御伽話を撮ろうヨーロッパ
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
8.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/09〜05/12
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●本文
●アメージング・フィルム・ワークス内ミーティングルーム
「イメージソングのPVといっても、映像に関してはそちらの方がプロだろうしね。歌のイメージと合致するかどうか、日本で受け入れられる映像かどうか。その辺りをチェックするくらいかな」
ポジションを説明する音楽プロデューサーの川沢一二三に、脚本家フィルゲン・バッハは少し考え込む様子をみせる。
「僕らの方も、次の『幻想寓話』があるから‥‥十分といえる時間が裂けないのも、実際のところで」
「ああ。それで、今日は監督が同席していないのか」
どこか納得したような口調の川沢に、フィルゲンは眉間を押さえて頷いた。
「どうやら、役者の他に撮影スタッフも募らなきゃならないようで」
「1本1分もしくは3分程度の、ショートフィルムか。確かに、後進の腕試しにはいいかもしれないね」
「後進‥‥という程、僕らも進んでる訳じゃないんだけど」
「28だっけ? 二人とも、若いよね」
「それでレオンがぼやいてた。僕らより若く見えるのに、実際は10も上だからやりにくいって」
片眉を上げて冗談めかすフィルゲンの『密告』に、川沢は困ったように笑う。
「まぁ、このPVが終わったら私は日本へ帰る予定だから。後暫く、我慢して付き合ってくれると有難いよ」
デモテープのデータが入ったデジタルオーディオを取ると、川沢は席を立った。
●『幻想寓話』イメージソング
・『Fantasy allegory』
オルゴールの音から入り、オルゴールの音で終わるミドルテンポのポップ・ソング。
一貫して流れるゆったりとしたオルゴールの旋律が、基本メロディとなっている。
リズムマシンやキーボード、エレキギター他、電子楽器を多用。しかしメインのオルゴールの音を殺すことなく、平坦な旋律に抑揚をつけるアクセントとなっている。
サビには、スキャットによるコーラスが入る。
以下は歌詞。
いつからだろうね その扉を開けなくなったのは
部屋でごろりと横になり 見上げた天井が知らない場所みたい
思い切り胸をそらして 逆さまになった部屋で見つけた扉
そっとノブに触れてみたら 懐かしいキミの声が聞こえたよ
キミと一緒なら見つけられるよね
扉の向こうにある幻想の欠片たち
空に海に漂うBlue allegory
青く澄んだ欠片たち
山に森に佇むGleen allegory
緑に芽吹く欠片たち
たくさんの欠片とキミが居れば
きっと明日も強く歩いていけるよ
・『eternal story』
アップテンポなメロディのポップス。
ドラムによる明確なリズムワークに、フィドルの音がメインで乗る。
『Fantasy allegory』とは逆に、クラシックやアコースティック系の楽器を用いたリズミカルな曲。
判りやすい表現をすれば、『Fantasy allegory』が主題歌なら『eternal story』は挿入歌となる。
以下は歌詞。
コバルトブルーの闇の中 白い迷宮の奥深く
眠る私を見つけ出して
ガラスの山を越えて 水晶の門を抜けたら
お伽話が目を覚ます
浅い眠りの中 僕を呼んでる声が聞こえる
朝と夜を越えた向こう 古のサーガの響き
現在と過去の交差点 流れる時の牢獄の中
繋がれた鎖打ち壊して
金色に輝く火の鳥 追いかけて辿り着いたら
●リプレイ本文
●直前会議
「本当に、使うのかい?」
「‥‥低予算、だよね」
「そうなんだが」
答えるフィルゲン・バッハはがっくりと項垂れ、高邑静流(fa0051)が微妙な笑みをみせる。
AFWの会議室では、PV撮影のプランが話し合われていた。気を取り直したフィルゲンは、改めて腕組みをする。
「じゃあ、AFWのスタジオを使って収録で」
「合成のシーンが多いけど、大変かな」
「手が足らなければ、技術スタッフを回すよう上と掛け合ってみるから。ところで、そちらの感想は?」
