Limelight:月と、兎?アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
5.5万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
09/24〜09/26
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●本文
●Limelight(ライムライト)
1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
2)名声。または、評判。
●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいる。
「今年の中秋の名月は、9月の25日だってな」
グラスを磨きながら切り出す友人に、コーヒーカップの湯気を吹いていた音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は顔を上げた。
「確か一年前にも、そんな台詞を聞いた気がするけど?」
「いや、去年の事は‥‥置いといて、だ」
どこか遠い目で、『Limelight』のオーナー佐伯 炎(さえき・えん)が磨き上がったグラスを置く。
去年の中秋の名月の頃は、ちょうど秋の運動会『Powerful Sports Festival』が開催されていた事もあり。それに絡んだとある『賭け』をした結果、負けた佐伯は獣化してたてがみやら尻尾やらをもふられる羽目になった。
それを思い起こして忍び笑いつつ、川沢はカップを傾ける。
「じゃあ、今年はどこかへ月見にでも行くかい?」
「ん〜‥‥行きたいが、晴れるかどうか判らんし、仕事もあるからなぁ」
灰皿で静かに煙を立ち上らせていた煙草を咥え、佐伯はぷかりと紫煙を吐いた。
「だから、月の見えない地下だが月見ライブでもやろうかと思ってな」
「で、佐伯は賑やかしに兎の格好でもするのか」
冗談めかした川沢の言葉に、露骨に佐伯が嫌そうな顔をする。
「‥‥見たいのか」
「別に。私は、見たくないけどね」
素知らぬ顔で川沢が即答すれば、ごついオーナーはますます渋い顔で煙草をふかした。
●リプレイ本文
●余興
「賭け、だぁ?」
「そ、賭け」
あからさまに嫌そうな顔の佐伯 炎へ、ラシア・エルミナール(fa1376)が挑戦的に笑った。
「今日の入りが定員の9割以上なら、あたしらの勝ち。9割以下なら、佐伯さんの勝ち」
「いいね、賭け。俄然、ライブにも気合が入るしな」
楽しげにLUCIFEL(fa0475)がラシアへ賛同するが、佐伯は大きな溜め息をつく。
「それじゃあ、オッズが悪すぎて賭けにならんぞ。お前ら、自分の集客効果ってヤツを考えた事ないな」
「きゅ? 佐伯さん、勝ち目ないんですか?」
不思議そうにクロナ(fa5538)が首を傾げ、マリーカ・フォルケン(fa2457)は「どうでしょう」と苦笑した。
「で、賭けに負けたら、どうなるのカナ? 負けた方は月見団子を長靴いっぱい食べるとかなら、頑張って負けるケド」
「それだと、どうやって負けるんだろう」
物欲しそうな椿(fa2495)の視線を感じながら、希蝶(fa5316)は空いている花瓶を見つけると、道すがら川原から引っこ抜いてきたススキを適当にぶっ差す。
「‥‥いくら物欲しそうに見ても、食べられないわよ。ススキ」
それを凝視する椿へ、千音鈴(fa3887)が釘を刺した。
「‥‥初めて店に来てカラ、随分鍛えられたヨネ。音楽家としてはまだまだなのデ、イッパイ勉強スルネ‥‥だから、栄養源下サイ」
「殊勝に食いモンをねだるな」
擦り寄る椿を足蹴にしつつ、佐伯はラシアを見やる。
「で、賭けにのるかどうかは置いて、負けた方はどうすんだ?」
確認する相手に、彼女はにんまりと笑顔を作り。
