世界祝祭奇祭探訪録 18ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/22〜04/25

●本文

●飲んで唄って踊る五日間
 スペイン南部、アンダルシア州セビリア。『カルメン』の舞台ともなったスペイン第四の都市の春は、この祭がなければやってこない。
 サン・ホセの火祭り、サン・フェルミンの牛追い祭と共にスペインの三大祭の一つに数えられる、『セビリアの春祭り(フェリア)』だ。
 祭の期間となる五日間、セビリアの南西に設けられた専用広場に、1000ものカセータと呼ばれるテント小屋が立ち並ぶ。カセータの多くは裕福な個人や各種団体、企業などの専用小屋で、顔見知りや招待客でなければ入る事が出来ないのだ。
 内部は水道や電気が完備され、冷蔵庫や椅子にテーブルを置き、それだけでなくインテリアも競うように凝ったものが飾られる。テントの入り口は開け放たれて凝った内装を見せつけ、それだけでなく伝統舞踏セビリアーナや歌を披露して、テント同士で競うという。
 カセータに招待されない者達は、テントの周囲で酒を飲み、唄い、踊る。
 もしくは金を払って、観光客向けに用意されたカセータに入れてもらうのだ。

 1847年に始まったという祭の原型は、牧畜市だ。
 牧畜市の会場に牧畜の関係者達がテント小屋を作り、市の間は家族と一緒にそこで過ごした。
 年を重ねるうち、市の合間に飲んで食べて踊り、あるいはゲームに興じて時間を潰すようになり。
 それが更に形を変え、牛馬をそっちのけで余興を楽しむ事が主体となり、今のような祭の形に定着したとされる。

 ピークになると、フェリアを訪れる人々は100万人に達するという。
 これらの人々は『古きよき時代』の衣装を身に纏い、馬に昔ながらの馬車をひかせてやってくるのだが、集まる馬車は500台、馬の数は700頭に及ぶとも言われる。
 この日ばかりは、老いも若きも女性達は華やかなフラメンコのドレスに身を包み、フリルたっぷりのドレスの裾を翻して歩き、あるいは踊る。
 また、ラ・マエストランサ闘牛場では春祭りの闘牛が開催され、花形闘牛士達が晴れ舞台に挑む。闘牛士の華麗な技と真剣勝負に酔った人々は、熱気の余韻を帯びたまま、再び祭りの会場へとなだれ込んで、またどんちゃん騒ぎを繰り広げる。
 たとえ、雨が降ろうとなんのその。
 そこここでフラメンコの音楽が鳴り響き、夜が更けるのも忘れて飲み、歌い、騒ぎ、どこまでも陽気に、祭を楽しむのだ。

●『セビリアの春祭り』
 お馴染みのスタッフは番組の資料を配っていく。
『世界祝祭奇祭探訪録』は、「現地の家族との触れ合いを通じて、異国の風習を視聴者に紹介する」という現地滞在型の旅行バラエティだ。
 これまでにヨーロッパ各地で祭を紹介し、今回の『セビリアの春祭り』が第18回となる。
「今回の滞在先はスペインのセビリアです。滞在期間は4月22日から4月25日までの4日。祭自体は24日0時から始まり、29日まで続きます」
 資料をめくりつつ、担当者はいつもと変わらぬ説明を続ける。
「滞在先のリベラ家ですが、家族構成は両親と8歳になる娘さんの三人家族です。郊外の古い修道院跡を工房として、土産物の陶板飾りを作っているとか。こう、昔の家などをモチーフにした、壁掛け飾りだそうです。フェリア中は陶板工芸家仲間で集まって、カセータを設けるとか」
 一通りの説明を終えた担当者は、紙の束をトントンと机の上で揃えた。
「では、どうぞ良い旅を」

