Limelight:行楽日和アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
2人
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期間 |
05/06〜05/08
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●本文
●全国的に黄金期間中です。
「あ〜‥‥最近、なまってんな〜‥‥」
コキコキと首を鳴らし、肩を回し、『Limelight』オーナー佐伯 炎(さえき・えん)は独り言ちて、誰もいない事務所で大きく身体を伸ばした。
ライブハウスでの業務は、基本的に立ち仕事か座り仕事だが、掃除や飲食物の搬入などもあり、身体を使う機会がない訳ではない。が、やはりそれは生活範囲内の事で。
更に言えば、人が遊んでいる時に仕事をしているのも、やっぱり癪である。
暫し卓上のカレンダーを睨み、唸った末。
「身体を動かしに行くか‥‥どっか、外の方が面白いよな」
トレーニングジムなどよりは、気分転換も兼ねて戸外へ出た方が性に合う。
そして、できれば一人より複数人で。
そんな事を考えながら、ライターで煙草に火を点ける。
「こんな時、気軽にこいって言えないのは、つまんねーよなぁ」
カレンダーの5の数字をコツコツと指でつつきながら、紫煙交じりにぼやく。
それから佐伯はPCのエディタを立ち上げ、告知の文面を打ち始めた。
●リプレイ本文
●新緑の山で
踏み固められた土を蹴り、一歩一歩山道を登る。
風が渡ればザワザワと葉擦れの音が聞こえ、耳をすますまでもなく高い梢から鳥の囀りが聞こえてくる。
新たに芽吹いた緑は瑞瑞しく艶やかな色で、歩く者達の目を楽しませていた。
「逢歌、そんなペースだとバテない?」
歩き始めて、早1時間以上。勾配を物ともせず、軽い足取りで道を進む棗逢歌(fa2161)に、篠田裕貴(fa0441)が声をかける。
「なんだか、楽しくなってきてね。いや、楽しいのは、登る前から楽しかったけど」
最後尾についている佐伯 炎が、からからと笑う。
「高度が上がるほど、脳内麻薬が出てるんだな」
「そうそう、そんな感じで! あと、静香効果もあるかな〜」
一緒に歩く恋人へ、逢歌は嬉しそうな笑顔を見せる。
「ヒロも旦那様とくればよかったのに、ベッタリだと思われるのが嫌だからって」
「だから、旦那とか言うな」
裕貴の抗議にも慣れた風で、従弟ラリー・タウンゼント(fa3487)がやれやれと肩を竦める。
「俺なんか、恋人はニューヨークだから滅多に会えないし。恵まれてるって、自覚しなきゃ‥‥あ、ヒロ。そんなに急にペースを上げたら、後でバテるよ」
ラリーの忠告を聞かず、ぐいぐいとスピードを上げて隣を過ぎる裕貴を、心配そうにシド・リンドブルム(fa0186)が見送る。
「大丈夫でしょうか‥‥」
「道を間違えない限り、大丈夫でしょう」
落ち着いた様子で、星野・巽(fa1359)が答えた。
「分かれ道がないといいが。ところで戒、手は貸さなくていいんだな」
「はい。行きで力尽きる程、ヤワではありませんから」
気遣う高岑 轡水(fa1202)へ、万全の日焼け対策で強気をみせた藤川 静十郎(fa0201)だが、急な坂では如実に無口になっていたりする。人並みに体力があっても、背中の荷物が重しとなっているらしい。ちなみに平時は和装の二人も、今日ばかりは動きやすい服装をしていた。
「私、こんなに荷物を少なくしていただいて、よろしかったんでしょうか」
彼らと違って、聖 海音(fa1646)の背中は軽い。かさ張る物や重い物は、男性陣の荷物に分配されているのだ。
「今日は、圧倒的に野郎が多いからな。下僕の如く、こき使って構わんぞ」
「下僕って‥‥佐伯さん‥‥」
いつもの『逃げ場』がない隅っこの住人は、肩を落としてついていく。
そんな会話を交えつつ更に1時間程度歩けば、目的地の小さなキャンプ場へと辿り着いた。
●お昼の定番?