「あたしらが負けたら、全員うさぎルックでライブ。負けたら佐伯さんがうさぎルックで、ライブのラスに1曲演奏するってのはどう?」
「え? 佐伯さん、うしゃぎになるの?」
ラシアの言葉の最後の方だけを聞きつけた紗綾(fa1851)が、キラキラと目を輝かせた。
「まだ、賭けの段階だけど‥‥なりそうだね。この様子だと」
他人事とばかりに面白そうに説明しながら、川沢一二三はコーヒーカップを傾ける。
「佐伯さんの演奏‥‥ぜひ、聞きたいですね」
ほんわり微笑む聖 海音(fa1646)だが、当の本人は渋い顔で指を振り。
「俺がうさぎルックでステージに立とうモンなら、客は速攻で全員帰るぞ」
「え〜、可愛いと思うけどなぁ。あ、僕もススキを買ってきたけど、被っちゃったね」
花瓶のススキを見つけた慧(fa4790)が、遠慮がちに手にした束を佐伯に差し出した。
「ああ。折角だから、雰囲気作りに下で飾っとくさ」
「お月見ですしね。紗綾様と一緒に、特製の月見団子を作って参りました」
「相変わらず、マメだな」
尻尾があれば振らんばかりの約一部を見なかった事にして、佐伯が海音から紙袋を受け取る。
「あ、忘れてた。一二三さん、炎さん、お久しぶりなのですよー♪」
ふと思い出した紗綾が、ドーンと飛びついて川沢に、そして佐伯へ抱きつく。
「それから、ピアノをOKしてくれてありがとです。慧君、ずっと頑張ってたから‥‥ごめんなさい。でも嬉しいですっ」
「待てっ。礼はいいが、団子とススキが潰れるっ」
「まぁ、客が来なくなったら、佐伯も死活問題だからね。ライブが終わった後に、一曲という事で」
「了解」
当の本人を放置した川沢に、ラシアは親指を立てた。
●マリーカ〜月に照らされて
暗いフロアで一本のライトがピアノを照らせば、三日月形のイヤリングが僅かな光を反射した。淡黄のドレスを纏ったマリーカは、ベートーベン作曲『月光ソナタ』の一節をピアノで弾く。
そこへ四本のライトが加わって、弦楽器を奏でる四人を浮かび上がらせた。紗綾と椿のバイオリン、希蝶のビオラ、千音鈴のチェロと共に、ピアノは静かな前奏へと入る。
「 あなたと寄り添い 同じ月を見上げているなんて
それだけでもう何も要らないから
いつからだろう?
あなたが私の特別になったのは
気付いた時には傍にいて
優しく私を照らしてくれた
まるでこの月のように
いつからだろう?
あなたを目で追うようになったのは
気付けば あなたの姿を追っている私が居たわ
あなたは月のように優しくて すべてを包み込んでくれる人
だから 余りにも遠すぎて
傍に居れるなんて想いもしなかった
だから 今 この時は私の宝物
この一時が掛け替えのないものだから
今 この時を大切にしたいの
だから 神様
もう少しだけ時間を下さい
この人に自然に微笑む為の時間を
私のこの想いをあの人に伝える為の時間を
きっと優しく微笑む事が出来るから
優しく輝くあの月のように 」
弾語りのスタイルで、マリーカはしっとりと女心を歌い上げた。
全ては、いつもの様に‥‥胸内で恋人の事を想いながら。
●『Miracle’s』〜This day is‥‥
空間を満たす薄く青白いライトに、白い光が時おりフラッシュした。
しっかりと深く被ったキャスケット帽で犬耳を隠すクロナが、薄手のジャケットの上からショルダーキーボードをさげて、緊張気味に現れ。
主に女性客へ手を振りながら、LUCIFELがステージに上がり。
その後ろから、ベアトップの上にロングコートを着たラシアが颯爽と続く。
ポジションにつくと、息をひそめた空間に電子音が放たれた。
入りは、ややスローテンポな旋律から。
エレキベースにセットしたクロナのキーボードに、紗綾はドラム、千音鈴がエレキギターで合わせる。
「 街が宵闇に包まれるとき 眠った魂(ソウル)目覚める
輝く月にその身を映し 」
朗々としたラシアの歌声が響くと、テンポは一気に加速して。
一歩引いていたLUCIFELがラシアと並び、SHOUTを掲げる。
