Limelight:for Flowerアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2万円
参加人数 10人
サポート 4人
期間 05/12〜05/14

●本文

●Limelight(ライムライト)
 1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
 2)名声。または、評判。

●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
 隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
 看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
 扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
 地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
 階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。

『それで一応、帰国予定日が決まったんだけど‥‥』
「ん、何日予定だ?」
 肩で受話器を押さえながら、オーナーの佐伯 炎(さえき・えん)は適当な紙にメモを取る。電話の向こうで、音楽プロデューサーの川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は少し間を置き。
『たぶん13日か、14日に日本へ着くと思う』
「ん。土産多いなら、迎えに行ってやるが」
『多くないから、いらないよ』
「いや、遠慮するなって」
 冗談めかして言えば、電話の向こうの声は苦笑いで答える。
『話が終わりなら、切るよ。国際電話は安くないんだから』
「ああ、そうか。すまん‥‥じゃあ、後はメールだな」
『まだ何か、用があるのか?』
「ライブの告知なんだが、そろそろ母の日だろ。んでも、母親へって題目にしちまうと、照れ臭かったり、ナンだりする訳で。だから、歌を花にして送るってシチュエーションにしようかと思ってな」
『母の日か‥‥そういえば、そういう時期だね。じゃあ、後はメールで』
「了解。気をつけてな」
 そして国境を越えた数分の会話を終えると佐伯は受話器を置き、ぷかりと煙草をふかした。

●今回の参加者

 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1533 Syana(20歳・♂・小鳥)
 fa1628 谷渡 初音(31歳・♀・小鳥)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa2521 明星静香(21歳・♀・蝙蝠)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa3608 黒羽 上総(23歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●初日恒例?
「初めまして、よろしくお願い致します」
 深々と、丁寧に頭を下げるSyana(fa1533)の隣で。
「やっほ〜、佐伯さんお久し振り! 御飯下さいっ」
 初っ端から、いろいろと全快の椿(fa2495)が、満面の笑みで主張し。
「その手の冗談は、一週間ほど熟成させてから言え」
 嘆息した佐伯 炎はおもむろに手を伸ばし、びしっと椿の額にデコピンを放つ。
「いや〜! 顔は止めてっ。モデルなんだよ!」
 額を押さえる椿の頭をぐりぐりと撫で回しながら、佐伯はSyanaに苦笑を向けた。
「こちらこそ、よろしくな。この四次元胃袋と組んでると、大変だろ」
「いえ‥‥でも最近、僕が小食なのかな‥‥とか思ったりもしますが」
「そうそう。シャナっちも、もっと食べないと大きくならないよ〜!」
 佐伯から逃れた椿が、髪を整えながら小柄なSyanaへ主張する。
「成長期、たぶん終わってます」
「食べないと判んないって。だから佐伯さん、御飯っ! って、ぎゃーっ、ヘッドロックはちょっとーっ」
「お二人で、プロレスごっこ中ですか?」
 戯れる男二人に、愛瀬りな(fa0244)がくすくすと笑う。
「笑ってないで助けてーっ」
「よう。嬢ちゃんも久し振りだな。最近、いろいろ頑張ってるじゃないか」
「まだまだですよ。目指すは正統派アイドル、ですから!」
 拳を握って『ガッツポォズ』のりなと、助けが得られず脱力する椿。
「佐伯さん‥‥お茶請け、お願いします」
 真面目な表情で、ソファに座る豊城 胡都(fa2778)が佐伯を見上げる。空の湯飲みへ、仁和 環(fa0597)が急須で茶を入れた。
「後、差し入れがくるらしいぞ」
 漸く椿を開放した佐伯の情報に、胡都は表情を綻ばせ。
「やったー! 楽しみだね、シャナっち」
 隣へ避難した椿へ、Syanaは笑って頷く。
「あら。先に来ていたのね、りなさん」
 事務所の扉を開けた谷渡 初音(fa1628)が声をかけ、りなは頭を下げた。
「はい。ライブに参加できて、嬉しくて」
 明るい答えに、初音が微笑む。更に、二人の男が階段を降りてきた。
「向こうがメインのフロアで、こっちが事務所‥‥あ、おはようございます」
「初めまして」
 開かれた扉に気付いて会釈をする明石 丹(fa2837)に、黒羽 上総(fa3608)が続く。
 その時。
「マコ兄ーぃっ!!」
 丹の声に反応し、事務所の奥から弾丸の如く激突しに行く柊ラキア(fa2847)。すっ飛んできたメンバーを、リーダーは何とか笑顔で受け止めた。
「先に来てたんだ、ラキ」
「うん!」
「真っ先に来て、ずっと待ってたぞ」
 首にぶら下がったまま答えるラキアに、佐伯が付け加える。
「だって、マコ兄に一番に、「母の日ありがとう!」って言いたかったから!」
「丹さんって、ラキアさんのお母さんだったの?」
 最後に現れた明星静香(fa2521)が聞き取れた会話に笑い、丹は「産んだ覚えは‥‥」と困った様に首を振る。
「うん。日頃の感謝を込めてだから!」
「でもラキアさん、母の日は明後日ですよ。フライングで減点ですね」
 ニッコリと微笑む胡都に、ラキアがたじろぐ。
「えっ、減点? マコ兄に減点とかされちゃう!?」
「大丈夫、しないから」
 母や兄と忙しい立場の丹は、優しくラキアの黒髪を撫でた。

