Limelight:無題一夜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/25〜04/28
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●本文
●Limelight(ライムライト)
1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
2)名声。または、評判。
●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。
フロアには、控えめなボリュームでオールディーズが流れている。
届いていた5枚目の写真パネルを壁にかけ、オーナーの佐伯 炎(さえき・えん)はそれを眺めて考え込んでいた。
「さて‥‥と。どうしたモンかね」
忌々しい桜の季節も終わり、浮かれた黄金週間がやってくる。
かといって、ライブハウス的には特に連休を予定している訳でもなく、いつも通りの通常営業となるだろう。それに、アマチュアバンドの『発表会』も予約されている。
『何か』やるならその手前の間隙、即ち今の時分だよな‥‥などと考え。『何もない』なら、それはそれでまた面白かろうと結論付けて脚立を担ぎ、佐伯は事務所へと戻った。
●Any way you want it.
そうして、ライブ出演者の告知が渡る。
ただいつもと違うのは、「今回、テーマと呼べるようなものがない」という点。
即ち、演目自由で、ライブの構成を作ってみろ−−という事である。
●リプレイ本文
●無題のお題
「こんにちは、佐伯さん。先日ぶり」
「通い詰めている感じがしますが、よろしくお願いします」
軽く頭を下げる仁和 環(fa0597)に豊城 胡都(fa2778)が続き、佐伯 炎はひらと片手を振って返礼した。
「その勢いで常連客になって、金落としてくれると嬉しいが‥‥胡都はまだ未成年か」
「はい。でも代わりに、僕の分まで環さんが落としてくれますよ」
「ちょっ‥‥胡都さん!?」
「じゃあ期待して、高い酒を仕入れておこうか」
「佐伯さんまでっ」
狼狽するバンドメンバーへ、胡都はちらと視線を投げ。
「『蜜月』のいじり・いじられコンビとして、頑張りましょうね」
視線と共に向けられた微笑みに、ふるふると首を横に振る環。
「二人は、仲が悪かったのですか? 前の仕事では、そうは見えなかったのですが」
ソファでやり取りを見ていたアマラ・クラフト(fa2492)が、首を傾げた。
「アレだな。『親愛の情』ってやつだ」
「シンアイノジョー?」
佐伯の説明にも、アマラは不思議そうな表情を浮かべ。
「親愛でいぢめられるのか‥‥俺は」
「やっぱり、環さんは隅っこが似合います」
壁に語りかける男へ、微笑んで追い討ちをかける胡都。
「それは‥‥俗に、壁の花とかいう?」
「アマラさん、その用法は違うっ」
アマラの誤解を訂正する環に、原因の胡都はくすくす笑う。
初来店早々、そんな光景に出くわしたスモーキー巻(fa3211)は、事務所の入り口で話の切れ間を待っていた。
「あれ、スモーキーさん? どうかしたの」
名を呼ばれて振り返れば、先日の音楽番組で一緒になった『アドリバティレイア』のメンバー四人が揃っている。彼に声をかけたリーダの明石 丹(fa2837)が、軽く会釈をした。
「うん。盛り上がってるみたいだから、邪魔するのも悪いかなってね」
「皆もう、来てはるんですね」
文月 舵(fa2899)の言葉に、「みたいだな」と陽守 由良(fa2925)が返す。
「前も賑やかだったよね。あと、お茶とかお菓子とか美味しかったよ!」
初めて来た時の事を思い出して、柊ラキア(fa2847)が少年の様な屈託のない表情で笑う。
