世界祝祭奇祭探訪録ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
12/11〜12/14
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●本文
●セントルシア
キリスト教には『聖人暦』というものがある。
ある月日に特定の聖人を関連付け、「聖○○の日」呼ばれるものがそれだ。
例えば12月6日は「聖ニコラウスの日」。聖ニコラウスとはサンタクロースのモデルとも言われ、女性や子供、旅人などを守る聖人だ。そのためヨーロッパの一部地域では、この日に子供達へプレゼントを送る習慣も存在する。
その中の1つ、12月13日。それは聖ルシアの日と呼ばれる日。
ローマ帝国によるキリスト教迫害によって304年に殉教したルシアは、ナポリの守護聖人であり、舟人たちの守り神。日本でも稀に耳にする『サンタルチア』という曲は、本来は聖ルチアを称えるナポリ民謡だ。
この聖ルシアの日を祝う祭が、何故かナポリから遠く離れた北欧で毎年行われるのをご存知だろうか。
ルシアという名前には「明るい」という意味があり、彼女は「光」としても敬われる節がある。北欧の人々にとって、光は渇望するものだ(この時期は日の出は8時30分頃、日の入が14時50分頃。日照時間の短さが知れるだろう)。それ故に「光の女神・光の女王ルシア」のイメージだけが一人歩きをし、北欧での「ルシア祭」という祝い事となった。その開始は1901年。ストックホルムの野外博物館と言われている。
以上が、長い前置き。
今日では、ルシア祭は子供達の学校や会社の職場でも行われる身近なものとなった。
朝には、蝋燭の輪を頭にかぶったルシアが星の少年ファーンゴッセと小人トムテニッセを率い、セントルシアの歌を歌いながら練り歩く‥‥ルシア・トーグ(ルシアの行列)が行われる。
ジンジャークッキーとルッセカットというサフランのパンが振舞われ、皆は暗い朝を暖かく照らす蝋燭の光と歌を楽しむのだ−−。
●光の祭『ルシア祭』
「光の女王ルシアが選ばれる方法は投票です。有り体に言えば美人コンテストですね。
例えば『一般公募の部門』の参加資格だと、「年齢は18歳から24歳まで」「金髪長髪」「子供がいない」「白人である」などなど。ああ、コンテスト自体は終わっていますので、念の為」
毎度お馴染みとなったオーディション係のスタッフが、相変わらず平坦な口調で番組資料を配る。
『世界祝祭奇祭探訪録』は「現地の家族との触れ合いを通じて、異国の風習を視聴者に紹介する」現地滞在型の旅行バラエティ。第一回はエディンバラでのハロウィーン、第二回はウィーンの「アドベントの魔法」を紹介してきた。
「今回の滞在先は、スウェーデンのダーラナ地方ムーラの街です。滞在期間は11日から14日までの4日で、ルシア祭自体は13日の開催です。なお10日近辺はストックホルムでノーベル賞の授賞式典もやってますので、色々と警戒が厳しいと思います。ご用心を。
滞在先のストゥーレ家は両親と10歳の姉マルグレーテ、3歳の妹グレタの4人家族。父親は木工民芸品ダーラヘストを作る工房で働いてるそうです。
とまぁ、ここまでは前回と同じなんですが」
言葉を切って、担当者は水を少し口に含んだ。暖房が効いているせいで部屋の空気は乾燥しているが、聞いている側としてはその先が気になる。
「今回は少々変わったケースでして‥‥両親側から、番組にきて欲しいと依頼がありました」
担当者は、変わらぬ口調で説明を再開する。
「今回の御家族は、我々と同じ獣人です。若い頃に芸能活動をしておられましたが子供ができて引退し、ダーラヘスト作りをしているとか。
