幻想寓話〜第三企画会議ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 08/19〜08/21

●本文

●三度目の企画会議
 イギリスは、ロンドン郊外にある映像製作会社アメージング・フィルム・ワークス(AFW)。
 そのミーティングルームの一室で、監督レオン・ローズと脚本家フィルゲン・バッハは顔をつき合わせていた。
「フィルゲン君。あと三ヶ月もすれば、『幻想寓話』も二周年を迎える事となるのだよ」
 いつになく真剣な表情で、どんとレオンがテーブルを叩く。
 いつもの様にアイディアをまとめるメモ用紙に、ぐりぐりと謎の曲線を書いていたフィルゲンは、珍しく真面目に仕事をする気になっているっぽい相方を見上げた。
「‥‥それで?」
「うむ。折角の区切りであるからして、従来のドラマとは何か毛色の違うものをやってみぬかと考えておるのだがな」
「‥‥毛色を変えても、一皮剥いたら中身は同じな気がするんだけど」
「いかんぞ、フィルゲン君。たまには、向上心というものを持たねば」
 偉そうに胸を張って指を振るレオンに、脚本家は頭痛を覚えてこめかみを押さえた。
「たま‥‥なんだね」
「常から全力で向上していては、疲れるであろう?」
「‥‥君の場合は、もう少し向上する機会を増やした方がいいと思うけど」
「いいかね、フィルゲン君。切り札というのは、滅多に出さぬものであるから、切り札なのであるぞ」
「レオンの向上心は、切り札なのか‥‥」
 今度は、大きな溜め息をつくフィルゲン。相変わらず、どこかアッチの方向へ逝っているレオンの言動は、時たまどころか日常的に不可解だった−−それなりに、長い付き合いをもってしても。
「それで、今回はなに?」
 いつもの如く、フィルゲンは話の軌道修正に努める。
「うむ。二周年を前にして、役者諸君からも何かやりたい話の希望なぞないか、話を聞こうと考えていてな。少なからず、演技の端々で思うところもあるのではないかと思うのだ」
「もしかして‥‥懇親会っぽいニュアンスも、含まれてる?」
「100%全力投球では、疲れるであろうからな」
「ホント、遊びを混ぜる事に関しては、全力だね」
 かっかと笑うレオンに、またフィルゲンが小さく嘆息した。
「常日頃から言っておるであろう。物事に緩急は必要であると!」
「いや。レオンの場合は緩急じゃなくて、緩みっぱなしだと思うんだけど」
「なにーっ!」

●今回の参加者

 fa0094 久遠・望月(22歳・♂・獅子)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa3728 セシル・ファーレ(15歳・♀・猫)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)
 fa5669 藤緒(39歳・♀・狼)

●リプレイ本文

●待ち合わせはAFW前
 最高気温は23〜25度、湿度約60%前後。
 北海道よりも高い緯度にある夏のロンドンは、日本と較べるとかなり涼しい。
 晴れた空の下、アメージング・フィルム・ワークス(AFW)の前には一台の大型ワゴンが停まっていた。
「何か、久々に事務所へきた気がするなぁ」
「ほぅ‥‥で、何故に車があるのだ?」
「ああ、これ?」
 倉庫のような建物を眺めていた久遠・望月(fa0094)は、疑問顔なレオン・ローズの脇を通り、座席のスライド式ドアを開く。
「チャーターしたんだ。これなら俺の免許でも運転できるし、少し遠くまで足を延ばせるし」
「わ〜い、ピクニック〜!」
 喜んでセシル・ファーレ(fa3728)が車内へ乗り込むと窓際の席に座り、例によってクマのヌイグルミが顔を出すリュックを膝の上において抱いた。
「みんな、早く早く〜っ」
 楽しげに手を振って呼ぶセシルに、羽曳野ハツ子(fa1032)と深森風音(fa3736)は顔を見合わせた。そんな二人の後から、シャノー・アヴェリン(fa1412)が続く。
「‥‥ピクニック‥‥いいですね‥‥」
「行く先、決まってるの?」
 座席に座りながら尋ねるハツ子に、運転席へ乗り込んだ望月が頷いた。
「俺の一押しは、キュー・ガーデンズあたりかリッチモンドかな。他に皆が行きたいところがあれば、そっち回るけど」
「私としてはブライトンのビーチで、セシルさんやシャノーさんの水着姿でも堪能したいかな」
 冗談めかして笑いながら、風音もステップに足をかける。
「‥‥どこです、それ?」
 名前を聞いても今いちピンとこないのか、月詠・月夜(fa5662)は振り返ってレオンに聞いた。
「キュー・ガーデンズとは、巨大な植物園であるな。温室もあれば、庭園も整備されている。その近くにあるかつての王室保養地だった町がリッチモンドで、やはり巨大な公園がある。ブライトンは更に南、イギリス海峡に面したリゾート地なのだよ」
「そうなんですか」
「ブライトンまで行くかい? 狭いところで話するよりも、いいだろ」
 気遣う望月に、風音が首を横に振る。
「私なら、気にしなくていいよ。望月さんが行きたいところで、構わないから」
「ん〜。じゃあ、『仕事』を終わらせたてスッキリした後で、ブライトンまで足を伸ばすとかもいいかな。あ、クーラーボックスに飲み物入ってるから、好きに飲んでいいよ」
「そうそう、先日年寄りじみてるなんて言われてしまってねえ。だからセシルさんに抱き付いて、若さの栄養補給でもやっておくよ」
「じゃあ、僕がナビでも‥‥って、何?」
 視線を感じていたフィルゲン・バッハが、視線の主へ目をやった。車内からは風音に抱きつかれたセシルが、じーっとフィルゲンとレオンを見つめ。それから、ようやく思い出したように、ぽんと手を打つ。
「みそじーーーず!」
「‥‥味噌?」
 奇妙な表情をする二人を他所に、何を思ったかセシルは即興で作ったらしい『三十路の歌』を歌い始め、無邪気に歌い続けた。
 移動の車中、ずっと。
 ずーっと。

