Medieval Carnival!ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/28〜01/31

●本文

●類は友を呼ぶ‥‥らしい
 ポストには、各種請求書やダイレクトメールに混じって一通の封書が入っていた。
 白い封筒には、流れるような美しい文字で宛名が綴られている。
 差出人を確かめるべく封書の裏を見れば、そこにも黒いインクで一文があった。
『the Middle Ages Love Society』
 つまり−−。

「『中世愛好会』のメディーヴァル・メディーヴァルか。年明け早々から、元気で結構なことだ」
 ぴらぴらと白いカードを振りながら、レオン・ローズは椅子の上で胡坐を組んだ。
「でも、そろそろ次の撮影プランを組む頃だよ」
 レオンと同じカードを手にするフィルゲン・バッハは、カード越しにじろりと相方を見やる。
「‥‥だが、時には息抜きというものも必要であろう」
「‥‥息抜き過ぎだと思うが。というか、やっぱり行く気だな」
「折角の挑戦状を、受けて立たぬ道理はないだろう!」
 はっはっはと、声も高らかに笑う英国人青年。
 一方の独逸人青年は、しみじみと深いため息をついた。
「無論、一人で行く訳ではないぞ。安心するがいい」
 レオンの一言に、フィルゲンの表情に浮かんだ疲弊の色が濃くなった。
「うむ。どうせなら、大勢で行く方が良いだろう」
 どこか楽しそうに、レオンはパソコンへ向かった。

 かくして、『中世愛好会』が開催する『メディーヴァル・メディーヴァル』への体験参加者募集の知らせが、各プロダクションに公開された。
『中世愛好会』とは、文字通り中世の時代を愛する者達の会である。
 それもただ愛でるのではなく、「体験・体感して時代に思いを馳せる」というものだ。その活動の一環が、メディーヴァル・カーニバル。会のメンバー達が集い、模造の武器を手に試合を行ってみたり、中世の装束に身を包んでダンスパーティを開く。
 今回のメディーヴァル・カーニバル会場は、スコットランドのスターリングにあるスターリング城。
 昼間はここで試合を行い、夜には近くのルネッサンス様式のユースホステルを借りて、パーティを行うのだ。
 参加のための年齢や性別制限などはない。一日限りのタイムトリップを楽しんではどうだろうか。

●今回の参加者

 fa0807 桜 美鈴(22歳・♀・一角獣)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1465 椎葉・千万里(14歳・♀・リス)
 fa1565 ニライ・カナイ(22歳・♀・猫)
 fa1791 嘩京・流(20歳・♂・兎)
 fa2141 御堂 葵(20歳・♀・狐)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)

●リプレイ本文

●『小旅行』の準備
「わーっ、ホントにドレスだよー!」
「綺麗やわ〜。ちょっと襟ぐりが深いけど‥‥あ、これなんかどうやろ」
 用意された衣装を前に、あいり(fa2601)と椎葉・千万里(fa1465)は歓声を上げてはしゃいでいた。御堂 葵(fa2141)も嬉しそうに、選んだ服を胸に当てている。
「一夜の幻想とはいえ、楽しみです」
「ええ。最近は有名ファンタジー作品が映像化される事も多いから、いざという時の為にもなるかしら」
 手触りを確かめるように生地に手を滑らせる羽曳野ハツ子(fa1032)の言葉に、ニライ・カナイ(fa1565)が感心した風に頷いた。
「ハツ子は勉強熱心だな」
「そんな事ないわよ。それにしても‥‥みんな素敵な衣装で、どれを着たらいいか迷っちゃうわね」
「そうだな」
 ニライの隣では、真剣な表情の嘩京・流(fa1791)が特定の衣装を選り分けている。
「しかし『中世』と一口に言っても、いろいろな時代背景もあると思うが‥‥その辺り、愛好会の人達はどうなんだろうか‥‥」
 少し心配そうな相沢 セナ(fa2478)に、「へーきへーき」と言いだしっぺのレオン・ローズがひらひら手を振った。
「『中世愛好会』は専門の研究会ではないし、メンバーも学者でもない。あくまでも愛好の士の集まりだからな」
「つまりは、類が友を呼んだという訳だ」
「ソレを言うと、自分も同じ穴の生き物だと気付かんのか」
 レオンが反論するも、フィルゲン・バッハは素知らぬ顔をする。
「お二人とも、変わらず仲がいいみたいですね」
 二人の会話に、ジェスターハットを手にした桜 美鈴(fa0807)がくすくすと笑った。
「あの、カメラは持っていっちゃ、ダメかな?」
 カメラを出してあいりが小首を傾げれば、レオンは「無論、構わん」とOKを出す。
「皆、趣味の領域であるしな。メンバーでも、記念撮影に勤しむ者もいる」
「やったー!」
 あいりは、ぴょんびょんと飛び跳ねて喜んだ。

