EtR:第六階層ヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
13Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
282.4万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
08/28〜08/31
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●本文
●夜歩く者達の領域
−−火山の神を封ずる。
第六階層へ到る通路の入り口には、そんな一文が大きく乱れた文字で刻まれていた。
そこは第五階層を単独で行動する『ヘルメス』が、「足を踏み入れる事が出来ない」と表現した場所だ。
第六階層への通路を降りた者達が見たのは、遺跡の地上部にある石柱と同じような石柱が立つ、これまでの殺風景な階層とは違った光景。そして、多様なNWが蠢く領域でもあった。
第六階層へ足を踏み入れた途端、侵入を許さぬと言わんばかりにNWが探索者達に襲い掛かってくる。それも、これまでの小型のNWが群れで襲ってくるケースとは違い、中型から大型サイズのNWが群れを成しているという、厄介な状況で。
探索は第六階層のほんの入り口部分のみに留まり、そこから先はいまだに未知の領域−−封じたという『火山の神』の意味するものも含めて−−となっていた。
そしてまた、探索者であり討伐者となりうる者達が集められる。
目的は僅かでもNWの数を減らし、探索の基盤を作る事。
可能ならば、『火山の神』について何らかの手がかりを得る事。
ただし情報を持ち帰る事が最優先事項であり、無茶な突入は望まれない−−。
●リプレイ本文
●事前確認
「‥‥で? 最初の大騒動の時以来になるが、話に聞けば随分と面白そうな状況らしいな」
折りたたみ椅子へ深く腰掛けた犬神 一子(fa4044)は、腕を組み、足を組んで話を切り出す。
遺跡に向かうにあたって、一同はその前に顔を合わせた。久しく遺跡に踏み入れる事のなかった者もいるため、意見の交換や情報の整理を兼ねて、現状を説明する為だ。
一子が座る椅子のパイプが重量に耐え切れずに、へしゃげる予感を覚えながらも、早切 氷(fa3126)がぽしぽしと灰色の髪を掻いた。
「面白いと言うか、なんというか、説明がめんど‥‥ふぁ」
「まぁ‥‥状況も、面倒ですけれど‥‥」
答えながら大欠伸をする氷に、アンリ・ユヴァ(fa4892)がぽつりと呟く。
「そうそう、第六階層は壁画もあるんですよ」
「それは、気になりますね。どんな内容なんです?」
興味深げに尋ねる相沢 セナ(fa2478)へ、富士川・千春(fa0847)は笑って誤魔化した。
「え? え〜っと‥‥行けば判るわよ」
実際には、第六階層に足を踏み入れて目にしたものは、石柱と蠢く蟲の群れが精一杯。すぐに蟲達が襲ってきたため、壁に壁画があるかどうかなど確かめる暇すらなかった‥‥というのが現実だ。
「ぴ? 少し離れてる間に、だいぶかなりけっこうトンデモで色々と大変になってる?」
小首を傾げるベス(fa0877)に、Cardinal(fa2010)が重々しく頷く。
「そうだな。まみえた数もその種類も、全般が厄介らしい」
「ぴぇ〜‥‥厄介なんだ」
「だからこそ手練を募って、こうして雁首揃えてるんだろうが」
手頃な高さにあるベスの頭をぐりぐりと撫でながら、ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)が苦笑した。
「ぴゃっ、髪がぐしゃぐしゃになるよ〜っ」
「もっとも、ベスはその辺の自覚、あんまりなさそうだけどな」
