Limelight:World Songsアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 普通
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/21〜10/23

●本文

●Limelight(ライムライト)
 1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
 2)名声。または、評判。

●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
 隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
 看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
 扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
 地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
 その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。

「ハロウィン・パーティ?」
 怪訝な顔をする音楽プロデューサー川沢一二三(かわさわ・ひふみ)に、『Limelight』オーナーの佐伯 炎(さえき・えん)は煙草をくしゃくしゃの包装箱から引っ張り出しながら頷いた。
「ああ。イベント本番近くになると、みんな何かと忙しくなるだろう? だから、ちぃとばかし早いが仮装イベントでもやろうかと思ってな」
「なるほど。じゃあ、頑張って」
 にこやかな笑顔で、川沢が即答する。
 と同時に、その距離が思いっきり遠くなった気がした‥‥佐伯にから見て。
「逃げんな」
「いや。そういう事は、佐伯の担当だろうと思ってね。この間の、賭けの件もあった訳だし」
 面白そうに答えながら、川沢はいつものやたら熱くて濃いブラックコーヒーを啜った。
「言うな。それは言うな。ついでに記憶から抹消しておけ」
 先日、ウサ耳をつけてピアノ演奏をする羽目になったオーナーが、無駄とは知りつつ訴えるが。
 川沢は、素知らぬ顔でコーヒーカップを傾けていた。

●今回の参加者

 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa1102 小田切レオン(20歳・♂・狼)
 fa1646 聖 海音(24歳・♀・鴉)
 fa1851 紗綾(18歳・♀・兎)
 fa4657 天道ミラー(24歳・♂・犬)
 fa4790 (18歳・♂・小鳥)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文

●お出迎え
「海姉様、来たよっ!」
 車の窓に張り付く紗綾(fa1851)が、聖 海音(fa1646)へ振り返る。
「はい。お元気そうですね」
「うんっ」
 海音が微笑めば、頷く紗綾は待ちきれないのかドアを開けて車外へ飛び出し、一目散に駆け出した。
「お帰りなさい〜っ!」
 抱きつかれたイルマタル・アールトは、その言葉に紗綾を抱き返す。
「はい。ただいま、です」
 続いて、紗綾の後を追ってきた月詠・月夜(fa5662)が、入れ替わりで歓迎の抱擁をした。
「こんなに早く、元気なイルマさんとまた会えるなんて、夢みたいです。試しに月夜の頬をつねってもらえます?」
「それは‥‥ちょっと。お見舞いに来て下さったそうで、ありがとうございました」
 遠慮がちに、イルマは礼を述べ。車へ戻る途中、イルマのマネージャーは月夜を呼び止めた。
「あいつの記憶、5月頃から相当曖昧でな。今は、そっとしてやってくれ」
 月夜がイルマと会ったのは、彼女の精神が最も疲弊していた時期。月夜の気質と言動に、マネージャーが不安を抱くのは当然だった。
「判りました。イルマさんが月夜の事をよく覚えてなくても‥‥楽しんでくれれば、それで満足です」
 海音に挨拶をするイルマの姿を見ながら、月夜は小さく頷いた。

 別行動のマネージャーは川沢一二三と挨拶回りに行き、迎えに来た者達は佐伯 炎の車で海音の家へ向かった。
「お琴、大事に使わせて頂いてます、本当に素敵なものを有難う御座いました。家は先日に畳を変えたばかりで、い草の良い匂いがするんですよ。お礼も兼ねて、精一杯おもてなしさせて頂きますね♪」
「いえ。こちらこそ、お世話になります」
 微笑む海音へ神妙に答えるイルマをリラックスさせようと、紗綾は携帯を引っ張り出す。
「旅行の写真、欧州から送ってもらったよ。綺麗なお城とか、今度一緒に見に行けるといいね」
「はい、是非」
 車内では、そんな欧州での『土産話』に花が咲いていた。

