幻想寓話〜企画作戦会議ヨーロッパ
種類 |
シリーズ
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担当 |
風華弓弦
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
8万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
09/10〜09/13
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●本文
●突然ですが、次回はゴールデン特番です。
AFWの休憩室で、監督レオン・ローズと脚本家フィルゲン・バッハ(共に29歳)は、向かい合って共に大きな溜め息をついた。
その最たる原因は、つい数十分ほど前に二人へと持ちかけられた話である。
−−WWBから、10月の特番で『幻想寓話』をやって欲しいという話がきている。頑張ってくれ。
「絶対、大叔父さんの差し金だと思うんだ」
眉間に皺を寄せた渋面のフィルゲンに、レオンはコーラの紙コップを傾け、ボリボリと氷を噛み砕き。
「ともかくだな。かねてから、ゴールデンは一つの目標でもあった訳だ。発端は気に入らぬところだが、与えられた機会を有効に使わぬ手はなかろう?」
何度か眼を瞬かせて、フィルゲンは微妙な表情を浮かべた。
「‥‥明日は嵐だな」
「なぬ?」
「レオンが、珍しく真面目な事言ってる」
「フィルゲン君。何か思い違いをしておらんか? 私は常に、真面目であるぞ」
胸を張るレオンに、フィルゲンはふっと視線をそらし。
「いつも真面目‥‥ね」
「なんだ、モノ言いたげな反応はーっ!」
「いや。君が真面目だって言うのなら、大叔父さんはさぞかし愉快な人の部類に入るんだろうな‥‥と」
「なにぃーっ!」
かくして、『幻想寓話』の10月特番に向けた『作戦会議』が開かれる事となった。
●リプレイ本文
●幻想世界の再構築
「実は、奇しくも来月撮影分の『幻想寓話』はゴールデン向きに作る事となったのだ。そこで是非とも、諸君の忌憚のない意見を伺いたいと、こうして集まってもらった次第である」
ミーティングルームに集まった一同を見回し、監督レオン・ローズが事の経緯を手短に説明した。
とはいえ、元凶(?)であろう先日の騒動は『バッハ家の家庭の事情』である為、明言は避ける。もっとも、集まった者の八割がたが関わった者で、微妙にどんより気味の空気も漂っていたりするが。
「今まで通りでは、駄目なのかな‥‥とも思いますけど‥‥」
おずおずと、小塚さえ(fa1715)が口を開く。
「監督達の思う、物語と映像を作っていくのでは駄目なのかなって。『幻想寓話』はゴールデンにそのまま持ってきても、そんなに問題のある話じゃないですし‥‥」
「ただ‥‥僕らの思うネタって、割とマニアックだったりするからね」
微妙な表情で、脚本家フィルゲン・バッハが視線を泳がせる。
「この話がなかったら、『ダーム・ブランシュ』や『ルー・ガルー』、あるいは『ラミナ』辺りを考えていたしね」
「‥‥どれも聞いた事、ないな」
深森風音(fa3736)が呟き、味鋺味美(fa1774)もまた頷いた。
「でも、聞いたことのない話を聞くのも、楽しいわよ。そのファンタジー世界を構築するのは、もっと楽しいけどね」
彼女の言葉に、「だよな」と同意する嘩京・流(fa1791)は、改めてレオンとフィルゲンの『トップツー』を見やる。
「それで、今回はどうするんだ? 『モーツァルト』のコンペか、その後の『幻想寓話』の時みたいに、とりあえず皆でコレって原案を提案すりゃあいいのか?」
「そうね‥‥最終的なプロットはフィルゲンさんに頑張ってもらうとして、素材としてピンとくるものがあれば、それがベストでしょ」
