EtR:仕組まれた襲撃ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 9Lv以上
難度 やや難
報酬 114.5万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 07/24〜07/27

●本文

●地を這うモノ
 地中より熱風があちこちで噴出する、第五階層。
 そこで探索者達が出くわしたのは、2m近い巨体を持つ大蜥蜴を始めとする、三匹のNWだった。
 爬虫類に似た形状をしたNW達は、熱風をものともせずに地を歩き回り。
 獲物を得んとして−−あるいは侵入者達を排除する為なのか、襲い掛かってきたのだ。
 特に大蜥蜴は、身体が頑丈な鱗のような皮膚で覆われ、頭部にはコアを隠すように角が生えており、そこから雷撃を放つ。また大きさ故に愚鈍に見えるが、人間クラスならば追い付かれる程度の速度で移動する事も可能という、それなりに厄介な存在だ。
 他にも全長1m近い蜥蜴が二匹、大蜥蜴に追従するように行動しているという。
 探索者達は戦闘を避けてすぐさま退いた為、それ以上のNWがまだ存在しているかどうかは、明確ではない。
 ただはっきりとしているのは、大蜥蜴と二匹の蜥蜴を排除しなければ、この先の探索に支障が出るという事だった。

●企てる者
 オリンポス遺跡、第五階層で発見されたNWを排除する旨の知らせに目を通しながら、男はコツコツとディスプレイを指で叩く。
「コレが、『頭』か」
「あそこでは、最大級のNWになる。もっとも『好み』ではないだろうから、連中に押し付けたが」
「そうだな。大きいからといって、使い勝手がいい訳でもない」
 ディスプレイを叩く指を止めて、その向こう側に居る相手を見上げる。
「ああ、まだ‥‥居る。もっとも、ソッチのお気に召すかは知らん。アレを探すついでに蟲調べの試金石にされては、コッチの身も持たん」
「試金石、か」
 男は面白い冗談でも聞いたと言わんばかりに、ひとしきり笑い。
「いいだろう、付き合ってやる。面白いモノが見つかれば、それも僥倖」
 椅子から立ち上がった男は、テーブルをぐるりと回り『伝令者』の肩をぽんぽんと叩いて、部屋を出て行く。
「やれやれ‥‥あんたも、欲が過ぎるって」
 嘆息して頭を掻くと、ヘルメスは男の後を追って部屋を出た。

●今回の参加者

 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)
 fa4892 アンリ・ユヴァ(13歳・♀・鷹)
 fa5003 角倉・雪恋(22歳・♀・豹)

●リプレイ本文

●戦いの前に
 熱い風に煽られながら階段を下った先で、ゆきだるまが頭を左右に揺らしつつ、降りてきた穴を眺めていた。
「目印‥‥なぁ。旗立てても風で飛びそうだし、かといって岩に何か貼っても剥がれそうだし」
『まるごとゆきだるま』を着た早切 氷(fa3126)に、相沢 セナ(fa2478)もぐるりと周囲を見回す。
「何か方法、ありますか? 時間をかけていられませんしね」
「ん〜‥‥とりあえず、『応急処置』だけしとくか」
 第二階層で拾った粘糸付の岩の欠片を、氷は穴の入り口に積んだ。崩れない様にぎゅうぎゅうと押さえ、手にくっついた粘り気は適当に岩へ掌をこすり付ける。
「氷さん、きちゃなーい」
「仕方ないだろ。水も限られてるし」
 あからさまに眉をひそめた燐 ブラックフェンリル(fa1163)へ、氷が口をへの字に曲げた。
「それにしても、これほど暑いとは思わなかったわ‥‥長期戦になると、きつそうね」
 初めて第五階層へ踏み込んだ角倉・雪恋(fa5003)が、額に浮かんだ汗を拭う。
「目印を付けたら予定通り第四階層の方へ移動しよう。ここで長居しても、無駄に体力を消耗する」
 やり取りを見物していたCardinal(fa2010)が、キリのいいところで一行を促した。
「どこにNWがいるか判らないから、明かりはできるだけ足元だけを照らすようにして、壁から離れないようにね」
 準備が済まぬうちに不意をうたれぬよう、以前の『案内人』が告げた注意を早河恭司(fa0124)が代わって説明する。
「ここも、何かと面倒臭いんだな。遠慮なく獣化出来る分、どこぞの遺跡よりマシだが」
 シヴェル・マクスウェル(fa0898)が冗談めかして軽口を叩けば、思わずセナが小さくくすりと笑った。
「しかし、四大元素にかけて四大精霊を持ち出すなら‥‥大蜥蜴はさしずめ、サラマンドラと言った所か‥‥自分でも口にして、下らん例えだとは思うが」
「でも確か、炎じゃなくて電撃を飛ばして来るんだよな?」
 前回の探索に加わっていた御鏡 炬魄(fa4468)の呟きに、尾鷲由香(fa1449)が念を押す。
「ああ。頭部の角から『破雷光撃』の様に、雷を飛ばしてくる。射程もかなり長い」
「雷を何とかすれば、近付ける‥‥か」
 短く鋭い爪を有する手を握ったり開いたりしながら、由香が考え込む。
「ところで、氷さん‥‥」」
 口数も少なく一行に続いていたアンリ・ユヴァ(fa4892)が、突然ぴっとりと氷へくっ付いた。
「な、なに、アンナちゃん!?」
「なんだか、涼しい名前ですので‥‥もしかして、体温が低いのかと。それから私の名前は、アンリです‥‥」
「そ、そうか。それで、冷たい?」
「着ぐるみの隙間から、ひんやりと」
「‥‥貸すから着る?」
「遠慮しておきます‥‥」
 そんな会話をしながら一行は第四階層へと続く通路へ移動し、『作戦』の最終確認を行った。

