EtR:熱き風吹く階層ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 7Lv以上
難度 普通
報酬 58.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/14〜07/17

●本文

●案内の先
 第四階層で会った、ヘルメスと名乗る男との『交渉』によって、探索者達は第五階層へのルートを切り開いた。
 第五階層へと通じた通路は、二箇所。
 一つは最奥の階層であった第四階層より、なだらかな階段状の広い通路を降りて続くルート。
 もう一つは、第二階層と第三階層を繋ぐ通路に近い場所で、こちらは明確な段差の狭い階段通路となっていた。これをまっすぐ下れば、十数分で深部の第五階層へ到達する事が出来る。だが時おり、熱を含んだ−−浴びただけで火傷をする程ではないが−−かなりの強い風が吹き上げくる。
 二つの通路の終着点は、第五階層内部でもそう遠くに離れておらず、数分歩けば行き来が出来る程だった。

 そして到った第五階層は、これまでの階層とまた違う光景が広がっていた。
 硬い土の地面のところどころに亀裂が走り、そこからたまに熱風が噴出する。風が吹く箇所はハッキリそれと判る開口部がある訳ではなく、亀裂のどこから噴出してくるか、予想は難しい。
 また、岩壁には通路のような『穴』がぽつりぽつりと口を開けていて、何かの巣穴を思わせる。広い空洞内部のあちこちで吹き出す熱風の音は絶え間なく響き、異様な雰囲気を感じさせた。

 ヘルメスの案内によって足を踏み入れた者達は、第五階層の状況を確認したものの、NWに出くわす事もなく地上へ戻った。
 ただヘルメスは、「凶暴で厄介なNWが何匹、あるいは何十匹と潜伏している」という。
 情報の真偽は何とも言えないものだが、探索上での要注意として呼びかけた上で、WEAは更なる探索者を募った。

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●新たな通路へ
 砂を巻き上げて、時おり風が吹き渡っていく。
 第二階層の奥、あちこちに粘性の高い糸のようなモノが壁に付着したあたりに、その穴はぽっかりと口を開けていた。
「うわ〜、暑ぅ〜い」
「ぴゃ〜、暑いね〜」
 狭い階段通路を覗き込む燐 ブラックフェンリル(fa1163)とベス(fa0877)は、吹き上げてくる熱を持った風に髪をあおられている。
 目を凝らして覗き込む少女達だったが、前触れもなくぽんと背中を叩かれ。
「ぴゃぁっ!」
「うわぁっ!」
「なにしてんだ。下からNWが登ってきたら、かじられるぞ‥‥って、どうした。揃って、そんな顔して?」
 後ろに立ったヘヴィ・ヴァレン(fa0431)を、悲鳴を上げた二人は恨めしそうに見上げていた。
「ヘルメスたん、呼んだら出て来たりとかしないかなーって」
「あ〜‥‥どうだろうな。結構気前のいいヤツだったし、この先で敵対するような事がないといいが」
 ベスの言葉に、ヘヴィは苦笑する。地中を自在に移動する獣人能力『浸潜地動』を持つヘルメスは、遺跡内部では神出鬼没と言っていい。人柄的にも、あまり敵に回したくない‥‥というのが、前回関わった者達の素直な印象だ。
「それで、ここが第五階層から開けた通路なのね」
 しげしげと眺める富士川・千春(fa0847)に、早切 氷(fa3126)が頷いた。
「ああ。で、下はそれなりに暑いから‥‥コレ着ない?」
 どびらんと氷が取り出したのは、白い巨大な雪だるま。千春は、しばしソレを凝視した後。
「ところで、なんだか前回の探索は楽しかったそうだけど‥‥ヘルメスって、誰なのよ」
「もしもーし。話、聞いてー」
「ん〜と、タコが嫌いなウサギの人」
「おーい」
「なにそれ? 燐さん、最近ウサギ流行ってるの?」
「‥‥」
「どうやら、イマイチのようだな」
 苦笑しながら、御鏡 炬魄(fa4468)は状況を静観していた。
「そろそろ、氷さんが拗ねて寝てしまいますよ」
 見かねた相沢 セナ(fa2478)が助け舟を出すと、異論ありげに千春は唇を尖らせた。
「でも、着ぐるみでしょ‥‥動きにくいわよ」
「遠慮すんなって。結構気持ち良いし、2つあるから女子用と男子用で」
 立ち直った氷が再度薦めるが、反応は芳しくなく。
「‥‥俺でも入るのか? これは」
 着ぐるみを手に取りながら、ぼつりとCardinal(fa2010)が呟いた。
「ぴ‥‥レッドさん、着るの!?」
 目を丸くして聞くベスに、すかさず彼は首を横に振る。
「いや、出来れば遠慮したい。ただ、これを着ないと進めない‥‥という状況なら‥‥別だが‥‥」
 言葉の最後の方は、葛藤がにじんでいた。
「それで、こっちが『正規の通路』なのかしら」
 雪だるまは放っておいて、千春はまた通路を覗き込む。
「どうだろうな‥‥通路の形状からすると、岩をぶち抜いた第四階層の方が他の通路との共通点が多く感じるが。向こうは通路の幅も広いし、階段も緩やかな段差になっている」
 水筒の水をタオルにしみ込ませながら、ヘヴィが答えた。
「岩を壊して現れた通路‥‥って、何か引っかかるんだけど。確か第四階層の掃討で、『黄金の枝』を使った時は‥‥」
 考え込む千春だが、慌ただしい中での出来事だったせいか思い出せず。
「ま、あんまり、無理に着なくていいけどな」
 理解者が得られなかった氷は、寂しげに嘆息しながら着ぐるみへ足を突っ込んだ。