「ラキの記憶の優先順位は、茶と菓子かよ」
「えーっ。勿論、ライブも楽しかったし。今回も楽しくするから!」
からかう由良に、急いでラキアは反論した。
「ラキの言う通りライブはいつも賑やかみたいだから、遠慮なく入っていいと思うな。僕が言うのも何だけど」
開いた事務所のドアを、ノックする丹。面白そうに三人の会話を聞いていた佐伯が、音に気付いて彼らを見やった。
「よぅ、揃ってたか。それから新しい顔も居るな。ようこそ『Limelight』へ」
「初めまして、よろしく」
一礼し、スモーキーは話の輪へ足を踏み入れた。
一同が揃うと、本題のライブに話は移る。
「てことは、『全体を通して何か一つ』じゃあなく『個々にやりたい事を』って感じだな。しかし、スモーキーの後にアマラか」
ライブの流れと各人の曲目説明を聞いた佐伯が、唸って考え込んだ。
「おかしい点でもありますか?」
思案の理由が判らずに尋ねる少女へ、オーナーは渋い顔をする。
「そりゃあ、な。どういう趣向でコレを選んだかは知らんが‥‥ま、好きにしろって企画だから今回は折れるが、選曲はもう少し注意した方がいいぞ」
嘆息しながら禁煙煙草を咥えた佐伯は、席を立った。
「レクイエムといや、死んだヤツへの追悼曲だろうに‥‥」
●スモーキー巻〜Walk Your Way
熱気と期待とが待ち受ける中、ざわめきを鎮めるように照明の光が絞られる。
そして、無題のライブが始まった。
一本のライトがステージ中央から右寄りに立つスモーキーを照らし出す。
「四月という始まりの時期を越えて、理想と現実のギャップにぶち当たるのが五月病じゃないかな。同じように理想と現実のギャップに悩んだ時、最後に行くべき道を示してくれたのは自分の心だったんだ。
その時、背中を押してくれた人に応える為にも、今度は自分が誰かを励ませたら‥‥そんな気持ちで作った曲です」
オープニングとなる曲を紹介をしたスモーキーは、ストラップで肩から提げたギターで優しい曲を緩やかに奏でる。
自分のミュージシャンとしての技量を承知しているが故に、派手な技巧よりも一音の丁寧さに重きをおいて。
「 道ばたに座り込み 疲れた目で
空を見上げては ため息一つ
大切にしてた夢への地図
その通りに歩いてきたはずなのに
「こんなはずじゃなかった」
今はなぜだか 迷い道の途中
歩き出そうよ
古ぼけた地図 破り捨てて
歩き出そうよ
素直な想いを コンパスにして
道なき道でも 進め心のままに
明日へと 夢へと 続くと 信じて 」
ギター一本の弾き語りは、静かに終わる。
フェードアウトしていくライトを追うように、拍手が響いた。
●アマラ・クラフト〜レクイエム ニ短調K.626
拍手が鳴り止む前に、電子音がフロアの空気を震わせる。
クロスするライトがスモーキーと入れ替わりで、ステージ左寄りにてエレキギターを弾く黒いドレス姿のアマラを浮かび上がらせた。
彼女が演奏するのは、モーツァルト作曲の『レクイエム ニ短調K.626』から第一曲『入祭文より レクイエム』、第三曲『続誦より 怒りの日』、第七曲『聖体拝領誦』の主旋律メドレー。
最初の『レクイエム』は悲しげな短調を、ゆったりと弾き。
次に辿る『怒りの日』は、アレグロの原曲をプレスト並みの速さまで引き上げて、荒々しく。更に本来はラテン語の典礼文をドイツ語に訳し、インドの少女が呂律も怪しく唄う−−というアンマッチさで。
波濤の如くあっという間に駆け抜けた旋律の後には、ニ長調に変調させた『聖体拝領誦』で呆気ないほど明るく纏め上げた。
慣れないハイヒールを履いた彼女は不安定な足元が気になるのか、若干プレイも危なっかしく。
演奏を終えたアマラはぺこりと聴衆へ頭を下げると、ぎこちない足取りでステージを降りた。
●『ALR−Rayer−』〜澄み風
