Vogalonga!ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 4Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 14万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/25〜05/28

●本文

●長距離ボートレースへの誘い
 ヴォガ・ロンガは、イタリア語の「舟を漕ぐ=VOGARE」と「長い=LONGA」が組み合わさった言葉だ。
 その組み合わせの示す通り、約30kmを漕ぐボートレースである。
 1975年から正式に始まったヴォガ・ロンガ。第33回となる2007年は、5月27日に開催される。

 ゴンドラ漕ぎの資格が必要なレガッタと違い、16歳以上であれば老若男女を問わず参加自由。漕ぎ手や舟の種類も特殊なものをおいては問わず、ゴンドラを数人で漕いだり、一人や二人漕ぎのローボートやカヌーやで参戦するなど、その参加方法も様々である。
 参加する舟の数は数千を数え、漕ぎ手の数も時には一万人近くとなる。
 事故や混乱を抑えるため、早い舟はスタートライン近く、遅い舟は後ろの方に配置され。
 朝9時にサン・マルコ広場前から、大砲を合図にスタートする。

 ヴォガ・ロンガはレースではあるが競技ではないため、公式なタイムは記録されない。
 自分のペースで進み、完走するというのが目標だ。
 大らかなレースではあるが、違反事項もある。
 他の舟の前を横切って進行を妨げたり、他の舟とオールを交差させるような、危険な行為。また、宣伝行為やボートに宣伝ロゴを貼る事も違反とされる。
 あくまでも、フェアな精神と庶民的レースを保ち続けた、レースなのだ。

●コース
 全長は、約30km。
 サン・マルコ広場から陸に沿って南東へ進み、リド島を眺めながらサンテレナ島を回って、ベネチアの東側へ。
 北上してレ・ヴィニョーレ島の西側を通り、サンテラズモ島を見ながら北西へ。
 ブラーノ島の外側を折り返した先が、中間地点。
 ヴェネチアンガラスの島ムラーノへ向かって、ラグーナを南西へ。
 ムラーノ島を二分する運河を横切り、墓地の島サン・ミケーレを左手に見つつ、ヴェネチアへ。
 北西のカナレッジョ運河から街へ入り、カナル・グランデに合流。
 リアルト橋の下をくぐって街を縦断するS字カーブを漕ぎ、サン・マルコ広場でフィニッシュ。
 早い舟でも3〜4時間。遅い舟では夜までかかる、ロングコースである。

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3611 敷島ポーレット(18歳・♀・猫)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)

●リプレイ本文

●練習、ときどき観光
「さーぁっ、練習するわよぉーっ!」
「お〜っ!」
 櫂を青空へ掲げて羽曳野ハツ子(fa1032)が宣誓すれば、敷島ポーレット(fa3611)も真似るように拳を突き上げた。
「二人とも、元気なのは結構だけど‥‥あんまり、揺らさないでね」
 揺れる舟の縁に手をかけながら、神保原和輝(fa3843)が強張った表情で告げる。こんな場所にも銃器を携帯してきた和輝だったが、スタッフ預かりという形で既に『没収』されていた。

 長距離ボートレース、ヴォガ・ロンガ。
 それに臨む参加者達は、初日から現地のインストラクターの下でボート漕ぎの練習を行っていた。慣れぬ者がいきなりパドルやオールを握っても進まなかったり、あるいは転覆する危険があるため、基本的なレクチャーを受けている。
 ラグーナ(潟)では特に、コースから外れない事が重要だ。要所で海軍がレースを見守っているとはいえ、転覆に加えて座礁する危険もあるのだ。

