EtR:地の底深くヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 8Lv以上
難度 難しい
報酬 73.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/10〜10/12

●本文

●斥候
 陰湿な闇の中で、蟲達が蠢いている。
 その闇に乗じた青年は、石柱の上から目を凝らした。
 だが閉鎖された空間には僅かな明かりもなく、足元に蠢く気配を感じ取れても、それを確認する事は出来ない。
「俺も、『眼』が良ければ楽ナンだがなぁ」
 ボヤきつつ、手探りでベルトのホルダーに差した筒を引き抜いた。手元の小さなLEDの灯りを頼りに捻ってキャップを外すと、中の筒の反対側に差し込んで持ち手を確保する。指先の感覚を頼りに、中筒の先端に付けられた保護キャップを外し。注意深くキャップの上部にあるすり板を、中筒の先端に合わせる。
 ゆっくりと静かに一つ呼吸をしてから、合わせたすり板でマッチの様に中筒の先端を擦った。
 シュッと短い摩擦音がした直後、筒の先端から赤い炎がほとばしり。
 炎を見ないように、すぐさま奥へと放り投げる。
 赤い炎を吹き上げながら落ちる発炎筒は、それに気付いた蟲達の姿を浮かび上がらせた。
 光の届く範囲で見えた蟲達の様相を、記憶に叩き込む。
 その間に、顎や喉で警戒の音を立て、侵入者であり獲物である相手へと蟲達はひしめき。
 衝撃と共に、彼が上で潜む石柱が揺れた。
 下を見れば、蟲達は石柱を登り、あるいは彼を落とそうと柱への突進を繰り返す。
「やっぱ、無理か」
 ‥‥可能ならば、もう少し奥を確かめたかったのだが。
 与えられた『仕事』の経験上、引き際は心得ている。
 衝撃を待って立ち上がると、彼は石柱を蹴った。
 その跳躍力で、数m離れた隣の石柱の上へと着地し。
 蟲達が追い付かぬうちに、別の柱へと跳ぶ。
「スポンサーの二の舞なんぞ、なる気ないって」
 言っても通じない相手に、愚痴をこぼし。
 そこへ、不吉な羽音が急接近する。
「‥‥ッ!」
 僅かな灯りの中で見えたのは、羽を広げた甲虫。
 激突され、それでもとっさに伸ばした手が、何とか奇怪な蟲の角を掴んだ。
 −−だが、幸運もそこまで。
 振りほどくようにもがく蟲は、地へと落ち。
 必然的に、彼も同じ道を辿る。
 落下の衝撃に呻きながら、『地中』への逃走を図った彼だが。
 火の点いた様な痛みが、左肩から噴き出した。
 叫んでも声は、既に言葉にならず。
 消し飛びかける意識を、必死に繋ぎ止める。
 ただひたすら、彼の仕事を果たす為に。
 生きて、情報を持ち帰る‥‥その為だけに。

 発炎筒の炎が完全に消えた頃、『獲物』もまた彼らの前から消えた。
 唯一、剥き出しの土の上に、もぎ取られた腕だけを残して。
 しばらく蟲達はひしめいていたが、やがて一匹の蟲が節足を伸ばし、それを拾い上げ。
 まるで恭しく捧げるかのように、それをかかげ持つ。
 そして、彼らにとって久しく得られず、貴重となってしまった『糧』を運んでいく。
 ‥‥暗い闇の、その奥へ。

●地の底へ
 遺跡の動向を監視するカメラに、地中からいきなり現れた『ヘルメス』が映ると、監視所はちょっとした騒ぎになった。
 係員に顔を知られていた事もそうだが、監視カメラから見ても判るほどの重傷を負っていたのだ。
 すぐさま、駆けつけた係員達によって監視所へ搬送され、手当てを受けたヘルメスは一命を取り留めた‥‥肩からもがれた左腕は、失われたままだったが。
 だが痛みや治療よりも、彼は自分の成すべき事を優先した。
 すなわち‥‥。

