幻想寓話〜シルキーヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/16〜04/21

●本文

●朝食の一コマ
「次は、イギリスの民間伝承でやるよ。今度の撮影は、英国内推奨だし」
 テーブルに片肘を突きながら、脚本家フィルゲン・バッハはシリアルをスプーンでつつく。
 テーブルを挟んだ反対側では、同居人であり共に映像制作の監督をしているレオン・ローズが、半熟にした目玉焼きの黄身にトーストを突き刺していた。
 28歳という若き監督と脚本家は、共に小さな映像制作会社アメージング・フィルム・ワークスに所属し、仕事にあたっているコンビである。
「まぁ‥‥仕方ない事ではあるな」
 そう答えてから黄身のついたパンを齧り、咀嚼してからレオンはミルクティーのカップを口へ運ぶ。
 フレッシュジュースのグラスを空にしたフィルゲンは、二杯目を注ぎながら首を傾げた。
「なんか、機嫌悪い?」
「というか、今回は『見学者』がいるというのがな。出来あがったモノを見せるのが仕事だというのに、作る途上を検分されにくるのは、しっくりこん」
 言いながら、レオンは二枚目の薄いトーストに薄っぺらい白身を乗せ、べろんと平らげる。
「仕方ないだろ。上が手配した事だし‥‥どんな人物なのか判らないのは、確かにちょっと不安ではあるけど」
「うむ。まぁ、我らは我らの最善を尽くすのみであるしな」
 眉根を寄せたまま、レオンは三枚目のトーストに手を伸ばし、フィルゲンはその行方を目で追った。ちなみに脚本家の朝食は、既に終わっている。
「‥‥何だ。足らんなら、食っても構わんぞ」
 テーブルの向こうからの視線に気付き、レオンはトーストを齧りながら皿を勧めた。そこにはまだ、焼いてバターを塗った薄いトーストが、3枚のっている。
「いや。心配事があっても、食は進むんだなぁ‥‥と思って」
「何を言う。朝食は一日の活動の鍵となるが故に、肝心肝要であろうが!」
「ちょ‥‥口の中にモノを詰めた状態で、力説するなっ!」

●幻想寓話〜シルキー
『ブラウニーのような妖精と、ゴーストの類の中間的な存在と言われる、女の妖精シルキー。
 彼女らは、常に灰色か白の絹のドレスを着ている。
 特定の家に棲み付いていて、掃除や暖炉の手入れなど、家事をこっそり手伝う。しかし、自分が慣れ親しんだ家に気にいらない人間が住むと話は変わる。夜中に寝具を煩く揺すったり天井裏で暴れたりして、住人を追い出してしまうという。

 グラスミア湖の畔に建つ家に、ある一家が引っ越してきた。
 狩猟と漁によって糧を得るという、新しい生活を始めようとする一家。だが、新しい我が家に住み始めて間もなく、奇怪な『現象』が起きるようになる。
 夜中にカタカタと家具が鳴り。
 天井裏をばたばたと駆け回る音が響く。
 その度に、両親は原因を探して回るが、正体は判らず。
 それもそのはず。この家に古くから棲む、シルキーの仕業だった−−』

「シルキー」をテーマとしたファンタジー・ドラマの出演者・撮影スタッフ募集。
 俳優は人種国籍問わず。シルキー役、引っ越してきた一家、ドラマを語る吟遊詩人役を募集。
 脚本はアレンジ可能。また、アレンジ如何によっては配役の追加も検討。
 ロケ地はイギリス北部のグラスミア。湖水地方にあり、グラスミア湖に面した人口1500人ほどの小さく清閑な村である。

●Visitor
 それは、撮影開始日が迫ったある日。
 観光客もまだ少ないヒースロー空港に降り立てば、ぞくりと寒気を感じた。
 桜舞う春の東京から、冬の気配が残るロンドンへと移動すれば、それも当然だろう。
 ハードスーツケースを引き、川沢一二三はバス乗り場へと向かった。

