EtR:狂乱せしものヨーロッパ

種類 ショートEX
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 5Lv以上
難度 やや難
報酬 25.8万円
参加人数 13人
サポート 0人
期間 08/17〜08/19

●本文

●反攻

 −−火山の神を封ずる。

 そこへ到る為の入り口には、大きく一文が記されていた。

 それを発見した事が、果たして合図であったのか。
 先日、監視所を包囲するように集まっていた動物達を、やり過ごした影響なのか。
 遺跡の入り口を監視し続ける係員は、その異常に気付いた。
 蟲達の姿を、カメラが捉えたのだ。
 外へと向かう訳ではなく、まるで遺跡に立ち入る者がいないか威嚇をするように、入れ替わり立ち代わりで入り口となる開口部分を『占拠』している。
 それは、これまで長きに渡る監視の間に、一度も見られなかった行動だった。
 間の悪い事に、状況は中国の始皇帝陵においての『騒動』の真っ只中で、WEAも獣人達もそちらに手を取られている。
 だが、状況を放置する訳にもいかず‥‥監視所はWEAのギリシャ支部へと連絡し、ギリシャ支部はイギリスの本部へと、その異常を伝えた。
 そして本部から、欧州各地の支部へと通達が渡る。

「不審な挙動の見られるオリンポス遺跡へと向かい、NWを排除する者を募る。
 NWの掃討が順調で余力があるならば、第一階層だけでなく以下の階層についても安全の確認を願いたい」

