幻想寓話〜ユニコーンヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/14〜05/19

●本文

●原点回帰?
「マイナーな伝承が続いたから、今回は久し振りにメジャーな題材で行こうと思うんだ」
「ユニコーンか‥‥確かに。ローレライはともかく、カラドリオスもフロイラインもシルキーも、あまりメジャーではないからな‥‥」
 ドイツ人である脚本家のプランに、イギリス人な監督はふむと唸る。
 イギリスにある、小さな映像制作会社アメージング・フィルム・ワークス。そこに所属する監督レオン・ローズと、脚本家フィルゲン・バッハは共に28歳と、まだまだ若手の部類だ。
 欧州に伝わる『幻想世界の住人』達を題材としたファンタジードラマ、『幻想寓話』を撮り始めて早半年。次回で第五話目を数え、更にはイメージソングやそのPVまで完成しようとしている。
 当初から考えれば番組も成長したものだが、制作陣のツートップの方はというと相変わらずだった。
「で、今回はどこへロケに行くのだ」
「フランスの南西部だよ。ケルシー地方にある、サン・シル・ラポピーっていう村」
「フランス南西部‥‥というと」
「却下」
 言いかけるレオンに、秒速でフィルゲンがダメ出しをする。
「なにーっ! まだ何も言っとらんぞっ!」
「言うだろう! フォアグラ料理が食べたいとか、トリュフ料理が食べたいとか」
「‥‥じゃあ、間を取ってヴァン・ノワールで」
「飲酒年齢に達してない役者も、くるかもしれないだろ‥‥というか、どの間を取ったんだーっ!」
 相変わらずのやり取りで、今回もドラマ制作が始まるのであった。

●幻想寓話〜ユニコーン
『額から一本の角が生えた、美しい白い馬の姿をしたユニコーン。
 純潔と神聖な力の象徴である一角の白馬は、ヨーロッパを起源として世界中で広く知られた想像上の動物ではあるが、その伝承の出自自体は不明確である。
 頭がよくて非常に警戒心が強く、人を滅多に寄せ付けない。しかし何故か、純潔の乙女にだけは心を許し、近付かせる。乙女を前にすると、ユニコーンはその膝枕で眠ってしまうという。
 それを利用して捕まえられたユニコーンの角は、魔法に用いる薬として高価で取引された。またユニコーンの角は食事やワインに盛られた毒を発見する効果があり、万病に効く薬になる等とされ、特に貴族達がこぞって購入したという。

 ある静かな村で、「森の奥深くにある泉でユニコーンを見かけた」という噂が広まった。
 その噂を聞きつけた領主の貴族が現れ、「ユニコーンの角を献上した者に、一生遊んで暮らせるだけの金を与える」と告げた事で、村は大騒ぎとなる。
 金が貰えれば、楽に暮らせるだろう。それに、領主を怒らせれば村は大変な事になるだろう。
 不安や思惑と共に「ユニコーンが心を許す」という乙女達は、ユニコーンを捕まえて角を取る為に、森へと足を踏み入れた−−』

「ユニコーン」をテーマとしたファンタジー・ドラマの出演者・撮影スタッフ募集。
 俳優は人種国籍問わず。ユニコーン役、乙女役、ドラマを語る吟遊詩人役などを募集。
 展開によっては、更に配役の追加も可能。ユニコーンやユニコーンを探す乙女は、複数人でも構わない。ユニコーン役はできれば一角獣の獣人が良いが、いない場合は『付け角』でも可。
 ロケ地はフランスのケルシー地方サン・シル・ラポピー。断崖の上に位置する、中世フランスの面影が今も残る村で、「フランスで最も美しい村」の一つでもある。

●今回の参加者

 fa0201 藤川 静十郎(20歳・♂・一角獣)
 fa1565 ニライ・カナイ(22歳・♀・猫)
 fa1791 嘩京・流(20歳・♂・兎)
 fa2225 月.(27歳・♂・鴉)
 fa2766 劉 葵(27歳・♂・獅子)
 fa2767 藍川・紗弓(25歳・♀・狐)
 fa3255 御子神沙耶(16歳・♀・鴉)
 fa3627 グレイス・キャメロン(25歳・♀・竜)