「 傷ついた獣の魂まるで 」
「 癒すように 」
「 微笑むように」
「 抱きしめるように 」
『 月は輝くEndless night! 』
モチーフは、夜の街と月。そして、そこに生きる自分達を含む獣人自身。
同じフレーズを、今度はラシアが先行して。
「 傷ついた獣の魂まるで 」
「 癒すように 」
「 微笑むように 」
「 抱きしめるように 」
歌のフレーズをなぞるように、不意にLUCIFELが手を伸ばすが。
何気なく下がって軸をずらした彼女は、するりと彼との立ち位置を入れ替え。
そんな二人に、クロナはどう反応したらいいものかを悩みながら、エフェクトを効かして鍵盤に指を滑らせる。
『 星は瞬くLike the jewel! 』
何事もなかったようにコートの裾を翻し、SHOUTを握り直したラシアが再び前に出て。
銀色の髪をかき上げながら、LUCIFELも動じず彼女に合わせる。
「 凍りついた心を 」
「 溶かしていくようなMoonlight 」
「 戒めの枷から解き放たれる 」
『 This day is beast’s night! 』
二人のシャウトが、フロアを揺るがして響き渡った。
●『ELAN』〜Not Distantly
「綺麗な十五夜、椿に蝶と名前は綺麗なのに‥‥月より団子が二人程、後ろに控える『ELAN』です♪
遠く離れた大切な人‥‥恋人、家族、友人、色々いるわよね。でも空を見上げれば同じ月。離れていても、離れてない。
そんな気持ちを込めて歌います‥‥『Not Distantly』」
ローズカラーのキャミソールワンピースに、白いシフォンレースのカーディガン、レースアップサンダルを合わせた千音鈴が、Try−Once−Moreの調音をしながらMCを務め。
淡黄のカットソーにKNUCKLEを羽織り、チャコールグレーのペインターパンツを履いた椿はピアノの前に座り、レザースニーカーでペダルを踏んで、スタッカートの和音を刻む。
「 「月が綺麗ね。見てたでしょ?」 」
和音が切れたのを待って千音鈴が唄い、その後に椿が続く。
「 呼出しコール0回で 聞こえた愛しい声
「もしもし」さえ無いなんて
どうしようもなくキミらしくて
僕は笑いを堪えるしかなかったよ
「勿論見てたよ。だから電話」 」
「 遠く離れた街で暮す アナタの事もお見通し
1分1秒が大切な刻
心の宝箱に留めおきたい
挨拶抜きくらい許されるでしょう? 」
『 かざした手の先 月の光に透けてゆく
伸ばした指先 見えない糸 アナタ/キミに 』
淡いラベンダー色のカジュアルなオーバーシャツをラフに着、ダークブルーのジーンズを明るい茶のショートブーツにインした希蝶は、ピアノを挟んで反対側にいる千音鈴と二人、アコースティックギターの弦を弾きながら、コーラスを添えて。
夜空をイメージした深い藍の照明の中、光量を抑えた三本のピンスポが、スロータッチなミドルテンポのメロディを奏でる三人に注ぐ。
イメージは、なにげない日常の穏やかな幸せ。
例えば遠距離恋愛中の恋人が、離れた場所で見る同じ月を共有する、回線越しの愛しくも他愛のないお喋りのような。
「 違う場所で息して 」
「 同じ月見上げる」
『 Shining full moon どうか二人の現在(いま)を照らして 』
祈りを天に届けるように、高い方へと音が連なり。
『 移り行くこの刻は永遠じゃないから 』
「 一瞬の月の光 」
「 朧に微睡む夜空の色 」
『 分かち合える喜び そっと抱きしめたい
伸ばした指先 見えない糸アナタ/キミに‥‥ 』
時を惜しむように、テンポを落とし。
優しいピアノのフレーズで、ゆったりと恋人達の会話を締め括った。
●『love fill』〜月詠
アコースティックな演奏の間に、紗綾は海音に手伝ってもらいながら、衣装を着替えていた。
「海音ねーさま、間に合うかな?」
「大丈夫ですよ」
心が急く紗綾に微笑みながら、海音が慣れた手つきで彼女の衣装を整えていく。
