恋の素描〜魅惑の舌アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 4.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/20〜12/25

●本文

●『魅惑の舌』アウトライン
『ヒロインはクォン・ソヨン、29歳。現在は彼氏なし。20代最後のクリスマスは、できれば彼氏と過ごしたいのだけれど‥‥』

『ヒロインのソヨンは、そろそろ結婚したいお年頃。
 だけど仕事でもオフタイムでも、なかなか出会いに巡りあえずにいる。
 そんなソヨンが見つけた、オープンしたばかりの料理店。スタッフには素敵な男性スタッフが数人かいて、ソヨンも徐々に店に通うようになっていく。でも、他の女性スタッフや常連女性客の動向も気になるところ。
 果たしてソヨンは、20代最後のクリスマスに素敵な恋をオーダーできるでしょうか−−』

●恋愛コメディに挑戦!
「第一回も第二回も、シリアスだったからな。今回は趣向を変えて、コメディタッチで頼むよ」
 そんなプロデューサーの一言。しかし侮るなかれ。コメディドラマは見る分には面白いが、作る分には大変なのだ。
「計算した笑いを追及するのは、難しいですよね」
「芸人芝居ではないから、ギャグに走ればいいという訳ではない。何を笑いにするか。どこに笑いを持っていくか‥‥」
 今回のドラマを担当する監督と脚本家は、頭をつき合わせてウンウン悩む。
 例えば。破天荒な主人公の破天荒な行動も、一種「ありえねぇ」系なコメディになるだろうが、『恋』がテーマなら微妙なところだ。
 落ち着くとすれば『ギャップ』であったり、『ハートフルさ』であったり、『初々しさ』であったりと、その辺りになるだろう。
「今回は、役者の持ち味が重要になるからな‥‥」
 役柄作りから任せた方がいいだろうと、監督は思い切った考えに至る。
「スポンサーとプロデューサーの意向もあるから、ヒロインとコンセプトだけは外せん。残りの役と設定。ヒロインの仕事場や、料理店などの舞台設定。台本。何もかも真っ白で、『恋の素描』シリーズに挑んでみるか‥‥」

 さてはて、ドラマ自体が出来上がるかどうか。全ての結末は、役者次第−−。

●今回の参加者

 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0319 天羽 霧砂(22歳・♀・蝙蝠)
 fa0587 猫美(13歳・♀・猫)
 fa0588 ディノ・ストラーダ(21歳・♂・狼)
 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa1402 三田 舞夜(32歳・♂・狼)
 fa1733 ウルフェッド(49歳・♂・トカゲ)
 fa2544 ダミアン・カルマ(25歳・♂・トカゲ)

●リプレイ本文

●舞台裏は大忙し
 撮影スタジオは、金鎚や釘打ち機、電動鋸にタッカーの音などが混ざり合い、ちょっとした建設現場並に騒々しかった。
 表舞台の花形達は、スケジュールを調整してロケに出ている。その期間中に店のセットを作り上げる事が、ここで働く者達の使命だ。実際の店を作る訳ではないので、裏はハリボテで構わない。しかし表は絢爛かつ繊細に仕上げるべく、誰もが忙しく動き回っている。
「ほー‥‥」
 韓国スタッフに混じって仕事に励むダミアン・カルマ(fa2544)は、完成の近づくセットを間近に見て、思わず感嘆の声をあげた。ほんの2日程前は何もなかった空間。この空間の仕上げとなるのが、ダミアンの集めてきた小道具の数々。そう思うと、にわかに気も引き締まってくる。
 セットという名のパズルにピースをはめるべく、彼は台車を押して準備に向かった。

「これは‥‥見事にハーレム状態だな」
 それが、カメラを通して現場を見るウルフェッド(fa1733)の素朴な感想。
「もう少し、男優が集まると思ったんですが‥‥」
 困った表情で唸る脚本家は、役者の意向を汲みつつ同時進行で脚本の修正中だ。融通の利く男優が足らないお陰で、ウルフェッドまで慣れない写真撮影をされる羽目になった。
「俺の本分は、あくまで撮影なんだが」
 −−と、訴えてみても無駄な抵抗で。撮る事はあっても撮られる事はない彼にとって、それは何とも言えない体験であった。
(「しかし‥‥撮られる側の心境を知るのは、撮る側にとっても重要か」)
 そう考えると、これはこれで「いい経験」になった気がする。ただ、写真の『用途』を思うと、再び頭が痛くなってくる。
 思考を断って、ウルフェッドは傍でキーボードを叩く三田 舞夜(fa1402)を見やる。
「ホンの方は苦労してるようだが、そっちはどうだ?」
「まぁまぁ。ってとこだ」
 ドラマを彩るBGMを担当する三田は、撮影を見て浮かんだインスピレーションを手持ちのノートパソコンに打ち込んでいる。
「歌は‥‥三人のうち二人は声の基礎が出来てるが、唄うとなるとな。時間がないから贅沢は言えんし」
「なかなか‥‥大変だな」
 大変と言えば、同じ事務所の後輩は頑張っているだろうかと思いを巡らせながら、ウルフェッドは晴れた空を仰いだ。

