Song of Wish〜日本SIDEアジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 風華弓弦 |
| 芸能 | 2Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 4.1万円 |
| 参加人数 | 10人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 07/06〜07/11 |
●本文
●二元録音「日本とヨーロッパで、同時収録‥‥？」
「はい、そうです」
資料を持ってきたアイベックスの企画担当者は、愛想よく笑って頷いた。
オムニバス・アルバムの概要に目を通しながら、音楽プロデューサー川沢一二三（かわさわ・ひふみ）がやたら熱くて濃いブラックコーヒーを口へと運ぶ。
「ほら、前に言ってたじゃないですか。ヨーロッパにも、興味深いアーティストがいるって。それなら、日欧同時収録の、二枚組アルバムなんかどうかなって感じで」
「それはいいけど‥‥向こうにもプロデューサーがつくのかい？ 連絡とかは？」
「プロデューサーさんは、サブ的に募ります。連絡はメールでもいいですし、Webカメラを使ってもいいですし。環境は、こちらで整えます」
担当者の言葉を聞きながら資料を読み切った川沢は、最後に少し怪訝な表情を浮かべた。
「それで、時期的に主題は『反戦』や『平和祈願』‥‥になるのかな？ 今からだと急いでも、店頭に並ぶのは8月に入ってからだろう」
「なんですけど。大々的に言っちゃうと堅いですし、『お利口さん』は論評には敬遠されがちになりますので‥‥どうしましょうか」
「どうもこうも、主題もないオムニバス・アルバムは単なる寄せ集めアルバムになるだけじゃあ？」
「ですよね〜」
困り顔な担当者の返答に、彼はしみじみと溜め息をつく。そして、熱いコーヒーを傾けながら、しばし思案を巡らせた。
「それなら‥‥身近で小さな願いから、包括的なものまで含めた形にして、敢えて『反戦』とか『平和祈願』な、大上段の大義名分に拘らなくていいんじゃないかな」
「あ、それなら収録の二日目が七夕ですので、こう、ブックレットに『スタジオで短冊に願い事を書く様子』の写真とかあっても、面白いかもしれません」
若干会話が飛躍して、川沢の表情に疑問符が浮かぶ。
「日本と、ヨーロッパとで？」
「ええ。で、CDの応募券でアーティストが書いたモノを複製した『短冊風しおり』とかにして、抽選でプレゼント‥‥とか」
「相変わらず、商売が上手いね‥‥」
「こういうのはもう、ねぇ。条件反射みたいなモンです」
皮肉めいたニュアンスにも気付かず、にこやかに担当者は笑った。
●Song of Wish〜日本SIDE
それから数日後。
日本での収録が都内の録音スタジオで行われる事に決定し、アーティスト募集の告知が各プロダクションへと渡った。
●リプレイ本文
●都内レコーディングスタジオにてスタジオには、青々とした笹が飾られている。
そしてテーブルの上には、サインペンとカラフルな色の短冊が用意されていた。
「どれにしようかな‥‥」
少し迷ってから、篠田裕貴（fa0441）は青系の短冊を選ぶ。
「これに、願い事を書いていいんですか？」
サインペンを配りながら尋ねるシド・リンドブルム（fa0186）に、川沢一二三が「ええ」と答えた。
「何でも、自由に。CD発売後に、複製してプレゼントするそうだよ」
「つまり、ファンサービスって訳か‥‥なに書こうかな」
筆ペンを片手に、仁和 環（fa0597）が少し考え込む。
「短冊‥‥懐かしいわ。うち、小さい頃欲しい物を書いてました」
くすりと小さく笑って、文月 舵（fa2899）はペンの蓋を外した。
「それって、クリスマス‥‥？」
はてと考え込むベス（fa0877）に、舵は笑って頷く。
「何を書けば、よろしいんでしょう」
賑やかに書き始める周囲のメンバーに、雛姫（fa1744）が割と真剣な顔で悩んでいた。そんな彼女へ、アリエラ（fa3867）はあっけらかんとした笑顔を向ける。