●『火』の階層
 荒削りの階段通路は横幅が狭く、大人二人が肩を並べて歩く事が出来ない。
 まず先頭を氷が進み、続いてCardinal、少女三人と続いて、セナと炬魄、翼に濡れタオルをかけたヘヴィが殿を受け持つ。
 強い風が吹き上がってくると、皆バランスを崩しかけてその場で座り込んだり、壁に手をついて倒れぬよう踏ん張る。氷を『盾』にしていても、着ぐるみの効果は『内側』に向けて発動するため、当然ながら風の熱さは変わらなかった。
「ここでNWに襲われたら、厄介だな」
「というか、階段を踏み外しそうで怖いんだが‥‥ここで転がされたら、まず止まらないよな」
 注意深く階段を降りるCardinalの言葉に、完全獣化した氷の背筋を汗が滑り落ちる。熱気によるものではなく、冷や汗だ。
「階段落ちが趣味なら、遠慮なく蹴ってやれ」
「それは、遠慮しとく‥‥」
 後方から茶化すヘヴィに、強張った声の氷が『厚意』を謹んで辞退した。

 第五階層に降り立つと、あちこちに穴の開いた壁に沿って、一行は注意深く歩みを進める。
「確かに、随分と穴だらけだな」
 ヘッドランプの光に浮かび上がった光景に呟く炬魄へ、ヘヴィが肩を竦める。
「気にはなるんだが、全部調べてたらキリが無えよな‥‥望遠視覚で覗くにしても、使える回数に限度があるし、その為に穴の中を照らして歩くのもな」
「‥‥覗いたら、穴からNWがびょーんなんてシュールな光景は、遠慮したい」
 引き続き一番先頭を歩く氷が、憂鬱そうに付け加えた。
「そんな事にならないよう、超音感視で形をなぞっておくわよ。覗き込むより、ずっと安全で早いでしょ」
 千春が『超音感視』を働かせ、同時に『呼吸感知』で壁を集中的に調べ始める。鋭敏感覚系の能力と違い、どちらも常時発動する能力ではなく、使える回数も限られているが。
「ぴ〜‥‥あと、壁画もここにあるのかな? ゲームではダンジョンの奥深くとかって、凄いアイテムや重要な情報が隠されてたりするけど、この遺跡はどうだろ?」
 心なしか期待に満ちた表情で、ベスが広い空間を背伸びして眺めた。
「あら。ゲームのダンジョンだと、地下に行く方が敵が強いわよ? それに、ボスなんかもいるし‥‥地下から地上に戻されるトラップがあったり‥‥」
「ぴぇ‥‥そういえば、そうだね。あはは〜」
 千春の指摘に、ベスが額に浮かんだ汗を拭う。
「でも、そうね‥‥風水土火のパターンできているなら、この下が最後の階層とみても、おかしくないのよね」
「だが、急いては事を仕損じるとも言うしな。適度な休憩は、取った方がいい‥‥こうも暑いと、NWと戦う前に体力を消耗する」
