Limelight:his backアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2.5万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 06/13〜06/15

●本文

●Limelight(ライムライト)
 1)石灰光。ライム(石灰)片を酸水素炎で熱して、強い白色光を生じさせる装置。19世紀後半、欧米の劇場で舞台照明に使われた。
 2)名声。または、評判。

●ライブハウス『Limelight』(ライムライト)
 隠れ家的にひっそりと在る、看板もないライブハウス『Limelight』。
 看板代わりのレトロランプの下にある、両開きの木枠の古い硝子扉。
 扉を開けたエントランスには、下りの階段が一つ。
 地下一階に降りると小さなフロアと事務所の扉、そして地下二階に続く階段がある。
 その階段を降りきった先は、板張りの床にレンガの壁。古い木造のバーカウンター。天井には照明器具などがセットされている。そしてフロア奥、一段高くなった場所にスピーカーやドラムセット、グランドピアノが並んでいた。

「‥‥で、少しばかり早くないかい?」
「ああ、まぁな。ただ、母の日ほどインパクトは強くねぇだろ。父の日の場合」
 熱くて濃いブラックコーヒーを出しながら、オーナーの佐伯 炎(さえき・えん)。
 それを受け取った音楽プロデューサーの川沢一二三(かわさわ・ひふみ)は、漂う香りに目を細める。
「そうだね‥‥それで少し早めにやって、帰り道やライブの翌日に何か考えて見ないかい? ってところか」
「そこまで仰々しくは、言わんがな。第一、親父に改まってどうこうってのは‥‥なぁ」
 言葉を切って煙草に火を点け、佐伯は宙へ紫煙を吐く。
「こう、目の前にどーんと背中がある感じがして、なかなか肩を並べられないもんじゃねぇか?」
「その概念、古くないかい?」
「確かに、頑固親父の存続も危うい時代だからな」
 苦笑いを浮かべながら、佐伯は煙草をふかして紫煙を撒いた。

●今回の参加者

 fa0186 シド・リンドブルム(18歳・♂・竜)
 fa0475 LUCIFEL(21歳・♂・狼)
 fa0597 仁和 環(27歳・♂・蝙蝠)
 fa1514 嶺雅(20歳・♂・蝙蝠)
 fa1533 Syana(20歳・♂・小鳥)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa2847 柊ラキア(25歳・♂・鴉)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3328 壱夜(15歳・♂・猫)
 fa3500 有沢 黎(20歳・♂・狼)

●リプレイ本文

●賑やかな来訪
「初めまして。壱夜のマネージャーをしております、有沢 黎と申します」
 早めに『Limelight』を訪れた有沢 黎(fa3500)は、挨拶と共に名刺を差し出した。
「ご丁寧に、どうも。川沢です」
 黎の名詞を受け取り、代わりに川沢一二三は自分の名刺を黎へ渡す。
 当の壱夜(fa3328)は白い髪から伸びる白い耳をピコピコ動かしつつ、事務所内や下のフロアが窺える窓を興味津々で見回していた。
 佐伯 炎とも名刺交換をした黎が、気もそぞろな彼の様子に気付く。
「壱、挨拶は」
「ア、うん」
 マネージャーの隣へ戻ると、壱夜はぴょこんと軽く会釈をした。
「川沢サン、佐伯サン、ハジメマシテ。おれ壱夜。芸能界、入ったばっかリ。ライブハウスもハジメテ。いろいろ、ヨロシクでス‥‥これでイイ、アル?」
 上目遣いに確認する壱夜に、黎は苦笑し。
「他所は知らんが、ここでは四角四面でなくていいぞ。客を楽しませるのは勿論だが、自分も楽しめってのが第一だからな」
 ひらと手を振る佐伯へ、壱夜は首を傾げた。
「おれ、シカクくないヨ?」
「そういう意味じゃなくて」
 芸能界ばかりでなく日本語にも慣れていない壱夜に、黎は言葉の意味を説明する。
「他のメンバーが来りゃあ、空気も判るだろうしな」
 笑いながら、佐伯は禁煙者用の無煙煙草を引っ張り出した。