「堅苦しく考えなくて、いいんじゃないかな？ 私は、これで〜」
薄桃の短冊に大きく字を綴り、サインペンに蓋をする。それから、短冊を手にするほかのメンバーを見回した。
「あ。折角だから、今のうちにサインをお願いしようかな。『リバティ』の舵さんとぉ、『蜜月』の仁和さんと胡都さんとぉ‥‥」
用意していたのか、鞄からゴソゴソと色紙を取り出すアリエラ。その表情は、ミュージシャンから一ファンになっている。
「‥‥常に、持ち歩いてるんですか」
出てきた色紙に驚いた風の豊城 胡都（fa2778）へ、アリエラは「そんな事ないよ」と笑顔で否定し。
「一緒にお仕事できるって聞いたから」
そして、色紙を差し出した。
そんなやり取りの一方で。
「俺は‥‥別に、書く願い事はないな」
「うん。私もないわね」
陸 琢磨（fa0760）と当摩 晶（fa2228）は、揃って辞退する。
「無理にとは、言わないよ。あくまでも『サービス』だしね」
特に咎めもせず、川沢は書き上がった短冊に針金を通して笹へと結んだ。
●Track 1：願之夢路：奏者後述
日本サイドの一曲目は、インストルメンタルから始まる。
基本の旋律を、まずは独特の短調めいた編曲にして、三味線と太鼓に手拍子を打ち、イメージするのは沖縄の澄んだ星空。
次に和楽器を主体として、祇園囃子も賑やかな京都の雅やかな空気を。
眠らない街、『不夜城』東京は電子音やドラムを重視した、ジャズ風のアレンジで。
一転した仙台では、素朴な太鼓や笛が響く田舎の祭をイメージしつつも、ベルで透明感のある空気を醸し出す。
最後の舞台は、北海道の雄大な自然をイメージしてアンプラグドの楽器で揃え、ゆったりと纏めた。
（奏者一覧）
舵／沖縄：太鼓・京都：鉦鼓・東京：エレキギター・仙台：太鼓・北海道：バイオリン
雛姫／沖縄：手拍子・京都：和鈴・東京：タンバリン・仙台：ハンドベル・北海道：ハーモニカ
アリエラ／沖縄：ベースギター・東京：エレキギター・仙台：コンサートベル・北海道：ギター
胡都／沖縄：−・京都：横笛・東京：ドラム・仙台：横笛・北海道：フルート
環／沖縄：三味線・京都：琵琶・東京：ベースギター・仙台：三味線・北海道：ピアノ
●Track 2：Wish My Life：蜜月
「で、一発かい？」
「ライブ感を重視するなら、一発かなぁ」
「時間、かかりますか？ 一発だと」
「ソコの三人っ。うら若き乙女の前で、一発一発って連呼しないっ！」
晶がじろりと睨みつけ、環と胡都は顔を見合わせた。
「って言っても、ギョーカイ用語だしな」
「言い訳無用よっ」
つぃと晶はソッポを向き、環と胡都は再び顔を見合わせる。
「まぁ、準備をよろしく。本当は、もう一つ二つ『音』が欲しいところだけど、一発なら仕方ないしね」
苦笑しながら、川沢はスタジオの防音扉へと向かった。
胡都のドラムをキッカケに、環のエレキギターから明るいメロディが滑り出す。
淡白なミディアムテンポに合わせて、ただ一人半獣化した晶の声が抑え目のトーンで加わる。
「 数え切れない宝石を散りばめた夜空
頬杖つきながら見上げて想う
何だか上手くいかないことばかりな気がして
溜息ついてばかりいるけど
簡単に叶う願いだけじゃ 人生ってツマラナイのかも
幼い頃の「一生に一度のお願い」
いったい何度繰り返したんだろう
あの時は本気だったはずの願いなのに
今は笑っちゃう可愛い望み
だけど飾らない願いが きっと私を創ってくれたんだね 」
『 Step by step 』
「 少しずつ 」
『 Day by day 』
「 大人に変わってく 」
『 In my days 』
「 日々の中 」
『 たった一つだけ叶えたい 今の私の願いは何？ 』
環がバックコーラスでもサポートをし、曲の後半はただひたすらに明るく元気よく。
『 根拠レスの自信で不安を隠し 』
「 目の前の（Life） 踏みしめて（Live） 今日という日を歩いて行こう
『 限界の向こうは可能性無限大 』
「 乗越えて（Wall） 時々は（Fall） 傷つくたびもっと強くなれる
今日の星空の果てに待つのは 新しい「今日」だから（Wish） 」
