EtR:Re−TRY?ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
7Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
61.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/25〜06/28
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●本文
●結末
前回の探索は、『事故』により全く進展を見ないまま、終わった。
●再挑戦
−−ささやかなる忠告。
美しきもの、偉丈夫であるもの、自信に満ちたるもの。
父たる者の罪と母たる者の罰、負うを忘れるな−−
第四階層で見つかった、岩を傷つけて刻まれた、奇妙な文。
それは第二階層で発見された手帳のような、古いメッセージではなく。
探索者達が発見した時より、僅か数日以内に刻まれたものだった。
しかし監視所の記録では、掃討作戦の後から第四階層の探索に至るまでの間、遺跡に入った者はおらず。
よって「WEAが把握していない侵入ルート」が、何処かに存在する‥‥という仮説が立つ事となる。
そして、もう一つ問題があった。
第四階層で、新たな通路が発見されなかったのである。
第四階層は第二階層と比較すると、『奥行き』の点ではあまり変わらないが『横幅』は狭い。
苔生した石が転がる地面に、壁画が描かれた岩壁。天井には、穴や亀裂のようなものもなく。
だたNWの『卵』との遭遇を考えれば、遺跡の内部にソレを『産んだ母体』に相当するモノが存在する事は、想像に難くない。
故に、WEAは何度目かの探索者を募る。
第四階層のメッセージの意図と、存在すると思しき第五階層を目指す為に。
●別の探索者
「で、首尾は?」
椅子に腰掛け、問いかける男の前に、何かを包んだ布の塊が置かれた。
乱暴に布の一端を引くと、中の物が転がり出てくる。
テーブルの上に広げられたのは武器や銃器、弾丸。あるいは貴金属や、不思議な形をした装飾品といった、統一性のない奇妙な品々だった。
だがそれは、一般人から見た場合の話。
獣人達にとっては、いずれもオーパーツと呼ばれる物品であり、作られた目的や用途にあわせて使えば、いずれも不可思議な力を持ち主に与え、あるいは発揮する。
しかし、それらを持ち込んだ男の表情は、冴えなかった。
「アレは見つからなかった。酷い有様だ、あの『下』は‥‥」
言葉を遮る様に、テーブルの向こうの男が立ち上がる。
「連中は、また探索班を出すらしい」
それ以上、彼は何も言わず。
だが無言のプレッシャーに気圧されるかの如く、布をテーブルに戻した男は一礼し、席を退いた。
●リプレイ本文
●手がかりを探して
「明かりよし、トランシーバーも問題なし‥‥重い荷物があるなら代わりに持つが、大丈夫か?」
念入りに持ち物をチェックしたCardinal(fa2010)が、準備をする仲間達へ声をかけた。
「うん、平気だよ。だいぶ軽くしてきたしね」
軽々と、ベス(fa0877)は自分の荷物を持ち上げてみせる。
「何か、目新しいものが見つかるといいけどなぁ。いつも同じルートを歩いてると、自然と眠くなる」
「氷さんが眠そうなのは、いつもの事じゃないですか」
相変わらず欠伸混じりの早切 氷(fa3126)に、にっこりと相沢 セナ(fa2478)が『いい笑顔』で微笑む。
「‥‥眠気覚ましに『言霊操作』でナニカさせるとか、ナシ。絶対」
身の危険を感じた氷は、念のために主張した。が。
「思い出したよ。氷さんの踊り、変だったもんね」
「忘れていいから、今すぐっ」
遠い目で解説する燐 ブラックフェンリル(fa1163)へ、ビシッと指を差して氷が言い渡し、二人の会話に河辺野・一(fa0892)が思わず吹き出す。
「あ、一さん。おでん、楽しみにしてるからっ。おでん!」
燐のリクエストに、笑いながら一が頷いた。
