EtR:その背を護る者達ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 5Lv以上
難度 やや難
報酬 26.1万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 05/19〜05/22

●本文

●状況確認
 四月に行われた、第四階層の探索。
 主に四足の獣−−哺乳類に似たフォルムを持つNWが跋扈する中、調査対象となっていた『黒い卵』は調査中に孵化を開始した。
 その損傷した殻から現れたのは、数十cmの小さなNW。
 直径4mはある球体の内部から溢れ出したその数は、数百にものぼるとみられる。
 調査班と護衛班は即座に第三階層へと撤退し、第四階層へと繋がる『扉』を封鎖。
 ひとまず探索当初のような『大流出』の危険は抑えられたが、NWによって監視所が襲撃され、監視業務に当たっていた獣人達がほぼ全滅するなど、状況は余談を許さず。
 だが、ここで調査を断念するという事は、これまでの努力を水泡に帰すことを意味し、同時に遺跡に奥深くに潜む何か−−それが危険なものか、獣人にとっては光明になるかは謎だが−−を見過ごす事となる。
 危険をおして、再び第四階層へ。
 その為にも、第三階層の『扉』を開くために必要な八つのオーパーツが探索者達によって再度集められ、監視所へと預けられた。
 後は、群れ成す蟲の領域を崩すために打ち込む『楔』を残すのみとなったが−−。

●模索〜できること
「掃討にあたる人達が、前線での戦闘に専念できるようにと編成されたのが、こちらの後方支援のチームとなります」
 WEAの係員が、顔を揃えた者達へ緊張気味に要件を告げる。
 第四階層にひしめいているであろう、NWの群れ。それを掃討する為に獣人達が集められ。その彼らをサポートする為に、ここにいる者達が集められた。
 掃討戦が長期になれば、どれだけ屈強な者にも体力や気力、使える能力の限界が来る。
 負傷や僅かな休息、それに荷物の運搬−−今回は、WEAから銃弾や体力を回復する薬品の支給を受けている−−といったサポートが、ここにいる者達に与えられた役割だった。
「体力面をサポートするだけでなく、後方でこちらのチームが退路を確保する事によって、戦闘にあたる人達が後ろを気にする事なく動けるよう、言ってしまえば精神面のフォローも行います。それから、感染の拡大を抑える意味もありますが‥‥人によっては『破雷光撃』のような電撃系の能力を使う方もいらっしゃいます。金属物や精密機器の持込には、十分に注意して下さい。その他、揃った顔触れに合わせて臨機応変に動く事となりますが‥‥」
 よろしくお願いしますと、係員は深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 fa0791 美角やよい(20歳・♀・牛)
 fa2002 森里時雨(18歳・♂・狼)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)
 fa3014 ジョニー・マッスルマン(26歳・♂・一角獣)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa3622 DarkUnicorn(16歳・♀・一角獣)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4421 工口本屋(30歳・♂・パンダ)
 fa5689 幹谷 奈津美(23歳・♀・竜)

●リプレイ本文

●最悪の事態にも最善を尽くす為
 その場には、どこか緊迫した空気が漂っていた。
 集まった数十人は、自分の装備品のチェックに他班との連絡手段の確認、持込を頼む物品の受け渡しなど、準備に余念がない。
 そして同じ班のメンバー間でも、『作戦』の最終確認が行われていた。