●リプレイ本文

●古き良き村
 見下ろせば、広がる緑を縫うようにロット川が青く横たわっていた。
 川を臨む断崖には、クリーム色の石壁に赤茶色の瓦屋根の家々が身を寄せ合うように固まっている。
「のどかな場所だな」
 小さな城の跡で、眼下の風景を眺める領主クリストフ役の月.(fa2225)が呟いた。
「御伽の村か。言い得て妙だな」
 吹き抜ける風に、領主の妹ブランシュ役ニライ・カナイ(fa1565)が白い髪を押さえた。彼女の風上側に立つ嘩京・流(fa1791)は、吟遊詩人役の役作りをすべく高さ50cm程のケルティック・ハープを爪弾いている。
「すっごく高いです‥‥」
 木の柵に手をかけ、恐る恐る下を覗き込んでいるのは村娘サーヤ役の御子神沙耶(fa3255)。その彼女の背中へ、手が伸び‥‥。
 とんっ。
「ひゃうぅっ!」
 飛び上がった沙耶が振り返れば、肩を叩いた劉 葵(fa2766)が彼女のリアクションに驚いていた。
「クー、驚かせちゃダメだろ」
 コツンと、軽く葵の頭に拳を当てる藍川・紗弓(fa2767)。前作で夫婦役を演じた二人は、今回猟師の兄妹アランとクロエに扮する。
「驚かせるつもりは、なかったんだが。監督が呼んでるのに、気付いてないようだったから‥‥すまんな」
 謝る葵に、慌てて沙耶が首を振る。
「私も、景色が綺麗でぼーっとしてましたし‥‥あ、監督、呼んでるんですよね」
 今は展望台となった城跡。その隣に立つ教会の前で、レオン・ローズが役者達を待っていた。監督が持つ村の地図に、薬師の娘ミレーユ役グレイス・キャメロン(fa3627)が目聡く気付く。
「その地図のマーキングは、なに?」
「これはだな。企業ひみ‥‥」
「勧められたレストランの場所」
「フィルゲン君、バラすでなーいっ!」
 レオンが『密告』したフィルゲン・バッハの首根っこを掴まえ、ぶんぶん揺らした。
「いいわね。飲みに行くなら、付き合うわよ?」
 そんな二人へグレイスがにっこりと微笑み、月も頷く。
「黒いワイン、ヴァン・ノワールか。楽しみだな」
「確か、他にもあったな‥‥少々高い名物が」
 ニライがすぅっと目を細め、レオンは急いで首を横に振った。
「食事を頼めぬか掛け合おうと思っただけで、抜け駆けなぞ‥‥撮影期間中はせん」
「終わったらするのか」
 流に突っ込まれて、反応に窮する監督。腹を探られているレオンに苦笑しながら、フィルゲンは引っ張られた襟元を直した。そんな彼へ、ユニコーン役の藤川 静十郎(fa0201)が会釈をする。
「こちらで役者として演ずるは初めてですが、どうぞ忌憚なき御指導宜しくお願い致します」
「あー、うん。でも難しい日本の言い回しは難しいから、気楽でね」
 理解に時間を要した末の返事に、静十郎は「努めてみます」と真顔で答えた。

●森の深淵へ
 古びた家の間を縫う細い路地の石畳に、弦の音が弾けて落ちる。
 高く低く、妙なるハープの旋律を編み上げるのは、石段の一つに腰掛けたフード姿の一人の男。
「望むならこの『赤き瞳の謡い手』が、耳を傾けるもの全てに謳って聴かせよう」
 フードの下から覗くのは、雪の上に落ちた一滴の血雫の如き、真紅の瞳。
「これより語るは、聖なるユニコーンとその癒しの奇跡を求める人々の物語」
 幕を開くように、端正な指が張り詰められた数十の弦をシャラリと撫で−−。

