SHY−ノイズ・パレードアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/10〜11/16
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●本文
●SHY
すぅ。と、空気が身体に入ってくる。
心から身体を切り離し、意識から思考を切り離し、たた「飛ぶ」だけの為に、全てを切り離す。
そして発する、一つの音−−声−−歌。
だが。
「ダメ! ダメダメダメダメ、そんなんじゃあ、弱い!」
「ちがーう、違うってば。そんな音は欲しくないの!」
練習用のスタジオで、少女が駄々っ子のように両手をぶんぶんと振り回していた。
後ろでひとつに縛った黒髪を振り乱し、足を踏み鳴らす。
ばんっ! と、遂に業を煮やした一人が折り畳みテーブルに手を叩きつけた。
「そうか、判ったよ。そんなに気に入らないんなら、一人で全パート演奏するんだな!」
「いや、困りますよ。私が代わりに謝りますので。この通り、なんとか!」
ぺこぺこと腰を90度曲げて謝る菅原マネージャーに、ベース担当が肩を竦めた。
「そんなモン、知らねーよ。もう一週間もやってるってのに、ちっとも進歩しねぇ」
「そーそー。あの子、自分を何様だと思ってるのよ」
ふーっと、キーボード担当が苛立たしそうに煙草の煙を吹く。それでも頭を下げ続ける中年の男の肩を、慰めるようにギター担当が叩いた。頭を下げていた菅原の顔に仄かに明るい色が浮かぶが、ギター担当は首を横に振る。
「アンタも、早めに見限った方がいいぜ。腰が曲がって、元に戻らなくなる前にな」
ドラム担当は遂に一言も言わず、部屋を出て行く。
それに続いて、バックバンドのメンバーは次々と去って行った。
「また‥‥集め直し、だな」
一人呟いて閉ざされたドアから目を逸らし、菅原はのそりと練習スタジオへ向かう。
防音扉を開けると、そこはもぬけの殻だった。
「‥‥シャイ? おーい、シャイ?」
化粧室にでも行ったのかと暫く待ってみたものの、少女は戻ってこなかった。
●顔のない歌い手
少女はというと、腹が立った勢いでスタジオを飛び出してみたものの、途方に暮れていた。
ガードレールに腰掛け、はふ。とため息をつく。
「‥‥また、やっちゃった」
ぼやいてみても、仕方がない。気に入らないものは、気に入らないのだ。
でもやっぱり、それなりに凹む。
父親の歳くらいのマネージャーを、また困らせる訳だし。
それも、デビューが決まった時からずっと世話になりっぱなしの相手だし。
もう一度、はふー。とため息をつく。
何気に周囲の音へ注意を向ければ、聞き慣れたメロディが聞こえてきた。
視線を上げれば、街頭の大型ビジョンに最近発売したアルバムのCMが流れる。
−−SHY、待望のセカンドアルバム『DAY TRIPPER』発売中。
−−アルバムには、ランダムでシークレットライブのチケットを封入。
歌とイメージ画像と流れるテロップだけで、歌手の顔は映らない。
それも当然だろう。「SHY(シャイ)」は決して顔を出さないミステリアス・シンガーとして、ポップスミュージック界に売り出したのだ。
所属する事務所は小さく、メガヒットには遠いものの、話題性とパワフルな歌声のインパクトで「SHY」のシングルはソコソコには売れた。そしてもっと売るために、事務所はセカンドアルバムにあわせてシークレットライブを企画した。
バックバンドを募集し、練習を重ねる毎日。
しかし、歌一つにしても感性による所が大きい少女には、バンドメンバー達の生演奏は逆効果にしかならなかった。
彼女に言わせてみれば「演奏に縛られて、音が伸びない」のだ。
声は自分でコントロールできても、他者の演奏が自分の呼吸に合わない。
演奏する度に、微妙な音のズレや盛り上がり方が違う。
それが、我慢ならない。
「あ〜ぁ」
今度は声に出して、三度目のため息。
ガードレールから降りると、ポケットのイヤホンを引っ張り出して耳に押し込み、シリコンプレイヤーのスイッチを入れる。
(「いっそ、テクノポップス系の方が良かったんじゃないかなー。でもアレも、なーんか違うしなー」)
そんな事を考えつつ、17歳の少女は耳に流れ込むアルバム録音に使ったオケ音源を聞きながら、いつもジョギングしている西口公園へと向かった。
●三度目の正直?
