EtR:明日を勝取るのはヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 フリー
獣人 9Lv以上
難度 難しい
報酬 169.4万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 10/25〜10/29

●本文

●楔、あるいは一本の針
 地響きが、続いていた。
 監視所が崩れ落ちるほど強力な『揺れ』はないが、地の底から不気味な鳴動や振動が伝わってくる。
 地震ではなく。
 火山活動などもでなく。
 それは、オリンポス山の地下深くに蠢く『太古の母』の『目覚め』の証だった。
 −−火山の神『ヘパイストス』。
『カドゥケウス』がそう呼称するミテーラ種は、その巨躯と名に恥じず劫火を吐く事が確認されている。
 それに従うように確認された、もう一体の‥‥白いNW。

 各地でもミテーラ種が確認され、大規模な作戦が提言される。
 その一方で、別に『遊撃隊』が編成される事となった。
 もし『ヘパイストス』を討ち損じれば、また新たに『黒い塊』を産み出し、多数のNWをばら撒くだろう。その事態だけでも、防がねばならず‥‥大規模な作戦の中で募られた者達は、確実に『作戦』を成功させる為の穿つ楔であり、『太古の母』を確実に殺すための一本の毒を含んだ針でもあった。
 判明している状況は、『ヘパイストス』はトウテツと比較すれば遥かに及ばないながらも、巨人の如き体躯のNWであり、炎を吐く事。
 共に発見された一回り小さい独眼の白いNWもまた、『ヘパイストス』と同様に火炎を噴き、外見と付き従うその姿から『キュクプロス』と呼ばれている。
 あくまで『ヘパイストス』を目標とするか、それとも障害となる『キュクプロス』にあたるか。
 その判断は、『遊撃隊』へ一任された−−。

●今回の参加者

 fa0124 早河恭司(21歳・♂・狼)
 fa0892 河辺野・一(20歳・♂・猿)
 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa1634 椚住要(25歳・♂・鴉)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa3126 早切 氷(25歳・♂・虎)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)
 fa4892 アンリ・ユヴァ(13歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

●Let’s march
 嵐の前の静けさか、オリンポス遺跡の第一階層は静けさに包まれている。
「ミテーラ『ヘパイストス』‥‥それに『キュクプロス』、か」
 湿った土を踏みながら歩くCardinal(fa2010)に、思わず早河恭司(fa0124)が苦笑した。
「ホント、一体でも面倒なのに、何でまた大量発生するかなぁ‥‥」
「増えちゃいましたよね‥‥まぁ、想定内です。余裕余裕」
 ぽしぽしと髪を掻く河辺野・一(fa0892)は、身体にまとわりつく湿って重い空気を払うように、明るい口調でぐるぐる腕を回す。
「縁起がいいことに中東で遺跡内部戦の神殺しでご一緒した方々もいますね、あ、いや、神殺しでは神がいなくて、縁起わるいのかなにやら。ともあれ後はやる気、むしろ皆さんヤル気満々でしょうけど」
「まぁ、神がいなくてもソコに憤怒神が‥‥って、ぐぇっ」
 澱みなく回る一の舌に調子を合わせた早切 氷(fa3126)だが、ナニかが潰れたような声をあげて言葉を遮られた。
「憤怒神云々は、置いといてだ。増えたら増えた分、ブチのめすだけだろ」
 からからと笑いながら、犬神 一子(fa4044)は小脇に抱えた氷の頭をぐりぐり小突く。
「そうとも。複数沸いてきたって、そんなんで怯む俺達じゃねぇ! 一匹残らず潰してやるぞ!! 獣人と人類の明日は、俺達にかかっているんだからな!!」
 気合スイッチが入りっぱなしの常盤 躑躅(fa2529)が、気炎を吐いた。
「大層な明日はともかく、今日の夜がゆっくり眠れるようになれば、俺はそれで十分‥‥」
 この状況でもやっぱり欠伸をしている氷へ、相沢 セナ(fa2478)がにっこり微笑む。
「ちゃんと働かないと、夜が来る前に永遠に寝る事になるかもしれませんよ?」
「それは困るな。先に、R−RAYを借りておかないと」
 真剣な表情で椚住要(fa1634)が告げれば、アンリ・ユヴァ(fa4892)もまたこくこくと首を縦に振る。
「NW‥‥あんなモノが、増え続けるのは‥‥絶対に防ぎたいです‥‥。頑張りましょう‥‥早切さん‥‥」
 くいくいとアンリに服の袖を引かれ、心配された氷はナンともいえぬ表情で唸った。
「万が一、途中で『荷物』になったら下まで担いで行ってやるから、安心するといい」
 淡々とCardinalがフォローらしきものを入れれば、目をそらしながら恭司もどこか遠い目をする。
「よかったな、氷。その後どうなるか、俺は知らないが」
「今日は『花』が少ないだけでなく、皆して俺をいぢるのな‥‥」
 がっくりと脱力する氷に、くすくすと笑いながら小鳥遊真白(fa1170)がセナを見やった。
「要ではないが、私も今の間に必要な物を借り受けておいた方がいいだろうか」
「そうですね。第五階層へ降りる前に、お渡ししますよ」
 予定では、いつも通り第二階層から第五階層へ続く狭い通路を下り、第四階層への通路で休息を取ってから、第六階層へと向かう事になっている。
「しかし‥‥私の懸念は、杞憂だったようだな」
「懸念、ですか?」
 尋ねる一に、真白は意味ありげな笑みを返した。大掛かりな『作戦』のサポートをする事、場所によっては『神』とも表現される『ミテーラ』に相対する事に、緊張しているのではないか‥‥と、密かに真白は案じていたが、そんな心配も無用だったらしい。
「気にするな。先を急ごう、時間は限られている」
 思い出したように地の底深くから吹き上げてくる風が、一歩一歩−−おそらくは最後となる戦いへ−−進む者達の髪や服の裾を翻した。

