Black Invitation IVヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
フリー
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/08〜03/11
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●本文
●第四のカード
ポストには、各種請求書やダイレクトメールに混じって一通の封書が入っていた。
白い封筒には、流れるような美しい文字で宛名が綴られている。
差出人を確かめるべく封書の裏を見れば、そこにも黒いインクで一文があった。
『the World Entertainments Association France branch』
−−WEA、すなわち世界芸能協会。
白い封筒の封を切ると、中は対照的な黒いカード。
カードを開けば、そこにはタイピングされた金ぴかの文字が不穏な文を刻んでいた。
●孤城への招待状
親愛なる諸君、御機嫌は如何かな。
さて、くどい前置きは飛ばして本題だが、君をある狩猟に招待したい。
行先はフランスのモン・サン=ミシェル。
かつて、多くの不幸な巡礼者が海に飲み込まれたという巡礼地だ。
そこに然るべき君の獲物が、追い込まれて待っている。
入り口は一つ、出口もまた一つ。
袋小路であるが故に、利もあり不利もあり。
狩猟の趣向は、君の腕次第という訳だ。
かつての愛すべき隣人が起こす細波が、後に大きな潮となる事もあるだろう。
巡礼者の如く、君がその波に飲まれることのないよう、祈っていよう。
さぁ‥‥宴に赴く、用意と覚悟はあるかね?
−−from Nulle part
●リプレイ本文
●狩猟場
フランスのノルマンディー地方南部、ブルターニュとの境に近いサン・マロ湾。
空と海の狭間で、城砦の島が佇んでいた。
島の様相は、ほぼ中央で二分される。人々を迎え入れ、疲れを癒す生活の場が島の南東側を占め、残る北西側は緑に覆われていた。真ん中で境界線さながらに建つのが、修道院と付属する教会。
それが、モン・サン=ミシェルであった。
「凄いね。どうやってこんな所に建てたんだろう」
バスの窓に張り付いて、近づく島を眺めながらベス(fa0877)。
「伝承では森にそびえる山だったものが、津波によって森が飲み込まれ、山のみが島として残ったとされています。また、司教が夢で大天使サン・ミシェルより「この地に修道院を建てよ」と啓示を受けたため、ここに礼拝堂を作ったのが修道院の始まりです−−だとさ」
ガイドを読み上げる小塚透也(fa1797)に「へぇ〜」と答えながら、ベスは外の景色から視線を離さない。
連絡バスで、一行は彼らの『狩猟場』を目指していた。見れば見るほど、『狩猟場』の意味するところが判る気がする。
−−限定された空間に配置される、狩る側と狩られる側。
果たして『狩猟場の主』は、彼ら獣人か、夜歩くものナイトウォーカーか−−。
一縷の不安を乗せて、海を貫く道をバスは走る。
「荷物持ち、させて頂きます!」
バスが駐車場に停車すると、何故か神妙な顔でせせらぎ 鉄騎(fa0027)が申し出た。突然の事に、みな顔を見合わせて戸惑う。
「鉄騎さん。どうしたんですか、いきなり」
ロイス・アルセーヌ(fa0357)が理由を問うても、鉄騎は頑として譲らない。
「何かこう、天の意志が叫ぶのです。俺に全力で荷物持ちをしろと!」
「‥‥どうしたんでしょうか」
鏑木 司(fa1616)に、深城 和哉(fa0800)が腕組みをして考え込む。
「悪い物でも喰ったか」
「皆は先に行ってくれ。まとまって行動して、相手に警戒されるのも困るからな。俺はずらして行く事にする」
「一人で、大丈夫ですか?」
心配そうに尋ねる冬月透子(fa1830)に、Cardinal(fa2010)が携帯を示してみせる。
「僅かな時間だし、万が一の連絡先も貰っているからな」
「あの、気をつけて下さいね」
緊張した表情の司に頷き、彼は先に行くよう身振りで促した。
突出門、大通り門、王の門をくぐって、細い参道グランド・リュを通る。
城砦の内部へ入り込んだ者達は、駐車場からそれぞれの門にかけて数人の『同族』がいるのを見て取っていた。WEAからの『支援』を目にして、ほっと透子が安堵の息をつく。万が一の逃走を気にせず、探索に集中できるのは有難い。