「シャイは、感受性が強くて音に敏感なのです。だから、ちょっとした不協和音でも大きなノイズに聞こえてしまう」
「それは判ってるよ。判ってるけど、これで二度目じゃあないか‥‥もう、小さいプロダクションのアーティスト位にしか、話を持っていけんぞ」
真摯なマネージャーの訴えに、音楽プロデューサー時田はがしがしと乱暴に自分の髪を掻いた。
「そりゃ、菅ちゃんとは長い付き合いだしさ‥‥俺も何とかしてやりたいんだが」
調整室から見たアーティスト達のトラブルは、時田が百歩譲っても「シャイが悪い」としか見えない。
「何とか、集めて下さい。これが最後だという、覚悟はしてますので」
「集めるけどさ‥‥肝心のシャイが、大丈夫なのか? 恐ろしく人付き合いが悪そうだし、ライブも大人しくできるのかね。あと、一週間しかないんだろう」
「それは‥‥」
「まぁ、何とかソコも噛んで含めて説明した募集はかけてみるがね‥‥間に合うのかなぁ‥‥」
時田は「どっこいしょ」と椅子から立ち上がり、空いた椅子にひっかけた上着のポケットを探り、携帯を引っ張り出して電源を入れる。
「今から、ライブをキャンセルもできないだろうしな」
携帯電話をぷらぷら振って見せて、時田は電話をかけるために調整室を出た。
残された菅原の前には、ガラス越しにがらんどうのスタジオが広がる。
そこでは、バンド用の機材から少し離れて立つ一本のマイクスタンドが、静かに歌い手を待っていた。
●リプレイ本文
●ファーストコンタクト
「なんか、見知った顔が多いな」
練習用のスタジオに集まった顔ぶれを見た陸 琢磨(fa0760)の第一印象が、それだった。
マリアことMIDOH(fa1126)とその妹ローラことLaura(fa0964)は、彼が所長を務める事務所に所属している。そして、同じ事務所に所属する滝月・玲(fa1405)、以前に同じ仕事で顔を合わせた雪音 希愛(fa1687)と椚住要(fa1634)が、彼を見て軽く手を振った。
「ま、その分バンドメンバー間の連携は、やり易いって事だね。勿論、初見の人も遠慮なく」
軽く手を翻すMIDOHの砕けた仕草に、亜真音ひろみ(fa1339)とシグフォード・黒銀(fa0103)が「よろしく」「お手柔らかに」とそれぞれ返す。
程なくして、スタジオの扉が開いた。マネージャーの後から入ってきたのは、比較的小柄で凹凸が少な目の少女。
「‥‥SHYです。よろしくお願いします」
緊張した表情のミステリアス・シンガー「SHY」は、ぺこりと頭を下げた。
「SHYさん、初めまして、キーボード担当の雪音希愛と申します。ノアって呼んで下さいね、よろしくお願いします」
緊迫したムードを最初に打ち崩したのは、希愛の微笑みだった。戸惑ったようにSHYの表情が揺らぎ、「そうする」と短く答える。
「ギター担当のシグフォード。シグでいい」
「同じく、ギター担当のレイ。君が望む音を俺達に教えてほしいな」
「‥‥ベース担当、カナメ」
「あたしはツインボーカルをやる、ひろみだ」
「バックコーラスのローラです。こちらは姉のマリア」
「あたしもバックコーラス担当だよ。ま、頑張ろうね」
「バックダンサーのタクマ。簡単なダンス指導もするぞ」
名前と顔をじっと確認していたSHYだが、最後の琢磨に「私も踊るの?」と後退った。
「希望があればな。コンサートでのダンスも、リクエストがあれば応えるぞ」
「私、ダンスとか判らないから‥‥お任せします‥‥」
「じゃあ、唄うよ」
髪をくくり、ヘッドフォンをして一人でスタジオに立つSHYは、すぅっと息を吸う。
