緊急招集〜相方失踪事件ヨーロッパ

種類 ショート
担当 風華弓弦
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/03〜09/06

●本文

●発端は一通のメールから

『 親戚に顔を出したもののヤボ用に捕まって、しばらくそっちへ帰れそうにない。
  もしかすると、次の『幻想寓話』の撮影にも間に合わないかもしれない。
  その時は、一人で頑張ってくれ。 』

 何故か集まった者達は、そんな一通のメールをレオン・ローズから見せられていた。
 差出人は、フィルゲン・バッハ。メールのタイムスタンプは、2日前の深夜である。
「実は、連絡がふっつりと途絶えているのだよ」
 いつになく深刻な表情で、レオンが明かす。
 何事かあったのか、あるいは二人がかりの壮大なネタか‥‥と、半信半疑な雰囲気の中で、彼はぽつぽつと『背景』を語り始めた。

 フィルゲンは、ドイツ人である。
 本人曰くは、『バッハ』の姓が示すように家系の者は音楽関係へと進むケースがほとんどだが、さほど音楽の才がなかったフィルゲンは伝承・伝説・寓話・御伽話の類に興味を持ち、それらを映像化する世界へと足を踏み入れた。
 彼の両親が、一族の中核と疎遠であったのも、その一因だという。
 だが珍しく、フィルゲンは夏の休暇を使って疎遠な本家の長−−大叔父の元へと足を運んだ。
 そして、件のメールを寄越したきり、音信不通となったのであった。

「その『本家』に連絡しても、知らぬ存ぜずの一点張りでな。だが独自に調べた結果、メールの発信場所と相まってフィルゲンがいるであろう、大よその場所が絞れた」
 ドイツの地図を引っ張り出したレオンは、その南西部を示した。
「以前『異聞姫取物語』の撮影場所となったネッカー川の、支流。ここに、バッハ家が個人所有する古城がある筈なのだ。
 この辺りは山岳地でもある故に、携帯の電波などは届きにくい。それに、充電しておらねば電池も切れる。こちらから本人に連絡をつけるのは、難しかろう‥‥」
 腕組みをして、首謀者は言葉を切り。
「このまま、フィルゲン君が帰ってこねば‥‥今後の状況が、とてもとても困った事になろう。戻れぬ用が力添えできるものなら、手助けも出来よう。だが万が一にも本人の意思に寄らず帰れぬ状況であれば、捨て置くわけにもいかん。
 いち。強行突破して、標的を奪取する。
 に。潜入して、標的を奪取する。
 さん。穏便に話をして、標的を奪取する。
 さぁ、好きな策を選ぶがいいっ!」
 策にもなってないだろうと、共謀者達から一斉にレオンへ突込みが入った。

●古き城で
 −−最近、特に『夜歩くもの』どもが不穏な動きをみせている。
 その後ろでは『堕落者』の姿も、噂されている。
 寒村の一つが同胞の『処置』によって消え、国内の大都市でも一時に数人の『失踪者』が出た−−よりによって、古い侵略の礎の場所で、だ。
 南のギリシャでは恐るべき数の『夜歩くもの』が跋扈し‥‥それに端を発した『良からぬ事象』が、こちらへ飛び火してくる可能性も低くはない。
 だからこそ。
 低俗な娯楽映像に現を抜かさず、本来あるべきところへ立ち返れ−−。

「‥‥って、頭、固過ぎなんだよ。大叔父さんは」
 古びた調度で整えられた部屋の中をぐるぐると回りながら、ぼやくフィルゲン。
 思い出したように木造の扉を押したり引いたりしても、閂でもかけられているのかガタガタ揺れるのみで開かない。
 石造りの壁をあちこち叩いても、森が見える窓に嵌った鉄の格子を引っ張っても、部屋から出る場所はなさそうだった。
 慣例のように、何度目かの部屋のチェックを終えたフィルゲンが、ぼふんとベットへ腰を下ろす。
 そして今更ながら、『一族』から放逐されて両親が喜んだ理由を悟った。
「こういう無駄にシリアスっぽいのは、性に合わないんだけどなぁ‥‥僕」
 しげしげと月を眺めながら、彼は呟く。
 深い森に佇む古い城は、現実世界から遮蔽されたような静けさ‥‥川の流れる音と虫の声に包まれていた。