「判りました、おでん食べましょう。ギリシャに練り物はなさそうですから、作る事になるかもしれませんが」
「やったーっ。美味しい魚の練り物が入っていたら、そこにトマトとか豚足とか入っててもいいよ。練り物さえ入っていれば、味噌仕立てでも醤油仕立てでもおでんだし。第四階層ちょっと怖いけど、おでんのために成功させるーっ!」
「ぴゃー! がんばろーっ!」
おでんを論じながら喜ぶ友人と一緒に、ベスも握った拳を突き上げる。
「では、早速調査にかかるか。移動を考えても、一階層あたり一日弱は時間が取れる」
完全獣化を済ませた御鏡 炬魄(fa4468)が立ち上がり、彼らへ椚住要(fa1634)はひらりと軽く手を翻した。
「じゃあ、気をつけてな」
「そちらもな」
そして一行は、二手に分かれた。
組分けはCardinal、要、一、ベスが一つのチームに。
もう一方のチームは炬魄、セナ、氷、燐で組む。
今回、探索に向かう一行が決めた方針は、『各階層の壁や壁画を調べる』事。これまでの経験と過去の探索を踏まえた上で、八人は四人二組のチームに分かれる。2チームが同じ階層のそれぞれの壁を一緒に調べる事で、危険と調査時間を減らすのが目的だ。
同一の階層ならほぼ問題なく無線が届くため、双方の連絡はトランシーバーで行う。
調査する順番は、前回の探索の途中で中断した第二階層から始めて、第三階層、第四階層となった。
●積もる謎と推測
『ぴゃぁぁぁっ、何かいっぱいムシが出てきたぁぁぁ〜っ!』
「ちょっと待って、こっちもセナさんが消えちゃって‥‥もう、どうやって開くんだよ、これ!」
トランシーバーから聞こえるベスの声を聞きながら、燐は焦って壁にガリガリと爪を立てる。
「中、大丈夫か!?」
氷が壁を叩いて呼びかけるが、返事はなく。
「何かの弾みで動いたなら、スイッチか何かがあるはずだ。それを、探すしかないだろう」
炬魄は指先の感覚を頼りに、岩壁を手でなぞった。
「ぴぇ〜っ、ナンだかアッチも大変みたいだね」
「とにかく、この穴を塞ぎましょう。コレが全部情報体に感染して実体化したら、面倒です」
ベスに頷くと一はハンカチを適当に丸め、素早くムカデや丸虫の様な虫が這い出す小さな亀裂へぎゅっと詰める。
「これも、はめ直した方がいいか?」
「そうだな。急ごう」
要とCardinalが壁から剥離した岩の一部を持ち上げて、元の通りに押し込み、何度か叩いてしっかりとはめ込んだ。
しばらく様子を見て、岩が外れる気配がないことを確認し、ほっと安堵の息をつく。
「ここから移動した方がいいな。向こうは、大丈夫か?」
注意しながら壁から離れてCardinalがベスへ尋ねれば、トランシーバーで連絡を取っていた少女はこくりと首を縦に振った。
「閉じ込められてたセナさんは、何とか助けたみたい。でも、トラップ多いよね‥‥ここ」
何を意図したのかは不明だが、第二階層の壁画がない部分は、あちこちに仕掛けの類が仕組まれていた。
「どれかが、隠し通路か何かの可能性はありますが‥‥ひとまず壁画の調査を優先して、後から皆で壁を調べた方が安全かもしれないですね」
砂へ潜っていく小さな虫を見ながら、一が呟いた。
大半を水が占める第三階層では、担架を作るために解体した筏を再度修理し、二つの筏を使って手分けをする。
水中からの襲撃を警戒しながら、一行は壁に沿って空洞を縦断し、八つの鍵の扉の前で再び合流した。
「さすがに第三階層は、壁画も少ないな。という事は、後から水が張ったんじゃなくて、ある程度は最初からあの状態だった‥‥という事になるのか?」
眠そうにしながらも首を傾げる氷に、燐も腕組みをして考え込む。
「通路が水中から上がってきたから、水の中にもあるかもしれないけどね」
「でも壁画には、妙な違和感を感じますね。例えるなら、『表』‥‥のような。今までは、ここが冥府やタルタロスのようなものだと思っていましたが、もしかしたらここは本来NWと関係ない場所で、同じく地下にあるというエリュシオンを目差していたのではないかなと‥‥少なくとも、負のイメージは感じ取れません」