「なんだかもう、ちょっとした『遠足』だよね」
 堆積した柔らかい腐葉土に担いできた荷物を降ろし、幹谷 奈津美(fa5689)が額に滲んだ汗を拭う。
「ここまで来るだけでも、一苦労‥‥ですからね」
 過去にここまで足を運んだ事のある相沢 セナ(fa2478)は、ピッタリと閉じた両開きの扉を見上げた。
 冷たい石の表面には、正八角形の角の頂点に位置する八つの窪みと、それを繋ぐ細い溝が掘られている。開く為に必要な八つの『鍵』は、既に扉を開ける役目も担った小型NWに対処する班が持っていた。
「いよいよ、リベンジってトコか‥‥攻勢に出る連中も気合入ってるし、こっちも負けないよう荷物持ちを頑張らないとな〜」
 言葉と裏腹に、早切 氷(fa3126)が気の抜けそうな大欠伸をする。
「ふむ? ま、眠くなったら遠慮なく言え。ゆっくり寝かせてやる」
 指や首をパキパキと鳴らしつつ、巨漢の強面が口の端を吊り上げてニッと笑い。
「あ〜‥‥いや、遠慮しとく。永遠に寝かされそうだし」
 強張った表情で、氷はモヒカン(fa2944)の申し出を謹んで辞退した。
「で、せんせー。『ヒーリングポーション』や『リカバリーメディシン』は、オヤツに入りますかー?」
 レジャーシートやらオシボリやら褌やらを用意してきた森里時雨(fa2002)が、『遠足』という言葉にお約束的に反応する。
 サラリと流されないよう、会話が途切れる瞬間を狙っていたのは秘密、超秘密。
「弁当箱に入れば、オヤツではないな」
「はいらねーYO! てか、普通は入れねーYO!」
 腕を組んで重々しく答えるマサイアス・アドゥーベ(fa3957)に、ジョニー・マッスルマン(fa3014)がツッコミを入れた。
 一瞬、ラッパーな台詞に聞こえたのは気のせい、超気のせい。
「暢気なモンじゃな」
 周囲に漂う緊張した空気を粉砕した会話に呆れつつ、DarkUnicorn(fa3622)は自分の荷物を纏める。
 サポートのメンバーの中には、彼女の『センサー』に引っかかる巨乳はおろか、豊乳の気配すらない。唯一、中型のNWへ対抗する班に目に留まるモノはあったが、対小型NW班のメンバーでなかった事だけでも幸いとしておく貧乳娘。
「色々と、気が散ってはいかんからのっ」
「‥‥何か、気が散る事でもあるの?」
 呟きを小耳に挟んだ美角やよい(fa0791)が、不思議そうに小首を傾げる。
「き、気の散る事など、特にはないのじゃっ。先陣を切る班は危険じゃろうから、酷い怪我を負わねばよいとか、それとも怪我をした方がわしも介抱のし甲斐があるカモとか、そんな不謹慎な事は考えておらんのじゃーっ」
「考えてた訳ね」
 あっさりと、やよいが認知しておく。若いっていいわねぇなどと、考えつつ。
「あ〜。とりあえず、真面目にサポートの分担を纏めておきマス」
 場にシリアスな空気を取り戻すべく、時雨が緊張気味に声を上げた−−約一部に、怖いおじさん達がいる為ではない。きっと。
「怪我人搬送含む、物資デリバリが2組、計4名。
 救護回復にあたるのが2組、計2名。
 場所の保持兼、ヒールミストコートで簡易回復担当が2組、計2名。
 場所の保持兼、荷物と退路の管理をするのが2組、計2名。
 以上、トータル10人で問題ナシ?」
「はーい‥‥俺もいます。一応‥‥」
 すっかり存在を忘れられていた高原 瞬が、申し訳なさげに手を挙げた。
「こう‥‥もっとキャラクターが濃くないと、生き残っていけないかなぁ」
「いや。そういう問題では、ないかと思うが‥‥」
 フォローを入れる工口本屋(fa4421)は、丸くなった竜の背中をぽむぽむとパンダの手で叩いて、慰めた。

●闇の中へ
 トランシーバーの受信状態を確認し、全てが用意万端となれば、一行はいよいよ出発となった。
 先に進む小型NW班の囮役二人へ、せめてもの助力にと本屋が『幸運付与』をかけ。
 探知の能力を持つ者が扉の向こうの『安全』が確認してから、八つの『鍵』が扉へはめ込まれる。
 重い地響きと共に開く扉を、誰もが緊張の面持ちで見つめ。
 口を開けた暗い階段状の通路に、特に初めて『先』を目にする者達が、息を呑んだ。
 まずは、扉を開けた小型NW班が中に入り、次に中型のNWを相手にする班が続く。
 その後ろからサポート班のメンバーもできるだけ気配を殺し、静かに階段へ足をかけた。
「さて。今度は一匹たりとも、こっから出したくねえなあ」
 ぼやきながらも、氷はライトが通路の奥を直接照らさぬよう、注意を払う。
 暗い通路を進む時間は、やけに長く感じられたが、やがて前を歩くメンバーが足を止めた。
 女神像パラディオンを抱えた氷が、小型NW班の先頭近くまで進み。
 冷たい像に手をかけてしばし念じてから、手を放す。
 対NWの見えない結界が張られた頃、小型NW班でも身軽で足の速い二人が広い空間へと飛び出た。
 苔生した石の上で蠢く小さな蟲達は、飛び込んだ『獲物』へと群がり。
 ある程度進んだ囮の二人は、身を翻して駆け戻ってくる。
 ただ全てのNWが二人を追った訳ではなく、通路の入り口に近い蟲は待機する者達へと向かってきた。
 それなりに狭い通路へ入り込む蟲を叩き潰し、あるいは踏み潰し。
 囮との距離が十分となったところで、小型NW班が『攻撃』を始めた。

