それでも日常の輪は回るヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 なし
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/06〜10/08

●本文

●LOST
 めっきり秋めいた陽の光が、窓から差し込む。
 だがベットの上で半身を起こしたイルマタル・アールトの瞳に、陽光は映らず。
 ドクターやナース、そして見舞い客が訪れても、開いた目はその姿を捉えず、声もその耳に届く事はなかった。
 ただ、ごくまれに薄く張り付いた笑みを、かすかに口元へ浮かべ、何かを握るように半分開いた右手の人差し指を、思い出したように動かす。
 その仕草はまるで、拳銃の引き金を無心に引いている様に、見えた。
 −−それが、結局は何の命を奪う事も出来なかった、どこまでも不器用な少女の結末。

 思考を奪い、命を長らえさせるのみの薬液が、チャンバーへ規則正しく滴り落ちる。
 点滴用のチューブが繋がる身体には、他にも電子機器類のコードが繋がれ、更に拘束用の革手錠が結ばれて。
 僅かに覗く瞳には、意思の光どころか生気すらも浮かばない。
 隔離施設でも特に危険で要注意扱いとされ、『特別待遇』を受けるルーペルト・バッハは、同時に類をみない稀有な『検体』でもあった。
 未だ闇の中にあるDSの謎を明かすため、特に両肩から上腕にかけて浮かんだ刺青のような皮膚を採取され、あるいは成分を調べる為に血液を採取され、あらゆる面からのアプローチに文字通り身を捧げる。
 −−それが、慈悲深き救命の選択によって生かされた、『堕落者』の末路。

「だから‥‥『ニーベルンゲン』は、嫌いなんだ」
 壊れたカンテレを収めたケースの蓋を閉じると、フィルゲン・バッハはロックをかけならが小さく呟く。
 それは愛憎と死、欺瞞と復讐に彩られ、関わる者達の破滅を描いた物語。
 そして何より残酷に。
 日常の輪は、回り続ける−−。

●新たなる来襲
『現状では、WEAでも『魔族』に相当するNWを確認しておらぬ。仮に『刻む』という言葉の意味が、自らの身体に取り込む事でNWを意のままとするのであれば、あ奴の意識を混濁させる事で『魔族』を封じたと言えなくもない』
 受話器の老ダーラント・バッハの言葉を、フィルゲンは黙って聞く。
 行動の目的も、過去の禍根も、『魔族』の行方も、全てを明かさぬまま、ルーペルトは現実世界から隔絶された。
『近いうちに、また顔を出すがいい』
 そう告げて切れた電話に、フィルゲンは浮かない表情で受話器を見つめる。
 そこへ、ノックの音が響いた。
「フィルゲン君に客が来ているが、よいか?」
「‥‥客?」
 おうむ返しに彼が聞き返せば、顔を出したレオン・ローズは自慢げに「ふふり」と笑う。
「驚くでないぞ」
 得意げに手招きをして引っ込む相方に首を捻りながら、フィルゲンは受話器を置いて後に続き。
 リビングに足を踏み入れると、そこにいる壮年の男性の姿に目を丸くした。
「え‥‥父さん!?」
「思ったより、元気そうだなぁ」
 硬直する息子に、久し振りに顔を合わせた父親は暢気にコーヒーカップを掲げ、挨拶をする。
「なんで‥‥ここに‥‥?」
「手分けをして片っ端から連絡を取り、所在を探したのだ。フィルゲン君の母御は、アメリカ国内を飛び回っているのだからな」
 さも自慢げに語りながら、すまし顔でレオンは紅茶をすすった。
 フィルゲンの母は、時々に応じて街を転々としながらステージを勤める興行歌手で、父はそのマネージャーを務めている。竜の獣人でない女性と結婚する為に、父はバッハ家と絶縁した‥‥のだが。
「実はダーラント叔父さんと、話をしようと思ってな」
「‥‥へ?」
「物事には順番があると、言葉巧みなお嬢さんにいろいろ諭されてね」
 説明する父の後ろで、相方が意味ありげな表情をしているのを見ると、諭した大元にも推測がつき。
 脱力したフィルゲンは、大きく溜め息をついた。
「‥‥で、順番って?」
「なぁに、ちょっとしたお前の『延命処置』だよ。30年以上も、自由を満喫したわけだしな」
「ですよねー」
 明るく笑う父と相方の姿に、フィルゲンは猛烈な目眩に襲われた。

●今回の参加者

 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0259 クク・ルドゥ(20歳・♀・小鳥)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