 それが、始皇帝陵の騒動と呼応しているかどうかはわからない。
 だが遺跡の中で、あるいはNW達の間で、何かが起きようとしている事は確実だった‥‥。

●今回の参加者

 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)
 fa4892 アンリ・ユヴァ(13歳・♀・鷹)
 fa5271 磐津 秋流(40歳・♂・鷹)
 fa5757 ベイル・アスト(17歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●予測事項
「‥‥確かに、居座ってますね‥‥」
「うん。いっぱいいるみたいだね‥‥」
 アンリ・ユヴァ(fa4892)と燐 ブラックフェンリル(fa1163)は、監視所のモニターを並んで眺めていた。
 モニターの画面には遺跡の入り口が映っていて、数匹のNWが石の影に、さながら階段を塞ぐように集まっている。
「見た限り、交代の数や間隔などは、特に規則正しくもないようです‥‥」
「やっぱ、前に動物が集まってきた時に、見逃した奴らかな。つっても、所員サン達に怪我はなかったし、後悔はしてねぇが。予想の範疇でもあったし‥‥ふあぁ」
 観察するアンリの指摘を聞いているのかいないのか、大きく開いた口を手で隠し、早切 氷(fa3126)が目じりに涙の浮いた目をこする。
「どちらにしても現状がこうである以上、排除しなければ探索も満足にできないだろう。後ろから不意を撃たれるような趣味でもあるというなら、別だがな」
「それはそれで‥‥スリルがあって、楽しいと思うが」
 準備をすべくモニター室を出て行く御鏡 炬魄(fa4468)の後姿を見ながら、ベイル・アスト(fa5757)はぺろりと口唇を舐めた。
「とにかく、アレをどうにかしないといけないってのは、変わらないか。攻撃したら、いきなり中から大量に出て来るっていうパターンは、遠慮してほしいけど‥‥内部も確認しないといけないし」
 再びモニターに視線を戻し、早河恭司(fa0124)が嘆息する。同様に画面を注視していた河辺野・一(fa0892)は、「そういえば」と隣の相沢 セナ(fa2478)を見やった。
「第六階層への通路には、『火山の神を封ずる』とあったんですよね」
「はい。やはり、火と鍛冶の神ヘパイストス‥‥ローマ神話のバルカンでしょうか。なんか、火に関係する強力な何かを想像するんですけど」
「メッセージの意味も気になるけれど、文字そのものはいつ頃に刻まれたのかしら。少なくとも‥‥壁画とは、全然違う感じがしたわよね」
 富士川・千春(fa0847)もまた、記憶を頼りに思案を巡らせる。
「火山の神がヘパイストスとして、遺跡がオーパーツ工房だったりするとか」
「それでは、封じるという意味合いと逆にはならないか?」
 一連の話に耳を傾けていたCardinal(fa2010)が、唸って腕組みをした。それに倣うように、一も口元に手を当てて考え込む
「鍛治の神ヘパイストス‥‥いわば『作り出す事を司る存在』ならば、封じるのではなく奉じるのが一般的ですが」
「そんな事、どうでもいいじゃない? あそこにいるモノ達に、闇以前の恐怖とやらを感じさせてあげるだけよ。ホント、銃を持ってこなかったのが、惜しまれるよね」
 見解を交し合う者達へ、ソルジャーボウを手入れしながら神保原和輝(fa3843)が薄く笑んだ。
 ポケットに手を突っ込んで静観していた磐津 秋流(fa5271)が、もたれていた壁から離れ、軽く頭を左右に振りながら廊下へ出て行く。
「しかし‥‥あの統率力は、白いNWが関わっているのでしょうか?」
 扉が閉まるのを見てから、御影 瞬華(fa2386)は口を開いた。
「どうかな。必ずしも、白いNWがいるから組織的に動くとは限らないかもしれないけど」
 小さく苦笑して、恭司が肩を竦める。
「と、言いますと?」
「NWは‥‥昆虫程度の知能しかないという話は、よく聞きます。逆に言えば‥‥虫程度の知能ならばある‥‥という事ですよね。私達が‥‥彼らにとって、近付いてほしくない場所に、あるいは近付いてほしくない時期に、近付いた事による‥‥反応ならば‥‥」
 珍しくアンリが饒舌に語り、氷は何度目かの欠伸を繰り返した。
「本能的な行動なら、白いNWが率いていない可能性もあるんだよな。あいつらが本能的にヤバイと思う事とか、大事にしている物なら、俺らにとって厄介なものである可能性は高いし。遺跡まで『餌』を運んだ、『親』のような行動。もしくは‥‥例えば、第四階層にあった黒い『卵』とか」
 説明する氷に、燐がむず痒そうに顔をしかめる。恐らく、巨大な塊から小さな蟲が湧き出す様を思い出したのだろう。
 モニターを見つめたままの一が、「もしも」と強張った口調で言葉を挟んだ。
「もしも、ですよ。あれが『卵』を守ろうとしての行動なら、NWを排除して‥‥『卵』には手出しせず、留めなければなりません」
「そうね。突破の後だと体力も銃弾もそれなりに消耗しているでしょうし、人数的にも‥‥下手に藪を突付いて、蛇を出したくはないわね」
 一の意見に賛同する千春の表情も、冴えない。
 あの時は、今回集まった者達の倍の人数が、最善を尽くした末で道を切り開いた。もし囲まれた状況で、あの時と同じ事態となれば、全員が無事に地上へ戻れるかどうかは危うい。
「ま、『卵』と出くわした時の話ですけど、ね」
 緊張した空気を自ら払拭するように、あえて明るく一が付け加えた。
「だな。何かあったらその時はその時として、日も暮れるし『仕事』を始めようか‥‥で、さっさと終わらせて、ゆっくり寝たいね」
 大きく伸びをすると、腕を下ろす反動で氷が椅子から立ち上がる。
「ようやく、狩りの時間ね」
 歌うような声で告げて、和輝はソルジャーボウの曲線を撫でた。
 獲物を狙うように目を細める様は、どこか楽しげに微笑むような表情に似ていた。