●庭園放談
「いかにも、妖精が出てきそうな場所だろ?」
 望月が案内したのは、キュー・ガーデンズの中でもイングリッシュ・ガーデンをテーマとしたエリアだった。
 今が盛りの花と緑の中を散策した一行は、庭園のカフェ・スペースで『会議』を始める。
「‥‥『幻想寓話』ですが‥‥『あらいぐまフィルゲン』など‥‥どうでしょう‥‥」
 まず真っ先に、シャノーが真顔でそう切り出した。
 真剣な表情で話を聞く態勢だったレオンとフィルゲンは、揃って紅茶を吹く。
「な、ななななーっ!?」
「ちょ‥‥シャノー君!?」
「‥‥物語は‥‥動物大好きな少年が、森で‥‥アライグマの赤ん坊を‥‥拾うところから‥‥始まるのです‥‥」
 二人の動揺を他所に、シャノーは淡々と語り始めた。
「‥‥フィルゲンと‥‥名付けられたアライグマは‥‥すくすくと育ち、村の人気者になりますが‥‥しかし、成長すると共に‥‥野性に目覚めたフィルゲンは‥‥」
「待ってっ。それ、聞いた事あるから。どこかで聞いた事あるからぁぁぁ〜っ!」
 悶絶するフィルゲンの様子に、くすくすと風音が笑う。
「‥‥ダメですか‥‥では、新感覚幻想寓話『レオン監督』と題し‥‥レオン監督の、日常生活を‥‥流し続ける‥‥」
「ある意味レオンの生活はファンタジーだけど、それはそれで問題あるからぁぁぁ〜っ!」
 不思議そうなシャノーは、のたうちっぱなしのフィルゲンの反応に小首を傾げた。
「‥‥そうですか‥‥? 1期10話で全5期、加えてスペシャル版2話の52回シリーズで‥‥見所は、第32話の‥‥『筋トレし過ぎて‥‥フィルゲンさんのお腹が、見事に割れるシーン』‥‥なのですが‥‥」
「割らないっ。ていうか、52話とかないからっ」
 ガクガクとフィルゲンが震え、ハツ子は声もなく机を叩いて笑い転げている。
 最初にトンデモな意見を出せば、後の者がプランを出しやすかろうという、シャノーなりの『配慮』であったが‥‥別の意味で、ハードルを上げてしまったようだ。
「困ったね。シャノーさんを上回るネタとなると‥‥そうだね。年老いた偏屈な竜に振り回されていたアライグマの青年が、知恵と友情と愛の力で竜をやりこめるお話とか」
「いや、上回らなくていいから‥‥」
 真剣に考え込む風音に、脱力したようにフィルゲンが項垂れた。
「‥‥まあ、それは半分冗談として」
 苦笑して咳払いをすると、風音は話を『本題』へと戻す。
「有名なとこで、クー・フーリンの伝承の一つをちょっと編成し直してみるとか、どうかな。続き物としても考えられるしね。
 確か、ビルデフラウはもうやったっけ? 後は‥‥幸せという意味の守護霊ハミンギャを題材にして、幸運を近しい人に貸し与えて、苦難を乗り切ったとか。霊なんで見える話せるというんじゃなくで感じれるといった風になるかもしれないけど。少し毛色を変えてみるなら、戦場での人間ドラマで『勇気とは何なのか』って内容で、北欧神話のワルキューレに絡めてみるとか」
「やりたい物語があれば、すぐシナリオ起すよ? 妖精や精霊の話なら、花の妖精‥‥例えば、アルラウネなんかどうかな? 面白どころでは、シュリーカーとかもあるだろうけど」
 風音に続いて、望月が妖精路線を提案すれば、考え込みつつフィルゲンがメモを取った。
「となると、従来の『幻想寓話』の形で‥‥という事になるね」
「勧善懲悪なお話を、悪の側からの視点でのみ作った物語は‥‥無理です? いつもとは変わった感じのモノが、見れそうですけど」
 月夜の言葉には、レオンが渋い顔で唸った。
「う〜む‥‥何というか勧善懲悪的な表現は、『幻想寓話』のカラー云々以前に、我らのカラーでもないのだよ」
「‥‥それじゃあ、日本の作家さんが書いたお話の『ごんぎつね』をハッピーエンドで‥‥とかは、やっぱりは番組的に難しい‥‥でしょうか」
 タイトルに聞き覚えのないレオンとフィルゲンは、互いに顔を見合わせて。
「それは、いわゆる『昔話』なのかな? 近代に作られた話なら、書いた人が亡くなって70年以上経っていないと難しいけどね」
「そこまでは‥‥ちょっと判らないです」
 フィルゲンに聞かれ、首を傾げて月夜が悩んだ。