●パーティ前から大騒ぎ
『Limelight』へ戻った佐伯は『臨時休業』の札を出し、店に鍵をかける。
 バイクを飛ばし、木造モルタル二階建ての自宅へ帰宅すると。
『『Trick or Treatっ!』』
「お前らっ!?」
 大声を上げ、物陰から飛び出した者達に、当然驚く佐伯。
「ハロウィンやるのは、明日だろうがっ」
「いいだろ。前夜祭で」
 にやにやと、LUCIFEL(fa0475)が笑い。
「佐伯さんちって、こんなだったんだ」
「年代だけなら、俺んトコのボロアパート並だな」
 物珍しそうに見物する篠田裕貴(fa0441)の隣で、小田切レオン(fa1102)が壁を叩いた。
「叩くな。つか、ナンで海音んちへ送ったお前までいるんだ」
「だって、面白そうだもん」
 がっつり抱きつく紗綾が、笑顔で佐伯を見上げる。が、彼女以上にキラキラ笑顔で、天道ミラー(fa4657)がしたっと片手を挙げた。
「Trick or Treat! あと、初めマシテ!」
「おぅ、よろしくな。で、どこからブン取ってきた」
 挙げた手に握った大きな円形の棒付きキャンディを見て、佐伯は苦笑する。
「コレは、自前デス。ハッ、熱い視線‥‥!?」
 じーっと飴に穴が開きそうなほどの視線にミラーが気付き、持ち主を辿れば。
「ミラー兄様〜っ」
「紗綾か! ‥‥あげるっ」
「わ〜い!」
「ワンコに餌付けされる、うしゃぎか」
 面白そうに、二人をLUCIFELが眺めた。
「まぁ、中に入れ。近所迷惑だ」
「遠慮なくお邪魔するぜ。二人の若かりし頃の写真とか、ねぇかな〜?」
「川沢さんの家と、随分違うよね」
 早速レオンが上がり込み、会釈をした裕貴も続く。
「俺は宴本番楽しみにしつつ、おさらばダバダバ!」
 びしと手を額に当てるミラーへ、「そう急くな」と佐伯は手招きした。
「茶の一杯くらい入れるぞ」
「お茶? お酒じゃないの?」
「ところで、恋人は置いてきたのか」
 話題を切り返す佐伯に、ぺふっと頬を染める紗綾。
「慧君は、川沢さんの所へ遊びに行くって」
「フラれたのか。なら、俺が慰めてやるぞ」
 したり顔のLUCIFELに、「フラれてないもん!」と紗綾は全力で抗議する。
「あの二人なら‥‥そりゃあ、静かだろうなぁ」
 背中で聞こえる賑やかな声にしみじみ呟き、佐伯はバイクを置いた土間の戸を閉めた。

「そうか。じゃあ、今頃は佐伯の家は凄い事になっているだろうね」
 くつくつ笑う川沢に、ソファへ座った慧(fa4790)も頷いた。
「皆、張り切ってたから‥‥きっと」
「でも、良かったのかい? 遊びに来るのは構わないけど、君も一緒に騒ぎたかっただろ」
「落ち着いて話が出来る機会だし‥‥川沢さんにボイトレとか、きちんと見てもらいたいなって思ってて。今後とも、お世話になります」
 居住まいを正して一礼する慧に、「こちらこそ」と改めて川沢も頭を下げる。
「えへへ。一度、ちゃんと言っておきたかったんだ」
 柔らかな金の髪をいじりながら、慧は笑った。