 細く白い指が伸びて、ぷつんと草の葉を摘み取る。
 摘んだ葉を小脇に抱えた編み籠に入れると、ミレーユは顔を上げ、金の髪を揺らして木々の間へ一瞥を投げた。
「アラン、私は兎や鹿じゃないわよ」
「気付いたか」
 木の陰から、男が姿を現す。弓を持ち、矢筒を背負い、腰には山刀を帯びた相手は、同じ村の猟師だ。後ろには、黒髪の娘−−アランの妹クロエの姿も見える。
「場所を教えてくれるだけでいいから‥‥」
「いくら聞こうと、無駄よ。私が知る訳ないでしょ。ユニコーンの事なんて」
 微笑むクロエの頼みに、ミレーユは首を横に振った。だが、アランは尚も食い下がる。
「冷たい事言うなよ。薬師なら、興味あるだろ? それに、金だ。教えてくれたら、勿論ミレーユにも分け前を‥‥」
「聞こえなかった? 私、忙しいの。下らないことで時間をとらせないでちょうだい」
 ぴしゃりと言われ、アランは舌打ちをして踵を返す。そんな彼とミレーユを困った様に交互に見て、クロエは兄の後を追った。草を分ける音が遠くなり、彼女は一つ溜め息をつく。

 事の発端は、数日前に遡る。
 誰より伝え聞いたかは判らないが、領主クリストフより「彼の森に住むユニコーンの角を献上した者に、褒賞を与える」という触れが出た。
 クリストフはたった一人の妹ブランシュを溺愛していたが、彼女が重い病持ちである事は、薬師のミレーユも聞き及んでいた。妹の身を慮った末の触れなのだろうが、捜索の催促は日に日に厳しくなっていく。
 −−あれさえなければ、いい領主様なんだがね。
 彼女が容態を見る年寄りが、そう呟いた事もあった。
 唇を噛み、編み籠を握る手に力がこもる。
 その時、ガサガサと再び葉擦れの音が聞こえた。
 とっさに草陰へ潜めれば、少女が足早に森の奥へ向かっていく。
「あれは‥‥サーヤ?」
 小さな村の住民の顔は、ほぼ知っている。サーヤは少々のんびりした性格の、夢見がちな年頃の少女だ。急いでいるのか、その姿はすぐに見えなくなる。
 触れが出た後、ユニコーンを狙う者や無防備で森へ入る者が増えた。薬草を踏み荒らされるのも問題なのだが、それ以上の気がかりもある。
「森は決して、安全な場所じゃないのよ‥‥」
 二つ目の溜め息を落とし、ミレーユは家路を辿った。

 萎える足を叱咤し、暗い影が落ちる冷たい路地で石積みの壁にもたれかかる。
 見上げれば、夜空には冴え冴えと輝く星。
 呼吸が整うのを待って、ブランシュは再び歩き始めた。
 ユニコーンが現れたという、森へ向かって。

●白き獣を巡り
「ブラン! ブランシュ!」
 妹の名を呼びながら、彼は森の奥へと分け入っていく。
(「必ず俺が病を治してやると言ったのに‥‥何故待てなかったっ」)
 腹立たしげに行く手を阻む草を払い、クリストフは更に進む。
 −−微かに聞こえる調べを、耳に捉えながら。