「群れを作って生きる生き物の中でも、例えば象や水牛のような動物は、外敵に襲われた際に弱い仲間を守ろうと、力のある雄達が『円陣』を組む行動はよく知られている。
 ヘルメスの話でも、現在の第六階層でNWが同じような行動を取っているそうだ。これが具体的に何を意味しているかは判らないが、あまり好ましい状況ではない‥‥とも考えられる」
 説明をする係員が、ヘルメスが見たモノを書いた『図』を示した。
 入り口側に体躯の大きい、あるいは強力と思われるNW達の群れの薄い層があり、距離を取ってさほど強くはないと思われる小型NWが群れる層があり、『図』はそこで途切れている。
 だが紙面にはNWとは別に、興味深い記載があった。
 石柱だけでなく、石積みの家や壁のような遺跡が点在しているのだ。
 それらは崩れ、あるいは原型も判らぬほど壊れている物もあるが、建つ向きや扇形に似たカーブを描いて点在する位置や様子は、NWの『配置』と同じく奥に何かを囲むように作られて見える。
「この奥に、『火山の神』が存在するかどうか‥‥そこまでは、直接行かねば判らない。だがヘルメスの話では、『カドゥケウス』はここに始皇帝陵の深部にいたものと同等か類型の『ミテーラ』タイプNWが棲息していると考えているそうだ」
『ミテーラ』は、始皇帝陵の一匹ではない‥‥と。
 その推測に、ブリーフィングルームを緊迫した空気が満たした。

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4468 御鏡 炬魄(31歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

●負傷者へ労わりを?
「ううぅわわっ、ヘルメスたん、腕、腕が‥‥どこに落としてきたのーっ!?」
 顔を合わせて早々、取り乱した燐 ブラックフェンリル(fa1163)が叫んだ。
「いや、取り外し式じゃないから。コレ」
 厚みのない左袖を押さえて答える「ヘルメス」に、難しい顔で彼女は眉根を寄せ。
「じゃあ、後で生えてきたり?」
「そんな器用なマネも、できないから」
 コントのようなやり取りに、一つ欠伸をしてから早切 氷(fa3126)が髪を掻いた。
「しかしまた、ヘマ打っちまったねぇ。んで? アンタが遺跡に潜ってた理由ってのは、ソレ‥‥テキーラが最終目標って事でいいんかい?」
「ぴよ? メキシコ行っちゃうの?」
 小首を傾げるベス(fa0877)へ、言った本人が「何でメキシコ?」と聞き返す。
 そして、しばしの沈黙が降りる。
「‥‥皆してボケっぱなしだと、話が進まないわよ」
 見るに見かねて呆れた風に口を開いた富士川・千春(fa0847)が、肩を落として嘆息した。くすくす笑っていた相沢 セナ(fa2478)は、ヘルメスの分まで背負う事になった荷物を小さくまとめようとする高原 瞬の背中を見やる。
「こうしている間も、状況は刻一刻と変化しているんでしょうね」
 それとない話をしながら瞬の背中へ近付くと、上着の内ポケットから取り出したヘアバンドを彼の頭にがっしと固定した。
 一瞬のうちに、二本のウサギ耳がびよんと伸びる。
「ちょ、ナニこれーっ!?」
「御守りです。ねぇ、ヘルメスさん?」
 揺れるシークレットうさぎ耳に、白々しくセナが笑顔で答え。
「それて、どんな御守りっ」
「‥‥ソレに、案内させる気なのか」
 瞬とヘルメスの反応に、彼は何故かどこか満足そうだった。