●懸念の元へ
 鉛色の厚い雲が、低く立ち込めている。
「ひと雨くるね」
 車の窓から外を見ていた深森風音(fa3736)が、雲行きに呟いた。
「そういえばラップランドでも、まだ雪は降っていないそうですね。出来ればお見舞いに、雪兎でも作って送りたかったんですが‥‥」
 ポーシェ911C4のハンドルを握る相沢 セナ(fa2478)は、苦笑しながらちらりとルームミラーへ目をやる。
「雪か‥‥それなら、マッターホルンにでもひとっ飛びで」
「それ、登山客に見られますから」
 冗談を言い合う風音と並んで座ったクク・ルドゥ(fa0259)は、膝の上に乗せたへたれべあ〜抱き枕でむにむにと遊んでいた。何か思案にふけっているのか、先ほど分かれた者達の事を考えているのか、単なる「もふり」の予行練習なのかは判らない。
 前を走るCardinal(fa2010)の軽自動車には、フィルゲン・バッハと羽曳野ハツ子(fa1032)が乗っている。更にその前を、フィルゲンの父親の車が先導していた。
「本当に、これで決着がついたんでしょうか。そもそも、何をもって決着‥‥なんでしょう」
「さぁて。ルーペルトさんの目的も、結局は判らなかった訳だしね」
 ふとこぼしたセナへ、苦笑で風音が答える。何か納得がいかないのか浮かない顔のククは、うーうー唸りながら抱き枕と戯れていた。

「ところで、例の報告書のJ・アールトだが‥‥当時の新聞などで判らないだろうか」
 運転しながら気がかりを口にするCardinal、助手席のフィルゲンは首を振る。
「新聞に、NW絡みの正確な記事は出ないよ」
「そうか。WEAでも、ちゃんとした資料がなくてな。J・アールトが誰か、判らないのだが」
「何とも言えないけど‥‥もしかすると、データがいじられたのかもしれないね」
「誰に?」
 怪訝な表情のCardinalへ、フィルゲンは肩を竦めた。
「事件を知られたくない者に」
「ルーペルトか‥‥隔離をしても、仲間のDSが助けに来る可能性は捨て切れないと思うのだが」
「そこまで『情』があるなら、他の局面でも助けに来てると思うけどね。それが採算重視の関係としても、黒森の魔族を狙うとか」
「確かに、行動は常に単独だったが」
「それにDSを警戒するなら、まず僕らこそが行かないべきじゃないかな」
「何故だ?」
「情報がなくて施設の場所が判らないなら、僕らを監視するのが手っ取り早‥‥ちょわーっ!?」
 奇声をあげるフィルゲンの髪を、後部座席から手を伸ばしたハツ子がもしゃもしゃかき回す。
「その話も大事だけど、今からダーラントさんに会いに行くのよ? ちゃんとフィルパパさんがバッハ家に戻れるよう、話をしないと」
「でもさ‥‥」
「遠慮しないの。折角、レオン監督がフィルの為に用意してくれたホンでしょ?」
 前方には木々が茂り、緑の間に古城が見え隠れしていた。

 クリーム色の壁に囲まれた空間は、殺風景で静かだった。
「病室ですから、騒がないようにして下さい」
 五人の見舞い客を案内した看護師が、注意してから出て行く。
 ぎゅっと固く口唇を結んでから、ベス(fa0877)は赤や紫の小さな実を盛った小籠をベッドの傍らにある小さなテーブルに置いた。
「本当は、ラップランドの花を持ってきたかったんだけど‥‥コケモモやベリーの花って、初夏に咲いちゃうんだね。だから、花の代わりに実を持ってきたんだよ」
 声をかけてもベッドのイルマタル・アールトは答えず、視線を動かす事もない。そんな友人の手を、ベスはぎゅっと握り。
 小さなプチポワンを取り出したアイリーン(fa1814)は、銃を持つような形で緩く握った手を広げて、それを持たせた。
「これ、Cardinalさんから‥‥よろしくって」
 もう銃を握らなくていいのだと諭すように、彼女は優しく友人の手を撫でてから、紅茶缶を手にする。
「さて。六人分の紅茶、入れてくるわね! 美味しい葉が手に入ったの」
「手伝おうか?」
「大丈夫。それよりイルマの傍に、ね」
 気遣う早河恭司(fa0124)へウインクすると、アイリーンはポットを手に病室を出ていった。そんな彼女の後を、シャノー・アヴェリン(fa1412)が黙って追う。お茶を入れる友人を、手伝うのだろう。
「えーっと‥‥千羽鶴、どこに飾りましょう」
 道すがら、手短に状況を聞いた月詠・月夜(fa5662)が、糸で繋いだ色とりどりの折鶴を手に悩んでいた。

 やがて、トレーに借りたカップを載せたアイリーンがシャノーと共に戻ってくると、一人一人に紅茶を手渡す。
「イルマのお見舞いは当然なんだけど、皆も心配だから。特に想い入れが強い人や、平然としてそうだけど‥‥シャノにも、ね」
「‥‥ありがとう‥‥ございます‥‥」
 礼を言う友人へ微笑み、アイリーンは六つ目のカップをベスの籠の隣に置いた。

