EtR:掃討の後ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 6Lv以上
難度 普通
報酬 47.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/05〜06/08

●本文

●探索の再開
 中型のNWと、巨大な『卵』より孵化した小型のNWがひしめいていた、第四階層。
 それを排除すべく実行された掃討作戦は、集まった獣人達の尽力によって成功を収めた。
 その後、監視所にて昼夜を問わず監視が続けられたが、遺跡の入り口やオリンポス山周辺にて異変、異常の報告はなく。大幅に数を減らしたNWは、活発な行動に出ず遺跡深部に潜んでいると推測されている。
 一方で、第四階層の探索自体は『卵』が階段通路の出口近くで発見された為、全く進んでおらず。
 改めて、第四階層の探索へ赴く意思のある者達が集められた。
 やる事は、これまで調べてきた階層と同じだ。
 必要とあらばNWを排除しつつ遺跡の奥へと進み、遺跡に関する−−あるいはNWに関する調査を行い、可能ならば「何らか」の手がかりを得る事。
 その「何らか」は、遺跡が存在目的自体がはっきりしない為に、「何」とは不明ではあるが。
 ただ一つ確実なのは「進まねば現状以上の事は何も判らぬ」という、判り切った事実だけであった。

●先行者
 暗い空間に、前触れもなく突然人工の灯りが点った。
 軽く服を叩いて土埃を払いながら、ライトを手にした男は辺りの様子を眺める。
「ここが、件の『卵』騒動の場所、か‥‥さて、と」
 風の方向を調べるかのように、ぺろりと指を舌で舐めて湿らせ。
 そして彼は、暗闇の奥へと進んでいった。

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)

●リプレイ本文

●道程進まず
「えーっ! 蝙蝠さんの食べ物って‥‥血じゃ‥‥ないんですか‥‥?」
 18年の人生で初めて知った衝撃の事実に、湯ノ花 ゆくる(fa0640)が軟らかな土へガックリと膝をつく。
「ここにいるのが人も襲うような吸血蝙蝠だったら、こないだ入ってきた子供なんか、NWより先に襲われてると思うが‥‥」
 ぼりぼりと髪を無造作に掻きつつ、ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が至極真っ当な意見を口にした。
「ところで、蝙蝠って何食べるの?」
 燐 ブラックフェンリル(fa1163)の素朴な疑問に、苦笑しながらも河辺野・一(fa0892)は記憶を辿る。
「大抵は、小さな虫や植物‥‥だったと思います」
 他にも果実を食べる蝙蝠もいれば、花の蜜を食す蝙蝠もいる。無論、蝙蝠の中には血を吸う種も確かに存在するが、その数は蝙蝠という種の総数からすれば、むしろ少ない。外部から隔絶されていた空間に生息する種であれば、当然ながら捕食対象は閉鎖空間内に存在する生物−−例えば、虫の類を主食とする考え方が自然だろう。
 以上、簡単蝙蝠講座終了。
「それなら、輸血パック‥‥どうしましょう‥‥」
「そんなもの、どこから手に入れてきたんですか」
 クーラーボックスを抱えたゆくるに、相沢 セナ(fa2478)が髪をかき上げて嘆息する。
「どうもこうも在るだけ邪魔だな、ただの使えない荷物なら。この環境で何日も冷蔵状態を保つのも無理だから、戻る頃には本来の用途でも『使い物』にならないだろう」
 神保原・輝璃(fa5387)はダークデュアルブレードの固定具を両手に付けながら、客観的な見解を述べた。
「返してきた方が‥‥いいでしょうか‥‥」
 問うようにゆくるに見上げられて、御鏡 炬魄(fa4468)も唸る様に息を吐き。
「人命に関わるものだから、可能ならそうした方がいいだろうな」
「じゃあ‥‥ちょっと監視所に行って、預けてきます‥‥まだ、遺跡に入ったところですし‥‥」
 重い荷物を置いたゆくるは白い無地のボックスを抱えて立ち上がり、念のために炬魄がついていく。先日から、すっかり彼は『保護者』状態だ。
「予定が遅れっぱなしだな‥‥とりあえず戻るのを待ってる間、俺は寝てていいか?」
 二人の背中を見送る早切 氷(fa3126)は、また大きな欠伸をする。
「寝るな。せめて第二階層への通路まで、移動しておくぞ。二人とも、飛んでこれるからな」
 ゆくるが残した重い荷物を持ち上げて、ヘヴィが仲間達に移動を促した。

 第三階層の『扉』まで移動する為に必要な時間は、歩行速度や荷物の量、至るまでにNWと遭遇するか等の条件に左右されるが、おおよそ10時間前後は見積もっておかなければならない。
 監視所を出発する段階で、ゆくるの荷物は既に人の姿では満足に移動も出来ない程の量だった。その為、荷物の軽い同行者達に荷運びを手伝ってもらわねばならず。
 それらの『分担作業』に加えて、予定外の『待機時間』である。
 結局、探索はおろか第三階層の『扉』まで移動するのみで、初日の予定は終了した。