 今回の『狩り』の対象であるNWは、大きな蜥蜴型の一匹と、それに追随する一回り小さい蜥蜴型二匹。
 それに対抗するため、サポート役の瞬を除いた10人は、三つの組に分かれた。二匹いる蜥蜴のうち片方を、氷と恭司が。もう一匹をセナと燐が引きつけて、その間に残る6人で大蜥蜴型NWを倒す寸法だ。
 ただ、二匹の蜥蜴の能力は未知数で、大蜥蜴も硬い鱗を有している。
 幸いにも大蜥蜴のコアは頭部に露出しており、それを隠すように伸びた角さえ砕けば、厄介な電撃を封じると同時に勝機を掴む事ができる−−。
 それが、今回の対NW戦略だった。
「えーっと、頼りにしてるから、よろしく。頑張ってくれ」
「こちらこそ。寝る暇、ないからね」
 笑顔で返す恭司に、氷の顔が微妙に引きつる。
「それじゃ、気を引き締めていこうか。それぞれが帰った時、誰かを不安にさせないように‥‥ね」
 言葉の後ろ半分は自分に言い聞かせるように、小さく彼は呟いた。
 もう一方の二人組はといえば、燐がセナへビッと親指を立ててみせている。
「背中は預けたよ、セナちー!」
「ちー‥‥ですか?」
 不本意にそうな表情のセナへ、「だって」と燐は小首を傾げた。
「セナたんより、セナちーかなって」
「‥‥普通に呼んで下さい」
 嘆息しながら、彼は長い髪を後ろで一つに纏める。
「そういえば、登山では岩の上でうつ伏せになり、日向ぼっこや昼寝をする事を蜥蜴と言うとか。なので、昼寝をする事を『トカゲる』と言うそうですよ」
「ホント? じゃあ氷さんは虎なのに、トカゲってばっかりなんだね」
 セナの説明に、ころころと燐は明るく笑った。

 二匹の蜥蜴を引きつける四人が、他愛もない会話で緊張をほぐす間にも、大物を相手にする者達は各々の準備に余念がない。
 水分補給ながらも戦闘時に響かぬよう、アンリは水筒からチャイを一口、静かにゆっくりと口に含む。
「できるだけ、安全な場所まで引きつけないとな‥‥戦いの最中に熱風が吹き出してきては、こちらも危ない。無論、おびき寄せる時もだが」
 完全獣化して準備万端のCardinalへ、身の軽さから囮役を引き受けた雪恋が頷く。
「気をつけて、引っ張るわ」
「無理しないようにな」
 Cardinalと共に『力仕事』を担うシヴェルも、気遣いの声をかけた。
「話によると、なんとかって別の輩もウロついてるみたいだし。先を越されて余計な事にならないよう、さっさと邪魔なモンは片付けたいところだ」
「久し振りに血が疼くぜ」
「張り切り過ぎないようにな」
 ぐるぐると肩を回して由香が気合を入れる姿に、『荷物持ち』と化した高原 瞬が苦笑した。

