Song of Wish〜JP−LIVEアジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 風華弓弦 |
| 芸能 | 3Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 6.6万円 |
| 参加人数 | 10人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 08/09〜08/11 |
●本文
●発売記念ライブ決定の報「発売記念のライブですよ。戦略的には、アレですね。認知度上昇を狙ってってコトで」
言葉を切ったアイベックスの企画担当者は、氷の浮いたアイスコーヒーをずるずるとストローで啜る。
その様子を眺める音楽プロデューサー川沢一二三（かわさわ・ひふみ）は、湯気を立てるコーヒーカップを傾けた。
「それで、またTOMI−TVで？」
一息置いてから切り出した川沢に、担当者は「いいえ」と首を横に振る。
「もちろん、TOMIさんの電波には乗っけてもらいますけどね。それと平行して、ライブの成功度と反響によってはDVD化も検討するってコトで、今回はホールでのライブになります」
「それは‥‥随分と、大掛かりだね」
「ええ。顔ぶれに『アタリ』が出る可能性も、ある訳ですから。日欧同時収録に、ライブも同日開催でハクをつけて‥‥コンサート・セットも奇抜さは狙わず、スタンダードな感じで内容重視にしますよ」
「‥‥なるほど、ね」
勢い込んで語る担当者へ苦笑で相槌を打ち、熱い珈琲を一口飲んだ川沢は、それなりに気にかかっていた事を聞いてみる。
「それで、例の『応募』の方は？」
「発売して間もないですけど、何通か。ああいうのは、締切前の駆け込みが多いですからね」
笑顔で答える相手に、川沢は安堵の息をついた。
●リプレイ本文
●楽屋にて「ぴぇ〜‥‥客席は二千人収容だって。凄いなー」
ホールの案内図を眺めるベス（fa0877）が、富士川・千春（fa0847）へ顔を上げた。
「お客さん、いっぱい来てくれるといいね」
「そうね。満員‥‥でなくても、八割埋まってくれると嬉しいかしら」
「ぴよ？ でもやっぱり、目標はおっきく目指せ満員御礼！ かな？」
「そやけど、どんだけお客さんが多ても、心にうちらの曲が届かんかったら‥‥まだまだやっていう事ですし。うちらもお客さんも皆が楽しめる、ええライブにしましょうね」
微笑んで語る文月 舵（fa2899）に、明るい表情で「そうだね！」と答えるベス。だが雛姫（fa1744）は、舵へ不安げな眼差しを向ける。
「舵様。緊張しないおまじないって、ないですか？」
「うーん‥‥掌に「人」って書いて飲むとかやろか」
困った様に、舵は苦笑いを返した。
「欧州のライブは女性が多めで、日本側は逆なんだって。偶然だろうけど、面白いよね」
ポータブル冷蔵庫の中を確認した篠田裕貴（fa0441）が、静かに扉を閉める。
「確か収録の時は、半々だっけ？」
舵や雛姫から話を聞いていたＴｏｓｉｋｉ（fa2105）が首を傾げ、シド・リンドブルム（fa0186）が頷いた。
「はい。日本側のCDが、『Altair』だからでしょうか‥‥どう思います？」
シドに話を振られた陸 琢磨（fa0760）は、興味なさげに「さぁな」と返す。
そこへ、楽屋の扉が数回ノックされた。
「もうすぐ最終リハを始めるから、準備をお願いできるかな」
「川沢さん、今日はよろしくお願いします」
顔を出した音楽プロデューサーの川沢一二三へ、柔和な表情で一礼するＣａｒｎｏ（fa0681）。彼と川沢は、ボイス・レッスンで一度面識があった。
続いて、Carnoと組む赤川・雷音（fa0701）が、床に届く程に長い髪を揺らして軽く会釈をする。
「よろしく頼みます‥‥司会の方も」
「実はステージ・トークは、得意じゃないんだけどね」