●静かな闇
「素敵発見遺跡探険♪ 何が出るかな山の地下、行けば解るさ第四層。まだまだ先があるのなら、調べてみよう隅々まで。さぁ、今日も元気に行ってみよー!」
 景気付けなのか、クリスタルソード片手に元気よく燐が歌う。
 暗い通路には場違いな明るい歌声を聞きながら、改めて一は下りになっている磨り減った階段の先に目を細めた。
「始皇帝の遺跡に、拝火教の遺跡。そして、ここオリンポス。全て地下に遺跡があり、地の底が死者の国という伝承と結びついてる土地なのですね。水を渡ると門があり、その先は冥府‥‥と」
「残念ながら、ここには『カロンの渡し舟』はありませんでしたけどね」
 一の感想に、冗談を交えながらもセナは暗い通路の先へ光を投げる。
「でも、いつも地下に潜るばかりも何ですし‥‥上へと探索するような、そういう遺跡は存在しないんでしょうか」
「『上』ですか‥‥ありえそうなものといえば、『バベルの塔』とか?」
「でもそういうのって、一階上がるごとに誰かが通せんぼしてて、「自分に構わず先に行けー!」って展開になりそうだよね」
 割と真面目に考えている一と対照的に、それらしいポーズを付ける燐へ、思わず手を左右に振って「ないない」と氷が突っ込む。
「っていうか、燐ちゃん‥‥もしかして少年漫画とか好きか?」
「‥‥えへ?」
 ぺろりと舌を出して、少女は誤魔化した。
 それ以上は氷も深く問わず、代わりに前方へと注意を向けて鼻に皺を寄せた。
 第四階層の『入り口』へ近付くに従って、臭気が強くなり。やがて氷のように鋭い臭覚を持たない者達も、その腐臭に顔をしかめる。
「酷いな。この臭い」
「そりゃあ‥‥アレだけのNWの残骸が、そのままだからな」
 ヘヴィが低くうめく様に返事をすれば、眉を顰めた輝璃の表情がますます険しくなった。
 通路の終わりに差し掛かると、先頭を歩く者達は注意深く周囲を窺いながら石が転がる第四階層へと、足を踏み出す。
 入り口付近にはまだ石に張り付いた苔が見えていたが、幾らか進み出るとその上を小さな蟲の死骸が覆っていた。更に、所々には中型クラスのNWらしき大き目の影の塊が転がっている。
「第二階層は砂に埋めようと思えばできたし、第三階層は水に沈めときゃ何とかなったが、さすがにここは『後始末』が面倒だな」
 気が重いと作業だと、大きくヘヴィは溜息を吐いた。例えNWでも、放って置けばそのうち自然の摂理に従って土に還るだろうが、どれだけの時間を要するかは判らない。
「とにかく、進まないと‥‥ですね」
 普段は明るい一も、注視する気力を奪う光景を微妙な表情で見回し、自分へ言い聞かせるように呟いた。
「それにしても、静かだな。生き残りなんかが襲ってくるかと思ったが」
 狼の耳をすませる輝璃は僅かに腰を落として両手剣を低く構え、注意を払いながら歩を進める。一行が立てる音以外は、何も聞こえず。掃討作戦時の報告を踏まえると、気味が悪いほどに静かだ。
「ドレくらい広いかも、何があるかも判らないから、あんまりバラバラに散らばらないようにな」
 ライトバスターを左右に振って、氷が同行者達へ注意した。

 ヘヴィと炬魄、輝璃がNWの警戒に回り、残る者達が遺跡の壁や天井を注意深く調べていく。
「地震でも起きた日には天井が割れて、第三階層の水が流れ込んできたり‥‥するんでしょうか」
「あの、セナさん‥‥怖い事言わないで下さい」
 天井を見上げるセナの言葉に、『地壁走動』で天井を歩く一は引きつった笑いを返した。
「それで、何か見つかった? 僕、そろそろ首が痛いよ」
『非常事態』に備えて『FIRE ROCK』を握る燐が、もう片方の手でうなじをマッサージしている。
「ずっと上を見てなくても、大丈夫だと思いますが‥‥とりあえず、天井はデコボコしていて『足場』はあまり良くないですけど、穴や亀裂のようなものはないみたいです。そろそろ、一度降りますね」
「気をつけてな‥‥で」
 身軽に壁面へと向かう一へ、風の向きに注意を払いながら氷は声をかけ。それから、四人とは別に俯いて作業をしているゆくるへ目をやった。
「そっちは?」
「こちらは‥‥特には何も‥‥」
 金属探知機でオーパーツ探しをしていたゆくるは、首を横に振る。
『宝探し』の成果は、先の掃討で使用した大量の空薬莢が見つかった程度だった。

