Limelight:Play Voiceアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/06〜01/12
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●本文
●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
看板代わりなレトロランプの下には、しめ縄が飾られていたりする。
両開きの木枠の古い硝子扉を開けると、エントランスには下りの階段が一つ。
地下一階には小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
そして、地下二階に相当するメインのフロア。
板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並ぶ。
控えめなボリュームでオールディーズが流れる中、オーナーの佐伯 炎(さえき・えん)は床のモップ掛けに勤しんでいた。
「正月から、仕事熱心な事で」
バーカウンターのスツールに腰掛けた川沢一二三(かわさわ・ひふみ)が、いつもの熱くて濃いコーヒーを片手に、旧知の友人の仕事っぷりを眺めている。
「大騒ぎしたトコだし、バイトも休みだからなぁ」
モップ掛けを終えると背筋を伸ばし、佐伯は腰を叩く。何やら考え事をしながら、川沢は珈琲を啜った。
「‥‥ここ、昼間は閉めていたか?」
「ああ。夜の用意はしてるがな‥‥昼間、ナンかに使いたいのか?」
バケツを置いて佐伯もスツールに座り、ポケットから煙草を引っ張り出す。友人が火を点けている間に、川沢は灰皿を彼の方に押しやった。
「新人発掘‥‥という程でもないんだが、ちょっとした企画を考えていてね。埋もれたままの原石を、少し磨いてみるといった風な感じかな。僕も専用スタジオを持つ身ではないし、空いているなら貸してくれると有難い。ここの設備は悪くないし」
「お前も、仕事熱心だな」
店のオーナーはふぃと紫煙を吐いて、ライブスケジュールを思い出す。
「確か‥‥アマチュア・バンドの『発表会』が一件入っている程度だな。昼間に使っても、問題ないだろうが。一つ、条件をつけても構わんか」
「‥‥うん?」
怪訝そうな相手に構わず、佐伯は灰皿へ灰を落とした。
「昼間にレッスンをやる代わり、夜は店の仕事を手伝ってもらう」
「それ‥‥18歳未満は、どうする」
「そうだな‥‥とりあえず、俺が侍らせウソです冗談です言ってみたかっただけだからソンナ怖い顔でワザワザ御丁寧に半獣化までしなくてもギャーっ!」
●リプレイ本文
●『Limelight』事務所
「おっはよーごっざいまーす!」
ばーんっと扉を開け、元気ハツラツで事務所に現れたのは、椿(fa2495)。
その元気っぷりは、先に着いていた陸 琢磨(fa0760)達が一瞬呆気に取られるほどだ。
「ってアレ? 皆元気足りないぞ☆ 元気一杯腹から声出してこー♪」
「お前が元気あり過ぎ」
突っ込む佐伯 炎に、「えぇ〜っ」と彼は抗議の声を上げる。
「川沢さん、佐伯さん。お忙しい中、貴重な機会と場所を提供して下さってどうも有り難う御座います。一生懸命頑張りますので、宜しくお願いします!」
シド・リンドブルム(fa0186)が丁寧にお辞儀をすれば、観月・あるる(fa1425)も後に続いた。
「観月あるるです。特別レッスン、よろしくお願いします。もちろん、バイトも売り上げに貢献できるよう頑張るわね」
「嶺雅だヨ。初めまして。どうぞヨロシクネ」
「Carnoです。御指導、宜しくお願い致します」
初対面となる嶺雅(fa1514)とCarno(fa0681)も次々に挨拶をし、川沢一二三も会釈で応える。