●手抜かり。それでも、狼煙は上がる。
「入り口の奴らを狙撃するなら、音を立てず遠隔攻撃ができる武器や能力がいいのではないか?」
 銃を用意する者達を秋流が一瞥し、ここへきてから始めて口を開いた。
「静かにと言うのは、余り意味はないと思うがな。NWは獣人の位置を知る事が出来る。それなりの距離に近付けば気付く事だろう」
 暗がりの中でもサングラスをしたままの炬魄に、秋流はまた首を左右に振る。
「ある程度の距離に近付けば、だろう。自ら所在を教えてやる親切心など、持ち合わせているというなら別だが」
「狙撃するならARASHIがあるけど、20mm弾丸は車に置いてきたわね‥‥誰か持ってる?」
 瞬華が尋ねるも、仲間の誰からも答えはない。
「使うあてのない45口径弾なら、50発程持っているけどね」
 何故か弾丸だけを用意してきた和輝が、肩を竦める。
「いえ、大丈夫です。持ってきた銃は、38口径ですから」
「そう。弾丸はあっても銃はなし、銃はあっても弾丸はなし‥‥お互い、厄介よね」
 CappelloM92を取り出してみせる瞬華へ、小さく彼女は苦笑した。
「それで、どうするんだ? 言っておくが、俺の『飛羽針撃』は宛てにするな。向こうまでは見えないからな」
 炬魄が早々に『辞退』し、残る者達は顔を見合わせる。
 策も装備も、万全ではなく。
 対するNWの数も、正確には判らない。
「今更、ここでどうこう考えてもしょうがないだろ。ARASHIならともかく、弓の威力じゃあ一発でコアを射抜いて砕くのは無理だろうし。いっその事、やっちまってから後を考えたらどうだ」
 面倒くさそうに、ベイルが灰色の髪を掻いた。
「でないと、そこで寝そうなのもいるしな」
 顎でしゃくって示した先では、約一名がうつらうつらと舟を漕ぐ。
「も〜っ。仕事だよ、氷さん!」
「あ〜‥‥んあ?」
 べしべしと燐に頬を引っぱたかれ、寝ぼけ眼の氷は口元を拭った。

 秋流と和輝が入り口のNWに矢を打ち込み、タイミングをはかってアンリが『飛羽針撃』を飛ばす。
 無論、それでNWが簡単に倒れる訳ではなく。
『俊敏脚足』で一気に距離を詰めた恭司と燐、そして『紛潜陰行』で遺跡の影に身を潜めて接近していた氷が、得物を手に襲い掛かる。
 数分もかからず入り口を『制圧』した者達は、身振りで闇に隠れた仲間を呼んだ。
 同時に、足元で威嚇の唸りが上がる。
 見下ろせば階段の奥から複数の複眼が見え、節足の関節が軋る音や、顎を打ち鳴らす音が聞こえた。
「とりあえず、下にいたでかいカマキリやトカゲ連中と較べると、随分と弱いみたいだな」
 ライトバスターを構え直す氷の後ろで、ダークから冷青色のエレキベース、アイスメタルへと恭司が『武器』を持ち替える。
「だとしても油断は大敵だし、弱くても数がいっぱいきたら大変だよ」
「うん。寝てる暇はないからねっ」
 笑顔で釘を刺す燐に、氷は嘆息して頭を横に振り。
「漫才をしている暇があるとは、余裕ですね」
 入り口へ駆け寄った一が笑えば、何かを訴えるように氷が恨めしそうな目をした。
「冗談を言い合える余力があるのは、いい事だ。本当に余裕がなくなれば、冗談どころか笑い声すら失せるからな」
 獅子の手で、Cardinalは白虎の肩を叩き、軽く千春がウィンクをする。
「和ませ担当、よろしくね」
「は〜い! 二人分、騒ぐよ〜!」
 燐が元気よく片手を挙げて答え、氷は頭を抱えた。
「で、そろそろ『公演』を始めませんか。『お客さん』達が待っていますよ」
 聞く者を震え上がらせるといわれるギター、ブーストサウンドを手にしたセナが苦笑すれば、「そうですね」と一も油断なく階段を見下ろす。
 決して闇から踏み出そうとせず、蠢く蟲達を。