「しかし、俺は「バーベキュー」とか、言い出すかと思ったんだがな」
コンクリートブロックを積んだカマドで燃える火を確認してから、佐伯は一同が持ち寄った食材に目を向ける。
木造のテーブルには、牛肉や鶏肉、ジャガイモに人参、玉葱などが並べられていた。
「大人数で作るなら、やっぱりカレーかと」
「小学校の遠足を、思い出しますわね」
流水で冷やす為に野菜を袋に詰める巽に、海音が微笑む。
「切ったヤツを焼いて食うだけってのも、味気ないのは確かだがな。生存競争も激しいし。まぁ、直火だから風向きと火傷には気をつけろよ」
「はい」
こっくりと巽が頷いた。
「釣れそうな魚、いる?」
岩だらけの川岸から身を乗り出して、裕貴が水面を覗き込む。だが緩やかな水の流れに窺えるのは小魚ばかりで、それらしい姿は見えない。
「いるよ。でも魚の食事時‥‥朝や夕方の「まずめ」って時間帯なんだけど、その時間じゃないから、ちょっと喰い付きは悪いかもね。あと水面を覗き込んだり、大きな音を立てたりすると、魚が警戒するから」
「え? 魚なのに?」
逢歌の言葉に眼を瞬かせてから、慌てて裕貴は身を引いた。
「うん。向こうも生き残るのに必死だからね」
逢歌は、慣れた手つきでルアーの仕掛けを用意する。
「そういや、裕貴さんは初めてみたいだけど、ラリーさん釣りは?」
「俺は、フライフィッシングしかした事ないから‥‥こういうの」
キャスティングの腕振りをしてみせるラリーだが、はたと自分の役割を思い出す。
「でも、カレー作らないと。轡水が大量に、ジャガイモと人参を持ってきてるし」
「あ、そっか。じゃあ、二人とはお昼が終わった後で」
「判ったよ。昼の一品追加、期待してるから」
軽く手を振って他のメンバーの元へ戻る二人を見送り、仁和 環が溜息をつく。
「責任重大だな。坊主だったら、どうしようか」
「その時は‥‥環さんが、下山して買ってくる」
「無理。絶っ対、無理だから」
戦々恐々とする環に、逢歌はにんまりと笑い。
「大丈夫。お金がない時なんか、山篭りして色々と食い繋いできたから、釣るよー。僕はね」
嘘かホントか−−得意げな猫獣人は、竿を担いで上流へと歩き始めた。
注意深く、真剣な表情で包丁を動かす。
が、まな板の玉葱を切れば切るほど、目がちくちくして視界が潤み‥‥。
「戒、指には気をつけろ‥‥」
恋人から声をかけられた瞬間、手が滑った。
何の抵抗もなく、冷たい金属が肉の中を通過する感触。
「‥‥っ、痛っ」
慌てて引っ込めた手を開いてみれば、白い肌につぅと赤い筋が浮かび、そこから血の玉がぷつぷつと滲んでくる。
「轡水さん、驚かさないで下さい」
「遅かったか。すまない、俺が急に声かけたせいだな」
睨む静十郎のまなじりに浮かんだ涙を指で拭ってやってから、轡水は押さえた指を取って引き寄せた。
指の間に流れ落ちた血を舐め取り、傷ついた指を口に含む。
そうして自分の指を咥える轡水を、静十郎は暫し茫然と見つめ。
「そろそろ、ちゃんと手当てした方がいいと思うぞ」
ぼそりと佐伯が呟いて、二人は我に返った。
「佐伯さん、持ってきました!」
シドが消毒スプレーやガーゼを手に、走ってくる。
「ああ、すまんな」
「いえ。救急キット、持ってきてよかったです。静十郎さん、大丈夫ですか?」
「はい。深くはありませんから、大層にしなくても‥‥」
「後で膿んだら、困るのはお前だぞ。後は任せて、大人しくしとけ」