●今回の参加者

 fa0095 エルヴィア(22歳・♀・一角獣)
 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1791 嘩京・流(20歳・♂・兎)
 fa2225 月.(27歳・♂・鴉)
 fa2484 由里・東吾(21歳・♂・一角獣)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)
 fa5615 楽子(35歳・♀・アライグマ)

●リプレイ本文

●春の街
 マドリッドより高速列車AVEで2時間半ほど南下すれば、セビリア中心部より東に位置するサンタ・フスタ駅に到着する。
 そこからバスに乗り換えて、一行はセビリアの街を南下していた。
「太陽と青空と緑が、やっぱり映えるわね」
 車窓を流れる風景に、エルヴィア(fa0095)が眩しそうに目を細める。
 この季節、最高気温は20度前後と東京とあまり変わらないにも関わらず、空の色は夏を思わせるほどに濃い。
「うん。いかにも地中海の色‥‥って感じかな」
 窓に片肘をついて、嘩京・流(fa1791)も街並みを眺めていた。建物の間からは、カテドラルの傍らに建つヒラルダの塔が指標の様に姿を見せる。
「やっぱり、寒いより暖かい方が良いわよね。春の到来が嬉しいのは、世界共通なのかも‥‥あ、あれじゃないかしら?」
 風景を注視していた羽曳野ハツ子(fa1032)が知らせれば、誰もがそちらへ目を向けた。ドン・ファン・デ・アウストゥリア広場を通り過ぎると、すぐ柵に囲まれた白い建物が現れる。
「ええ。『カルメン』の舞台になった、旧王立タバコ工場ね」
「あそこが‥‥」
 ガイドを確認する楽子(fa5615)に、慧(fa4790)が窓に貼り付くようにして18世紀の建造物を見送った。
「確か今は、セビリア大学の法学部が入ってるんじゃないかな」
 篠田裕貴(fa0441)が説明すれば、月.(fa2225)が僅かに苦笑する。その様子に、流がきょろきょろ窓の外を見やり。
「何か、面白いモノでもあった?」
「いや。舞台とはいえ、ドン・ホセが身を破滅するきっかけとなった場所で、今は法を教えているというのが、どこか皮肉めいていてな」
「ファムファタル、カルメン‥‥ね」
 どこか意味深な笑みでエルヴィアが呟き、聞き取った慧は不思議そうに小首を傾げた。
「『運命の女』。出会った男の運命を変え、破滅させてしまう女性の事だよ」
「出会って運命が変わるのは、判るけど‥‥破滅は、嫌だなぁ」
 説明する裕貴に、何やら考えつつ悩む表情を見せる慧。
「でも女としては、そこまで想われてみたいわよね」
「ええ、本当に」
 これまた挑戦的な微笑みを見せるハツ子へ、すかさずエルヴィアも同意する。
「『命短し恋せよ乙女』、よね」
 乙女の先輩である楽子が、楽しげに二人を眺め。
「なんて言うか‥‥大変だなぁ」
「‥‥ああ」
 流と月は揃って、何故か視線を泳がせる。
 そんな会話の間にもバスはグアダルキビル川を越え、市街地を進んだ。

●リベラ邸で
 古い石造りの修道院の傍らに、質素な家が建っていた。
 呼び鈴ブザーを押せば、ばたばたと扉の向こう側が騒がしくなり。
「ようこそ、セビリアへ!」
 扉が開くと、フラメンコ衣装のワンピースに着飾った少女が来訪者達を出迎えた。
「やぁ、こんにちは」
「よろしくね」
 無邪気な少女の歓迎に驚きつつも、一行は口々に挨拶を返す。そこへ、慌てて奥から母親が娘を追いかけてきた。
「もう、サラったら。ダメじゃない!」
 娘をたしなめてから、夫人は来訪者達に会釈をする。
「娘がはしゃいじゃって‥‥すみません。遠いところ、お疲れでしょう?」
「いいえ。元気なサラちゃんの笑顔と出迎えで、疲れも吹き飛んじゃったわよ」
 笑いながらハツ子がウィンクすれば、サラは母親似の黒髪を揺らし、恥ずかしそうに母親の陰へ隠れた。