●獣、狂乱す。
 暗い空間を、弦の音と銃音が震わせる。
 細い電灯の明かりが乱舞し、群がる蟲達の影を岩壁に浮かび上がらせた。
 淡く光を放つ、あるいはライトの光を反射する刃が、影を薙ぎ払い。
 切り裂かれた節足や甲殻が、湿った土の上へ無造作に積まれていく。
「ハーッハッハ! さぁ、この『獣(オレ)』と殺し合おうぜっ!」
 闇に溶けるようなダークマントを翻し、愉悦の表情で黄金の柄を握ったベイルは、両刃剣ティルヴィングを振るう。
 翼を広げた和輝は、上からソルジャーボウで矢を射ていた。
「夜の帳の中を歩み、生きていくモノ達。闇を司り、闇の中を駆け抜けて生きていく私とも、さして変わらない‥‥けど、それが何だというのかしら。そんな事はさしたる問題では無い‥‥お互い、踊って貰おうか。夜の帳で生きるモノ同士!」
 近距離に飛来する羽を持つ蟲には、『虚闇撃弾』を撃ち込み。
 ただ、彼女自身は明かりを持ち込んでいない為に、視界の確保と単独での行動を控えて『高速飛行』の使用はせず、仲間達を援護する。

 鳥の名残を残したもの。あるいは、獣の名残を残したもの。
 第一階層は、かつてのように感染した存在の『原型』を留めつつも、それ以外の生物に変容した存在達でひしめいていた。
 それらは氷の見解どおり、以前に監視所を包囲するように動き、そして遺跡へと向かったと思われる動物達の群れの、成れの果てなのだろう。
「‥‥安らかにな」
 短く呟き、Cardinalはその力と能力で蟲達の動きを封じていく。
 群がっているNWの強さでは顎やカギ爪も、彼にかすり傷程度しか負わせる事は出来ず。
 その意味では、彼は蟲達にとってはまさしく『壁』であった。
 多少の力のあるNWは『壁』を打ち崩そうとCardinalへ向かうが、叶う事なく顎をへし折られ、節足を引き千切られ。
 迅速に、かつ出来るだけ多くの蟲を無力化する事に、Cardinalは専心する。
 そして、力を削がれたNWは。
「‥‥っ」
 引き絞ったサーチボウから、アンリが矢を撃った。
 初雪の如き透き通った白い弓から放たれた矢は、のろのろともがく蟲の頭部や胸部に輝く命の源コアを穿ち。
 二撃、あるいは三撃のうちに、輝く宝石のような結晶は砕け散る。
 余裕があれば、肉塊と化した物体から矢を引き抜いて。
 黙々と、骸の数を増やしていく。

 正面からでは適わぬと察知した蟲は、左右や後ろから攻撃を仕掛けようと回り込み、あるいは太刀打ちできそうな相手へ向かう。
 一気に一が、岩壁を駆け上がった。
 節足を蠢かして追いすがる蟲に、壁を蹴って。
 跳躍に落下の勢いを加えて、青い三叉戟ポセイドンの戟(ほこ)を振るった。
 鉾先が甲殻を、あるいは残った獣の部分であった毛皮を引き裂き。
 地面へと着地すると、即座にその場で身を翻す。
 第三の手とも呼ばれる、猿獣人の器用な尾が握ったライトバスターから光が伸びて。
 彼を囲もうとしたNWを、横薙ぎに一閃した。
「白いNWは‥‥やはり、見えませんね」
 暗い中でも精一杯に目を凝らし、一は懸念の材料を探す。
「見る限り‥‥いえ、聞く限りかしら。とりあえず、特別変わった様子はないわ」
 持てる力を駆使して、千春もまた何らかの『異変』らしきものがないかを調べていた。
「今はNWの数も多いけど、奥にいるのよりも‥‥弱いかもね。ある程度進むと、この『群れ』も薄くなる感じ」
「『支援』もあってか、数も確実に減らしていますしね」
 流れが悪くて淀み、お世辞にも清浄とは言い難い空気を一は深く呼吸し、息を整える。
「ともあれ、これなら貴重な弾丸も取っておけるわ」
 言葉と共に、千春がルビーで作られた拳銃マルスの火のトリガーを引き。
 45口径の弾丸が甲殻を抉り、蟲の身体を弾き飛ばした。

