幻想寓話〜ブラウニーズヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
19.8万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
05/13〜05/17
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●本文
●『幻想寓話』の舞台裏
「実は次回の放送内容はドラマではなく、特番としてドラマの制作現場を君達なりの形で撮ってほしいという主旨なんだ」
「‥‥はぁ」
ミーティングルームに呼び出されたレオン・ローズは、テーブルの上に置かれた企画書を手に取った。
「バッハさんがトラブルに巻き込まれている現状を考えれば、WWBの話も悪くないと思うのだがね」
「や、マーカス社長の意向であれば、我々としても問題も異論もなく」
流す程度に書面に目を通したレオンは、テーブルを挟んで座る『マーカス社長』−−アメージング・フィルム・ワーク(AFW)社の社長であるマイカ・ロングフェローへ頷く。
ちなみに彼は、AFWのスタッフ達にあえて愛称の『マーカス』で呼ばせている。何でもマーカスからすれば、俳優やスタッフなど彼の仕事に関わる者達は、彼にとっては『ファミリー』と同等なのだそうだ。
故に、フィルゲン・バッハの身辺で起きている、黒森の地下遺跡を巡ってのゴタゴタも他人事ではなく、彼なりにひっそりと心を砕いている。
「なら、コンセプトはそれとして‥‥アプローチについては、君達で決める方向でいいかね」
「ふむ‥‥『幻想寓話』の舞台裏なれば、ただありきたりな編集にするのは芸がない事。『幻想寓話』とするなら、『幻想寓話』なりの映像作品にしたいところかと。例えるなら、現代に働く妖精の如く」
「面白いかもしれないな。では、任せる事にしよう」
指を組み、人当たりの良い笑顔で告げるマーカス社長に、若き監督は胸を張った。
‥‥もっとも。自信をみせればみせるほど、レオンのソレは危なっかしくあるが。
●リプレイ本文
●OP
ブルーバックスクリーンが貼られた空間を、早回しにされた人が忙しく動き回り始めた。
定点カメラが捉える空間に、撮影カメラやラフ板、コンピュータ、モニタといった機械が運び込まれ。同時に鉄製の足場が組まれ、あるいは精巧に作られた樹木や切り株が、青い床の上にぽんと置かれていたりする。
やがてスタッフ達に迎えられ、中世風の衣装を身に纏った者達が青い空間へと足を踏み入れる。
一連の早回しの行動はここで途切れ、画面はハンドカメラで撮影された画像へ変わった。
「それじゃ、本番ー!」
「本番でーす!」
伝言ゲームの様に、『本番』という言葉と緊張がスタッフ間へ広がる。
「レディ‥‥アクション!」
監督の一声に、空気が変わった。
青い空間で『吟遊詩人』は静かに手を翻し、音もない中でリズムを取る。
画像が引くと、その様子を捉えるモニターがフレームインし。
そこには鮮やかな緑の森の中で、青い空間にいる姿と全く同じ姿で佇む『吟遊詩人』が映し出されていた。
映像はそちらへと寄れば、音楽−−イメージ・ソング『Fantasy allegory』が聞こえ始め。
そしてモニタの合成映像から、出来上がったフィルムの映像へとオーバーラップする。
『Fantasy Allegory〜Brownies
making of Fantasy Allegory』
森の中の映像とイメージソングに合わせ、番組のタイトルが浮かび上がった。
「さて、今日は少し風変わりな話をしようか。
幻想の空間を作り出す、勤勉かつ怠惰で愉快な者達の話を‥‥その前に」
工口本屋(fa4421)扮する『吟遊詩人』が手招きをすれば、梢から猫の尻尾を揺らした少女が姿を見せる。
「君達が働く場所を、案内をお願いできるかな。ブラウニー君?」
