Limelight:Joy Noise 2アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 3人
期間 05/25〜05/30

●本文

●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
 隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
 看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
 扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
 地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
 その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。
 フロアには、控えめなボリュームでオールディーズが流れている。

「それでまぁ、ライブやったりとか、身体を動かしに行ったりとか‥‥いろいろとな」
 日本にいない間の近況をオーナーの佐伯 炎(さえき・えん)から聞きつつ、音楽プロデューサーの川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は熱くて濃いブラックコーヒーを口へ運ぶ。
「それで、面白おかしくやっていた、と」
「棘が出てるぞ、棘が」
 げんなりとした表情で、カウンターに両肘をついた佐伯がぼやく。友人を横目でちらと見てから、川沢は注意をカップに戻した。
「まぁ、いいか」
「後で報復されねぇか、心配になってきた」
「された方が安心なら、しておこうか?」
「いや、勘弁」
 上体を起こして肩を竦め、それから佐伯は服のポケットから潰れた煙草の箱を引っ張り出す。
「‥‥で、何の話だっけ?」
 佐伯の言葉に、コーヒーを飲みかけた川沢がむせた。

 そして再び、「騒音だナンだと文句を言われない場所を一週間ほど開放するから、いつでも気軽に、好きに楽器を触りに来い」という内容の告知が、各プロダクションへ届く−−。

●今回の参加者

 fa0085 一二三四(20歳・♀・小鳥)
 fa0186 シド・リンドブルム(18歳・♂・竜)
 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa2778 豊城 胡都(18歳・♂・蝙蝠)
 fa2837 明石 丹(26歳・♂・狼)
 fa2925 陽守 由良(24歳・♂・蝙蝠)

●リプレイ本文

●二度目の演奏開放
「何だか、ここに来んのが凄ぇ久し振りな気がするな」
 約一ヶ月ぶりに足を運んだ店内を眺め、陽守 由良(fa2925)が事務所の扉を開けた。
「由良、この間のライブにこれなかったからね‥‥あ、川沢さん、佐伯さん。おはようございます」
 中にいた二人へ会釈をする明石 丹(fa2837)に、彼も続く。
「よう、きたか」
「おはようございます。久し振りだね」
 入ってきた二人に佐伯 炎は煙草を灰皿で揉み消し、川沢一二三は手にしたカップを軽く掲げた。揃っていた相手に、由良は手にしたビニール袋を突き出す。
「コレ、場所のお礼って訳じゃねーけど‥‥よかったら」
 薄い白色のビニールが透けて珈琲豆のメーカーのロゴが見える袋を、有難く受け取る佐伯。
「気ぃ遣わせて、すまんな」
「いや。川沢さんは珈琲好きだって聞いたけど、佐伯さんはどうだっけ? まさか、インスタント派とか言わねーよな」
「普通にドリップも飲むぞ。あいつの泥珈琲じゃあなく、適度に濃いヤツでな」
 佐伯は川沢を顎をしゃくり、当人といえば素知らぬ顔で珈琲のカップを傾けていた。