「‥‥外見のギャップはともかく、それは駄目だ」
 俳優達がスタンバイするマイクロバスで、監督は溜息をついた。
「えぇー、ダメぇ?」
 監督に食い下がっているのは、今回のヒロインであるクォン・ソヨン役を演じる猫美(fa0587)。13歳の猫美が29歳のOLを演じるという点で既に無理があるが、時間もないので監督は千歩ほど譲った。
 一番の問題は、「ソヨンが怒るとべらんめえ言葉」になるという点。
「今の君がやると、キレた子供の喧嘩にしか見えない。笑い以前に、見ていて痛い。そんな痛い相手に、誰が『恋』をする?」
 しょげた猫美は、じっと黙って監督の話を聞く。
 その様子を、アイドルユニットを目指す『PureSora』の二人組−−ソヨンの後輩イ・ヨンヒ役の天羽 霧砂(fa0319)と、店のオーナーの娘チェ・ルェン役の愛瀬りな(fa0244)が、心配そうに見守っている。
 一方で、店のチーフ役の小鳥遊真白(fa1170)と店員パク・イナ役ディノ・ストラーダ(fa0588)は、珈琲で暖を取りながら結果を待っていた。
「役者の演技を参考にして、勉強するのはいい。しかし『手本』をソックリ真似る事は、演技ではない。求められた演技に、既存の役を当てはめて模倣する。そんな安易な事が君の演技なら、今後は俳優として伸びない」
 難しいだろうが頑張れと、監督は猫美の頭をぽむぽむ叩き‥‥。
「監督ぅ。ウィッグがズレて‥‥」
「ぬあっ、すまん!」
「あの、あたし、メイクさん呼びに行って来ますー!」
 しゅたっと挙手して、りなが担当者を呼びに走っていく。

 −−さぁ、共に舞台の幕を開けよう。
 例えそこに競合があっても、物語は一人で作ることは出来ないのだから。

●『Glamourous』
 洒落た店内を満たすのは、ジャズの心地よいスウィング。
 グラスに指をかけながら、ソヨンはある人物を見つめていた。
 ライブスペースで唄うのは、店専属のシンガーとしても契約しているという男性店員イナ。
 ソヨンの視線に気付いて、僅かにイナは微笑む。遠くても、彼が自分を見ているのが判る。
「いま歌ってる人、素敵な人ですね」
 一緒に店までくっついてきた後輩のヨンヒがはしゃいでいるが、その言葉もソヨンの耳に入ってこない。
 しかし、胸が高鳴る幸せなひと時を、ぬっと立ちふさがって邪魔をする胸−−胸?
 見上げれば、彼女の視界を遮っていたのはルェンだった。
「ねぇ‥‥なんでまたどう見ても子供はそろそろオネムな時間にそろそろオネムなはずのちっこいお子様があたしのパパのお店のカウンターでちゃっかり足の届かないスツールに座ってちゃっかりストローでジュースなんか飲んだりしていらっしゃっているんでしょうね」
「よく、噛みませんねぇ」
 ほへーと純粋に感心するソヨン。立て板に水の如きルェンの抗議らしきものは、正に流水の如く一瞬でソヨンに聞き流されたらしい。
「子供子供って連呼してるけど、キミも子供だよね」
 先輩のソヨンを庇う様に、ずいとヨンヒが二人の間に割り込む。
「あたしは特別よ。だってパパのお店だもん。それに、あたしももうすぐお酒が飲めるもの」
 ルェンは成長の証とばかりに背を逸らして、『曲線』を強調してみたり。
「言っておくけど、ソヨン先輩はキミよりずぅっとオトナだから」
 対抗するように、ヨンヒもスーツの下の『実力』をそれとなく誇示してみたり。
「なによ!」
「なにか?」
 睨み合う女性の間で、バチバチと散る花火。
「‥‥ルェンお嬢さん。どうぞ」
 二人の間に差し出されたパフェには、刺さった花火が弾けている。
 表情を変えず、それをコトリとコースターの上に置くのは、イナと共にブルースハープを演奏していたチーフ。ライブタイムが終わって、ポジションに戻ってきたらしい。
「何故、ジャズバーでパフェ?」
「ヨンヒ様もお作りしましょうか」
 皺一つない白いシャツに黒いベストをパリッと着こなすチーフの笑顔に、ヨンヒは思わず怯んだ。