「川沢です。宜しくお願いしますね」
「川沢プロデューサー、お久しぶりです!」
一番最後に事務所へ入ってきたTosiki(fa2105)が、勢いよく頭を下げた。反動で、背中のハードケースが跳ねる。
「イギリスでは、お世話になりました。販促ライブの時には参加できず、すいません!」
体育会系張りの語調と何度も頭を下げるTosikiに、川沢は苦笑して首を振る。
「いや。忙しいのは、いい事だよ。一緒に仕事をした人が伸びるのは、嬉しいしね」
「ありがとうございます! 川沢『先生』、宜しく御願いします!」
ストラップを押さえて、また頭を下げるTosiki。その背中から、ケースが滑り落ちそうになり。
「こら。仮にも『商売道具』なんだから、大事に扱え」
肩から落ちる前に、ひょいと佐伯がケースを持ち上げた。
「あっ、すいません!」
あわあわと、Tosikiはケースを受け取る。
「あの、初めまして。俺、見た目がコレですけど、厨房で頑張って働きますので‥‥」
「気にするな。見た目がどうでも就業条件を満たしてるなら、『雇い主』として文句は言わさん。そこで、なーんか疑わしそうな目で見てる、ちっこいのもな」
「『ちっこい』じゃ、ありません〜っ」
一瞬どきっとした夜凪・空音(fa0258)は、動揺を隠すように『でっかい』佐伯に言い返した。
自己紹介を終えた一同は、事務所からメインフロアに降りた。
「うわぁ、綺麗〜」
バーカウンターの壁面にずらりと並んだリキュール類に、あるるの目がキラキラ輝く。赤や緑、黄色や青のボトルが、照明を淡く反射していた。
「あの、カクテルの作り方って、教えてもらえるの?」
キラキラした瞳のままで尋ねられ、佐伯は少し考える。
「ん〜。ステア系とブレンド系ならな」
「やった〜!」と、飛び跳ねて喜ぶあるる。
「レッスンって、何をやるのかな?」
空音は川沢へ、小首を傾げて問うた。
「まず一人づつ、ステージで唄ってもらえるかな。自分の歌でも、好きな歌でもいいよ」
「バックバンドの録音を用意していますが、使っても構いませんか?」
Carnoの質問に川沢はOKを出し、佐伯が音源を流す準備をする。
「では‥‥」
先陣を切ってステージへ上がったCarnoは、緩やかなリズムのイントロに合わせ、静かに唄い始める。
「腕に絡む白い指
そっとKissして
再会の約束
夢は瞬く星の輝き
時が二人を引き裂く
冷めたい朝霧が
幕のように降りる
瞳を閉じて思い描くのは
最後のKiss
真白な朝に
想い出残していく」
Carnoに続いて残りのメンバーも順番に歌声を披露し、川沢はじっとそれを聴いていた。
開店時間が近づくと、佐伯がバイトの要領を簡単に説明する。
「就業時間は18時から22時だ。店自体は24時までやってるが、充分な睡眠を取るのも喉の為だからな。
休憩は30分から1時間。事務所で晩飯食って、休めばいい。
制服はあるが、清潔な服装であれば私服でいい。ただし、フロアに出る奴は黒エプロン着用、厨房は白エプロン着用。これは必ず守るように」
あとは、芸能人とバレない様にと念を押す。
バレた時に備えて、空音は携帯の振動機能を使って知らせる事を提案したが、全員が携帯を持っている訳でもないため、見送りとなった。
そして、昼と夜の『二重生活』が始まった。
●基本の踏襲
序盤のレッスンは、発声の基本。
「物足りなく感じる人もいるかもしれないけど、基礎が大事だからね」
「いや、有難い。何事も基本こそ力だからな」
望む所だと言わんばかりに、琢磨がぐるぐると肩を回す。
まず声を出す為のストレッチと姿勢から始まり、胸式呼吸と腹式呼吸の違い、声の通し方などを学び、ピアノに合わせて1オクターブ分の発声、個々の音域と音階、声質を確認していく。