スプレーで消毒し、包帯代わりにハンカチを裂き、ガーゼがずれないように軽く巻く。そして『処置』が終わると、佐伯は轡水と静十郎を作業中のテーブルより追いやった。
「手馴れてますね。でも、絆創膏でも良かったのでは?」
巽の疑問に、切りかけの玉葱を水にさらす佐伯は、おどけた風に片眉を上げた。
「俺がガキん頃は、生傷が絶えなかったからな。あと、ああいう傷は絆創膏も良し悪しでな」
「そうなんですか‥‥」
「お前も、怪我とか気をつけろよ。えーっと、モデルだっけか?」
「はい。他にも、いろいろやってますけど。でももし怪我なんてしたら、姉に叱られますから。もっとも、姉に怪我をさせられる方が‥‥あ、内緒ですよ。今の」
声のトーンを落とす巽に、佐伯は笑いながら切り終えた玉葱を紙皿にまとめる。
「OK、男同士のよしみでな。あ、シド。救急道具ありがとな、助かったよ」
戻ってきたシドは、照れたように首を振る。
「お役に立てたなら‥‥あ、何か手伝いましょうか」
「確か、青竹で米を炊くとか言ってたから、そっちにかかるか。玉葱終わったがソッチはどうだ、裕貴」
「こっちも、もうすぐ終わるよ。ラリー、玉葱は頼んだからね」
「了解。飴色になるまでじっくりと、だね」
従兄の好みを確認しながら、ラリーが玉葱をフライパンへ投入した。
「裕貴さんとラリーさんは、従兄弟‥‥なんですよね」
牛肉を適当な大きさに切りながら、海音が不思議そうに尋ねる。丁寧にジャガイモと人参を切り揃える裕貴と、フライパンを振って玉葱を炒めるラリーは、兄弟とも見紛う外見だが名前も所作も全く違う。
「お互い半分ずつスペイン人で、俺の残りは日本人。ラリーはアイルランド人だけど、生まれはニューヨークなんだ」
「国際色豊かでいらっしゃるんですね‥‥裕貴さんの御親戚って」
感心した様に、しげしげと二人を見つめる海音。そこへ、巽が声をかけた。
「海音さん、食事の後でいいんですけれど、歌の練習をお願いできますか」
「はい、私でよろしければ‥‥技術的な事は、川沢様の受け売りになってしまいますけれども、よろしいです?」
「ええ、助かります。最近になって唄い始めたので、基礎とかよく判らなくて‥‥姉はスパルタですし」
ほろりとこぼす彼の言葉に、海音は「あら‥‥」と驚いた表情を浮かべ。
「仲の良い御姉弟なんですね」
「違います」
真剣な顔をして、秒速で否定した巽であった。
●午後のひと時
「それでは。皆揃って、いっただっきまーすっ!」
何故か逢歌の音頭で賑やかな声が川原に響き、昼食が始まる。
メニューは辛口のチキンカレーに、甘口のビーフカレー。それを淡い竹の香りが移った御飯か、巽が焼いたチャパティで頂く。それだけではなく、彼は付け合せにと見目鮮やかなサラダも用意した。他に『逢歌が釣り上げた』ヤマメの塩焼きが三尾、轡水が持参した人参とジャガイモの余剰分は、それぞれグラッセとバター炒めに姿を変えている。
「ん、美味しい」
「ええ。景色と空気のいい場所で食べると、また格別ね」
「そうですね‥‥あ、写真も撮っておきませんと」
嬉しそうな逢歌と明星静香の様子に、海音がいそいそと携帯を取り出す。
「んん? カレシに写真でお土産?」
写り込もうとぐりぐりと身を乗り出す逢歌へ、「はい」と彼女は笑う。
「環。今度は、缶を間違えるなよ」
「う‥‥判ってるさ。ビールは、離れた場所に置いておくからっ」
轡水に釘を刺される環に、静十郎が怪訝そうな顔をした。
「黒ビールない? なかったら、普通のでもいいけど‥‥」