「人目が多いから、無理はできない訳か。となると、如何に早く舟の扱いに慣れて完走できるかが、鍵になりそうだな」
 言外に含んだ物言いで、シヴェル・マクスウェル(fa0898)が『対戦相手』へ視線を投げた。到着時間を競うというシヴェルからの『勝負』を受けたMAKOTO(fa0295)は、自信ありげな笑みを浮かべ。
「でも、勝負は勝負として、海遊びは海遊びだから」
「ほ〜ぅ? 余裕ってトコか」
「せっかくヴェネチアまで来たんだから、楽しまないとね」
「とか言いつつ、ナックルまで付けて張り切ってるくせに」
「こっ、これは、格闘家にとっちゃ普段着みたいなモンでね‥‥」
 既に牽制を始めている二人に、Cardinal(fa2010)が「やれやれ」と苦笑した。
「熱くなるのはいいが‥‥運河では、ボートを岸にぶつけないようにな。狭い場所もある」
 唯一、擬似的とはいえヴォガ・ロンガのコースを経験した先達が、アドバイスをする。それを聞きながら、繊細な指を軍手でカバーした相沢 セナ(fa2478)は練習の手を止め、遠い街並みを眺めた。
 水面からいきなり突き出した、中世の面影を残す建物群。
 それらの『土台』は大小様々な島で、それを橋が繋ぎ、道を結んでいる。よって街中の運河は川ではなく、全てが海の一部だった。
「こうして、離れて見ると‥‥また綺麗ですね」
「当然であろう。ヴェネチアは、『アドリア海の真珠』とも呼ばれるからな」
 腕組みをしたマサイアス・アドゥーベ(fa3957)は、仰々しく首を何度も縦に振る。
「おっちゃん、手ぇ止めとらんと漕ぐ練習してぇな」
 ポーレットが唇を尖らせて、『相方』に訴えた。

 ひとしきりボートを漕ぐ練習をした一行は、チャーターした船に乗り換えてコースの下見へと繰り出した。
 休憩を兼ねた下見の後は、実際に乗り込むボートに分かれて日が暮れるまで練習を行う。
 続く翌日も、大半の者が練習に打ち込んでレースへの意気込みを見せ。
「練習熱心だね、みんな」
 何とも言えないニュアンスで、和輝は岸から練習風景を見物する。
 素性を誤魔化す事とファッション性を兼ねてクラシカルなデザインのウィズダムを付けたセナは、グラスのレンズ越しに和輝を見やった。
「タイムを競ったりといった目標も色々あるみたいですし、何より自力でゴールしたいんですよ。勿論、僕もですけどね」
 休憩中の和輝へ軽く手を上げると、セナは練習する者達の間へ戻っていった。
 最速タイムはゴンドリエーレ達やレガッタのチームなど、複数人で漕ぐゴンドラが叩き出す域なだけに、漕ぎ手一人のボートでは到底及ばない。それでも、体力に自信のある者はベストタイムを目指し、自信のない者はゆっくりでもレースを楽しむ事を計画し、そのどちらもが完走を目指していた。
 滞在二日目は、夕暮れ前に練習を終えて。
 誰もが翌日の朝から始まるレースに備え、早めに身体を休めた。

●いざ、『長い舟漕ぎ』へ
 スタート地点となるジューデッカ運河とサンマルコ運河の境界線には、沢山の舟がひしめいていた。
 見渡す限り色とりどりかつ様々な舟が、一様に東へ船首を向けて並び。
 スタートの合図を、待っている。
「すっごい、沢山参加するのね‥‥あ、あれ、シヴェルさん達じゃないかしら」
 一人乗りのカヌーに乗り、額に手をかざして舟の群れを見回していたハツ子が、見覚えのある−−言い換えれば、特徴のある−−姿を指差した。彼女の隣で小型のゴンドラに乗るポーレットが、首を伸ばして示した指の先を探し、友人の姿を見つける。
「ホンマや。呼んだら、声聞こえへんやろか」
 ポーレットとゴンドラを二人乗りするマサイアスが、「ふむ」と手入れしたばかりの顎鬚を撫でた。
「この混雑だと、難しいかもしれんな」
 体力のある三人の舟は、残るメンバーが乗り込んだ舟よりも若干スタート地点に近い位置にいた。MAKOTOとシヴェルは、インフレータブルカヌー(簡単に言えば、カヌーのゴムボート版)を。一方で、Cardinalは一般的なカヌーに乗っている。
 気になっていたのか、シヴェルもきょろきょろと周囲を見回し。その末に友人達に気付いて、軽く手を挙げた。
「残念ですね。出来れば、エールを送りたかったんですが」
「そやな〜。あの三人、すぐ先へ行ってしまうやろし」
 コーホー(一人乗りカヤック)のセナが手を挙げてシヴェルへ返事をすれば、ポーレットは頷く。
 そのセナの後ろに、和輝の手漕ぎボートが位置していた。