練習を始めて1時間程で、佐伯がホットミルクやカフェラテを持ってきた。
「ほら、休憩だ。好きなのを取りやがれ」
「え、もう?」
驚くTosikiに、適温のカフェラテを選んだ嶺雅が頷く。
「発声練習自体は、1日に1時間か2時間で十分だネ。楽器を練習するのと違って、毎日3時間も6時間もガンガン唄い続けると、喉が壊れる」
「詳しいなぁ、レイ君」
ホットミルクのマグカップを両手で包むあるるが、嶺雅を見上げて感心する。
最後に佐伯は、熱くて濃いブラックコーヒーを川沢に渡した。
「呼吸の訓練、喉のトレーニング、イメージトレーニングも大事ですが、音楽を聴いたり楽器を演奏して、音感やリズム感を鍛えるのも大切です」
ポイントを挙げながら、川沢は珈琲を啜る。
「半獣化や獣化すれば簡単にクリアできる問題ですが、広く名前を売る気なら獣化は危なくなりますからね」
「ん。判るよ、それ」
マグカップを空にした椿が、いつになく重い口調で納得する。
「シークレットシンガーもやってるけど、獣化すると『楽』だよね。でも、それで表舞台に立って、世間に受け入れられる訳じゃない。表に出る為には、獣化に頼らない事も大事だよね」
「ああ。人間の姿の時の実力こそ、本来の実力だしな」
ゆっくりと、琢磨はカフェラテを飲み干した。空のカップは佐伯が集めて回る。
「では、レッスン再開にゲームを一つ。僕がピアノで和音を一つ弾くから、どの音か判ったら同じキーを叩きにおいで」
●Night Time
夜のバイトは容姿で客に注目される事もあったが、お互いの機転や連携でやり過ごしていた。
佐伯曰く「発表会」の当日。静かなフロアは、騒々しかった。
客の年齢層は30代後半。クラブのOB会らしく、昔話に花が咲いている。フロアも普段と違い、『立食形式』のセッティングだ。
「出席の名簿チェック、終わったよ」
「ありがとう」
伊達眼鏡をかけた空音は、地下一階のサブフロアで受付に使った名簿を佐伯に渡す。一緒に受付をしたTosikiは、窓から下の様子に目を向けた。
いつもは厨房にいるので意識しなかったが、フロアメンバーは濃い。
髪をオールバックに緩く整え、出来上がった料理や空の皿を運ぶCarno。大人びたメイクをし、バーカウンターに入っているあるる。この二人はそれぞれの工夫もあって、『バイト』として雰囲気に溶け込んでいる。問題は、残る二人だ。
最も目立つのが、女装した椿。細身とはいえ長身の彼が女装すると、さすがに‥‥である。次に、人が避けるのが嶺雅。耳に幾つものピアスをし、何より口ピアスが目立つ。今日の客には、見慣れないモノだろう。
「あれ、飲み食いする時に邪魔にならんのかな。ひっぱったらどーなるんだろう」
不穏な発言にTosikiが見上げれば、店のオーナーは真剣な顔をしていた。
「う‥‥何か寒気がするんだケド、風邪カナ?」
背筋がぞくりとして、嶺雅は腕を擦る。Carnoは心配そうに、彼が運ぼうとした料理の皿を取り上げた。
「無理をしないで下さい、嶺雅。少し休んでもいいですよ」
「大丈夫。その美味しそうなのをちょっと食べたら治るヨ。キット」
視線の先には、エビチリのフライパンを煽る琢磨。
「つまみ食いはダメだよ」
「大丈夫。嶺雅のは風邪じゃないから」
スライスした4種のチーズを盛り付けるシドと、白いエプロンのリボンを結ぶ空音が釘を刺す。嶺雅はがっくりと肩を落とし‥‥たと見せかけて、シドの手元からチーズを3枚ほど浚った。
「もうっ、嶺雅さんー!」
フロアの光量が抑えられ、ライトがステージを照らす。
司会役が彼らのバンドを紹介し、ライブタイムとなった。
演奏予定は3バンド。誰もが家族や仕事など日々の平凡な生活をこなしつつ、趣味として細々とバンド活動を続けている人々だ。そんなアマチュアのバンド演奏は明らかに下手なのだが、演奏する者も聞く者も「発表会」を楽しんでいる。