澄んだ声でも洗練された音でもない。だが、荒削りな重い響きから良く伸びる高音まで、一気に駆け上った。残響のような余韻を残し、時にメリハリをつけて振り回す。
「一音の切り替えが、とても早いんですね」
ガラス越しでは見えない位置で、猫の耳を澄ませた希愛が呟く。調整室は歌声のみ聞こえ、BGMは切ってある。
「俺達で話し合った結果は、今までバンド形式で一斉に演奏した為、SHYの欲しい音を掴み取る事が出来なかった‥‥と、踏んだんだが」
琢磨の説明に、音楽プロデューサーの時田は険しい顔をした。
「それで、1パート毎にマンツーマンで調整か。考えは悪くないが、時間がかかり過ぎないか。仕事を受ける時に聞いたと思うが、あの子は中々の曲者だぞ‥‥ま、どうせ人間。顔が出たら上が潰しにくるだろうし、先は考えなくてもいいかもしれんがな」
ふーっと溜息をつき、時田は次の曲を用意した。
●不協和音と協和音
そして、試行錯誤の日々が始まった。
集合してまず、チェックを兼ねて全体の楽曲をSHYを含む全員で合わせる。それから、気に入らない部分を個々のパートに分ける。バックコーラスのMIDOHとLauraは二人で一組として、6パートを全てをSHYが歌いつつ自分と合わない箇所を指摘し、修正していく。SHYが帰った後、全員でその日のやり取りを総合して検討し、録音した歌に合わせて通し練習をする。
しかし相違点を一曲毎に修正するには、思いのほか時間が必要だった。また一度合わせた部分も、日をあければ再度トラブルになったりと、問題も絶えない。初日と二日目は10曲ほどを合わせてみたのだが、三日目は8曲、四日目には6曲まで減らしていた。
修正点を書いたタックが大量に貼り付いた楽譜を、玲はバサリと簡易テーブルに置いた。譜面を見ていると、時間もない行き詰まり感が漂ってくる。
「うーん‥‥たまには、雰囲気を変えてみるか」
「何?」
怪訝そうなSHYに、玲はエレキギターのボディトップをぽんぽんと軽く叩いた。
「どうだ。弾いてみるか」
「指がつる‥‥と、思う」
よくそんな練習をしている人物を思い出し、少女は首を振った。
「じゃあ、アレは?」
玲の指差す先には、今のメンバーでは使っていないドラムセットがあった。暫くそれを睨んだ後、もう一度SHYは髪を左右に揺らす。
「力いっぱいやって突き破ったら、弁償しないと」
「そんな馬鹿力なのか」
くっくと笑うと、SHYはむぅと眉根を寄せてドラムセットを睨んだ。
「なぁ、SHY。音楽ってはな、二人三脚みたいなものだと思うんだよ。自分が頑張っても相方が自分の歩幅に合わせられなかったりテンポが違ったりすればすぐ転んじまう」
休憩時間中、先の玲との会話でシャイが思い出した人物−−シグフォードはSHYに自分の音楽の価値観を話す。彼女は自分の髪を指にくるくると絡めながら、うーんと唸る。
「理屈、判るんだけどさ‥‥歌ってるとその辺、飛んでっちゃうから。ドッカに」
「‥‥飛ばすな」
「えぇー」
「それが、相手に合わせる第一歩だ」
口を尖らせて、SHYはわざとらしく膨れてみせる。それから壁掛けの時計を見て「そろそろ帰る時間だから」と、立ち上がる。帰り支度をしに行く少女を視線で送って、Lauraがメンバーに声をかけた。
「時間がないって言われるのは覚悟していますが、明日一日お休みにしませんか?」
「休みか‥‥必要だろうな」
確かにここ四日間、SHYはスタジオに篭りっぱなしで歌いっぱなしだと、玲がLauraに賛同する。
「気分転換も、大事だってね。あたしとローラでちょっと連れ出してくるからさ。皆でゾロゾロ行くと、それなりに目立つし」
ね。と、顔を見合わせて姉妹は微笑んだ。