●長の座
「一度捨てた籍‥‥今さら戻して、長を継ぐと言うか」
「それもこれも、息子の為ですよ。叔父さん」
 ダーラント・バッハを前に、フィルゲンの父親が居住まいを正して答える。
 対する『古き竜』の長は父と子と、控える友人達を見やった。
「あの、少しよろしいですか?」
 そんな沈黙に、片手を軽く挙げるクク。
「古から託され続けたものを受け継ぐ家系には好意を持っています。次の世代へ繋げる意思も‥‥だから、以前からお尋ねしたい事がありました。
 何故、ダーラントさんは自ら養子を迎えようとなさらないのでしょうか? 例えば、NWとの戦いで身寄りを失くした竜獣人の子らから、後継者として素質ある者を選び出し、執事さんや‥‥信頼できる者達と共に育ててゆくのも可能なのでは‥‥? 問題はありますが、選択の一つとして考えた事はあったのでしょうか?」
 問われた老ダーラントが説明を促す様にフィルゲンへ目をやれば、不本意そうな顔で彼は髪を掻いた。
「外から養子を取らないのは、『血筋』があるからだよ。バッハ家は、『ニーベルング』の末裔だから‥‥確かにもう随分と薄いけれど、それと竜獣人である事だけは守っているから」
「それだと、あの養子話は?」
 尋ねるCardinalに、フィルゲンは大叔父を睨む。
「たぶん、一時的な『措置』で‥‥詳しくは、聞かない方がいいと思う」
 杖を手に椅子へ座る老人は、何も答えず‥‥否定もせず。
「それならなおの事。フィルゲンさんのお父さんが戻って次の長になるのは、ダーラントさんにも捨てがたい話よね。他の親族では、候補にならないんでしょ?」
 すかさず、ハツ子が肝心の一件に話を繋ぐ。隣で何か言いかけるフィルゲンの尻をつねって黙らせる間に、彼の父親が口を開いた。
「黒森の深部を見た者として、最終的にフィルゲンに長を継がせるなら、それもいいでしょう。ですが、一族を束ねるには若い。もしかすると、次に継ぐ時は別に相応しい後継者が現れているかもしれない」
「そうね。それも、竜の獣人で」
 頷きながら、更にハツ子がたたみかける。
 杖頭を指で叩きつつ話を聞いていた老ダーラントは、じろりと子から壮年の親へ視線を移し。
「お前の連れ合いは、承知したのか」
「はい」
 即答に深く長い息を吐くと、老いた長は杖を頼りに立ち上がった。
「ついてくるがいい。儂の時間は短く、教えねばならぬ事は多い」
「待って下さい、聞きたい事があるんです!」
 頭を深々と頭を下げた老執事が、主の為に扉を開くのを見て、急いでセナが呼び止める。
「ルーペルトは‥‥何がしたかったんでしょう?」
「『堕落者』は獣人どころか、人としての道も踏み外した相容れぬ者。その望みなど、知る必要はあるまい」
「だけど、整理を付けたいんだ。会うだけでも、できないかな?」
 背を向ける老人に、風音が食い下がった。
「‥‥疲れたであろう。数日、休んでいくがいい」
 それだけを告げて老ダーラントは部屋を去り、風音はフィルゲンを振り返る。
「城で待ってろって、意味だと思うよ。ルーペルトについては、大叔父さんも懸念があるみたいだから」
「懸念‥‥」
 その言葉を繰り返し、彼女は閉じた扉を見つめた。

『歌う木』は、『古き竜』の城の地下にて保管される事となった。
「いつかイルマに返す」とベスがフィルゲンへ引き取りを申し出たものの、一音で黒森遺跡にあった『白い塊』を共振させ、結果的に大規模な破壊へと追い込んだ事を考慮し、保管能力を鑑みた結果だった。

