Howling−月に吠えろ!アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
風華弓弦
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
0.7万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
01/17〜01/19
|
●本文
●月下のポップス・フェスティバル
「‥‥冬空の下での野外コンサートは、ヤバイですよ」
「うん。ヤバイよな」
イベント企画会社の若い担当者に、年配のプロモーターが頷く。
「でも、『月下のポップス・フェスティバル』なんですよね。名目は」
「うん。名目はな」
「月の出も遅いですよね。コンサート当日は、満月も過ぎてますし」
「うん。遅いね」
「うんうんって、ソレばかり言ってどーすんですかっ!」
のらりくらりとした答えの連続に、遂に担当者が業を煮やして叫んだ。
「別に、普通のコンサートホールでいいだろ」
「いいんですか‥‥」
しょんぼりと、担当者の狸尻尾が揺れた。そのしょげ様に、プロモーターも少し気の毒になる。
「まぁ、外でも晴れて月が出るとは限らないし、ホール内なら天気の心配もない。客が帰る時に空を見て、「いい月だなー」と思ったら、それでいいんじゃないかね」
「そうですね‥‥よし、いい企画にしましょう!」
気分を切り替えるように拳を握り、担当者は気合を入れた。
かくして、新春戌年特別企画『月下のポップス・フェスティバル』参加ミュージシャン募集の告知が流れた。
出場条件は『犬系獣人である事』。
ただし、耳がニセモノである事を印象付けるために、普通の獣人も付け耳の犬耳で参加する事が可能であるという−−。
●リプレイ本文
●Are you ready?
「なんだか、緊張するね〜」
言葉とは裏腹にのどかな口調のクク・ルドゥ(fa0259)は、頭の上に乗っかった付け犬耳を気にしていた。柔らかい金糸の様な長い髪に指を滑らせて、棗逢歌(fa2161)が耳の位置を調整する。
「そういえば、クク君は初めての大きな舞台だね」
「うん。緊張するけど、楽しみだよ」
「キミのために俺がトップバッターで露払いをするから、安心して舞台へ上がるといい」
「ありがとう。ルシ君も、一緒に楽しもうね」
嬉しそうなククは、LUCIFEL(fa0475)にもはたはたと手を振った。彼女の頭上で、逢歌とLUCIFELの僅かな視線の交戦があった事も気付かずに。
「何かいま‥‥バチッて火花が飛んだわね」
毛足の長い狆(ちん)の付け耳をした明星静香(fa2521)の呟きに、藤野リラ(fa0073)はくすりと笑う。
「ええ、飛びましたね」
「ああいう「普段のペース」も、緊張を解くのにはいいだろう‥‥ところで、リラもその格好なのか?」
バリニーズの耳のリラに、半獣化した陸 琢磨(fa0760)は首を傾げた。
「犬だよ、犬。ほら、どう見ても犬」
暗示にかけるように、「犬」という単語を繰り返す藤野羽月(fa0079)。
リラは猫の耳に犬の付け尻尾。ククも犬の付け耳にルチノーの白っぽい翼。それに加えて、蝙蝠の獣人である仁和 環(fa0597)も、蝙蝠の耳と翼を出して演奏する。
「確かに、フレンチブルドッグの耳はバットイヤーっていうけど‥‥それにしても、魔狼にキメラと、どういうイベントだろうねぇ」
いかにも作り物らしい犬耳を付けた司会が、面白そうに八人を見やった。それでも主催者側からは「面白ければ。かつ、それで客が満足する音楽ができるなら」とOKが出たので、このままステージは進められる。
空にはまだ、月の姿はない。
●Program 1 LUCIFEL
「新春戌年特別企画『月下のポップス・フェスティバル』へ、ようこそ!
