Limelight:嘘吐く唇アジア・オセアニア
種類 |
ショート
|
担当 |
風華弓弦
|
芸能 |
フリー
|
獣人 |
フリー
|
難度 |
普通
|
報酬 |
なし
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
1人
|
期間 |
03/30〜04/02
|
●本文
●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされていた。そしてフロア奥、一段高くなった場所には、スピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいる−−。
「もう、3月も終わりか」
カレンダーを眺めながら、『Limelight』オーナー佐伯 炎(さえき・えん)がぽつりと呟いた。
「4月は、嫌なイベントがなぁ‥‥」
「嫌ってのは、大げさだろう?」
苦笑しながら、音楽プロデューサーの川沢一二三(かわさわ・ひふみ)が湯気の立ち上るカップを口に運ぶ。
「お前はいいさ。だいたい、いつも俺の方が負けるからな」
「だからといって、ムキになるのもどうかと思うけどね」
「また、そういう真っ当な事を言いやがる」
渋い顔をして、佐伯は煙草をふかした。
「じゃあ、今度は分かり易いネタにしておくよ」
「そう言われるのも、癪なんだが‥‥とりあえず、ソレは置いてだ。こういう『企画モノ』が好きそうな連中もいそうだし、あとは客向けにハプニング・ライブもやりたいんでな。声をかけてくれるか?」
相変わらずな友人の頼みに、彼はやれやれと肩を竦める。
「判ったよ。その代わり、もし『手強い相手』が来ても、私の所為にしないように」
「むしろ、お前が誰かに騙される方を希望」
半分試合放棄したような佐伯の言葉に、川沢は素知らぬ顔で珈琲を飲んだ。
●4月1日のアノ日〜Who’s that Fool?
『四月馬鹿ゲーム−−。
早い話が、4月1日の間に『嘘をついて見破られないか』と『嘘に騙されないか』というだけの『遊び』である。
ルールらしきものは、次の通り。
・期間は4月1日の深夜0時丁度から、23時59分まで。それまでに『嘘』がばれなかったら、最後に『嘘』をばらす事。
・『嘘』は一人(または一グループ)一つまで。
・一つの『嘘』を、複数人で組んで仕込むのはOK。
・他の人を誹謗中傷する『嘘』は、ルール違反。あくまでもドッキリ程度の『楽しい嘘』を。
その他には『客を騙す』という意味で、不意打ち的にハプニング・ライブを行う予定』
−−『嘘』が許される特別な一日。アナタハ ダレヲ ダマシマスカ‥‥?
●リプレイ本文
●前日談
『Limelight』を訪れた燐 ブラックフェンリル(fa1163)は、事務所の中を見回した。
「川沢さん、来てないです?」
「1日まで来ないと思うが、あいつに用か?」
佐伯 炎に問われ、燐は小さく首を縦に振る。
「曲、聞いてほしくて。でも無理をお願いするのも悪いので、いいです。バイトの特訓、よろしくお願いします。タイキケン、じゃなくてハリケーン! でもなくて、サイキリンさんっ」
にっこり微笑む燐に、佐伯は指の関節をパキパキ鳴らし。
「そんな愉快な呼び名を教えたのは誰か、素直に白状するがいいっ」
「あぅ、痛いーっ!」
拳骨で頭を小突かれ、燐は音を上げる。
それは、3月も終わりが近い日の出来事。
●Land of Liars
「皆にはずっと内緒にしてたんだけど」
「ええ。実は僕達、付き合ってます」
クク・ルドゥ(fa0259)と豊城 胡都(fa2778)が、腕を組んで寄り添う。ククは眩しい笑顔を全開で、胡都は気恥ずかしそうに俯きがちで。
初々しい二人に、『蜜月』リーダーである棗逢歌(fa2161)は愕然とした表情を浮かべた。
「くっ‥‥グループ内恋愛禁止にすればよかったかっ!」
「うふふ。もうばらしちゃったし、くっつきまくってもいいよね〜っ」
「えっ?」
胡都が疑問を口にするより先に、ぽんと『恋人』が背中に飛びついた。
「わ〜い。胡都君の背中、結構広い〜」
ククは細い。が、凹凸が控え目なだけで、ない訳ではない。更に言えば、胡都自身もそれほど(女性絡みの)人生経験が豊富ではなく、背後からの不意打ちは彼にとって零距離射撃であった。
純真な青年が硬直している間にも、彼の首にぶら下がるようにして、ククは無邪気な『登頂』を果たす。