 オーパーツを通した『歌』と、無機質な銃の発砲音が鼓膜を振るわせる。
 動く絨毯の様に波打つ小さな蟲の群れを押し返し、攻勢に出る者達は第四階層へ飛び出した。
 逆に、這い登る蟲を払う暇もなく戻った囮二人に、DarkUnicornが駆け寄るが。
「これはまた、派手に好かれたものじゃのう‥‥」
「くぉらっ。感心してる暇があったら、払ってやれ!」
 服や髪のあちこちにしがみつく蟲に、モヒカンがドスを抜き。見かけによらぬ器用さで引っぺがしては、無造作に時雨や奈津美の方へ放り投げる。
「ちょっと、投げないでってばっ」
 文句を言いながら、スパイクハンマーの鉄球で奈津美は身を捩って逃げようとする蟲を叩き潰した。
「ぼーっとしてないで、時雨も備えるのだぞ!」
「あ、ああ。すみませんっ」
 マサイアスに叱責されて、蟲を蹴散らして進む者達の背を見送っていた時雨が我に返る。
 二人に集った蟲を取り去る作業には、マサイアスも手を貸して。
 その間に、氷は更にパラディオンを通路より進み出た箇所へ移動させて、結界を再度展開した。
「傷の程度は大したことないが、箇所が多いNA。『神光霊癒』か『治癒命光』、いっとくKA?」
 耳慣れないイントネーションでジョニーが仲間へ尋ねるが、セナは首を振った。
「それよりも先に、『ヒールミストコート』を試してみます。能力は、出来るだけ温存した方がいいと思いますので」
 オーボエを取り出すと、彼は器用にリードを咥えた。
 間もなく、柔らかな音色が形になるかの如く、薄い霧が漂い始め。
 半透明ほどの濃さとなったそれは、小さな傷を幾つも負った者達を包み込んだ。

「踏ん張り過ぎて、あんまり無茶するな〜」
「気分が悪くなったり喉とか渇いたら、一度下がってね!」
「換えのマガジン、コッチに置くよ」
 囮二人を手当てする間、氷とやよい、そして瞬が蟲を迎え撃つメンバー達の間を回る。
 小型の蟲相手では、小さな怪我の積み重ねが多く。
 中型を相手にする者達も手練が多い為か、致命的な負傷を負う者はまだない。
 だが首を巡らせれば、彼らがいる場所以外はどこにでも奇怪な蟲の群れが目に入り。
「持久戦になるね‥‥これ」
 嫌悪感を抑えつつ、やよいは不安げに仲間の背中を見守った。

●援護
 時間と共に確実に残骸を増やしているものの、数百匹にのぼる蟲の襲撃は間断なく続き。
 攻撃にあたっていたメンバーも、余裕があるうちに交代で僅かな休息を取り始めた。
 各々が持つ武器の威力と、キャリア。そして情報を交わし、状況にあわせて臨機応変に対策を取って、『前線』は何とか下がる事無く維持されている。
 そして、唯一の退路である通路の周辺も、時雨と奈津美が蟲の侵入を防ぎ。
 軽傷負傷者が少なく手があいている時には、セナと本屋も二人に手を貸していた。
「わしは、おにぎりを持ってきておるからの。休憩している者達へ、遠慮なく渡すがよい」
 回復役であるDarkUnicornは、負傷以外に体力的な面も考慮して用意した食事をデリバリのメンバーに渡し。それを見て、休憩中のジョニーもドギツイ色の包装の菓子を取り出した。
「ミーは、チョコバーにキャンディバーにクッキーも持ってきたNE! 疲れた時は糖分、即ち甘い物YO! コレだけ動けば、ウェイトも気にならないSA! HAHAHAHAHA−−−!」
「えぇい、お前は少し大人しく喋れんのか。むしろ戦場へ行け、ジョニーっ。さすれば、少しは静かになるじゃろう」
「NO〜〜〜〜〜!!」
 軽いやり取りも、陰鬱な暗い空間ではちょっとした息抜きのようなモノで。
「このまま、押し切れそうであるな。弾薬の減るスピードと残骸の数からして、順当にいけば何事もなく掃討が完了しそうだ」
 戦況と大量に用意した弾薬の残りを客観的に見ながら、マサイアスが比較的明るい見通しを立てる。
「油断はならんがな。撤退戦だけは、やりたくないものだ」
 答えるモヒカンは気を抜かず、必要とあらば空のマガジンに弾丸を込める作業も手伝っていた。
 サポート班のメンバーは、万が一にも撤退する事になった時、生命線となる役目も担う。もし再度の撤退となり第三階層の扉を閉ざせば、次に道を切り開く機会も何時になるか判らない。
「確かに。この奥へと進む為にも、ここは何としても制圧せねばな」
 低く呟くマサイアスは、交代で休憩に来た仲間を労う為に、紅茶入りの水筒を持って行った。