どこか感心した風なシヴェル・マクスウェル(fa0898)の言葉に、ヘヴィに遊ばれて乱れた髪を手櫛で直すベスは「ぴよ?」と不思議そうな顔をする。
「なんの自覚?」
「無自覚の自覚」
「ぴ‥‥ぴぃ?」
難しそうに眉間に皺を寄せて考えるベスの様子に、ヘヴィとシヴェルは顔を見合わせ、互いに肩を竦めた。
「で、壁に書いてあったっていう『火の神』ってのは? よもやトウテツみたいな、でっけぇ化けモンだったり‥‥しねぇよな」
集まっているのは同胞の獣人ばかりであるにも関わらず、相変わらずパンダ覆面を付けた常盤 躑躅(fa2529)が、若干嫌そうに確認する。
「それもまだ、未確認。これまでの階層も、広いからな‥‥もっともトウテツ級の大きさとなると、逆に通路を上がってくる事も出来ないだろうけど」
何度目かの欠伸混じりで、面倒そうに氷が説明した。
「あの文章の意味を知るためにも‥‥まず露払いを、しないとね」
手のかかる『仕事』に、千春は小さく嘆息し。
「私では力量不足である事を承知してはいますが‥‥足手まといにならないよう、気をつけます‥‥よろしくお願いします‥‥」
緊迫した空気に、改めてアンリが深々と頭を下げた。
●ひと針の孔を穿つ為に
限られた時間を惜しみ、地下へ降りるルートは最短距離である、第二階層と第五階層を直接繋ぐ狭い抜け穴のような階段を選択する。通路の幅が狭く、更に時おり吹き上げてくる熱い風に苦心しながら第五階層へ辿り着いた一行は、いつもの様に第四階層へを繋がった広い通路へ移動し、短い休息を取った。その後に、第六階層への通路がある奥へと向かう。
「ところで、『ヘルメス』って道と旅の安全を守ってくれる神様なんだよね。ヘルメスたんも守ってくれるところ、あるよねぇ?」
壁に沿って歩きながらのベスに、暑そうな氷は手で顔を仰ぎながら唸った。
「ん〜‥‥アレは安全よりも、冥府案内人っぽい感じがするがな。案内はしても、なんかあったって戦ってくれなさげだ」
「ヘルメスの素性も、はっきりしていませんしね‥‥ところでやっぱり、雪だるまがないと暑いですか?」
後ろで一つに束ねた髪を揺らしてセナが尋ねれば、内部が一定気温で保たれる着ぐるみの雪だるまを愛用していた氷は恨めしそうに、そしてそれすらも面倒そうに首を縦に振る。
「仕方ないけどな〜。パラディオンなんか、結構な重さだし」
「更に装備が『念入り』とくると、暑さも増すよな‥‥」
試みにヘヴィが竜の翼を動かしてみるものの、熱を持った空気が掻き回されるだけで涼の足しにもならない。
「本来、こんな所にまで連中の『獲物』は入り込んで来ねぇだろうし、遺跡の奥に潜むメリットってのはあんま無いように思えるんだがな」
「確かに情報体になって潜む媒体は多いけど、感染できる生き物も限られるものね。遺跡の目的は、最初は別のもので‥‥後から、こんな風になったのかしら?」
ヘルメス曰く、一時はNWの『食料貯蔵』に使われたという横穴に目を向け、千春が疑問を口にした。
「NWが、こんな遺跡を作るほどの文明‥‥みたいなのを持っているとも、考えにくいわよね」
「ああ。第六階層に、デカブツばっかゴロゴロしてるってんなら‥‥奥に何かあると考えるのが、自然だが。逆に考えるなら、奥にいる事が安全で‥‥連中が安全を必要とするナニカがあるって事になるか」
自身の思考と過去の探索とを照らし合わせると、嫌な予感が脳裏をかすめ‥‥ヘヴィは険しい顔を更にしかめる。
「つまり‥‥私達とは接触しない方がいいらしい、なにか‥‥でしょうか?」
付け加えるアンリに、氷が首を回してコキコキと音を鳴らす。
「そこまで確認できれば、一番良いんだけどなぁ」
「とにかく、進めば‥‥おのずとそれも判るだろう。その為にも今は、『仕事』を成功させねばな」