肩を竦め、川沢は楽屋を後にした。
●『願之夢路』、そして『Song of Wish〜Altair』
CDと同じく、ライブはインストルメンタルから始まった。
基本の旋律が流れ、ショルダーキーボードを提げた白いスーツ姿のTosikiが、それをどこかのんびりと懐かしい風合いのコード進行にアレンジする。
伸びやかな和の旋律に、川沢の落ち着いた声が被った。
「夏の夜空の下より、今宵一夜の夢を送ります。
ライブ『Song of Wish』。まずは日本のステージへ舞い降りた十人の綺羅星より送る『Altair』を、お聴き下さい−−」
僅かな静寂の後、バイオリンとアコースティックギターの二重奏から曲は滑り出す。
白のハイネックタンクトップの上に銀布のストールを掛け、星砂を連想させるアースカラーのスラックスを履いた雷音がバイオリンの弓を引けば、ベルトに飾った十字架と、髪のひと房、ふた房に通した薄水色のビーズが、ライトを反射して輝く。
一方、ギターを爪弾く裕貴はワインレッドのタンクトップに、濃い目のベージュのブーツカットパンツと、隣でマイクを握るシド−−紺のタンクトップに、薄めのベージュのブーツカットパンツのセット−−に合わせている。
二種の弦の音に、舵のドラムがリズムを加えた。
彼女の衣装も、白。タンクトップにメッシュカーディガンと、ロールアップパンツとカジュアルに纏めている。
続いてTosikiのショルダーキーボードが入り、本来はオカリナのパートを白いワンピース姿の千春がフルートでなぞった。
『 天の川（セカイ）の先に君を感じて 僕も願いを送るよ
いつか逢えると信じてるから 僕は今日も頑張れるんだ 』
先ずメインフレーズを唄うのは、スーツをラフに着崩した琢磨と、ホワイトのロングベストにスリムタイプな砂色のズボンを合わせたCarno。
パートを唄い終えたCarnoが、次のパートのシドを紹介する様に身振りで示した。ポニーテールに纏めた黒髪を飾る鳥の羽や、大振りなシルバーのアクセサリーが揺れて、銀や羽を留めるビーズが光る。
シドと裕貴は、担当したそれぞれのパートを唄い。
二人のパートを経て、モノトーンが印象的なドレス『カーミラ』を着た千春と、白と灰のドレス『サンドリヨン』のベス、それにふわりとしたスカートの白いワンピースに、白いカーディガンを羽織った雛姫の少女三人が、コーラスで歌に華やかさを添え。
マイクを付けていないものの、Tosikiもフレーズを口ずさむ。
主題で幕を開けたライブは、短いアーティストの紹介を経て、次の演奏へと移った。
●ベス〜『願いを歌に』
「歌に込める想い、少しでもみんなの胸に届きますように‥‥」
ベスのMCを待って、レコーディングと同様に舵のピアノが優しい旋律を奏でる。
SHOUTを両手で握り、半獣化したベスが唄うのは、CDの収録曲『願いを歌に』。
柔らかで繊細なピアノの音に乗せ、切なさと想いを込めて。
自分が出来る精一杯で、ベスは願いを唄い上げた。
●陸 琢磨〜『SECRET PULSE』
スピーカーからオケが流れる中、琢磨は音に合わせて『当て振り』−−パフォーマンスにエレキギターを弾く。
唯一スタンドマイクだけは生きていて、ちゃんと彼の声が客席へと伝わる。
ヴォーカルとしては、まだまだ未成熟な歌声が。
「 明日もキミといられるなら きっと変われると信じられる
やなことばかりじゃないんだと信じて
振り返り僕を見るキミ 其の顔に胸がハジけて
想いが溢れ出す
暗い気持ちを拭って 誰にも目を離さないで
心の声に耳傾けよう SECRET PULSE
僕が何を想うのか 君に何を伝えたいか
声に出してキミに伝えよう SECRET MIND 」
彼が選んだのは、CDに収録された曲とは全くジャンルも異なる曲で。
感情だけが先にたった歌を、琢磨はマイクへとぶつけた。
●富士川 千春〜『真夏のライオン』