●『本番』もやっぱり大騒ぎ
『Happy Halloween!』
 乾杯の代わりに、クラッカーが一斉に弾けた。
 宴席のテーブルには手の空いた者達で作ったカボチャ・ランタンが、口の中で蝋燭の炎を揺らめかせている。
「ハロウィンですので、南瓜のグラタンにパンプキン・パイとスープを作ってみました」
 半獣化して『天使』に扮した月夜が、頭の上で作り物の輪を揺らしながら料理を並べる。
「俺の方の料理は、軽食的なものにしてみたんだけど」
 白のシャツと、黒のスーツに赤の細身のリボンタイを付けた裕貴が、黒いマントの裾を翻し、厨房から料理を運んできた。
 フィッシュ・アンド・チップスの皿と小籠包の器をテーブルに配ってから、改めて銀縁のモノクルをかけて、黒のシルクハットを被った裕貴は、古典的存在の推理小説に出てくる『怪盗紳士』風の仮装だ。
「スィーツはグレナデン・アップルと、胡麻団子だよ」
「こちらは紗綾様と慧様のリクエストで、チェリーパイと林檎のシブーストです」
 裕貴に続いて、小柄な『魔女』が大皿からそれぞれのテーブル用にデザートを分ける。
「他に栗甘露煮とカスタードクリームのクレープに、南瓜プリンもありますから、存分に召し上がって下さいね。それから、ジャック・オ・ランタン型のオレンジピールクッキーを。お土産用に、小分けの袋も用意してまいりました」
 微笑む海音は、黒いゴスロリのミニ丈ワンピースに小さな蝙蝠羽根のついたケープを羽織り、とんがり帽子を頭に乗せていた。
「海姉様、可愛い〜っ」
 海音の仮装に、並んだスィーツ以上の喜び様で『花嫁』姿の紗綾がはしゃぐと、彼女は照れながら礼をする。
「ありがとうございます。慣れない格好で緊張しますが、たまにはこういうのも楽しいかと」
「うん。似合うよね」
 紗綾の隣で感心する慧は、彼女を娶った『バンパイア』の仮装だ。燕尾服に、肩に掛けた襟の立った黒の表地に裏地が赤のマントを、蝙蝠をモチーフにしたブローチで留めている。
「これが噂の‥‥っ」
 並んだ料理やスィーツに、猫耳と狼尻尾でファンシーな『キメラ』に化けたミラーは、黒い犬尻尾をぱたぱた振っていた。それから、正直な尻尾にはたと気付き。
「しまった。これじゃファンシーキメラどころか、猫又ならぬ犬又にっ!」
「いいんじゃね? 尻尾の一本や二本増えても」
 カラカラ笑うレオンは、銀髪の超ロングなウィッグと豪奢なドレスで『美女』に仮装している。テーマは『一人美女と野獣』で、『野獣』は後のお楽しみだ。
 だがこの『美女』には、さしものLUCIFELも心が動かないらしい。
「今日は女性が少なくて、寂しいよな」
 背中に天使の片翼と悪魔の片翼をつけた『堕天使』のLUCIFELは、あえてレオンを視界に入れず、嘆かわしげに首を振った。
「にしても、随分作ったんだな」
 眺める佐伯に、海音は火照った頬を隠すように手をやる。
「少し多い気もしましたが‥‥私の腹ペコ狼さんの為に」
 クレープへ手を伸ばすレオンに、嬉しそうに海音は目を細めた。そんな彼女へ、サンドリヨンを着たイルマが白い箱を差し出す。
「お土産を、預かってきたんですけど」
「まぁ、ありがとうございます」
 礼と共に海音が箱を開ければ、シンプルで大きなバウムクーヘンが姿を見せた。
「美味しそうですね。一緒に、頂きましょう」
「海姉様、あたしもマフィン作りに挑戦してみたんだけど‥‥」
 恐る恐る、紗綾もまた紙袋を差し出す。
「多分、美味しくできたと思うのっ!」
「では、皆様一蓮托生ですね」
 笑いながら、海音は人数分の新しい皿を用意した。

「並んでくっついて〜! はいそこの人、チーズ!」
 料理やスィーツに舌鼓を打つ間にも、テンション高くミラーがデジカメのシャッターを切る。
 カメラを持ってきたのは、ミラーだけでなく。せっかくの仮装を記念にと、あちこちでフラッシュの光が瞬いていた。
「慧は、お菓子の写真も撮ってるんだ」
 テーブルの上の皿へレンズを向ける慧を、以前の誕生日に貰ったカメラのファインダー越しに裕貴が眺める。
「だって裕貴さんや海音さんのお菓子、ホントに美味しいし可愛いから‥‥記念に」
「そう言ってもらえると、光栄‥‥かな?」
 はにかみながら、裕貴はカメラを構えた慧の姿を撮った。

「よーっし、せっかくのパーティだ。ド派出にキメるぜ!」
 賑やかな雰囲気にレオンが立ち上がると、ウィッグとドレスを脱ぎ捨てる。下には黒レザーの服を着込んでおり、ボア付きのジャケットを羽織ると彼はギターを片手にステージへ上がった。
「盛り上がっていこうぜっ!」
 ギターをかき鳴らして、アップテンポな一曲を披露する。

「 Is preparation good?
  子供達は寝静まり 月光輝く夜の世界
  それは俺達の世界 Beast’s Night!
  昼間の顔は仮初 獣の性を解放し 魂解き放て!
  Do you try to come?
  これから始まるイカしたpartyに
  俺達の箱庭 Beast’s Night! 」