環が寄せた缶を、ラリーがひょいひょいと持ち上げてラベルを確かめ。
「わーっ! ラリーさん、ジュースと酒の缶と混ぜたら俺がコロサレルっ」
「‥‥へ?」
あわあわと缶を分け直す環に、ラリーは首を傾げた。
「佐伯さんは、飲まないんですか?」
ビーフカレーを口へ運んでいたシドが気が付き、手を止める。
「取ってきます?」
「いや、今日は飲まん。一応は監督者だし、何かあったら困るだろう。まぁ、シドや巽は大丈夫そうだが」
何が大丈夫そうなのだろうかと思いつつ、シドはもきゅもきゅとラッキョウを齧った。
食事の後には、デザートとして海音お手製、オレンジ・キウイ・クランベリーの三種ソース添えババロアに、静香が作ったアップルパイが出てくる。
「逢歌、はい」
切り分けたパイをフォークに乗せ、少し照れた表情で静香が差し出す。恋人の手ずからパイを頂いた彼は、実に幸せそうな笑顔を浮かべた。
「あれは、餌付けだな」
「ですね」
「そこ、要らぬコメントをしないっ」
ぼそぼそと呟く佐伯と巽に抗議する逢歌。
「それで、味は如何かしら」
「うん。勿論、美味しいよ。ダカラモットホシイナ」
笑いながら感想を求める静香に、逢歌がねだる。
「すっかり、緩みっぱなしだよな」
「ですね」
「えぇい。そこの外野、煩い〜っ」
食事の後は、長閑に思い思いの時間を過ごす。
裕貴とラリーは、持ってきたサッカーボールでリフティングの回数を競ってみたりと、少年の様に戯れれ合っている。
川縁では逢歌が素足で冷たい水に入り、静香は掬い上げた水の飛沫を彼に向けて飛ばしていた。
指を切った為に弦の演奏を止められた静十郎は、日陰で轡水と寛ぎ。
シドは環のギターを伴奏に、明るい歌を響かせて。
彼の歌を聞きながら、海音は巽へ発声の為の首のストレッチや、呼吸の仕方を教える。
三人三様の歌声を聞きながら、佐伯は片付け後の一服をしていた。
すっかり短くなった吸殻を携帯の灰皿に突っ込むと、灰皿とは別のポケットから時計を引っ張り出して、時間を確認する。
短針は既に『3』の文字を通り越しており。
「んじゃ、そろそろ帰る用意をするぞ!」
張り上げる男の声に、次々と元気な返事が続いた。
来た道を辿って、山を下る。
下りは下りでそれなりに道はきついのだが、背中の荷物も気分も軽く。
「また、皆で遊びにとかこれたらいいですね」
足元に注意しながら今日の感想を述べるシドに、裕貴が笑った。
「できれば今度は、海がいいな」
「いいね、海!」
すこぶる嬉しそうに賛成する逢歌の胸中には、少なからず男ならではの野望があるのだろう。
「できれば、日焼けする機会は避けたいのですけれども」
帽子を被った静十郎の呟きに、やはり容姿を売りにしている巽が振り返った。
「ええ。でも、最近の日焼け防止クリームも、結構効果は凄いですから」
「まぁ、皆で行けば楽しいだろうな」
微妙な表情をしている静十郎に、ちらりと轡水が見る。
「そうですわね。海辺で花火とか、楽しそうですわ」
「ふむ。それもいいな」
「日本の花火って、綺麗なんだってな」
ラリーが裕貴に尋ねている。ロケット花火や線香花火といった、一足早い夏の話題の中。海音の提案に同意した轡水のリュックの紐を、そっぽを向いたまま静十郎は掴んで引き。
ゆるゆると一行は、緩やかに山を下っていった。
その後。
多少年齢による時間差はあったものの、何名かは数日間の筋肉痛に苦しんだとか、苦しまなかったとか−−。