●Eencounter
 取るべき行動を自らの判断に任された十人は、発見された『ヘパイストス』と新たに出現した『キュクプロス』と呼ばれるミテーラのうち、『キュクプロス』を遊撃的に攻撃する事と決めた。
 どちらのNWも発見されたのが最下層の第六階層だった為、そこまでは問題なく進めると踏んでいたが。
「おいおい‥‥随分と、歓迎ムードだな」
 ライトに照らされた姿を前にして一子が渋い顔をし、僅かに苦笑した要はMaguna2944マグナムのグリップを握り直す。
「ああ。こんな所までわざわざ出迎え、か」
 熱風の吹き出す第五階層。『ヘパイストス』より一回り小型の『キュクプロス』が、小型の蟲達に囲まれ、既にそこにいた。
「下まで行く手間が、省けたってモンだっ。ブッ飛ばすぜ!」
 歩くだけで汗が額に滲む蒸し暑い状況でも、決して覆面を外さない躑躅が吠える。
「障害である事に、変わりはないな。遅かれ早かれ、露払いせねばなるまい」
「だな。それにしても、やる気のあるこって‥‥」
 身構えるCardinalに、面倒そうな表情で単眼の巨人を見上げる氷が肩を竦め。
 当初の予定より早く、戦いの火蓋は切って落とされた。

 剣戟と銃声、そして奏でられる旋律。
 蟲達がたてる威嚇の声と、甲殻がぶつかり擦れて発せられる耳障りな軋み。
 そんな様々な『音』が、空洞に反響する。
『ヘパイストス』よりも小型とはいえ、4mに達する巨体はそれだけで脅威だ。また甲殻も硬く、ある程度の威力のあるオーパーツでも、有効な一撃がなかなか与えられない。
「それにしても、こんな所で前哨戦とはね」
『アイスメタル』の弦を弾く恭司に、『ブーストサウンド』を手にした真白が首を縦に振る。
「しかし、何故ここにミテーラが沢山いるのだろうな」
「第六階層に降りる通路に『火山の神を封じる』とあったから、もしかすると『キュクプロス』も一緒に封印したのかもしれないね。『ヘパイストス』の従者なら、神の眷属なのかも知れないけど‥‥」
 言葉を切り、改めて恭司は『キュクプロス』へ目をやった。
「ここにいるのはどっちも怪物だし、神話での怪物ってほとんど討伐されるものだよね? 怪物は、怪物らしく討伐されてもらわないと。ここで倒れたら、あいつらに何を言われるか怖いし‥‥彼女にもね」
「怪物云々に関しては、さて置き‥‥待つ者がいる身ならば、帰らねばな」
 答えながらも、真白は弦を弾く手を休めない。彼女自身もまた、地上で帰りを待つ者がいる身だった。
「にしても‥‥コアは、見えませんか。とりあえず、こちらは目を狙ってみましょう。むしろデカ目、何だか狙って下さいと言わんばかりにしか思えませんよ」
『戦況』を見ていた一の言葉にアンリは首肯し、『サーチボウ』へ矢をつがえる。
「そうですね‥‥こちらでも、狙ってみます‥‥」
「私も援護します。一さん達から狙いは外しますが、勢い余って当たりに行かないで下さいね」
「じゃあ、矢弾は鏑矢でお願いします」
『アヴァロンの弓』を片手にセナが冗談めかせば一も切り返し、笑いながらひらりと手を振った。

