EtR:八つの鍵ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 5Lv以上
難度 やや難
報酬 31.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/05〜04/08

●本文

●懸け橋
 探索が進むオリンポス遺跡の最深部、第三階層は一面の水が広がっている。
 水上には、大小や形状様々な小さな島がぽつぽつ浮かび、それらは陸地ではなく水面を漂う浮島である事が、既に判明していた。
 数ある浮島の中、空洞のおおよそ中央と目される位置に、動かぬ四つの浮島が発見される。
 動かぬ浮島は、楔のような石の四角柱が穿たれ、柱の先端近くには二箇所の回転部分が存在していた。
 二段四面の八面には、それぞれ違う紋様−−上部の回転部には四方(四つの方角)、下部の回転部には、いわゆる四大元素が刻まれており。
 それを組み合わせる事によって出現したのは、水を渡るための長い『橋』だった。

 現れた『橋』は幅が約2m、水面からの距離は1mほど。
 それを渡りきった先の『陸地』に、今度は堅く閉ざされた扉が立ち塞がる。
 高さ3mほどの両開きの扉は、やはり石で造られていた。
 一つの扉につき、それぞれ1mほどの横幅がある。
 取っ手もなく、押してもビクとも動かない扉には、その中央に全く同じ大きさの正方形を二つ組み合わせた、正八角形が刻まれ。
 八角形の角の一つ一つには、それぞれ違う形の、何かをはめ込む為の『窪み』が彫られていた−−。

●今回の参加者

 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●地下に潜っていても、春です。
「『大荷物』がないって、いいな〜」
 のびのびと大手を振って歩く早切 氷(fa3126)に、思わず相沢 セナ(fa2478)が小さく笑った。
「‥‥何か変な事、言ったか?」
「いえ。のびのびされているなと、思ったので」
「そうだなぁ。今回の調査は、静かだし」
「だからといって、そこら辺で寝ないようにな」
 冗談めかしてCardinal(fa2010)が釘を刺せば、とぼけた風に氷はくるりと目を動かす。
「昼寝でもしようものなら、放って置いていけばいいですよ。そこいらの酔狂かつ腹を減らしたNWが、綺麗サッパリ後腐れなく食べてくれるでしょう」
 火の点いていない煙草を咥えて、各務 神無(fa3392)が辛辣なジョークを吐き。
 その一方で、イルゼ・クヴァンツ(fa2910)は神無から氷へと視線を移し、そして憐れむ様に目をそらした。
「‥‥そこ、無言でオチをつけない」
「そうですか? 口に出すのも、どうかと思いましたので」
 なおも視線を泳がせるイルゼに、燐 ブラックフェンリル(fa1163)がころころと笑う。
「氷さんの相手はNWに任せて、僕らはお弁当食べようね。ちゃんと人数分、作ってきたし!」
「意義ありっ! なんで俺がNWに任せられるんだっ。というか、その人数分に俺は入ってないのか? 第一、なんで弁当‥‥」
「だって、春だよ。春といえば、日本はもうお花見の季節。そしてお花見といえば、お弁当でしょ」
 反論する氷へ三段跳びのような跳躍した論法で訴える燐は、大きな弁当の包みをぶら下げている。
「お弁当に‥‥メロンパンは入りますか‥‥」
「ソレは普通は単体で食べるものであって、弁当の中には入れないだろう」
 湯ノ花 ゆくる(fa0640)が仄かな期待を込めて聞けば、御鏡 炬魄(fa4468)が溜め息をついた。