どこか哲学者めいた言葉で、先頭を歩くCardinalは一行に注意を促した。
彼が示す前方には、ぽっかりと黒い口を開けた問題の通路の入り口を確認できる。
それを初めて目にする者もそうでない者も、緊張の表情と共に、熱気で乾いた口内に浮いた唾を飲み込んだ。
「囮は、ベス‥‥か。無理はするなよ」
「まかせといてー!」
気遣う一子に、ぐるぐると肩を回しながらベスが応える。傍らのシヴェルは、ひらりと手を振った。
「足を引っ張っちゃ、元も子もないしな。いざとなれば、『幻惑光鎧』で引きつけるから」
「うん、お願いー!」
そして翼を広げて、鷹娘は広い空間へと飛び。
ものの数十秒もしないうちに、Uターンしてきた。
‥‥後ろに、片手ではまず足りない数の蟲を引き連れて。
「ぴゃあぁぁーっ、ここナニーッ!?」
「こりゃあ‥‥予想以上の、反応の早さだな」
少女の後ろの複数体の蟲を目にしたシヴェルは、苦虫を噛んだような表情ながらも、どこか愉しげに口角を上げた。
通路に置いた二つのパラディオンを、急いで氷が『起動』し。
慌てて戻ってきたベスが入り口の石柱の間を通り過ぎると同時に、目映い光が通路の闇を駆逐する。
突然の光に蟲達は一瞬怯んだものの、侵入者に牙や鉤爪を振りかざす。
そこへ耳をつんざく様な銃声と共に、鉛玉と矢が次々と甲殻へ叩き込まれた。
声なき咆哮は、痛みか怒りか。
最初に通路へ突っ込んできた甲虫型のNWが、節足を軋ませてのたうち、続いて角のある頭を振り回す。
すかさずアンリやセナと立ち位置を入れ替わったCardinalと一子が、危険を冒して蟲の頭を抑え込む。
続いて、脇や後ろに回っていた氷とヘヴィ、躑躅が、穂先と切先を突き立てる。
その動きが鈍ったところで、接近した千春が至近距離から『メキドの炎』のトリガーを引く。
全てを焼き払う炎の名を持つ拳銃より射出された弾丸は、甲殻のみならず肉を抉って蟲を引き裂いた。
弾けて四散する肉片に、眉を寄せる暇もあればこそ。
「次がくるぞ!」
言葉なき知らせを聞いたヘヴィが、仲間へ警告を飛ばす。
直後、まだ半壊しながらも蠢く肉塊を踏み、蜥蜴に似た蟲が通路に突っ込んできた。
●持久戦の末
NWの排除は、体力や戦力を消耗しないためにも一気に行わず。ある程度の時間を区切って休息を取り、日をかけながら計画的に進めていた。
だが二度や三度の『アタック』を経ても、第六階層に踏み込んだ際の蟲達の過剰なまでの反応は変わらず。
次から次へと向かってくるNWを狭い通路に誘い込み、常に真っ向からぶつかり合う状況では、『紛潜陰行』や『光学迷彩』といった不意打ち的な行動もあまり意味を成さなかった。
またそれが力や甲殻の厚さを武器に、弾丸の如く突き進んでくるタイプの蟲なら、まだ対処も容易い。が、問題は酸を吐いたり電撃を飛ばすような、遠隔攻撃の手段を持つ蟲だ。
「能力を封じるのも兼ねて、『闇波呪縛』で動きを鈍らせてみるわ」
「お願いします。こちらも、やってみますね」
囮のベスから状況を聞いて進み出た千春に、セナもまた名乗りを上げる。
負の波動で相手を鈍らせる『闇波呪縛』だが、相手に接触しなければならないというリスクがあった。
確実に動きを封じるならば、手数は多い方がいい。
「援護を頼みます」
セナの言葉に、アンリが黙って首を縦に振り。
接近戦に長けた者は一時下がって、状況を見守る。
ベスとシヴェルが協力し、巧みに蟲を通路へと追い込み。
アンリが注意を引くように、弾丸を撃ち込んだ。
四足の獣の如く俊敏なNWは、彼女へ向けて体躯と不釣合いな大顎を開き。
その口より攻撃が放たれる前に、千春とセナが飛び出した。
急に間合いを詰めた相手に、蟲は首を振り、鋭い爪を持つ前足を振り回し。
対する二人は、分かれて二方向よりNWへ迫る。
足掻く鉤爪が、肉を裂き。