羽曳野ハツ子(fa1032)に、加羅(fa4478)が「なるほど」と相槌を打った。
「細かいところは、またドラマの時に更に詰めていく‥‥という感じですか」
「そうだな。ところで、フィルゲンはもう大丈夫なのか?」
「うん、ありがとう。身体的には問題ないし‥‥ちょっと、気疲れがね」
気遣う月.(fa2225)にフィルゲンが苦笑いで答えれば、ハツ子も表情を強張らせる。
「私、あの大叔父さんちょっと苦手かも‥‥」
「ごめんよ。偏屈頑固で厄介な人なもんで‥‥」
ハツ子へ謝り、溜め息をついて、紅茶の紙コップを傾けるフィルゲンへ。
「それで、その後の新婚生活はどんな風かな? フィルゲンさん」
「げほっごはっ」
冗談めかした風音の一言に、フィルゲンが飲みかけた紅茶でむせた。照れ隠しなのか、ハツ子は明後日の方向を向き、月は流と傍観者の笑みを見せ。
「ところで、アライグマさんと監督は29歳なんですか? それじゃあ、いずれは‥‥ゴールデン三十路コンビになるんですね?」
それまで話を聞いていたセシル・ファーレ(fa3728)の何気ない言葉が、更なる追い討ちをかける。
「みそ‥‥」
「というか、ゴールデンミソジーとは、何だ!?」
レオンの問いに答える者は、いなかった。
●arrangement−Fairy Tale
「幻想寓話らしい幻想寓話、というのを第一に考えてみたわ」
話を本題に戻し、先ず切り出したのはハツ子だった。
「さっき、さえちゃんも話してたけど‥‥特番でゴールデン帯だからこそ、あえて特別なことはやらず、普段通りにと思ってね。ここで認められれば、今までやってきたことは間違っていなかったという、格好の証明になるんじゃないかしら。
私が選んだのは、『妖精の恋人』リャナンシー。アイルランドの妖精ね」
「詩人憑きの妖精であるな。いや、逆か」
ふむと腕組みをするレオンに、ハテナ顔のセシルが首を傾げた。
「妖精に詩人がくっつくの?」
「妖精が憑いた為に、インスピレーションを得られるようになるのだ」
「そう。人間の男性の愛を探し求めて、井戸や泉といった水場に現れるって言われるのよね。その姿は、見る男性の理想の女性像であるとか、絶世の美女であるとか、いろんな説があるみたい。
男性が愛を拒めばリャナンシーは召使いとなるけど、愛を受け入れると詩才と美声を得る代わりに、男性は早死にするそうよ」
「うむ。故にケルトの詩人は皆、短命だとされ‥‥いたたたたた」
「ちょっと黙っとけ」
解説を入れるレオンの頭を、ぐりぐりとフィルゲンが小突く。相変わらずの二人に笑いつつ、ハツ子は先を続けた。
「ロケ地は、自然豊かなアイルランドの森なんてどうかしら。
歌の才能を何よりも欲する青年は、リャナンシーが棲むと言われる森の奥へと足を踏み入れるの。自らの寿命と引き換えに、リャナンシーに恋人になってもらうためにね」
「そのお話って、アクション性はないのかしら?」
尋ねる友人のAAAへ、ハツ子は少し思案する。
「そうね‥‥派手な話じゃないから、難しいかも」
「う〜ん。お金かかっちゃうのが、問題かもしれないけれど‥‥爆発シーン盛り沢山のハリウッド風とか、香港アクション風とか。チャンバラでもいいわね。血沸き肉踊るカンジのテイストは、どう?」
窺うAAAだが、レオンは珍しく厳つい表情を返す。
「言わんとする所は、判る。だが、ハリウッドっぽいモノを作ったとして、それが『我々のフィルムだ』と胸を張れるかといえば、そうではないと思うのだよ。ハリウッドが作るからこその、ハリウッド映像。テイストを知っているからこその、香港アクション。ジャパニメーションにウズマサ、ボリウッド、あるいはノリウッド‥‥」