でまぁ、小学校での『校内ルシア・コンテスト』で、10歳の娘さんが選ばれてしまったそうなんですよ。普通は辞退したりで、人間の方に花を持たせるケースが多いのですが、子供達の間では人気があったんでしょう。
ここからが御両親が懸念されている件でして‥‥このルシア祭で、ルシア役の少女がナイトウォーカーに狙われた前例があるのです」
聴衆の、思い思いに資料を捲る手が止まった。
過去、とあるスウェーデンの街の広場で行われたルシア祭の式典で、事故が起きた。選ばれたルシアの女性達が唄う最中、警官騎馬隊の馬達が暴れ、見物客にも大勢の怪我人が出したのだ。その騒ぎの中で、ルシアの一人が消えた。その後、WEA独自の調査で消えた女性が獣人であり、ナイトウォーカーの襲撃にあったと判った。
それ以来、獣人の女性がルシアに立候補する事はなくなり、娘を持つ親も子供がルシアに選ばれる事を避けるようになった。
もし、幼くして歌唱力に抜きん出た美しい少女が祭に出れば、ナイトウォーカーに狙われるかもしれない。
その懸念が、マルグレーテの両親が番組に依頼を持ちかけた理由だ。
「こちらで調べた限りでは、今年選ばれた獣人のルシアはマルグレーテだけでした。
特に危険なのは、ルシア祭の当日。朝は、始業前の学校で『ルシア・トーグ』があり、昼間は授業。夜にはムーラ教会で街中のルシア達の合唱があるそうです」
長い説明は終わりだという風に、担当者は手持ちの資料をトントンと机の上で揃えた。
「まぁ、今回はこんな感じです。行かれる方は、どうぞお気をつけて」
●リプレイ本文
●スウェーデン王国の故郷
ダーラナ地方は、スウェーデンを独立させた英雄ヴァーサ王に縁ある地であり、根強い民族性と合わせて『スウェーデンの心の故郷』とも呼ばれる。
その中心がシリアン湖畔の街ムーラ。地理的な位置だけでなく伝統や文化を継承する中心地だ。
「あったかーい」
気の早い冬の夕陽は、地の果てに落ちようとしていた。弱々しい陽光を受け、ベス(fa0877)は雪を踏んで元気に先頭を走っていく。
「滑ってコケちゃえー」と非情な軽口を飛ばしているのは、ベルシード(fa0190)。冷たい風に、上月 真琴(fa1641)は思わずコートの襟元を押さえた。
「暖かい‥‥ですか?」
「びっくりする程の寒さでもないわよ」
オレンジがかった長い赤毛をかき上げて、タンジェリン(fa2329)は悠然と歩く。もっとも、彼女は見えない部分でしっかり防寒対策済だが。そうと知らない真琴は自分が寒がりだったのかと首をかしげ、ロイス・アルセーヌ(fa0357)が「大丈夫ですよ」と微笑む。
「安心して下さい。私も寒いので」
「ベスと私達は、先日までラップランドに居たんです。そこと比べると、暖かく感じますから」
苦笑して説明する御堂 葵(fa2141)は気概もあってか、やはり寒そうに見えない。
「常時マイナス温度の世界は、ちょっとな」
思い出すだけで身震いがするとせせらぎ 鉄騎(fa0027)がぼやき、そんな一行のやり取りを、シャノー・アヴェリン(fa1412)は愛用のビデオカメラに収める。
行く手にはオレンジ色の屋根の群れ。そして、ムーラ教会の緑の尖塔が天に伸びていた。
●ストゥーレ家
「マギー、晩御飯の用意を手伝いにきて」
「はーい」
元気に返事をし、緩くウェーブした金髪を揺らして少女は階段を降りる。そこへ突然、パンッとクラッカーが弾けた。
「マルグレーテ、ルシア役おめでとう!」
お祝いの発案者は、今もカメラを回すシャノーだ。青い瞳を見開いて驚くマルグレーテに、八人の間から彼女の母親が顔を出す。
「マギー、日本のテレビ局の人達よ。あなたのルシアを、日本に紹介して下さるの」