●得られた断片
 一通りの『調査』を終えた一は、第四階層の石壁を眺めていた。
「とりあえず‥‥気になるのは、コレでしょうか」
 そこには、第一階層や第二階層と同じく−−第三階層では「奥へ進む事」を優先した為、壁面の確認はされていない−−絵のようなものが描かれている。
「ここの掃討が終わってから、二週間だからな。道理で『静か』な筈だ」
 ギリシャの遺跡に使われるモチーフとしては目新しくも奇怪でもなく、どこにでもありそうな壁画をヘヴィが睨んだ。
「時間もそれなりに経過しているし、情報体となって潜り込んでいる可能性が高い‥‥という訳か」
 炬魄が軽く壁を叩いてみるが、空洞があるような音はせず、壁面自体にも変化はない。
「さすがに、コレをブッ壊す‥‥って訳には、いかないんだろうな」
 苦々しげに、輝璃は光の届かない先にまで続いている壁画を、大剣の切っ先で突付いた。
 そして、見つけたものがもう一つ−−。

 改めて、巨大な『卵』があった場所を調べていたセナが、不意に仲間達を呼んだ。
「すみません、これ‥‥足跡じゃないですか?」
 集まってきた者達が注意深くライトを照らすと、苔が歪に凹んでいたり、あるいは苔の削れた石が転がっている。
「前に、探索した時のじゃないのか?」
「いえ。この痕跡は、まだ新しいんです。苔の削れた箇所や、石の表面の汚れ具合から見て、ここ数日に出来たものではないでしょうか。それに‥‥」
 怪訝な表情の氷へ説明するセナは、弓の先端で入り口の反対、すなわち奥へと痕跡を辿る様に示した。
「この痕は、入り口でなく奥に続いています。詳しく調べて後を追うのは、『目』がいい人の方が確実だと思いますけど」
「つまりは俺達とは別に、誰かがここへ来たって事か?」
 腕組みをしたヘヴィが、眉根を寄せて考え込む。
「監視所の連中からは、聞いていないが‥‥あるいは、監視所が把握していない、もしくは把握されていないルートがあるのか。だとすれば監視所襲撃の一件も頷けるが、掃討作戦の時に居たNWの数を考えると‥‥」
「あの‥‥とりあえず、考えるのは後回しにして、後を追いかけてみない? 僕、そろそろ考え過ぎて、頭が沸騰しそうだし」
 頭を抱えながら、燐が提案した。

『鋭敏視覚』が使える一と氷が、互いに見落としをカバーし合いながら、苔に残された痕跡を探す。『鋭敏視覚』に加えて『望遠視覚』を併せ持つヘヴィは、何者かの姿を光が捉えないかと、注意深く周囲を監視していた。
 その後に続く者達も、NWか‥‥あるいは潜んでいる何者かの不意打ちに備え、緊張して警戒にあたる。
 微かな手がかりを、苦心しながら二時間ほど追ったところで、痕跡は消えていた。
 行き当たった『壁』とその周囲には、通路や穴といった隠れるような場所もない。
 ただ岩に何かを擦ったような、まだ新しい傷で、英文が刻まれていた。

 その後も時間のある限り、壁や天井を中心に第四階層の探索が続けられた。
 結果、第四階層は第二階層と比べて『奥行き』の点ではあまり変わらないが、『横幅』はかなり狭い事が判った。だが静かな空間から、新たな通路は見つからず。
「コレで終わり、というのも、違和感があるんだよな」
 訝しむ氷の見解に、一もまた首を縦に振って賛同する。
「遺跡奥には、卵を産む『何か』が存在する可能性が極めて高いのは確かですね。もっとも、第四階層を降りる扉が閉ざされていたとして、遺跡が発見された時の最初の『卵』がどこから来たかは、謎ですが‥‥」
 ちなみに、出発前に監視所でゆくるがサーチペンデュラムと衛星写真を使い、『卵』の所在を占ってみたが、反応は全くなかった。無論、サーチペンデュラムの探知精度は必ずしも高いとはいえず、写真も尺が大きいため、信憑性という点では参考程度にしかならないが。
「しかし、こいつはどういう意味なんだろうな」
 書き写す訳にもいかず、記憶へ刷り込むように再びヘヴィは岩の英文を眺めた。
 そこには、不恰好な傷でこう刻まれている。

 −−ささやかなる忠告。
   美しきもの、偉丈夫であるもの、自信に満ちたるもの。
   父たる者の罪と母たる者の罰、負うを忘れるな−−