EtR:閉じた扉ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 5Lv以上
難度 普通
報酬 24.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/28〜04/30

●本文

●惨禍
 惨劇は前触れもなく始まって、突然に終わった。
 第四階層探索より数日後。
 深夜、急襲を受けたオリンポス遺跡の監視所は、いたる所に血痕と錆びた鉄のような匂いが立ち込め、動くものはなかった。
 惨劇を間逃れた者は、数えるほどしかおらず。
 空に逃れ、地を疾駆し、あるいは闇に隠れて幸運にも命を繋いだ者達によって、その惨劇が知らされたのだった。
 同時期に山に入っていた登山客や、山岳運搬の業者が集団で消息を断ち、彼らや荷を積むラバなどが感染したと考えられた。
 報告された限りでは、NWが集団出現したのみで統率力のある個体は報告されず。ネットワークを通じての感染拡大を防ぐため、監視所の係員は発電機を落としたという。
 知らせを受けたWEAは、すぐさま監視所の機能復旧のための人員を募り、現地へ送り込んだ。
 それは死地への旅出に近かったが、誰かがやらねばならなかったのである。

「自分達で災いの種を蒔き、自分達でその災禍を被る−−相変わらずの、マッチポンプっぷりだな」
 実に滑稽だ、と。
 同胞達にしか公表されぬ広報に、その男は小さく嘲笑った

●調査続行
 第三階層と第四階層を繋ぐ扉は、閉じられた。
 第四階層で行われた『卵』の調査にて、いわば『卵殻』が破損し、内部から小型の蟲達が大量に『孵化』したのである。
 迅速な避難と援護により、調査に赴いた者達は無事の帰還を遂げた。
 だが退避の為に、鍵となった八つのオーパーツを破壊し、第三階層と第四階層を繋ぐ扉を再び閉じてしまったのだ。
 WEAは同胞の安寧に勤め、NWへの対策を講じてはいるが、オーパーツの収集を行っているわけではない(むしろオーパーツに関しては、『崑崙商会』に一日の長がある)。
 故に、再び第四階層へ赴くには、第三階層で『鍵』となるの八つのオーパーツを集めなければならなかった−−。

●今回の参加者

 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●ふりだしに戻る
「ぴぇ〜‥‥この前の探索は、大変な事になっちゃったね〜‥‥」
 その言葉自体はあまり大変そうには聞こえないが、ベス(fa0877)ははふりと溜め息をつく。
「最初の探索で、あれだけの数と遭遇した訳だからな。想定して然るべきではあったろう」
 今更と御鏡 炬魄(fa4468)が頭を振り、久し振りにオリンポス遺跡へと足を踏み入れた御影 瞬華(fa2386)は興味深そうに話を聞いていた。
「何だか‥‥大変だったんですね。監視所の人達の顔ぶれも、知らない人ばかりになってましたし」
「うん。でも、何とかしなきゃいけないん‥‥だよね。扉もいずれ開かないと、あのまま放ってはおく訳にもいかないし」
 珍しく難しい顔をする燐 ブラックフェンリル(fa1163)に、フワフワした兎の足のお守りを指先で遊びながら富士川・千春(fa0847)も考え込む。
「今は、開く訳にはいかないけど‥‥開く為には内部の数に対応できるだけ戦力と、遺跡周辺への被害の予防策が必要かしら。予防策の方は、難しそうだけど‥‥」
「ああ、そういえば‥‥」
 監視所を発つ直前、新顔の係員に三つの質問をした相沢 セナ(fa2478)が口を開く。
 曰く、前回の探索で持ち帰った映像とサンプルの解析は始まっているのか。監視所の急襲後、オリュンポス山は封鎖されているのか。周囲に出現したNWの討伐はどうなっているのか−−である。
 得られた答えは、全て否定的なものだった。
 NWの襲撃により、監視所自体が混乱した事が最たる要因である。
 またオリンポス山は単体の山ではなく、複数の峰を持つ。
 神々の山、ギリシャ最高峰に登る事を目当てにやってくる登山客も多く、この地方の大きな観光収入源となっている。ギリシャ政府との交渉をおいても、連峰を完全封鎖する事はほぼ困難だ。
 襲撃についても、最後までソレを見届けた生存者はなく。故に、襲撃したNWがどこから来てどこへ消えたかは、闇の中だった。

