MusicFesta〜戦場海の家アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 3Lv以上
獣人 フリー
難度 普通
報酬 6.6万円
参加人数 9人
サポート 0人
期間 08/22〜08/24

●本文

●ミュージック・フェスタ開催
 夏空の下で、心行くまで音楽を楽しもう−−。
 そんな主旨で、今年も『ミュージック・フェスタ』が開催される。
 J−popの大手プロダクション、アイベックスが主催とあって大物アーティストが登場する、話題の野外イベントだ。
 今年も夏がやってきた。
 そして、真夏の音楽の祭典が始まる。

●海の家での販売競争!
 今年のミュージック・フェスタは、海辺でライブを行う事に決まった。
 ビーチサイドで大々的に、しかも今回は音楽業界だけに留まらず、様々なイベントでライブを盛り上げる。
 例えば、人気バラエティ番組『とにかく捕まえろっ!』の出張版。一風変わった趣向のライブに、砂浜でのビーチ・スポーツなどなど。
 夏の太陽の下でバカ騒ぎをしよう−−そんな趣旨の裏では、先日から起きている始皇帝陵を騒動を巡っての緊迫した空気の一掃、あるいは獣人達へのねぎらいといった意図も、込められていた。

「それにしても、まぁ‥‥いろいろやるもんだな」
 紫煙を吐きながら、ライブハウス『Limelight』オーナー佐伯 炎(さえき・えん)はアイベックスより届いた企画書に目を通す。
 友人である音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は、『ミュージック・フェスタ』の開幕を告げるライブを任され。
 そして佐伯もまた、『協力』を要請されていた。
「海の家で、販売競争‥‥ね」
 ミュージシャンにも、また他の業界の芸能人にも、意外に料理を得意とする者は多い。
 その為か企画の一つとして、芸能人達がそれぞれチームを組んで『海の家』を営業し、その売り上げを競う『販売競争』が挙げられたのだ。

 三人一組となり、三つのチームが『海の家』で売上げを競う。
 売る相手は、『ミュージック・フェスタ』に参加する一般の人々。
 勝敗の結果は売上げで決まるが、売上げを上げるためには味や見た目はもとより、サービスや『海の家』周辺の美化など、総合的な観点で考えねばならないだろう。

 佐伯が任されたのは、食材調達といった裏方からのサポートと、料理の内容の『監督』。
 遊びに来てくれた客に、体調を崩すような物を食べさせる訳にもいかない。
「俺は『薬物抵抗』とかできねぇってのに、殺す気か」
 苦笑しながら、佐伯は企画書をウチワ代わりにして顔を扇いだ。

●今回の参加者

 fa1234 月葉・Fuenfte(18歳・♀・蝙蝠)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2521 明星静香(21歳・♀・蝙蝠)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa3211 スモーキー巻(24歳・♂・亀)
 fa4622 ミレル・マクスウェル(14歳・♀・リス)
 fa4768 新井久万莉(25歳・♀・アライグマ)
 fa4840 斉賀伊織(25歳・♀・狼)
 fa4892 アンリ・ユヴァ(13歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

●只今準備中
 朝、現場に入ると、浜辺の特設スペースにはライブ用のステージや、イベント用スペースなどが既に出来上がっていた。
 それらに混ざって建つ、やや風変わりな三つの海の家。それが、ミュージック・フェスタ開催中に通して行われるイベント、『海の家対決』の会場である。
 スタッフ達と同様に、朝から芸能人達が現地入りし、準備に励んでいた。

 三組で対決される海の家の一つ。チーム『Riposo』のそれは、比較的ごく一般的な馴染み深い作りに近い。
 店の前には鉢植えのシュロが置かれ、僅かな涼を呼んでいる。
 その隣でペンキの刷毛を手にしたアンリ・ユヴァ(fa4892)は、ベニヤ板に色を塗っていた。
「これで‥‥どうでしょう?」
 出来上がりに一息つき、アンリが額を拭って見上げれば、作業を見守っていた斉賀伊織(fa4840)は笑顔で頷いた。
「うん。可愛いんじゃないですか?」
 ゴミ箱に貼り付けたベニヤ板には、少々いびつながらもクジラの絵が描かれている。
『ここにゴミを入れてください』と書かれた口にゴミを入れれば、中のゴミ箱に入るようになっている。
 一方、厨房ではスモーキー巻(fa3211)が、忙しく料理の下ごしらえに専念していた。
「そちらが終わったら、こっちも手伝ってもらえるかな」
「判りました」「はい‥‥」
 厨房から呼びかけるスモーキーに、二人の女性は揃って答えた。

