EtR:黒き胎動−護衛ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
7Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
76.9万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
04/19〜04/22
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●本文
●忌まわしき予兆
扉の先には、更に地下へと伸びる通路が待ち。
通路の先には、冷たい空間が広がっていた。
足を踏み入れた者達の背筋を凍りつかせたのは、苔に覆われた石だらけの地面でもなく。
ライトの光を照り返す、幾つもの複眼でもなく。
光を飲み込むような、大きな漆黒の塊。
直径4mはある球体は、いつぞやの様に静かにそこに、在った−−。
●調査チームを護衛すべく
「前回行われた探索の結果を受け、今回の探索では『卵』を調べるチームとそれを護衛するチームの二チームを編成する事となりました」
緊張した面持ちで、WEAの係員が集まった者たちへ告げた。
「発見された黒い塊は、報告内容からかつて第一階層で発見されたソレと同じものと推察されます。もし同じであるならば、NWの『卵』である可能性が高いでしょう。そして、その後に起こりうる事も‥‥予想できると思います」
係員の言葉に、覚えのある者達は表情を硬くする。
大規模な、最初の遺跡探索。
そこで発見された黒い『卵』は、今回発見されたものと同等のものであった。
合わせて、NWの大量発生が起き。
次に探索者達が卵の場所まで辿り着いた時には、僅かな破片を残してその姿は消えうせていた。
ソレが『卵』の可能性が高いと結論付けられたのは、その後の事ではあるが、あの時は大発生を思えば今回の探索の危険も相当なものだろう。
「『卵』の周囲には、NWが数体も確認されています。形状はいずれも動物、いわゆる四足歩行の獣の類のような姿をしています。サイズも大小様々で、先の華清池周辺での集団出現のような統制がとられているかどうかは、一切不明です。
幸いというべきか、華清池で目撃された『白いNW』は確認されていませんから‥‥獣人への狩猟行動か、あるいは『卵』を守る種族生存の為の行動と考えるべきかもしれません。
いずれにしても、数が多く、侮れない事は確かです。護衛チームの役割は、調査チームが少しでも調査に専念できるよう時間を稼ぎ、以前のような大発生が起きた場合は、速やかに調査チームを守って撤退する事。無論、護衛チーム自身も無事な帰還が果たせるよう‥‥心掛けて下さい」
説明を受ける者達に、重い空気がのしかかってきた。
●リプレイ本文
●作戦会議
問題の物体がある第四階層へ至る道は、NWの急襲に見舞われる事もなく無事に進んだ。
初めて下の階層に訪れた者達は、伝え聞いていた内部の様相に驚きつつ、一面の砂が広がる第二階層と、続く水に満たされた第三階層を横断する。静けさを取り戻した水の上にかかる橋を用心深く渡った一行は、八つのオーパーツで開いた扉の前で足を止めた。
この扉をくぐり、階段状通路をしばらく下れば今回の『目的地』へと到達する。
その前に、一行は必要事項の最終確認を行っていた。
「まず私達が切り込んで、黒い塊の周辺を征圧。後は十人三班に分かれてローテを組み、制圧ラインを維持しつつも休息を取り、調査が終わるのを待つ。こちらの方針としては、以上でしょうか」
要点をまとめる各務 神無(fa3392)に、「そうね」と富士川・千春(fa0847)が頷いた。
「相手が予想以上に多かったり、何か緊急事態になった時には、調査チームを囲んで三角陣形を組んで‥‥臨機応変に、コトにあたれるようにしないとね。あと、煙草は厳禁で」
にこやかに告げる千春に、何とも言えない表情で神無がぷかりと紫煙を吐く。
「禁煙ですか‥‥」
「いちお、ね。『鋭敏嗅覚』のある人もいるし、鼻が利かないと困るかもしれないし」
「判りました」