「ふむ‥‥これだけのボートが並んでいるのは、やはり壮観だな。ところで‥‥」
 座る位置を戻したシヴェルは、隣のMAKOTOへ声をかけた。
「『勝負』は、負けた方が今夜の夕食を奢るという事で。どうだ?」
「いいよ。言っとくけど、手加減しないからね」
 コキコキと肩を回しながら、MAKOTOは不敵な笑みを返す。
 その反対側では、Cardinalが黙ってパドルを握る感触を確かめていた。

 朝8時半を期限とする集合から、30分後。
 誰もが待ちかねた大砲の空砲が、青空に鳴り響き。
 そして、ヴォガ・ロンガは始まった。
 オールを掲げた者達が、一斉に南東へ向かって船を漕ぎ出す。
 サンマルコ運河に沿って軽く右へカーブした後、左に位置する緑豊かなサンテレナ島を回って、レ・ヴィニョーレ島の西側へ出る5kmが、いわば最初の『難関』だ。
 余裕があれば岸壁で手を振る人々に応え、蟻の様にぞろぞろと連なって、スタートラインを切っていく。
 遅い早いの違いはあれど、数千の舟は自分達のペースでヴェネチアを後にした。

「 ぼーがーぼーがー ろんがーろんがー
  ぼくらはこぐよ サンマルコ広場めざしてこぐよー 」

「ハツ子さん‥‥何です、その歌」
 どこか暢気な歌声に併走するセナが問えば、歌声の主はビッと親指を立ててみせる。
「即興で作った、ヴォガ・ロンガの歌よ」
「‥‥はぁ」
「セナさんも一緒に、どう?」
「いえ‥‥僕は歌は、ちょっと」
 困った風な笑顔のセナはポニーテールの位置より少し高めに纏めた髪を揺らし、ハツ子の誘いを謹んで辞退した。

「疲れたら代わるので、いつでも遠慮なく言うのだぞ」
「うん。落ち着いたら、お願いするかもしれへん〜」
 渋滞状態の運河で、ポーレットはマサイアスに答えながら、持ち前のカンを駆使して舟を操っていた。ゴンドラは舳先を南へ向けており、やがてこれを北へと向け直さなければならない。
「そういえばあの島、なんで言うん?」
 話の合間に、ポーレットは正面に見える島を示した。
「あれはリド島といってな。古くからリゾートビーチとして知られ、映画やオペラになった小説『ベニスに死す』の舞台でもある」
「へ? ヴェネチアで、誰か死ぬん?」
「うむ。お嬢さんには、少々難しい話だがな」
「ふぅ‥‥ん?」
 小首を傾げてマサイアスの解説を聞きながら、ポーレットは左の陸地に沿って微妙に漕ぐ力のバランスを変えていく。

 のんびりとした集団がサンテレナ島を回って北へ進路を取る頃、先行した三人は既にレ・ヴィニョーレ島を右に見ながら舟を漕いでいた。
『直線』になると、パワーのある格闘家二人はさすがに速い。
「とはいえ、ムキになって完走できないと、本末転倒だしな‥‥後ろのゴンドラに追い付かれたら、ちょっと恥ずかしいし」
 小さく呟いて、シヴェルは前方で海風に翻る金髪を眺める。

「思ったよりも、潮流や波はないんだね‥‥これは少しセーブしないと、常に全開で行ったらバテるかも」
 風に髪をなびかせながら、MAKOTOは『作戦』を頭の中で立て直す。
 ラグーナは基本的に穏やかで、様々な舟が立てる波や満ち引きによる潮の流れはあるものの、進行の妨げにならなければ、助けにもならない。
 風もボートを流すほど強くはなく、干潟を示す杭の位置が最も重要事項となる。
「座礁でリタイアは、避けたいしね」
 先に進む船の波も参考にしつつ、MAKOTOは確実さ第一でパドルを操り。