「コレの話はキリがないから、アクション面も考慮って案で受け取っておくよ。じゃあ、次いこうか」
ぶつぶつと続けるレオンを捨て置いて、フィルゲンが話を進めた。
「毎回、進行役の吟遊詩人が入ってるけど、あれも個人的に好きなんだよな。でもなんか、考えてるうちに寓話と神話がごっちゃになりかけてさ」
まだ電波発信中のレオンを気にしつつも、流が口を開く。
「有名なモンを出すって事ならエレメンタル、『四大元素を司る精霊』とか思いついた。
風のシルフ、地のノーム、火のサラマンダー、水のウンディーネ。それから、動物を象徴するフォーンと、植物の象徴のドリュアドもエレメンタルに入るらしいから、こっからストーリーをオリジナルで考えられねぇかな」
指折り数える流へ、脚本家がシャーペンの先でぽしぽしと髪を掻き。
「‥‥つまり、妖精大戦争?」
「いや、戦争しなくていいから」
ボケなのかナンなのかよく判らない反応に、流はひらひらと手を振る。
「あと、クイックシルバーも面白いかなって思った。騒霊で、男は洋服タンスを荒らし、女の方は寝てる人間をカン高い笑い声で起こしちまうっての。鏡にいたずら書きするヤツも、いるらしいけどな。ま、案だけなんだが」
「ああ。口紅で『Q』って書き残すんだよね」
言いながら、フィルゲンも流のアイデアをノートへ書き写す。
「鏡にルージュで伝言‥‥なんだか、洒落た騒霊ね」
情景を想像した味美は興味深げに呟き、会話の切れ間に気付く。
「じゃあ、次はあたしね。やっぱり、素案になるけれど‥‥」
●arranger−Legendary
「ワルキューレとかも面白いかと思ったんだけど‥‥女性が九人必要になるのよね」
苦笑する味美は、意味ありげに月や流をちらと見やった。
その間に不穏な気配を感じたのか、微妙な表情を浮かべた二人に笑んで、彼女は先を続ける。
「もしくは、運命の女神ノルンの三姉妹かしら。どちらも比較的メジャーな北欧神話で、エッダやサーガも多く残っているみたいだし、多少アレンジしてやればそれこそ無限に話も広がると思うわ。
もちろん、あくまでも一案ね。他の人の話も聞いてみたいし、どう実現するかを考えるのも楽しいもの」
「うん。他の人のアイデアを聞くのも、面白いからね。私も、まだまだイメージの段階だけど‥‥」
味美の言葉に賛同する風音が、彼女の後を継いだ。
「幻想の生き物の代表といえば、竜だよね。だから、ドラゴンに関する話をやってみたいな。
例えば、呪いで森に縛られたドラゴン。そんなドラゴンを王命で討ちにきた騎士。
騎士は良く戦うが、ドラゴンには勝てず敗れ去る。しかしドラゴンは騎士を殺さず、両名との間に奇妙な交流が始まる。けれども王は、更にドラゴンの討伐隊を送り出そうとして‥‥といった感じかな。
ドラゴンの姿は、予算や技術にもよるだろうけど、CGや特撮を使えば何とかならないだろうか。普段は人の姿とか」
「ドラゴン‥‥かぁ」
風音の提案に、フィルゲンは唸って考え込んだ。
●arranger−Literature
「風音さんのドラゴン討伐みたいに、ちょっとクエストっぽい御伽話もいいと思うんですよね。
『白鳥の湖』とか『白鳥の王子』のように、呪いをかけられた者を助ける話とか。ロシアとか北の方の話ですと、火の鳥を探す話やどんな重病の人間も治す命の水を探しに行く話もありますし」
幾つかのタイトルを挙げるさえだったが、その続きには困ったような笑みを浮かべた。
「でも実は、あんまり詳しく考えてなくて‥‥思いつきなんです。なんだか、フィルゲンさんがいつも通りで、ほっとして気が抜けてしまって‥‥」
「つまり、アレだな。フィルゲン君を軟禁して、返して欲しくば脚本を寄越せなどという事態になると、スラスラ‥‥」
漸く現実へと帰ってきたレオンがぽむと手を打てば、相方はその頭をスパーンッといい音で叩く。