微笑ましい光景を目にして、明星静香(fa2521)は物憂げに溜息をついた。
「恋をして、恋人がいる‥‥羨ましいわね」
そんな彼女の様子を、『愛の伝道師』が見逃す筈もなく。『身内の裏切り』から立ち直った逢歌が、静香の隣へ移動する。
「君に溜息は似合わないよ。僕でよければ、打ち明けてみない?」
「ええ‥‥今回のイベントが終わったら、実家に帰ってお見合いをしなければならないの」
「静香君が、見合い!?」
衝撃的告白第二弾に、逢歌は再び声を上げ。癖のある黒髪をくるりと指に巻きつけながら、静香は哀愁を纏って語る。
「そうなのよ、兄がいない間にって。兄はプロレスラーなんだけど、レスラーの妹ってやっぱり敬遠するでしょ?」
「ほぉ。よく来てくれてるのに、にーちゃんがプロレスラーとは、初耳だな」
しげしげと呟きながら、佐伯はグラスをクロスで磨く。
「みんな‥‥いいね。春が来て」
フロアの隅っこでは、仁和 環(fa0597)が暗黒空間を形成していた。
「まぁた、環さんはそんな所でキノコ栽培してる」
「だってさ‥‥薫夜さぁん‥‥」
逢歌に言われて、床にのの字を書く環。彼女にフラれ、部屋でじめじめしていた所を、逢歌が引っ張ってきたという。仕事があった為に、ホワイトデイのデートで最後までエスコート出来ず‥‥というのが、フラれた原因らしい。
思い当たる節があるらしく、胡都が「ああ」と手を打った。
「そういえば、その辺り環さんと一緒に仕事でしたね」
「というか‥‥いたのか。彼女」
「佐伯さん、ひど‥‥っ」
またしても、よよと泣き崩れる環。
「あ、あのね。神楽は今度、ドラマでお父さんと共演するんだよ。脇役だけど、見てくれたら嬉しいな!」
暗く漂う雰囲気を払拭しようと、思い切った様子で月見里 神楽(fa2122)が打ち明けた。
「神楽はドラマのお仕事、頑張ってるよね。お父さんと一緒かぁ‥‥どんなドラマなの?」
燐に聞かれ、神楽は照れたように内容を説明する。
「あんまり詳しくは言えないんだけど‥‥夏に放送予定のニ時間のサスペンス番組で、神楽とお父さんはちょい役。現場近くで、喫茶店を営んでる親子なの。刑事さんに犯人を見なかったか、お父さんが訪ねられるの。神楽はお父さんに同意する役。一言だけど台詞言わせて貰えるの♪」
「夏か‥‥また直前に教えて貰わねぇと、忘れそうだな」
考え込む佐伯を見上げて、神楽は楽しそうな笑顔をみせた。
『四月馬鹿ゲーム』−−4月1日だけ許される、騙し合い。
燐とセーヴァ・アレクセイ(fa1796)の二人は、早々にゲームからの離脱を宣言した。もっともセーヴァは、直前に川沢一二三へ「愛を告白する」という『嘘』で、他メンバーを唖然とさせたが。
そんな訳で、打合せや音合せの間に、嘘の駆け引きがされていた。
「で。いつの間に、優勝やら要望やらの賭けネタになったんだ」
「さぁ」
苦笑する川沢に、佐伯は嘆息する。単なる騙し合いのゲームが、いつの間にか嘘を吐き通せたら賞品だの何だのというオプションがくっついていた。
「こればっかりは、『嘘』じゃあなさそうだなぁ」
「そうだね。何をやるにしても、それなりの段取りはつけておかないと」
佐伯が出した熱くて濃いブラックコーヒーを、川沢は口へ運ぶ。それは二人の『休戦』を意味し、『仕事』へと立ち返る合図。
「質問があるんだが‥‥ライブでは、どうしても唄わなきゃならないのか?」
遠慮がちに聞くセーヴァに、佐伯は「いや」と首を振る。
「唄いたくなきゃ、唄わなくてもいいぞ。唄いたくないのを無理に唄わせても、いい歌は唄えんだろうしな」
「そうか」
ほっと安堵するセーヴァ。本来クラシック系の演奏者である彼に、声楽の自信はない。
「一応、曲は考えてきてたんだけど。僕の代わりに、川沢さんか佐伯さんが唄ってくれたりは‥‥」
「うん、しない。申し訳ないけどね。元々佐伯は唄わないし、仮に私が‥‥となれば、自分に合わせてアレンジやコード進行に手を加える。そして、最終的には君の曲ではなくなるよ」
川沢の返事に、セーヴァは困った様に髪を掻き上げる。
「残念だな。自分で自分の曲を唄ったり演奏したりとなると、どうも照れくさくて」
「それなら、やりたくなるまで放っておけばいいさ。感情や欲求の発露。歌や音楽の原質ってのは、そんなトコだろ」
そう言って、佐伯は禁煙用の煙草を咥えた。
●What’s happening?