●三度目の‥‥
 ただ一面に水が横たわる第三階層には、先の探索で現れた『橋』が水に没する事無く、水上に伸びている。
 幅が約2mの橋には手すりなどなく、ただ石が一直線に整列しているだけといっていい。
「随分と、危なっかしい橋ですね。橋がこの状態ですし、安全を確保しつつ戦うなら、橋を渡りきった『向こう岸』が安全とは思いますが‥‥」
 以前来た時と変わっている状況に、セナは興味深げに橋を眺めていた。
「渡るとしても、この幅だと一列か二列で進む事になりますか。命綱として互いをロープで結んだりなんかは、します?」
 イルゼが『先達』達へ問えば、Cardinalは岸に引き上げてあるフロートの筏を指差す。
「必要なら、俺があれで併走しよう。筏やカヌー漕ぎは慣れているからな」
「中々‥‥野性味のある趣味ですね」
 目を細めた神無がぽそりと呟き、改めて同行者達を見回した。
「それで、問題らしい魚NWはどうしますか?」
「手負いなら、ICレコーダーを囮にして‥‥情報体に戻ろうとするところを、釣り上げる作戦で‥‥」
「ICレコーダーなら、私も持ってきていますが。必要なら、使いますか?」
 ゆくるの提案に、イルゼが自分の荷物をぽんと軽く叩く。
「囮にするなら『餌』は絞った方が‥‥よくないです?」
「ふむ‥‥?」
 探索再開後、間もなくから遺跡に足を踏み入れていた炬魄は、二人の会話に何かが思考の中で引っかかる感覚を覚える。だが、その正体は判らず、深く追求もせずに思考を切り上げた。

 ぶらぶらと、水面近くでICレコーダーが揺れる。
 ICレコーダーにきつく結ばれたロープのもう一端は、ゆくるが握って飛び回っていた。
 単独行動も危険な為、鳥の翼を持つセナと炬魄が彼女の試みに付き合っている。
 残る者達は入り口側の岸で、その『結果』を待っていた。
「こうしているのも、いささか暇ですね。これが上手くいかなかった時の、対応でも考えておきますか」
 神無が振り返れば、しなびた草の上に座り込んだ氷は、いつもの様に大きく口を開けて欠伸をし。
「とはいえ、水深が浅いのか岸までこないからな。向こうの岸にも来るかどうか判らないし、仕掛けるなら真ん中の柱のトコ‥‥かねぇ」
「あそこなら、ちょっと広いもんね」
 こっくりと、燐が首を縦に振って同意する。
「魚なら、水に衝撃を与えれば気絶して浮いてくるだろうがな。これでも放り込んでみるか」
「それを‥‥ですか」
『10t』とプリントされた木製のハンマーを、Cardinalは片手でブンブンと振り回し。冗談かどうかよく判らなくて、イルゼが微妙な笑いを返した。
「でもそれ、中は空洞だろ。第一、アレは魚の形をしてるが、魚か?」
「‥‥どうだろうか」
 氷に指摘されたCardinalは、手を止めて考え込む。
「囮が必要なら、私がやります?」
 話の成り行きを見守っていた神無が、口を開いた。
「そうだな。できれば足をばしゃばしゃ程度でなく、水の中に入って‥‥」
「‥‥水の中に?」
「ああ。完全に水上に出ないと、警戒されるというか。だから、脱いで泳いごぶぁっ」
 ガッ! と。
 10tハンマーが、氷の後頭部にクリーンヒットした。
 不埒者をぶん殴った(体よく言えば、乙女の鉄槌を下した)燐は、唖然とした神無へキッと向き直り。
「氷さんの罠にはまっちゃ、駄目だよ!」
「罠って‥‥」
 しゃがみ込んで後頭部を抑えつつ、氷が呻く。が、燐は成敗した相手の事は、綺麗サッパリと置いといて。
「三人が戻ってきたら、お弁当食べない? お腹すいたし、水に落ちたらもったいないし、時間が経つと痛んじゃうし」
「そうですね‥‥」
 重箱を手にした燐に、神無が苦笑気味に答えた。