「何をするーっ」
「デリカシーのないのはほっといて、話を進めようかと」
口を尖らせるレオンと知らん顔のフィルゲンに、くっくと月が笑った。
「そうだな。じゃあ俺は、『ラプンツェル』を提案しようか。元ラプンツェルも、其処に居ることだし‥‥な」
「元?」と加羅が首を捻ねり、『当の本人』は机に突っ伏して轟沈していた。
「‥‥冗談だ、凹むなフィルゲン。
アンデルセンの「雪の女王」を提案しようと思ってな。ゴールデンならば、知名度のある題材の方がいいだろう。幻想の生物が居ないと言われれば、それまでなんだが‥‥」
「『幻想寓話』は半獣で撮影を行い易くする為の『方便』であるからな。御伽話や妖精話などのファンタジーな話なら、撮影時に半獣の姿で何をしても見る『人』の側は「ファンタジーなんだな」である程度片付けられる。故に、役者は多少キャリアがなくともある程度は何とかなるし、撮影も然りだ」
レオンの話に合点がいったように、流が呟く。
「それで、半獣化前提なんだ‥‥」
「一番の根っこは、「ファンタジーを撮りたい」ってトコだけどね。ほら、最近ハリウッドでは、有名な幻想文学や伝説が次々と映像化されているから」
机から復帰したフィルゲンに、セシルが目を輝かせた。
「あ、じゃあ『不思議の国のアリス』も、題材的にはいいんですか?」
「取り上げるのは問題ないけど、『アリス』は少し長いからなぁ」
「う〜ん‥‥それなら途中のエピソードは省いて。お茶会の最中に不法侵入者としてトランプの衛兵に捕まったアリスが、ハートの女王に言われなき罪で裁かれて、住民に助けてもらって『国の宝物』を見つければいいってチャンスを貰うの。そしてアリスは、待ち受ける数々の困難を乗り越えて‥‥」
「それでも‥‥特番二回くらいかかる、かな」
思案顔のフィルゲンへ、「ダメですか?」と残念そうに訴えるセシル。その二人の様子に、加羅は困ったようにレオンへ視線を向けた。
「俺が考えたのも、『不思議の国のアリス』なんですけどね‥‥長いでしょうか?」
「いや。提案する分には、気にしないでくれたまえ。そこから現実となるものと、ならぬものを振り分けるのは、こちらの仕事であるからな」
監督の言葉に、加羅は笑顔で頷く。
「では、遠慮なく。
俺が考えたのは、やっぱりオリジナル要素が強いんですけど‥‥アリスが兎を追いかけ、目を覚ますまでの出来事を、他の御伽話に迷い込んで、その登場人物たちと遭遇するという形にするんです。
アリスが視聴者のナビゲーターのような役割を担えば、面白いんじゃないかなと思うんですけどね」
「ふむ‥‥面白いとは思うが、そうなると語り役の吟遊詩人とのイメージが被りをどうするかが問題であるな。もっとも、そこはこちらの考える事であるからな‥‥興味深いプランを、感謝する」
●欠かせぬ恒例行事
「じゃあ‥‥ひと段落ついたところで休憩にして、お茶にしませんか? スコーンと、アップルクランブルを持ってきたんです。あ、でも決して、私が林檎のお菓子を食べたいからではないですよ? 違いますから。ね?」
にっこりと微笑んで念を押しつつ、さえが最後の『提案』をした。
「準備の間に、俺は一服してくるか」
「俺も〜」
席を立つ月に、流が続いて立ち上がる。
「それなら、私はお茶の用意をするわね」
紙袋から箱を取り出すさえへ味美が声をかければ、風音も頷いた。
「私も手伝おう‥‥いろいろ考えてみたんだけれど、なかなか難しいものだね。こういう事は」
「ええ。だから、気分転換にもいいですよ。お茶」
さえが紙袋から取り出した箱を、ハツ子が受け取る。
「お茶と聞くとほっとするなんて、なんだかすっかり監督達に感化されたみたいね。私達」
賑やかな彼女らの笑い声に、セシルや加羅と先程の話の続きをしていた二人が、不思議そうに振り返った。