改めて一連の壁画を思い起こす一の感想に、長い髪を揺らしてセナが頷く。
「ええ。まるで『表』を意味している‥‥という印象は、僕も同じですね。でも一般人が立ち入らないような場所に、何故壁画が存在するんでしょう。あるいはここに、獣人の歴史などが隠されている‥‥とか」
「どうだろう。今、ここに普通の人間が入らないからといって、過去には人間が入っていたという可能性は、否定できないんじゃないか? 遺跡の入り口付近には、あれだけの石柱が運ばれている。この遺跡を作った時には、相当の人手がかかったと思うが」
階段状になった通路の床を手で払いながらCardinalがくり貫かれた空洞を眺め、「でしょうね」と一も同意した。
「確かに、物語での架空の場所と思われていた都市が、実際に発掘された事もあります‥‥例えば、イリオス遺跡のように。神の住む山オリンポスに、古代のギリシャ人がエリュシオンを求めた、あるいは作り出そうとした可能性も捨て切れません」
「ぴ〜。でも、扉の仕掛けとか‥‥昔の人が作れたのかな?」
不思議そうに首を傾げるベスに、セナが苦笑する。
「そこまでは、判らないですね。確かに、古代の人が思いも寄らぬ巨大建造物を作る事は、ままありますが‥‥オーパーツを使った仕掛けとなると」
欠伸と共に大きく四肢を伸ばした氷は、ごろりと段差へ寝そべった。
「とにかく、先に進む通路を見つけないとな。途中で何か、見落としてるんかねぇ‥‥あれだけ吹いてた風も、今は止まってるし」
氷が置いたランタンを眺めながら、Cardinalは身につけたボレアスの紋章に視線を落とした。
「そうだな。ここへ入る前に山の付近の地図や写真は見てきたが、人が出入りできそうな洞窟はないようだ。もっとも、山中を歩き回って確認できる訳ではないから、「100%ない」とは言えないが‥‥これだけの生き物が出入りするからには、その大きさはともかくとして、どこかが外に通じている可能性も高いからな」
「どこか‥‥か」
腕を組んで、炬魄も考え込む。
「にしても‥‥」
肘をついて頭を支える氷は、ランタンの炎からCardinalの紋章へ視線を移し、ぼりぼりと髪を掻いた。
「風が吹いてた第二階層に、水がある第三階層、石だらけの第四階層‥‥とくると、階層ごとで地水火風に関わりがあるっぽいよな。これで、第五階層が火にちなんで溶岩地帯とかなら、泣けるが」
「だんだんと地中へ潜っているわけですし、いずれマグマ溜りに行き当たって、何かを原因に噴火、なんて事になったら大変ですよね」
セナもまた、冗談混じりに呟いて苦笑する。
「ともかく、あとは第四階層だけだから、徹底的に調べるよ。もう、全部の石をひっくり返す勢いで」
拳を握った燐が、気合を入れている。
「確か前に潜った時、あの英文の刻まれていたところで足跡は消えていました‥‥遺跡内部で会った相手というと、最初の大規模な探索で見かけた人くらいですし‥‥書いたのは、彼なんでしょうか」
「見た感じ、飛行系の獣人じゃあなかったようだけどな。第四階層で足跡が消えてたって事は、そっから飛んで帰ったか、先に進んだか‥‥だろ。あいつなら、前者は考え辛いよなぁ」
「そうだね〜」
氷同様、その場に居合わせた燐も、「う〜ん」と唸って首を傾げた。
「ともあれ、そろそろ休んだ方がいい。明日もあるからな」
要が促して、話を終わらせる。
万全にするために、一行は三交代で休息を取っている。約6時間以上の連続した睡眠を取る事で、獣人達は持つ能力を再び存分に使う事ができる。
体力、能力を温存している者が二交代目の順番を担当と決め、眠る者達はまどろみに身を委ねた。
●遭遇
湿り気を帯びたひんやりとした空気が、暗い空間を満たしていた。
顔色の悪い燐の背中を、いたわる様にセナがさすってやる。
「大丈夫ですか? 気分が悪ければ、無理をしなくていいのですよ」
「うん‥‥大丈夫。おでんが待ってるもんっ」
自分に言い聞かせるような少女の様子に、セナは僅かに微笑む。
燐と炬魄は、前回の探索にて出た被害者の『第一発見者』だ。思い出してしまって気分を悪くするのも、当然だろう。