「兄さん、笛の音が聞こえる」
 足を止め、クロエは耳に手を当てた。アランも耳をすませてみるが、届くのは風の音と鳥の声のみ。しかし、クロエには聞こえているらしく。
「‥‥こっちみたい」
「ユニコーンに関係ありそうか」
「判らない。でも、こんな森の奥で笛の音が聞こえるって、おかしくない?」
「まぁ、行ってみよう。他の連中に先を越される訳にはいかないからな。俺達が先んじて角を手に入れてしまえば‥‥」
「ホントに、偽物を掴ませるつもり?」
 辺りに誰もいないのを確認しながらも、クロエは声を落とす。アランは口角を上げて哂い、ぺろりと舌で舐めて乾いた唇を湿らせた。
「どうせ、領主殿の妹は死にかけだ。本物の角を使っても、助かるかどうか判らんだろうし、領主殿も本物の角なんぞ見た事ないだろうよ。それなら金だけはしっかり貰って、角はどこぞの『高貴なお方』に売りつけるのが、賢いやり方ってヤツだろ」
 −−そうして二人は、クロエの耳を頼りに森の奥へと足を運ぶ。

 ばさりと、草の中へ編み籠が落ちる。
「笛の音‥‥この方向って、まさか」
 −−ミレーユは、二歩三歩と森の奥へ進み‥‥歩みは駆け足となった。

 淡い青のドレスの裾が草木に引っかかり、裂けるのも気に留めず、ブランシュはふらふらと森を歩く。
 いま彼女の足を動かしているのは、誘う様に聞こえる笛の音。
 −−そして、眼前に広がるは澄んだ青と白。

 彼女は無心で、横笛を奏でていた。
 笛の音が続く限り、この幸せな時間は続いてくれる。
 湖面を渡る風が、静かな湖畔に立つ白い衣と黒い髪を翻した。
 目を伏せ、静かに調べに耳を傾ける美麗な面立ちの青年は、額に螺旋の溝が入った一本の白い角を頂いている。
「どうした、娘。そのまま続けるが良い」
 声をかけられて、サーヤは我に返った。
 最初に出会った時も、そうだ。
 この場所で、夢見ていた存在を思って笛を奏でていると、静かにやってきた『彼』が傍らで彼女の音色を聞いていた。
 気付いて呆然とする彼女に、『彼』はただ、曲を続けるようにと告げ‥‥。
 相手を見上げていたサーヤは、曲の続きを吹く。

 −−だが笛の音に導かれたのは、『彼』だけではなく。

「兄さん、あそこに」
 細い指の示す方向には、一本の角を額から伸ばした白い影。
 身を屈めて、距離を詰めようとするクロエの肩を掴み、アランは彼女を引き止めた。
「ここから狙った方がいい。近づくと、逃げられるかもしれん」
 声を潜める兄に、妹は頷く。
 背中の矢筒より矢を引き抜き、つがえる。
 狙いを定めて弓を引き絞り、放つ瞬間。
「やめてっ!」
 もう一つ白い影が、『獲物』と彼の間に飛び出した。
 女の叫びに、笛の音が止まる。
 サーヤが顔を上げた先で、青白いドレスがふわりと草の中へ崩れ。
「ブランシュ! そこか!?」
 叫びを聞きつけて呼ぶ男の声に、最初に我に返ったのはクロエだった。
「どうしよう‥‥あれ、ブランシュ様‥‥っ」
 人を射て唖然とするアランの腕を掴み、揺さぶる。
「あ‥‥あ、逃げ‥‥」
 弓を取り落とし、慌てて場を離れようとするも。
 ザンッと草を踏む音がして、行く手に立ち塞がるのは二人が狙っていた『獲物』。
「我を狙うとは‥‥貴様等、思い上がるな!」
 風が空を切り、千切れた草の葉が宙に舞う。
 放たれた一閃の蹴りを逃れようとした男は、声もなく腰を抜かしてひっくり返る。
 逆さまになった天地の狭間で、駆けつけたミレーユが彼を睨んでいた。
「貴方達っ!」
「う、うわぁぁーっ!!」
 弓を放り出し、這う這うの体で逃げ出すアラン。
「あぁ、一人で逃げるなんてっ。待って!」
 慄きながらも落とした弓を拾うのを忘れず、クロエが兄の後を追う。
 やれやれと、ミレーユが髪を掻き上げるのも束の間。
「しっかりしろ、ブラン!」
 クリストフの声で、状況に気付く。
 助け起こす兄の腕の中で、矢を受けたブランシュのドレスが赤く染まっていく。サーヤは、目の前の出来事に茫然とするばかりで。
「どいて、手当ての邪魔よ!」
 居合わせた者達の中で、薬師は一番冷静だった。
 ポーチから持ち合わせの薬草を引っ張り出して、ミレーユは止血を試みた。だが元よりの病身に加え、それをおして歩き回ったせいで、矢傷以前に身体が弱り果てている。
「兄様‥‥これで、いい‥‥」
「良くないわよっ! しっかりしなさい、いま助けるから‥‥っ」
 気弱な怪我人を叱咤し、彼女の知恵と持てる術を尽くすが、命を留めるに至らないのは目に見えている。
「ユニコーン! 頼む、妹を救ってくれ!」
「退け」
 近付く彼に手を伸ばすクリストフへ、ユニコーンは冷たく言い放った。
「頼む。どうか‥‥」
 涙を流して懇願を続ける男に、彼は再度口を開く。
「娘を助けたくば、退けと言っている」
 ミレーユが行動を見守っていると、隣へ膝をついたユニコーンは彼女の持つナイフを示した。
「え‥‥これ?」
「我の角に、刃を当てるがいい。命を救われたなら、その礼は命で返そう」