 それなりに幅はあっても、手掛かりになる部分がないというのは、わりと不安なものである。
 情報釣り作戦が不発に終わった一行は、魚型NWが浮上してこないか水面に注意を払いつつ、橋を移動していた。
 その一方で、Cardinalと氷はフロート筏のオールを握っている。念のため、先に持ち込んだ救命胴衣も着用し、橋の上の者達と並ぶように筏を漕いでいた。
「というか、ナンで俺も筏係?」
「一人では、落水した時に手が足りないからな」
 後頭部をさすりつつ嘆息する氷に、当然という風にCardinalが返事をする。
 橋を歩く者達が四つの柱がある箇所へ到着すると、神無は氷から渡された『躍動する獣脚』を握り、早速『準備』を始めた。

 穏やかだった水面が、荒々しく波を跳ね上げる。
 刀を抜く暇などなく。
 頭部に硬く刺さった『降魔杵』を握って、神無は懸命に大魚の背にしがみ付いていた。
 彼女を振り落とそうと、NWが水面へ飛び出した瞬間に合わせ。
 神無がブラストナックルをはめた左手を、ぬるりとした体表に叩きつけ、静かな空間に爆音が轟く。
 振動がビリビリと身体を振るわせる間にも、援護できる手段を持つ者達が、その力を放ち。
 あるいは何本ものロープを使って、潜るNWの動きを封じようとする。
 決め手に欠ける戦闘は、長期に及び。
 誰もが疲労困憊する頃、ようやくNWも傷だらけの身体を水面へと浮かび上がらせた。
 それでも、なおも身を捩って抗う大魚へCardinalと氷が取り付き、引導を渡す。
 橋の上で見守る者達へ、輝くコアが放り投げられ。
 命の源を失った巨体は、ゆっくりと水中へ沈んでいった。

●扉の向こう
「えっと‥‥ここがエウロスで‥‥こっちがノトス‥‥でしょうね」
 形を確かめながら、イルゼが四つの紋章を真っ直ぐな四角形の角へ嵌めていく。
「ゼフィロス、ノトス、ボレアス、エウロスの四つの紋章。それにエアロブローチ、アクアブローチ、フレアブローチ、ガイアブローチ‥‥と。ちゃんと、数は揃ってるな」
 鍵となりそうな装身具の数を確認した氷は、仕事は終わりだと言わんばかりに暢気に座り込み、大きな欠伸をした。
「でも、エアロブローチとかアクアブローチとか、形が合わないよ?」
 扉をぺたぺたと触っていた燐が、首を傾げる。
 45度傾いた四角形の頂点は、丸や細長い穴が開いていた。
「おそらく、宝石だけを台座から外すのだろう。傷つけず、取り出さねばならないが‥‥」
「それなら、俺がやろうか」
 Cardinalが名乗りを上げれば、神無が意外そうな視線を返す。
「出来るのですか?」
「ああ。台座から外すだけなら、問題ないだろう」
「眼鏡‥‥いりますか‥‥?」
 ゆくるがぐるぐるの眼鏡を取り出すがCardinalは首を振って断り、『作業』へ取り掛かった。
「Cardinalさんって、器用なんですね」
 間もなく、傷つけずに取り外された宝石を、感心しながらセナが眺める。
「折角作られたものを壊すのは、忍びないがな」
「今回は、止むを得得ませんから」
 ぬっと突き出した褐色の拳に、神無が受け止めるように手を出し。
 その掌に、四つの石が転がった。

「柱と同じ方式なら上が北でガイア、下が南でフレア。右に東でエアロ、左が西でアクア‥‥でしょうか」
「そうなるな」
 イルゼの推察に炬魄が同意し、注意深く神無が穴へ石を差し込んでいく。
 全ての石を収めると、彼女は急いで扉から離れ。
 八角を繋ぐ細いラインが、一瞬淡く光った。
 次の瞬間、ズズ‥‥ッと重い地響きがして。
 石造りの扉から、小さな砂粒がばらばらと落ちてくる。
 そして、八人が固唾を飲んで見守る中。
 扉は真ん中から、ゆっくりと左右にスライドしてその口を開く。
「また、階段だな」
 灯りをかざして奥を窺うCardinalが、振り返って仲間達に告げる。
 扉から飛び出してくるモノがないかと警戒していたセナや炬魄は、息を吐いて緊張を僅かに緩めた。