「おはようございます。今回も、お世話になります!」
「また来ちゃいました。よろしくお願いしますね」
 ぴょこんとシド・リンドブルム(fa0186)が一礼し、バイオリンケースを手にした豊城 胡都(fa2778)はにっこりと微笑む。現れた二人へ、気にするなという風に佐伯 炎はひらりと手を振った。
「シドはやけに、気合が入ってるな」
「はい。また練習場所を提供して頂けて、嬉しいですから。今回は、独学っぽくなっちゃうかもしれないけど」
「それなら、一緒に練習しようか? ラリーの教え方は‥‥放任だけど」
 二人に続いて事務所へ入った篠田裕貴(fa0441)が、シドを誘う。
「教えてもらえるだけでも、嬉しいけど‥‥俺が混じって、いいんですか?」
 遠慮がちに尋ねるシドに、笑顔で裕貴は頷いた。
「一人で黙々とやるより、誰かとやった方が楽しいからね」
「そうですね。いつもの『隅っこさん』がいませんから‥‥」
 事務所の隅へ目をやる胡都は、微妙に寂しげというか物足りなさそうというか。
「僕も一緒にいいかな。ベース、一人なんだよね。由良はピアノ希望だし」
 丹が聞けば、裕貴もシドも「勿論」と答えた。
「‥‥ピアノ‥‥練習希望の方、多いようですね‥‥」
 鬱々と、DESPAIRER(fa2657)が呟く。不安なのか、俯きがちの蒼白な顔を黒い髪が半分隠し、少々独特な雰囲気を纏っていた。
「初日は三人だが二日目以降は二人だし、交代で練習するから心配するな。人の演奏を聞くのも、耳を肥やすいい機会だからな。飲むか?」
 佐伯が勧めるミルクティーを受け取り、じっとDESPAIRERはカップを凝視する。
「でも‥‥人にお聞かせする程の、レベルでは‥‥ありませんし‥‥ご教授、お願いしますね‥‥」
 彼女は自信のなさそのままに、どよ〜んと暗い空気を漂わせ。
「おはようございま〜す!」
 それを払拭するかの如く、元気に月見里 神楽(fa2122)が姿を見せた。
「あ、佐伯さん。入学祝い、ありがとうございました。それから、川沢さんはこないだお誕生日だったそうで、おめでとうございます」
 笑顔で祝いの言葉を告げる神楽に、「ありがとう」と川沢は礼を返す。
「全員揃った所で、先にバイトの説明をするか。今回は、全員バイト希望だったよな」
 ぱんと手を打つ佐伯に、おずおずと一二三四(fa0085)が口を開いた。
「おいら、こういう仕事は初めてなんです。高校でも、バイトした事なくて‥‥だから一日目は仕事を見学して覚えて、二日目から頑張ってもいいですか?」
「んー‥‥初日もフロアに出るだけ出て、食器を下げたりテーブル拭いたりの片付け類から、少しずつやってみるのもいいかもしれんな。人手がある方が、逆にフォローして貰い易いだろう」
「判りました。よろしくお願いします」
 ポニーテールを揺らし、緊張した面持ちの二三四は頭を下げた。

●賑やかな初日
『Limelight』での練習スペースは、大きく事務所とメインフロアと、楽屋に振り分けられる。
 事務所は主にギター系。メインフロアが、ピアノとドラムといった、容易に動かせない大型楽器類。楽屋はクラシック系の金管楽器や木管楽器、そしてバイオリンの練習場所となっていた。

「指の方は、だいぶ慣れてきたか?」
 禁煙煙草を咥えながら尋ねる佐伯に、「はい」とシドは答えた。
「目標の弾き語りができるレベルには、まだまだ‥‥ですけど」
「そりゃあ、そうだろう。でもま、千里の道も一歩からってな」
 何かを心得たように頷きつつ、オーナーはギターケースから一本のアコースティックギターを取り出す。
「んじゃあ、試しにミディアムゲージ飛ばして、ヘビーゲージいってみるか」
 差し出されたギターを受け取り、一つ二つとシドは弦を弾いてみるが。
「うわ‥‥硬い」
「柔らかい弦って、一週間か二週間程度でへタっちゃうよね」
 サン・ライトの指板を押さえる裕貴の指使いを見ながら、ラリー・タウンゼント。裕貴とシドに2つ3つのコードを確認しただけで、後は左利き用のギターで練習に励んでいる。従弟の所業に「これで教える内に入ってるんだから」と、裕貴は嘆息した。
「そうなんですか‥‥じゃあ、これで練習してみます。自分用のギターとか買いたいんですけど、ギターの種類とか弦の種類とか、いろいろあって難しいですよね」
 慣らすように、シドはコードを幾つか弾いてみる。
「ギターも、いろいろと音と癖があるからな。手始めだからって安いのを買わずに、遠慮なく試し弾きして選んだ方がいいぞ。指の長さとネックの厚さなんか、重要だしな」
「そうだよね。相性の合ったギターは、いい『相棒』になってくれるよ」
 頷きつつ、丹は膝の上のベースをそっと撫でた。
「さっえっきさ〜ん、お腹すいた〜!」
 突然ばーんっと扉が開かれ、現れた椿に佐伯は頭をおさえた。
「出たな、四次元の胃袋を持つ男。アレ風に言えば、ブラックホール・ストマック」
「一生懸命練習すると、お腹すくんだよ。だから、おやつ〜!」
「おやつと言えば、一度カルメラ焼きをお腹いっぱい食べてみたいですね」
 椿の後ろで、うっとりと目を細める胡都。
「それはさすがに、太るぞ」
「そうですね‥‥虫歯も心配ですから、ここは一つ栄養バランス的にオムライスで。あ、今日はおやつが多そうなので、明日でいいですよ」
 胡都はにこにこと笑顔で訴え、佐伯が盛大に溜め息をつく。
「仕方ない、そろそろ休憩するか。なんか、作る方も手ぐすね引いてるヤツがいるようだしな」