●今回の参加者

 fa0259 クク・ルドゥ(20歳・♀・小鳥)
 fa1032 羽曳野ハツ子(26歳・♀・パンダ)
 fa1715 小塚さえ(16歳・♀・小鳥)
 fa1733 ウルフェッド(49歳・♂・トカゲ)
 fa1791 嘩京・流(20歳・♂・兎)
 fa2225 月.(27歳・♂・鴉)
 fa3728 セシル・ファーレ(15歳・♀・猫)
 fa3736 深森風音(22歳・♀・一角獣)

●リプレイ本文

●情報戦と前哨戦
「フィルゲン・バッハさんの大叔父様に‥‥名前は判らないんですけれど、ネッカー川の方にお城を持ってて、それで、あの‥‥」
 カウンターに齧りつく様にして、小塚さえ(fa1715)は懸命にWEAの係員に事情を説明していた。
 フィルゲン・バッハの友人、レオン・ローズは世情に疎いせいもあって件の『大叔父』に詳しくはなく。ならばと、さえはWEAのドイツ支部を頼っていた。
「それで、アポイントを取りたいんです。『是非、急いで会って、お願いしたいことがあります』って。どちらで頼めばいいかわからなくて‥‥」
 真摯な彼女の訴えに、係員の女性は同僚と顔を見合わせる。
「ドイツ南部で『バッハ家』となると‥‥」
「そうね。たぶん‥‥そうかしら」
 どこか考え込むような表情での会話に、さえは小首を傾げた。

「データは、これで全部だね。ありがとう」
 係員に礼を言い、資料を鞄に詰めた深森風音(fa3736)は、走り書きのメモを開く。
「後は、ウルフェッドさんに頼まれた地図と‥‥あ、さえさん。そっちは終わったのかな?」
 歩いてくるさえへ声をかければ、彼女は「はい」と答えた。
「連絡が付けられるかどうか確認して、知らせてくれるそうです。そちらは、終わりました?」
「だいたいは、ね」
 やがて用件を済ませた二人は、連れ立ってWEAを後にした。
 先に『現地』へ向かったメンバーと、合流する為に。

 未舗装の轍道を、ハイヤーが戻って行く。
 車影を見送った五人は、森の中に立つ建造物を見上げた。
 路肩に止めたミニバンでは、ウルフェッド(fa1733)が棒状の物体を引っ張り出している。
「お〜い。生きてるか?」
「し、死む‥‥というか、人を乗せる前に‥‥中を片付ける‥‥べきで‥‥ある」
 毛布で簀巻き状態のレオンは、がっくりと力尽きた。
「片付けるのを忘れていたな、そういえば」
 撮影道具や照明、演出装置、刀に銃器の類から厄除けの壷まで、ウルフェッドの車には様々な物が詰まっている。収納力のある車とはいえ、その量は限界を越えていた。
「詰め過ぎのようだな」
 肩を竦めながら、月.(fa2225)はレオンのロープを外しにかかる。嘩京・流(fa1791)も手伝い、それとなく恐ろしい事を口にした。
「車ポシャッたら、すんげー事になるだろうなぁ」
「その前に、監督がポシャったけどね‥‥」
 目を回しているレオンへ、羽曳野ハツ子(fa1032)が手で扇いで風を送り。
「すっご〜い。小さいけど、ホントにお城だよ〜っ!」
「風雲急を告げる、もふり城なのです!」
「フィルゲンさんってアライグマの獣人だから、親戚の人もアライグマなのかな?」
「だったら、もふり放題で楽しそうです〜っ」
 クク・ルドゥ(fa0259)とセシル・ファーレ(fa3728)は、城を前に期待と言う名の様々な妄想を膨らませていた。
「それでは、正面から正々堂々と挑むであります!」
「はい!」
 二人はビシッと謎の敬礼を交わして、鉄扉の門へと向かう。
 そして、数十秒後。
「ねぇねぇ。呼び鈴がないんだけど、どうしよう?」
 戻ってきたククに、脱力する残りの五名。
「アライグマさ〜ん、聞こえますか〜! 君達は完全に包囲されてますよ〜っ!」
 手でメガホンを作ったセシルの『説得』が、空しく森に響いた。