仕方なさげに答える神無は、しばらくお預けとなる煙草を名残惜しそうに咥えた。
「着いたら調査チームとは別に、こっちでもパラディオンを使っておくんだな」
パラディオンを始めとして、重そうな荷物を肩代わりしていたCardinal(fa2010)が持ち主へ返す。
「うん。ありがとう、Cardinalさん!」
石像を受け取ったベス(fa0877)は、笑顔で礼を告げた。
「えっと、班分けはA班が千春さん、Cardinalさん、燐さん、あたしの四人。B班はシヴェルさん、イルゼさん、安則さんの三人。C班はヘヴィさん、神無さん、パトリシアさんの三人‥‥で、いいのかな?」
十本の指を折り数えて、ベスが『編成』を確認する。八人中二人が女性の調査チームと違い、こちらは十人中三人が男性だ。とはいえ女性でも『頼もしげな』メンバーに、改めて顔ぶれを再確認したヘヴィ・ヴァレン(fa0431)は嘆息した。
「みんな、嫁入り前の娘なんだ。あんまり、無茶はするなよ」
「何かあったら、ヘヴィさんが何とかしてくれるんでしょう?」
表情も変えずにぽつんと口にするイルゼ・クヴァンツ(fa2910)に、ヘヴィは微妙な表情で肩を竦める。
「何とかって、何だろ‥‥?」
「さぁ、何だろう」
首を傾げる燐 ブラックフェンリル(fa1163)へ、くつくつとシヴェル・マクスウェル(fa0898)は忍び笑った。
「粛々と事を進めるべきだろうに‥‥暢気なものだな」
第二階層を渡った際に銃へ砂が付着してないか念のために確認しつつ、緑川安則(fa1206)は自身が砂を噛んだような苦笑いで呟く。
「それにしても‥‥『この門をくぐる者は、一切の希望を捨てよ』。そんな文字が刻んでありそうな感じの門ですね」
今は暗い口を開いた巨大な扉をパトリシア(fa3800)が見上げ、シヴェルも少女に倣った。
「希望、ね‥‥どこもかしこも、穴ン中ってのは辛気臭いもんだよな」
どこか皮肉めいたシヴェルの言葉に、精神統一するように静かにパイプを燻らせていたCardinalが、顔を上げた。
「千春。撤退の際には、これを使ってくれ」
大きな手が突き出され、そこに握られた小さな弾丸を千春がじっと見つめた。
「ミストボールなら、私も持ってるわ」
「ああ、俺もある。だが、近場ばかりに必要とは限らないだろう。銃を使える者は、限られているしな」
Cardinalの指摘通り、護衛チームの中では銃器を持ってきているのは千春と安則の二人しか居らず。
「‥‥そうね。有難く、使わせてもらうわ」
端数の弾倉を取り出すと、その一番上に千春は煙幕弾を詰めた。
「ぴ〜。そろそろ、準備終わった? 終わったって、調査の人達に言ってきていい」
「ああ、よろしく」
火を消しながらCardinalが頷けば、ベスがぴょんと立ち上がり。
燐と共に、調査チームの元へ向かった。
●先陣
闇の中を歩くモノ達は、『獲物』の気配を感じ取り、動き始めた。
その存在を誇示するかのように、そして闇を駆逐する様に。
眩い光が、暗い空間を引き裂く。
光の中心で、熊獣人が挑発する様に牙を剥いた。
「さぁ、かかってきやがれ!」
目も眩むような光の鎧を纏ったシヴェルが、気炎を吐き。
迷い込んだ『獲物』に、餓えた蟲達は咆哮の代わりに牙や大顎を打ち鳴らしながら、群がる。
十分に蟲達が向かってくるのを確認すると、彼女は兜の羽飾りを揺らして身を翻した。
磨耗した階段通路を駆け上がり、後ろからは鉤爪などが岩に擦れる音が迫ってくる。
『俊敏脚足』を持たぬ彼女では、足の速い蟲にいずれ追い付かれる。
−−が。
光が近づいてくる様に、千春はIMIUZIを構えた。
惑わされぬようあえて堅く目を閉じ、自身が発する超音波で前方を『視る』。
視覚に頼らぬ『超音感視』は、射線を塞がぬよう壁際に沿って移動するシヴェルを確認し、迫る歪な蟲達の輪郭を捉え。
躊躇う事無く、最初の引き金を引いた。
狭い空間に、銃声と蟲達の発する軋みが木霊する。
煌々と照らす光の中、傷ついて動けぬ仲間の身体を乗り越えてくる蟲達の姿は、実に醜怪極まりなく。