 獅子と化したCardinalは、首を覆うたてがみを暑そうに後ろへ流している。
「そういえば‥‥降りてきた穴って、どれでしたっけ」
 ふと振り返ったセナの言葉に、一行は足を止めた。
 第四階層へ続く通路は、他の穴より大きい為によく目立つ。が、それ以外の穴は直径の大小はあるものの似たような穴ばかりで、ぱっと見では全く区別が付かない。第二階層への穴は、数m入ってから階段となっているのだ。
「あの時は‥‥ヘルメスに、案内されましたから」
「風が吹き上げるから、ある程度近くに行けば判るんじゃないか? まぁ、帰りは大人しく第四階層経由でもいいがな‥‥それより、暑くないのか? その帽子」
 割と楽観的なヘヴィが、つばの広い三角錐の『魔法使いの黒帽子』を被ったセナの肩をぽんと叩いた。
「ええ、まぁ。大丈夫です」
 とりあえず、笑ってセナは誤魔化す。下に特製シークレットウサギ耳のヘアバンドを仕込んでいるのは、何気に秘密であった。

 体力の温存と穴の調査を兼ねるため、探索は壁沿いにゆっくり進んでいた。
 疲労が溜まると第四階層を結ぶ通路、あるいは安全を取って第三階層に繋がる通路まで戻り、休息を取る。
「水分はごくごく飲まないで、一口づつ口に含んでからな〜、とばーさまも言ってた」
 水筒を持参してきた者達へ、氷がアドバイスする。
「スポーツドリンクだけど、はるちーちゃんも飲む? あと、塩もあるよ〜」
 水筒の中身を蓋のカップに入れながら、ベスが友人に勧めた。
「ありがとう。それで『呼吸感知』で調べた感じだけど、少なくとも大きな生き物はいないわね‥‥昆虫クラスになると、さすがに判らないけど」
「もうちょっと、真ん中の方も調べた方がいいのかな? ヘルメスたんもいないし」
 腕組みをした燐が、小首を傾げる。
「ぴ〜。でも、土の中にいたら判らないよね。ヘルメスたん」
「あ〜。『浸潜地動』って、とんずらこくにゃ便利だよなあ。オレも、覚えられないもんかね?」
「で、とんずらするからには、それなりに何かやる気か」
 意味ありげに視線を向けた炬魄に、悠長な事を呟いた氷が表情を引きつらせる。
「う。ほんの、冗談だって‥‥サボって寝たりしないよ? たぶん」
「雪だるまの中で寝てたら、転がすからね」
 心なしか嬉しそうに宣言する燐に、ふるふると氷は首を左右に振った。

「蟲ども、随分と気が立ってやがるな‥‥ま、それも当然か」
 暗闇に身を潜めた男は、低く呻いて唾を吐く。
 しかし、その口調はどこか面白がっている様子で。
「ここは余力のある連中に、頑張ってもらうとするか」
 くしくしと、男は長い耳を毛で覆われた手で掻いた。