 海辺という雰囲気にあわせ、海の家に作り物のヤシの葉や、熱帯方面の花の造花など南国を思わせる緑をあしらったのは、チーム『Entertainer’s cafe』。
 風鈴が揺れるガラスのない窓へ、月葉・Fuenfte(fa1234)と角倉・雨神名(fa2640)が仲良くハイビスカスを飾っていた。
「う〜ん、これでどうかな?」
「そうですね。久万莉さん、こちらはこんな感じでいいでしょうか?」
 雨神名は小首を傾げ、月葉が店の前で釘を打つ新井久万莉(fa4768)へ尋ねた。
「え? う〜ん‥‥中々、いい感じね。後はそこの葉っぱを少し控えめにすると、外が見えやすくなって、もっといいかな?」
「控えめ、ですね」
「じゃあ、これくらいかな〜?」
 釘を打つ手を止めた久万莉は、相談しながら作り物の緑の位置を整える二人を見守り。
「これが終わったら、次は料理の準備‥‥かしらね」
 次の段取りを考えながら、彼女は再び釘を打つ作業に戻った。

 最後のチーム『Pirates treasures』は、海の家の壁にドクロの旗を張り、束ねて積んだロープの傍らに樽や木箱を置く。
 相沢 セナ(fa2478)曰く、コンセプトは「君だけの宝が見つかったかな?」だとか。
「あとは、ティアラとか『お宝系』を飾ればいいかな?」
 ぐるりと店内を見回すミレル・マクスウェル(fa4622)に、セナが同意した。
「そうですね。でも、あんまり物を置いても移動の邪魔になりますから、そこは気をつけて下さい」
「気合、入れないとね。大勢の人に食べてもらえる、いい機会だもの。お客さんはおいしく食べてくれるかは、ちょっと心配だけどね」
 頭にバンダナを締めた明星静香(fa2521)もまた、忙しく料理の準備へ取り掛かる。
「ココナッツミルクに、切ったバナナを加えて‥‥砂糖と蜂蜜を混ぜて甘くして、ミントを入れて、と。はい、『バナナココナッツ』完成。どうかしら? 後は氷を入れて、冷やそうと思うの」
「わぁ。甘くて美味しそうですね」
 静香の試作品に、ミレルは目を輝かせた。

『店』の営業時間は、基本的に12時から19時まで。
 その間に三つのグループに分かれたメンバーは、それぞれの趣向を凝らした海の家で売り上げを競うのだ。
「食材や飲み物が足らなくなったら、補充の連絡をしてくれ。夏場だし場所が場所だから、衛生面は特に気をつけろよ。それから開始前に出す料理を確認するんで、そっちの準備もよろしく」
 準備を進める者達へ、監督役の佐伯 炎が諸注意をして回る。

 やがて陽が南へ高く上る頃は浜辺も人で埋まり、正午と同時に『対決』が始まった。

●各組動向
 昼の時間とイベントだという物珍しさが重なってか、各海の家での客足の滑り出しは、比較的均等だった。
「さて、それじゃ頑張っていこうか」
 物珍しげに品定めをする客の様子に、『Riposo』ではスモーキーが笑顔で『チームメイト』へ声をかける。エプロン姿の伊織と、特製シークレットうさ耳とワンピース水着で即席なバニーガールに扮したアンリが強張った営業スマイルを返した。
 メニューは、パスタとタコス。だがタコスはともかく、パスタは大量に種別を揃えられる物ではない。基本だけでもホワイトソースベースにオイルベース、トマトソースベース、そしてあえて分類として加えるなら和風ベースがある。
 当初の予定では、定番メニューを一通り。すなわちカルボナーラとペペロンチーノ、ナポリタン、ミートスパ、スープスパ、そして冷製パスタの6種以上を予定していた。だが「市販のソースをかければ終わる」ようなものならともかく、全てを作るとなると三人でも圧倒的に手が足りない。
 その為、パスタのメニューはペペロンチーノとナポリタン、ミートスパ、冷製パスタの四種に絞った。
 またタコスも普通、辛口、激辛と三段階を用意する。
 値段はパスタが1皿600円。タコスは1つ400円で、3つセットならば1000円に割り引き。ドリンクは100円とし、料理を注文した場合は1品につき1本サービスするという料金体系だ。
 メニューは外に大きく掲げ、伊織はパスタをメインに、アンリがタコスをそれぞれ担当する。スモーキーが接客と会計にあたり、他にアンリは片付け要員も兼ねていた。