 そしてソヨンは、女の戦いから早々に離脱して席を移動していた。
 決して、胸に自信がない訳ではない。体格に比べると立派に(以下略)だが、今の彼女には胸がどうこうよりも大事な事がある。
 彼女が見つめる先には、テーブルの間を縫うように動き回るイナ。特に女性客には愛想が良い彼なので、見ているだけでハラハラする。
 そんな彼が近づいてきて、ソヨンは急いでジュースを一気飲み。
「あの、イナ。オレンジジュースのお代わりをもらえますか?」
 声をかけると、イナはにっこり微笑んだ。
「今日はソフトドリンクでいいんですか、お嬢さん」
「ええ。今日は車、なんです」
 そう答えてから、あるプランがぴこんと閃く。
「あの、もしイナさんのお仕事が早く終わるようでしたら‥‥送りますよ」
「ホント? じゃあ、お言葉に甘えようかな」
 嬉しそうに、そして悪戯っぽい瞳で微笑するイナ。ひょいとグラスを持ち上げて、トレイに置き、ウインクを一つ。
「お代わりのついでに、聞いてくるね」
 赤くなりながらも手を振って背中を見送り、ソヨンは喜びを噛みしめていた。

「カット!」
 確認用のモニタを見て、画面の中に役者達の耳や尻尾などが映ってないかを確認し、監督は「OK」を出した。その言葉に、ほっとスタジオの空気が緩む。
「30分、休憩入りまーす」
 ADが声を張り上げる間にも、エキストラとして店員役をしていたダミアンは本来の役目に戻り、グラスを片付け、テーブルを拭く。
 何気なく視線を上げた先に、見覚えのある顔の写真が額に入れて飾られており、ダミアンは思わず笑い出しそうになった。
「‥‥笑うなよ。互助会のメンバーにも、できれば言うな」
 写真の「本人」が背後でぼそりと脅し、驚いて食器類を落としそうになるダミアン。振り返ると、ウルフェッドがむしろ訴える視線で彼を見ていた。
「言わない言わない。絶対、言わない。ウルフェッド君が『グラマラス』のオーナー役で、しかもハタチちょっとの子とくっつく役だなんて」
 にこやかな笑顔のダミアン。それとなく改めて反復されて、ウルフェッドは背中に背負ったどんよりとしたオーラに押し潰された。

●撮影は快調で
 短い期間ではあったが、スタジオでの撮影も残すところワンシーンとなる。
 最後の場面は、ラストシーンの手前。
「子供のような外見」というハンデにも負けず、等身大の自分を一生懸命に頑張るソヨン。一方で、自分と自分の歌が見出せず、「女」や「専属」などのステータスで己を騙し続けるイナ。その二人の相違点が、遂に衝突した場面である。