 リベラ氏が『工房』から戻ると、食卓には夫人の手料理が並んだ。
 その中でも、皿にのった見慣れぬ半球体な丸い料理に興味を引かれ、流がフォークでソレをつつく。
「これ、何だろ?」
 形容するなら、小さなキャベツを半分に切り、真ん中をくり抜いて肉を詰めた料理だった。
「アーティチョークっていう、大きな花の蕾だよ」
 裕貴の説明に、流はしげしげと食用蕾を眺め。
「蕾って言うと、菜の花を思い出すけど‥‥」
「菜の花と較べると、随分と巨大だがな」
 流の呟きに笑いながら、月は蕾を口へ運ぶ。
 そのアーティチョークの肉詰めと、パスタ。小魚のフリットや、牛テールのシェリー酒煮込みが、夕食のメニューだ。そして最後はドルチェ(デザート)にと、手作りクリームプリンが運ばれてくる。
「こんなに沢山食べたら、太っちゃうよ」
 八分目に達しつつある胃と相談しながら、慧はスプーンを手に取り。
「私達は、明日から踊って消化しちゃうからいいのよ。ね」
 エルヴィアに、女性陣は顔を見合わせて笑った。

 リビングの壁には、色々な陶板飾りが飾られている。
 昔ながらのアラビック文様が描かれた丸い皿や、四角いタイルに描かれた風景画や動物画の隣に、家を模ったカラフルな陶板飾りが並ぶ。白い壁に赤茶の屋根、茶色い煙突という素朴な色合いをベースに、そこに店先や賑やかな家庭の風景が明るく鮮やかに描かれ、それらを楽子はしみじみと『鑑賞』していた。
「ちょっとした、ミニチェアハウスみたいね」
「観光の土産物にも、評判がいいんだよ。手にとってみるかい?」
 気さくにリベラ氏が壁に掛けた家型の飾りを取り外し、楽子と一緒に見物していた慧や月に手渡した。
「綺麗だね。一つ、買って帰ろうかな‥‥」
「そうだな」
 土産の検討をする二人とは対照的に、楽子は創作意欲をそそられるのか。
「よかったら、明日は工房を見せてもらってもいいかしら。陶板焼きに挑戦できたりすると、嬉しいんだけど」
「見学は構わないけど‥‥形から作ると乾燥に時間がかかるから、絵付けをしてみるかい?」
「ええ。ぜひ、挑戦してみたいわ」
 頷く楽子は、改めてその色を注意深く観察した。
「同じイタリアでも、バレンシアだとポーセリン人形が有名だけど‥‥同じ陶器でもここはまた、随分と色も形も違うのね」
 ちょうど一年程前に訪れた時の事を思い出しつつ、ハツ子もしげしげと飾りを眺める。
「アンダルシアは、アラブの影響を強く受けてるからね。カタルーニャは、フランスに近いから‥‥そのせいもあるだろうけど」
「全然違っていても、スペインですけどね」
 悪戯っぽく夫人が笑い、裕貴はどこか困惑した感の混ざった笑顔を浮かべた。

 翌日は忙しい一日となった。
 二個の卵を使った目玉焼きを春野菜で彩る「フラメンコ風目玉焼き」で朝食を取ると、リベラ氏からは、カンテ(歌)やフラメンコギターを習い、夫人からセビリアーナのステップやパリージョ(カスタネット)の鳴らし方を教わり。それらの合間に、陶板工房を見学する。
 慌しい一日を終えて夕食をとると、女性達はドレスへと着替えた。
 ハツ子は鮮やかな青、エルヴィアは純白、楽子は真紅と、女性三人はそれぞれのドレスに纏い、ドレスの色と合わせた大きな薔薇の造花を髪に飾る。
 準備を終えた一行は、フェリアの会場へ移動した。