●今回の参加者

 fa0910 蓮城 郁(23歳・♂・兎)
 fa1108 観月紗綾(23歳・♀・鴉)
 fa1565 ニライ・カナイ(22歳・♀・猫)
 fa1715 小塚さえ(16歳・♀・小鳥)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2554 リーベ(17歳・♀・猫)
 fa2766 劉 葵(27歳・♂・獅子)
 fa2767 藍川・紗弓(25歳・♀・狐)

●リプレイ本文

●緑の湖畔で
 窓の外には、緑の野が広がっていた。
 冬枯れの森にも徐々に緑が戻り始め、川の水面に姿を漂わせている。
 まだ観光客も少ない村の朝は特に静かで、耳をすませば森で春を呼ぶ鳥の声も届く。
「何だかこう、妙に落ち着いてしまいます」
「うん。素敵な風景だよね」
 静かにカップを傾ける蓮城 郁(fa0910)に、観月紗綾(fa1108)が賛同する。
 撮影時間は主に午後から夜に集中しており、役者達も朝はのんびり過ごしていた。
「この辺りの風景は、200年程前から変わってないそうだ」
 言いながら、藍川・紗弓(fa2767)が食器を重ねる。それを劉 葵(fa2766)がひょいと持ち、返却場所に向かった。
「腹ごなしに、フットパスを走るか」
 フットパスとは、一口に言えば遊歩道だ。アクション派の俳優である葵と紗弓にとって『幻想寓話』は得意要素の少ない撮影だが、暇をみては身体を動かしていた。
 ある意味で対照的な二組の恋人達は、ドラマでも対照的な夫婦を演じる。
 郁と紗綾は、ロイとエマという30歳前後の夫婦。
 葵と紗弓は、40代後半のジェイと40歳手前のデルタという、少し年長の夫婦。
 そしてジェイとデルタの娘イーシャを演じるアイリーン(fa1814)が、『両親』に手を振った。
「いってらっしゃい!」
「私の方は、まだ時間があるか」
 8時を差す時計を確かめ、マイラという名のシルキー役ニライ・カナイ(fa1565)が紅茶を楽しむ。
「何かあるんですか?」
 早朝の散策から帰ってきた吟遊詩人役の小塚さえ(fa1715)が尋ねても、ニライは「後のお楽しみだ」としか答えない。
 食堂にはもう一人、役者でもスタッフでもない日本人の『見学者』が、単身食事をしていた。
 見慣れぬ人物を気にしながらも、さえは朝食を始める。

「ニンフはギリシア神話の意味合いが強いからなぁ。更にイギリスの水棲妖精は水の事故への戒めに由来して、人に害をなす方が多いから‥‥」
 思案しながら、フィルゲン・バッハはキーボードを叩いた。テーブルの反対側には、リーベ(fa2554)がちんまりと座っている。
 彼女が希望したのは、湖に棲むニンフ役。
 古来より村を見守る存在で、シルキーと一家が対立するのを危惧し、一家の娘の夢の中に現れ、シルキーと会えるよう少しだけ助言する−−という役回りにアレンジしたいと、撮影に臨んだのだが。
「じゃあ、この役は駄目ですか」
 リーベが恐る恐る訊けば、目の前の男は「うん」と答えた。
「役の意味も弱いし、『頼れる仲介役』が入っちゃうと全体の空気が変わるだろ」
「‥‥はい」
「ただ、折角仕事に来たのをこのままってのも悪いから、今回はエキストラをお願いするよ。不本意かもしれないけど、脇もシーンを構成する大事な役割だから、頑張って」
 緊張した面持ちのまま、リーベはこくりと頷いた。