 仲間を鼓舞するように、二つの弦の音が響く。
 互いに背を預けながら、恭司とセナはそれぞれの特殊な効果を持つ弦楽器を響かせる。
 身を裂く力となる音に、幾匹かの蟲達は演奏を妨げようと彼らを狙い。
 だが、その発する音と周りで戦う者達に遮られ、二人にまで害は及んでいない。
「ギターは趣味レベル程度の腕ですが、何とか通じているようですか」
「趣味‥‥ね」
 背後の恭司が苦笑する気配を感じたセナは、慌てて「いえ」と台詞を訂正する。
「もちろん、『本職』である恭司さんの腕によるところも‥‥大きいと思いますが」
「‥‥ま、いいけどね」
 溜め息混じりだが、小さく笑い。
「さぁ、思う存分聞くといいよ。この音は、お前達の為に奏でているんだから」
 恭司は、アイスメタルを唸らせた。
 閉ざされた空間がコンサートホールなら、力を振るう仲間と蠢く蟲達を聴衆として。
 恭司とセナのセッションは、道を切り開くために響き渡る。

「あ、そだ。僕、FIRE ROCKを持ってきてるから、氷さんも一緒に歌ったら?」
 方天戟「無右」で蟲を薙ぎ払いながら問う燐に、やはりライトバスターを節足に叩きつけて切断しながら、「なんでだよ」と氷が答える。
「だって千春さん歌わないし、恭司さんは演奏で忙しそうだし」
「だから俺にって、どういう選択基準なんだ」
「ん〜、なんとなく?」
 楽しげな燐の返事に、氷は苦笑し。
 それからぐるりと周りを見回して、仲間達の様子を窺う。
 長時間の演奏に慣れている恭司とセナは、まだ疲弊の色は薄く。
 戦い慣れたものが多いメンバーなせいもあってか、全体的にまだ余力がある。
 逆に、遠隔攻撃を行う者達の矢や弾薬の残弾が気にかかるが、こればかりは休息をとってもどうこうなるモノでもなく。
「デカブツよりも弱いのと、数が減っててきてるのが、まだ救いか‥‥」
「‥‥しかし、休める時に休んでおかないと、非常事態に対処できない」
 淡々と、秋流が声をかけた。
 遺跡内部に突入した時から彼は武器を与一の弓からIMIUZIに持ち替え、確実に弾丸を蟲に叩き込んでいく。
「一山越えたら、休憩した方がいいか」
「は〜いっ」
 元気よく燐が声をあげ、それが気合であるかのように力いっぱいコアを叩き割る。

 大鎌が振り下ろされ、甲殻に突き立った。
 その甲殻に足をかけて刃を引き抜き、再び空を裂いて動きを断つ。
「確実に排除できるなら、退路の確保は気にかけずに済むが‥‥そういう訳にもいかないか」
 石突でコアを何度も撃って叩き割ると、炬魄は額に浮いた汗を拭う。
「下の階層まで、確認できればいいんですけれどね。この調子だと‥‥どうでしょう」
 CappelloM92の引き金を引く瞬華が、銃声の合間に炬魄へと尋ねた。
「下までみっちりと『詰まった』状態でなければ、様子も見に行けるだろうな」
「そうですね。少し心許ない面もありましたが‥‥人数もそれなりにいますし、相当数は排除できると考えて、いいんでしょうか」
「そうできるよう、最善を尽くすのみだ。また後に回して面倒事が膨らむのは、御免こうむりたいからな」
 言葉を返しながら炬魄はまたモウイングを振るい、目の前の蟲を刈り取る。