鳴り響くクラッシュシンバルに合わせて、フッと音が弱まり。
「 神様どうぞ 今日も私らしくいられますように 」
最後のフレーズを晶が朗々と唄い切れば、エレキギターの演奏とドラムのリズムが蘇る。
そうして、二人は軽いメロディを締め括った。
●Track 3：願いを歌に：ベス
「ほな、よろしゅうお願いしますね」
「はい。こちらこそっ！」
ピアノの前に座った舵へ、鷹の羽を背に現したベスが勢いよくぴょこんと頭を下げた。
『飛び跳ねると色々振動を拾うから、気をつけて』
マイク越しの川沢の冗談めいた注意に、彼女は元気よく「はいっ！」と答える。
『じゃあ、いつでもどうぞ』
その声を最後に、短い静寂が訪れた。
奏でる舵の優しいピアノの調べに、ベスは目を閉じてゆっくりと唄い出す。
「 『知らないことにすれば』
今までと同じ一日 同じ笑顔が広がる
だけど ごめんなさい
作り笑顔なんてできない 欠けた笑顔をを忘れたくない‥‥
人を責めないで 優しい気持ちを忘れないで
みんなそれぞれ考えてる 認めあうことから始めようよ
そうすれば きっと‥‥
みんな本当に笑えるはず
I wish for you and everyone．．． 」
−−彼女のできる限りの思いを込めて。
少しずつニュアンスを変えて何パターンかを収録した後、OKが出た。
ほっと安堵の息をつくと、ベスは真っ先にサポートしてくれた舵へ、礼を述べる。
「ありがとうございました」
「いいえ。ええ仕事、させてもらいましたから」
微笑む舵に褒められた事に気付き、ベスは恐縮しながら笑顔を返した。
●Track 4：WISH：陸 琢磨
獣化した耳にもフィットするように作られたヘッドフォンを付け、流れてくるアコースティックギターのスローなメロディに意識を集中する。
片方の足に重心をかけ、もう片方の足でリズムを取りながら。
「 欲しかったモノさえ忘れて 只見上げる空
降り注ぐ熱気 肌に突き刺さる日差し
鬱な自分に疲れ果て 何もかも投げ捨てたくなる
そんな自分に呆れ果て
奥歯を噛締めながら 叫びたくなる
見つめ直して BEAT ABOUT
本当の願いを感じたい
想いを胸に BEAT MY WAY
考える前に進もう 掴み取りに行こう
他人にない願いを求めて‥‥
WHAT IS YOUR WISH？ 」
ギターのみの−−あらかじめ録音した彼自身の演奏を聞きながら。
琢磨は、切々としたバラードを唄い上げた。
●Track 5：Course of life：Agastia
「二人でギターの共演も、面白そうだったのに」
深紅の翼を仕舞い、サン・ライトを片手にスタジオから出た裕貴が、少し残念そうに笑う。
調整室で彼の演奏を聞いていたシドは、慌てて左右に首を振った。
「俺の腕、まだまだですから」
自信のなさは、音に現れる。自分が納得出来ないものは、人に聞かせられない。その気持ちは、裕貴にもよく判る。「プロ」であるからこそ‥‥そして彼も、現在進行形で発展途上だ。
「じゃあ、また機会があれば」
そんな裕貴の誘いに、シドは「はい」と返事をし。
「音の準備が出来たから、歌の方をお願いできるかな」
声をかけた川沢へ、二人は揃って頷いた。
曲は、爽やかさを纏ったミディアム・テンポなポップス。
流れてくる裕貴の演奏に、自分の音を外さないよう注意しつつ、まずシドが唄う。
「 願いは行き先示す羅針盤
未開の未来を切り開き 僕らは手探りで旅してく 」
彼のフレーズを受け、裕貴は少し力を抜いて続く。
サビへの助走をつけるように。
「 手に届かないものばかり 追い続けてると言うけれど
人は月への道を開いた 望めば星にも手は届く 」
そして、二人は声を合わせ。
自分と相手の歩調を計りつつ、ハーモニーを作り出す。
『 遠回りだって一つの道
大切なのは諦めないこと
迷い行き詰ったその時は
夜空を見上げて Wish on a star
信じて進めば Will lead us
きっといつかは目指す場所へ 』
ほっと一息つくシドへ、裕貴は笑って親指をビッと立てた。
●Track 6：優しい星の夜に：Muses
