御伽話を語ろうヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
2.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/11〜04/14
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●本文
●勤勉の報酬
「‥‥まいったな」
やれやれと困った風に頭を掻いて、フィルゲン・バッハは溜息をついた。
「‥‥弱った事ではあるな」
珍しく、レオン・ローズもまた思案顔である。
リビングルームに差し込む日差しは暖かく、油断しているとそのまま、うたた寝に突入しそうな陽気。誘惑と格闘しながらも、二人は窓越しに日向ぼっこ状態で思案を巡らせていた。
「‥‥ゴールデンかぁ」
「‥‥難しい事ではあるなぁ」
そうしてまた、春の陽光に似つかわしくない溜息が落ちる。
「ただ、こうしていても事態が劇的に変化する訳ではない事は、確かであるな」
よいしょと、レオンは立ち上がった。そうして悠然と笑みを浮かべて振り返り、陽の光を背に受けながら、『相方』へと手を差し伸べ−−。
「‥‥何、格好つけてるんだ」
どげしっ。と、無情にフィルゲンは蹴りを放つ。
「ぐあっ。向こう脛を蹴るのは、よせーっ!」
「『やるからには、ゴールデンを目指せ』。
−−という、上からのお達しはごく当然ではある。目指せるだけの力量があると認識していただける事も、大変ありがたい。が、「一般大衆に受けよ」と言われても、厄介ではある」
「もう少し、メジャーな話を拾ってくるか‥‥いかんせん、僕らの領域もアレだからねぇ。後は、日本向けのテコ入れか。確かに、カラドリオスやフロイラインはメジャーじゃないからな‥‥」
お互い、一般人よりも『濃い』と自覚はしている二人。
だが28年の人生で、「好きで始めたもの」を「好きで続けた」からといって、必ずしも大成するものではない程度は承知もしている。かといって、日和ったところで自分達が満足できなければ納得できないというのもまた、職人道。
更に言えば、『ゴールデン』への道は遠く果てなき狭き茨の道だ。内容も役者も限られ、しかるべき視聴率は要求される。
「今回ばかりは、君の『お遊び主義』に賛成したい気分になってきた」
頭を抱える脚本家に、監督の眼がキラキラと輝く。
「やっと理解してくれたか、同志よっ!」
「‥‥やっぱり、前言撤回」
「即時に二言かっ!」
「緩急をつけるという点において、だよ」
「日本的表現で言えば、『ワビサビカラシ』というヤツだなっ!」
「違うっ。というか、話を前に進ませろっ!」
毎度の事ではあるが。縦横無尽に脱線するレオンを引き戻しながら、フィルゲンは一つの『提案』を打ち明ける。
「前にも言ったけど、仕事を受けてくれる役者もかなり人種の幅が広いだろ。
彼らの故国や故郷、過ごしてきた地にも、様々な『御伽話』がある。僕としては、そういう他所の国の話、もしくは彼らが『やってみたい』と思う『幻想寓話』に取り組むのも、一つかな‥‥と思ったんだ。
勿論、そこまで到らない話でもいい。個人的には、聞いてみたいし」
「だが、ただ聞くだけもつまらんと思うがな。『モーツァルト・コンペティション』より一連の『御勤め』で、役者諸氏も多忙であっただろう。すぐに次の『幻想寓話』が控えている事もあるし、あらゆる意味で息抜きを兼ねてはどうだ」
「それなら‥‥春のDOMが17日までだっけ。次の撮影スケジュールと重なるから、行くなら今くらいしか‥‥」
呟くフィルゲンは、奇妙なオーラを感じて相方を見やる。そこには、レオンが期待全開の眼差しで−−。
「DOMと言えば、アレだな! 黒い‥‥」
「却下」
「えぇぇぇぇーーーっ!」
−−こうして、遊びか仕事かよく判らない告知が各プロダクションへ届いた。
●リプレイ本文
●第一夜
暗い部屋に、一本の蝋燭の火が灯されていた。
「何でこんな演出なんだ」
「雰囲気が出て、良かろう」
レイン・ローズの返答に、問答無用でフィルゲン・バッハは電灯を点ける。
「風情の判らん奴だな」
「それ以前に、火事が怖い。ごめん、火を消してくれる?」
「はいっ」
元気よく答えて、小塚さえ(fa1715)が儚い炎をふっと吹き消した。
「蝋燭囲んで話すと、怪談っぽくなっちゃうしね」