 群れを削り取るように進む者達に、それを囲む蟲の群れの層も徐々に薄くなり。
 休みながらもそれを排し続け、やがて一行は第二階層へ到る通路へと辿り着いた。

●確認
「それぞれの階層には、一種『縄張り』のようなモノがあるのかしら」
 第二階層、そして第三階層を抜けた千春が、怪訝な表情で呟く。
 下の階層では、蟲達の『抵抗』も第一階層ほど激しくはなく。
 十三人は、第四階層まで足を踏み入れていた。
 第二階層の奥で二手に分かれ、第五階層へのショートカットと第三階層への入り口とを同時に確保すべきではないかと一が提案した。が、十分な連携がなされていない状態では逆に不必要に戦力を分散させる事となり、逆に危険が伴う可能性もあり。
 結局、一行は十分な休息を取った後、一丸となって順番に下の階層へと進んでいた。
「確かに、通して見れば場所ごとで明確にNWの形態は違うが‥‥階層ごとの環境が影響している可能性もあるんじゃないか?」
 先頭を歩くCardinalが、前方を見据えたままで千春の見解に応え。
 セナもまた、階層を指折り数えた。
「砂の第二階層は、昆虫のような種。水の第三階層は水棲生物のようで、岩場の第四階層には四足獣のNW、熱風の第五階層がトカゲのような爬虫類‥‥ですか」
「第六階層は、ごちゃ混ぜだったがな。しかも、強いヤツ厳選っぽい感じで」
 着ぐるみの雪だるまを用意する氷に、真剣な表情で一が考え込む。
「回ってみた限りでは、白いNWもいませんでしたし、黒い『卵』も見当たりませんでした。となると‥‥残る可能性としては、第六階層に踏み込んだ事が、きっかけだったのでしょうか」
「どうかしらね。そればかりは、NWに聞いてみても判らないでしょうし」
「‥‥ですね」
 肩を竦めた千春を、困ったような表情で一が見やった。
 NWの意識は仔細な意識を持たず本能に近く、感染された者や生き物に語りかけても、真っ当な受け答えはまず期待できない。
 そうなれば、DSが如何にNWを操るのかという別の疑問が、湧き上がってくるのだが‥‥。
「ところで第五階層の『文』を見るだけの余裕は、ありますか?」
「見るだけなら、な。第六階層まで降りるとなると、また厄介な事になるし、みんな消耗しているから避けたい感じ?」
 首を回しながら氷が返事をすれば、黙ってアンリも頷いた。
「じゃあ、第五階層の様子を偵察してから『文』を確認して、狭い方のルートを通って第二階層に上がろうか。それで一通り、回った事になるしね」
 座ってアイスメタルの調子を見ながら休んでいた恭司が、ベースギターを片手に立ち上がる。
「そうだな。時間も限られていることだし、早く仕事を終わらせて、一服したいもんだ」
 炬魄が自分の肩を拳で叩いてほぐし、モウイングを杖のように突いて恭司に続く。
「きついようなら後退するから、そこは悪く思わないでね」
「ええ。そこまでの無理は、お願いしません。全員が無事に地上へ帰る事が、一番ですしね」
 念をおす千春に、一は笑顔で頷いた。
「それが済んだら、ひとまず終わり‥‥でしょうか」
 瞬華はぱたぱたと、手で顔を扇ぎ。
「後は、地上へ戻りながら残るNWがいないか、調べるだけ‥‥です?」
 答えながら水筒の水を一口含んだアンリは、カップを燐へと差し出す。
「ん〜。かな? ありがとう」
 笑顔で礼を告げた彼女は両手でカップを包み込んで、口へ運んだ。

 第五階層も、大掛かりなNWの群れの姿はなく。
 数時間を歩いた者達は、岩壁に刻まれた一文を目にした。
『 火山の神を封ずる 』
 現状では壁画よりは新しい年代で、現代よりは古い年代に掘られたとしか判らない文を、一行はしばし見つめて。
 奈落へ続くような、ぽっかりと暗い口をあけた通路に背を向けて。
 ひとまずは群れていたNWの掃討を完了した者達は、地上への道を引き返した。