「特別なアレンジもないし、曲が曲だから、ゆかなさんの曲を千春さんがカバーしたという印象の方が強くなるだろうけど、いいのかい？」
最終リハで、そんな質問を川沢が彼女へ投げた。
「お客さんを、驚かせたいんです。あと、プレゼント‥‥かな？」
お客さんへのプレゼント−−と千春は考えていたが、実は『逆』だったのかもしれない。
彼女が「西条ゆかなに曲を提供した」と言っても、今はまだ「この人が？」と首を傾げられる程度なのだから。
舵の紡ぐキーボードの電子音がホールに流れると、聴衆の最初の反応は疑問と戸惑いが主で。
「 ふわり舞う麦わらの帽子 届いたら思い出して
歌は風になって流れてゆく 夏にまた会える祈りのように 」
それでも千春は半獣化もせず、伸びやかに唄う。
この曲を歌う自分がここにいるのだと、主張するように。
その彼女の背を押す様に、雷音のアコースティックギターが生弦にも拘らず力強く鳴る。
「 太陽が大好きな向日葵 花はあなたのために歌う
一人じゃ叶わない想いが 眩しいあなたに届くように 」
そして、舵と雷音は演奏を止め。
「 また会える呪文のように
lalala‥‥ 」
三人は頭上で両手を打って聴衆を煽り、マイクを使わずに最後のフレーズを繰り返す。
誰もが一度は聞いた曲なのが、幸いしたのだろう。
聴衆とのコーラスの瞬間だけは、『真夏のライオン』は確かに千春の唄となっていた。
●sagenite〜『Prayer of ripple〜遥かな歌声』
深い海を思わせるディープ・ブルーのライトが、ステージを包んでいる。
電子音のピアノ・ソロが、静かに切り出した。
ショルダーキーボードを弾くTosikiに続いて、雷音のエレキギターが硬質な音を鳴らし。
そこへ、舵のドラムが空気を震わせる。
アップテンポで爽快感のあるリズムにのって、Carnoの歌声が飛び出す。
「 君と巡り会えた運命
重ねていく日々を愛しく思う
失ってからじゃなくても
十分幸せ感じている
君の居ない海は
波の音が大きく響いて聴こえる
光に飛ぶ海鳥も今は静かに眠って
嵐を運んできそうな穏やかな風が吹く
こんな夜は
海に向かって祈りを捧げる歌声
波の合間に聴こえてきそう 」
CDに不参加だったCarnoと雷音のユニット『sagenite』が披露するのは、彼らの新曲。
高音域が多めのメロディを、Carnoは甘く音域の広い声で、祈る様に唄う。
「 遠い場所に離れていても
君の隣で輝き続けるように
微笑み見つめていられるように
想いを育み願おう
進んでいく早さもスタイルも違う君と俺と
新しい明日に泳ぎだす
君と作っていくGlory day 」
終盤で大きく膨らんだ旋律が、ふっと途絶え。
「 大切な時を 」
最後の一節を丁寧にCarnoが唄い、前奏と逆の順番で楽器の音が一つ一つ消えていく、
キーボードの音が消えた後は、拍手と歓声が残った。
●Muses〜『優しい星の夜に』
グランドピアノの前に座る舵が、リズミカルな旋律を弾ませた。
追いかける様に、千春がアコースティックギターの弦を強くストロークして。
マイクを手にした雛姫は、暗い客席へと目を閉じた。
「折ると光るアレって、配布できないんですか？」
ライブの前日。雛姫の問いに、川沢は真剣な表情で頷いた。
「光に目が弱い人もいるし、何より前の席の人がこう‥‥手を挙げて振っていると、後ろの人は邪魔で見えないだろう？」
「あ‥‥そうですね」
片腕を天井へ伸ばす川沢に、今度は雛姫が首を縦に振る。ステージから遠いほど、腕で見えなくなる範囲は広くなる。
「確かに、客席全体が光るのは綺麗だけど、気持ちよくコンサートを楽しんでもらうのが一番だからね」
自分達の演奏で、楽しんでもらう為に。
演奏を聞く雛姫は、明るく女のコらしいポップスを甘えるような声で唄う。
「 星降る夜に聞かせてね 」
ねだる様に、愛らしく小首を傾けて。