 会場の通路は電飾が渡され、赤と白あるいは青と白といった縞模様のカセータが立ち並ぶ。
 そんなテントの群れから飛びぬけて、凱旋門のような巨大な門−−いわば、広場の正面玄関−−が作られていた。
 祭の開始が近づくと、それに備えて灯りが落とされる。
 待ちかねた期待と興奮が暗闇に漂う中、誰もが息を殺して日付が変わるのを待ち。
 24日0時を迎えると同時に、豪華な飾り付けをされた門が煌々と輝いた。
 そして一斉に、長い通路を飾る紅白のボンボリが点灯し、カセータが活気付く。

 −−この時より五日間。この灯りは消えず、祭は続く。

 即ち、フェリア開始の合図であった。

●大輪の花踊る
「あ、きたよ!」
 人込みで伸び上がった慧が、やってくる馬や馬車の群れを見つけ、声をあげた。
 彼の言葉に、エルヴィアと楽子もその視線の先を追う。
 すぐに、『大通り』をカラフルな花で飾られた複数のアンダルシア馬が、並足で進んできた。
 馬上ではダークカラーのスーツを纏い、つば広帽を被った青年が、胸を張って手綱を握り。
 青年の後ろでは、色鮮やかな水玉のドレスに身を包んだ若い女性が、結った髪に差したペイネタ(飾り櫛)で飾り、肩に掛けた房飾り付きのショールを風に遊ばせつつ、楽しげに笑顔で手を振る。
 若々しく誇らしげな一団が過ぎると、今度はやはり花で飾られた馬車が現れた。勿論、馬車を引く馬にも花があしらわれている。
 二頭立て、あるいは四頭立ての馬車は、祖先代々受け継がれた馬車だという。
 大切に手入れされた馬車には、家族連れや知り合いらしき人らが乗り込み、人々へ手を振って応えた。
「みんなこの日を心待ちにしながら準備をして、街へやってくるのね」
 晴れやかな表情にエルヴィアが呟き、楽子は周りを見回した。
「にしても‥‥よく潰れないわよね。昨日から騒いでる人もいるんでしょ?」
 パレード見物でひしめく人々のうち、観光客はともかく。地元の人々は既に0時の開始の合図から飲んで唄い、踊り明かしたりしている。多少の仮眠は取っているだろうが、そのスタミナには実に舌を巻く。
「今日は初日だから元気でしょうけど、最終日は‥‥どうなっているのかしらね」
 見られないのが残念ねと、エルヴィアは冗談めかして笑った。

 近隣の町や村から集まってきた人々を加え、ますますフェリアの賑わいは膨れ上がっていく。
 パレードの後、頃合いを見計らった一行は、カセータ巡りと闘牛見物に分かれた。
 通りを歩く者達もカセータの人々もパレードの参加者達と同様に着飾っていて、会場はどこも賑やかで華々しく。あちこちで歌や音楽が始まり、そしてシェリー酒の杯が交わされていた。
「会員制だから、どこでも飲み放題というわけじゃないんだな」
 月とはぐれぬようにしつつ、流がちらちらとテントの中へ目をやる。
「中に入れない者は、外で騒ぐらしいな」
 月の言葉通り、あちこちにカセータに入らず騒ぐ者達もいた。
「観光客や海外からの留学なんかで来てると、コネもないだろうしね」
 通訳を兼ねる裕貴が、地元の者とそうでない者の違いを見て取る。
 かく言う彼らも、紹介されていないカセータへ足を踏み入れる事はできない。1000ものテントが並んでいても、入る事ができるのはリベラ氏が属する陶板工芸家仲間のカセータと、氏の友人が関係するカセータ程度で、大半は外から見物するのみだ。
 それでもカンテが聞こえ、あるいはセビリアーナが披露されていたりすると、足を止めてそれに見入る。
 縞模様のテントの中で、フリルがくるくると花の如く開いて回り。
「何だか、音楽が聞こえてくるだけでうずうずしてくるわね」
 さすがに踊るのは無理だけどと笑う楽子へ、裕貴は肩を竦めた。
「ハレオ(掛け声)はいいけど、パルマ(手拍子)はしないようにね」
 素人が下手にパルマをすると、リズムが狂うという。
 ギターとパルマに合わせ、その身に染み付いたステップで踊る人々。その光景を四人はしばしテントの外から見物し、演奏を肌で感じ取っていた。