炬魄は油断なく闇へヘッドランプの光を投げ、氷は壁画を見上げている。
「やっぱり、第二階層からあまり内容に変わったところはないな‥‥暮らしっぷりなんかが、メインで」
絵が描かれていない部分を氷は試しに軽く叩いてみるが、重い手ごたえしか返ってこなかった。
苔の上に残されていた足跡は、既に判り辛くなっている。
だが壁に刻まれた文字は変わらずそのままで、一はじーっとそれを見つめていた。
「忠告という事は、この先は開けてはいけない領域‥‥という事でしょうか」
思考を口に出してみるが、それにも少しばかり違和感がある。
そうなると、この文章は「そこ」へ行った事のある、もしくは「そこ」を知る人物が書いた事となる。しかも一達が英文を発見した時と、そう変わらぬ時期に。
「ぴ? どうしたの、一さん?」
考え込む一に気付いて、ベスが隣に並んだ。
「いえ。なんだか色々と、引っかかる事が多くて‥‥それにしても、第五階層の入り口はどこにあるんでしょうね」
嘆息して、一は天井を見上げた。大量のNWが実体化した後の為か、天井へ光を投げてもコウモリの影すら見えない。
その時。
「動くな!」
周囲を警戒していたCardinalの鋭い声が、闇に響いた。
トランシーバーを介して連絡を受けた四人が、急いで仲間と合流する。
「‥‥誰? あの人」
駆けつけた燐が、その中に見慣れぬ人物がいる事に気付いた。
「今この時点では、俺達以外に遺跡の探索を行っている者はいないはずだ」
「ですね」
ソニックブレードを手にしたままの炬魄の言葉に、いつでも弓と矢を番えられるよう準備したセナが賛同する。
「じゃあ、DS?」
「まだ判らんけどね」
眉根を寄せて尋ねる燐に、氷は肩を竦めた。
両手を頭の後ろで組んで座る男は、新たに加わった者達に気付いたのか、冗談めかしてぴらぴらと手を小さく振る。
「‥‥なに、あいつ?」
「ま、まずは様子見ってトコだろ」
不機嫌そうな少女とは対照的に、答える氷はまた欠伸をした。
「俺が気付いた時には、こいつはそこにいた。明らかに、飛んできた訳でも走ってきた訳でもなく、忽然と現れたという感じだな」
油断なく男を見据えるCardinalが、その時の状況を説明する。
「だから、こっちに敵意はないって。こうして、大人しく獣化も解いてる訳だし、そろそろ信用しないか?」
「信用して、どうなる」
要はじっと男を見下ろし、男はやれやれと首を横に振った。見たところ、年齢は20代後半。ヨーロッパのドコにでも普通にいそうな青年だ。
用心深く距離を取りながらも、一は男の目の前に腰を下ろした。
「とりあえず、名前を教えてもらえませんか? 何かと、不便ですので」
「ああ、じゃあ‥‥」
ぐるりと黒目を一回転させてから、男はにっと口角を上げて笑う。
「仮にギリシャ神話にちなんで、『ヘルメス』とでも」
「では、ヘルメスさん。この壁の文は、あなたが書いたんですか?」
一が指差す壁を男はちらりと一瞥し、「ああ」と答えた。
「やったのは、俺。でも、内容は俺じゃない。そのメッセージを残せって、言われただけでな。何を意味するかまでは、聞いてない」
「つまり、何かの指示をお前に出している人物がいるという事か」
険しい表情でCardinalが問えば男は三度「ああ」と肯定し、周りの者に緊張が走る。
「言っとくが、俺はDSじゃないぞ。もしDSだって疑ってんなら、蟲ドモの中に放り込めばいい。その代わり、『先』の情報は手に入らない。サテ、どうする?」
値踏みするようにヘルメスは八人を眺めながら、にんまりと笑った。
「ぴょ? 第五階層について、知っているの?」
更に重ねて尋ねるベスに、大仰に男は首を縦に振る。
「行く方法も、な。もちろんタダじゃあ、教えられないが」
「ケチ‥‥」
「ここで質問を続けるよりも、監視所まで連れて行った方がいいでしょうね。色々と、伺いたい事が多いですから」
弓を手にしたまま警戒を解かずにセナが仲間へ提案し、ひとまず男をロープで縛った上で、一行は地上への道を引き返した。