夏だホラーだ肝試しだ?ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/06〜08/08

●本文

●北半球は、世間一般的に夏です。
「では、ロンドン塔に行くか」
 同居人のそんな『暴言』に、脚本家フィルゲン・バッハはすこぶる嫌そうな顔をした。
「あそこはマズイだろう‥‥いろいろな意味で」
「ふむ‥‥」
 相方からの反論にあって考え込む監督レオン・ローズは、一枚のコピー用紙を手にしている。
 そこには、『サマー・チャリティ・アトラクション』なる文字がデカデカとプリントされている。

『サマー・チャリティ・アトラクション』。
 要は地域交流を目的とした、ちょっとしたチャリティの催し物である。
 手作り屋台や野外「小動物」園、スポークに繋がれたロバに乗るメリーゴーランドなど、仰々しい設備ではなく、手作り感や素朴さを前面に押し出したものだ。
 場所は、近隣の小学校。校庭と講堂を使用してのイベントとなる。
 その催し物で、二人が所属する映像製作会社アメージング・フィルム・ワークスもアトラクションを提供する事となった。
 題目は、『ホラー・ハウス』。お化け屋敷である。
 そうして、レオンとフィルゲンは内容を相談する事となったのだが。

「だが、世間一般と同じような事をやっても、インパクトは薄かろうに」
「いや‥‥薄いか濃いかの問題じゃないって。子供相手なんだから、難解すぎても奇抜すぎても、問題だろう?」
 フィルゲンの言葉に唸って考え込んだレオンだが、やがて何かを思いついたように、ぽむと手を打った。
「ならば、アレだ。我々の『人脈』を使わぬ手はなかろう」
「‥‥いいけど。その代わり、君のポケットマネーから経費を毟り取られるだろうから、よろしく」
「なにーっ!」

 かくして、AFWの『ハコ』は『日本の恐怖』がテーマとなった。

●今回の参加者

 fa0769 凜音(22歳・♀・一角獣)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa1715 小塚さえ(16歳・♀・小鳥)
 fa1814 アイリーン(18歳・♀・ハムスター)
 fa2010 Cardinal(27歳・♂・獅子)
 fa2141 御堂 葵(20歳・♀・狐)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa3728 セシル・ファーレ(15歳・♀・猫)