「いらっしゃいま‥‥あ、あれ? これじゃ、包丁が持てません‥‥」
 海賊風の服装を纏ったミレルはフック型の『義手』をつけた右手を振って、客から笑いを取っている。
 海賊の住処風の飾り付けをした『Pirates treasures』では、セナと静香も『海賊』に扮し、接客と料理に専念していた。
 メニューは海の家の王道を踏襲し、カキ氷に焼きソバ、アイス、ホットドックに柔らかめの杏仁豆腐、バナナココナッツ。それに時間限定メニューとして静香お手製のピリ辛の冷やし中華。
 これらの料理は全て500円均一で、ソフトドリンク類は200円に設定した。
 ワンコインで会計ができる分、量と『サービス』でカバーするという方針だ。
「麗しいお嬢さん方には、レモン水と金平糖を少々。野暮な連中は俺が近付けさせないから、ゆっくり寛いでくれ」
 女性客へ愛想をふりまくセナは、男性客を−−時に荒っぽく−−『お断り』し。
 海の家は女性客ばかりの中に彼一人という、ハーレムのような様相になりつつあった。

『Entertainer’s cafe』は、従来の『海の家』から最もかけ離れていた。
「いらっしゃいませ」
 まず、メイド服をイメージした黒のビキニ−−トップスの肩紐やカップを白のフリルが飾り、ボトムにはマイクロミニ丈のスカートが付ている−−姿の月葉が、店に入ってきた客へ丁寧に挨拶する。
「おすすめは、冷たくてふんわりおいしいアイスクレープ。うかなも食べた事あるのですけど、つめたーいアイスに、ほんのり甘いクレープ生地が、もう最高ですっ! なので、自信を持ってお勧めできます。どうぞ、お試し下さいね☆」
 メニューをすすめる雨神名もまた、『妖精』をイメージして青いタンキニ水着に結び目に造花をあしらったパレオを巻き、腕にかけた白いオーガンジーの細長く薄い布を、ひらひらとそよがせている。
 メニューはジェラートにパフェ、冷製汁粉、杏仁豆腐、クレープ類、かき氷、塩アイス。他のチームとの差別化をはかった三人は、甘味系軽食とデザート中心で攻めていた。
 そしてソフトドリンク各種に混じって、何故か裏メニューとして『泥珈琲』も名を連ねている。
 無論、その怪しげな商品名に好奇心をそそられる客もいたが。
「はい。やたらと濃くて熱い、泥のようなブラックコーヒーです」
 にっこりと返す雨神名の笑顔に、逆に不安を覚えたか。実際にチャレンジする者は、(幸いにも)皆無だった。

 ステージでライブが始まる頃には、客足も一時的に落ち着き。
 各イベントの合間合間に、ピークがやってくるといった感になってくる。
『Pirates treasures』は、それまでの限定メニューだった静香のピリ辛の冷やし中華を、ミレルのボンゴレスープに切り替える。アサリとキャベツをブイヤベースで煮込み、仕上げに静香が使っていたピリ辛のタレを隠し味に加えた一品だ。
「夏バテ解消に、どうかしら? 辛くて美味しい料理で汗を流せば、ダイエット効果もあるかもしれないわね」
 それまで調理に専念していた静香は、限定メニューを交代して手の空いた機会をみては、カウンター越しに客へ声をかける。
「ちょっと辛いので、一緒にお飲物はいかがです?」
 スープを盛り付けながら、更に笑顔でミレルが売り込んだ。
 変わらずセナが睨みをきかせるため、カップルでもない限り男性客はほとんど店へ入ってこれない状況だった。

