ち誇って取り出す『黄金のマント』に恭司が顔色を変えれば、ころころとアイリーンは笑い出す。
「嘘よ。佐伯さんにオリジナルのカクテルを一つ、『Aileen』のイメージで作ってみて欲しいな‥‥って」
「代わりに、恭司には『ぶる〜きゃっと』を着てもらおうか」
「着ない! 絶対!」
 青い猫の着ぐるみを手に迫るLUCIFELに、恭司は抵抗し。
「そうだな。未成年なら、ミモザ風にオレンジ・ジュースとソーダ、それにレモン・ジュースをちょい足して‥‥かねぇ」
 騒ぎを他所に、佐伯はレシピを思案し。
「それで、慧さんは?」
 川沢の質問に、慧は困った顔をする。
「強いて言えば、『約束』かな。もし本当に困った時、助けてくれる‥‥?」
「そりゃあ、言わずもがなだろ。で、コッチはこれでどうだ?」
 鮮やかな黄色に満ちたロングのカクテルグラスを、佐伯がカウンターに置いた。