「はい、特製シュークリーム。さっきクリームを詰めたばっかりだから、皮はサクサクだよ」
 シュークリームはチョコ掛けと、そうでない物の二種類に皿が分けられていた。ピアノの練習の合間に菓子を用意した月舘 茨は、初見のDESPAIRERにも「嫌いじゃなかったら、遠慮なく食べなよ」と勧める。
「モタモタしていたら、ソコの鳥頭の男に全部食べられちまうからね」
「鳥頭って! それを言ったら、二三四サンも小鳥サンだもん。ね〜っ」
「え? あの‥‥」
 同意を求める椿に、困惑気味の二三四が紅茶と珈琲をテーブルに並べた。ちなみに紅茶は神楽、珈琲は由良が持ってきた物である。
「二三四は別。というか、椿が別格的に鳥頭」
「ひどっ!」
 二人の会話に笑いながら、裕貴は皿を茨へ渡す。
「じゃあ、俺はプレーンで」
「ヒロ、俺のも〜」
「裕貴さんはチョコ系、苦手でしたっけ。でしたら、僕はチョコシュー多めで」
「胡都サン、抜け駆け!?」
「丹さん、お二人の分です。なくならないうちに、どうぞ」
「ありがとう、神楽さん。足らなかったらジンジャークッキーもあるからね、由良」
「いま出すとアッチに取られちまいそうだから、後でもいいか?」
 座ったまま賑やかなやり取りを聞くDESPAIRERのテーブルへ、彼女にピアノの基本を教えている川沢がティーカップを置いた。
「なんだかすっかり、お茶とお菓子が定番になってしまってね‥‥騒々しくて、驚いたろう」
 長い黒髪をふると振って、彼女は爽やかな香り漂うダージリンのファーストフラッシュを口へ運んだ。

●夜のお仕事
 学校がある事も考慮して、夜の9時前になると神楽は仕事を上がる。
「お疲れ様でした。神楽が帰った後、頑張ってね。あの、由良さんも」
 伊達眼鏡を外し、ぺこんと一礼して手を振る神楽に、「心配される程でもねーよ」と灰色の髪を黒く染めた由良が笑って手を振った。小学校高学年か、中学生成り立てくらいの外見の神楽に心配されるのは、やはり問題があると思ったのかもしれない。
「大丈夫ですよ。胡都もいますし、おいらも頑張りますから。神楽さんこそ、帰り道は気をつけて下さい」
 微笑んで二三四が彼女を見送り、その間にも胡都はテーブルの間を抜けて料理を運んでいる。
「はい。また明日もトランペット、教えて下さいね!」
 最後に大きく手を振って、神楽は階段を駆け上がっていった。