少し残念そうに笑う羽曳野ハツ子(fa1032)の隣で、アイリーン(fa1814)は表情をやや強張らせている。
「じゃあ、誰から話を始めようか。特に希望がなければ、俺から始めていいかな」
他の者に異論がないのを見て、ならばと高邑静流(fa0051)が話し始めた。
「折角だから日本の御伽話を。あんまし幻想的じゃないけどね‥‥ついでにメジャーだから、新鮮味に欠けるかもしれないけど」
申し訳なさげな静流に、ICレコーダーを用意したフィルゲンが首を振る。
「いや。僕らには新鮮だしな」
「そう? じゃあ遠慮なく‥‥『鉢かつぎ姫』っていうんだけど。
体の弱いお姫様がいて、それを危惧したお母さんが死の間際に『夢でお告げが』って姫に鉢を被せちゃうんだ。その後お父さんは再婚するんだけど、姫は後妻に追い出されて。鉢のせいで、皆から奇異の目で見られる。
いろいろあって、とある貴族の家に下働きとして姫は雇われるんだけど、でもお姫様だから、当然そんな事したことはなくって。それでも頑張って、頑張って。そうしてその家の息子さんと恋に落ちる。
勿論、簡単には結ばれないけど、最後には鉢も外れて、素養なんかも皆に認められて幸せになるんだ」
それまで目を細めて楽しそうに粗筋を語っていた静流だが、最後に残念そうな顔をした。
「あと、中国の『王さまと九人のきょうだい』って話もしたかったんだけど‥‥これはまた、機会があればね」
「えぇと、私も日本のお話を二つ程‥‥」
静流の話を聞いて安心したのか、さえが次に手を挙げる。
「『おりゅう柳』っていう、日本の有名なお寺の棟木にまつわるお話です。
昔、古い大きな柳の精霊と「おりゅう」と言う娘が恋に落ちて幸せに暮らしていました。
ですが柳は時の上皇‥‥日本の王様の一種なんですけど、上皇の病平癒祈願のお寺の棟木に使われることになり、切り倒されてしまいました。ですが、どうやっても動かすことができません。
それを聞いたおりゅうが泣きながら倒された柳の幹を撫でると、やっと柳を動かすことができました。
もう一つが、『子守唄内通』という話なんですが‥‥」
一夜の宿を借りた旅の僧が、家の子守娘が機転をきかせた歌によって、家主の企みより逃れる−−という話なのだが。謎かけ歌の意味が判らないレオンやフィルゲンの顔には、疑問符が飛び交っていた。
「私は、『幻想寓話』の題材にして欲しい御伽噺を。『竹取物語』なんだけど‥‥内容を説明する必要はあるかしら。知らない人はいる?」
「それはさすがに、知ってるな」
「うん」
レオンとフィルゲンの反応を確認してから、ハツ子は先を続けた。
「日本向けなら、誰でも知ってるメジャー中のメジャーなこの話なんか、どうかしら。骨組みさえ残しておけば、ストーリーは大胆にいじっても問題ない作品だと思うし。むしろ、様々なパロディが生まれている物語であるからこそ、作り手の個性が試されるんじゃない?」
「む。それは我々への挑戦状であるか!?」
「違うって」
毎度の如く曲解気味に受け取るレオンに、フィルゲンは頭を振った。
●ハンブルガー・ドーム
Uバーンを降りて歩くと、すぐに「DOM」と電飾で描かれたゲートが見える。
カラフルな屋台に、稼動中のアトラクション−−それらを間近にして、静流は足を止めた。最初は珍しげに眺めていた表情が、見る間に笑顔へと変わる。
「わぁぁ〜‥‥本物の移動遊園地だっ。凄い凄い!」
そして駆け出しかけて、静流は我に返った。恐る恐る振り返れば、残る九人と視線が合う。
「あ‥‥いい歳してって、呆れた?」
「そんな事はない。遊園地には、人を童心に返す魔法がかかっておるからな」
ある意味、常に童心のレオンが胸を張った。賛同者を得た静流は、うんうんと首を縦に振る、
「なんて言うか、『形になった夢』が様々な街を訪れるって感じがして‥‥物書きとしては、一つの憧れの形態なんだよね♪」
「ではその辺りの分析も兼ねて、心置きなく遊ぶとしよう」
「‥‥いいけど、迷子になるなよ」
聞かぬと判っている忠告をしながら、フィルゲンは頭を押さえる。
辺りを眺めていたさえが、ふとある事に気付いた。
「移動遊園地という事は‥‥ジェットコースターも観覧車も、回ってるロケットも全部組立式なんですね」
心なしか足取りが軽いアイリーンも、嬉しそうに笑う。