 だが一口に目を狙うと言っても、それは容易い事ではない。
 相手は彼らを凌ぐ巨躯であり、何より『ヘパイストス』と同様に炎を吐き、鋭い爪を有する炎を纏った腕を振り回すのだ。
 熱気の塊を飛び退って避けた一は、そのまま一度距離を取り、一つ目を睨み上げた。
「壁際まで誘導しないと‥‥これでは、届きませんね」
「こちらが囮になろう」
 彼らの動きに策を察したCardinalが、声を投げる。
「ああ。頑丈さじゃあ、こっちも出遅れちゃあいないぞ。もっとも、初っ端から全力って訳にはいかないが」
 親指を立てて見せた一子は、翼を広げて飛び回りながら『ブーストサウンド』を奏でる要へ『知友心話』で意識の言葉を飛ばし。次いで注意を引くように、『キュクプロス』へ『虚闇撃弾』を放った。
「壁、穴が多いから、足を引っ掛けてすっ転ばないようにな!」
 注意を促す氷へ一は頷き、仲間が『キュクプロス』を引き付ける間に、壁を駆け上がる。
 十分に距離が縮まったところで、彼は壁を蹴って飛び。
 巨人の頭に取り付いて、その一つ目を『ライトバスター』の光の刀身で抉った。
 そしてすぐさま、伸ばされる手から逃れ、壁へと『降り立つ』。
 顔を覆ってもがく巨体に、すかさず囲んだ者達から拳が叩き込まれ、あるいは刃が突き立てられ、矢弾が打ち込まれる。
 よろめく『キュクプロス』を引き倒し、甲殻を切り裂き、コアを暴いて粉砕すれば、例に漏れずNWはその活動を停止し。
 動かぬ肉塊と化したミテーラに、一同は重々しく息を吐き、ようやく緊張を解く。

 ‥‥だが、それはまだまだ戦いの序章だった。

「なんだ、ありゃ?」
『一仕事』を終え、次の『獲物』を探す躑躅が、ソレに目を留めた。
 巨体の影も見えなかった場所で、突如メキメキとナニカが変形しながら瞬く間に質量を増し、最終的に単眼の巨人の形を成して、第二の『キュクプロス』が現れる。
 過去に見た経験がある者には、一目でそれがNWが『実体化』する過程であると看破した。
「いったい、どれだけのミテーラがここにいるんでしょう」
 額の汗を拭うセナに、微塵の疲れも窺わせないCardinalが新たな『キュクプロス』へ足を踏み出す。
「幾ら現れようと、俺達がやるべき事に変わりはない‥‥倒すだけだ」
 新たな『キュクプロス』は、一体だけではなく。
 戦いは、遺跡の到る所に広がろうとしていた。

 中東での『交渉』の延長と、それによる『バベルドゥーム』起動の遅れによって、オリンポス遺跡での戦いは長期戦を強いられる事となる。地上へ向かい始めた『ヘパイストス』の行動に、戦線を後退させながらも、第二階層での『決戦』は獣人達の勝利に終わり。
 同時にNWの『シンクロニシティ』を利用した大規模封印作戦もまた、無事に完遂した−−。