「うん、いいよ〜」
緑の衣に緑の三角帽子『ブラウニー』、宇藤原イリス(fa5642)が笑顔を作り、身軽にポンと木から飛び降りた。
「しっかりちゃんと、付いてきてね〜。あ、それから‥‥はい」
背中へ手を回すと、ブラウニーは背負っていた小さな竪琴を外して差し出す。
それを受け取った吟遊詩人が、確かめるように一つ二つと弦を弾き。
「これで、やっと本調子だな。では、いざ現在の幻想を作り出す工房へ」
そうして、吟遊詩人はブラウニーの少女を伴って歩き始めた。
●幻想の住人になる方法
「えっと。ここは、人間を幻想世界の住人に変えてくれる部屋だよ」
一つの扉を開けると、ブラウニーは遠慮なく中へ入っていく。
所狭しと並んだ棚には、精巧な作り物の耳や翼や尻尾がずらりと並べられていた。
それらの棚の列の向こうから、白兎の耳がひょいと覗く。
「いたいた〜!」
ブラウニーに声をかけられて振り返るのは、不思議の国のアリスに出てくる『時計兎』の格好をした、金田まゆら(fa3464)。
「ど〜も、蕗の葉の下の人です〜」
笑顔で挨拶をした時計兎の頭の上で揺れる耳を、ブラウニーがじーっと見つめ。
「わ、やっ、ダメーっ!」
ひょいとブラウニーが手を伸ばせば、時計兎は髪を押さえながら慌てて逃げる。
「‥‥みみ〜」
「付けたばっかりだから、ダメよっ」
見上げるブラウニーへ、時計兎が指を振った。
「そんなに兎の耳が好きなら、そこから選んでつけてもらえば?」
「あ、そうだね。でも、この耳と尻尾も気に入ってるの‥‥」
名残惜しそうなブラウニーは、伸びた尻尾や髪の間から覗く耳をつまむ様に撫でる。
二人の様子を見守っていた吟遊詩人は、軽く手を打って間に入った。
「それで、準備はいいかな?」
時計兎はポケットから懐中時計を取り出し、蓋を開いて時間を確認し。
「皆さん、お待ちかねよね」
手招きをして、身を翻す。
「こっちこっち」
時計兎が別の扉を開けば、明るい光が扉から溢れ出した。
●インタビュー・ウィズ‥‥
窓から差し込む初夏の陽光が、休憩スペースを包んでいる。
「いらっしゃい、『幻想寓話』にようこそ♪」
椅子に座ったアイリーン(fa1814)が、にっこり笑ってカメラを迎えた。
広々とした窓からは、ロンドン郊外の眺めが広がっている。
その光景を背景に、アイリーンを始めとする四人の男女がテーブルを囲んでいた。
「それぞれ、『幻想寓話』にはそれなりに出演しているわけだけど‥‥ここにいる四人全員が唯一揃って出たのは確か、特番の『リャナンシー』だけかな」
記憶を辿る深森風音(fa3736)に、月.(fa2225)が首を縦に振る。
「そうだな。ロケ地は、北アイルランドのエニスキレンだったか。あの時は、なかなか天候に恵まれず、冒頭の月のあるシーンを撮るのも随分と空と睨み合いをしたものだ」
「うんうん。会話の前に帽子が飛んで、慌ててスタッフと総出で探したりしてさ」
月と共にそのシーンに出演した嘩京・流(fa1791)が、記憶を思い起こして笑った。
その後ろを時計兎が兎耳を揺らして、日本茶と和菓子をトレーに乗せて持ってくる。
「ああ、ありがとう。今日のお茶会にと思って、日本からお茶と和菓子を取り寄せたよ」
トレーを受け取った風音が、時計兎と一緒に和菓子ののった皿をテーブルに置く。
「う〜ん、いい香り。やっぱり、『幻想寓話』にはお茶の時間がないとね」
「ああ。『幻想寓話』といえば、撮影の休憩時には恒例になっているティータイムだからな」
アイリーンに続いて月が茶托を受け取り、隣の流へとまわす。
「ホント、『幻想寓話』には欠かせない時間だよな。皆でお茶囲んで色んな話したり‥‥とにかくすげぇ楽しい」
「これが目当てで参加している者も、中にはいるのではないか?」
にんまりと出演者達の顔を見回す風音に、流と月は意味ありげな笑みを返し、アイリーンはこほんと一つ咳払いをする。