●分断戦
 暗い空間に、雷光が一瞬の陰影を浮かび上がらせる。
 悲鳴、怒号、そして銃声。
 それらが入り混じって、広い空間に響いた。
 鷹の羽が舞い散り、落ちた朱槍「紅」は乾いた音をたてて地面へ転がる。
『高速飛行』で真っ先に大蜥蜴の『懐』へ飛び込んだ由香は、逆に地面へと叩きつけられていた。
 槍で角を狙った後に頭部や膝裏、あるいは胸部などを狙った、蹴りを中心とした攻撃。
 相手が二足歩行をするNWであれば、その戦い方は違った結果を出せただろう。
 だが予想よりもNWの体躯は重く、そして硬く。
 近づき過ぎた羽根を強靭な顎が素早く捉え、力任せに振り回されたのだ。
 追い討ちで放たれた雷撃を、とっさに由香は雷を纏う短い爪で弾くが、幸運は二度続かず。
 過剰な負荷のかかったヘッドランプは、小さな破裂音と共に壊れる。
 だが二匹の蜥蜴に仕掛けている四人は無論、大蜥蜴と距離を詰めていた者達も動けず。
「あたしが!」
 誰が口を開くよりも先に、蜥蜴達の注意を引いて駆け抜けた雪恋が声を上げ、豹の尾を振って身を翻した。
 効かないと判りつつもCoolガバメントMkIVを構え、倒れた由香へと走り寄る。
「頼んだ」
 短く炬魄が答え、右と左に分かれて挟撃するCardinalとシヴェルが仕掛けた。
『金剛力増』で筋肉が一回り隆起して見える獅子男と灰色熊女が、腕力と能力で前足を押さえにかかる。
 雷の狙いをつけようとするのか、左右へ頭を振る蜥蜴の頭上へ、大鎌を手にした炬魄が牽制して飛び。
 アンリはサーチボウに矢を番え、いつでも動けるように息を凝らし。
 その間に、由香を助け起こして戻ってくる雪恋に、瞬が手を貸した。
 一方の大蜥蜴は、拘束を試みる者達を払うように尾を振り、後ろ足で地を掴む。
 それでも前足を押さえつけた二人は、踏ん張ってそれを堪え。
『凍霧氷牙』で凍気を帯びた牙を、まずCardinalが突き立た。
 硬い鱗に、それはかすり傷程度の傷しか与えられないが、それで十分だった。
 傷から瞬く間に前足が凍りついていく。
 前足の『異変』に、大蜥蜴は大きく口を開いて足を封じるCardinalを威嚇し。
 注意がそれた隙に、シヴェルもまた短く持った氷塵槍を押さえた足へ突き刺した。
「氷は長く持たない。急げ!」
 暑さを懸念するCardinalが、仲間達へ吼える。
「由香さんは俺に任せて、雪恋さんも」
「判ったわ。後はよろしくね」
 瞬に由香を頼むと、雪恋は攻勢に出る仲間達の元へ戻った。
「あたしも‥‥」
 呻くように主張する由香へ、首を横に振って瞬が答える。
「一角獣の人もいないし、無理するな。羽根、やられてんだから」
 そして痛んだ羽根に響かぬよう彼女を背負って、瞬は仲間達を見守った。

 大蜥蜴の動きを封じる二人は、手の届く、あるいは牙の届く限り、大蜥蜴の身体を凍りつかせて動きを鈍らせ。
 炬魄とアンリ、そして雪恋が、槍の傷の残る角へ集中してダメージを与える。
 時おり放たれる電撃に手を焼きつつも、やがて角は砕かれて。
 無防備なコアが砕かれるまで、そう時間はかからなかった。

 一方、大蜥蜴に従うように動いていた蜥蜴の一体は、セナが矢を射て引き離していた。
 セナが『虚闇撃弾』を蜥蜴にぶつけ、その力を確実に削いでいく。
「氷さんみたいに、トカゲっちゃえ!」
 動きの鈍くなった蜥蜴へ、よく判らない気合と共に燐が方天戟「無右」を打ち下ろした。
「それ‥‥ちょっと嫌な表現じゃないです?」
 苦笑はするものの、コールドボウを手にしたセナも攻撃の手は緩めず。
 三組の中では真っ先に、NWのコアを破壊した。