囮役を務めたシヴェルは、仲間と合流すると『方天戟「無右」』を振るう。もっとも、2mの槍では通路内で動きが妨げられる為、柄を短く持ち、あるいは突きを主軸に置いて。
同様に、『無双の斧』を柄の中ほどを掴んだヘヴィが、鋼鉄の刃で蟲を叩き潰し。
まだ足掻く蟲の足や頭を、Cardinalが無慈悲な剛腕で引きちぎる。
厚い氷を砕く砕氷機の如く、三人は甲殻の群れに道を切り拓き。
続く燐やパトリシア達が踏み越えた残骸からコアを探し出しては、後の禍根を減らす為、確実に粉砕していく。
一方で迫っていた蟲達は、殺戮に逃れようとするモノと、獲物を求めて後から続くモノとがひしめき合い。それなりの体躯の大きさも災いして、進む事も退く事も叶わず混乱していた。
だがそれも、通路の出口に近づけば収束していく。
片手に斧を持つヘヴィが苔生した石が転がる第四階層へと足を踏み入れ、ランタンを掲げた。
「これが‥‥」
明かりに照らされて目に入った物体に、彼は喉の奥で呻く。
目を凝らさずとも、光を吸い込む様な漆黒の塊が、圧倒的な存在感を伴って、そこに在った。
「黒森の白いアレとは、随分と感じが違うようだな」
初めて目にする物体に、シヴェルは抱いていた気がかりを払拭される。
彼女の感想に、Cardinalがソレをちらりと見やった。
「ああ。黒森のアレは樹木の根か、そういった静かなモノに印象が近く‥‥敵意らしいものは感じない。だがこの『塊』は確かに何らかの息吹を内包するモノで、禍々しい感じがするな」
「息吹、ですか。この場所で生けるモノは実体化したNWか、もしくは感染した可能性のある小動物くらいです。しかし‥‥」
赤い瞳を細めたイルゼは、隙を狙って飛びかかる四足の蟲を『ダマスカスブレード』の一閃で斬り捨てる。
「小部屋程度と思いきや随分と広いんですね、ここは。まだ、『先』があるのでしょうか」
顎を引き、次の標的を定めるようにつぃと周囲へ視線を走らせたイルゼの前には、奥の見えない空間が広がっていた。
「ぴぇ? それは、奥まで行ってみないと判らないけど‥‥今は、ね」
「‥‥ですね」
『望遠視覚』が出来るベスでも、光が届かぬ先まで見通す事は出来ず。
それよりも、目の前の『仕事』へとイルゼは意識を引き戻した。
●維持と異変
数を減らした群れへ護衛者達は更に進み、黒い『卵』を囲むように『前線』を確保した。
後はその『前線』を維持しながら、二班がなおも向かってくる蟲には銃弾や刃、あるいは拳が応戦し、その間に一班は休息をとる。
休憩はあくまでも体力を温存し、集中力を切らさぬ為のもの。故に休息といっても不測の事態に備えて周囲に注意を払うのだが、どうしても『塊』へと視線が行ってしまう。
「あちらの作業は、順調なのでしょうか」
心配そうに眺めるパトリシアへ、彼女と班を組む神無が「おそらく」と返す。
『塊』の周りでは、調査チームが自分の出来る作業に当たっていた。
まず鋭くなった視覚や聴覚などで『塊』を探り、その後に若干の『攻撃』を加えるなどしてサンプルを採取する手筈になっている。また、それらの作業の一部始終はデジタルビデオカメラに録画し、WEAへ提出する予定だ。
「アレに何か異常が発生すれば、すぐ知らせてきます。それよりもこちらは、ミテーラか‥‥あるいは、DSの出現に備えておかないと」
言いながらポケットからシガレットケースを引っ張り出した神無だが、蓋を開ける前に『禁煙』である事を思い出し。溜め息をつきながら、ケースをポケットへ戻す。
「もしも、あの時の男が現れたなら‥‥今度こそ幕を引いて差し上げますのに」
「出てこない方が、作業的にはありがたいがな」
C班三人目のヘヴィは、『望遠視覚』で監視を続けつつ苦笑で答えた。
イルゼが照らすライトに、複眼が幾つも反射して光る。
互いに牽制しあう間に、安則は軽くなったIMIUZIのマガジンを交換した。
「さすがにこれだけダメージを与えれば、無闇に仕掛けてはこないな。だが仕掛けてこないからといって、深追いはするなよ」
「心外ですね。それは、こちらを信頼していないという事ですか。この状況で無闇に突出するのは、今回の役目を理解していないも同然でしょう」
