世界を繋げXmas：南北米南北アメリカ
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 風華弓弦 |
| 芸能 | 1Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | やや難 |
| 報酬 | 1万円 |
| 参加人数 | 8人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 12/23〜12/26 |
●本文
●クリスマスは世界を愛で繋ぐ事が出来たりするのか「‥‥一人寂しいこの身に、クリスマス企画。ならばやるしかないだろう！」
富田テレビ局内で、何故か一人燃えている男がいた。
当然ながら物理的に燃えている訳ではなく、彼に託された企画に闘志が燃えているのである。
放送時間帯は、朝９時から夕方まで。
テーマは『クリスマス』と『愛』。
企画の内容は「世界のクリスマスの様子を、リレーの様に生中継で繋いでいく」事。
口で言うのは容易いが、なかなかハードな内容だ。ずっと特定の人物が生放送を続ける訳ではないが、世界各所に人を送り、テーマに沿った中継をしなければならない。
だからこそ、彼は燃えている。
『世界を繋げXmas』総合プロデューサー幹 数馬（みき・かずま）、誕生の瞬間であった。
‥‥といっても、実際に現地へ行って仕事をするのは、芸能人達なのだが。
●南北米チームの動向
「ヨーロッパと似ているだろうと思われがちだが、アメリカにはアメリカ流のクリスマスがある。
まずは、我々の挨拶から。『Merry Chirstmas！』ではなく『Happy Holidays！』だ」
南北米担当のディレクターは、何故か独特の口調でそう宣言した。
多くの人種と宗教が混在するアメリカでは、近年『メリー・クリスマスと挨拶する事は、キリスト教を他の宗教者に押し付けるものである』とかいう論争がなされていたりする。
無用なトラブルを避け、楽しいクリスマス休暇を過ごす為に「ハッピー・ホリデイズ」と挨拶しようという運動が広がっているそうだ。
「もっとも、必ずしもアメリカ国内で中継を行わなくてはならないという道理はない」
中継レポーターの希望者達の前を、熊のように歩き回るディレクター。
単に、じっとしていられない性分なのだろうが。
「南北米チームは、雰囲気が緩みやすい中盤の引き締めを行う。
放送開始時間は東海岸標準時で00：00、西海岸標準時で21：00。すなわち、日本時間の14：00だ。
人数割りは、南北米を担当するエリア司会が二名。
残りの六名は三名二組に分かれ、各チームでクリスマスをレポートする場所を探してもらいたい。
メンバー編成は、参加諸君に一任しよう。
二箇所の生放送ポイントは、南北アメリカ大陸であればどこでも構わん。大事なのは、世界各地のクリスマスの模様を中継するという主旨だ。たとえ面白いからと『太陽のピラミッド』に登っても、クリスマスツリーは飾ってない。それではダメだ。ヤラセで飾るのも問答無用で不可。
正々堂々と、南北アメリカエリアのクリスマスを中継しろ。質問は？」
聴衆の中から、おっかなびっくりと手が上がる。
「あのー。司会は、どこでやればいいんでしょうか。二人という事は、一人づつレポートするチームについて行ってもいいんですか」
「その辺は、諸君の構成力に任せよう。司会二人がスタジオで指揮を取るなら、テレビ局のスタジオも手配する。司会達自身が第三の生放送ポイントを選ぶと言うなら、それもまた良し。
番組が成功するか否かは、諸君の働きに委ねられた。スタッフ一同、諸君の健闘に期待している。
以上、解散！」
最後まで、独自のノリで締め括ったディレクターであった‥‥。
●リプレイ本文
●舞台は大洋州から南北米へ「次の中継地点は真夏のニュージーランドから一気に極寒のグリーンランドです。サンタの家を探しに出かけた藤野ご夫妻いかがですか〜！」
「ハッピー・ホリディズ！ グリーンランドの藤野です。私達はいま、サンタの家を探してグリーンランド自治領の首都にあたるヌークにきています」