 出来上がった料理に注意深く最後のアクセントを加えたシドが、ほっと息を吐き、出来上がった皿をホール係の胡都に渡す。
「つまみ食いの激しい人が、初日だけでよかったというか‥‥今回は全体的に、のんびりした雰囲気ですね」
 手を拭いて次の料理に取り掛かるシドに、ソーセージが踊るフライパンを振りながら丹が頷いた。
「初日は、裕貴さんが椿さんを『餌付け』してくれたからね」
「なんかもう、だいたい予測が付いて慣れてきたよ。前回はちょっと『ひと騒動』あって、それはそれで賑やかだったけど」
 既に何度も『Limelight』でのバイトを重ねている裕貴は手馴れたもので、二皿三皿と手際よく料理を作り上げていく。
 目には目を、つまみ食いにはつまみ食いを‥‥という訳ではないだろうが、彼は初日の『つまみ食い対策』として、サンドイッチを二種用意した。結果から言えばそれによって注文の料理への『被害』は何とか回避したが、多めに用意した『餌』は全て食べられてしまった。
「もうちょっと、お腹が膨らむものにした方がいいのかな。卵物とか麺物とか‥‥」
「頑張ってね。応援してるから」
 次の対策を練る裕貴の呟きに、丹がにこにこと笑う。
「‥‥あの‥‥鍋、終わったら洗います‥‥」
 すっと横合いから、使い終わった鍋をDESPAIRERが持っていく。厨房では長い髪を結べという佐伯の指導により、彼女は後ろで髪を一つに纏めていた。
「ディーさん、手伝いましょうか」
「‥‥大丈夫です‥‥楽しい、ですから‥‥」
 青白い顔に切れ切れの声で返事をする彼女だが、意外と作業の手際はよく。タワシを手にすると、丁寧に鍋の汚れを落とし始めた。

 夜10時を過ぎると客足も落ち着き、翌日に備えてバイトは終了となる。
 次の日の練習について相談しながら、七人は帰路に着いた。

●練習の合間に
「川沢さんも佐伯さんも、改めて年齢を聞くとすごく大人だよね。貫禄と言うか、落ち着いてて凄いよね‥‥たまに間違えて、つい「お父さん」って呼びそうになるけど」
 練習の合間。スティックを握る手を止めて、不意にそんな事を神楽が口にした。
 その呟きに、ジャズのテンポで弾んでいた由良のピアノが音を外す。
「そこ、笑わせんじゃねぇ‥‥」
「あ、ごめんなさいっ」
「まぁ、でも確かにそんな歳だろうがな‥‥川沢さん」
 ふっと息を吐いて、ピアノの傍らに立つ川沢を見上げる由良。当の本人は、慣れたとでも言わんばかりに様相を崩さず。
「そうだね。胡都さんなんかは、見ていると佐伯に懐いてる‥‥というか、餌付けされているようだし」
「あー‥‥なんとなく判る。よくねだってるしな。今回だって、オムライスとか賄いに作ってたっけ」
 納得しながら、由良は旋律を最初から辿り直す。
「佐伯は、庇護対象に弱いからなぁ」
「‥‥ひご?」
 その意味を問うように、首を傾けて神楽が聞き返した。
「うん。単に「未成年だから」とかではなく、身内とかそんな感じかな‥‥一度懐に入った相手は、中々切れないんだよね。まぁ、ここにくる人は大概、『身内』の範疇に入っちゃうだろうけど」
「‥‥私も‥‥ですか?」
 椅子に座ってじっと二人の演奏を聞いていたDESPAIRERが、おもむろに口を挟む。
「多分、ね。一週間近く出入りしてるし」
「でもさ。そんなバラしちまって、後で佐伯さんに文句言われるんじゃね?」
 手を止めて笑う由良に、川沢は茶化すように片眉を上げた。
「たまにはね。驚かされた分、返しておかないと」
「意地悪ぃなぁ‥‥あ、そろそろ交代すっか?」
 音が途切れた機会にと、由良はDESPAIRERに声をかけた。
「由良さんが‥‥宜しければ‥‥」
 場所を空ける由良に会釈して、彼女はピアノの前に座る。
 そしてここ数日の間、川沢より教わった、指運び−−指に鍵盤を覚えさせる為の基本的なメロディを、たどたどしく弾き始めた。
「うん。だいぶ慣れてきたね」
 指を動かすのに集中して余裕のないDESPAIRERは、首を縦に振って答える。
「そういやさ。川沢さんと佐伯さんの演奏って、聞いてみたいんだが」
 ピアノから離れてDESPAIRERを見守る元ミュージシャンに由良が話を振り、神楽が目を輝かせた。
「うん。神楽も聞いてみたいな。だって楽しそうな事、いつも神楽が帰ったあとだもん」
 二人の要望に川沢は困った表情をして、テーブルへ頬杖をつく。
「それなら‥‥また練習の時か、何かの余興にでも考えておくよ。どうせなら、リクエストを受けた方がいいだろう?」
「それ、逃げの策か?」
 窺う由良に笑って誤魔化し、川沢はピアノへ注意を戻した。