「本格的だし、凄いよね。ここ最近ちょっと仕事を詰めてたから、いい息抜きになりそう‥‥ねぇ、エルヴィアさんやCardinalさん達と一緒に行きたい場所があるんだけど、いいかしら。よかったら、さえさんも」
「私はいいわよ。どれかしら?」
「えぇと、モンスターハウスなんだけど‥‥」
エルヴィア(fa0095)の問いに答えながら、アイリーンがさえの腕を取って三人で並ぶ。その後ろを、ボディガードさながらに、ネイティブアメリカンの大男−−Cardinal(fa2010)が続いた。
「よし。じゃあ、俺はニライと一緒に行動な!」
嬉しそうに、嘩京・流(fa1791)が気合を入れている。
「となると、ハツ子殿はフィルゲン殿とだな‥‥頑張れ」
激励と共にニライ・カナイ(fa1565)からぽむと肩を叩かれ、ハツ子は照れたように笑う。
「ありがと。そっちも、頑張ってね」
「ん? 私の方は、特に頑張る事もないと思うが」
不思議そうに首を傾げるニライ。どうやら、流の前途は多難そうである。
「よーし、遊ぶわよ。まずはアレね!」
「何も、そんなレオン並に頑張らなくても‥‥って、うわ!?」
フィルゲンの腕を取り、ハツ子は回転ブランコへと駆け出した。微妙に元気のない相手の気が、少しでも紛れればと願いつつ。
綿菓子やバターコーン、ハンバーグの屋台に、射的屋やくじ引き屋。
360度5回転ジェットコースターに、趣向を凝らしたモンスターハウス各種。
移動遊園地といえど、設備は一般の遊園地と遜色ない。
夕刻となり、ライトアップの光が溢れれば、一行は集合場所へ戻ってきていた。
ベンチで一休みしていたフィルゲンが、「のあっ」と奇怪な悲鳴を上げる。
「あはは。驚いた?」
冷えた缶ジュースを彼の頬に押し当てたハツ子が、その反応に楽しそうに笑う。
「驚いた。残念ながら、こいつほど面の皮は分厚くない」
言いながら、くじ引きでハツ子が『運悪く』引き当てたパンダのぬいぐるみ(全長約150cm)を小突く。
そんなやりとりの一方で。
「最初に入ったのが子供騙しだったから、大丈夫だと思ったのよ‥‥なのに、何であんなに人を脅かすのに、念が入ってるのよ〜っ!」
「だよなっ。それにあの観覧車、あんなムードも減ったくれもないモンは観覧車じゃねぇっ!」
仲良く主張して、何故か結託しているアイリーンと流。
微妙な兎のぬいぐるみを手に「そうか?」と首を傾げるニライへ、ハツ子が苦笑する。
「あの観覧車はねぇ」
DOMの観覧車は窓があっても硝子は嵌っておらず、オマケに軽く3〜4回はぐるぐると高速回転するのだ。
「でもモンスターハウスの人は、手加減してくれたみたいです。あの、Cardinalさんもいたので」
小声で付け加えるさえに、Cardinalは肩を竦める。
「俺は別に、何もしていないがな」
「それは雰囲気が、ね」
ウィンクするエルヴィアにも、やはり困惑したままの格闘家だった。
●第二夜
「今日は、私から話すわね。御伽話とは違うけれども、トロールを知っているかしら。スウェーデン語で「誘惑する」って意味で、ノルウェーの象徴的妖精でもあるの」
この夜の一番手は、エルヴィア。馴染みのある名に、フィルゲンは頷く。
「小説やゲームでは、怪力の巨人として登場するが」
「ノルウェーのトロールは、小人なのよ。お土産でもトロール人形が売っているわ。
妖精といっても可愛らしさは欠片もなくて、ボサボサの髪、穴だけらけの歯の醜悪な容姿。どちらかと言えば怪物に近いわね。
盗癖のある、悪戯好きな妖精でね。物や食べ物、酷い時は人も浚って行くの。私の国では物がなくなる事を、トロールの悪戯って呼んでいたわ。小さい頃は、親に怒られた時に「いい子にしてないとトロールに連れてかれるよ」なんて言われたものね。
御伽話だと『三匹の山羊のがらがらどん』が有名かしら。他にも沢山あって、幾夜かけても足りないわ」
「ふむ。『幻想寓話』で千夜一夜か」
「何年かかるんだよ」
監督と脚本家のやり取りに、エルヴィアはくすくす笑った。
「ロシアの精霊ルサルカでもと思ったが、あれはローレライに近いからな。代わりに、ドモヴォイの話を」
そうして、ニライは故郷の話を始める。
「家族や家畜の幸福を護るという家の精霊だ。礼儀知らずには時には命を奪う程厳しいが、ウォッカ好きというお茶目さもある。彼等と家人の交流等ほのぼの話も面白いかもな」