自分を見つめる視線を感じて、舵は小首を傾げた。
「どうしたん? ラキちゃん」
「うん。舵っていつも落ち着いてるから、どんな風にしてるのかなーって気になって」
首を横に傾けてみたり、ゴーグル越しに覗くラキアへ、舵はにっこりと微笑む。
「ラキちゃんは、ラキちゃんらしくでええよ。二人で気張ろね」
「うん!」
踵を上げて背伸びした舵に頭を撫でられ、嬉しそうに答えるラキア。
二人の会話を見ていた由良の視界へ、不意に手が伸びてグリグリと眉間を押さえられた。
「おい、丹っ?」
「眉間に皺、できてたよ。ステージ前なんだから、はい、笑って笑って」
有無を言わせず丹に笑顔で顔を覗き込まれ、ぎこちなく由良は口角を上げる。
「舵はラキアと、妙に楽しそーだよな」
その表情のまま何故か拗ねた口調で呟く仲間に、リーダーは少し考え。
「じゃあ、僕らも頑張って二人が悔しがる様なステージにしようか」
「‥‥そうだな。こっちはこっちで楽しませてもらうか」
そうして、由良は本当の笑顔を見せ。
彼らのバンド名を呼ぶ、スモーキーの声が聞こえた。
ベースを手にした丹は、黒のノースリーブなセーター、暗色のデニムパンツにズボンカバーのチャップス。そして赤を基調とした着物をルーズに羽織り、片肌脱ぎに着崩している。
ショルダーキーボードの由良は、サングラスを外して色違いの瞳を晒していた。丹と同様に赤と黒を意識した服装を合わせ、パンツを黒いレザーパンツに変えて、レッドフォックスの襟巻きをしている。
普段と違う構成で、ステージに立つのは二人のみ。
由良の短い曲紹介を挟み、メロディが滑り出す。
メローでスローテンポなジャズ風味の旋律は、どこか暖かい郷愁を帯びていて。
その音の流れに、丹が優しい声をのせる。
「 落とす睫の影さえ愛し 昼下がり
青嵐にはまだ遠い頃
すみれのように
東風(あゆ)の走りが撫ぜる
透る光映す髪
朱のさした頬で微笑んで
手と手を合わせていよう
仕合せになれるように
手と手を合わせていよう
仕合せになれるように 」
柔らかく唄い終えた丹は由良と手を繋ぎ、拍手に一礼した。
●『ALR−Liberties−』〜PLEASEx3
「マコちゃん、由良ちゃん、ちゃんと見とってね」
「見ててよー!」
戻ってきた二人と入れ違いに、舵とラキアは薄暗いステージへと上がる。
舵はアップにしている髪を下ろしてゆるく巻き、その空色の瞳と同じ色のティアードワンピースに白のレースカーディガンという、女性の可愛らしさを強調したフェミニンルックで。
ラキアは黒いTシャツとウォレットチェーンやチェーン飾りを大量に付けたジーンズにベルトを多重に巻いたラフな格好で、指抜きグローブを右手にだけ嵌めている。豹柄のテンガロンハットを斜に被り、陽気な足取りに胸元でゴーグルが踊っていた。
前回は四人で演じたステージが、今日は妙に広く感じる。
その感覚はラキアも同じなのか、一度だけぎゅっと強く彼女の手を握り、すぐに放す。
ポジションに立つと、足りない空隙を埋めるように、銀色のトランペットが高らかに鳴った。
金管の音と共に、ラキアはスタンドマイクへ第一声を吹き込み、ライトの光がステージに満ちる。
「 I LOVE YOUR GRACEHUL FACE AND NATURE
NO,ALL!
I WANT YOU TO STAY WITH ME,SO MORE
TURN MY FACE! 」
明るくポップなトランペットとエレキギターの二重奏と、ウィンクを投げて唄いかけるラキアにソッポを向く舵といったパフォーマンスを交え。
間奏部分に入れば、観客席に降りてハーモニカを吹き鳴らしたりと、ここぞとばかりにラキアが駆け回る−−もっとも、シールドによる限界はあるが。
「 PLEASE! PLEASE! PLEASE!