「じゃあ、僕らも一曲‥‥いいかな」
 遠慮がちに、慧と紗綾がレオンの後に続く。
 紗綾がサン・ライトの弦をストロークし、慧は手拍子でリズムを取り。
 歌うは、ハロウィン風ライトポップス。

「 夢のきらめきは留まることを知らず
  陽気におどけて黒猫もお化けも踊る
  南瓜跳ねていく月の向こう側で
  手を取り一緒に騒ぎましょう 」

 写真を撮っていたミラーが、二人へ二つの紙袋を差し出す。
「慧と紗綾にはいつも元気貰ってるから、お礼も兼ねてお菓子! 紗綾が兎型クッキー詰め合わせで、慧は小鳥型クッキー詰め合わせ。バッチリ対にしてあるぞ」
「ミラー兄様、ありがとーっ!」
 ミラーに抱きついて喜ぶ紗綾を、面白そうにLUCIFELが見やり。
「で、食うのか。兎クッキー」
「う‥‥うしゃぎさ〜ん‥‥!?」
 指摘されて、ナニカに葛藤する紗綾。
「あと、シーツを持ってきたから、皆で寄せ書きしよう。でもって、お店に寄贈!」
「お、いいな。じゃあ一番手、いくか!」
 どこからかファンシーなシーツと数本のペンを取り出したミラーに、早速LUCIFELが手を伸ばした。

 シーツに寄せ書きをし、それぞれの持ち寄ったプレゼントの交換会を行なう。
 裕貴はバルセロナでも御馴染みだという、ハロウィン仕様の金太郎飴。ジャック・オー・ランタンと蝙蝠の断面の飴とランタン型に抜いたクッキーを、クリスタルパックに詰めたものを全員に配り。
 LUCIFELは自分の仮装に合わせて、天使の羽根と悪魔の羽根をクロスさせた自作のシルバーアクセサリーを。
 レオンは駄菓子を詰め合わせた『お楽しみ袋』を、そして海音は色違いのペアで、縁に入ったグラデーションが美しい、和風デザインのロックグラスを用意していた。
 嬉々としてミラーが取り出したのはクッキー詰め合わせと、喋るクマぐるみ。尻尾引っ張ると声が録音でき、鼻を押すとそれを再生するというソレは何度も録音可能だが、誰の声を入れるかで盛り上がったのは、言うまでもない。
 紗綾はビーズで作った手製のストラップ、慧からの色鮮やかなストールは、先日の仕事先で見つけた物だ。
 月夜は声帯模写で声を真似た「迷台詞物真似CD」を、イルマは絵蝋燭を用意していた。

●宴の後
 賑やかな宴の後は、三々五々と家路につく。
「これ、ありがとね」
 運転席に座った慧は、スーツの胸ポケットから十字架を取り出し、助手席の紗綾へ見せた。
「気がついてた?」
「うん、驚いた。これ、お礼に」
 握った手を出した慧は、兎を模ったブローチを紗綾の手にのせた。
「それから‥‥紗綾」
 改まった声に、紗綾は小首を傾げる。
「これからもずっと、大切にしていくから。僕の一生をかけて、守っていくから‥‥結婚しよう。本当に、花嫁さんになってくれる?」
「嬉しい、けど‥‥ほんとに、あたしなんかで良いの、かな?」
 喜びと驚きと不安の入り混じった表情が揺れる紗綾の瞳に、慧はゆっくりと頷いた。
「ありがと‥‥好きになってくれて。あたしも大好きです。慧君のお嫁さんにして下さい!」
 抱きつこうと手を伸ばすが、シートベルトで引き戻される紗綾に笑い、慧は自分のベルトを外して彼女を抱きしめた。

 海音と肩を並べて歩くレオンは、ちらと隣を見てから口を開いた。
「今日、スゲー楽しかったな」
「はい、とても」
 嬉しそうに答える海音に、レオンは一つ咳払いをし。
「あのさ。こんな俺で良かったら‥‥ずっと一緒に居て欲しい。一緒に歩いて行けたら、最高にハッピーだ」
 思わぬ言葉に、海音は胸の奥が熱くなり。言葉が上手く出せない代わりに何度も頷いて、ポケットに手を突っ込んだ腕へ手をかける。
 細い手を取って握り直すと、レオンは自分の手と一緒にポケットへと突っ込み。
 悪戯っぽい少年の笑顔で、笑ってみせた。