夫人の説明に、マルグレーテは照れたように笑んだ。愛らしい笑顔だけで「学校で人気がある」というのも納得できる気がする。
「ありがとう」と、膝を曲げて礼を言うマルグレーテ。一歩進み出たベスは、彼女の手を取って握手する。
「あたしベス。マルグレーテちゃん、よろしくね!」
「せせらぎ 鉄騎。愛と勇気のWEAより派遣された‥‥尖兵一号」
「鉄騎さん。愛と勇気って‥‥尖兵って‥‥」
そんな感じで、残る六人も賑やかに小さなヒロインに挨拶をした。
夕食が終わって子供達が眠った後、一行は夫妻と共に暖炉の火を囲んだ。
部屋に飾られたダーラヘストが気になるロイスは、ストゥーレ氏と会話を弾ませている。
冬の間は仕事を早仕舞いする男達が余った木材の破片を使い、家族の土産に掘った物。それがダーラヘストの始まりだと言う。『ダーラ地方の馬』の名の通りモチーフは馬が多いが、今は他に木靴や果実のダーラヘストも作られる。
「僕の腕は、まだ未熟ですけどね」
ストゥーレ氏が勤める工房は、ムーラから10km近く離れている。祭の日はストゥーレ氏が仕事を休んでマルグレーテに付き添い、3歳のグレタの為に夫人は家に残る予定だ。
「マルグレーテさんは、ルシア役になれた事が本当に嬉しいんですね」
目を細め、ロイスは少女の様子を思い出す。ルシアが着る真っ白なロングドレスを胸に当て、少女はくるくると回ってみせた。
「祭に出る危険を、彼女は知っているんですか?」
「ええ。ルシア役が決まった後、一度は辞退させたんです。しかし学校から「何故、子供の意思を尊重しないのか」と‥‥人の学校ですから、仕方ありませんが」
『親子間に問題あり』と判断されると、公的機関が干渉してくる。人間の教師や調査員に家の事情を知られる訳にもいかず、娘の希望もあって、仕方なくルシアをやらせる事にしたのだ。
そして、夫妻は深々と頭を下げた。
「私達の力が及ばない為に御迷惑をかけますが、よろしくお願いします‥‥」
●ディーリング
「いってきまーす」
手を振って、マルグレーテは元気に学校へ向かう。
少女に付き添うのは葵とベスの二人。学校側へは番組から『ルシア祭の取材と異文化交流』という名目で、手配が通っている。
単身で以前のルシア祭を調べに行くのは、ロイス。NWの手がかりになりそうな映像と、ルシアが唄うセントルシアを聞きたいという。
「教会に行って取材許可が出たら、他のルシアとも交流できるかな」
そんな予定を考えていたベルだが、15歳の女の子が一人で行っても、取材許可が出る筈もない。もとより、本来は「お祭探訪」がメインの番組。当然ルシア祭の舞台となる教会も、学校と同様に既に許可が出ているのだが‥‥ベルはそこまで思い当たらなかったようだ。
結局、教会や学校周辺の下見はタンジェリン、シャノー、真琴、鉄騎にベルを加えての五人で行う事となった。
夜には再び暖炉を囲み、七人は情報を交換しあう。
葵は小さな姉妹と綾取りをして遊ぶ。他にもお手玉や剣玉を持ってきた葵は学校で人気者だったと、ベスが楽しそうに報告した。
玩具を渡せば子供達は剣玉を振り回してフェンシングをし、お手玉でキャッチボールを始め、結局は葵が一から遊び方を教えたのだ。
その様子が想像できて、タンジェリンはくすくす笑った。
「すっかり学校の子供達とも仲良しって訳ね」
「うん。タンジェリン達はどうだった?」
「どう‥‥て、ねぇ」
ベスに問われて、下見に出た女性四人の視線が鉄騎に集中する。当の鉄騎は素知らぬ顔で、ロイスは首を傾げた。
「鉄騎さんが、どうか?」
「‥‥脱走と‥‥食道楽」
シャノーが謎の一言をぽそりと呟く。
「いや、アレは下見の一環でだな」
「‥‥下見の一環でフラッといなくなって、レストランでトナカイ料理を一人で食べていました」
「旨かったぞ」と胸を張る鉄騎だが、速攻で女性陣に反撃される。