『 貴方の声を 愛の歌を 』
雛姫と千春のハーモニーが、ホールを満たした。
観客に向けて、手を伸ばし。その手を、胸元に当てて。
所作を交え、右へ左へステージを歩きながら、雛姫は唄う。
「 星の河を渡って（渡って） 愛を囁いて（囁いて） 」
「 朝をむかえ（むかえ） 夜をすごし（すごし） 」
彼女をフォローするように、千春のコーラスが彩りを添え。
流れるような舵の巧みな演奏が、ステージを更に盛り上げた。
●Agastia〜『Course of life』
ライトを受けて、サン・ライトが黄金色の光を返す。
ステージに立つシドと裕貴は、収録と同じくギター一本で曲を歌う。
裕貴が刻む、爽やかなメロディのミディアム・ポップに、深呼吸したシドが声を放つ。
「 願いは行き先示す羅針盤
未開の未来を切り開き 僕らは手探りで旅してく 」
裕貴は出だしをセーブして、後半は大らかに。
「 手に届かないものばかり 追い続けてると言うけれど
人は月への道を開いた 望めば星にも手は届く 」
そして、ホールに二人の力強いハーモニーが溶けていく。
『 遠回りだって一つの道
大切なのは諦めないこと
迷い行き詰ったその時は
夜空を見上げて Wish on a star
信じて進めば Will lead us
きっといつかは目指す場所へ』
技巧よりも、あるがままの荒削りさをぶつけた二人を、拍手が包み込んだ。
●Tosiki〜『Wish』
最後は、開演と同様にTosikiのインストルメンタルで締め括る。
彼のイメージするところは、「夜空の一番明るい星に、恋人との再会を願う祈りを捧げる少女」。
スピーカーから聞こえてくる、打ち込みで作り出したスローテンポなメロディに合わせて。
Tosikiがショルダーキーボードのキーを押さえれば、彼の声からサンプリングした電子音が唄う。
スウィングするメロディが、ライブの興奮を冷やす様に吹き抜けていった。
●Happy Happening
「お疲れ様でしたー！」
男性メンバーの楽屋から、明るい声が飛ぶ。
「ここで打ち上げ？」
「女性の楽屋より、いいでしょう」
尋ねる千春へ、笑顔でフォローを入れる雛姫。
「千春さんは、こらちへ座って下さいね」
彼女の為に、Carnoが椅子を引き。全員が座るのを待って、裕貴が白いケーキ箱をテーブルに置く。
「千春。誕生日おめでとう」
現れたのは、苺の赤とクリームの白のコントラストが鮮やかなケーキだった。
祝いのメッセージが書かれたプレートに、可愛らしい砂糖細工のコウモリが小首を傾げてぺたんと座っている。そして、19本の細い蝋燭が並ぶ。
「出張、剣山ケーキ！ なんてね」
片目を瞑って笑う裕貴。突然の事に、千春は目を丸くして。
「何だか普通ですね‥‥蝋燭の数」
19本でも十分だが、シドの感覚はすっかり『剣山ケーキ』に慣らされたようだ。
「裕貴さんのケーキ、美味しいんだよ。あたし、写真撮るね！」
デジカメを手にしたベスがはしゃぎ、琢磨がやれやれと頭を横に振る。
そして雷音は、可憐で鮮やかな一本の薔薇を千春へと差し出した。
「おめでとう、富士川」
「わぁ‥‥ありがとうございます！」
花の息吹を瑞々しい姿で封じたブリザード・フラワーを受取り、千春は頬を染める。
「私からは、これを‥‥『真夏のライオン』にちなんで」
遠慮がちに雛姫が渡す向日葵の花束に、今度は千春の視界がじんわりと滲む。
「ありがとう‥‥嬉しいよぅ」
「ほな、ケーキに火を点けましょか。皆でお祝いの歌を唄ぅて、ね」
舵がTosikiへ目配せして、『セレモニー』の用意を始める。
賑やかな中で、Carnoは隣の雷音に小さく囁いた。
「よければ、後でバイオリンを‥‥カッチーニのアヴェマリアが聞きたいです」
「判ったよ」
無愛想な返事にも、Carnoは嬉しそうに笑み。
そして千春の誕生日を祝う歌声が、楽屋に響いた。