フィルゲンに問われ、コンテを捲る川沢一二三が顔を上げた。
「そうだね。ぱっと見て、受ける印象が似ているのが気になるかな」
「そう? どの辺かなぁ」
ひょこと、川沢の脇からコンテを覗き込む静流。
「かたや、幻想世界を垣間見る少女。かたや、幻想的な迷宮に迷い込む少年。
主観は一人だし、『招待された一人が幻想の世界と出会う』という点では、コンセプトが同じに思えるんだけど‥‥」
静流を見やり、それから川沢はテーブルを囲んで座る一同に目を向ける。
「それとも『同一のコンセプトを、違う形で見せる』というのが、狙いかな?」
会議室を、沈黙が支配する。
暫しの静寂を破り、フィルゲンが肩を落として嘆息した。
「まぁ、実際に撮って曲を乗せて、最終的な判断はそこで−−となるだろう。で、マリーカ君は‥‥」
「はい」
フィルゲンに名を呼ばれ、マリーカ・フォルケン(fa2457)が顔を上げる。
「君は演技中の演奏を希望しているようだが、映像には先日のレコーディング音源を重ねるので、実際のキーボード演奏やコーラスの収録はない。フルートは、フルート・トラヴェルソのような物を使って、音は収録しない方向で。
同じく、流君のフィドルやその他の楽器類、歌も実際の音は拾えないので、その方向で」
名前の出た嘩京・流(fa1791)はこくりと頷き、了承の意を示した。
●壊れ具合という名の舞台裏〜その1
少し早めにAFWに到着したアイリーン(fa1814)は、『支度部屋』の扉を開けて‥‥手を止めた。
「やまにもりにたたずむ、ぐりーんあれごりー♪」
中から、少々音程の怪しい歌声が聞こえてくる。息を詰めて、そっと中を覗くと。
「みどりにめぶく〜、かーけらたちぃぃぃ〜〜〜ぃぃい?」
彼女に気付いて驚いたのか、歌の最後の音がひっくり返る。
「え〜っと。はっちー、おはよー!」
「あ、おはよう」
屈託のないアイリーンの挨拶につられて、思わず笑顔で応える羽曳野ハツ子(fa1032)。
−−そして、我に返る。
「じゃなくて! いつからそこに‥‥でもなくてっ。えーっと、ナニカ聞こえた? 聞こえないよねーっ」
「そんな、動揺しなくても‥‥フィルゲンさんも、いないし」
「そう、よかっ‥‥って、そうじゃなくて!」
ほっとしたり慌てたりと、ハツ子の様子は激しく挙動不審である。アイリーンは扉を閉めると椅子の一つに腰掛け、頬杖をついて友人を見上げた。
「どうしたの、はっちー。こんな所で一人で唄って」
自分より年下の少女に問われ、彼女は気恥ずかしそうに視線を泳がせる。
「だって‥‥ほら。私以外はみんな音楽関係者だったり、音楽とか得意そうだったりするじゃない? 足、引っ張っちゃいそうで」
「心配?」
「そうね‥‥」
心中を打ち明けて、ハツ子は物憂げに黒髪を指に絡めてみたりする。立ち上がったアイリーンは、悩む相手の背中へ「えいっ」と飛びついた。
「ちょっ‥‥とぉぉぉっ!?」
「元気、出してよ。はっちーなら、大丈夫よ」
壁の鏡越しに、明るい笑顔のアイリーンが励ます。そこへ−−。
「おはようございま‥‥何、してるんですか?」
扉を開けた小塚さえ(fa1715)が、不思議そうに彼女達へ首を傾げる。続いて、ニライ・カナイ(fa1565)も姿を見せ。
「‥‥新手のストレッチか?」
「えぇと、撮影前にリラックスをって思ったの。ほら、はっちーって胸がおっきいから、肩が凝りそうよね〜っ」
「‥‥えぇっ!?」
硬直気味で戸惑うハツ子の肩を揉んで、二人をアイリーンは誤魔化した。
「綺麗ですよね‥‥それでどっちのオルゴールにするかは、決まりました?」
二つのオルゴールを見比べて聞く一二三四(fa0085)に、静流は首を傾けて考え込んでいた。
片方は置き物型。開閉する屋根の部分にぜんまいが仕掛けられ、オルゴールが動けば回転木馬の様に、台座の人形達が一斉に動いて回る。もう片方は、一般的な宝石箱型。蓋の裏には鏡が貼られ、開ければ音と共に中の小さな人形が上下に動くが、その数は一体だけだ。
「映像イメージは回転木馬だけど、演出を考えると箱だね。こう、鏡の中に風景が見える感じで‥‥」
静流の説明に、二三四は提案や質問を加えてカメラワークを纏め上げた。
●『Fantasy allegory』/曲:アイリーン