ニュージーランドからの呼びかけに答えたのは、司会の一人、藤野羽月（fa0079）。
「一面の銀世界に、赤や青のカラフルな家が並んでいて、とても可愛いんですよ」
並んで立つもう一人の司会、羽月の妻である藤野リラ（fa0073）が、後ろの家々を紹介する。
「Merry Xmas！ ほんと、カラフルですね〜。なんか見てるだけで寒そうですけど。それでは、よろしくお願いしま〜す。真夏のオークランド・ドメインからお送りしたミニコンサートでした〜」
歓声を残して、南国の島は遠く消えた。
暗い画面に、突如カウントダウンが始まる。
「3‥‥2‥‥1‥‥」
零の瞬間。
ヒュルッと炎の筋が空へ駆け上ったかと思うと、ドンッという衝撃と共に大輪の花が中空に開く。
それを先駆とし、次々と音を立てて夜空に鮮やかに広がる炎の花弁。
歓声と拍手をBGMに、レポーター達が彼ら彼女らの挨拶を叫ぶ。
『ハッピー・ホリディズ！』
賑やかな音楽が流れ、『世界を繋げXmas』の南北アメリカパートは始まった。
●真冬の世界と真夏の世界
ヌークはグリーンランドの最大の都市である。といっても、人口は約15000人の小さな都市だ。
道沿いに赤や青、緑や黄色に塗られた家が並ぶ光景は、まるで玩具の街のよう。
防寒服に身を包んだリラは、クリスマス・ソングを唄いながら。羽月は彼女が転ばないように手を握って、夜の街を歩いていく。
そして『ある場所』へ到着すると、二人は足を止めてくるりとカメラに振り返った。
「さて。ここグリーンランドは、国際的にサンタクロースの出身地として認められた場所です」
「そして、このヌークにサンタの家がある。目印は、コレだ」
羽月の紹介に、じゃーんと手を広げてリラが『真っ赤な物体』の前に立った。
小柄なリラが両手を上げても、ソレの高さに及ばない。比較的長身の羽月でも無理だ。
胴の部分が透明になっていて、そこには無数の封書が詰まっていた。カメラが上を向くと、『POSTBREVKASSE』の白い文字。その上に投函口があり、更に上には豊かな白い髭を生やした優しげな笑顔の老人のイラストが描かれていた。
高さは、軽く3〜4mは越えているだろうか。
「みなさんは、もう判っただろうか‥‥これが、サンタの家の郵便受けだ」
「大きなポストですよね。こんなに大きいのは、世界各地からお手紙が届くからなんです」
「家には後程お邪魔するとして、番組の頭に上がった花火も気になるな」
「実はこの時間、花咲くイベントが行われている様ですよ」
「では、早速呼んでみよう。南国クリスマスのお三方ー！」
夫婦は息の合ったやり取りで、南の中継地を呼んだ。
『ハッピー・ホリディズ！』
赤道に近い国から、三人の娘が声を揃えて答えた。
「パナマのリゾートビーチでは、パナマ時間の0時ちょうどからクリスマスを祝う花火が上がっています」
大胆なデザインの水着を着た白夜 涼乃（fa1734）が、ビーチベッドに座って輝く夜空を示した。彼女達がいるビーチでは、主に観光客達が集まって花火を眺めている。
「冬の花火というとピンとこないかもしれませんが、ここパナマは赤道に近いので、12月でも真夏の雰囲気が堪能できます」
「見て下さい、パナマはフルーツも美味しいんですよ！」
真紅のエナメル地なハイレグビキニ姿の大道寺イザベラ（fa0330）は、白いテーブルに並べられたフルーツのカット盛りやフルーツタルトといったスィーツの群れをアピールした。
そして、カメラに気付かずに夢中で花火を眺めて喜んでいるのが、比較的大人しい水着を選んだエリア・スチール（fa0494）。
「エリアさん。ほらほら、カメラ」
イザベラに肩を突付かれ、振り返った少女はぽんと赤面する。
「あの、あの、あの、お仕事下さ‥‥」
「ええかげんに、しなさい！」
向けられたカメラに緊張したのか暴言を口走りかけるエリアに、すかさずイザベラがツッこんだ。
「あまり、レポートになっていない‥‥ような」
冷たい妻の手を両手で包んで暖めながら、羽月がモニターを見守っている。
嬉しそうにフルーツやケーキを食べるパナマのレポーター達に、心配そうなリラもぽつりと呟いた。
「夜に甘い物を沢山取ると、後でお肉になるんですけど‥‥大丈夫でしょうか」