プロのミュージシャン達−−フロア係はバーカウンターで、厨房係は地下一階のVIP席で、演奏に耳を傾けていた。
●それぞれの音
呼吸方法や音感を高めるレッスンも、後半は個性の表現が主になっていく。
最終日には、各人の方向性と今後の練習方法の話となった。
「音感を声量でカバーしているのは、自覚してるんですけど‥‥もっと繊細に唄うには、どうすればいいのかな」
シドの質問に、川沢は少し考える。
「君は音域があるから、声の強弱を使うのも手だね。ただ、正確に音が取れないと、ゴニョゴニョするから気をつける。後は、あえて滑舌を甘くして、ソフトに唄うのもいい。喉だけ唄わず身体を共鳴させて唄うと、奥行きも出るだろう」
次は「はい」と、椿が手を挙げた。
「パワー不足を補うのは?」
「喉だけで叫ぶと、すぐ喉が疲れる。肺活量と横隔膜、喉周辺の筋肉を鍛える事。声が鍛えられると、ミックスボイスも楽になるよ」
「なるほど。これで実力がついて有名になって、『恩師は川沢サン』って言えたらいいね」
椿の言葉に皆が笑い、今度はTosikiが挙手する。
「あの、唄う事には、余り自信がなくて」
「苦手意識は、本人のメンタルな部分に寄るから難しいね‥‥君は音感がしっかりしてるし、呼吸と喉が出来れば身体から音が出せるようになる。それが歌への自信になるよ」
「私は‥‥?」
横からおずおずと、あるるが尋ねる。
「音をふらつかせない事。君と琢磨君はリズム感がいいから、安定した音が出せればベストだね」
「自分の長所を潰す事なく、個性を伸ばすのはどうしたらいいのかな」
現状では、まだまだプロとしての条件を満たしていないと感じている空音が、真剣な表情で疑問を投げる。
「気持ちは判るけど、焦らない事と‥‥ある意味で当然なんだけど、人の真似をしない事。演奏は真似て上手くなる事も多いが、声が出来ていない人が声真似をしても無理な方が多い。声を出す為の楽器−−身体の作りは、一人一人違うからね。
呼吸も音感もリズム感も、伸ばすには日々の積み重ねが大切なのを忘れずに」
それから川沢は、基礎の出来ている二人を見た。
「Carno君と嶺雅君に言及する事は、ない。今後は基本を踏まえつつ、歌を自分の中に取り込んで、表現するかだと僕は思う。カッコ良さや自分が思う通りに唄うだけでなく、どう人に聞かせるか。どう歌の世界を構築し、再現するのか。そういった表現方法を獲得するには経験が何よりだし、多くの人と付き合うのも重要だよ」
じっと聞いていた二人は、神妙な表情で頷く。
「でも」と言葉を継ぎ、川沢は改まって一人一人の顔を順番に、ゆっくりと見つめる。
「一番大切なのは、楽しむ事。特に歌は、気分や感情が反映されやすいものです。だからどんな時も、それが嘘でも、唄う瞬間は心を楽しく、幸せな状態に切り替える。心のない歌は、ただの言葉の羅列ですから」
「ライブにきてた人達は、間違えてもフレーズを忘れても、楽しそうだったしね」
ふと思い出して、空音は呟く。
「そういう事だな。で、バイトの差し引き分を渡したいんだが、構わんか?」
言いながら、佐伯は八通の茶封筒をぴらぴらと振った。
「すいません、これ」
封筒と入れ替わりに、Carnoが川沢へライブチケットを差し出す。
「今度、小さなハコでライブをやるんです。よろしかったら、聴きにきて下さい」
「では、楽しみにして行きますね」
軽く頭を下げて、川沢はチケットを受け取る。そしてCarnoは佐伯にもチケットを渡した。
「実は‥‥若い女性ファンも、結構多いんですよ」
「そりゃあ‥‥って、お前、何か誤解してないかっ」
吠える佐伯に、皆が笑い出す。
−−そしてレッスンを終了した八人は、ライブハウス『Limelight』を後にした。