●花へ捧ぐ歌
 実際にステージを使って、演奏予定の曲を披露する。
 五組十人の演奏が終わると、初日の様子を見にきた四人の「聴衆」が目一杯両手を打ち鳴らした。
「選曲と演出は、大丈夫だな。後は順番だが‥‥静香にギターを頼むなら、間に一組入れないと準備が出来んだろ」
 佐伯に視線を向けられ、初音は「そうね」と考える。
「静香さんに支障のない形で、お願いするわ」
「なら、これでいいか?」
 オーナーが示す出演順に、十人はそれぞれ了解を返した。
「佐伯さん、終わった?」
 ひょこと、厨房からクク・ルドゥが顔を出す。
「ああ。腹ペコ共も限界だろう」
「ぅわ〜いっ!」
「お腹すいた〜!」
 椿と嶺雅が揃って喜んだ。兄の反応に、胡都の目が冷ややかなものに変わる。
「う‥‥ほら、つまみ食いばかりじゃ悪いと思って、お土産にキムチも持ってきたヨ?」
 視線に気付き、プラスチック容器をアピールする嶺雅だが、弟の目つきはますます鋭くなる。
「キムチと共に帰りなさい」
「ひどっ! 佐伯さん、胡都がいぢめるーっ」
 佐伯へ訴える嶺雅。そこへ星野 宇海とククが『差し入れ』を持ってくると、その表情は一変した。
「はい、ご要望の『2Lバケツプリン』ですわよ。仲良く召し上がって下さいね」
「‥‥『僕が』リクエストしたんですからね?」
 2個の鉄バケツ一杯に出来上がったプリンを前に、胡都が笑顔で兄を威嚇している。
「あ、胡都さんにはこれもー。それから、こっちは皆に」
 バケツを置くと、ククが飴細工の花を渡していく。カーネーションらしきピンクの花には多少の『個性』もあるが、ハンドメイドならではの愛嬌といったところか。
「宇海さん、後でさっきの歌の感想を聞かせて下さいね。それから、レッスンも宜しくお願いします」
 器にプリンを取り分けながら一礼するりなへ、宇海が微笑んだ。
「はい。休憩が終わったら、頑張りましょうね」

「炎。音響や照明の設備メンテ、やらせてくれない? 酒一杯で手打つよ」
 休憩後。練習風景を事務所から眺める佐伯へ、月舘 茨が提案を持ちかけた。
「そりゃ、種類と容器が問題だが。ソッチも、明日から仕事だろ」
「動いてないと、どうもね‥‥」
 苦笑する茨へ、彼女の背後に気付いた佐伯が顎をしゃくり−−振り返れば、椿と環が赤い花束を手に立っている。二人へ目配せをして、佐伯は席を外した。
「茨ちゃん、これ‥‥故兄貴代理で」
「俺からも。日頃お母さんお疲れ様」
 差し出される、カーネーションの束。茨はじろりと二人を見やり。
「仕方ないね‥‥もう」
 そして、二つの花束を受け取った。