「 水平線 沈み行く夕日映し
  一つの日 終わりを告げて
  楽し 嬉し 心に笑顔抱いて
  一時は永久の想い出に‥‥ 」
 月葉が『Entertainer’s cafe』の店先に立ってアカペラを披露し、客の足を止める『作戦』に出た。
 デザート中心の海の家である事と、雨神名や月葉の「セクシー・アピール」もあって、客層は女性のみならず男性も多く。結果、まだ13歳の雨神名は少々『怖い体験』をし、慌てて久万莉が彼女を救出するという一幕もあった。
「これだと、雨神名は女性のテーブルをメインにした方が良さそうね」
 どうしても流れてくる男性客と、女性ばかり接客するという状況が生んだ出来事に、久万莉は苦笑いをしながら雨神名の頭を撫でた。

 また『Riposo』でも、店頭の伊織がちょっとした手品を披露していた。
「種も仕掛けもない、このすりこぎ棒。ですが、少しばかり癖がありまして‥‥この通り、目を放すと飛んでしまうのです」
 伊織の両手の間で浮遊する棒を、不思議そうに子供が眺めている。
 売れ行きとしては、家族のようなグループにはタコス3つのセットがよく出るものの、同額でパスタとタコスを購入して分けるというパターンが多く。特にカップルでは、その傾向が顕著だった。
「今の間に少し休んで、水分補給をしておいて下さい‥‥。伊織さんの分もありますから‥‥」
 混雑が小康状態になったのを見取ったアンリは、スモーキーに声をかけ。それからいそいそと店を出ると周囲を回り、楽しげな声を聞きながら落ちているゴミを拾い集めた。

 陽が傾き、最後のライブの時間が近付いてくるにつれて、人の流れは再び増加に転じた。
 最後のライブが始まる前に海の家は営業を終了するため、その前に腹ごしらえしようという人や、まだ海の家へ足を運んでいなかった人達がやってくる。
 ラストスパートとばかりに、各組は呼び込みや売り込みに力を入れ。
 そして19時を迎えると同時に、三組の『販売競争』は終了した。

●勝敗の行方
「それじゃあ、計るからな」
 最後の客が引けたのを見計らって海の家を訪れた佐伯は、三組の『売り上げ』をその場で集計機にかけた。
 はじき出される数字を、9人が固唾を呑んで見守る。
 その結果は‥‥。
「ん〜、トップは『Entertainer’s cafe』。後は僅差で、『Pirates treasures』に『Riposo』の順番ってトコだ。いい勝負だったな」
「よかったですね!」
「はい!」
 月葉と手を取り合って喜ぶ雨神名の目は、ちょっと潤んでいる。そんな二人の様子を嬉しそうに眺める久万莉が、改めて佐伯を見やった。
「でもさ。勝ち負け関係なく、打ち上げやりたいね。佐伯さん?」
「‥‥出張料金をするぞ」
 腰に手を当てて、佐伯が大きく嘆息する。
「でも、残った食材とかあるわよね‥‥」
「うん。勿体ないよね」
 わざとらしく思案を巡らせる素振りの静香に、ミレルが調子を合わせ。
「片付けもありますけど、お腹も空きましたよね」
「そういえば、忙しくて‥‥あまり食べてません」
 セナに続いて、呟くアンリも腹を手で押さえた。
「それはそれで、貴重な体験をさせてもらったから、僕からは特にないけど‥‥」
「でも、花火を見ながら海の家で御飯も、滅多にない贅沢ですよ」
 苦笑するスモーキーに、伊織がこっそり進言し。
「あ〜、判った判った。今回の企画自体、一種のイベントの賑やかしだからな。特別に、適当にディナーを見繕ってやるよ」
 左右に首を振りながら、佐伯は物量としては圧倒的に不利な状況に折れた。

 浜辺には音楽が響き、やがて夜空に大輪の花が咲く。
 それを眺めながら、9人は『Entertainer’s cafe』で残り僅かな夏のひと時を堪能した。