最初に歌声を披露してくれる狼は『be mixed』所属のLUCIFEL、曲は『The Silvery Sun』!」
ステージのセットには、夜空を思わせる作り物の満月と、星をイメージした小さなライトが無数についたネットがかかっている。
満員の客席から歓声があがり、ライトの光が踊って、舞台中央のLUCIFELを照らし出す。
「愛を謳いロックを歌う、ココロの調律者(チューナー)‥‥特にお嬢さん方は、よろしく!」
MCが終わると同時に、ハイスピードなリズムと叩きつけるような音がホールを揺らした。
銀髪を乱し、汗を散らしてLUCIFELは右へ左へとステージを駆け、観客を煽る。
「 望むままに全てを曝け出して、輝きを掴み取れ! 」
曲にノって、波打つように次々と拳が振り上げられた。
●Program 2 明星静香
LUCIFELの盛り上げたステージを引き継ぐのは、黒のカジュアルなワンピースを纏った静香。
ハイタッチでLUCIFELと入れ替わりに、小柄な彼女は舞台へと躍り出た。
「明星静香です。明るい星は静かに香る、と覚えてね。無所属の音楽流浪人ですが最後まで聞いて下さい!」
肩からエレキギターを下げた静香は、大きく客席へ手を振る。
「 君はどうして そんなにつれないの
私の思い 知ってるはずなのに
見つめて 抱きしめて キスをして
今すぐここで 」
録音済みの音源に合わせ、エレキギターを奏でながら静香が唄うのは、振り向かない相手を追いかける女のコの心。
揺さぶりをかけるように、アップテンポから時にスローダウンして囁いてみたりと、目まぐるしく曲調も変わる。
「 君の心の扉 こじ開けるのは
私のこの思いだと
そう信じているわ
君は素直じゃないから すぐじゃないけど
必ず開けて見せるわ
絶対 私は負けない! 」
明るい歌声を応援するように、手拍子がコンサートホールを満たす。
拍手を受けてギターを掻き鳴らした静香を追っていたライトが絞られ、細く消えた。
●Program 3 『蜜月』
「静香さん、元気なステージをありがとう! 次はクク・ルドゥと棗逢歌のユニット、『蜜月』!」
司会の紹介に合わせて、二筋の光が新たなミュージシャン達を照らし出した。
「『フルーツバスケット』と『be mixed』所属のクク・ルドゥです」
黒いゴシックなロングドレス姿のククが、軽く膝を曲げて会釈をする。
一方の逢歌は、黒い着物に白い羽毛付コートを着て、狐の付け耳付け尻尾をつけていた。
「今宵は狼達の祭典‥‥送り狼がたくさん現れそうだねぇ♪ そんな狼さん達へ、蜜月からのプレゼントだ。
心配せずに、開けてみな。浮世の全てを蕩けさす甘美な一時が詰まってるからさ」
音を待つ空間へ、スピーカーを通して生の弦の音が響き渡った。
「それでは、『琥珀月夜』です−−God bless wolves for this night」
祈るように両手でマイクを握るククが、逢歌の演奏に合わせて静かに歌い出す。
「 2人並んだ帰り道、琥珀の月が見守る夜
いつか君は言ったよね、月は衛星で地球の周りを寄り添っているって
いつか君は笑ったよね、まるで恋人みたいだねって
だけど、気付いてる?