「しかし、情報は伝えたんだから無理しなくても良いのに。お前さんも仕事熱心だな‥‥いや、悪い事じゃないぜ?」
 湿った土を踏んで歩きながら話しかけるヘヴィ・ヴァレン(fa0431)に、ヘルメスは肩を竦める。
「鴉のにーちゃんの言うとおり、状況は変化するからな。悪い例えだが、誰も戻らない危険もある。あんたらの『キャリア』を考えれば無用な心配だろうが、伝聞と直接見るのとでは、情報量も違うだろ?」
「百聞は一見にしかず‥‥といったところか」
 目的も用途も違うが同じ『情報』を扱う者として、御鏡 炬魄(fa4468)が呟いた。
「同時に、それだけ『カドゥケウス』は、より正確な情報を欲しているといったところか。黒い塊や集合するNWなど、以前よりここに『ミテーラ』が存在する事を推測出来る材料はあった訳だからな」
「俺は下っ端だから、上の連中の思惑に関してはナンともだが」
「随分と、身体を張った下っ端だがな」
 冗談めかすCardinal(fa2010)に、『伝令者』が頭を振る。
「DSにくっついたり、なぁ。特にあいつらオカシイから、仕事とはいえ合わすのは胃にクルよ」
「ぴ〜‥‥でもヘルメスたん、腕はホントに大丈夫? 仕事でも、無理しなくていいんだよ?」
 表情を曇らせてベスが気遣い、燐もまたやはり違和感のある相手の左袖を見た。
「なくなった腕の感覚、あったりしない?」
「人を心配する暇あったら、自分の安全を考えた方がいいぞ。可愛い頭が蟲についばまれても、俺はどうもできんから」
 それでも心配そうに見上げるベスは、鞄の中から金糸が幾何学模様を描くローブを引っ張り出し、ヘルメスへ押し付ける。
「これ、酸に強いから守ってくれるよ。あとは‥‥ぴゃ。瞬さんの分が無いや。ぴ〜‥‥瞬さんにはファントムじゃ駄目?」
「‥‥上目遣いで可愛く聞いても、遠慮しとく。この場所での『不幸』は、トンデモっぽいし」
 げんなりとした瞬は、申し出を丁重に断った。
「そっか。ヘルメスたん‥‥無事に帰れたら、また一緒におでん食べようね」
「うん。とにかく今は、第六階層へれっつごー! 食べられちゃったヘルメスたんの仇は、きっと取るよっ!」
 気勢をあげるベスと燐の様子に、千春はまた微妙な表情を浮かべる。
「死亡フラグを立てた上に、心なしか殺されてるわね」
「まったくもって、災難な身だ」
 同情の言葉を寄せるCardinalだが、そのニュアンスはどこか楽しげなものも含まれていた。

●響くは‥‥
 第二階層から熱い風にあおられつつ第五階層へと下った後、第四階層への通路で休息を取ってから、再び熱風の吹き出す第五階層、そして本命の第六階層への通路を注意深く移動する。
「水牛なんかが円陣を組む時、中心側は幼獣や妊婦、新生児よね。『黒い塊』を作り出した本命さん、いる確立は高そうね」
 灯りの向きに気をつけながら、千春がコピーした『図』を広げて確認した−−勿論NWの余計な流出を避ける為、紙は帰還前に焼き捨てて処分する事になる。
「遺跡も、配列が何かを囲むようになっていて‥‥儀式か、始皇帝じゃないけど何かの封印のセンもありそうね。やっぱり中心に、『ミテーラ』がいるのかしら」
 描かれていない『輪』の中心方向を示す彼女に、首を縦に振ってヘヴィが同意した。
「おそらく、そうだろうな。単純ではあるが明らかな『陣形』を取るNWの動きは、ここまでなかった。それに家の跡‥‥って事は元は住居だったか、あるいは留まる必要のある用途として作られた訳だよな。その後、何かの理由で『ミテーラ』‥‥その『火山の神』とやらを封じたってとこか?」
「その推測だと、『ミテーラ』を封印する為に遺跡が出来たんじゃなく、最初からあった遺跡に『ミテーラ』が封印された事になるのかしら」
「だとすると‥‥」
 交わす二人の論議に、改めてCardinalは自分達が進む人工の通路をぐるりと見回す。
「『火山の神を封じる』という文字が壁画より新しい事や、壁画にNWの姿がなかった事にも理由がつくか」
「そうですね。遺跡の崩壊が経年による影響なのか、争いの痕跡なのか‥‥その辺は、どうなんでしょう?」
 セナがヘルメスに問えば、行く先へ注意を払う兎獣人は長い耳を揺らす。
「残念だが、俺は考古学者じゃないからな。正確には、ナンとも」
「そうですか‥‥確かに1000年以上経過した遺跡ですし、今もNWが徘徊している場所ですし、判別は難しいかもしれませんね」
「かといって、現場を撮影する訳にもいかないし、人間の学者を引っ張り込むのはもっと無理だろうがな」
 苦笑する炬魄におどけた表情を返し、再び『伝令者』は前方へと向き直った。
「ところで‥‥頭の体操はそろそろ終わりにして、『ライブ』の準備を始めなきゃな」
 相変わらず暢気に眠そうな氷が、足を止める。岩壁には先の掃討戦の傷跡が残り、通路の終着点‥‥第六階層が、すぐ先に広がっていた。
「とんだ、コンサートホールですけどね」
 長い髪を後ろで束ね、『ブーストサウンド』を手にしたセナへ、ぱきぱきと指を鳴らしながらヘヴィが笑う。
「なぁに、『客』の整理なら任せとけ。慣れてるからな」
「じゃあ俺は、ちょっと『お客さん』の様子をみてくるとするか」
「ぴ? 偵察なら、あたしも行く?」
 一足先に向かう氷へベスが続こうとするが、彼は振り返ると肉球付きの虎の手をひらりと振って止めた。
「いや。準備の方を、ヨロシク」
「ところで高原さんは、演奏とかしないんだ?」
「あら。『アイスメタル』、あるわよ」
 尋ねる燐に続いて、千春が冷青色のエレキベースを取り出す。
「いや、俺は‥‥楽器はチョット」
 冷や汗を浮かべつつ辞退する瞬に、二人の少女は首を傾げた。