●『蜜月』〜花音 kanon
「心は真なる花。今宵My Fair Ladyこと母上様に捧げるは歌の花束♪
 御伽噺の始まりだ! Chacun Bon voyage!」
 環のMCに、薄暗いフロアから歓声が飛ぶ。
 白のジーンズと、エメラルドブルーのシャツ。胸に青いカーネーションを飾った胡都のピアノがミディアム・テンポのメロディを弾き。
 ペールライラックのシャツに白のジーンズ。胸に赤いカーネーションを差した環が、アクセントに三味線の音を加え。

『 笑顔の数だけ 涙の数だけ
  気持ちを伝えた数だけの沢山の花 』

 二人のハーモニーから入ったバラードは、環のソロへと繋がる。

「 見守られてきた雛鳥だった自分
  貴方の背中をただ必死に追い掛ける
  風の中で聴いた歌声
  今もまだ耳の奥で繰り返される
  貴方が残した 暖かなメロディ 」

 緩やかな憧憬を彩るように、ピアノの音が跳ね。
 サビでは攻守交替とばかりに胡都がメインを、環がコーラスを唄う。

『 笑顔の数だけ 涙の数だけ
  気持ちを伝えた数だけの沢山の花
  落とさないように 転ばないように
  両手一杯に抱えて進む 貴方へ近付く次へのステップ 』

 環ほどの声量は、今の胡都にはまだないが。
 確かな演奏とハーモニーで情景を歌い上げた二人は、軽く手を挙げて観客へ応えた。

●『Stagione』〜coronation flower
 紺のスーツを纏い、ピアノの前に座った椿を、スポットライトが照らし出した。
 ワイン色のタイを整え、二つ三つ確かめる様に音を零した後、旋律と共に唄い出す。

「 無限の色を散りばめた 冠飾の花
  貴女へ送る心からの coronation flower 」

 ゆったりしたテンポは、ステージが明るくなると同時に切り替わり。
 グレーのスーツにノータイのSyanaが、スタンドの筝(そう)を奏でる。
 曲のイメージは、初めて母の日にプレゼントを送る新人新入社員で。
 二人揃えた胸の白いカーネーションが、ライトの光に輝く。

「 休日出勤帰りに 慌て駆け込んだ花屋
  「閉店間際にスミマセン」と苦笑しながら見渡せば
  お目当ての赤い花は 残念無念の完売
  完敗の僕に微笑むのは 優しい白き花達

  暫く悩んで「ま、いっか」
  白い花を全部抱え帰るよ 」

 歌を一喜一憂を表す様に、音は飛んだり跳ねたり転んだり。
 客席に椿がアピールできない分は、Syanaがスウィングして化繊の絃を弾く。

「 腕いっぱいの白い花 想いで染め捧げよう
  少し照れくさい気持ちはpink
  明るい笑顔ありがとうのyellow

  世界に溢れる色を 集めて染め捧げよう
  茜色の夕陽 蒼の海
  天にかかる七色のrainbow 」

 そして最初のフレーズをもう一度繰り返して、スローダウンし。
 最後の旋律は、筝がゆっくりと引き継ぐ。
 椿はピアノから離れ、Syanaの隣へと移動し。

「 貴女へ送る心からの coronation flower‥‥ 」

 マイクから離れた為に、その声はフロアの後方まで届かなかったが。
 椿が白い花を胸ポケットから抜き取り、口元へ寄せてから宙へ放ると、黄色い声が上がる。
 聴衆へ恭しく一礼する彼の後ろで、Syanaは筝を労わる様に白い花をそっと絃の上に置いた。

●谷渡 初音〜だんでらいおんに伝えて。
 二本のスポットライトが、二つのスツール座った二人の女性を浮かび上がらせた。
 彼女らの服装は、紺の七部袖パーカーにヘンリーネックTシャツと、白マリンパンツ。足元は赤ボーダーのエスパドリューと、お揃いのカジュアルマリン風。
 弦の音色が紡ぐのは、穏やかで軽やかなポップス。
 静香のギターにリズムを取りながら、髪を一つの緩い三つ編みに纏めた初音は優しい母の表情で唄う。