あるいは、強靭な顎に引っ掛けられ。
それでも臆せず伸ばした手が触れると、蟲は一瞬痙攣し、その動きが鈍くなった。
「今です!」
「コアは腹側か。ひっくり返してやるぜ!」
ヘヴィは長柄の斧の石突を獣の胴体の下に突っ込むと、通路の段差を支点に、テコの要領で動きの鈍った蟲をひっくり返す。
そして斧を回した勢いで振り上げた刃を、重量に任せて振り下ろした。
厚い甲殻がひしゃげ、骨のない肉を断つ感触が、鉄の柄に伝わる。
血飛沫は上がらないものの、刃は深々と蟲の胴にめり込んでいた。
「せーのっ、と!」
気合と共に、躑躅が腕力を増した両腕で掴んだ日本刀を、コアへ突き立てる。
「千春ちゃん達、大丈夫か?」
気遣う氷にセナは頷き、千春は笑顔を返した。
「はい、大した傷ではありません」
「こっちも、すぐに支障が出るほどじゃないわ。それより、また来るわよ」
千春の言葉どおり、会話の間にも次の蟲が迫る。
「うらぁっ!」
掴み抑えた蟲を一子が持ち上げ、豪快に壁に叩きつける。
あるいは黙々と、Cardinalが甲殻の継ぎ目を引き裂く。
通路で仲間達が奮戦する間にも、ベスは『身代水形』で多過ぎる敵を引きつけ、シヴェルがそれを援護した。
通路の周りと内側は、NWの残骸で溢れ返り。
倒した数を数える事も、とうに面倒になってやめる。
与えられた期限と能力を限界まで使った十人は、遂には第六階層へ足を踏み入れても襲ってこない状態にまで蟲を殲滅せしめた。
「この石柱、あちこちに立ってるね。何か意味があるのかな?」
ぐるぐると、ベスが柱の周りを回ってみる。
「まだNWの退治も完全に終わった訳じゃないだろうから、気をつけてな」
そんな様子に、苦笑しながらCardinalが声をかけた。
入り口の両脇に立っていた物と同じ柱は、壁に沿って、あるいは何もない空間の中にも立っている。崩れる事なくそびえる柱もあれば、開けた場所にぽつんと立った物は特に、途中で崩れ落ちていた。また柱だけでなく石積みの壁の跡もあるが、NWによって崩されたのか、見渡す限りで完全に原形を留めている物はない。
その間にも千春が岩壁を調べてみるが、入り口付近の壁には特に壁画らしきものはなく。入り口に書かれた『火山の神』の単語の意図する物が何か、推測する材料すらない。
「このまま奥に行ったら‥‥どうなんでしょうね」
興味深げなセナに、ヘヴィがじっと奥を見つめ‥‥短い溜め息を吐いて、首を左右に振った。
「同じ事の繰り返し、だな。向こうがまだ、こちらに気付いていないだけで‥‥」
「どれだけのNWが、ここにいるんだか」
面倒そうに、一子ががしがしと頭を掻いた。
「ちなみに『火山の神』は、見えるか?」
「いや、ここから『見える』限りは‥‥『望遠視覚』を使っても、炎どころか蝋燭の火すら見えないな」
「まだまだ、蟲退治‥‥なのかねぇ?」
ヘヴィの返答に、氷が面倒そうに欠伸をする。
「これまた、見事なモンだな」
どこか呆れたようなニュアンスながらも、降ってきた賛辞の言葉に顔を上げれば。岩壁の傍に立つ石柱の上で『ヘルメス』が腰を下ろしていた。
「暢気に、高見の見物としゃれ込んでたな」
恨めしそうな氷に、青年はおどけた風に肩を竦める。
「しかし‥‥『火山の神』、か。こりゃ、難しいよな‥‥」
目を細めた『ヘルメス』は、芳しくない表情で唸った。
−−一度、上に報告すべきか。
そんな小さな呟きを、千春の敏感な耳が捉える。
「んじゃ、俺は一足先に失礼するから。気をつけてな」
怪訝な表情で見上げる千春に気付く様子もなく、ヘルメスは立ち上がった。そしてまるで水にでも潜る様に、傍らの岩壁の『中』へ難なく姿を消す。
「ま‥‥弾丸も薬も残り少ないし、時間も時間だ。こちらもそろそろ、潮時かね」
引き上げ時と判断したシヴェルが、見上げる者達を促した。