 まるでバターを切り取る様に、硬質の角へ難なくナイフが沈む。
 先端の一欠けらを大事に両手で包み、ミレーユは命尽きかけたブランシュの傷へその角で触れた。
 ユニコーンは、眉一つ動かさずに様子を見守り。
 クリストフとサーヤは固唾を飲む。
 蒼白だったブランシュの顔に血の気がさし、細い呼吸が穏やかになる。
 傷が自然と塞がり、彼女が目を開いた瞬間。
 角の一片は病を吸い込んだように黒化し、ミレーユの手の中で砕けて塵となった。
「クリス兄様‥‥私は‥‥」
「ブランシュ!」
 起き上がる妹を、兄が抱きしめ。
「よかった‥‥よかったです」
 全てを見守っていたサーヤが、安堵の涙を零している。
「ありがとう」
 礼を言うミレーユに、ユニコーンは僅かに表情を緩めた。

「ごめんなさい。私の為に誰かが死ぬなんて考えたら、耐えられなくて‥‥」
「安っぽいわね、お姫様」
 謝罪するブランシュをミレーユが一蹴し、サーヤがうろたえている。
「ミレーユさん、それは言い過ぎですよぉ‥‥」
「こういう時にしか言えない事ってのもあるのよ。いい? 貴女が死んだら、耐えられない人もいるのよ。勝手に放り出していい命なんて、ないんだから。特に貴女は、ユニコーンの好意で助けてもらったんだから、その辺ちゃんと考えなさいよ。もちろん、貴方も!」
「領主様にまで‥‥」
 ビシッと、クリストフを指差して言い渡す薬師を、おろおろと見守るサーヤ。
「ああ‥‥まずは、ブランを射た猟師を免じよう。それから、この森への立ち入りを禁じよう」
 クリストフの言葉に、ミレーユはやれやれと頭を振る。
「森の出入りを禁じられたら薬草取りも、狩りも出来ないじゃない。それなら、もっといい方法があるわよ。ユニコーンは死んだ事にしてブランシュ様が治ったと言えば、もう誰もユニコーンを求めてこの森に入らないわ。貴方を死んだ事にするのは、申し訳ないけれど」
「人の間の生き死になぞ、我には関係ない」
 話の成り行きを見ていたユニコーンが、静かに立ち上がる。
「優しき娘、清けし娘、気高き娘よ。そなた等に我と森の祝福を」
 静かに祝福を告げ、歩み去る後姿が森の奥へ消えるまで、四人はいつまでも見送っていた。

「−−かくして、物語は終結を迎える。神秘を抱く森は、静かに佇むのみ」
 フードの男の姿を映す水面が揺らぎ、ハープの音を残して消え失せた。