纏めると、鉄騎が「荷物持ちは任せろ」と言った矢先に消え、三人で探し回った末にレストランで呑気に昼食を取る現場を発見したらしい。
捜索劇のお陰で教会や学校周辺は十分に把握できたが、ソレとコレとは別だった。
「えぇと‥‥教会や店の人の話では、特に様子の変わった人はいないそうです。ただ、最近トナカイが出没するとか。トムテ・ランド‥‥サンタクロース村から逃げたんじゃないかって話です」
最後に、真琴が締め括る。次はロイスの結果だが、彼は首を振った。
「事件があったルシア祭ですが‥‥WEAと地元新聞社の話で、八年程前に南のスコーネ地方の街で起きた事が判りました。ルシア祭はスウェーデン中で行われるので、小さなイベントだと映像が残ってなくて‥‥地方新聞の写真は見つけましたが」
そしてロイスは、コピーした四枚のモノクロ写真を取り出した。
最初は、広場に面した城のテラスで唄う八人のルシア。二枚目はテラスの下で暴れる馬と慌てる警官隊。三枚目は逃げる群衆。四枚目は負傷して倒れている人々。
騒ぎの最中はもちろん、騒ぎの前のルシア達の写真を調べても、NWらしき影はない。別口でベルも確認したが、この祭を襲撃したと思われるNWは、既に討伐済だ。
「セントルシアの歌詞も調べましたが、特に変わった所はありません」
歌に特徴があるのかともロイスは疑ったが、日本にもサンタルチアとして伝わる歌に奇妙なフレーズや韻は見つからない。
暫しの沈黙を縫って、ひょっこりとマルグレーテが輪に入り込んだ。明日の朝は早いので、もう寝るという。
「おやすみなさい、おにいちゃん、おねえちゃん。また明日ね」
マルグレーテは一人一人の頬に就寝のキスをする。自分の番が来ると、ベスは少女に水晶のサイコロを握らせた。
「これ、明日のお守りに持っててね」
綺麗なサイコロに、マルグレーテは目を輝かせる。礼を言ってベスにキスをすると、彼女は寝室へ駆け上がっていった。
●ルシアの朝に
「Sul mare luccica l’astro d’argento.
Placida e l’onda; prospero e il vento.
Venite all’agile Barchetta mia!
Santa Lucia, Santa Lucia.」
子供ながらも、透き通るような美しい声が暗闇に響いた。
頭の冠には七本の蝋燭形電飾を灯し、白いルシアの衣装を着たマルグレーテが、胸を張って誇らしげにセントルシアを唄い、暗い雪の中を歩いてくる。少女は一本の蝋燭を持ち、腰を絞る赤い布が光の輪の中で揺れていた。
ルシアテーナ・マルグレーテの後ろには、同じく白い服と赤い布を腰に巻いた少年達が続く。頭に乗せるのは、金の星がついた白いとんがり帽子。彼らが『星の少年ファーンゴッセ』だ。
続いて、サンタクロースのような白い縁取りのついた赤い服と赤い帽子の『神話の小人トムテニッセ』達。トムテニッセは少年少女が混ざっていて、先頭のルシアがセントルシアを唄い終えると『ティップタップ』というトムテニッセ達の歌を唄う。
このトムテニッセ役に、ベスと葵も加わっていた。小柄だから、子供に混ざっても支障がないと学校側が列への参加を許可した。が、当人達の心境はかなり複雑だ。
ともあれ、幻想的なルシア・トーグを、校舎の窓から父兄と生徒達が拍手で迎えた。
「ルシアの光で、闇に潜む悪魔達を追い払いましょう!」
マルグレーテが宣言し、行列は再び動き始める。
校舎の中を練り歩き、トムテニッセは各教室でジンジャークッキーとルッセカットを配っていく。先生からはグルッグという暖めたスパイス・ワインが振舞われ、皆ルシアの歌を聞きながらクッキーとパンを頬張った。