●リプレイ本文

●只今準備中
 暑い日差しの下、人々が忙しく準備に立ち動いていた。
 ロバを繋ぐスポークが組み上がり、小動物を囲う為の柵が地面に打ち付けられる。屋台スペースには白いテントがピンと張られ、そんな賑やかな準備の傍ら、講堂での作業も進んでいた。
「通路は暗色のカーテンと、簡単な張りぼてで仕切るのはどうでしょう」
 御堂 葵(fa2141)の提案に、小塚さえ(fa1715)もこくんと首を縦に振る。
「お化け屋敷ですから全体は暗いですし、灯りも足元の方に点けるんですよね。それなら、あまり細かいセットじゃなくても大丈夫だと思います」
「なんとなく、文化祭のクラス展示を思い出して懐かしいわね‥‥」
 郷愁に、ふっと目を細めるのはモデルの凜音(fa0769)。そんな彼女の様子に、興味深げなCardinal(fa2010)が尋ねた。
「日本の学校でも、こんな仕掛けを楽しむのか」
「ここまで大掛かりじゃないけどね。教室に暗幕を張って、中をカーテンやダンボールで仕切って道を作って‥‥」
「‥‥下手なNWより、よほど怖い‥‥日本妖怪‥‥。それに加えて‥‥世界の名監督レオン・ローズの、ポケットマネーが‥‥使い放題なのです‥‥。ならば、これはもう‥‥とんでもない‥‥ホラーハウスが、できてしまうのでは‥‥ないでしょうか‥‥」
 どこから手に入れてきたのか、『超ずかい! 日本ようかいずかん』と書かれたミニ辞典を手に、シャノー・アヴェリン(fa1412)がうっとりと語る。
「‥‥きっと‥‥この広大な敷地を、ゴンドラでぐるんぐるん走る‥‥お化け屋敷が‥‥」
「できないできない。第一、そんな財力があろうはずもない」
 速攻で当の本人レオン・ローズが否定した。肝心のシャノーの耳に届いているかどうかは、謎だが。
「でも、気をつけて‥‥下さいね‥‥。こういう類の‥‥モノは‥‥『喚び』ます‥‥から‥‥」
 日に焼けていない青白い顔で、黒髪を重く垂らし、俯きがちにDESPAIRER(fa2657)が怪しげな事を、怪しげな様子でぼそぼそと告げる。もっとも、本人は「怖がらせよう」と狙っている訳ではなく、あらゆる意味で『自然体』なのだが。
「『喚ぶ』‥‥イギリスで、それっぽい場所といえば、やっぱりロンドン塔ですか」
 見上げて質問するさえに、フィルゲン・バッハは「ああ」と頷いた。
「『ロンドン・ダンジョン』も『居る』らしいけど、やっぱりロンドン塔は別格みたいだね‥‥まぁ、ロンドン自体『その手』の話がもの凄く多いんだけど」
「ジェイン・グレイの幽霊も、出たりするんでしたっけ‥‥? もしそうだったら、ちょっぴり会ってみたいかな。怖くないかと聞かれれば、怖いんですけど」
「七日女王か。日本人のさえ君が知っているとは、少々驚きであるな」
 感心するレオンに、さえは照れくさそうに「そうですか?」と聞き返す。
「綺麗で、とても教養のある人だったんですよね」
「うむ。悲運の女性であった」
 腕組みをしてしみじみと答えるレオンに、衣装を抱えたアイリーン(fa1814)が足を止める。
「ところで‥‥レオン監督達は何するの?」
「そういえば。監督さん達は、お化けになったりしないのかしら」
 凜音もまた、疑問を二人に投げ。
「それは、アレだ。我々も日本のモンスターに興味はあれど、諸君らほど造詣が深くない故にな。それに『戻ってこない』のもいて、困る」
 割と真顔なレオンに対して、フィルゲンは困った様な微妙な表情を浮かべ。話の一部始終を聞いていたセシル・ファーレ(fa3728)が、ふと首を傾げた。
「そういえば、なんだかね。最近のレオン監督、影が薄くなっているんじゃないかって‥‥そう感じませんか、アライグマさん?」
「影が薄いとは、ナンだーっ!?」
「誰がアライグマだっ!」
 ほぼ同時に、レオンとフィルゲンが反論した。

●日本のお化け VS 欧州の子供
 陽気な音楽と歓声が、人でごった返す校庭を埋めていた。
「ホントに、本物のロバを繋ぐのね‥‥あのメリーゴーランド」
 窓からその光景を眺めて呟いたアイリーンに倣って、フィルゲンも外を見やる。
「ああ‥‥乗ってみるかい?」
「べ、別に、乗りたくなんてないわよ? 子供じゃないんだし」
 ガラスに張り付いていた自分に気付き、慌ててアイリーンは窓から離れる。が、やっぱり気になるのか、ちらちらと視線を投げ。
「‥‥少し見ない間に、ツンデレ系に転向した?」
「ちょっと、転向ってなによ」
「なんだか、のどかで楽しそうですよ」
 はしゃぎながら、外の様子にセシルもデジカメを向ける。
「大変だな‥‥ロバも」
 ぼそりと呟くCardinalの後ろから、葵がぱんぱんと手を打って『お化け』達を呼んだ。
「ほらほら、仕事にかかりますよーっ」

「日本のモンスターって、どんなの?」
 受付台に齧りつく様にして、10歳前後の少年少女が受付係のシャノーに尋ねる。
「‥‥それは、入ってのお楽しみ‥‥です。‥‥でも、日本の妖怪は賑やかな場所が好きなので‥‥騒ぐといつの間にか、寄ってきますよ‥‥」
 半信半疑で子供達は顔を見合わせるが、その中でも一番年長らしい男の子が「大した事ないだろーっ」と見栄を張ってみせた。
「どーせ、蝋人形とか誰かがハロウィンのゴムマスク被ってるとか、そんなんだぜっ」
「だよなー」
 少年達は一様に同意し、少女達は好奇心とおっかなびっくりな表情が半々で、シャノーはただ表情を崩さず‥‥というか、いつものマイペースさを保っている。
「‥‥気をつけて‥‥いってらっしゃい‥‥」
 シャノーに見送られて、子供達はゲートの黒いカーテンをくぐった。