「でもあれだけの密度だと、普通の虫なら共食いしそうだけど‥‥NWって、共食いしないんだろうか」
 早河恭司(fa0124)の疑問に、千春は少し思案し。
「で、共食いした結果、トウテツみたいなのが出てくるとか?」
「それは‥‥イヤだな」
 嘆息しながら、恭司が嫌そうに眉を顰める。
 たとえ冗談でも、あんな生き物の中身と外がひっくり返ったような、デタラメかつ巨大なモノは二度とお目にかかりたくない−−それが、あの始皇帝陵遺跡での一件に関わった者の心情だろう。
「まぁ、それはそれとして。扉を開く鍵となるオーパーツを集めて‥‥どうしようか。誰かが、まとめて持っておくとか?」
 改めて、恭司が仲間達へと確認する。
 予定では誰か一人に預ける予定だったのだが、予定は狂うモノである。たまに。
「私は、中東でもいろいろと所用がありますので‥‥扉を開かねばならない時に、こちらへ来られるかどうか」
 失笑しながら、真っ先に瞬華が辞退する。
「ぴ〜‥‥じゃあ、じゃんけんで決める? 負けた人が持つの」
「あとは、くじ引きするとか」
「何だか、貧乏くじになりそうだな」
 あれこれと思案するベスと燐へ、恭司が苦笑する。
「う〜ん‥‥どうするかはともかく、鍵を集めなきゃならない事は確かよね。まず先に鍵を集めて、それから後の事は考えましょ」
「そうだな。この先、二度や三度と開けたり閉めたりの騒ぎにならなければ、いいんだが」
 建設的な千春の提案に、炬魄は嘆息した。

●宝探し
「ゼフィロス、ノトス、ボレアス、エウロスの四つの紋章は、知っている人が探すとして。アクア、エアロ、ガイア、フレアの四つのブローチは私も持ってるから、手がかりにしてね。時間も少ないし、手分けしてサクッとやっちゃうわよ」
 サーチペンデュラムを手にした瞬華の参考にと、千春が『見本』を取り出した。二人以外にも、ベスと炬魄が地味な作業を始めている。
 四人がサーチペンデュラムで、目的の物がある位置にだいたい見当をつけていく。
 それが問題なく取りに行ける場所なら先に回収に向かい、問題のある場所なら回収方法を検討する算段だ。
 やがて一時間もかからぬ内に、千春が書いた手製の簡単な地図にはバツ印が着々と増えていった。

 大まかな場所が絞られた後は、地図に加えてベスが恭司から借りたダウジングマシーンを使い、更に場所を絞ろうとしていた。
「ないよりはマシ程度なレベルだろうけどね。俺が使うよりも、ベス達の方が正確に位置が捉えられるだろうし」
「それでも、デタラメに草を突っつき回しているよりは、いいですよ」
 灯りに反射する物がないか、セナが足元に注意しながら恭司へ答える。
「あの卵って、一体どうしてあんな形になったのかな。あの形になる必要があったとか‥‥獣人が居ないから? それとも感染する対象がいなくて、食料も無いから卵になって休眠状態だったとか。何かがアレを生んだ? 卵を封印してたんじゃなくて、その先の何かを封印してたのかな、あの扉? 卵は封印した何かに反応した、とか?」
 探す間にも、いろいろと取り留めのない疑問を燐が口にする‥‥が、それに正解を出せる者は、当然ながら誰もいない。
「でも獲物とかが少ないという理由なら、第二階層や第三階層にアレがあってもおかしくないわよ?」
「う‥‥う〜ん?」
 千春の言葉に、燐は更に首を傾げて思考の落とし穴に埋没していく。
「考え過ぎて、そのまま水の中に落っこちるなよ。まだ安全と決まった訳じゃないからな」
 そんな彼女に恭司が釘を刺しつつ、『鍵探し』は続いた。

「え〜っと‥‥あ。あったよ〜」
 ベスが気味が悪そうに、異臭を放つドロドロの物体−−即ち元NWの死体の傍から、短剣の切っ先へ引っ掛けるようにして、銀細工のブローチを草の上に分ける。
「いち、に、さん‥‥と。洗ってみないと判らないけど、ざっと見た感じでは四種類全部ありそうね」
 肉片のこびり付いたブローチを、千春が嫌そうに数え。
 それから、何か期待に満ちた目で男達の方を見た。
「‥‥仕方ないな」
 ソレらを炬魄が拾い上げ、用心深く水辺に近づいて水洗いをする。その間にも、瞬華は念のためにオティヌスの銃を構え、不意打ちに備えていた。
「これが終わったら、一度第二階層の入り口まで戻っていいかしら」
「何かあるんですか?」
 不思議そうに尋ねるセナに、千春が首を縦に振る。
「卵の殻の鑑定結果、出ていないかと思って」
『知友心話』で観測所と話をするには、第二階層の入り口付近が精一杯の距離だ。かつて手帳の書き写しを行った時の様に、そこまで戻らねばならない。
「時間を取らせちゃうけど、出来るだけ早く結果が知りたいの」
「四つの紋章が、難なく見つかったからな。大丈夫だろう」
 綺麗に汚れが落ちた紋章を手に、炬魄と瞬華が水辺から戻ってくる。
 結局この日は監視所と『連絡』をつけてから、一行は休息を取った。