LOOK AT ME DARLING! 」
小気味好い曲は、鮮やかに揃えて纏めて。
舵とラキアは、繋いだ両手を挙げて歓声に応える。
急にラキアが舵一人を残して舞台脇まで走って行ったかと思うと、舞台袖でステージを見ていた残るメンバー二人を引っ張ってくる。
「やっぱり、この方がいいよね!」
満面の笑みに、三人は顔を見合わせて笑い。
手を繋いだラキア、丹、由良、舵は、再度フロアへと手を振った。
●『蜜月』〜いとし華 & START
「さて‥‥俺達も、負けられないな。って、胡都さん、さっきドコに行ってたんだ」
満足げな顔で戻ってきていた胡都に、尋ねれば。
「おにぎり、貰ってました」
「‥‥食べてたのか」
「ええ、この時間までもちませんから。成長期ですし」
「そうか。胡都さんはつまみ食い派じゃなく、正面から要求するタイプだったんだ‥‥」
恐るべき10代の台詞に、どこか愕然と環は呟いた。
所定の場所に楽器をセッティングするバイト達が去るのを待って、スモーキーが彼らを呼び出す。
このライブでは、二人していつもと違う楽器を複数演奏する‥‥という趣向。
その為、ステージ上には様々な楽器が並んでいた。
青を基調にした生地に蝶の柄が舞う中華風スーツの胡都は、環から借り受けた三味線を手に椅子へと腰を降ろす。
同じく、蘇芳地に鳳凰柄の入った中華風スーツを纏い、ヘッドセットマイクを付けた環は、義爪をつけて筝(琴)の前へ。
そうして不在のリーダーに代わり、環が観客へと第一声を放つ。
「へたれは春の幻! 今宵の蜜月はChallenger♪
お伽噺の始まりだ! Chacun Bon voyage!」
歓声の中で、ゆっくりと二種の弦の音が響いた。
一曲目『いとし華』は、暖かく穏やかな春の日射しの中を爽爽と風が駆け抜ける様をイメージしたもの。
奏でる楽器は和風ながらも、バラード調のメロディラインに環が声を加える。
「 純陽の風に歌う すずろなる笑み
ひらり舞かわす君を追い この手伸ばす 」
筝の調べを残し、胡都は三味線から横笛へと持ち替え、涼やかな風の音を彩る。
「 花散るとて華散らず
ゆかりの色 永久に
浪の中抱きしめ 誓かわそう
不散なる君への想い 」
囀る横笛に環が取り上げた鼓を打ち、情景へ緩やかに幕を引く。
トントンと打つ鼓のリズムに合わせ、今度はサクソフォーンの太くて深い音色が流れ込む。
アドリブ交じりの胡都の独奏に、タンバリンやマラカス、水を入れたグラス琴で次々と環はアクセントを添え。
最後は首掛け式のホルダーに固定したハーモニカで、サクソフォーンの旋律をなぞる。
ハーモニカを吹きながら彼はピアノへと移動し、次の曲−−陽気な足取りで颯爽としたポップな曲を叩き出した。
「 世間知らずだって 好
悩む暇あったら 体当たり挑戦
自分色の未来を 帆布に描こう
疲れて一休息 拗ねて二休息
けど嬉しいことあったら 三つ飛ばしで 去! 」
それまでのサクソフォーンから、胡都がトランペットでより明るいサビへと導く。
「 謝々 僕と地球に立つ人達
キミのおかげで僕は頑張れる
喜愛 僕の大切な人達
キミのおかげで僕の 今日が始まる 」
最後には、キンコンカンと環のチューブラ・ベルが始まりを告げて。
鐘の余韻に、拍手が重なった。
●無題一夜の‥‥
ステージの最後は、全員が揃っての一曲。
フレンチカンカンで有名な『天国と地獄 序曲』をアレンジしたものだ。
前曲からステージに残った環と胡都は、筝とドラムを担当し。
アマラはエレキギター、丹はベース、舵がピアノ、由良はラキアと一緒にハーモニカを吹き、開いた手でショルダーキーボードも弾き。
足を振り上げたりと踊りを交えながら、賑やかにライブを締め括った。