 彼らの懐へ自ら飛び込んできた獲物の出現に、大小様々なサイズと形態を持つ蟲達は、一様に唸りや関節を軋ませた。
 それは警戒の声、あるいは歓喜の声か。
 だが群れの中に現れた十人‥‥実質的に戦うのは八人だが‥‥は、自分達の十倍以上という圧倒的な数に、怯む事もなく。
 そして、音楽が鳴り響く。

『 暖めたい 孤独に凍えた魂を
  守りたい 悲しみに震える心を
  もう戻らない懐かしい日々
  けれど迷わない ただ信じた道を往くだけ 』

 おそらくは歌の価値も判らぬであろう『聴衆』へ、『FIRE ROCK』を手に惜しみなく千春が確かな歌声を披露する。
 彼女の両脇では、ベスとセナが肩から提げた『ブーストサウンド』を奏でていた。
 力強い音と声は、オーパーツを介してNWを討つ衝撃となり。
 当然、それを止める為に蟲達は音の源を断とうとする。
 その押し寄せる群れへ、炬魄は無慈悲な雷を放った。
 多少の攻撃は歯牙にもかけぬCardinalが、重い拳を振るって甲殻を粉砕し、あるいは踏み砕く。
「さすがに壮観だな。有名人は辛いねえ‥‥ほいほい、残念ながら握手やサインはナシだぜ」
 氷は通じぬ相手へ冗談を言いながら、誘導棒よろしく『ライトバスター』を操る。
「コレが終わったら、警備員でもやるかねぇ」
「どうせなら、ウチにくるか?」
 氷の呟きを笑い飛ばしつつ、ヘヴィは筋肉が隆起して力を増した腕で『無双の斧』を横薙ぎに群れを切り払い、振り回した勢いのまま、打ち下ろす。
「ん〜、三食に昼寝が付いてたら、ちょっと考えるかな」
「氷さんの場合、昼寝はお昼だけじゃないよ、きっと。24時間昼寝してると思う!」
 力説しつつ、燐が『方天戟「無右」』の刃を中型の蟲へ突き立てた。
「燐ちゃん‥‥それ、どーいう意味!?」
「まぁ、その通りだろうがな」
 抗議する氷に対し、ヘヴィは彼へ助け舟を出すどころか更に蹴落とす。
「随分と、余裕がありそうだな」
 感心とも呆れともつかぬ呟きの炬魄に、Cardinalは微かに口元に笑みを作って、飛び掛る相手を叩き潰した。