「御幣のないよう、説明するけど‥‥『幻想寓話』に登場する妖精なんかには、題材になる伝承があって、それが伝わっている地方やイメージに近い場所で、ドラマのロケを行っているわ。
私は出演する時、役に関わらずどんな伝承があるのか調べるの。どういうモノを演じるのか、役のイメージ作りを大事にしてるわ。だからロケ地でのティータイムで、現地のお菓子やお土産をチェックするのも役作りの為に、欠かせないのよ?」
指を振りつつ説明するアイリーンの隣で、静々と風音が湯飲みを傾ける。
「‥‥そこで何か言ってくれないと、私が食いしん坊みたいじゃない〜っ」
口を尖らせるアイリーンに、スタッフの間からも笑いがおきる。
「まぁ‥‥ティータイムは、毎回『紅茶中毒』らしいレオン監督が用意してくれる。アイリーンではないがこれが美味しくてな。茶請も日替りで違う物が出てくるのだから驚かされる。アップルクランブルが出たのは、何時だったか‥‥あれは良かった」
「あれもリャナンシーの時だよ、月」
流の指摘に、「そうだったか」と彼は苦笑する。
「うん。だって俺が過去に出演させてもらったのは、『ユニコーン』と『リャナンシー』だけど、『ユニコーン』の時は違ってた」
「でも、よく覚えてるわね。やっぱり、流さんも楽しみにしてるんじゃない」
和菓子を口にしながら得意げなアイリーンへ、流は「う〜ん」と唸った。
「楽しみというか‥‥よくご当地モンのお茶請けが色々出てくるなぁって、感心はしてる。それからある意味で安らぎの場、みたいな感じかな。ドラマの撮影って、やっぱ緊張するし」
「そうだな。監督曰く、肉体と精神のリフレッシュ‥‥だそうだ。成る程、その通りだと今は納得している」
同意しながら、月も茶を堪能する。
その時、風音が何かに気付いて眼を瞬かせ、それから席を立ってカメラのフレームから姿を消した。
すぐに戻ってきたその手には、一冊のスケッチブックが握られている。
「監督がお茶会のばっかりじゃなくて、ドラマの話もしてくれ‥‥だそうだよ」
彼女がカメラへ乱雑な綴りを披露すれば、またスタッフから笑い声がおきた。
●撮影裏話
「さっきも言ったけど、俺は『ユニコーン』と『リャナンシー』に出て‥‥ユニコーンでは語り部をやらせて貰ったな。あれは、中々新鮮だったよ」
一つ咳払いをしてから、改めて流が切り出す。
「思い入れが強いのは、やっぱリャナンシーかな。本業が演奏家だから、この役貰えて嬉しかった。女によって運命を真っ二つに分けちまうなんて、すげぇよ」
その時のリャナンシー役だったアイリーンへ、ちらと視線を向けてから、彼は話を続ける。
「実際、俺だったらどうすっかな、とか思いながら演じてた。そういう意味で、俺の演じたセルジュは鏡だったのかも。ルークを演じた月の迫真の演技も、見所だったと思う。リャナンシー役の二人もな。あまりに迫真過ぎるから、俺がセリフ飛んだりとか、NGもやらかしたけどな‥‥」
それさえも、どこか感慨深げに流は笑った。
「シルキーは初出演だったから緊張したけど、ロケ地のグラスミアを歩きながらイメージを練ったのを覚えてるわ」
『シルキー』と『リャナンシー』、そして『ラミナの子』の三本に出演したアイリーンが、指折り数えながら思い出を紡ぐ。
「リャナンシーは印象深いわね、もう一人のリャナンシー役が、私の友人で‥‥一流の女優、だから彼女の演じるリャナンシーの存在感に負けないように精一杯演技したわ。
ラミナの子は、あの毛むくじゃらのメイクが辛かったかな。自分の顔じゃないみたいだし、シリアスな場面でクシャミしたり」
NGシーンを思い出す彼女に合わせて、ちょうどその『舞台裏』の映像がモニターに流れ、アイリーンは慌てて口元に手を当て、笑い出すのを堪えた。
「もう、やめてよ。また、メイクさんのお世話になるじゃない」
「NGといえば、アレだね。角」