もう片方の故郷の話は、『八百比丘尼伝説』。
「別名「玉椿姫」ともいうが、人魚の肉を食べ不老不死になったとされる娘だ。彼女は世の人の為に尽くした後800歳で入定し姿を消したとされるが、彼女の想いと人々との交流、玉椿の意味等‥‥興味は尽きん」
「ニライの次は、俺な」
譲らないとばかりに流が手を挙げ、語り出した。
「『踊ってすりきれた靴』。自分がちっせぇ頃からの記憶にあるグリム童話で‥‥長い話だし、端折るからな。
一国の姫達が知らない間に毎晩踊り明かして、何度もボロボロになる靴。
王が心配して、一人の兵士に見張りに出す。
部屋には地下への道。
それを降りて行ったら、姫が呪われた王子達と踊り続けるのを見る。
証拠を掴んだ兵士は、王に真実を言って一の姫を妻に貰って、終わり。
結局、真相とかって覚えてねーんだよなぁ‥‥」
がしがしと、乱暴に流は髪を掻いた。
●夕闇の隠れ鬼
昨日遊んだDOMを舞台に、この日は違う『遊び』が展開されていた。
人ごみを、さえはきょろきょろ見回し。やがて、人陰で鈍く輝く長い銀髪を見出した。
「エルヴィアさん、みーつけた!」
「早かったわね‥‥木の葉を隠すなら森の中へって思ったんだけど」
残念そうな彼女へ、腕に掴まる少女が自信ありげな表情で答える。
「だってエルヴィアさん美人ですし、髪も綺麗で逆に目立っちゃいますよ」
「あら、ありがとう‥‥じゃあ、私も鬼ね。さぁて、誰を見つけようかしら」
そうして楽しげに、『鬼』達は捜索を開始した。
「いっ、痛い〜っ」
「‥‥隠れ場所から、はみ出していたぞ」
こちらもCardinalに長い髪を掴まれ、静流が残念そうに屋台の下から出てくる。
「あと五人であるな」
あまり役に立っていないレオンが、口だけは立派に言い。
DOMの一部を使った『かくれんぼ』は、陽が落ちるまで続いた。
●第三夜
「イギリスの童話『アリーテ姫の冒険』を紹介するわね」
最終日の最初に、アイリーンが口を開いた。
「悪い魔法使いに、塔に閉じ込められたお姫様の話なんだけど。アリーテ姫は普通のお姫様と少し違って、悪い魔法使いが出す難題を自分の知恵と行動だけで解決するの。
親切な魔女のおばあさんから、願いをかなえる魔法の指輪をもらうんだけど、それは難題には使わずに退屈を紛らわせるためだけに使っちゃうわ。
王子様も騎士様も彼女を助けには来なくて、彼女は自分で、争ったり相手を傷つけることもなしで困難を乗り越ていく、そういうお話。
これを読んだのは小さい時だったけど、アリーテ姫みたいに賢くなりたい、とか思ってた気がするわね」
「聞き覚えがない話だ」と、首を傾げるレオン。
「うん。近年に書かれた創作童話みたい」
アイリーンの説明に、英国人は納得して手を打った。
「どんな話がいいか、迷ったんだが」
最後に話すのは、Cardinal。
「父なる太陽が輝いて気持ちのいい日。“いる”だけで幸せな狸はますます楽しい気分で出かけた。川では“する”ことに懸命なビーバーがせっせとダム作り。遊ぼうよ、と誘う狸を無視して働き続けた。狸は仕方がないので川の下流に落ち着きぽかぽか日差しを楽しんで“いる”ことにした。
そのうちぽつぽつ雨が降りだした。ダム作りを“する”ことに夢中のビーバーは気づかない。雨はあっという間に豪雨となり、ビーバーが数日かけたダムは倒壊。水面にいたビーバーは流れ出した大きな木の枝にはさまれ溺れる寸前だった。
「助けてくれ!」というビーバーの叫びに、下流でぼうっとして“いた”狸はすぐ気づき、その命を救った。それからビーバーと狸は仲の良い友達になったのだ」
「‥‥いい話だが、微妙にコメントし辛い話であるな」
「ああ。俺もそれほど好きな話ではない」
「‥‥」
更に返答に困るレオンであった。傍らで、フィルゲンはICレコーダーを止める。
「いろんな話をありがとう。興味深い話が多くて、楽しかった」
「こちらこそ」
にっこりとエルヴィアが笑い、ハツ子がフレーム越しに悪戯っぽい視線でフィルゲンを見上げた。
「どれも面白そうだったし、いっそ『幻想寓話スペシャル』なんかどう?」
「それ、真っ先に僕が死ねそうだ」
「そうなったら、俺も手伝うよ」
同じ脚本家の静流が手を振り、何気なく追い討ちをかける。
「また楽しいイベントがあったら、よろしくね。あと、お仕事も」
励ます様に、ハツ子はフィルゲンの背中をぽんと叩いた。