Limelight:吃驚箱をアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
2人
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期間 |
05/17〜05/19
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●本文
●毎度の企み
「なんで、お前は祝ってやろうかって時に、海外逃亡するかね?」
嫌味っぽく顔をしかめる友人に、音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は笑いながら氷の入ったグラスを揺らした。
「気のせいだよ。偶然だから」
「本当かよ。都合よく、仕事入れやがって」
やれやれと頭を振りつつ『Limelight』のオーナー佐伯 炎(さえき・えん)がボトルを手に取り、自分の前の空のグラスへ傾ける。次いで、ビンの口を友人のグラスへと向けるが、川沢はそれを手で制した。
「そりゃあ、もう41だからね。去年の40の祝いだけで、懲りてないのか‥‥」
「俺がどうこうってより、祝いたいヤツもいるんじゃねぇかなって、な」
「むしろ、人をダシにして騒ぎたい、と」
カラカラと氷を鳴らす川沢に、佐伯はにんまりと笑う。
「そうだな。俺がお前に勝てそうな事といえば、酒の強さと歳くらいだ」
「他にもあるだろう。素行の悪さとか、煙草の本数とか」
「お前、そりゃあ自慢にならねぇだろ。まぁ、楽しみにしといてくれ。いろいろと、画策してやっから。声をかければ、喜んでノッてくるのもいるだろうしな」
「‥‥闇夜の一人歩きに注意しろって、言われている気がしてきたよ」
げんなりとぼやく川沢に、佐伯は笑いながらグラスの縁を指で弾いた。
●リプレイ本文
●突然、祝い隊!?
エレベータを降り、静かな廊下を十数m歩いて、扉の前で足を止める。
上着のポケットからキーホルダーを取り出し、複数ぶら下がった鍵から一つを迷わず選んで鍵穴へ合わせ、捻ると鍵が外れる音がした。
もう一つの鍵も外し、ドアノブに手をかけて扉を開ければ、どこか違和感を感じ。
玄関の灯りをつけようと手を伸ばすより先に、目映い光が目に飛び込む。
「「「川沢さん、誕生日おめでとーっ!」」」
一斉に複数の声がして、クラッカーが次々と弾けた。
「それから、おかえりなさいですわ」
「えっと、鞄持つ?」
にっこりと笑顔で出迎えた星野 宇海(fa0379)の隣で、遠慮がちに慧(fa4790)が尋ねる。
クラッカーのリボンが引っかかったままの相手の反応に、灯りのスイッチへ手をかけたLUCIFEL(fa0475)がくっくと笑い、逆に小首を傾げた月見里 神楽(fa2122)は少し心配そうに部屋の主を見上げた。
「あの、神楽達みんなでお祝いに来て、でも川沢さんがまだ帰ってなかったから、佐伯さんが鍵を開けてくれたの」
「なるほど‥‥とりあえず、近いうちに鍵を変えないといけないようだね」
やっと状況を把握した部屋主の川沢一二三は、四人の向こうにいる家宅侵入幇助をした佐伯 炎をじろりと見やる。無論、笑顔のままで。
「そんな、怖い顔すんなって。人生にはこう、アクシデントもないとな。ま、玄関で立ち話もなんだし」
笑って誤魔化した佐伯が中に入るよう身振りで示し、髪に引っかかった紙テープを引っ張りながら嘆息すると、川沢は靴を脱いだ。
「あ、川沢サン、おかえり」
「お邪魔しておりますわ」
ソファで寛ぐラシア・エルミナール(fa1376)が軽く片手を上げ、アップライトピアノの前に座ったマリーカ・フォルケン(fa2457)が会釈をする。
「だから、ここは手伝わなくていいからっ」
「別に皿の一つや二つ出したところで、味に変わりはないだろう」