「やはり、ある程度はWEAが先んじているようですね」
ぽそりと司が呟く。その見解には、透也も賛成のようだ。
「やっぱ、あの文面の通り『島から出てない』って事は確かなんだろう」
「ぴ?」
いまいち状況が把握できていないのか、ベスが小首を傾げる。
「つまり、あらかじめ『お膳立て』されているって感じでしょうか」
「ぴょ? お膳立てしているから、招待状‥‥なんだよね?」
「そうなんですが‥‥えぇと‥‥どう説明すればいいんでしょう」
二人して、首を捻る少年少女。どうやら、思考がこんがらがったらしい。
一行の最後尾には、明らかに過積載な男が一人。自分の荷物だけでも超過気味なのに加えて、他のメンバーの荷物持ちまで引き受ければ当然ではあるが。
「世界、不思議紀行。荷物持ちブルース‥‥!!」
ホテルへ到着すると、謎の言葉を残して鉄騎は力尽きた。
●索敵
翌日から、一行は『仕事』の下準備を開始した。
和哉と共に歩くロイスは、道を覚えつつ主に観光客達を注視をしていた。しかし、目にする人々の全てに注意を払い続けると、きりがなく−−和哉が地図を確認する間に、彼は眉間を押さえる。
「ちょっとした、迷路のような場所ですね」
「そうだな。だが、戯曲の題材にはうってつけのような場所だ。『巡礼の迷路で君に出会い、中世の回廊で君と別れた』なんてな。これで狩りの仕事でなかったら最高だったんだが」
「ああ‥‥判ります。不思議な場所ですし」
脚本家と作曲家。どこか通じるものがあるのかもしれない。
道は狭い上に両脇の建物が高く、標識もない。蛇行するグランド・リュのショートカットを試みれば、必ず急勾配に階段が待っている。上りは修道院方面で、下りは海に向かう。それだけが頼りだ。
救いがあるとすれば、全周が約900mの島がそう広くない事だろう。歩き回っていると、人々に紛れてベスや鉄騎とすれ違う事もあった。一日を費やせば、道はほぼ把握きるだろう‥‥道については。
一方、司と透子、透也の三人は『取材』を装って修道院へと来ていた。
「あれが、大天使のお告げの場面ですか」
淡くライトアップされたレリーフを、じっと透子が見上げる。
「こんな、神聖な祈りの場で争いを起こすのは少々気が引けますが‥‥仕方ありませんね」
「手っ取り早くカタがつけばいいけどな。『隣人』‥‥か」
「透也さん。そろそろ、人が多くなってきました」
人の賑わいに注意を払っていた司が告げ、二人が頷く。
「じゃあ、もう少し様子を見てから戻るか」
「はい」
「そこのにーさん、危ないよー!」
呼び止められて、Cardinalは足を止めた。
周囲に他の人影がないところを見て、どうやら自分の事らしいと悟る。
城壁から彼を声をかけたのは、どうやら地元の若者らしい。観光客と違い、ラフな格好で石壁から身を乗り出している。
「一人で砂地に降りるのは、危ないって。地のモンでも行かねーよ! 歩きたいなら観光案内に行きな。観光ガイドがあるからー!」
返事の代わりに手を振って了承した旨を示し、彼は水を含んだ砂地から乾いた陸へと戻った。満潮と干潮の時間を調べたついでに島の周囲を回ろうとしていたのだが、やはり危険らしい。
下から見れば、城壁沿いに立つホテルやレストランは、客が十分に景観を楽しむ事ができるようにと配している。
(「そうなると、砂地へ誘い込む場合は森側で戦った方がいいのか‥‥」)
思案するCardinalは、街路の構造を把握する為に城壁の内側へと戻った。
早めに夕食を取った後、一同は一つの部屋に集まった。
情報を交換し、夜の『狩猟』に備える為である。
「観光客の様子ですが、今のところ、怪しい行動をみせる人物は見あたりませんでした」
ロイスが『報告』を終えて、次に和哉が口を開く。
「道は大体把握できた。追い込む場所も多少なりとも目星はつけたが、小さい街だからな‥‥あの陸地と繋いでいる道まで、何とか引っ張ってこれないだろうか」
彼の提案に、透子が不安げな表情をみせた。
「それだと、モン・サン=ミシェルから出る事になりますし、道をWEAに閉鎖してもらう意味がなくなりませんか。相手も逃げやすくなると思いますが」
「いや、でも駐車場も水没するんだろ? 人がいないなら、手だけどな」
透也の意見は、和哉寄りだ。Cardinalは唸って考え込む。
「修道院へ追い込むという手もあると思うがな。もし駐車場を使うなら、島の周りにあるという流砂床へ誘導して、足止めする事もできるかもしれん。幸い、今は満潮時間が早い。深夜なら、大丈夫だろう」