 冷たい何かが、サッと顔の傍を通り過ぎて、息を呑み。
 べったりと気色の悪い濡れた感触が腕や首筋に当たっては、小さな悲鳴が上がる。
 気のせいだの何だのと言い合いながら、子供達が目が暗闇に慣れない中を歩けば。
 チリンチリンと、ドコからともなく鈴が鳴った。
 ざらざらする壁に手を沿わせ、足元の淡い光を頼りに目を凝らしていると。
「‥‥ばぁっ!」
 曲がり角で、黒髪のおかっぱ頭に赤い着物の少女に扮したセシルが、出会い頭に顔を出した。
「なっ、ナンダヨっ。コスプレ!?」
 黒髪から覗く猫の耳と、ゆらゆら動く尻尾に、子供達は恐怖より「やっぱり仮装だ」という意識の方が勝ったらしい。
「コスプレとか、怖くないとか、言ちゃったら知らないよ〜。この先には、こわ〜いお姉さん達が待ってるんだから」
 緑色の猫の瞳をすぅっと細め、セシルは出てきた角へと身を翻し。
 慌てて年長の少年が後を追う。
 −−チリンと鈴の音が一つ、鳴り。
 子供達が角を曲がると、暗い通路のずっと先にぼんやりと浮かび上がる白い着物姿が一つ。
 顔は凹凸の少ないつるりとした白い仮面で隠され、仮面には赤いラインで目と口が描かれていて。
 灰色の髪と銀狐の尻尾をふわりと揺らすと、狐面を被った葵が誘う様に先を進み。
 見慣れぬ衣装と漂う異質な空気に、それでも子供達は恐る恐る後を続いた。

 再び角を曲がれば、何故かそこだけ上からライトが照らされ、光の下で夏だというのにコートの襟を立てた少女が佇んでいる。
 息を潜めて近寄れば−−といっても進む方向にいる以上、近寄らざるをえないのだが−−微動だにしなかったアイリーンが襟で口元を隠したまま、目だけを動かして少年少女を見下ろし。
「‥‥ねぇ−−」
 そして上体を子供達に向け、覗き込むように傾ければ。
「私、キレイィィ?」
 真っ赤に口唇を彩る紅が、耳元までニタリと裂ける。
「わあぁぁぁぁ〜〜っ!」
「魔女だーっ!」
 叫びつつ、子供達は慌てて来た道を戻りかけて。
 その行く手を、狐面の葵が塞いでいる事に、ちょっとしたパニックに陥った。
 赤いコートを照らしていたライトが、不意に消え、
 アイリーンがいた辺りを、バタバタと急いで駆け抜ける。

 薄闇に浮かぶ破れ障子が、突然バンッと音を立て。
 子供達を掴もうとする様に、何本もの腕が次々と伸びてきた。
 口々に奇声を上げ、手を逃れて走った先は、障子扉の行き止まりで。
 白い紙に、黒い人影がぼぅと浮かび上がった。

 シャーッ、シャーッと単調に繰り返される、何か擦れるような音。
 振り返っても走ってきた通路は真っ暗で、子供達は顔を見合わせた末に、一番年長の少年が肩を怒らせて障子に手をかけた。
 ライトに照らされていた女性−−赤い血がべったりと滲んだ浴衣を纏い、ばさばさの髪を振り乱して、一心不乱に包丁を研ぐ凜音に、子供達は身を寄せ合って暫し硬直する。
 それから、気付かれぬようにそっと壁際を進もうとして、カツンと何かを蹴った。
 カラカラと転がるそれは白い頭蓋骨で、足元に散らばっている他の骨に当たり。
 同時に包丁を研ぐ手が、ぴたりと止まる。
 ゆっくりと少年少女へ向いた凜音は、鈍く光る包丁を手に、血のついた顔でにぃっと哂い。
「きゃあぁぁ〜〜っ!」
 女の子達が悲鳴を上げ、弾かれた様に子供達は一斉に逃げ出す。