「はい、終わりました」
告げられた紗綾は、鏡の中の自分を確かめるように、その場でくるりと回ってみた。
そこへ、楽屋のドアがノックされる。
「慧さん、でしょうか」
「あ、もう時間だね」
時計と演奏のフレーズを確認して、紗綾はサン・ライトを手に取った。
扉を開けると、ステージの様子を見ながら待っていた慧は、二人の姿に笑顔を浮かべる。
「とっても、綺麗だね」
慧の感想と、その一言で赤くなる紗綾を、目を細めた海音は我が事の如く嬉しそうに見守った。
準備が整った『ステージ』に、和装の三人が現れる。
海音は白地の裾に墨色のグラデーションがかかったススキ柄の着物に、淡い黄檗色の帯を締め、本紫の帯紐を結ぶ。
彼女と帯と帯紐を揃えた紗綾は着物も同じ白地に墨色で、紅葉の柄だけを違え。赤い髪を一房だけ三つ編みにし、本紫の組紐で飾っている。
着物の上から羽織に袖を通した慧は、それらに加えて帯や羽織紐も全て青褐の濃淡で揃えていた。
慧はステージの上ではなく、聴衆と同じフロアに置いた白いピアノ『フェインゲーフル』の前に座ると、靴に履き替え。
演奏台に据えられた琴『花梨』の前に、海音が腰を下ろし。
椅子に腰掛けた紗綾は、アコースティックギターの音を確かめる。
安全の為に張られたテープで距離は取っているものの、間近で演奏を見ようとする観客に囲まれて。
一つ深呼吸した海音は、琴の弦を付け爪で弾いた。
聞き慣れぬ音で紡ぐは、ドビュッシーの「月の光」。
短い一節に続いて、ピアノとギターが柔らかな音色を重ね。
その音色へ、海音が声を重ねる。
「 夢微睡む 夜の静寂に
優しい祈りが淡く響く
月清けし 闇の草原を(lulula)
天の兎が優しく跳ねた 」
伸びやかな海音の歌に、慧が息を合わせる。
『 巡り逢い 織り重る想い
繋ぎあう 君と手と手を
共に歩もう 月詠の季節
今ここに 遥かなる誓いを 』
スローテンポのポップスは、オリエンタルな民謡風のアレンジで。
ゆったりとしたピアノの演奏の後に、フレーズは最初に立ち返る。
「 時を刻む 銀の針が
真っ直ぐに未来を指す
星輝けし 自由な空を
黒金の鳥が羽ばたいてゆく
『 巡り逢い 近づく距離
響きあう 君と心が
共に歌おう 月詠の秘曲
今ここに 悠久の調べを
巡り逢い 織り重る想い
繋ぎあう 君と手と手を
共に歩もう 月詠の季節
今ここに 遥かなる誓いを 』
最後に残ったギターの弦が、ゆっくりと名残惜しげに爪弾いて。
聴衆の拍手を間近で感じながら、三人は頭を下げた。
ライブが終わって、外へ出れば。
綺麗に丸く輝く月が、街の明かりで星の少ない夜空にぽっかりと浮かんでいた。
●打ち上げ
「こうやって、誕生祝にもらったピアノがお披露目できて嬉しいな。1アーティストとして、歌も演奏も少しずつだけど成長して、新人の頃からお世話になったこの場所で、成果を見てもらえて‥‥」
「ま、有望株の成長を見るのは楽しいからね」
笑いつつ川沢が茶を飲み、笑顔の慧もまた月見団子を一口かじって‥‥奇妙な表情をした。
「えーっと‥‥これは、普通じゃない?」
尋ねる慧に、海音はにっこりと頷き。
「はい。激甘苺ジャム餡が、ロシアン月見団子のアタリです」
ロシアン月見団子。すなわち、中がこし餡でなかったら、罰ゲームとしてバニーガールに扮する事。これもまた、月見に引っ掛けた趣向だ。
「じゃあ、バニーガールよろしく」
「よかったな、紗綾。慧とお揃いで」
「いいもん。携帯で写真撮るっ!」
「どーせなら、当たりたかった‥‥」
外れた者は安堵の息を吐き、『被害者』をからかう。
「他にも南瓜のモンブランと芋羊羹、お土産にはマロンシフォンを作ってきました。レシピは、紗綾様にプレゼントしますね」
次々と打ち上げ用のデザートを披露する海音に、歓声が上がり。
そんな賑やかな者達をよそに、佐伯は投げやり気味にステージのピアノを弾いていた。
‥‥頭の上で、シークレット兎耳を揺らしつつ。