「 草はらで見つけた 一輪の黄色
  大切に見守っていたけれど

  いつの間にか 隣に新しい花
  見回せば たくさんの仲間がいて

  いつしかあなたも ちいさな羽毛(はね)つけて
  新しい命はらんで 私の指 すり抜けていく

  宙(そら)を舞う 真っ白な綿毛が
  耳元で 囁くの
  「ありがとう」って
  私の手の届かないところまで
  飛んでいってしまっても
  強く強く 誰かに踏みつけられても 逞しく 朗らかに 」

 メゾソプラノの伸びやかな声が、フロアを優しく包み。
 幼い子供へ語る様に、愛しく彼女は最後のパートを唄う。

「 あなたらしい その笑顔を 忘れないでね
  どこまで飛んでいっても
  あなたはずっと私の 一輪のたんぽぽだから 」

●愛瀬りな〜Bee
「やっぱり、緊張しますね」
 黄色いコサージュが付いた黒いミニハットの位置を何度も確かめ、そわそわしているりなへ、丹が穏やかに笑う。
「僕らも、応援しているから」
「まず、肩の力を抜くんだな。それから、帽子は曲がってない」
 上総に指摘され、りなは赤くなった。
「楽しく気楽に、ね」
「そうだよ。さぁ、お手をどうぞ」
 黒スーツの環と椿が、手を差し伸べる。
「お二人とも、よろしくお願いします」
 手を取り、柔らかな風合いの黄色いミニワンピの裾を揺らして、彼女はステージへ上がった。

 環の爪弾く柔らかいアコースティックギターの音に、椿がピアノで緩やかな旋律を重ねる。
 身体でリズムを取ってりなが唄うのは、デザイナーの母へ宛てた優しいショート・バラード。

「 あなたの側を飛び回る
  時に fret
  時に Noisily
  それでもあなたは優しく甘い香りを醸し出す
  あたしが飛びつかれたら いつでも休ませてくれる
  その大きな花びらで包んでくれる
  永遠のflower ずっと見守っていてね 」

 精一杯の思いを込めて唄い切った彼女が手を振れば、暖かい声援が返ってきた。

●『White Garden』〜白い庭から
 トリを飾る四人は、衣装を白で揃えていた。
「美味しい差し入れに負けない様に、頑張らないとね!」
 ラフに着たスーツの袖を折るラキアへ、チャコールグレーのシャツの上に着たスーツの襟を整えながら丹が「そうだね」と相槌を打つ。
 今日の丹の担当は、ボーカルのみ。いつもの『重さ』がないと、少し落ち着かない。
「さて‥‥いいライブにしましょうね」
 じっと目を閉じていた静香が表情を和らげ、上総が微笑んだ。
「盛り上がって、最高のものになるようにな」
「えーっと。これ、やりたい。これ!」
 ラキアがバレーのトスをする様に両手を上げ、首のゴーグルを弾ませている。三人は顔を見合わせ、笑んで、八つの掌を高く打ち合わせた。

 上総が静かに指を下ろし。
 澄んだピアノの音が、一つ跳ねた。
 滑るような音色に、ラキアのエレキギターと静香のベースギターが加わる。

「 あたたかな時間 あなたに包まれていた
  数え切れない全ての微笑みと愛へ 」

 丹と静香のツインボーカルを、ラキアと上総がそっと同じフレーズで追い。
 曲はややスピードを上げた。
 遠くの誰かへ伝える様に、明るく唄う声が放たれる。

「 大丈夫 背中だけど見守ってて
  笑っちゃうほど頑張ってる 」

 そして息を飲む様に、ふっつりと音が止まり。

「 白 ふわり 飛ぶよ 」

 二人の声を待って、再び旋律が広がる。
 高音域はラキア、低音域に上総のコーラスが加わって、歌はより優しく強く大きく花開く。

『 忘れないわ 遠く離れても
  ありがとう ありがとう
  きっとあなたに似た花になります 』

 丹は降り注ぐライトを見上げて、メロディを聞き。
 上総のピアノが、ゆっくりと小さく最後のフレーズを奏でて消えた。
 舞い降りた静けさの中から、何度目かの拍手と歓声が沸き起こる。
 ラキアが三人の間を走り回ってハイタッチを交わし。

 −−『花』へ送るライブは、賑やかに幕を引いた。