 四つ目の階段もまた、下りになっていて。
 暗く細い通路を、注意しながら降りていく。
 上層とはまた違った、湿っぽく冷たい空気とそれが含む臭気に、氷が顔を顰めた。
「この先‥‥まだ、何かいるな」
「灯りも、少し抑えるか」
 光の向きに気をつけつつ、Cardinalが神無と共に先頭を歩き。
 その後に、矢を弓につがえたセナと銃を携帯したゆくるが続いていた。
 燐と並ぶ氷は、ライトバスターで足元を照らし。
 最後尾を、イルゼと炬魄が固める。
 息を殺して、長い通路を降りれば。
 通路は、開けた空間へと繋がっていた。

「足元、滑らないように気をつけろ」
 Cardinalが僅かに振り返って、後続へ注意を促す。
 足元へ視線を落とせば、苔むした石がごろごろと転がっていた。
「これが‥‥大そうな仕掛けをしてまで、封じるもの?」
 怪訝な表情のイルゼが、用心深く歩を進めながら辺りを見回す。
 ゆっくりと、光の輪が苔の上を這い。
 不意に光が、闇へ飲み込まれた。
 確かめるように光を動かせば、ソレが大きな黒な丸い物体だと判る。
「‥‥これは‥‥?」
 燐の呟きに、他の者達もソレに気付き。
「これって‥‥なんでしたっけ‥‥」
 最長で自分の身長の二倍以上ある高さの物体に、ゆくるが首を傾げた。
「これは、少しばかり不味い事になりそうだ」
「そのようですね‥‥」
 眉間に皺を寄せる氷に続いて、神無もまた険しい表情でソレを見上げる。
「えぇと‥‥?」
 まだ疑問顔のゆくるに、神無が一つ嘆息した。
「これ、たぶん最初の大規模な探索で発見された『黒い塊』ですよ」
「あ。そういえば‥‥そんな物もありました‥‥」
「どうやら‥‥不味いのは、これだけではなさそうです」
 一度は弦から外した矢を、セナが再びつがえた。
 −−もしも耳の良い者がこの場にいれば、低い唸り声やカチカチと顎を鳴らす音が聞こえたであろう。
 彼の視線を辿れば、ライトの光を反射する複数の何かが、石の間のそこここに散らばっている。
 その数も、一つや二つではなく。一行を囲むように、扇状に散らばっている。
「背中を向けるな。通路まで、ゆっくり後退するんだ。合図をしたら、上へ走れ」
 燐の前に立ちつつ、Cardinalが一同を促す。
 一見すると、四速の獣にも似た複眼の群れは、後退する彼らに合わせるように前進し。
「走って!」
 神無が鋭く告げると同時に、通路に達した者達が身を翻して階段を駆け上がる。
 追い縋ろうとする蟲達へ、威嚇するようにセナが矢を放ち。
 あるいは、遠隔の攻撃手段を持つ者達が、狙いをつけずに後方へと撃つ。
 迫る足音に追われつつ通路を駆け上がり、第四階層の扉へ手をかけてみるが、紋章も石も外れず、扉はびくとも動かない。
 橋を渡り、その中央付近まで来て振り返れば。
 彼らを第三階層まで追い払った事に満足したのか、蟲達が追ってくる様子はなかった。

「上へ出る前に‥‥これを壊しておかないとです‥‥」
 地上へ戻る途中、思い出したようにゆくるがICレコーダーやメモリを取り出した。
「念のために、『破雷光撃』で完全に粉砕しておくか」
 炬魄の言葉にゆくるは頷いて、湿った土から突き出した岩の上に記憶媒体を置く。
 放たれた雷の光は一瞬、岩壁に描かれた壁画を淡く浮かび上がらせて。
 空間はすぐに、闇へと回帰した。