 転がる様に逃げ出し、細い通路を抜けて、また僅かに広がったスペースへ出ると。
 −−ガラガラガラガラ‥‥。
 無機質に響き渡る滑車の音に、何事かと周囲を見れば。
 赤く塗られた不思議なモニュメントが立ち並び、子供達へと覆い被さるように木が枝を広げている。
 不気味な雰囲気に戸惑う小さな背中の後ろで、ピシャリ‥‥と、水が跳ねた。
 音に気付いた者達が、怯えながらも背後を振り返る。
 モニュメントや木で気付かなかったが、そこには井戸があり。
 井戸の中から、ぬっと血に塗れた青白い手が伸びた。
 一本、二本と現れた手は、がっしと石積みの井戸の縁を掴み。
 一拍遅れて、黒い頭が這い上がってくる。
「ぅぅぅぅううぅぁぁああぁぁぁあぁぁー‥‥っ!」
 締め上げられた様な低い呻き声に、他の子供も後ろに気付く。
 ガバッと女が顔を上げると、黒髪が蛇の様にうねり
 照らし出された、恐ろしげな形相のDESPAIRERに驚いて、子供達は悲鳴すら上げず、我先にと一目散に駆け出す。
 走って走って、漸く通路の先に見えてきた明るい光にほっとして、出口から飛び出した。

「‥‥怖かった‥‥ですか‥‥?」
 明るい陽光に目が眩む中で、受付のシャノーが頭を下げている。
「なっ、何とも‥‥っ」
 最初に強がった年長者っぽい少年が、シャノーに負け惜しみを言いかけて、口をぽかんと開けた。
「‥‥うばぁー‥‥!」
「うわぁぁーっ!!」
 声を上げ、子供達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出して。
 顔も口も鼻もない「のっぺらぼう」の面を外し、不思議そうにシャノーは小首を傾げて見送る。
「‥‥驚かせ、過ぎたでしょうか‥‥」
 青空の下で、のどかな音楽と子供達の笑い声が聞こえてきた。

●舞台裏での裏話
「なんだか、凄く叫んでましたけど‥‥大丈夫でしょうか?」
 数回の『興行』をこなして休憩時間を向かえると、不安げにさえが外の方向へと目を向ける。
「あれくらい叫んでたら、逆に大丈夫であろう。ホラーは、叫んでいくらであるからな‥‥それにしても、驚かせる方も体力がいるものであるな」
 肩を回しながら答えるレオンに、破れた障子の位置を直しながらCardinalが少し考え込む。
「疲れたなら、交代でもいいが‥‥」
「いや、やはりこういうモノは数があった方が迫力もあるだろう」
 設営手伝いのAFWのスタッフをも巻き込んで、レオンは実に楽しげに『破れ障子から伸びる手』を演じていた。
「そういえば、フィルゲンさんがお水を出せるんですよね。乾いているはずのお所で、水滴がぴしょんって当たったら吃驚しません? あれって、水滴レベルじゃありませんでしたっけ?」
 心配しつつも更に驚かせるプランを思いついたのか、さえはフィルゲンを見上げた。アライグマの獣人には、空気中の水分を集めて真水を作り出す『空生清水』なる力があるのだが。
「いや‥‥アレは『ぴしょん』なんて可愛いモノじゃなく、『じょぼぼー』って感じかな」
 苦笑するフィルゲンによれば、集まる量は計れば5リットルにも及ぶという。使ったなら、それはそれでちょっとした『パニック物の仕掛け』になるだろう。
「‥‥水道代‥‥浮きますね‥‥」
 そんな庶民的な感想を、シャノーが述べ。
「日本の夏の、じめじめした空気にもいいかもしれません」
 くすくすと、楽しげに凛音が笑った。
「ところで‥‥DESPAIRERさん。大丈夫ですか? もし疲れたなら、次の番は休憩していてもいいですよ」」
 じーっと中空を凝視し、また視線を彷徨わせるDESPAIRERを気遣って、葵が声をかける。
「ええ‥‥大丈夫です‥‥。あまり‥‥こちらの方とは、面識がないのですが‥‥」
「‥‥どちらの方ですか?」
 思わずセシルが問いを投げ、微妙な沈黙が降りた。それを割って、Cardinalがコキコキと首を回す。
「気にする事はない。何か、問題が起きる事はないだろう」
「あの、そう言われたら言われたで、気になるんだけど‥‥何か『居る』の? ねぇ?」
 思わず問い返すアイリーンだが、それ以上はCardinalは答えない。慌ててきょろきょろと周りを見回す彼女は、どうやら『恐いものを演じる』事には抵抗はないが、『自分が怖い目に合う』事はダメらしく。
「黙ってないで、教えてよーっ!」
 アイリーンの訴えが、講堂に響いた。

 そして、肝心の『お化け屋敷』の評判だが。
 目新しさも手伝ってか、子供達の驚き様に比例して(?)なかなか好評であったという−−。