●屋根裏の秘密
「これは、清らなる湖の畔の大樹が伝える物語」
 ふわりと、瑠璃色の翼が広がった。
 質素なチュニックに7分丈パンツを纏った語り手は、月光の下で湖畔の木の根元に座り、膝の上に開いた古ぼけた装丁の本をぱらりとめくる。
「今再び、この『瑠璃の語り手』が語りましょう。紡がれし絆と紡がれ行く絆の織り成す、優しい色のタペストリーを」
 風が、広げた本の頁を次々とめくっていく。
 画面はどんどん本へと近寄り−−。
 ぱたんと閉じた本を白い手が取り上げて、整然と本が並ぶ本棚へと仕舞う。
 鎧戸の隙間から漏れる青白い光が、音もなく通り過ぎる白いドレスを照らし。
 月が翳った。

 それは、新しい生活の二日目から始まった。
「デルラ。何も、夜中まで無理をして片付けなくても‥‥引っ越したばかりで、ゆっくり休みたかったろうに」
 笑顔で労わる夫の言葉に、妻は怪訝そうな表情を返した。
「私ではない。ジェイさんが片付けたと思ってたが‥‥だとすると、イーシャが?」
「あの子は、まだ寝ているだろう」
 髭を撫でて思案するジェイ。
 越してきたばかりの新しい我が家で、目が覚めれば未整理の食器や衣服や雑貨が一夜にして片付けられていた。量自体は多くなく、ならば疲れた妻が片付けた事を忘れてしまったのだろうと、彼は心の内で結論付ける。
 その間にも朝食は用意され、日常の流れは疑問を押しやっていく。
 しかし、それは不思議な出来事の始まりであった。

 部屋が掃き清められ。
 家中のランプが磨かれ。
 暖炉が掃除され。
 朝が来るごとに、誰かが何かをしている事実は明白となり、三人家族は眉を顰めた。
「お母さん、泥棒じゃないよね」
「どうかな。誰かがやっているにしても、薄気味悪いというか‥‥」
「ここが『何かが出る』屋敷だとは、聞いていなかったがな」
 落ち着かせるように、娘の髪を父親は大きな手で撫でてやる。

 だが、住人達の不安に抗議するかの如く。
 それまで息を潜めていた『何者』かが、今度は『自己主張』を始めた。
 夜毎、奇声と共に家具がゴトゴト鳴り、バタバタと誰かが屋根裏を歩く。
 いよいよ泥棒でも正体を現したかと、探してみても誰もおらず。
「建て付けが悪いんだろう。古い家だからな」
 そんな一言で済ませたジェイが元大工の技量で石積み壁の我が家を検分するも、異常はなく。
 奇妙な現象は、彼らの友人が様子見に訪問するまで一週間あまり続いた。