「この‥‥向こう行くなって! ソッチ、回ってくれ!」
 意外に素早い蜥蜴の動きを止めようと、氷がライトバスターを振るう。
 同じくライトバスターを手にした恭司は足の速さを生かし、蜥蜴を大蜥蜴に近づけまいと行く手を遮った。
 出来れば武器をブーストサウンドに持ち変えたいところだが、その隙もない。
 セナ達と同様、横合いから攻撃を加えて大蜥蜴から引き離したものの、その後の二人は面倒な相手に手を焼いていた。
 大蜥蜴とは違ってコアは胸にあるのか、逃れようとする蜥蜴の頭に輝く光はない。また電撃を飛ばさない代わりに尾が帯電しているのか、たまに放電のスパークを散らしているのだ。
「触ったらやっぱり、感電するよね。コレ」
「だろうな」
 振り回す尾に注意し、動きの早い蜥蜴に手を焼きながらも、隙を見た恭司が蜥蜴の腹を蹴り飛ばし。
 蜥蜴が身を捻って起こす前に、二人は何とか腹とコアへライトバスターを突き立てる。

 大蜥蜴のNWが片付く頃には、二匹の蜥蜴NWも動かなくなり。
 そして、第五階層は熱風の吹き出す音以外聞こえぬ静寂を‥‥取り戻さなかった。

●一方的な再会
「何か、聞こえるな」
 それに気付いたのは、聴覚の鋭い恭司だった。
「何ていうか、俺達以外にも戦っている人がいるような」
「でも‥‥ここへは私達以外は入っていない、筈では」
 不安げに、アンリが表情を曇らせる。
「もしかして、ヘルメスたんがいるとか? それで、苦戦してたりして」
 小首を傾げた燐に、「ありえますね」とセナが思案の表情で同意した。
「で、そのヘルメスってのは?」
「兎の獣人です。『浸潜地動』が使えるので、遺跡は出入り自由な状態で。第五階層への道を教えてくれたのも、彼です」
 説明を求めるシヴェルにセナが答えれば、彼女は気に入らなさそうに顔をしかめた。
「DSだったりしないか?」
「気になるようなら、様子を見に行ってみる?」
 雪恋の問いに、一同は顔を見合わせて。
 NWや音の相手を警戒させぬよう、注意深く移動を始めた。

 熱風に注意しながら進んで行くと、ほどなくして床に蟲の死骸が転がっているのに出くわした。
 それも一体ではなく複数体が、ゴロゴロと無造作に。
「ナンだ、これ‥‥」
 嫌悪を露わにした由香が、瞬の背中で眉間に皺を寄せる。
 コアを破壊するという生易しいモノではなく、コアごと切り裂かれ、引き裂かれたように、寸断されていた。
「明かり、抑えて」
 目のいい雪恋が、動く光と影に気付いて注意を促す。
「これ以上、全員で近づくのは、危険かもしれない。見える者達で、何が起きているか確認してもらえるか?」
 Cardinalの言葉に、『鋭敏視覚』を持つ者達が頷いた。
 だが。
「今は、寄らない方がいいぞ。死にたくなかったら」
 声をかけられた事よりも、横の壁の穴から這い出してきた相手に誰もが一瞬ぎょっとする。
「‥‥ヘルメスたん、何してんの?」
 やや呆れ顔で、燐が見覚えのある男へ尋ねた。
「仕事。邪魔されると、いろいろ後が面倒なんでな」
 よろしくと一方的に用件を伝えると、ヘルメスはまたずるずると穴の奥へと戻り。
 とっさに手を伸ばして、氷がその腕を掴んだ。
「一つ聞いていいか?」
「アソコにいる相手については、ノーコメントだぞ?」
「いや、違う。その穴って‥‥」
 常からの疑問をぶつければ、ヘルメスは穴の壁をぐるりと見やる。
「ああ、こいつか。元々あいてたかどうかは知らんが、蟲達の『食糧貯蔵場所』らしい。もっとも、ほとんどがカラになって久しいがな」
「食糧‥‥」
 言外に意味する事を察して、血の気が引く。
「一つ教えてやる。あんた達が目指している先は、もうちょいだ。だから、今は引け。気付かれる前に、アッチは誤魔化してやるから」
 緩んだ手を払ったヘルメスは一方的に告げると、穴の奥へと消えた。