 パンッと平手打ちの音。
 手を上げたソヨンは、痛む掌をぐっと握る。
「あたしとの事が、遊びなら、それでもいいです。慣れてますから。でも、これだけは‥‥あたし、唄ってるあなたの姿が‥‥好きでした。とっても。だって、すごく優しい笑顔だったから」
 それ以上は言葉にならず、ぐっと唇を噛んで出口への階段を駆け上がるソヨン。痛む頬をさするイナのその反対の頬を、今度はつかつかと歩み寄ったヨンヒが引っ叩く。
「あんたまで、何を‥‥っ」
「いい? 男なら男らしく、ちゃんとケジメつけないさいよね!」
 キッと睨み上げるヨンヒに、イナはため息をついて肩を落とした。
「‥‥言われなくても」
 ソヨンが忘れていったコートを取り上げ、イナ。
「馬鹿の方が、カッコいいかもな」
 一人呟き、彼は外へと階段を駆け上がる。それを満足そうに見送るヨンヒの肩を、ルェンがつついた。
「ねぇ、いいの? イナ狙いじゃなかったっけ?」
「いいの。だって、私はもう新しい恋に生きてるんだよね〜」
「え〜、いいなぁ」
 見たい? と、写真を取り出すヨンヒにルェンがこくこくと頷く。嬉しそうにヨンヒは写真を差し出し、それを手にしたルェンは瞬間冷凍状態に。
「‥‥ねぇ?」
「いいわよねぇ。渋いオトナの魅力って。彼、奥さんと死別して、いま一人なんですって」
「‥‥ねぇ、ヨンヒ」
「なに? 素敵だからって、譲らないわよ」
 幸せオーラを発散している彼女に、ルェンは黙って店の壁にかかった写真を指差す。
「これ、あたしのパパ」
「‥‥え?」
 思わず、新しい恋人とのツーショット写真と、壁にかかっている店のオーナーの写真とを見比べ‥‥。
「嘘〜〜〜〜っ!」
「でも、まぁいいわ。これからは『ママ』って呼ぶからね〜」
 うふふ。と、嬉しそうにヨンヒへ抱きつくルェン。
「イヤー! こんなでっかくて口が減らない娘は、イヤー!」
「遠慮しないで。よろしくね、ママ!」

「はい、カット! 以上で撮影終了ですー!」
「お疲れ様でしたー!」
「お疲れさまー!」
 スタジオのあちこちから、互いを労う声が上がった。りなと霧砂はじゃれるように抱き合ったまま、クランクアップを喜んでいる。ディノは猫美をエスコートをするように、手を取ってセットの階段を下りてきた。
「では‥‥このまま打ち上げパーティという事で」
 チーフ役そのままで、真白がデコレーションケーキを持ってセットの中へ進み出れば、特に女性達の目の色が変わる。
「本番では出せなかった、ホントのお酒でカクテルも作るぞ。この役のために鍛えた技を披露しよう」
「やったー!」
「チキンはいかがかな?」
 裏方で料理を作っていたダミアンが現れると、彼もあっという間に賑やかな輪に引っ張り込まれた。
 誰が決めるでもなくディノが音頭を取る事となり、彼はグラスを掲げる。
「僭越ながら、乾杯の代わりに‥‥メリー・クリスマース!」
「メリー・クリスマス!」
 賑やかなパーティを化したスタジオの様子を、ウルフェッドはカメラを回して撮り続けていた。

●最後の一仕事
 撮影が終わったからといって、それでドラマが出来上がる訳ではない。
 映像を確認しながら、舞夜はBGMを入れる仕事に取り掛かっていた。
 音質や音量の細かい調整を入れて、スタッフと共に最終確認を行う。

 駐車場で追い付いたイナが、車に乗ろうとするソヨンを呼び止める。
「ソヨン! 俺は‥‥君が好きだ!」
 格好のつかない、精一杯の叫び。
 だが、振り返ったソヨンはそのまま立ち尽くしている。
 急いで彼女へ駆け寄り、イナはソヨンの肩に忘れていったコートをかける。それからもう一度「好きだ」と繰り返して少年のように笑い、彼は凍えた小さな身体を抱きしめた。
 寒いからか、照れるせいなのか。頬を真っ赤に染めたソヨンは、大きな背中に手を回してぎゅっと抱き返す。
 やがて、彼は自分がつけていた指輪の一つを外し、冷たく細い彼女の指に恭しくはめる。サイズが合わずにぶかぶかな指輪に笑いあい、二人の間にひらりと舞い落ちた白いものに気付き、一緒に空を仰ぐ。
「ああ‥‥雪だ」
 幸せそうに、二人は雪の降る空を眺める。

 その姿に重ねて、エンディングの歌が流れ込んだ。

「 恋を召しませ 今宵小粋なイタリアン♪
  恋を召しませ 今夜はフレンチフルコース♪ 」

 ディノと霧砂、りなの三人での即席ユニット『PureSora with Dino』が唄う「恋を召しませ♪」にあわせて、エンディングテロップが流れる。
 切り替わった画面は、楽しそうなクリスマスパーティと化した打ち上げの様子。
 そしてウルフェッドが撮影した雪が降るシーンを最後に、映像は終わる。
 全てを確認し終えて、監督は舞夜に頷き。
『恋の素描〜魅惑の舌』の仕事は、全て完了した。