●Mystery that was left
 蠢く蟲達が消え去った遺跡は、静寂に包まれていた。
 ミテーラ『ヘパイストス』がいた第六階層も、足を踏み入れた者以外に動く存在はなく、ただ蟲達の住処となっていた遺跡が広がっている。
「しっかし火山の神、『ヘパトスイス』ねえ‥‥? 『キュクプロス』といい、鍛冶屋みたいな存在でもあるらしいし、どっちかっつーとオーパーツを作る‥‥そう、今の『カドゥケウス』みたいなイメージだけどな‥‥なんか関連あるのかね? ヘルメス君」
 髪を掻きながら尋ねる氷に、『カドゥケウス』の『伝令者』は首を横に振る。
「『ヘパトスイス』じゃなくて、『ヘパイストス』な。多分まぁ、ミテーラの特徴からそう呼称されていただけで、『カドゥケウス』自体とは直接繋がりはない‥‥と、思う」
「じゃあこの遺跡は単に、『ヘパイストス』が封じられていただけ‥‥になるのかな?」
 崩れかけた神殿を見上げる恭司が、背後で交わされる会話に振り返った。
「場所も場所だしな。人間に見つからず、またほじくり返される事もなく、厄介なNWを封じるには格好の場所だったんだろ」
 遺跡と関わりの深い者達、あるいは遺跡に興味のある者達は、ある意味で『最後の機会』に最深部へと足を運んでいた。この後、このオリンポス遺跡をどう扱うか、まだWEAは決定を下していない。しかしNWが封じられていたという場所柄を考えれば、NWの存在を公表しない為にも一般人への公表はされず、ひっそりとまたWEAの管理の下で封印状態となる可能性もあった。
「どのくらいの間、『ヘパイストス』はここに封じられていたんでしょうね」
『ヘパイストス』と遭遇した場所で、セナが呟く。
「古代ギリシアよりも、もう少し後の話になるか。少なくとも1888年より前には、ここにいた事になるか」
「やけにその年代だけ、正確なんだな」
 Cardinalが訝しめば、肩を竦めてヘルメスは苦笑した。
「あんた達が見つけた、手帳さ。アレを書いていた人物は、『切り裂きジャック』事件を調べていたらしい。被害者の名前と、担当刑事の名前が書かれていたからな」
「あ〜‥‥忘れてた。そういや、そんなモンもあったな」
 明後日の方を見る氷は、忘却の彼方から記憶を引っ張り出す。
「でもそれがどうして、こんな所にあったんでしょう?」
 純粋に興味から、一がヘルメスへ問いを重ねた。
「『カドゥケウス』は、ミテーラの捕食の為だって推測してる。が、それを証明は出来ないし、証明する実験台になる気もないしな」
『中身』のない片腕の袖を押さえたヘルメスに、Cardinalは第五階層の壁へ穿たれた多数の−−ヘルメス曰くは、NW達が食糧保存に使っていた−−『横穴』を思い出す。そして、何度か遺跡に『回帰』したNWの群れの事を。
「つまり、俺達の知らない抜け穴からNWは遺跡の外に出ては獣人を浚い、ここへ引っ張り込んでミテーラの『餌』にしていた訳か」
「そういう事らしい」
 残った片手を広げ、彼らとは別の手法で遺跡を探っていた青年が答えた。
「それも、今日で終わりという訳だ。肝心のミテーラがいなくなり、NWもほとんどが封印されて、姿を消したのだからな」
 始めて目にする光景をじっと眺めていた要が口を開けば、こくこくと何度も頷いてアンリが賛同の意思を示す。
「こんな辛気臭い場所に、長居は無用だろ。とっとと地上へ帰ろうぜ」
 興味がないのか、躑躅の足は既に地上へ向いていた。
 気の早い背中に真白は苦笑し、一子は腕組みをして深く息を吐く。
「ま、作戦は無事に成功したんだ。全てのNWが、100%封印されたという保証はないが‥‥そろそろ、お日さんを拝みたくなってきたしな」
「そうだな。帰ろうか」
『戻る』のではなく、『帰る』‥‥そう、Cardinalが一行を促した。

 かくして、オリンポス遺跡は静寂の闇でひっそりと眠りにつき。
 獣人達は、眠らない世界へと帰還した。