●遭遇
「それにしても、壁画とかまだ見つからないね。もっと奥の方かな」
 時間的に階層の半分程まで壁伝いに調べながら進んできた辺りで、ベスが首を傾げた。
 岩壁に穴がある為なのか、遺跡の内部でよく見られる壁画はまだ見つかっていない。
「‥‥ちょっと待って」
 大型のナニカが、近づいてくる。
 その接近を真っ先に察知したのは、『呼吸感知』を使っていた千春だった。
 その直後、吹き出す熱風の向こうから、熱をモノともせず四足の生物が一行へ向かってくる。
「一体だけか?」
「今は‥‥いえ、待って。他にも、いるわ」
 尋ねるCardinalに、千春は首を振った。
「僕、まだ何にもしてないからねっ」
 面白げなモノでもないかと見回していた燐が、身の潔白を主張しておく。一応。
「光源の向きには、できるだけ注意していたつもりですが‥‥」
『コールドボウ』に矢を番えながら、セナが眉を顰めた。
 その間にも、ソレは一行に迫ってくる。
 同じ四速歩行でも形状は第四階層の獣型とは違い、一口で言えば爬虫類のフォルムに近い。
 長く太い尾を持ち、全身をくねらせ、四本の足を交互に出して進んでくる。
 頭部には鼻筋から額にかけて角があり、その角の陰に輝く宝石のようなコアが見えた。
 NWとの距離が、ある程度近づいたところで。
 その角がチリチリと火花のようなモノを纏っている事に、『望遠視覚』で観察していたベスとヘヴィが気付く。
「ぴ! ナニかくるよ!」
「まずい、左右に散れ!」
 一喝に、残る者達は弾かれた様に動き。
 直後、NWの角から雷が走った。
「『破雷光撃』か」
「もしくは、ソレに似た能力だな」
 空中へ逃れた炬魄に、前方の全長が2m近い大きな蜥蜴を氷が見据える。
 光を投げれば、大蜥蜴の後ろから更に半分ほどの大きさの二匹の蜥蜴の姿が見えた。
「どうする、戦うか?」
 身構えながら、Cardinalが問い。
「無理はしないで、小手調べって感じかね?」
「‥‥雪だるま、着たまま?」
 ぐるぐると肩を回す氷に、燐がツッこむ。
「威嚇しながら、下がるか」
 DRACトンプソンM1を手にしたヘヴィに続いて、千春も前に出た。
 じりじりと下がる者達に、大蜥蜴は角の生えた頭を振ると。
 その、歩く速度を上げた。
 鈍い地響きと共に迫る巨体は、先程とは打って変わって早く。
 軽機関銃を持った二人が引き金を引くが、硬い鱗のような皮膚に弾丸を打ち込まれながらも、大蜥蜴は怯まずに突っ込んでくる。
「効いてない!?」
「くるぞ!」
 Cardinalの警告に、二人は翼を広げ。
 雷光が、迸った。

「うわぁぁぁ、暑かった‥‥」
 緩やかな段差の上に座り込んだ燐が、ほっと一息つく。
「ホント、地上に戻ったらシャワーを浴びたいわね」
 両手を挙げて、大きく千春が伸びをする。
「あの暑さで走り回るのは、さすがにきついな」
「というか、その格好だからきついんじゃないです?」
 腰を下ろしてノビる氷に、思わずセナがくつくつと笑った。
「脱ぐ暇なかったから、しゃーねぇだろ。とりあえず、笑ってるならジッパー下げてくれ」
 雪だるまになった氷は、ごそごそと向きを変えてセナに背中を指差す。
「ひとまず、上に報告‥‥か」
「くっついてた二匹のNWも、気になるしな」
 腰を下ろさず、油断なく周囲を見張るCardinalの呟きに、タオルで汗を拭きながらヘヴィが嘆息した。大蜥蜴の傍らにいた二体のNWは付いてくるのみで、結局手出しをしてこなかった。
「ぴ〜‥‥コバンザメじゃなくて、コバントカゲ?」
「残念ながら、くっつく吸盤はなかったようだがな」
 眉根を寄せて考え込むベスに、炬魄が苦笑を返す。
「そういえばヘルメスたん、見なかったね」
「ぴ。サーチペンデュラムでも、判らなかったしね」
 振り返る燐に、ベスが手書きの地図を広げる。それは精緻なものではなく、壁面に沿って歩いた感じを線にした、かなりアバウトなものではあったが‥‥。
 やがて休息を取って体力を回復した一行は、報告の為に地上を目指した。