 ほどなく、バーンッと事務所の扉が開け放たれ。
「おっはよーごっざいまーすっ!」
 無駄に明るい笑顔と勢いで、椿(fa2495)が入ってきた。
「はいはい、おはよーさん」
「佐伯さん、いきなりツレないっ。美味しいおやつと御飯の為に、一生懸命頑張ろうって気合入れてきたのにーっ」
「怒られますよ、椿さん。今日は、お目付け役がいるんですから」
 こっそりと、Syana(fa1533)が椿へ忠告する。はっと気付いて振り返れば、冬織(fa2993)が威嚇する様にじーっと睨んでいた。
 椿が自分の存在を再認識したところで冬織は視線を外し、オーナー達へ一礼する。
「こちらを訪れるのは、初めてじゃな。佐伯殿に川沢殿、よしなに。いつもコレが、世話になっておる」
 背後で「コレ!?」とかショックを受けたっぽい発言を、彼女はさらりと聞き流し。
「何ぞあったら容赦のう、絞めるが良いぞ。わしもハリセン制裁を下すからの」
 どこからともなく、白いハリセンを取り出した。『使用後』には真紅に染まりそうなのは、気のせいだろう。
「ライバルが消えたネ」
 いつの間にか現れた嶺雅(fa1514)が、きらんと口唇のピアスを光らせて余裕の表情を見せた。
「つまみ食いの、ですか」
 そんな嶺雅に、何となく聞いてみるシド・リンドブルム(fa0186)であったが。
「違うヨ、おねだり」
 返ってきた答えに、聞かなかった方が良かったかもしれないと後悔少々。
「佐伯さん。いつもウチの甘えん坊が御飯ねだってるみたいで、ありがとう! ‥‥ついでに俺にも、ヨロシクね?」
 果敢にもアタックする嶺雅へ、佐伯は腕組みをして嘆息し。
「大元がいないと、『ついで』にならんと思うが」
「‥‥しまったぁっ!? あ、じゃあ時間差の『ついで』で!」
「そんなレベルじゃねぇだろ」
 作戦の穴を突かれつつ食い下がる嶺雅とあしらう佐伯の『攻防戦』を、笑いながら川沢が眺める。
「一度、食生活を窺ってみたいね」
「まったくだ」
 禁煙煙草を咥え、佐伯はガシガシと頭を掻いた。
「それにしても、今回は男率が高いな‥‥」
 溜め息をつくLUCIFEL(fa0475)の居場所は、必然的に限られる。
「だが、この状況下で君と巡り合えたのは、ある種の運命だと思わないか」
『愛の歌い手』は、唯一の女性である冬織へ早速アプローチを仕掛けていた。

 荷物を置いた仁和 環(fa0597)は、いつもと違う感覚を持て余していた。
「う〜ん、何か物足りない。何だろ‥‥」
「指定席の隅っこで、しゃがんでないから?」
 あっけらかんと指摘した柊ラキア(fa2847)に、めりっと環のココロのナニカが凹む。
 そんな彼に気付かず、ラキアは首のゴーグルを弾ませながら、ぶんぶんと川沢や佐伯に手を振り。
「川沢さんと佐伯さん、ライブ頑張るよー! いつもお世話になってるから、恩返し恩返し!」
「ああ。どんなステージになるか、楽しみにしてるよ」
 川沢の返事に、ラキアは満面の笑みで「うん!」と頷いた。

●LUCIFEL〜キオク
 静かに流れてきたオケのキッカケに合わせ、一人ステージに立つLUCIFELは息を吸い込んだ。
 早くも遅くもない、ミドルテンポのリズムを身体で取りながら。
 マイナーコードで連なる音楽へ、張り上げないように声を緩やかに被せる。

「 朝早く 足の音で目が覚めた
  「さぁ、遊びに行くぞ」と微笑んでいる
  俺が貰ったプレゼント 全ては『愛』だったのさ
  「まだ眠いよ」と目を抉じ開ける
  俺が教られたこと 全ては『愛』だったのさ

  あなたの背中を見て 俺はこんなに大きくなった
  溢れる思い出と勇気を与えてくれた
  さよならを言う前に旅立つから 涙も悲しみもなかったよ
  流れ往く刻の中に忘れ物はなかったかい?