「三人だと狭いんだよ。そうでなくても、京一郎はデカいから」
キッチンでは篠田裕貴(fa0441)が鳥羽京一郎(fa0443)へ文句を言いつつ、慣れた手つきで『準備』を進めていた。
「何故か‥‥物凄く、帰ってきた場所を間違えた気がするんだが」
額に手を当てる川沢へ、佐伯が肩を竦める。
「最初は俺んトコに押しかける気だったらしいが、何故かお前んトコに来る事になってな」
「佐伯さんの家が二次会になって‥‥三次会はラシアん家で、四次会は慧ん家で、五次会は‥‥」
「あんた、泊まり歩く気?」
不穏な計画を指折り数えるLUCIFELに、ラシアが突っ込んでおく。
「俺としては、泊まり歩くならレディの家がいいんだがな」
ふっとLUCIFELが不敵な笑みで切り返せば、「あ〜、はいはい」と彼女はヒラヒラ手を振って適当にあしらった。
「ともあれ、今年も大人しく祝われる事だな。去年も言ったが‥‥ふけましておめでとう、だ」
キッチンからワイングラスを持ってきた京一郎が、空のそれを川沢へと掲げ。
今年も主賓は、微妙な苦笑を返した。
●お祝い事はいつも賑々しく
京一郎が持ってきたヴァジュルヌーヴォーの栓を、手馴れた様子で佐伯が抜く。
未成年やアルコールに弱い者は、オレンジジュースや烏龍茶。
各自にグラスが行き渡ったところで、淡い藤色のロングワンピースにスカーフをあしらった宇海が、ラシアと共に現れた。
「ふふ‥‥如何かしら?」
宇海に聞かれて、ラシアは困惑顔で身ごろを軽く手で伸ばす。
「フランス人の血が混ざってるから、和装は似合わないと思うんだけど‥‥」
黒地のグラデーションに薄桃色の花扇柄の訪問着を纏った彼女は、髪も梳って押さえ、化粧も落ち着いた感じに仕上げている。
「ラシアさん、綺麗だよ?」
無邪気な微笑みで神楽が褒め、LUCIFELは短く口笛を吹く。
「きっちり着るのもいいけど、ラフな感じで着崩すのも似合うと思うけどね。ラシアなら」
感心した風に、裕貴が歩き難そうなラシアをじーっと見。
「と、とりあえず、乾杯するんだろ?」
注目された本人は、居心地悪そうにいそいそと席へ座る。
「それでは、皆さんお待ちかねのメインイベントです」
にっこりと笑顔で、聖 海音が京一郎をキッチンから送り出した。
彼が運ぶのは、誕生祝のケーキである。ただし女性の細腕で運ぶには、危険なほどの直径の。
「凄い‥‥ね」
デジカメのモニタ越しにそれを目にした慧が、思わず顔を上げて実物を確認した。
「剣山ケーキなのね。ぜひ一度、直接見たかったの!」
両手を打って宇海が喜び、ラシアは呆れ顔でソレを眺めている。
高さより平面の面積を重視したケーキは、白い生クリームでシンプルに彩られ、例によって剣山の如くケーキ用の蝋燭が突き立っていた。
その数、41+21+19=81本。
どうやって刺したのか、どうやって刺さっているのかは、聞かぬが花である。
「‥‥倍ぐらいないかい?」
眩暈を覚えながら尋ねる川沢に、海音が「ええ」と微笑を崩さず答えた。
「川沢様の分に加えて、今月誕生日の慧様とラシア様の分も奮発しましたから。裕貴様と、頑張りましたわ」
「別名、『偽兄妹の偽兄妹による愛の共同作業』だよね」
「あんた達、頑張り過ぎ‥‥」
裕貴が解説を加え、ラシアが頭を抱え、慧はシャッターボタンを押す事すら忘れ、LUCIFELは腹を抱えて笑い転げている。
「こりゃあ‥‥火をつけたら急いで消さないと、火災報知器が鳴るな」
別な意味で状況を的確に判断した佐伯が、窓を開け放った。
「火を、点けるんですの?」
見てはいけないモノを見てしまったという表情で唖然としていたマリーカが、思わず聞けば。
「火を点ける為の、蝋燭だからな」
当然と言わんばかりに、京一郎が返す。
「神楽、スイッチ役やるね!」
ぴょんと神楽が立ち上がり、壁の電灯スイッチへと駆け寄った。