頃合を見計らって、フロアを照らすライトの光量が落ちる。
そして、ステージ側から客席へと、一条の光が投げかけられた。
何事かと客達が光の先を追えば、フロアの隅っこで膝を抱えるように座る男。
傍らの三味線を取り、胡坐を組んで、撥でべぃんと陰鬱気味な音を弾く。
「 4月のソラから、降りしきる粉雪
一瞬だけ、町も2人も純白に染まる
季節はずれの天気予報
ヘンテコな2人のウェザーレポート 」
哀愁を込めて弾く歌は、演歌風味か都々逸か。
へたれたメンバーを鼓舞するように、ドラムのポジションに座った胡都がスティックを振るって荒々しいリズムを文字通り叩き出す。
スネアからタム、そして二種のシンバルへ。限られた音域でメロディを作り出し。くるっと手の内でスティックを回転させると、フロアを指し示す。
ライトが追いかけた先では、長い髪を後ろで一つに束ね、スーツを着て男装風のククが立ち上がった。
胡都が刻み続けるリズムに合わせ、歌ならぬ歌を伸びやかな声で披露する。
そして一頻りのスキャットの後、再びステージへすらりと手を伸ばす。
それを受け継ぎ、ステージの段差に腰掛けた逢歌がエレキギターで唸り声を上げる。
「今宵も浮世をラブリーに。曲は失恋ほやほやのメンバーに捧げる応援という名の嫌がらせ♪
OK,お伽噺の始まりだ! Chacun Bon voyage!」
ヘッドセットのマイクで逢歌が呼びかけると、歓声が応えた。
「お客さん、そこにいるヘタレメンバーを連行してくれませんか?」
胡都の言葉に、ククが振り返る素振りを見せる。
フロアの隅には、座り込んだままの環。
漂う暗黒っぽいオーラのせいか、へたれでも芸能人だから‥‥という遠慮があるのか。観客達は戸惑う様子を見せている。
「仕方ないね、もう」
見かねたククが環へ駆け寄り、エスコートするように手を差し出す。まるで親子のように手を引き引かれ、二人は揃ってステージへ。
今日は4人の『蜜月』が、演ずる曲は『天使予報』。
「 颯爽と風を切って歩く、そんな君が大好きで。
君の背中を眺めて歩く。
勝ち気そうな瞳、ツンとそらした顎。
今日は少しご機嫌斜めかな?
君の天気は吹雪みたい
どうせ吹くなら花吹雪がいいな〜って。
4月の午後の桜並木
櫻降る空から舞い落ちる粉雪に
2人同時に空を見上げた
花も世界も純白に染める
「ウエディングドレスが白いのって貴方色に染まりますって意味なんだよ」
「じゃ、着るのはあんたのほうね」
結婚してくれるのかな〜って嬉しくなった僕は やっぱ末期症状でしょうか?
季節はずれの天気予報
君は僕の天使だなんて 言ったら殴られそうだけど
「少し冷える」って 握ってくる手が可愛くて
ズレた世界の天気予報
君の予報はコロコロ替わる
吹雪ばかりじゃなくて たまには快晴も出してくれない?