●囚われの『姫君』?
 翌日。合流したさえと風音が見たものは、城より少し離れた開けた場所に張られた、三つのテントだった。
「なんだかすっかり、キャンプ気分ですね」
「そうだね」
 微妙な笑みを交わす二人に気付いて、水汲みから戻った流が手を振った。

「詳しい地図って、売ってないんだよね」
 頼まれた資料を渡す風音に、ウルフェッドが短く礼を言って受け取る。
「それでも、ネット検索で出てきたマップよりマシだろう」
「ところで、監督達は?」
 風音が問うのも当然で、テントには彼と流しかいなかった。
「他のみんなは、城の門前で『座り込み』してるぜ。それで、さえの方は?」
 尋ねる流に、さえはこっくりと一つ頷く。
「はい。WEAの方の話ですと、『お邪魔する』という旨の用件は、受け取ってもらえたそうです。それで、問題の『大叔父さん』なんですけれども‥‥」

 月が雲に隠れるのを待ち、闇色の翼を広げて一つの影が夜空へと飛び立った。
 灯りの点る窓を避け、門とは反対側に回り込む。
 何度か旋回を繰り返した末、灯りのついた窓の一つに近付き、一番近い『足場』へ降り立った。
「ラプンツェルや、ラプンツェル。どうか、その美しい髪を窓の外に降ろしておくれ‥‥髪が無理なら、その『もふり』尻尾でも構わんが」
 声を張り上げるでもなく、彼が童話の一説をもじって呼びかければ。
「もふりとかアライグマとか、ゆーなーっ!」
 窓の格子を掴んでフィルゲンが反論し、月は笑いを堪えるのに苦心する。
「まぁ‥‥元気そうで、よかった。俺を含めて数人、レオンに頼まれて『救出』に来ている」
 短く月が状況を説明すれば、格子窓の向こうから盛大な溜め息が返ってきた。
「全く、不甲斐ない限りで‥‥皆にも迷惑をかけて、申し訳ない」
 格子の隙間から出した両手を捏ねながら、フィルゲンがしょんぼりと詫びる。
「この程度、迷惑にもならん。迷走したレオンを任される方が、よっぽど迷惑だ」
 冗談めかした返事をすれば、くつくつと笑い声が同意した。
「それはさておき‥‥帰れそうか?」
 月の問いに、笑い声は唸り声になる。
「どうにもこうにも、大叔父さんがね。本来、僕は放逐されてる筈の身なんだけど、最近物騒なせいか人手不足らしくて‥‥暢気にドラマ作ってないで、手伝えってさ」
「『アルタードラッヘン』、ダーラント・バッハ‥‥か」
 月はさえから聞いた、フィルゲンの大叔父の名を口にする。
 彼女が聞いた話では、ドイツ南部に深く根を張った古い家柄の、現在の『長』がダーラントだという。
「『古き竜』の通り名は、バッハ家全体に冠されたものだけどね。親戚一同、竜獣人ばっかりだから」
「それは残念だな」
「ん?」
「セシルは、城の人間はみなアライグマ獣人だと思っている」
「うへっ‥‥本当!?」
 からからとひとしきり笑った後、「ちょっと待って」とフィルゲンは手を引っ込めた。部屋で何かを探す気配がして、再び何かを握った手が突き出され、もう片方の手で彼はちょいちょいと手招きをする。
「これ。正面の門の鍵と、入り口の鍵」
 握ったキーホルダーには、10cm程の長さの二本の鉄鍵がジャラリとぶら下がっていた。
「押しても動かない大叔父さんの性格からすると、こっちから門を開ける気ないだろうから」
「‥‥判った。借り受ける」
 暫し考えた月は、翼を打って窓へと接近する。
 片手で格子を掴み、空いた手で鍵を受け取れば、窓の向こうのフィルゲンは少し疲れた様子ながらも笑顔を見せる。
「ありがとうね。みんなにも」
「それは、帰ってから自分の口で言う事だ」
 それだけ言うと、月は弾みをつけて空へと飛び‥‥黒い影は夜の闇に溶けて、見えなくなった。