テーマの『愛』はこの場合、甘味に注がれているというか、何というか。そのせいか、中継画面も花火が中心になっている。
段取りの指示を受けたADが、二人にぺこぺこと頭を下げる。
「すいません。パナマを早めに切り上げますので、調整お願いします」
●摩天楼の降誕祭
再び中継は、白い世界グリーンランドへ戻る。
家の中に移動したリラは、サンタ服を身に纏っていた。彼女の赤いスカートは、慎み深く長めの丈となっている。
「花火に海、こんなクリスマスもあるんですね！ 羽月さん、水着美女に見とれてませんよね？ あら？」
きょろきょろと、あたりを見回す。この場にいるのは、彼女一人きり。
「羽月さん、どこへ行っちゃったんでしょう‥‥そうそう、いま私はサンタさんの家の中にいます。サンタさんは子供達へプレゼントを配りに行って留守ですが、お邪魔する事は、ちゃんと伝えてあります」
暖かな風合いの部屋を回って行くと、窓辺のソファにサンタ服の男が座っている。が、体型から見て、明らかにサンタではなく。
「羽月さん‥‥勝手にサンタさんの椅子に座ったら、怒られますよ」
妻に注意されて、羽月は苦笑しながら席を立つ。
「普段はここで、子供達からのお手紙を読んでるのかもしれないな」
「次の中継地は、そんな手紙の贈り主も多いでしょう。ニューヨークからです！」
「クリスマス気分満喫のお三方、聞こえますか？」
「皆さん、ハッピー・ホリディズ！ ニューヨークの巨大ツリーの前からお届けしまーす」
ツリー下のスケートリンクから、小柄な椎葉・千万里（fa1465）が大きく手を振る。
「大きなツリーですね。ところで、千万里さん。他のお二人は？」
羽月の声に、千万里は白い息を吐きながら答える。
「はい。真尋さんとシャウロさんは、いまそれぞれ「とある場所」に行ってはります。どこに行ってるかは、中継のお楽しみで。この巨大ツリーは、夜の11時半には消さはるんですけど、特別に点灯してもらってます。ツリーの高さは22．5mで、重さは3トン。取り付けられた電球の数が約3万個ですから、凄いですよね」
頑張って標準語で喋っているが、所々に地の関西弁が混じるのは、ご愛嬌。千万里の説明の間に、画面は電飾に彩られた街を映し出した。
「シャウロさんと真尋さんは、クリスマスに欠かせないモノを探しに行ってはります。見つかりましたかー？」
「ハッピー・ホリディズ、シャウロです。あたしはスィーツ・ショップに来てるよー。ホントはもうとっくに閉店時間を過ぎてるんだけど、パティシエさんに来ていただきました」
「こんばんは」と頭を下げるのは、30代くらいの日本人の男性。ニューヨークでも最近、多くの日本人シェフやパティシエが頑張っている。そして地元アメリカ人達は大抵、家族とクリスマスミサへと出かけている頃だ。
「クリスマスといえば、やっぱりケーキですよね」
嬉々として尋ねるシャウロに、日本人パティシエは「いいえ」と苦笑する。
「アメリカのクリスマスは、クッキーがメインなんですよ。自家製クッキーを交換したり、こういったクッキーの家を飾ったりします」
パティシエは、店内に飾られた『ジンジャーブレッドハウス』−−ジンジャークッキーで作った家を、指差す。
「いわゆる『デコレーションケーキ』をクリスマスに食べるのは、日本だけなんです」
「そうなんだぁ‥‥」
興味深そうに、でも少し残念そうにシャウロが『お菓子の家』を覗き込んだ。その隣には、同じくジンジャークッキーで作った人型『ジンジャーマン』が並んでいる。
「あの‥‥」
声をかけられて、シャウロはショーケースから目を離した。
見れば、パティシエが真っ白な箱を彼女に差し出している。
「ハッピー・ホリディズ。皆さんと、素敵なクリスマスの夜を過ごして下さい」
「え？ もしかして‥‥これは‥‥」
途端に、きらきらとシャウロの瞳が輝き出す。
「日本からの取材という事でしたので、特別に」
「きゃーっ！ ありがとう！ 千万里、ちゃんと持って行くから、後で皆で食べようねー！」
−−そして、甘いモノにつられて仕事を忘れたレポーターが、また一人‥‥。