「これ、三人で消すの?」
「一人では、まず無理だからね。消す前に、火事になるよ」
純粋な慧の問いに、川沢が溜め息混じりで答える。
「仕方ないね。半分は、川沢さんの蝋燭なのに」
胸下を抑える帯に手を当てて、ラシアは深呼吸をする。
準備万端になったところで、火の扱いに慣れた佐伯が81本の蝋燭に手早く火を点し、神楽がライトを消した。
「じゃあ、せーの‥‥」
三人は呼吸を合わせ、三方から炎の群れへと息を吹く。
ボーカル三人の排気量は、それなりで。
一気に吹き消すのは無理だったが、幸いにも火災報知器が鳴り出す前に炎は消え、代わりに拍手が響いた。
「誕生日おめでとう。三人と、ついでに佐伯さんの一年が、良いものになりますように。じゃあ蝋燭が冷えるまでの間に、川沢さんへプレゼントを渡してて」
裕貴が場を取り仕切り、神楽はライトのスイッチを入れた。
「では、私からは『Limelight』のお父様へ黄薔薇の花束と、こちらを」
宇海が笑顔と共に差し出したのは、花束と小さな銀のタイピン。
続いて、神楽が小さな花束を差し出した。
「プレゼントは、誕生花です。川沢さんがおじぎ草で、佐伯さんがドラセナの花束だよ。花言葉は『繊細な感じ』と、『幸福』で‥‥佐伯さんの方が御利益あるかも?」
「川沢さんが繊細ってのは、何となく合ってる気がしなくもないな」
感心気味の慧にも、神楽は花束を渡す。
「お二人の分も、あるんだよ。慧さんには、『威厳』のしゃくなげ。ラシアさんはシランで、『互いに忘れないように』。
それから、『Limelight』の誕生日は開店日だよね? ツルウメモドキの花言葉は『大器晩成』。これから未来に向けて、いっぱい音楽家を育てるから、ぴったりだと思ってたの♪」
「ありがとう、神楽さん」
「シラン‥‥ね。ありがとう」
少女らしい趣向のプレゼントに、それぞれ礼を口にする。
次ににやにやと笑いながら、LUCIFELは透明なフィルムに包んだ薄緑のキャンドルを取り出した。
「俺からは、『Holy Night』な。いや、いい歳してんのに、最近浮いた話が無いんじゃね? と思ってさ」
「何気に、酷な仕打ちだな」
脱力している川沢に代わり、笑いながら佐伯が感想を告げた。
「わたくしも、三十朗さんからお祝いを預かって参りましたわ」
弥栄三十朗より言付かったマリーカは、バジリスクをモチーフにした銀のタイピンとカードを川沢へ渡す。
「いつも、スーツを着られているようですので」
「丁度いいか。俺からは、これを。先日、愉快な柄のタイを見つけたからな」
続いて、京一郎がアメコミ風やファンシーな動物柄といった、どう考えてもフォーマルではないネクタイを数本セットで進呈した。
「面白くて良いだろう」
にやと笑う京一郎に、苦笑混じりで川沢が礼を言い。
「あたしからのは‥‥マトモだから、安心して。コーヒー豆の詰め合わせ。一応、佐伯サンに好みの銘柄を聞いといたからね」
ラシアが最後に、そっと箱をテーブルに置いた。
「ケーキの準備、できたよー!」
蝋燭を撤去して体裁を整え、フルーツやマジパンで作った白薔薇で飾られたケーキを切り分けて、裕貴が持ってくる。誕生日を迎えた者のケーキには、それぞれ狼と蝙蝠、小鳥の。そしてついでに、獅子のシュガークラフトが乗っかっていた。
きらきらと目を輝かせてケーキを見つめていた神楽が、何かを思い出して慌てて立ち上がる。
「せっかくだからお茶、入れますね。今日は、中国の工芸茶を持ってきたんだよ。お湯に入れると中で花が開いて、綺麗で可愛いの!」
鞄から箱を取り出すと、少女はぱたぱたとキッチンへ向かった。
ひとしきり、飲んで食べて騒げば興ものり。
楽器を持ち寄った有志達が集まって、祝いの歌を演奏し、あるいは声を揃えて唄う。
『 Congratulations!