「‥‥西口公園?」
五日目の夕方。姉妹二人に連れ出されたSHYは、きょとんとした顔をした。
「SHYさん、よくジョギングでここ通りますよね。姉さんと私、ここでたまにストリートライブをやってるんですよ」
目をぱちくりさせて、SHYは公園と姉妹をきょろきょろと見比べる。彼女の様子に、MIDOHはにやりと笑った。
「その顔、気付いてなかったね」
「うん、知らなかった。いつも、レコーディング用のオケ聴きながら走ってるから‥‥て、ライブ?」
「ストリートで前は一人で活動していましたが、姉が時々来て一緒に歌ってくれるので楽しくなりました。お客さんに楽しんでもらえる曲が二人で演じることにより増えたからです」
「あとは‥‥と、いたいた。行くよ」
SHYを急かして、姉妹は公園の広場を横切る。行く手には、黒服で無愛想な男が黙々とギターの調弦をしていた。
「カナメもいたんだ」
目を丸くしたSHYに、要は黙って頷く。そして「たまたまだがな」と付け足した。
「あたしは結構『SHY』って好きな歌手だよ。だからあんたには、不協に聞こえる部分も受け止めて、それすらを楽しんでもらいたいんだよ。そうすればあんたはもっと上にいける。勿論、あたしらも負けない様に上を目指すけどさ」
びっと親指を立ててみせるMIDOH。そして、気になっていた事を口にした。
「SHYは、ライブやった事ある?」
「ううん、ない。スタジオの外では、絶対に唄っちゃダメだから」
言ってから、SHYは顔を伏せた。未だに進まないライブの練習が、やはり気になってくる。
「‥‥面倒な「仕事」をさせちゃって、ごめん」
いつになく弱気な言葉に、Lauraは元気付けるようにSHYの手を取った。
「何があっても大丈夫な様に、姉さんも私もSHYさんの全曲は覚えました。心配かもしれませんが、大丈夫。アクシデントが起きても、絶対フォローします」
「‥‥ライブは楽しいぞ。躍動感と熱気、歓声。何よりダイレクトに反応が返ってくるからな。で、唄うか?」
調弦を終えた要がギターを軽くストロークすれば、ジャランと弦が震える。
「当日の予行演習にもなるだろう」
「持ち歌だとバレるなら、知ってる曲でいいし」
「無理は言いません‥‥聞くだけでもいいですし」
三人を見回し、思案の末にSHYは小さく「判った」と答えた。姉妹は顔を見合わせてにっこりと笑みを交わし、要はまた黙って頷く。
曲を決め、音を合わせ、即興のハーモニーを唄おうと‥‥声を出そうとして、SHYは軽い咳をした。
「‥‥ごめん」
謝り、そして声を整えるように再び軽く咳払いをして、妙な表情を浮かべる。その様子に心配したLauraが、SHYを覗き込んだ。
「風邪、でしょうか。寒くなってきましたし」
「かな‥‥痛くはないんだけど、変な感じがして」
喉元を押さえるSHYに、びしっとMIDOHは指を突きつけた。その迫力に気圧されて、思わず一歩後退するSHY。MIDOHの目は、割と真剣だった。
「残念だけど‥‥でも、無理はしない事!」
「ん。今日は早めに帰って、暖かくして寝る‥‥本当に、ごめん」
申し訳なさそうに何度も謝るSHYへ、要は首を横に振った。
「また、明日がある」
「‥‥うん」
ちょっと笑うとSHYは「おやすみなさい。今日は有難う」と手を振り、人の波へ走っていった。その後姿を姉妹は手を振って−−要は黙って見送った。
「大丈夫でしょうか。ライブは明後日ですのに」
心配そうに見上げてくる妹の髪を、姉はくしゃくしゃと撫でた。
六日目に、SHYはスタジオへ現れなかった。
そしてメンバー達は、時田から厄介な問題と選択を押し付けられた。
●『顔のない歌い手』