●開かれた扉
「たのも〜ぅ!」
 鉄の金具が打ちつけられた重い木の扉が開かれて、正面のホールに七つの長い影が差し込んだ。
 ククの声に、揃いの服を着た女性達が驚いて顔を出し、その何人かはすぐに引っ込んだ。おそらく、主に来訪がきた事を告げに行ったのだろう。
「てか、なんで時代劇なんだよ」
 流が小声で、ククを突っつけば。
「え? ん〜と、勢い?」
 そんな答えが返ってきた。
「どちら様でございましょう。当家へは、如何なる御用で?」
 メイド頭と思しき貫禄のある年配の女性が、一行の前に立ち塞がる。仏頂面の貫禄に気後れしながらも、さえが一歩進み出た。
「先日、面会をお願いした‥‥小塚さえと、申します。あの、ダーラント・バッハさんに会いに来ました。お取次ぎを願えませんでしょうか」
「それならば、主人に代わって私が伝言を承りましょう」
「それでは、ダメなんです。その大事な‥‥お話で‥‥」
「負けるな」「頑張れ」と風音やククが小声で応援するも、年の功に押され気味のさえ。
 そこへ。
「夫の、フィルゲンに会いに来ました。妻のハツ子です」
 ど〜んと豊かな胸を張って、ハツ子がさえの隣へと進み出て‥‥細身小柄のさえは、別の意味で気圧される。
「お疑いでしたら、どうぞ夫に確認を取って下さい」
 そのまま視線をぶつけ合う事、数秒−−折れたのはメイド頭だった。
「判りました。では、別室にてお待ちいただきましょう‥‥お客様を来賓室へ案内なさい。くれぐれも、粗相のないように」
 踵を返すメイド頭に、若い娘達が頭を下げる。
 そして、一行が案内されてホールを去った後。
「ところで‥‥この者は、如何致しましょう」
 柄の長いモップやハタキを逆に構えた別の女性達が、メイド頭に声をかけた。
 取り囲まれた中心には、メイド服を着たセシルがぺたんと座り込んでいる。『交渉』の間に城を探検しようと一行から離れたものの、陰に控えていた使用人達に見つかって、あっという間に捕獲されたのであった。
「使用人さんといえば噂好きって、セシルの読んだ本に書いてありましたのに‥‥バッハさん家のメイドさん達は、よく訓練されたメイドさんだったのです‥‥」
 好奇心が潰える、セシルはがっくりと打ちひしがれた。

●言われなき条件
 五人は、豪奢な調度の部屋へ案内されていた−−ウルフェッドと月は、レオンと共に『万が一』に備え、城の外で待機している。
 程なくして部屋に面した別の扉が開くと、杖を手にした一人の老人が現れた。