ルシア・トーグが終わった後、鉄騎と真琴、ロイスはストゥーレ氏と共に、マルグレーテのクラスの前で少女の帰りを待っていた。人目がある場所での半獣化は、ストゥーレ氏に止められている。彼らが半獣化して出歩けば、マルグレーテも人前での半獣化を軽く考えるからだ。
「ねぇ、さっきトナカイが校庭にいたよー」
「ホント? 気の早いサンタがいるのかな」
子供達の声に、真琴は一瞬どきりとする。
「あの、少し様子を見てきます。ストゥーレさん、ここでマルグレーテを待っていて下さい」
それだけを少女の父親に告げ、真琴は壁にもたれる鉄騎と子供達にせがまれて写真を撮るロイスを呼び、携帯を取り出した。
ガツンガツンと音がする度、鍵のかかった講堂の木製扉がガタガタ震える。
彼女達が暗闇で息を潜める中、いきなり携帯の呼び出し音楽が鳴り響いた。慌ててベルが電話に出る。
「び、びっくりした‥‥」
胸を押さえるベスとマルグレーテが、顔を見合わせて少し笑う。ベルが電話をする間も、タンジェリンと葵は油断なく暴れる扉を睨み、シャノーはビデオカメラを置いて銃を取り出した。
空はまだ、闇が支配している。校舎の外へ出た三人は、用心深く辺りを見回した。
「講堂ってのは、どれだ」
「あれでしょうか」
もどかしく背中の剣を降ろす鉄騎に、ロイスが少し離れた建物を指差す。
「私、先に行きますね」
教室の窓から見えない事を確認し、真琴は耳だけ変化させて俊敏脚足でそれらしき建物へ走った。
距離が近づくと、バリバリと何かが木を引っかく音が聞こえる。物陰から様子を伺えば、鉤爪で木の扉を裂こうともがいている不気味な蟲の姿があった。大きさは大型バイク程。噂のトナカイが、NWに寄生されていたのだろう。
扉からそっと離れ、真琴は改めてロイスと鉄騎を手招きした。
ベルの火玉を受けても突っ込んできたNWは、今も鉤爪を扉の裂け目に突き刺し、扉を壊そうとしている。
真琴からの電話を受けたベスの話を頼りに、彼女らは信じて待つしかない。下手に扉を開ければNWは部屋へ飛び込み、誰かが怪我をするだろう。
そして。
急に扉を掻き毟る音が酷くなったかと思うとぱたりと止み、扉から鉤爪が抜け落ちた。
「おーい。生きてるかー」
身動きの取れなくなったNWをどつき倒した鉄騎の声と共に、壊れかけた扉がどんどんと叩かれた。
事後処理にきたWEAの係員によって、NWの残骸は処理された。
表向きは「トムテ・ランドが逃げたトナカイ引き取りにきた」という事になっている。
NWが偶然ムーラにいたのか、何かを嗅ぎ付けてムーラに来たのかは、八人にもWEAの係員達にも判らない。そもそも、NWの生態には謎が多いのだ。
ストゥーレ親子は無事を喜び、彼らに感謝をし、念のために警戒を続けたままでムーラ教会でのイベントに臨んだ。
小さな光の女神は誰よりも輝く笑顔で、恩人達の為にセントルシアを唄った。
●さよならは言わず
「あの、こんなお礼でよろしいんでしょうか‥‥」
不安そうに、ストゥーレ氏は自分の働く工房で作られたダーラヘストを差し出した。色とりどりの小さな馬の中から、ロイスは嬉しそうに白、シャノーは黙って青と、他のメンバーも好みの馬を受け取っていく。
「‥‥ありがとう‥‥ツリーに飾ります」
そう言って、掌の小さな馬に柔らかな笑みを浮かべるシャノー。
赤い馬を握り、ベスは潤んだ視界をごしごしと拭う。
「いつかまた来るからね。きっとだよー!」
マルグレーテは、涙ぐむベスにぎゅっと抱きついた。
「お祭なら二月の終わりに『ヴァーサ・ロッペット』があるの。また、お仕事でもいいから遊びにきてね!」
そして手を振りながら、八人はストゥーレ家を後にし、ムーラを発った。
なお『ヴァーサ・ロッペット』とは、90kmを踏破するクロスカントリーの大会である‥‥。