 二人のボートの中間に位置するCardinalは、ただ黙々とカヌーを漕いでいた。

●それぞれの楽しみ
 スタートより、約4時間オーバー。
 最速の先頭集団が、ゴールに達した頃。
 のんびりレースを楽しむ一行は、ブラーノ島のカラフルな家々を眺めながら昼食を食べていた。
「このように家へ鮮やかな色を塗っているのは、漁船で遠くから見た時に我が家の無事が確認できるようにしたのが始まりだそうだ」
「へぇ〜」
 マサイアスの説明に、ポーレットはサンドイッチを頬張りながら赤や青、黄色にオレンジなどに塗られた家を眺める。
「他にも、ヴェネチアは『危険なものは街の外へ』という風習があってな。故に、火事などが起きそうなヴェネチアン・ガラスの工房は、ムラーノ島に集まっているのだ」
「なんだかマサイアスさんは、ちょっとした『観光ガイド』になってるわね」
 笑いながら、ハツ子は二人のゴンドラと並んで昼食を取っていた。
「うん。話聞いてると面白いで〜。あ、セナさんと和輝さんは、お茶のお代わりしはる?」
「ありがとうございます」
 舟のバランスに気をつけながら手を伸ばすポーレットに、セナが礼を述べる。
「昼からは気温が上がる。海上とはいえ、水分は十分に取らねばな」
「ありがとう」
 マサイアスに勧められ、和輝もポーレットから紙コップを受け取った。
 周りにも、マイペースでレースを楽しむ舟が昼食を取るために止まっていて、のどかな雰囲気を作り出している。
「ヴェネツィアと言えば、ドルチェであろう。パスティッチェリアで、ブッソライ(大きなハードクッキー)やバイコリ(薄焼きビスコッティ)、それにチョコレートも用意してあるからな」
「さすがやなぁ。3時のお茶が楽しみやわ〜」
 周到に『準備』をしてきたマサイアスに、嬉しそうなポーレットが目を細めた。
「まずいわね‥‥」
 むっと眉根を寄せて真剣な表情をするハツ子に、セナは不思議そうな表情を向ける。
「どうかしました?」
「ええ。これじゃあ‥‥ポーちゃん達を、置いて先に進めないじゃないっ!」
「3時のお茶目当てですか‥‥気持ちは、判らないでもないですが」
 しみじみと呟いて、セナは茶をすすった。

「ところで、休まないのか?」
「ふゅ?」
 のんびり組が昼食を取っているのと同じ頃、声をかけるCardinalに先を進むMAKOTOが振り返った。
 その様子に、Cardinalは奇妙な顔をする。
「‥‥何を咥えてるんだ」
「じぇりーいんりょぉーお」
 銀色の四角形をしたドリンクパックを咥えたまま、パドルを動かす手を止めずにMAKOTOが答えた。
「くっ‥‥そんな味気ない手を使うとは!」
 Cardinalのカヌーの更に後ろで、シヴェルが吠えている。
「だって、一人だと食事取るのも大変そうだし。休んでる間に、潮に流されるかと思ってね。ところで、シヴェルは?」
 聞き返すMAKOTOに、シヴェルはぬっと水筒を突き出した。
 一応、ドリンクとして用意はしてきたらしいが。
「いざとなったら、グロムラン飲むから」
「それこそ、味気ないよっ!」
「いいさ。ゴールに着いたら、好きなだけ本場イタリア料理を堪能してやるからぁぁっ!」
 それを原動力にしたのか、シヴェルは水を掻いて追撃を始め。
 追い付かれまいと、エネルギー補給を完了したMAKOTOもパドルを握る。
「‥‥無理はするなよ」
 聞こえていないだろうが、猛然とスパートを始めた二人へ声をかけたCardinalはカヌーを岸壁に寄せ、持参した弁当を食べながら見送る。
 ラグーナを渡りきったコースは、いよいよカナルグランテに合流するためのカンナレギオ運河を目の前にして、残り距離は僅か5km。
 どうやら、5時間ほどでゴールする事になりそうだ。
「明日は‥‥土産でも買いに行くか‥‥」
 春の花が窓を飾る、海に面した街並みを眺めつつ、Cardinalは何となく呟いた。

 日が落ちて暫くすると、洋上で朝から日暮れまで様々なラグーナの光景を楽しんだ者達が、カナルグランデにかかる橋の観光客へと手を振りつつ、のんびりとゴールする。
 時間はかかったものの、何とか誰一人リタイヤする事もなく。
 ゴールの認定を受けた者達はオールを掲げ、見物客と共に喜ぶ。

 −−そしてその夜の夕食は、シヴェルの奢りとなった。

 翌滞在最終日。
 八人は、程度はあれどそれなりに筋肉痛に悩まされつつ。
 それでも練習に費やした時間を埋めるかのように、ヴェネチアの街を思い思いに遊び歩いたのは、言うまでもない。