 ラ・マエストランサ闘牛場でも、翻るムレタ(マタドールが持つ赤い布)に大きな掛け声があがっていた。
 巧みにムレタを使い、マタドールが突進するトロ(牡牛)をかわすパセ(技)を披露する度、観客から「オーレ!」と声が飛ぶ。
 周りの大歓声に負けじと、エルヴィアもハツ子が声をあげ。慧は、
 これまでの過程で既に出血を重ね、足取りの危ないトロを、真剣を手にしたマタドールは更にムレタで誘い。
 頭を下げて突進するトロへ、マタドールが剣を急所へ突き立てる『真実の瞬間』が訪れる。
 見事、急所から心臓を貫かれたトロが倒れると、一つの闘牛が終了となった。
「やっぱり、マタドールってすごいわよね。あんな牛相手に、正面から立ち会うなんて。私には、とても真似できないわ」
 感心するエルヴィアは、肩の力を抜いて緊張を解き。
「そうね。やっぱり本場でナマの闘牛は、こう‥‥なんとも言えず、エキサイトするわね」
 二度目の観戦となるハツ子はまだ興奮冷めやらぬ様子で、次の闘牛の準備に入る闘牛場を見下ろす。
「でも少し‥‥牛が可哀想かもしれないけど。殺しちゃうんだよね‥‥」
 やや複雑な面持ちの慧は、馬に引き摺られて牛が消えたゲートを見つめていた。
「あの牛、どうなるのかしら」
 素朴なエルヴィアの疑問に、ハツ子がふっと余裕(?)の表情をみせ。
「料理として出す店もあるみたい。でも、硬いみたいね。できるだけ人の手を掛けないで、野生に近い状態だから」
 過去の経験に基づいて、博識振りを発揮する。
 夕方から始まった闘牛は、日の暮れる頃には終了した。

 闘牛が終わると、その熱気を引き摺ったままの人々がなだれ込み、会場のテンションが一段と高くなる。
「さぁ、踊るわよ〜!」
 気合を入れるハツ子に、月がやれやれと首を横に振った。
「気合十分だな」
「勿論よ。日本の諺にもあるでしょ。『同じ阿呆なら踊らにゃ損損』ってね! そして、その後に飲む一杯が、また最高なのよ!」
「なんだよ、それ」
 力説する彼女に、思わず流が吹き出す。
「利き手には高音、逆の手は低音‥‥ね」
 確かめながら、エルヴィアがパリージョの紐を指に通し。
「頑張ってね」
 にこやかに、楽子が二人を応援した。
 やがてリベラ氏と工芸仲間に混じって、裕貴がギターをかき鳴らし。
 ハツ子とエルヴィア、それに夫人とサラが、手を掲げてパリージョを鳴らし、サパトス(鋲付靴)でステップを踏み鳴らす。
 カンテ・ホンド−−魂の奥底から響く深い声で唄われる耳慣れぬ言葉を、慧は目を閉じてじっと聞き入り。
 四つのスカートが翻り、花のようにフリルを咲かせる。
 慣れぬ者が下手なのは、当然。
 ならば楽しんだ者勝ちと、度胸の据わった二人の踊りに、見物人が喝采を送り、杯が交わされ。

 賑やかな春の夜は、まだ始まったばかりだった。