「お時間を下さって、ありがとうございます。小塚さえと申します」
 恭しくお辞儀をするさえに、ダーラント・バッハは座ったままで構わないと身振りで示す。
 背筋がシャンとして、がっちりとした体つきをした老人は、見た目での年齢が捉え辛かった。白い髪を纏めて後ろで一つに束ね、白い眉に白い髭を蓄え、顔には皺が刻まれているも斑は浮いておらず、血色もいい。
 年季によるであろう威圧感を感じながら、さえは落ち窪み、閉じられた眼瞼を見つめて口を開いた。
「では、用件から言います。フィルゲンさんが映像作品を作る事を、許して下さい」
 その場にいる誰もが息を飲み、老人の反応を窺う。僅かな沈黙が流れ、ぐっと膝の上で拳を握って、さえは先を続けた。
「『幻想寓話』の物語から、綺麗な音楽が生まれました。そうやって新しい優しい何かを繋いでいく物を、フィルゲンさんは作る事が出来る人だと思いますし、出来るなら私も手伝いたいです。個人的な我侭だとは、重々承知しています‥‥でも」
 言葉を重ねて、さえは頭を下げた。
「好きなんです。フィルゲンさんの書く物語が」
「まぁ‥‥俺も随分フィルゲンには世話になってるし、彼に教わることも多かった。だから、フィルゲンに居てもらわねぇと困る。この先も」
 がしがしと髪を掻きながら、流が更に援護して。
「も、もふりアイドルを語っちゃっても、いいかな?」
 どきどきしながら、誰に聞くでもなく尋ねるクク。もっとも、答えを期待したものではなく、それはある種の宣言で。
「ていうか、語るけどね! 遺跡調べたりとか、NWとドタバタやったりとか、そーゆー荒事の後にこう‥‥フィルゲンさんの尻尾をもふると、癒されるんだよね〜」
 うっとりと語るククは、誰の追従も許さなかった‥‥というか、誰もついてこれないのかもしれない。
「それで、荒事に立ち会わず芸能に専念している人がいたら、「あの人達がこちらに来ないように、頑張らなくちゃ」って思えるんです。だからフィルゲンさんには、清らかなもふりアイドルでいてくれたらな〜っと」
「‥‥で」
 重く低い声が、話の流れに区切りをつける。
「又甥の妻、とやらの言は?」
 節くれ立った指で示され、ハツ子は息を整えた。
「妻として、そして仕事上のパートナーとして、今すぐフィルゲンの解放を要求するわ。お願いじゃない。これは、当然の権利よ。といっても、二つ返事で生易しく「はい、どうぞ」って訳にも、いかないわよね。だから」
 一拍、呼吸を置き、彼女は『感情論』よりも現実的な『折衷案』を切り出す。
「代替条件として、今後バッハ家からのNW討伐要請があれば、協力するわ。勿論、烏合の衆なんて言わせないわよ」
「先の大掛かりな探索でも、彼に関わった多くの者達が参加し、功績を挙げているんだよね」
 裏付けをする様に、風音がWEAで集めた資料を取り出す。
「表と裏、どちらか一つになんて絞る必要は無い。芸能活動もするし、NWとも戦う。
 それで、全部まるっと万事解決でしょう?」
 自信たっぷりに言い放つハツ子。
 緊張に満ちた重い沈黙の末に、老ダーラントは杖で床を強くゴンッと打った。
 それを合図にして扉が再び開かれ、おっかなびっくりでフィルゲンが部屋に足を踏み入れる。
「行っていいぞ」
 ざらつく砂のような声で、老人は杖で五人とホールへの扉を示す。
「代わりに、見せて貰おうか。作品のナンとやらと、素養を」

 正面の門が閉まった途端、腰が抜けたようにハツ子がへたり込んだ。
「き、緊張した〜!」
「っていうか、ナンで嫁〜っ!?」
 状況整理の追い付かないフィルゲンはパニくり、出迎えた月がぽむと肩を叩いた。
「無事でよかった。レオンとフィルゲンに土産も渡したかったしな」
「お城の中、探検したかったです‥‥」
 一足先に放り出されていたセシルは、猫尻尾を揺らして残念そうに城を見やり。
「で、如何なる事となった?」
「う〜ん‥‥交渉云々は置いて。今はフィルゲンの開放を祝って、花火でもどうかな」
 結果を聞くレオンへにっこりと笑んで、風音が提案した。