ライブ当日。ひろみは一つ深呼吸して仮面−−マスケラを手に取った。
続いて、MIDOHとLauraもまた、それぞれに別のマスケラをつける。
「‥‥本当にいいのか」
頼んだ側としても本意な結果ではないらしく、時田は本番を前に、彼女達の最後の意思を確認した。そして三人は、三様に答えを返す。
「あたしは構わないよ。あのテープは、嫌になるほど聞いたからね」
「何があってもフォローしますという、約束ですし」
「ひろみ一人だけがマスクってのも、変だしね」
ホールのざわめきを聞きながら、琢磨は半獣化したバンドメンバー達を見る。
「全部で10曲。少しでも、SHYの声をファンに聞かせるんだ」
シグと玲、希愛、要がそれぞれ頷く。そして彼らは、ステージへと向かった。
それぞれが持ち場に着き、音を確認し始めると、ホールに静けさが降りてくる。
希愛のキーボードが最初の一曲のイントロを奏で始めた。ボリュームをミュートにされて音を拾わないマイクを握り、ひろみはステージへ出る。その後を、MIDOHとLauraが続いた。
ライブの前日。高音が出辛いというSHYを、菅原マネージャーは病院へ連れて行った。
診断された結果、彼女は『声帯結節』だと判明された。それは声帯に小さなポリープのようなものが出来る病で高音域が出なくなる、声を出す事自体が辛くなる等の症状が出る。女性の方が発症率は高く、主な原因は喉の酷使−−すなわち『歌い過ぎ』。治療は2ヶ月以上大きな声を出さない事が条件だという。
時田はすぐに、メンバーへ『代役』を立てる案を出した。結果、ツインボーカル予定だったひろみがSHYの代わりにステージへ立ち、SHYの声だけを録音したテープに合わせて口パクをする−−という事となった。
マスケラで顔を隠し、全員が半獣化して「そういう企画のライブだ」と客に思わせる。『誰もSHYを見た事がない』という事が、唯一の幸いだった。
二時間近い辛い時間が終わり、ステージの興奮が冷めやらない客が帰った後で、菅原に連れられたSHYはバックステージへ姿を見せた。
「‥‥ごめんなさい」
ただただ、SHYは深々と頭を下げる。
「病気なら、仕方ないだろ。それよりも早く治して、また一緒にやろう」
そう言って、シグはSHYの髪をぐしゃぐしゃにかき回した。希愛は手を取り、玲が肩を優しく叩く。他の者も彼女を囲み、慰めと励ましの言葉をかける。
無茶な注文をつけた自分と、それでも気にかけてくれる優しい人達と、代役を務めさせてしまった事と、『自分でないSHY』に歓声を上げる人達と。
自分以外は誰も悪くなくて、どこからどう折り合いをつけて、どう謝ればいいかも判らなくて。
17歳の少女は、頭を下げたまま泣きじゃくるばかりだった。
−−芸能ニュースで『SHY引退』の報道が流れたのは、シークレットライブから一週間後の事だった。
同じ頃、携帯電話を持っているメンバーに、時田経由で一通のメールが届いた。
『皆には本当に、本当に、迷惑をかけてゴメンナサイ!(>人<)
あの時菅原さんにお願いして、後ろの方で見てたんだ。みんなのライブは、とってもカッコよかったよ!ミ☆
それから、気がついたんだ。
見てる人達にとって、『SHY』は私でなくてもよかったんだねって。
だから、決めたんだ。喉が治ったら、すっごい時間がかかるかもしれないけど‥‥今度は私の名前で、ちゃんと私が唄う。
だから、コレは時田サンに転送してもらいます。最後までワガママでゴメンナサイ。
私だってバレたらつまんないから、名前もメアドも内緒にします。いつかきっと驚かせるよ。
今度は私が、みんなを追いかけるから!
SHY 』