前方を見据えたままで、イルゼが淡々と言葉を返す。
「後の調査に繋げる為にも敵の数を減らすのは結構だとは思うけど、私らの仕事は基本的に『護る事』だからな」
無造作に槍を構えるシヴェルは、仁王立ちで蟲達と『塊』の間に立ち塞がり、睨みを利かせる。
仲間の力量を違う意味で見誤った安則は、無言で小さく肩を竦め、注意を複眼の群れへと戻した。
その知らせは、警告もなく突然だった。
ノイズ混じりのトランシーバーから、調査チームが急を告げる。
その内容に、誰もが背後の『塊』を振り返った。
離れていても判るほどに、黒い表面がシミのようなモノに覆われている。
そして、シミはなおもかなりの早さで広がり続け。
防犯用携帯ブザーのけたたましい音が、茫然とする者達を我に返らせた。
「ぴえぇ‥‥あれ全部、ちっちゃいNWだよ‥‥」
広がるシミを構成しているのは、体長20〜90cmの蟲の群れだった。遠視でその正体を捉えたベスに、燐が思わず友達の腕をぎゅっと掴む。
「もしかして、表面のあれが全部? ホントに?」
「どうやら、『殻』‥‥というべきかしら。それを、割ってしまったようね。表面どころじゃなく、あの『塊』の中身全部が‥‥NWで詰まってるんじゃないかしら」
千春の推測に燐の表情が青ざめ、ベスは友人の手をぎゅっと握る。
「このままでは、調査チームが危ないな。行くぞ」
直径2cm程の小さな玉を握りしめたCardinalが、少女達を促し。
彼の様子に千春もまた、別途に分けていたマガジンを手に取った。
直径4mもの『卵』に詰まっていた蟲の数は、数十単位どころではなく、数百に達しているだろう。
調査チームのメンバーも武器を手に取り、あるいは炎や雷、闇の塊を飛ばす。が、幾らかの蟲達を弾き飛ばしても、全体から見ればまるで焼け石に水だった。
「このままでは不味い。後退するぞ!」
『卵』へデタラメに銃弾の雨を降らせつつ、安則がトランシーバーへがなる。
「あれだけ小さいとなると、いささか厄介ですね‥‥」
反り身の刀を手に走りつつ、イルゼは口唇を噛んだ。
「俺は上から援護に当たる。二人とも、無理はするなよ」
斧を手にしたままヘヴィが竜の翼を打ち、宙へと飛び立った。
「どうやら‥‥出番のようですね。予定より、ずっと早いようですが」
赤い瞳で見つめる神無にパトリシアが緊張気味に頷き、『ソードofゾハル』を収めて純銀のマイク『天界からの声』を取り出した。
通路へと下がる者達の前で、『卵』は音もなく崩れ落ち。
孵化したばかりの蟲達の塊は、波の様に一行の足元へと迫ってくる。
その光景を見据えながら、パトリシアは歌を紡いだ。
「 Angels we have heard on high, Sweetly singing o’er the plains
And the mountains in reply Echoing their joyous strains.
Gloria..., In Excelsius Deo Gloria..., In Excelsius Deo 」
天より降る様な声で唄うは、賛美歌の栄光頌(グローリア)。
手にした『天界からの声』を通すには、如何にも相応しい歌だった。
『高き処の天使の歌』は、見えざる力となりて地に蠢く不浄を撃つ。
歌声は、彼女のものだけではなかった。
調査チームからも、『FIRE ROCK』を使った全方位攻撃が撤退を援護する。
通路まで引き返す前に、千春がミストブリッドを蟲達へ撃ち込み、その視界を遮った。そしてCardinalもまたミストボールを投げて、通路を煙で覆い隠す。
肺活量が必要な歌を、パトリシアは煙を吸わぬように注意しながらも続け。
その行く手、第三階層の扉が、突然に動き始めた。
「閉まるぞ、急げ!」
叫び声が、殿(しんがり)となった護衛チームの者達を急かし。
階段の下からは、小さな蟲が追い縋ってくる。
「パティ、もういいから!」
少しでもと唄い続けるパトリシアの手を、神無が引く。
その俊足で、狼娘達は転がるように隙間を抜け。
−−そして八つの鍵で開かれた扉は、再びその口を閉じた。