●因縁
「セシルが思い浮かんだのは、これ一つだけなんですね‥‥『ニーベルングの歌』をするのは、どうかなって」
 セシルの言葉に、レオンはちらりとフィルゲンを見やりながら腕を組んだ。
「『ニーベルングの歌』であるか‥‥」
「物騒なことばかりで、『表』として触れた事はなかったですし‥‥そのままではなく、それに纏わるエピソードにしてみたり、アレンジを加えてみたり。本筋として、用いたりしたり」
「そうね。私もセシルちゃんと同じで、『ニーベルングの歌』を個人的にやってみたいわね」
 そして残る一人となったハツ子も、セシルに同意する。
「素材は十分と言えるほど集めたと思うし、面白いアプローチができるんじゃないかしら? 想定する主役はジークフリートではなく、クリームヒルト。ジークフリートの死から始まり、クリームヒルトが倒れるまでを描いたドロドロな復讐劇とかね。CGに、東洋映画のワイヤーアクションをふんだんに使った、バリバリな戦闘モノでどう? ハイスピードなバトルアクション全開、従来のファンに「こんなのは幻想寓話じゃない」と言われてしまうくらいの、ノリノリな演出で‥‥」
「や、それは‥‥」
 やはりレオンはフィルゲンの反応を窺いつつ、言葉を濁した。
「人間、30歳にもなれば守りに入ってしまいがちだけど、芸能人たるもの日々チャレンジする気持ちを忘れちゃダメよ。そんな訳で、ここらでひとつ新境地を開いてみてはどう?」
 なおも言い寄るハツ子は、渋るレオンの頬をむにむにと引っ張る。
「いひゃ、もとひょり、ふぃるげんくんがひゃ」
 もごもごと喋るレオンにハツ子がフィルゲンを見やれば、脚本家は困窮した複雑な苦笑いを浮かべていた。
「もふゲンさん、もしかして嫌なんですか?」
 小首を傾げて、セシルが尋ねる。
「正直言えば、題材にはしたくない。欺瞞と復讐に満ちた物語で、退廃的な魅力はあるかもしれないけど‥‥だからこそ、僕はあの話は書きたくない。それでもって言うなら、申し訳ないけど望月君にホンを書いてもらう事になるかな‥‥」
 髪を掻き、沈痛な面持ちでフィルゲンは嘆息する。
 事情を知る者もよく知らない者も、その様子に顔を見合わせ、言葉を控え。
「えっと、確か8月4日がフィルゲンさんの30歳のお誕生日でしたよね。遅くなりましたが‥‥ハッピバースデー・トゥー・ユーです♪」
 場の空気を変えるように明るく月夜が切り出して、白い箱を取り出した。
「アライグマの絵を書いた、手作りケーキを持って来ました。ちゃんとロウソクも30本持ってきましたから、差します? 一息に吹き消すところ、カメラで撮りますよ」
「いや、それは‥‥有難いけど、30本も火をつけるのは危ないし、絵もグチャグチャになるから‥‥」
 先程までの重い空気を払拭するかのように、賑やかな笑い声がカフェ・スペースに響いた。

 一通り『仕事』の話を終えると企画素案はレオン預かりとなり、後は自由行動となった。
 庭園の緑を散策し、あるいは風音が希望したブライトンまでのドライブを楽しむ。
 ブライトンへ到着すると、砂浜で砂遊びに興じたり、波打ち際で波と戯れて遊び。

 ただフィルゲンの表情は、最後までどこか晴れなかった。