季節はずれの天気予報
そんな2人の天使予報 」
賑やかな演奏をきっちりと済ませると、環はフロアを突っ切って−−逃走し。
ステージに残されたメンバー達は、顔を見合わせてやれやれという表情を交わした。
「リクエストを、どうぞ」
料理をテーブルに置き、ハーモニカが乗ったトレイを手にして、神楽はにっこりと微笑む。当然、客は不思議そうな顔をするので、彼女は何度目かの説明を始めた。
「本日はスペシャル・サービスで、お客様がご希望する曲を一曲、演奏させて頂きます」
「えぇと、じゃあ、どうしよう」
「急に言われても、迷う〜」
そんな賑やかな会話を、神楽は笑顔のままで聞く。その間に燐も隣へやってきて、唄う為に待機した。
ステージ・タイムの合間を縫って、給仕の傍らに生演奏。それが神楽と燐の企画した『ハプニング・ライブ』だ。
最新の曲や古い曲、誰かへのバースデーソングなど。知らない曲をオーダーされる事も多いが、その時は丁寧に謝って選び直してもらう。神楽のハーモニカに合わせ、燐は唄える曲ならば唄い、そうでない曲には手拍子を添えていた。
小さな演奏の終わりを待って、静香がステージに上がる。
「‥‥で。ギターが一人、敵前逃亡したようなんだけど」
エレキギターをストラップで提げ、腰に両手を当てて、憮然と訴える。
「はいはい、呼んでくるよ。環さん、お仕事しようね〜」
ベースを置いて、逢歌が笑い声の起きるフロアを横切っていく。
その間に、神楽はステージで佐伯に手伝ってもらいながらドラムのセッティングを行っていた。
ややあって、逢歌が環を連れて戻ってくる。
「はい、お待たせ。トイレで篭城してたよ」
「どうやって引っ張り出したかは、聞かない事にするわ」
準備に入る二人に、頭を押さえる静香。
「全く、フラレたからって、凹んでんじゃないわよ!」
握った拳の中指だけを立てて、舌を出す。そうして始まる曲は、ハードロック風味の『嘘と魔法』。
「みんな、行くぞー!」
アップビートのリズムに乗って拳を突き出してから、静香は激しくギターを掻き鳴らす。
「 瞳見つめ 寂しそうに
嘘は嫌いと口にしていた
きみはいつも 真面目すぎる
何を言うにも潔癖すぎるよ
もしもねえ 全部正直に言えば
傷だらけさ きみも私も
すぐに‥‥
嘘 つかない人はどこにもいない
誰もが必要な恋のマジック
きみの涙見せない手段すれば
ふたり 一緒にいれる傷つかないで
嘘は必要 」
縦横無尽にステージを駆け回り。
時にはサポートする男二人を、振り回すように煽りながら。
「 もしもねえ 全部正直に言えば
すぐに消える 心つながりも
永久(とわ)に‥‥
嘘 つくのはいつも2人のために
使えばそれこそが恋のマジック
きつい正直だけじゃ生きて行けない
ふたり 幸せつかむ嘘がいるはず
嘘 つくのは2人幸せへ向かい
歩み続けるためよ受け止めてみて
嘘は必要
嘘はマジック 」
演奏が終わると、逢歌と環の首に腕を回して。
歓声に手を振り、「ありがとう!」と何度も静香は答えた。
静かにピアノの旋律が響く。
セーヴァが奏でるのは、チャイコフスキーの『無言歌』。
流れるような短調の演奏を聴きながら、神楽はぺこりと佐伯に頭を下げた。
「お先に失礼します。また明日、かな?」
「だな。昼過ぎにでも」
明るく「はい」と答えて、少女は一足早く帰路に着いた。
●嘘吐き達の祭の後
翌日、嘘吐き達は再び『Limelight』に集まっていた。
「勝負云々ってよりも、慰労って形でリクエストに応えてやる。但し、開店準備までな」
不遜な態度で、そう佐伯が告げたからである。
胡都とククの恋人話。環の失恋。静香の見合い。神楽のドラマ。これらが嘘で、残念がる者、ほっとする者、悔しがる者など、反応は様々であった。
「一番信憑性があったのは、環と神楽か‥‥まぁ、なんだ。彼女連れて来い、彼女」
焦げた砂糖の塊に八つ当たりし、佐伯が環に厳命を下す。当の環は、微妙な表情だが。
「あの、川沢さん。歌、聞いてくれますか。まだ、タイトルもない曲なんですけど‥‥」
そう切り出した燐は、オケもまだない曲をアカペラで唄う。
音程も不安定で技量もないが、彼女の内の決意をのせて。
「 届かないと嘆いた夢
もう少しだから きっと、咲くから
咲け、君よ、君の夢よ
星々の祝福の下、舞台は整い、月の光の中、願いは届く 」