軽やな心を映すように、舵のピアノが弾む。
独奏を1フレーズ待ってから、アリエラのアコースティックギターがリズムを刻むように後を追う。
軽く指を組み、リズムにのるように踵で拍子を取りながら、雛姫は軽快な旋律に声をのせた。
「 星降る夜に聞かせてね 」
『 貴方の声を 愛の歌を 』
甘く癖のあるアリエラのコーラスを受け、彼女はにっこりと微笑み。
組んだ指を解いて、透明感のある声で伸びやかに唄う。
「 微笑み合った日から この距離
手繰るたびに気持ちはつのる
声を道しるべに進んでいくよ
暗くても輝く貴方の姿見えるから 」
流れ星のように、あるいは駆け上がる恋心のように。
グリッサンド−−ピアノの音が、低音から高音へと一気に駆け上り。
「 星の河を渡って（渡って） 愛を囁いて（囁いて）
貴方の笑顔を願っているわ
朝をむかえ（むかえ） 夜をすごし（すごし）
一つ二つと約束を重ねていきたい 」
そして、ギターのストロークが消えて。
残ったピアノの音色に、愛らしく甘えるように雛姫は小首を傾げ。
「 星降る夜に聞かせてね 」
『 貴方の夢を 幸せの歌を 』
二人のハーモニーを待って、大らかにピアノが唄う。
最後のフレーズをなぞり、星の煌めきの様な高音を短く散らし。
結果を待つ緊張の中で『OK』の声を聞き、三人は健闘を称えるように微笑みを交わした。
●Track 7：Song of Wish〜Altair
身振りで拍子を合わせ、アリエラのアコースティックギターと環の琵琶という、和洋の楽器が同時に音を奏でた。
二人の演奏に、舵が静かにドラムの鼓動を打ち、胡都のオカリナが素朴な音を響かせる。
和を重視した感の旋律に、琢磨と環がまずメインフレーズを唄う。
『 天の川（セカイ）の先に君を感じて 僕も願いを送るよ
いつか逢えると信じてるから 僕は今日も頑張れるんだ 』
耳に馴染む間奏を聞きながら、シドが自分の音を見失わないように、片耳に手を当ててソロで続く。
「 一夜限りの逢瀬の刻は 愛しい君をこの手に抱ける 」
裕貴は目を伏せ、瞼に浮かぶ相手へと囁くように。
「 願わくばキミの願いが 僕と同じものであることを 」
更にベスと雛姫、晶がバックコーラスとして加わり、もう一度サビのフレーズを繰り返す。
『 天の川の先に君を感じて 僕も願いを送るよ
いつか逢えると信じてるから 僕は今日も頑張れるんだ 』
そして、コーラスと演奏がふっと途切れ。
『 華のような君の笑顔を 思い浮かべて 』
ラストのフレーズは、男性四人が声を揃えて、呼びかける。
鳥の声のようなオカリナが、ゆっくりと語るように一節を吹いて。
最後は奏者が一斉に、ジャラリと四つの音を鳴らして終わる。
曲のイメージは、Altair。即ち、彦星。
もっとも、日本の『彦星』達は引っ込み思案だったのか、メインフレーズはベス、ラストは雛姫のプランだ。
様々な意味で、ヨーロッパの『Vega』とは対照的であった。
●星にかける願い
スタジオに飾られた笹には、色とりどりの短冊が揺れていた。
聴いてくださった方の願いが叶いますように −−豊城 胡都
三味線が世界で愛されますように。皆も興味を持ってくれると嬉しいな −−仁和 環
あなたの傍にいる人が、ずっとずっと一緒に在りますように −−ベス
一人でも多くの人に、音楽から幸せを感じて貰えますように −−シド・リンドブルム
いつか、大切な人と一緒に世界中を旅して廻れますように −−篠田裕貴
沢山の人にアルバムを喜んでもらえますように。
聞いた全ての人が幸せになりますように‥‥ −−雛姫
大切なあなたが笑顔でいられますように。
私も笑って自分の音を奏でていけますように −−文月舵
願いは叶える為にある！ みんな頑張れ〜！ −−アリエラ
収録初日に調整室に飾られた笹は、最終日に外されてアイベックスの担当者へ渡った。
「では、後はよろしくお願いします。ヨーロッパのトラックダウンは、川沢さんがやるんですか？」
「ええ。データが届き次第」
「判りました。では」
担当者が帰った後、川沢はスタジオの窓へと目をやる。
ビルの狭間に、ぽっかりと浮かぶ満月が見えた。