細い手が伸びて、棚の小さな箱を掴んだ。
ありふれた部屋の、ありふれたベットへ腰を下ろした、ありふれた服装の少女は、つまらなそうな表情で木の箱をくるくるとひっくり返し。
カチカチと、箱の裏の螺子を巻く。
蓋を開けば、流れ始める柔らかい素朴なメロディ。
音楽に合わせてカタカタと動く、小さな人形。
蓋の裏の鏡に映るのは、小さな人形と少女と、少女の後ろに広がる‥‥。
−−いつからだろうね その扉を開けなくなったのは
部屋でごろりと横になり 見上げた天井が知らない場所みたい−−
少女が振り返った先に広がるのは、一面の空と草原。
その狭間で、長槍を手にして羽根付きの兜を深く被り、軽鎧を身に着けた小柄な女性が立つ。後ろで縛った髪が揺れる背から、対の翼がふわりと広がって、力強く羽ばたいて彼女は空へと舞い上がる。
−−思い切り胸をそらして 逆さまになった部屋で見つけた扉
そっとノブに触れてみたら 懐かしいキミの声が聞こえたよ−−
見上げて姿を追えば、翼を打ち、長い髪と長い衣の裾を風に遊ばせ、フルートを吹く風の妖精。
−−キミと一緒なら見つけられるよね 扉の向こうにある幻想の欠片たち−−
視線を戻せば、溢れんばかりの緑と合間に見える水辺。
腰まで水に浸し、緑の長い髪より水の雫を滴らせる沼の妖精の青年が、少女に気付いて手を差し伸べ。
−−空に海に漂うBlue allegory 青く澄んだ欠片たち−−
その光景が砂絵の様にさらりと滲んで消えた後。
次に現れたのは、波の打ち寄せる岩の浜で舞う、濃い青のドレス姿の海の妖精の女。
顔を隠した淡い水色のヴェールの下で微笑み、彼女がくるりとターンを踏めば、広がったフレアが寄せては返す波の様に踊り‥‥。
−−山に森に佇むGleen allegory 緑に芽吹く欠片たち−−
砕ける波頭の如く霞んだ海は、深い森へと移り変わる。
僅かに差し込む木漏れ日の、細い光を見上げれば。
髪を三つ編みにした長い尖った耳の女性が、天を覆う大樹の枝に腰掛けて、リュートを爪弾く。
樹々の葉と同じ緑一色の服を身に着けたエルフは、ちらと少女に目をやってから、静かに緑の天蓋へと顔を上げる。
彼女の視線の先を辿れば、空から緩やかに緑の木の葉や光の粒が少女へと舞い落ちて‥‥。
−−たくさんの欠片とキミが居れば
きっと明日も強く歩いていけるよ−−
光を弾いて踊る少女の人形が、螺子の切れるオルゴールの音に合わせて、ゆっくりと止まる。
鏡が映すのは、穏やかな少女の寝顔。
そして木の蓋は、静かにぱたんと閉じられた。
Cast
少女‥‥アイリーン
ヴァルキリー‥‥小塚さえ
風の妖精‥‥マリーカ・フォルケン
沼の妖精‥‥嘩京・流
海の妖精‥‥ニライ・カナイ
森のエルフ‥‥羽曳野ハツ子
●壊れ具合という名の舞台裏〜その2
「なんだかもう、綺麗で可愛いがたくさんです〜♪」
幻想世界の住人に扮したメンバー達を前に、珍しくさえがはしゃいでいる。
「さえ、大丈夫か?」
ちょっと心配そうに聞く流へ、彼女はほぇんと笑みを向け。
「あ、うるさいですか? でも、自棄でも元気しておかないと‥‥おかないと‥‥もうすぐ中間テストなんですぅぅぅっ!」
訴えるさえの潤む瞳に、怯む流。
「あ‥‥テスト?」
「英語と国語と歴史と生物はまだしも、数学が微分が‥‥うわぁぁぁんっ!!」
きらきらと涙の粒を光らせながら、さえは踵を返し。
「そうか。日本はそろそろ、そんな時期だっけ」
「日本へ帰るのか‥‥さえ殿も大変だな」
逃げる‥‥もとい、走り去る彼女の後姿を流とニライが見送り。
「いいんです。試験勉強は、日本へ帰る飛行機の中でしますもんっ。試験が終わったらまた、欧州に来ますから!」
一度は姿を消した扉の向こうから顔を半分だけ出して主張すると、さえは再び引っ込む。
「ああ、無事に帰ってくるがいい」
微かな笑みと共に、ニライは既に見えない少女へ激励を投げた。
「静流さん。ラストのシーンだけど、唄いながら舞い踊るっていうのは、どうかしら」
マリーカの申し出に、静流は暫し目を瞬かせる。
「‥‥え?」
「だから、躍動感や生命力を象徴とするなら、躍動的な方がいいと思のよね」
「こう‥‥たらりら〜って?」
ひらひらと舞い飛ぶように手を上下させる静流に、マリーカは苦笑した。