「なるほど。確かに、流砂床は使えるかもしれない。となると、駐車場に行くまで、ホテルが集中してる側のグランド・リュは通れんな」
街の構造を思い起こして、和哉は誘導ルートを思案する。他の四人は特に異論も具体案もなく、NWはモン・サン=ミシェルの外にある駐車場まで誘導すると決まった。
観光客がひとしきり参道から消えたのを見て、一行は行動を開始する。
囮役はロイスと和哉、司の三人。残る五人は、駐車場で待機となった。
●罠
狩猟者達が夜の街へと繰り出した最初の夜に、ソレは姿を見せた。
余程、餓えていたのか。
それとも、『狩猟場』を獲物達が把握しきらないうちにと考えたのか。
−−もっとも、そんな思考すらソレにあるかは判らないが。
「三つの門は、頼んで開けてもらってるよ。気をつけてね!」
『了解』
トランシーバー越しの短い返事を確認すると、暗色のレインコートを着たベスは完全獣化を済ませた仲間達を振り返った。
「あたし、門で見張ってていいかな。囮の人達も心配だし、誰か来たら大変だよね」
「いいんじゃねぇか? WEAからの連中も、見てるだろうがな」
海神の加護を受けた戟を手にする藍色の竜人−−鉄騎がぞろりと並んだ鋭い歯を見せ、了解を得た少女は濡れた道を戻っていく。
「さすがに海の真ん中だし、風が冷たいなー」
翼を折り畳んだ透也は、文字通り鳥肌が立ちそうだと苦笑した。
透子とCardinalは、じっとライトアップされた島を見つめている。
最後の石造りの階段を、まどろっこしく駆け下りる。
すぐのT字路を右に曲がれば、王の門が見えた。
それを抜ければ、仲間が待っている駐車場までもうすぐだ。
背後からは、硬質な外骨格が石畳や石壁を削るような音を立てて、追ってくる。
それは『かつての愛すべき隣人』−−ほんの何十分か前まで、人の姿をしていたモノ。
追い縋る様に突き出される節足動物の様な足を、司が身を翻して軽々とかわした。
突出門から3つの影と、彼らの後を追う奇怪な生き物が現れれば、待機していた者達の間に緊張が走った。
タイミングを計り、闇に息を潜めていた者達が捕食者へと襲い掛かる。
霊包神衣とその身を覆う獣毛によって容易に傷を受けぬCardinalは、その身を盾とし。
退魔の木刀を構えた透子が、闇色の虚闇撃弾を放つ。
彼らより僅かに大きい体躯の蟲は、狼狽したように見えた。
更には蟲の後方へ鉄騎が回り込み、退路を抑える。
足の節を狙って、透也が慣れない銃−−TempestMk�Uを構えるが。
七人に囲まれて状況を不利と取ったのか、蟲は限られた『退路』を選択した。
−−即ち、海への逃走。
複数の脚が水を跳ね上げ、砂を跳ね上げて、蟲は生き残ろうと足掻く。
−−そこまでは、彼らも予測できる範疇であった。
100m程度もいかないうちに、蟲の重さで砂地が崩壊する。
そして醜悪な生き物は、もがきながら灰色の砂の泥濘へと沈んでいった。
まるで、潮に飲み込まれるように。
故に、モン・サン=ミシェル周辺の砂地は立入禁止となっているのだが−−。
「どーすんだ?」
しゃがみ込んで、砂地を眺める鉄騎が呟いた。
「身動きが取れなくなる程度と、思っていたが‥‥」
和哉も想定外の事で、呆気に取られる。
そして、砂地は何事もなかったように平穏を取り戻した。
蟲がどこに沈んだかも、判らずじまいのまま。
●水没
時が満ちれば、潮も満ちる。
満潮時と干潮時の潮差は10m以上あり、僅かな時間で押し寄せた海水に、レストランの観光客達もカメラのシャッターを切っていた。
「残念ながらコアの破壊は視認できず、か」
溜め息の代わりに、和哉が紫煙を吐いた。ロイスが僅かに、首を横に振る。
「仕方ありませんよ。一緒に流砂に飲まれる訳にも、いきませんしね」
八人は、依頼期間いっぱい『監視』の為に待機となっていた。
「はい、お待ちどうさまー!」
明るい店員の声と共に、湯気の上る皿が次々とテーブルに置かれていく。
皿には、ムール貝の白ワイン蒸しやメレンゲがけの巨大なオムレツがのっている。
「モン・サン=ミシェルの名物だし、全員が無事で食べれるようにって験かつぎで」と、透也が密かに予約を取っていたのであった。
「この状態で生きてるとも、考え辛いしな。まぁ、折角の飯だし、今は喰え」
言いつつ、鉄騎は既にオムレツとの格闘を開始していた。
「‥‥結局、アレって何なのかなぁ?」
喧騒にベスの小さな疑問はかき消され。窓の外に目をやれば、ただただ波が寄せて返すのみ−−。