  言っておけばよかったね たくさんのありがとう
  もしまた巡り合えたなら その時は一緒に酒を飲もう
  聞いておけばよかったね もっといろんな話を
  もしまた巡り合えたなら その時は土産話を聞かせて

  いつか俺もあなたのように‥‥届け祈りよ刻を越え
  届け祈りよ 」

 物悲しげな調べが消え、ピンスポが消えた後、少し遅れて拍手が響いた。

●『tweisamkeit』〜Dear Dad
 静かな空気を一転させるように、後ろで控えていたラキアと環がエレキギターとベースをかき鳴らす。
「コンバンワ、新人の壱夜だヨ。おーえんヨロシク!」
 白い猫の尻尾を揺らし、勢いよく壱夜がステージへ飛び出し。
 キャスケットで狼の耳を隠した黎が、焦げ茶の尻尾に注意を払いながら続く。
「今日はアドリバティレイアのラキと、蜜月の環もいっしょだヨ。キーボードは、おれの大事な相棒のアル。それじゃいくよっ。3、2、1、GO!」
 たたみかける様なMCに、環がベースが低音でリズムを刻み。
 それに、ラキアのエレキギターと黎のショルダーキーボードの音が加わる。
 アップテンポなリズムにのって、壱夜は右へ左へとステージの上で駆け回り。

「 風光る緑の丘
  大きな木の下 僕は息子と木洩れ日を見上げる
  ここは、いつか来た場所
  大きな手に引かれて こうして空を見上げていた

  僕の手を離れ楽しそうに駆け回る息子を
  ただ穏やかに見つめる
  あの日の貴方がそうだったように

  身体中に広がる優しい気持ち 溢れる愛
  ねえDad 今ならわかるよ
  言葉はなくとも 大きな愛に見守られていたこと

  限りなく降り注ぐこの光のように
  貴方が僕に与えてくれたように
  貴方のように

  僕は大切に 幸せを築いていこう 」

 唄い終えると壱夜は助っ人の二人に飛びついて回り、黎の頬にはキスをして。
 無邪気な『仔猫』は大はしゃぎでステージを降り、黎は安堵した表情で彼の後を追った。

●『Stagione』〜Cielo
 ライトの中で、短いキーボードのメロディを奏で。

「 天の高さに焦がれて 両手を高く差し伸べた 」

 白いシャツを着て、ブルージーンズを履いた椿が、キーボードごしに遠くへ放る様に唄い。

「 いつの日か届くだろうか 肩車ごしに見上げた あの日の天に 」

 カジュアルな水色のワンピースを着た冬織が、ゆったりとライトを仰ぎ。

『 無邪気に笑い 貴方と見上げた蒼い煌きに 』

 二人のハーモニーが消えると、Tシャツにブルージーンズという椿同様にラフな衣装のSyanaが、スツールに座って琵琶の弦を弾く。
 静かな出だしから一転して、電子音と弦の奏でる曲はアップテンポとなり。
 サビから始まったデュエットは、次に冬織から言葉を切り出し、椿がそれを受ける。

「 風の香 緑の囁き 忙しい日々に追われ
  いつからだろう 気付かない自分に切なくなる夜 」
「 大きな夢 無限の未来 信じていたあの頃
  些細な言葉が幸せくれた万華鏡の刻 」

 音の移行はそのままに、曲調はメジャーからマイナーへ。

「 小さな嘘 いくつかの迷い 立ち止まりそうになる
  傷ついて そして傷つける事さえ知らず慣れていた 」
「 浅い笑い 深い溜息 「なんとなく」が増えていく
  輝いてた胸の宝物も今はセピア色 」

 キーボードも音を潜め、アコースティックな風合いとなる。

「 優しい茜色に染まった『貴方と手を繋ぎ急ぐ家路』 」
「 振り返れば随分背の違う『影法師に笑いながら』 」
『 そんな想い出の頁めくりながら まだ頑張ると誓う 』

 声を揃え、そして二人は最初のサビを今度は力強く繰り返し。

『 いつの日か 届くはず 』

 最後の1フレーズは、高らかに歌い上げて。
 ゆっくりと光が落ちる中、拍手と歓声に三人は頭を下げた。

●『悪我Kids』〜わがまま−My Motherじゃナイヨ?− & High−hurdle Other−hurdle
「ここでのライブは久し振りだし、張り切ってやるからネ!」
「うん! 悪ノリもカッコイイとこも、魅せちゃおうー!」
 嶺雅とラキアが盛り上がる一方で。
「赤くならずに、唄えるかな‥‥」
 環から借りたマラカスを手に、シドは若干不安げだった。
「こういうのは、恥ずかしがらずに吹っ切っちゃった方が『勝ち』だよ」
 助けになるかどうか不明の助言をする環に、嶺雅がにっこり笑い。
「環くんは最近、別の方にフッ切っちゃってるみたいだケド」
「別の方って‥‥ナニっ!?」
 微妙に思い当たる事が幾つか浮かび、慄く環。
「さて、そろそろ出番だネ」
「嶺雅さん、気になるんだけどーっ」
 環の動揺にも構わず、投げっぱなしのまま嶺雅は楽しげにステージへと向かった。