 死を与える行進は、群れを穿つ錐の如く休みなく続く。
 ‥‥蟲達が守り、朽ちた遺跡の示す、第六階層の中心へ向けて。

●切り開く先に待つモノ
 進む者達に、疲労が見え始めた頃。
 ライトで照らし出す行く手に、巨大な神殿のようなギリシャ様式の建造物が姿を現していた。
「どうする、突っ込むか?」
 Cardinalが仲間へ振り返って確認すれば、疲労が溜まり始めているであろうにもかかわらず、当然の如く肯定の意思が返ってくる。
「ここまで、きたんだもの」
「中に何があるか‥‥見届けませんと」
「ああ。『火山の神』の様子とかな」
 巨大な石柱の間を抜け、平らな石の床の上へ足を踏み入れる。
 彼らが建造物へ辿り着くと、追いすがる蟲達は潮が引いたように攻撃の手を緩めた。だが諦めた訳ではなく、建造物の外でひしめいている。そんな蟲達の様子に気付いた獣人達は視線を交わすと、身構えながら注意深く歩を進めた。
 まず千春が『呼吸感知』で気付き‥‥視覚に頼らず反射音で視る『超音感視』で確認し、全くの暗闇でも見通す『完全暗視』の能力を持つ燐もまた、先に在るモノに気付いた。
 石積みの、おそらくは神殿の奥に、人型のナニカがいる。
 問題は、そのサイズだ。
 二本足で立つ人型である分、地を這う醜怪な肉塊のトウテツのようなデタラメな大きさではない。
 それでも、一行の中で一番の長身であるCardinalを遥かに凌ぐ巨躯が、そこにあった。
 それを目にして息を飲む二人は、言葉ではなく仲間の袖を引いて、警戒を促す。
 見えぬ者達は、暗がりへ目を凝らすばかりで‥‥だが暗闇の先で、赤い二つの光が灯った。
「バレたよっ」
「どうせ、やり合わなきゃならん相手なんだ」
 警告する燐に、ヘヴィがライフル銃を構える。
「明かりを!」
 その声に応じて、懐中電灯やライトを持つ者が一斉にそれらを赤い光へと向けた。
「うわ‥‥」
「これが‥‥『火山の神』?」
 その姿を改めて目にした者達は、一瞬言葉を失う。
 まるで甲冑のような甲殻が、照らす光を弾いて金色に見え。
 それが、身体全体を覆っている。
 見える限りに、コアはなく。
 頭部は闇のように黒いのっぺらぼうで、ただ赤い光がギラギラと輝いていた。
 異種なる存在にもかかわらず、その光に飢えと獲物を発見したという意識を感じ取ったのは、彼らが『狩られる側』である為か。
 一瞬の緊張の狭間で、ヘヴィが『ARASHI』の引き金を引く。
 銃声が、やけに大きく聞こえ。
 確実に直撃すれば一撃でコアすら粉砕可能な弾丸が、甲殻に弾かれる。
 それがどれ程の傷を与えたのか、確認する暇もなく。
 巨躯が、空気を震わせて咆哮した。
 金属が擦れるような、耳障りな音。
「くそっ、今度は目玉を狙ってやる」
 すぐさま、ライフルへ次弾を装填するヘヴィだが。
「皆、危ない!」
 何を察したか、ベスが叫んで仲間達へ体当たりした。
 少女がぶつかった程度では、たたらも踏まない男達だが。
 一瞬、反射的に身を引いたところへ、巨大なNWが炎を吐いた。
「まだくるわ!」
 辛うじて炎を避けた千春が、別の存在を感じ取って天井を仰ぐと。
 目の前に、上から別の巨体が落ちてくる。
「な‥‥『ミテーラ』が二体!?」
 新たに現れたソレは、奥の『ミテーラ』と較べると小型だが、それでも人とは比べ物にならない巨大さで。
 単眼を赤く輝かせ、『火山の神』を守るかの如く、一行の前に立ち塞がった。それだけでなく、神殿の上を飛び交っていた蟲達も、次々と後を追うように侵入してくる。
「ぴゃーっ、どうしよう!?」
 思わずうろたえるベスの首根っこを、氷が掴まえる。
「とりあえず、ここはだな‥‥」
「ぴよ?」
「逃げるぞ!」
 彼らが後退すると同時に、単眼の巨人もまた炎で追撃する。
 更に入り口から向かってくる蟲達へ、ベスと炬魄が『破雷光撃』を放って退路を確保し。
 逃げる者達の背へ、『火山の神』−−『ヘパイストス』の咆哮がまた、響いた。