●メディーヴァル・カーニバルへ
 スターリングは、人口35000人程度の静かな街である。
 エディンバラとグラスゴーの中間にあり、また低地部と高地部の境界にも位置する街は、スコットランド防衛上の要地と言われ、幾度となく戦いの舞台となった。
 その中心に、スコットランドで最も壮麗な城と言われるスターリング城がある。
 既に存在していた砦の岩盤の上に12世紀に立てられ、増改築を重ね、現存の建物はほとんどが16世紀以降の物だと言う。イングランドとの独立戦争や、スコットランド王家の興亡などの歴史を見守ってきた城である。
 切り開いた窓から陽光の降り注ぐ石造りの広間では、板金鎧や豪奢なドレスに身を包んだ男女が歓談していた。
 三角形の帽子に装飾の付いた服を着た恰幅のいい男が、広間に入ってきた一行に気付き近寄ってくる。
「彼が、中世愛好会会長のマッコイ氏。こちらが、友人諸氏だ」
 間に立って、レオンが両者を紹介する。両手を広げたマッコイは、陽気な調子で一行を歓迎した。
「ようこそ、皆さん。足を運んでいただいて、光栄です。ひと時の戯れを、どうぞ楽しんで下さい」
「お招き、ありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくね」
 美鈴やハツ子が軽く頭を下げ、他の者もそれに続く。一人一人と握手をし、マッコイは会員達へと向き直った。
「さて、皆様。本日のスペシャルゲストが到着いたしました!」
 高らかな紹介に様々な年齢の20人程の男女が拍手をし、口々に歓迎する言葉をかけた。

●模倣試合
 城壁から見下ろせば、冬枯れの野に石造りの家が張り付いている。
 晴れた日には遠くエディンバラを望む事が出来るというが、山野の先は霞がかって見えない。チェインメイルの上にサーコートを着たハツ子が石に手をかけて、冷たい風に目を細めた。風がぱたぱたと長衣の裾を翻す。
「いつか有名になってお金持ちになったら、こういうお城に住みたいわね!」
 風に負けずに声を上げれば、フリル襟のシャツに華やかな色地のダブレットを重ね着した千万里が「そやね!」と明るく答えた。風に浚われない様に片手で羽根帽子を押さえながら、少女も城を見る。
「ごっっついお城で、きれー! 夢みたい! ドラマチックー! ルネッサンスー!」
 そして、二人は声を上げて笑った。
 城壁の内側に目を向ければ、イベントは会場を石畳の広場に場所を移している。
 着飾った人々に囲まれ、二人の鎧姿の男が対決を開始していた。
「騎士様方が、貴婦人様の為に名誉をかけて決闘される! 皆様どうか、お見届けアレ!」
 おどけた様子で、道化師−−ジェスターに化けた美鈴がはやし立てる。
 全身甲冑の大柄な男がモーニングスターを振り回し、中肉中背の相手が手にした盾で受け止めて、長剣を繰り出す。
「あれって、本物じゃないよね」
 派手な色の上着に袖のないチュニカを羽織り、カメラを手にしたあいりが、はらはらと試合を見守る。
「剣の刃は潰してあるし、鉄球も見た目ほど重くありません。怪我人が出ては、後が大変ですから」
 マッコイの説明に、あいりはほっとした。レイピアを帯びた貴族の礼装風衣装の葵が、チュニックの上に胸甲甲冑を着たレオンを見やる。
「盾はなくても参加できますか? 使い慣れていないので」
「それなら葵殿、私とやるか」
 レオンが答えるより先に、ブレスプレートを身につけ、三つ編にした髪をきっちりと纏めたニライが申し出た。胴部分以外にはショルダーとアームガード、ガントレットを付けている。
 彼女の背後では、それまで惚けていた流が慌てていた。
「マジか、ニライ。怪我したらやべーじゃん‥‥もしかして、割と乗り気とか?」
「主義的には、やるからには徹底して、か」
 ふむとレオンは腕組みをする。続いて、流も同じく腕組みをした。
「そういう事か‥‥」
「そういう事だな。よろしく、葵殿」
「お手柔らかにお願いしますね」
 葵とニライは、にっこりと笑みを交わす。
 その間に拍手と歓声が起こり、見れば勝利した男が剣と盾を掲げて喜んでいた。