 ずっちゃんずっちゃんと二拍子なリズムで、黒いタンクトップにジージャンを着て、黒のダメージジーンズのラキアが鍵盤ハーモニカを吹き。
 カットソーにカーゴパンツの環が、ウクレレを弾く。
 半袖のポロシャツとジーパンの普段着で、嶺雅は陽気にタンバリンを打ち鳴らし。
 同じくカジュアルな服装のシドは、遠慮がちにマラカスを振り。
 行進し、ステージで並んだ男四人。今宵限りのユニット名は、その名も『悪我Kids』。
 入場のリズムとノリのまま、コミックソングを唄う。

『 パパだっこ パパおんぶ
  パパ野球 パパサッカー
  パパご飯 パパデザート
  パパお小遣い パパお小遣い 』

 四人は一節ごとを順番に唄い、歌詞に添って飛びついたり、仕草を真似て。
 ひとしきり順番が回ると、一斉に直立不動の姿勢をとる。

「 言うこときくなら 」と、ラキアが演奏を止めて唄い。
「 好きでいるよ 」と、嶺雅がウィンクして唄い。
「 僕もいつかそうなるのかな 」と、シドが恥ずかしそうに唄い。

『 ちょっとイヤだ 』

 最後は四人で唄うというよりも、むしろ一斉に叫んだ。
 そして、嶺雅とシドがタンバリンとマラカスで、客を煽って拍子を取る。
 急かす様に響く手拍子の中でラキアはアコースティックギターを提げ、環はピアノの前に座り。
 勢いよく切り出したメロディのスピードにのって、嶺雅とシドはスタンドマイクへ声をぶつける。

『 昔、大きな手 今、同じ手
  憧れは今も昔も
  超えられないのは今も昔も

  昔はボール 今は言葉
  でもそれもなかなかしない
  怒られた拳は今も覚えてる

  言葉はないけど熱い絆
  この頑固さ 譲り受けたもの
  他にも 僕を作るもの

  きっと似たり寄ったり
  それが絆
  でも僕は
  きっと違うもの見つけてみせるよ 』

 二人のボーカルをメインとして、ラキアと環がコーラスを加え。
 最後は歌も音もスローダウンして、ゆったりと締め括った。

●Who’s that papa?
 Syanaが琵琶を奏で、黎がピアノを弾く。
 シドは前の歌のままマラカスを振り、環は三味線を打つ。
 四人による前奏の中、ラキアがゴーグルを弾ませながら川沢の手を引いて走り、壱夜は佐伯にぶら下がる様にして、ステージに現れた。
 二人が来たのを見計らって、シドが口を開く。
「日頃、お世話になっているお二人へ感謝の気持ちを込めて、俺達から歌を送ります」
 準備完了とばかりに、ラキアがハーモニカを端から端まで一気に吹き鳴らし。
 一番手に、LUCIFELがSHOUTを握る。

「 戸惑い惑う心を後ろからそっと押してくれた
  些細なコトがとても嬉しい‥‥ありがとう 」
「 Lieber Vater.Danke fur das Lieben ich.
  だいすきなおとーさんへありがとう 」

 壱夜が流暢なドイツ語と、たどたどしい日本語で唄い。
 その後に、リズムを取りながら環が続く。

「 ただいまって言いたくなる、そんな場所をありがとう 」

 ラキアはブンブンとハーモニカを振り。

「 強がり 反発 受け止めてくれて ありがとう 」
「 密かに支えてくれる腕 その温かさありがとう‥‥じゃ 」

 歌い手達の間を縫って白い薔薇を集めた純白のドレス姿の冬織が、LUCIFELを伴って慎ましく唄う。
 ダークスーツの嶺雅は、白と黒の対比が華やかなゴシックドレスを纏った椿をエスコートして。

「 いつもおいしいご飯、ありがとうー! 」
「 いつも美味しいご飯、いっぱいありがとう 」

 何故か二人が揃って唄うは、飯の礼。
 最後に椿から佐伯へ、冬織から川沢へと五本づつ束ねた白薔薇を手渡す。
 ありがとうと礼を述べて、川沢は花を受け取り。
「俺は、こんなでっかくて食い意地の張った子供を、持った覚えねぇんだが」
「佐伯さん、ヒドーイっ!」
「ごはんごはん〜!」
 嶺雅と椿は仲良く佐伯へ抗議をし、和やかな笑いの中でステージは終了した。