●恒例の‥‥
「ここは、詩人ワーズワースが愛したグラスミア。ならば、茶請けは教会脇のジンジャーブレッド!」
 ずびしっと、至極真面目な顔でニライがレオン・ローズに人差し指を突きつける。
「くっ、ニライ君、何故それを‥‥っ!」
「正解だろう、レオン殿? 既に朝から一っ走りして、購入済だ」
 ずぃと青いロゴが入った布製の袋を見せ付ければ、レオンはがくりと膝を着く。
「何かニライさん、キャラ違うくない?」
「シルキーが乗り移ったか」
 ひそひそと小声で会話するアイリーンとフィルゲンに、珍しく勝ち誇った笑みのニライが視線を投げ。
「そんな、誰かのような事はない」
 ずぎゅーん。
「ああ‥‥フィルゲンさんまで」
 揃って凹むトップツーに、苦笑するリーベ。
「何か、あったんですか?」
「ええ‥‥まぁ、ちょっと」
 尋ねる郁に、唯一事情を知るさえは言葉を濁した。彼は紗綾と顔を見合わせ、不思議そうな顔をする。
 ともあれ、1854年からの製造法を守り、レシピは門外不出というジンジャーブレッドを茶請けに、恒例の茶会は始まった。このブレイクタイムは物事には緩急が大事だというレオンの主張によって、いかなる撮影の時にも必ず設けられている。それは、今回の『シルキー』でも例外ではなかった。
 ジンジャーブレッドは、パンよりもクッキーに近い。ブラウンシュガーをまぶした板状のそれを齧れば、強い生姜の香りと味が広がり、後に甘みが続く。それをミルクティーと一緒に楽しむのが、通の味わい方らしい。
「格段に美味いという訳ではないが、次に手が伸びる味だな」
「うん。素朴な味だ」
 葵に頷き、紗弓はティーカップを傾ける。スタッフ達の間にもジンジャーブレッドが行き渡る中、さえは撮影当初から気にしていた相手に声をかけた。
「あの、良かったら一緒にどうですか」
「ああ、ありがとう。いただくよ」
 さえから皿を受け取る彼へ、ニライが手にした珈琲と紅茶のカップを差し出す。
「どちらが良い? 川沢殿」
 少し驚いたような風の川沢一二三は、礼と共に珈琲のカップを取る。案の定残った紅茶の香りにニライは目を細め、問われぬ問いに答えた。
「仁和殿から、時おり貴方の話を聞いていたのでな」
「そうか‥‥この業界も広いようで、狭いもんだね」
 苦笑しながら、川沢は珈琲を口へ運ぶ。聞き覚えのある名に、さえは首を傾げた。
「環さんと、お知り合いですか。じゃあ、音楽関係の方です?」
「うん。今回は、見ているだけなんだけどね」
 こういう者だよと、川沢は自事務所と『音楽プロデューサー』の肩書きが入った名刺を二人に渡した。

●一皿のミルク
 かつての我が家を訪れた二人は、友人の歓待を受けていた。
「シルキーは、元気でしたか?」
『‥‥はぁ?』
 どこかとぼけた友人の問いに、ジェイとデルタは声を揃えて聞き返す。
「あの子、うちのステファンのミルクが、とても好きで‥‥今日も、久し振りにと思って持ってきたんです」
「はぁ」
「それで、お皿貸して下さい」
 前の家の主ロイは、どこまでもマイペースだった。頼まれて皿を取りにキッチンへ移動したジェイとデルタは、そこでヒソヒソ話を交わす。
「前から、変わった人だと思っていたけど‥‥」
「いや、待て。もしかして、シルキーって猫か?」
 猫なら、夜中の物音にも合点が行くとデルタも納得しかけるが。
「それだと、引越しの片付けや掃除は?」
「あ、そうか」
「あのー」
『はいっ!?』
 声をかければ、夫婦が同時に振り返って笑顔で答え、エマは逆に面食らう。
「そう、皿だったな。これでいいか、ロイ?」
 場を取り繕うように、ジェイが皿を持っていく。そしてキッチンに残る女同士。
「で、エマさん。改めて聞くけど、シルキーって‥‥何?」

 ミルクで満たした皿を、ロイはそっと窓際のサイドテーブルに置く。
 様子を見ていたジェイは、理解し難いという顔で椅子に腰を下ろした。
「で、どうなるんだ。あの皿」
「どうって?」
「あのまま置いてて、いいのか?」
「うん」
「で、どうにかなるのか?」
「うん?」
「いや、だからあの皿‥‥て、ちょっと待て‥‥えぇぇ〜っ!」
 声を上げ、椅子を鳴らしてジェイが立ち上がる。
 今しがた置いた皿を手に取れば、そこに満ちていた筈のミルクはなく。
「‥‥手品か?」
「久し振りで、喜んでくれたみたいです」
 訝しむ友人を他所に、ロイは嬉しそうな表情をした。

 日が暮れる前に、来訪者達は帰路に着く。
 見送る三人の家族に礼を述べ、ロイとエマは懐かしい家を見上げた。
「いなくなると、寂しいものよね」
「はい。家族でしたし」
 目を細め、ロイが手を振る先の窓で、ひらりと白い影が過ぎった。