皐月の風薫る空 仲間達が集う場所
輝く笑顔が弾けて融ける
さぁ始めよう!
君の生まれた日に乾杯! 』
そうして賑やかに、『一次会』の夜は更けていった。
●お祝い二次会
「‥‥というかな。既に、誕生会の二次会をやろうって時点で、間違ってると思わんか?」
呆れつつも、佐伯は『家』に客を通した。
古い木造二階建ての元『大衆食堂』は、今ではがらんどうで車庫になっている。
いろんな意味で川沢の部屋とは正反対の佇まいに、足を踏み入れた者達は物珍しげに中を眺めた。
「下はちっと狭いし、二階でな」
上を指差す主に従い、一行は軋む木の階段を登って二階へと上がった。
「鍋、持つぞ」
熱い溶けたチーズの鍋を持つラシアへ、京一郎が手を貸す。
二日目は「簡単に皆がつまめる物」として、ラシアがチーズフォンデュを作った。
「こういう事やってると、なんだか皆で鍋パーティやりたいなって思うね」
「これから、暑くなりますけどね」
鍋の場所を作りながら楽しげに裕貴が呟けば、宇海が笑いながら皿を並べる。
「そういえば川沢さんって、食べ物だとこれが好きって、あんまり聞かないよね‥‥あ、僕もシャンパン持ってきたけど、開ける?」
ワインを持ってきたラシアに慧が尋ねるが、「赤うさと飲めば?」とカラカラ笑う。
「そうそう、あんたにも誕生日プレゼントね。3月頭に行った旅行の、写真が何枚か‥‥秘蔵のショットのがあるから。後であげるよ」
「え、ホント?」
耳打ちされて、慧の目が輝いた。
全員が席に揃ったところで、誕生日の近い者達を主役として誕生会の二次会が始まった。
「佐伯さんには、こちらを。ライムのお母様ですものね」
笑顔で宇海が渡したのは、赤いカーネーションの花束。
「ラシアさんにシンプルな銀のプレートブレス、慧さんに革の手帳、そして神楽ちゃんは白山羊のぬいぐるみを用意しましたわ」
「神楽も、いいの?」
思わぬアクシデントに目を丸くした神楽は、嬉しそうにプレゼントを受け取る。
「ラシアへは勿論、俺の愛を〜♪ どっちがいい?」
大小二つの包みを手にして、LUCIFELがラシアへ尋ねる。
「愛は別にいいから、小さい方で」
「じゃあ、どうぞ」
つっけんどんな返事も物ともせず、いい笑顔で彼は小さい包みを手渡し。
「‥‥ある意味で、いいかもね。これ」
包みから出てきた『ハリセン「仁八」』を、早速ラシアがブンブン素振りした。
「慧と裕貴は、面倒だからくじ引きな。ドッチかがアタリで、ドッチかがハズレだから」
LUCIFELはまた別の二つの包みを、男二人の前に置く。
「俺も?」
「‥‥何だろう?」
首を傾げる二人は、紙を適当によったコヨリで作った簡易のクジを引き。
「え〜っと、裕貴がこっちで、慧はそっちだな」
大き目の包みを押しやられた裕貴が紙を破けば、高級カメラ『ERNSTマイスター』が現われ。一方、慧の方は長さ15cmほどの機械『ゴーストファインダー』が包まれていた。
「これ‥‥ドッチがアタリ?」
素で尋ねる慧に、「さぁな」と京一郎が肩を竦める。
「じゃあ、俺と川沢からもプレゼントを渡すかね。とりあえず五月生まれの二人と、来月誕生日の裕貴に‥‥つっても、慧のはちとデカイから、後で家に送ってやる」
小さな箱を持ってきた佐伯は、ラシアと裕貴へそれぞれ手渡した。
「それじゃあ、お祝いの二次会を始めようか」
贈り物が行き渡ったところで、川沢が切り出して。
畳の上で机を囲み、和やかに二度目の『宴』が始まった。