「完全に組み伏せるか、命を奪うまで戦う昔の決闘方法と違い、相手が武器を落とすか、武器を相手の急所に当てれば勝ちです。見届け人役は相沢氏でいいですか」
「判った」
 鎧を着ずに簡略した騎士礼服風の衣装を纏ったセナが、腰に帯びた剣の柄に手を置いて、一歩進み出る。背中で一つにまとめた髪が、風に煽られた。
『祭の為に軽装騎士風に装った中世の楽士』をイメージした装束の千万里が、フィドルを弾き鳴らした。それに合わせて、美鈴が口上を述べる。
「さぁ、次なるは、女騎士様方が互いの誇りをかけて戦われる!」
「お手柔らかにお願いします」
 風が葵の灰色の髪を乱すが、気にせず彼女は構えを取った−−剣道の如く。
 対するニライは、見よう見まねで剣を構える。
「それはこちらの話。腕は葵殿の方が達者だろう‥‥胸を借りるつもりで、いくぞ」
 暫しの緊張の後、先に仕掛けたのはニライだった。
 踏み込んでくる長剣を、勢いを殺さずに刀身で受け流して葵はいなす。
 たたらを踏んで振り返り、突きに来たレイピアの切っ先を、ニライは長剣を振るって弾く。
 だが、振り切った勢いと鎧の重さで足元がふらつき、よろめいた。
「姫ーーーっ!」
「あぁっ、ここでニライさんの従者、流さんが飛び出す! 麗しきは主従愛‥‥ですが、それも見届け人のセナさんに阻まれてしまう!」
 飛び出しかける流の前に、セナが抜いた剣をかざした。
「神聖な決闘の邪魔をするのであれば、私が相手になろう」
「望むところだぜ。セナを乗り越えてでも、俺はニライを助ける!」
 その二人へ、更にノリノリのハツ子が加わる。
「いいわね、流君。加勢するわよ! ニライさんを倒すのは、私‥‥今日こそ羽根つきの雪辱を晴らすわ!」
「ニライさん、モテモテやわぁ。皆、頑張って〜!」
 笑いながら、千万里が声援を投げる。ガシャガシャと音を鳴らしてレオンも立ち上がった。
「待て待て、二対一とは騎士道精神に反する。ここは加勢しよう」
 逆に足手まといになりそうなのが加わって、愛好会のメンバー達もやんやと囃し立て、あいりは忙しくシャッターを切っている。
「中世の戦いって、こんな感じやの?」
「だいぶ違うと思うが‥‥趣味の範疇だしね」
 千万里の素朴な疑問に、修道士姿のフィルゲンは面白そうに乱戦を見守った。

●真冬の夜の夢
 スターリング城の近くに、ルネッサンス様式のユースホステルがある。
 一般には閉鎖され、特別な機会にしか利用できないこのホテルで、参加者達は昼間の疲れをシャワーで洗い流した。
「ねぇ、コルセットって、やっぱりきついのかな」
 ペチコートをはいたあいりが、髪を結ったり着替えを手伝っているメンバーの女性に聞く。
「ええ。コルセットはウエストを絞るだけではなく、胸を上へ締め上げて、美しいデコルテ、つまり胸元を作る役割もあるの。腰は細く、胸は豊かに見せようとして締め過ぎて、のぼせたり、貧血や心身衰弱に悩まされ続け、挙句に呼吸困難に陥って、すぐに失神して倒れてしまうのが常だったのよ」
「そうなんだ。大変だったんだね」
「試しに締めてみる?」
 女性が取り出したコルセット−−細身の彼女のウェストよりも更に細い−−を見て、あいりは急いで首を横に振った。
「映画なんかでよく失神するシーンがあるのは、あながちオーバーではないんですね」
 感心する美鈴も、道化師の姿から着替えている。
「ええ。その為に、香水や麝香の気付け薬を小瓶に入れて、常備していたとか」
「魅力的になろうとする努力は、今も昔も大変なんやね。でもやっぱり、こういうのは乙女の夢‥‥!」
 うっとりと千万里が感慨深げに鏡を覗き込んだ。ニライは彼女の髪をセットした女性を見上げる。
「一つ聞いていいだろうか‥‥あなた達愛好会の皆は、中世という時代のどこに心惹かれるのか?」
「いろいろじゃないかな。男の人達なら、鎧が好きとか騎士道がどうこうとか。あたし達も、こういう衣装を着たりして雰囲気を楽んでるし‥‥他にも、食事とかを研究する人もいるわね。興味本位で上っ面だけだとか、懐古主義とか言われるかもしれないけど、やっぱり「古き良き」ってのも、大切にしたいし」
「なるほど‥‥」
 自分と同年代らしい女性の答えに、ニライは頷いた。