「ハッピー・ホリディズ。ニューヨークはハーレムの教会でも、クリスマス・ミサが行われているわ」
シャウロが脱線しきる前に、待機していた三条院真尋（fa1081）に中継が繋げられる。
「以前は犯罪の温床の代名詞だったハーレムも、ニューヨーク市長の徹底した治安改善政策によって、比べ物にならないほど安全になったの。そのため、教会にも女性や子供連れの方が沢山見えるわ」
教会の扉の前に立つ真尋が、少し扉を開ける。カメラが覗くと中では黒人の神父がミサの説教を行っているところで、教会は静まりかえっていた。
「残念ながら『生』のゴスペルを聞かせる事はできなかったけど、その模様をVTRに収録してあるわ。聖歌隊のゴスペルを、是非聞いて下さい」
事前に教会で録画した映像が、モニターに流れ始める。
豊かな声量と、美しいハーモニーと、敬虔な祈りの歌。それは、無理をしてでも真尋がどうしても日本へ届けたかった映像だ。
その歌を聴きながら、真尋は足早に教会を離れた。
「素敵な歌声でした‥‥真尋さん、ありがとう」
「どういたしまして、千万里さん。皆さんが歌を聞いて頂いている間に、私は5番街まで来たわよ。お店は閉まってるけど、見て。このイルミネーションの数々」
真尋に促されるように、カメラが向きを変えた。
街路樹のライトアップから始まって、ビル群は様々な光で飾られていた。建物を外からデコレーションしてしまうのが、『アメリカ流クリスマス』の特徴の一つだ。
通りはタクシーが忙しく行き交い、教会と郊外の住宅街や中心区のパブなどを往復している。
「ナンか見ているだけで、ワクワクしてきますね」
「千万里ー！」
名前を呼ばれて彼女が見れば、白い箱を持ったシャウロがぶんぶんと手を振っている。
「あ、おかえりなさい、シャウロさん」
そして、シャウロから少し遅れて真尋がツリーの下へ現れる。
「三人、揃いましたね。それでは、私達もクリスマスの夜を楽しみたいと思います」
そして三人は、最後に息を揃え。
『ニューヨークのクリスマスをお届けしました！』
「それでは、オーロラとサンタさんの国、寒いグリーンランドでもアツアツの、司会者のお二人にお返ししまーす」
手を振って、千万里がグリーンランドへと中継を繋げる。
「アツアツな二人も、スイーツを食べてツリーを見たいです！」
羨ましそうなリラのコメントに、ニューヨークの三人は笑顔で返した。
●そしてXmasは、日本へ
長い番組も、残り僅かとなっている。
サンタの家の二人は、最後のレポートを切り出した。
「南北アメリカのクリスマス、如何でしたか。賑やかな模様をお伝えしましたが、こちらのクリスマスは家族で過ごす大切な時間。暖かい家族の時間をお過ごし下さい」
「そんな家にはきっと、グリーンランドからサンタが贈り物を届けてくれるだろう」
にっこりと、笑みを交し合う二人。
「以上、アメリカから寒くても暖かな中継をお届けいたしました。それでは、最後の中継地を呼びましょう。日本の鳥羽さん、都路さん。ハッピー・ホリデイズ！」
リラの呼びかけと共に、画面は遠く日本へと繋がる。
「Merry Xmas！ こちら東京の鳥羽京一郎です」
「日本からの世界を繋げXmas。司会を担当します都路帆乃香です。私たちは今、東京カテドラルのマリア大聖堂前に来ています」
「いよいよフィナーレですね。皆さん、頑張って下さい」
最後に羽月が激励の言葉を投げ、司会のバトンは日本へと渡った。
そして遠い氷の地から、夫婦は日本のクリスマスを見守る−−。
「素敵なクリスマスだったね」
ふかふかのベットでまどろみながら、エリアは幸せそうに微笑んだ。
「うん。南の海で泳いで、花火見て、美味しいスィーツを食べて、極楽だよ〜」
同じく、うつ伏せでベットに伸びている涼乃が、足をぱたぱたと振る。
「ニューヨークのケーキも、美味しそうだったなぁ」
ニューヨークの中継を思い出して、イザベラは少し悔しそうだ。ビーチでもフルーツやケーキを沢山食べたというのに‥‥甘党プリンセス、恐るべし。
夜更かしと疲労が後押しして、意識がぼんやりする中、彼女達は「また明日も美味しい物を食べて海で遊びたいなぁ‥‥」などと考えつつ。
だけど、今は。
おやすみなさい。