●陽だまり
 小さな澄んだ音が、病室に流れる。
 繰り返されるフレーズは、徐々にゆっくりとスピードを落としていき。
 一つの巡回が途切れたところで、恭司はククから預かったオルゴールの蓋を閉じた。
「ここへ来る前に‥‥Cardinalに、言われたよ」
 椅子に座って指を組んだ恭司が、ぽつりと呟く。
 −−誰もが、『イルマの意志を尊重』していたが‥‥その言葉は、実は彼女にとって随分と重いものではなかったろうか。『イルマが忘れたいなら』と言うが、「お前は」イルマにどうして欲しいのか−−
「これが、良かれと思って取ってきた行動の結果で‥‥守りたいなんて言っておいて、何とも情けないよね。もし記憶を封じて俺を忘れていても、構わない。イルマが安心して頼れるようにちゃんと支えてやりたいんだ、今度こそ‥‥」
 手を伸ばし、柔らかな髪を撫でれば、ノックの音が響く。振り返ると、ベスとアイリーンが顔を覗かせていた。
「ぴ? お邪魔だった?」
「いいや」
 尋ねるベスへ首を振れば、少女は嬉しそうにベットの傍らへと移動して、椅子の一つに腰掛けた。
「さっき、ククさんから連絡があったんだよ。フィルゲンさん、竜のお城の主になれなかったんだって。たまには、お城に顔を出してあげようと思ってたのにぃ」
「でも何だか、くっつかないわよね。フィルゲンさんとお城」
 イルマを囲み、そんな他愛もない話をして笑う。例え、彼女の耳に届いていないとしても。
 その時、扉の外で何かもめるような声が聞こえて。
「ちょっと見てくるよ」
 恭司が立ち上がって、病室を出て行く。
 彼を見送ったアイリーンは、そっとイルマの手を撫でた。
「『LSP』に引っ張り出されてきた時、イルマは私に『頑張る』って確かに言ったもの、だからこれからも見守るわ。サッケさんだって、どこかでイルマの事を聞きつけて、様子を見にきてくれるかもしれないし、大丈夫よ」

「どうしてです? 童話を読み聞かせるくらい、いいじゃないですか」
「‥‥ですから、内容が‥‥よくないと‥‥」
「何をもめてるんだ?」
 月夜とシャノーの間に、恭司が仲裁に入る。
 じーっと恭司を見上げたシャノーは、月夜が抱えた絵本を視線で示した。『ももたろう』や『ごんぎつね』といったタイトルが覗いているが。
「‥‥イルマを‥‥刺激したく、ありません‥‥」
「そうだね」
 シャノーの気がかりを悟って、恭司も溜め息をつく。
「でも、いい話ですよ?」
「イルマは、狐の獣人なんだよね。狐が撃たれる話は‥‥どうだろう。あと、敵討ちとかナントカ退治とか、物騒な感じなのも」
 指摘された月夜は、慌てて絵本のタイトルを確認し。
「じゃあ‥‥『ウサギと亀』なら、どうでしょう」
「うん。その辺なら」
 絵本を選び直す月夜に頷く恭司の背を、労わるようにシャノーがぽむぽむと叩いた。

 見舞いに来た者達は、時間の許す限り友人に付き添い。
 やがて、別れの時がやってくる。
「今度は、クク達も引っ張ってくるよ」
「またオーロラ、見ようね」
 代わる代わる、また見舞いに来る事を約束して、声をかけ。
 ベスもまた、ぎゅっと手を握った。
「あちこちでイルマみたいな事件にあう人がいるの。あたし、少しでもそういう人を助けたいんだ。また、失敗するかもしれなし‥‥助けれないかもしれない。それでもあたし頑張るから! 今は辛い事、忘れてていいから。休んでていいから‥‥でも、いつか思い出して欲しいな。また来るからね」
 くすんと鼻を鳴らし、名残惜しく手を放す。
 五人が退室した病室は、がらんとした空虚な静けさに包まれた。
「‥‥っ‥‥」
 引き付けを起こしたように、呼吸が乱れる。
 上手く息が出来ず、身体が痙攣し。
 病室の様子を見に来た看護師が、慌てて医者を呼びに走った。

●隔離施設
 老ダーラントは、薬で意識もなく動けぬ『堕落者』を見下ろしていた。
「‥‥これが、最後の『仕事』となるな」
 静かに呟き、手を伸ばす。
 細い喉に手をかけると、躊躇いなく力を込め。
 それまで規則正しい動きをしていたあらゆる計器が、狂ったように警告音を鳴らした。
 そして、それらがフラットになって、数秒後。

 二体の異形が、動かぬ身体から飛び出した。

 開放された蟲は、まず真っ先に目の前の獲物を襲い、餓えを満たす。
 それらを見届けた後、完全獣化の上で武装した者達が部屋へなだれ込み、逃げ場のない蟲達を『駆除』した。
「う‥‥」
 ガラス越しの出来事に、風音やセナは吐き気を覚え、Cardinalはただじっと睨むように凝視し。青ざめたククやハツ子を、フィルゲンが気遣っている。
「予想通り、でしたね。DSが死んでも、DSが恐らく影響下においていたNWは一緒に死ぬ事なく、本来のNWとしての活動に戻る‥‥」
「ああ‥‥そうだね」
『古き竜』の新しい『長』は、重い溜め息をついた。
『ブルクンドの魔族』がこの時代でも健在だった理由と、裏付け。
 それは謎の多いDSに関しての一つの成果で、黒森遺跡から逃れた『魔族』を排除するという点でも、『古き竜』の役目の一つが守られた事にもなる。
「では‥‥公式には、二人は病死した事に」
『長』の指示にWEAの研究者は重く頷き、老執事は深々と頭を下げた。