「シルキー、シルキー‥‥これじゃないし、これも違う‥‥ああ、もう。ちゃんと整頓しとけば良かったぁ」
 本棚の本を全て引っ張り出したイーシャは、目的の本が見つからない苛立ちのまま、ベットへ身を投げる。
 そうして、どれ程の時間が過ぎたのか。
 少女は不意に、人の気配に目が覚ます。
 正しくは気配というよりも、ブツブツと何事かを呟く声に。
 散らかした本に母親が文句を言っているのかと、起き上がれば。

 目が合った。

 文句を言いながら本を片付けていたのは、白いドレスを纏い、ご丁寧に髪まで白い女性。
 その頭の上の方で三角の耳がぴこんと動き、足元では毛並み豊かな尻尾がぱたりと動き。
「‥‥猫?」
「黙って聞いておれば、今日はネコネコネコネコと失礼なーっ!」
 髪の毛まで逆立てそうな剣幕で怒鳴られれば、イーシャの半分寝ぼけた頭も目を覚ます。
「待って、待ってーっ! ごめんなさい、だから、本を投げないでーっ!」
「イーシャ! こんな夜中に、何を騒いで‥‥!」
 そこへ、物音と声に置きだしてきたデルタが扉を開け。
 三人(?)の女性達は、しばし固まった。

●新しい生活
 −−信じても、信じなくても、あの子は居るのよ。
 信じても、信じなくても、神さまがいるのと同じように−−。
 シルキーについてそう言った、友人の言葉を思い出す。
「つまり、『いる』と信じて認識しないと、見えないんだ。あなたは」
「‥‥見えるも見えないも、私は『ここに居る』。それ以上でも、それ以下でもない」
 不機嫌ながらもマイラと名乗ったシルキーは、ロイとエマ夫妻の持ってきたミルクを美味しそうに飲んでいる。
 そんなシルキーの様子を、娘は興味深げに窺っていた。
 彼女らは場所をキッチンに移し、ランプを灯してテーブルを囲んでいた。
 ともすれば、マイラの姿が光に揺らいで消えそうになるのは、自分がまだ相手の存在を信じきっていないからだろうと判断し、デルタは眩暈を覚える。
「それで、私達が引っ越してくる前から、いたと」
「ああ。然るべき働きに礼を返さぬとは、礼儀知らずめ。おまけに、こちらの声や歌を聞く耳すら持たぬときた」
 ‥‥どうやら、主張していたらしい。
 それがきっと、奇声のようなものや家具を揺らす原因だったのだろう。
 それとも、怒ってるから歌も主張も奇声のようにしか聞こえなかったのか。
「でもちゃんと『いる』って判ったから、これからは大丈夫よね。ちゃんとミルクも用意するし、気味悪がらないし、ネコって言わないし」
 心配そうに、イーシャはマイラを見上げ。
「そうだな。母親は激しく微妙だが、娘のあなたはちゃんと私が判るようだ。なら、今後はあなたにクレームをつけるとしよう。それから最後のヤツは、わざわざ言わなくていい」
 そして、妖精はお代わりを要求する。よっぽど空腹だったらしい。
「二人とも、夜中に何をしてるんだ」
 置き出してきたジェイは、妻と娘の様子に怪訝な表情をした。それから喉が渇いたと、丁度グラスに注がれていたミルクを取って、飲む。
「家の主の癖に、まだ私が見えんか」
 ふつふつと怒りの混じった笑みを浮かべるシルキーに、デルタとイーシャは頭を抱えた。

「−−それでも、誤解が解けたシルキーと新しい家族は、仲良く朗らかに日々過ごして暮らしました」
 石積みの塀に腰掛けた語り手は、手にした本をぱたんと閉じる。
 その瞬間、歌声と共にピィンと空気が鳴り、家の窓が一斉にガタガタと震え始めた。
 目を丸くした語り手は、それからくすくすと笑い出し、瑠璃色の翼を広げてふわりと舞い上がる。
「落ち着いてよ。マイラーっ!」
 残る家に、少女の懇願が響いた。