 四つのブローチ探しは、四つの柱がある橋の『広場』に場所を移した。
「せーの!」
 ベスの合図と共に、皆が水中に垂らしたロープを引っ張る。
 籠の様な物をロープの先に結び、それで水底に溜まっているらしいオーパーツを救い上げようとしたのだが。
「ぴえぇぇぇぇ〜っ!」
 籠に入っていたモノに、ベスが悲鳴を上げた。
 引き上げた籠で跳ねていた30cm程の体長の魚数匹が、胸びれを昆虫の羽のように広げ、ロープを引く者達へと飛び掛ってくる。
「下がって!」
 ロープを切らぬように注意しつつ、セナが矢を番えたアヴァロンの弓を引き、瞬華が銃の引き金を引く。
 石の橋の上に、魚の様なNWがべしゃりと落ち。
 その胸びれ近くにあるコアへ、炬魄がモウイングの石突きを何度も叩きつけて砕く。
「ついでに、腹を割いて調べてみるか?」
「私、魚をさばくのは‥‥ちょっと‥‥」
 聞く炬魄へ冷や汗を浮かべた燐が答え、残る少女二人も一様に首を横へ振った。

「さすがに、あの巨大なNWに匹敵するようなのはいなかったか」
「ぴ‥‥あんなのが二匹も三匹も出てきたら、ちょっと‥‥」
 NWの一匹から炬魄が探し当てたブローチを、表情をこわばらせたベスが受け取る。
「次の場所は、ドコですか?」
「あの、浮島の辺りね。飛んで探してみる?」
 確認する瞬華に、地図を片手に翼を広げて位置を確認する千春が、やや遠方に浮かぶ島を示した。
 翼のある者が探しに向かい、恭司と燐は橋で待機する。
「やっぱり鍵になるオーパーツが多いね、ここは。扉を作った人が、沢山置いていったんだろうか」
 仲間達を見守りながら、恭司が呟き。
 遠くの浮島で、ブローチを見つけたベスがぶんぶんと手を振る姿が見えた。

●扉と卵
 意識を集中し、思念を飛ばしていた千春が、緊張を解いて息を吐く。
「監視所の方で調べるようにお願いしたんだけど、卵の殻の方は詳しい成分とかよく判らないみたい。主にたん白質で出来てて、それは以前に見つかった破片と同じだろうってのは判ったらしいわ。できれば、アンチ物質みたいなの? あんなのが見つかればと、思ったんだけど」
「それは、すぐ結果が出るものなんですか?」
 尋ねるセナに、「どうかしら?」と千春は肩を竦めた。
「確かに、NWを抑える何かを作る事が出来るかも知れない‥‥というのは興味深いが、それは俺の仕事ではないだろう。それに生物学的な分析ならば、専門の研究機関に送った方が早そうだがな」
 苦笑する炬魄に、彼女はぐぐっと拳を握り締める。
「でも、『NWの急速な成長に何らかの効果があった、卵の欠片』よ? きっと、何かあるに違いないし、早く知りたいじゃない」
「けど、あの殻‥‥大きいNWは食べず、中から出てきたNWだけが食べてたんだよな」
 記憶をたどりつつ、恭司がその印象を口にした。
「中から出てきたNWも、小さかったし‥‥」
「前にも言ったが、昆虫なら幼虫の『最初の食事』が卵殻であるケースは、珍しくないからな」
 再度説明する炬魄に、燐が小首を傾げる。
「つまり、生まれてすぐはちっちゃくて弱くて獣人を狙えないから、卵を食べて最初に大きくなるのかな?」
「そんなところだろう」
「ふぅん‥‥でもホントに『卵』なら、『卵』を生んだ親が‥‥どっかにいるんだよね?」
 感心した風に返事をした燐は、さらりと恐ろしい想像を呟いた。

 鍵を揃えた者達は、再び閉じた扉の前に来ていた。
 今回の探索では、扉は開けない方向で一致している。
 扉の向こう側について少しでも情報を得ようと、セナと千春が『調査』を希望したのだ。
「扉の向こうに、いっぱいいたりするのかな?」
 不安げにベスが扉を見上げ、不測の事態に備えて瞬華も銃に手をかけておく。
 まずセナが自分の影を扉に落ちるよう、ランタンの位置を調整する。
 そして扉の向こう側に何者かがいないかを確認しようと意識を凝らすが、ぴったりと閉じた扉で遮られている為か、それとも扉の向こう側には何もいないのか、影に触れるものを感じ取る事はできず。
「判りませんね‥‥特に、何もないようですが」
 石で出来た冷たい扉へセナは手を触れてみるが、もちろんビクともしない。
「う〜ん‥‥となると『超音感視』は表面的な事しか判らないから、『呼吸感知』の方がいいかしら」
 代わって、千春が手がかりを得ようと試みた。
『超音感視』に、透視の能力はない。
 となれば、100m以内で呼吸する者を察知する『呼吸感知』が頼みの綱となるが。
「どうやら、通路にはいないみたいね。何も気配を感じないわ」
 扉が閉まった事で、第四階層にまで引き上げたのか。それとも、何らかの形で第四階層から外へと抜け出したのか。
「俺達には通れなくても、虫や小動物なら通れそうな場所が‥‥あるかもしれないな」
 岩肌の天井を眺めながら、恭司が呟く。

 そして八つ揃えられた『鍵』は再び扉を開く時の為に、監視所へと預けられた。