 サロンに現れた着飾った女性達の姿に、既にに集まっていた男性達が純粋な感嘆の声を上げる。

 白い礼服を着たセナが手を取る美鈴は、胸元と背中は大きくUの字に開いた若草色の姫袖のドレスに身を包み、胸元をネックレスで飾っている。
「ダンスって経験ないから‥‥踏んだらごめんなさい」
 俯いて頬を染める美鈴に、セナは首を振った。
「気にするな、楽しく踊ればいい」

 昼間と同じくサラシを巻いて男装した葵は、フランス貴族の子女をイメージしたバッスルスタイルのドレスを着た千万里とペアになる。
「うち、どう? どっかおかしいトコない?」
「いいえ。可愛いお姫様ですよ」
「ありがと! 迷惑かけへんように、頑張る」
「私も、ダンスは慣れてませんから。お互い様です」
 安心させるようにふわりと微笑む葵に、千万里は慌てて視線を下げた。
「葵さん‥‥女の人やのにカッコええの、ずるいわ」

 袖口からレースが覗く煌びやかな衣装を着てマスケラを付けた流は、中世イタリア風の蒼いドレスのニライに見惚れていた。彼女は縦ロールのウィッグに、ピンハットやヴェール飾りもつけている。
 差し出す細い手に気付いて、慌ててエスコートする流。
「ダンスは余り得意でない。足を踏むと思うが、耐えてくれ。その代わり、踏まれても文句は言わん。存分に踏め」
「踏まれるのは覚悟してるけど、俺がニライの足を踏めるわけねーじゃん」
 拗ねたような流の口ぶりに、珍しく彼女は微かな笑みを浮かべた。

「えーっと、足踏んじゃっても、笑って許してくれる?」
 フリルをふんだんに使った赤いドレス姿のあいりが遠慮がちに聞けば、レオンは明るく胸を張って笑う。
「気にするな。そんな狭量ではないぞ」
 照れくさそうに、あいりは「えへへ」と微笑んだ。カールしたツーテールと、髪を結ぶリボンが揺れる。

「えーと‥‥もし良ければお相手して頂けると嬉しいんだけど‥‥」
 それぞれの組み合わせを楽しそうに眺めるフィルゲンへ、ハツ子が躊躇いがちに問うた。いつものダテ眼鏡を外した彼女は、肩の露出した豪奢なドレスに控え目の装身具をつけ、中世風に髪を結い上げている。その姿に瞬きをした後、突然の申し出に気付いたフィルゲンは、驚いた様に自分を指差した。ハツ子がこくんと首を縦に振れば、シニョンを飾る髪飾りがシャラリと音を立てる。
「無理ならいいけどね」
「いいや。喜んで、エスコートさせていただくよ」
 快諾したフィルゲンは、恭しくハツ子の手を取った。

 ストリングカルテットがバロック音楽を奏でる中、パートナー達は手を取り合った。
 会のメンバー達が慣れた様子で踊る中、足元を気にして謝ったりステップを間違えたりしながらも、5組のペアは音楽に身を委ねて踊り。疲れれば、手の込んだ菓子やオーソドックスな料理に舌鼓を打って、思い思いのひと時を過ごす。
 宴もたけなわとなれば、カルテットの奏者に混じって流と千万里がフィドルを弾き、歌劇『ロミオとジュリエット』のアリア『私は夢に生きたい』を、ニライが優しくも凛とした声で、暖かく歌い上げる。
 その思わぬ「アクシデント」に、愛好会のメンバー達は盛大な拍手を送った。

 一夜が明ければ、全ては夢の如く消え失せ、現実へと戻る。
 心の内に或る残滓が如何な形となるかは、自身のみぞ知る−−。