寄添う月と地球の間には、変わらない距離があるってこと
伝えたい気持ちが浮かんで消えて
言葉を紡げない自分が、もどしかくて
私の家まであと少し、琥珀の月に願い事
ほんの少し勇気を下さい。
言葉を編めないこの唇に。
ありったけの心をこめるから 」
語りかけるようなメロディから、ククは光へと手を伸ばして、澄んだ声で唄う。
少しはにかんだ様な微笑みで。でも、思いの丈を届かせる声で。
それを後押しするように、逢歌のストロークも強くなり。
「 だから、キスをしようよ
この思いをロケットに乗せて、君の心に届けるために
だから、キスをしようよ
伝わるかな? 私の気持ち 伝わってる? 大好きなの
だから、キスをしよう
3,2,1.」
最後のカウントダウンは、目を閉じて。
そして、逢歌が淡い旋律で物語に幕を引く。
余韻が消える頃、波が寄せるように客席から拍手が広がった。
●Program 4 陸 琢磨
「次に登場するMr.ウルフは、陸 琢磨。歌うは『Moon Light』!」
司会の紹介にあわせて、眩い光がラフな革ジャン姿の琢磨へと降り注いだ。
再びの拍手と歓声を割って、傍らの椅子に掛ける環がアコースティックギターの弦を弾く。
SHOUTを握る琢磨は、光を振り仰いで歌声を放つ。
「 曇った夜の闇は
疫病の様に 身体を蝕み
心の 不安を掻き立てる
風が吹いた 雲のカーテンを凪ぐ風が‥‥
そして 見えた光に心が揺れる‥‥
Moon Light‥‥
差し込む光は 淡く優しくて
夜空の姿を 恍惚と変えていく
光を浴びるだけで 衝動は高まる
いつしか開いた口が何かを紡いだ‥‥
Howling‥‥ 」
バラード調の旋律に乗せ、琢磨は彼方へ吼える様に朗々と唄い上げた。
拍手の内に、ステージは暗転する。
●Program 5 仁和 環
「月夜の宴も、残す時間は僅かとなりました。次に魔狼に扮するは『Tishtrya』所属、仁和 環。『まほらま』です」
アコースティックギターからエレキギターに持ち変えた環へ、ライトが集まった。
燻し銀の流水紋と藤柄の入った青藍の着物を片肌に脱いで崩し、黒詰襟のトップを晒した出で立ちに、如何なる音を奏でるかと、観客達は息を呑んで見守る。
抉る様な激しい音を打ち出して、和風テイストのロックがホールを震わせる。
曲は遥か理想郷に想いを寄せつ、火宅の世を生きる強さをイメージしたものだという。
「 空に冷たき真澄鏡 映すは憂い虚ろいか
天の下如何に傷つくも 今日が始まる幸がある
真秀らなる遥か郷よ 心曇らずば
−−彼の地は遠からず 」
羽月が間奏を奏でるうちに、環は更に三味線へと持ち変えた。
電子音と入れ替わって、三つの糸の一つを撥でうてば、冴え冴えと三味が鳴り。
そこから波頭の如く、音を掻き落とす。
最後にカマシを繰り返して煽れば、その撥捌きに拍手が沸き起こった。
●Program 6 『aeien』
「名残惜しくも最後の演奏は、藤野羽月・リラ夫妻のユニット『aeien』。『月−Luna−』でお別れとなります」
名残を惜しむ拍手の中、羽月はヴァイオリンへ弓をあて、リラはピアノの白鍵に指を落とした。
二つの楽器はアイリッシュなバラードを紡ぎ、それにリラのよく通る声が乗る。
「 Cry/Wish for the moon
月が欲しいと泣くけれど
あなたの涙の海に ほら
月は白く揺れる 」
時に互いを見合い、サビでは二人の声を重ね。
陽気な掛け合いを見せて、観客の手拍子を誘う。
息の合ったアコースティックな演奏に、聴衆は惜しみない拍手を送った。
●Program 7 Bark at the moon
演奏が終わっても鳴り止まない拍手とアンコールの声に応え、八人は揃ってステージに上がった。
ラストを締めくくるのは、口語自由詩を確立した詩人、萩原朔太郎の詩集『月に吠える』より『亀』という詩。
奏者達が奏でるスローテンポのバラードにのせて、歌い手達が代わる代わる大らかに、自慢の喉を披露する。
最初はLUCIFELとククが声を重ね、次に琢磨とリラが息を合わせる。
三度目には歌手の全員がアカペラで見事なコーラスを聞かせて、最後は全員で唄う。
全てを歌い上げると、再度のアンコールを求めるように、喝采が会場に満ちた。
コンサートが終わる頃には、月も天空に差し掛かっている。
少し雲が多いものの、月はその合間より金色の光を放っていた。