 −−疲労し、時間はかかるものの、順当にいけば制圧できる。
 マサイアスが立てた見通しは、前線に立つ者達も感じ取っていた。
 このまま、現状の均衡を乱す事が起きなければ‥‥。

「上っ!」
 誰が気付いて警告を発したのかは、判らない。
 ただ、手のあいていた者達は、光の届かぬ天井を見上げて。
 そこから、黒い塊が落ちてくるのを、見た。
「天井伝いにきてるぞ!」
 僅かな灯りを頼りに氷がソレを確認し、同時にあちこちから仲間の悲鳴や罵声が上がった。
 ぼとぼとと落ちてきた小さな蟲達の塊は、苔生した石の間へ潜り込み、あるいは近くの『獲物』へと喰い付きにかかる。
「ろくに頭もないくせに、知恵が回るものじゃなっ」
 毒づいたDarkUnicornが塊へ『淡光神弾』を投げ、ジョニーも彼女に続く。
 出来るだけ仲間に当たらぬよう注意を払いつつ、奈津美が『波光神息』を放った。
 あるいは、時雨のように拳で叩き潰し。
 体躯のあるモヒカンやマサイアスは、重量を活かして踏み潰す。
「その辺りにも、固まってます!」
「判ったよ!」
 這い回る感覚を堪えながら、ライトを手にしたセナは『影査結界』で石の間に隠れた蟲を探し出し、やよいが排除に走った。
 不意の襲撃に誰もが混乱し、オーパーツを介した『歌』も途切れ、俄かに勢いを取り戻した蟲によって『前線』が崩れかけるが。
 それも一時的なもので、それぞれの班が速やかに建て直しが図る。
『前線』を維持する者がそれに集中できるよう、サポート班が中心になって落ちてきた蟲達の排除にあたり。
 再び、獣人達は蟲の群れの勢いを押し戻した。

 傷を重ね、使える能力も使い果たし、持ち込んだ弾薬も底を尽きかけた頃。
 大幅に数を減らしながらも執拗に攻撃を続けた蟲達は、やっと退く様子を見せ始めた。
「この程度の傷なら、問題ないNE!」
 疲れた仲間の間を歩いて、ジョニーやDarkUnicornが負傷の程度を見て回り。
 同時に暖かい笛の音と優しい霧が、軽い傷を癒していく。
「終わり‥‥かねぇ」
 欠伸をする氷に、闇の奥を見るマサイアスが重々しく頷いた。
「こちらも疲れている以上、必要以上の追撃は愚策であるな」
「それはそれとして、氷君。気を許して寝るなよ? まだ、帰り道があるんだから」
 眠そうな様子を見咎めた本屋が、ヒールミストコートの演奏を止めて、釘を刺しておく。
「寝たら、引き摺っていくだけだよね」
「いや、勘弁。せめて担ぐの希望で」
 やよいの提案に、モヒカンが無言で頷き、氷はカクカクと首を横に振った。
「ところで‥‥笛、出来れば洗って返してくれると嬉しい」
 ヒールミストコートの持ち主である時雨が、貸した本屋の肩へぽんと手を置き。
 彼の要求に、くすくすと奈津美が笑った。

 帰還した者達より報告を受けた監視所は、『作戦』の目的は何とか達せられたと判断した。
 幾らかの蟲は残っているだろうが、それも今後の探索で順次排除する形となる。
 ただ、不安要素が完全になくなった訳ではない。
 遺跡自体がどこまで続くのか、奥底には何があるのか、まだ第三の『卵』は存在するのか、その時も今回同様の力押しで何とか出来るのか−−。
 それは獣人達の誰にも、判らない事だった。