「たらりら〜、とは唄わないけど、そんな感じで」
「う〜ん‥‥でもこのシーンは、この曲を唄うさえさん自身の希望でもあるんだよね」
「そうなのね。判ったわ」
笑顔で、彼女は若い脚本家へと頷いた。
●『eternal story』/曲:小塚さえ
透明な闇の中を、擦り切れた靴で走っていく。
鼓動の様な打楽器に急かされて追いかけるのは、弾むような早いテンポで奏でられるフィドルの旋律。
そして、その紡ぎ手。
屈折した壁の向こうで、燕尾服姿の相手はひらりふわりと垂れた兎の耳を揺らしながら、現れては消え‥‥。
−−コバルトブルーの闇の中 白い迷宮の奥深く 眠る私を見つけ出して
ガラスの山を越えて 水晶の門を抜けたら お伽話が目を覚ます−−
ボロボロの帽子を押さえながら、継ぎ接ぎの上着の裾を翻して、少年は走る。
時には深い水の底、時には荒れ狂う嵐の中。
万華鏡の如く変わる水晶の壁の風景に戸惑いながら、また或いは逃げるように。
灰色の短く小さなふさふさの尻尾が、万華鏡の片隅に消えると‥‥。
−−浅い眠りの中 僕を呼んでる声が聞こえる
朝と夜を越えた向こう 古のサーガの響き−−
カラカラと回る糸車が、別の壁に浮かび上がる。
白い緩やかな服装にフードで顔を隠した女性が、白い手で糸車を回す。
少年が足を止めれば、つぃと透明な壁面の向こうを指差して。
示す先を伺う少年が視線を戻すと、その姿はなく。
−−現在と過去の交差点 流れる時の牢獄の中 繋がれた鎖打ち壊して−−
再び聞こえる弦の音色を追いかけて、示された方へと駆け出す少年。
変移する幾つのも景色を駆け抜けて、光溢れる迷宮の出口へと辿り着けば。
−−金色に輝く火の鳥 追いかけて辿り着いたら−−
輝く金色の翼を広げ、柔らかくウェーブした金の髪を揺らして、うつ伏せていた女性が背を反らして半身を起こす。
ちらちらと揺らめく炎を身に纏ったその姿を、少年は陶然と見上げて。
そして、光景はホワイトアウトした。
Cast
少年‥‥小塚さえ
女神‥‥ニライ・カナイ
案内ウサギ‥‥嘩京・流
火の鳥‥‥マリーカ・フォルケン
●仕事の成果
「お疲れ様でした。川沢さんと仕事が出来て、よかったです‥‥最終的な仕事の出来は、まだ判りませんけども」
二三四がぺこりと頭を下げれば、薄い珈琲の紙コップを手にした川沢も軽く頭を下げる。
「そちらこそ、お疲れ様。慣れない場所で、撮影も大変だったろう? そういえば‥‥君は音楽方面の仕事に興味があったり、するのかな?」
投げられた質問の意味を問い返す様に、二三四は小首を傾げる。
「ブックレットやポスターとか‥‥動画の方だと、プロモーションビデオとか。まぁ、もしそういう方面の仕事がしたいと思ったら、一度声をかけてくれるかな」
「あ‥‥はい。判りました、考えます」
戸惑いながらも、頷いて返す二三四。それから川沢は、何か問いたげな少女へ目を向けた。
「で、何か質問でもあるのかな?」
話を振られ、離れて様子を見ていたアイリーンが一瞬たじろぐ。
「え〜っと‥‥日本向けって条件があったけど、収録したこの歌やPVって日本でも公開されたりするの?」
「うん、これから交渉になるけどね。上手くいけば、日本のレーベルから発売になるかもしれないよ」
「え、本当ですか!?」
数列の並ぶ教科書を睨んでいたさえが、アイリーンと顔を見合わせた。
「PVは、両方‥‥という訳にはいかないかもしれないけど、曲の方はカップリングで出せる方向で進めるつもりだよ」
「うわぁ‥‥出るといいですね、アイリーンさん」
「そうね。それから川沢さん、色々勉強になりました。おかげで大きな課題と、小さな自信が持てた、かな。また仕事の機会があったら、ヨロシク♪」
嬉しげに手を振るアイリーンと一礼するさえに、川沢は「こちらこそ、よろしくお願いします」と答えた。
「で、改めて‥‥どうだろう」
全ての『工程』が終了し、完成したフィルムを眺めながらフィルゲンが聞く。
「君はどう思う? 一本のフィルムとして」
川沢に問い返されて、彼は溜め息をついて肩を落とした。
「メリハリもあるし、『Fantasy allegory』の方が生きていると思う」
「そういう事だね‥‥残念だけど」
たった二人の『観客』を前に、ショートフィルムは静かに終わった。