笑顔でトークを引き継ぐ風音の手には、シークレット一角獣角。
ワンタッチで膨らんだソレを、彼女は額に当ててみせる。
「こうやって、角をつけるんだけど‥‥撮影中に、取れちゃった事があってね。後は、角を付けてる事を忘れて、うっかり戸口や壁にぶつけちゃってNG‥‥とか。いつやっちゃうか、撮影中のスタッフはいつもヒヤヒヤしてるんじゃないかな」
意味ありげに視線を投げて、風音は笑ってみせた。
「『幻想寓話』には、幾つか出演の機会があったが‥‥印象深いのは、初めて出演させて貰った『ローレライ』と、対照的な男女二組を描いた『リャナンシー』だな」
組んだ足の上で指を組んで、月も記憶を辿る。
「『ローレライ』では、チェロの原型ブラッチョを奏でられた事に感動した。苦労したのは矢張り船の沈没シーンか。揺れる船上での演奏は流石に難しかった‥‥すまん、本職が演奏家なもので、つい感想が音楽に向きがちだな」
苦笑しながら断りを入れて、彼は話を続けた。
「『リャナンシー』では美しい妖精に惑わされる役を演らせて貰った。絵的には黒髪と銀髪の男、黒髪と金髪の妖精‥‥という対照的な者同士だったので、映えたのではないだろうか。命を磨耗して死に逝く者の顔を、化粧でああも見事に作り上げるとは‥‥と、メイク担当者の腕に驚かされた作品だった。ピアノ演奏中に椅子から落ちるシーンは、どうしても手を庇ってしまうので、不自然にならぬよう努めたな」
「というか、月は何気に死に役、多くないか?」
不意に横合いから、流が口を挟む。
「‥‥そうか? まぁ、普通は死ぬ機会など、なかなかないからな」
どこか哲学めいた月の返答に、やれやれと流は笑って首を横に振った。
●不意打ち企画
個々の感想の後、テーブルには吟遊詩人とブラウニーが加わっていた。現代的な衣装と中世めいた衣装の取り合わせは、些か不思議な取り合わせである。
「‥‥で、いい機会だから監督と脚本家の二人について聞いても構わないか? なんか向こうで騒いでるのは、気にしない方針で」
不意打ち的に吟遊詩人が話を振り、騒がしい裏方を無視して「ああ」と四人は顔を見合わせた。
「レオンと、フィルゲンだな。良いコンビだと思う。そして、仕事に対するあの熱意は見事としか言えない。だからこそ、これらの素晴らしい作品があるのだろうな」
月の言葉に、すかさず流がこくこくと頭を縦に振る。
「うん、随分と世話になってるよな。特にフィルゲンには頭が上がらない。たまに、「大丈夫かな、コイツ‥‥」とか思ったりする時もあるけど」
笑う流の感想に同意するかのように、あちこちから何度目かの笑い声がおきた。
それを手で抑えてから、「でも」と彼は話を続ける。
「彼から学んだものは多かったよ。感謝してる。レオン監督とフィルゲンは、いつでもワンセットって感じだよな。これからもこのスタイルで、作品作っていって欲しい」
笑って話を聞いていた一人のアイリーンが、「ええと」と話を引き継ぐ。
「良いコンビだと思うわ、さしづめブラウニー兄弟かしら。これから、も2人の目指すモノをたくさん作って欲しいかな。女優として、視聴者のひとりとして、応援してるから」
「え〜と? 最後に‥‥せっかく演奏家が二人もいるんだから、アイリーン君ナマで歌わないか? って、監督が」
「えぇっ。私、準備してないわよ!?」
監督の注文を代弁する風音に、アイリーンは驚いて声をあげ。
「それはいいアイデアだな」
「うんうん」
戸惑う彼女をよそに月がチェロを、流がバイオリンの準備を始め、吟遊詩人も小型ハープを取り出して。
問答無用の即席ライブに、苦笑しながらアイリーンは椅子から立ち上がった。
「 空に海に漂うBlue allegory
青く澄んだ欠片たち
山に森に佇むGleen allegory
緑に芽吹く欠片たち
たくさんの欠片とキミが居れば
きっと明日も強く歩いていけるよ 」