路上ライヴを狙うNWアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 7Lv以上
難度 難しい
報酬 60.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/12〜08/16

●本文

 ヴァニシングプロは日本のロック系音楽プロダクションの最大手だ。ビジュアル系ロックグループ『デザイア』が所属している事から、その名を知るアーティストは多いだろう。
 また、二代目社長緒方・彩音(fz1033)自らが陣頭指揮を執る神出鬼没なスカウトマンでも有名で、まだ芽が出ていないうちから厳選した若手をスカウトして育成し、デビューさせている。


●ヴァニシングプロ
「またか‥‥」
「はい、今月に入って2回目です」
 ヴァニシングプロの自社ビル内にある社長室。その席に座る緒形彩音は、副社長エレクトロンボルトが差し出した報告書に目を通し、苦々しい表情を浮かべる。
 彩音は各地のライヴハウスや路上ライヴを練り歩き、日夜、新人発掘に精を出している為、社長のイスに座っている時間は1年の1/3もない。実質、ヴァニシングプロを運営しているのはエレクトロンボルトだ(もっとも、重要な決定事項を承認するのは彩音だが)。
「先月の分を含めれば4回目‥‥週一のペースだな。随分と大食らいなナイトウォーカーもいたものだ」
「路上ライヴはそれこそ毎日のように開かれていますからね。ナイトウォーカーからすれば選り取り見取でしょう」
「しかも、人間の目があるから獣人は迂闊に獣化できない‥‥皮肉なものだな」
 先月の下旬から、路上ライヴをしている獣人のロックアーティスト達が次々とナイトウォーカーに襲われるという事件が起こっていた。週一のペースで繰り返されており、決まって夜、人通りの少なくなったところを襲われていた。とはいえ、路上ライヴをやる場所柄、人通りが完全に断たれた訳ではないので、獣人側は獣化して応戦できず、被害が広がる一方だった。
「路上ライヴを行っているロックアーティストは、皆プロ予備軍だからな。若い才能をみすみすナイトウォーカーに食わせるつもりはない。ヴァニシングプロでナイトウォーカー退治に乗り出すぞ」
「情報によると、ナイトウォーカーは聴衆に紛れて獣人を品定めしているようです。囮作戦が有効ですが、きちんと路上ライヴを行う必要がありそうです」
「ロックアーティスト兼戦闘員、という事だな」
 彩音とエレクトロンボルトは、路上ライヴが出来そうなアーティスト達に連絡を取るのだった。


●成長傾向
 体力・格闘・射撃・発声・音楽・楽器

●今回の参加者

 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa2529 常盤 躑躅(37歳・♂・パンダ)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3398 水威 礼久(21歳・♂・狼)
 fa4878 ドワーフ太田(30歳・♂・犬)
 fa5035 ラファエロ・フラナガン(12歳・♂・狼)

●リプレイ本文


●憤懣やるかたない
 ヴァニシングプロの社長、緒方・彩音(fz1033)の連絡を受けた夏姫・シュトラウス(fa0761)と常盤 躑躅(fa2529)は、彼女と一緒に路上ライブが行われている場所の下見に訪れた。
 夏姫は帽子を被り伊達眼鏡を掛け、袖の長いサマーワンピースを着ている。また、普段はサイドを結っているが今は解き、簡単な変装をしていた。躑躅は仕事の時に被っているパンダ覆面を着けていない。彩音は普段のロックアーティスト風の服装でサングラスを掛けている程度だ。
「‥‥え、えと、普通の商店街、ですね‥‥やはり一般人の目が気になります‥‥」
「こりゃぁ、ホームレスに変装するのも難しいな」
「路上ライブへの飛び込み参加ならヴァニシングプロでもフォローできるが、流石にホームレスは無理だぞ」
 この繁華街で路上ライブが盛んに行われているのは駅前のターミナルで、行き止まりになっている場所こそないが、人々の死角となる路地裏はいくつか伸びている。そこなら隠れて囮を護衛する事も可能だろう。
 しかし、躑躅は渋い表情を浮かべている。彼はホームレスに変装して、聴衆に巻き込まれないように夏姫とは別の角度から路上ライブの様子を窺いながら、ナイトウォーカーが現れるのを待つつもりだった。しかし、繁華街や駅前ではホームレスに対する規制が厳しく、1人だけいるのも違和感があるし、下手をすれば路上ライブ前に撤去されかねない。彩音もそれはフォローの範囲外だと微苦笑する。
「なら別の方法を考えるさ。戦闘経験の少ねぇアーティストの卵ばっか狙う姑息なナイトウォーカーはきっちりぶのめさねぇとな!!」
「せやな、これ以上、被害が広がる前にナイトウォーカーを退治せんとあかん‥‥お、冬織、この辺りの路地なんかええやない?」
「ふむ‥‥背後に壁があり、傍にナイトウォーカーを追い込める路地もある‥‥ミゲール殿、程良い場所を見付けてくれたのじゃ、感謝する」
 ナイトウォーカーへの怒りを露わにする躑躅に、ミゲール・イグレシアス(fa2671)は深々と頷きつつ、下見も忘れない。囮役を買って出た冬織(fa2993)が提示した、ラファエロ・フラナガン(fa5035)とのバンド“FASTSTAR”で路上ライブを開く場所の条件に合った所を見付ける。冬織も実際に見て、問題ないとミゲールに笑顔で応えた。
 ミゲールはロックを聴きに来た兄さん風に、デニム時のハーフパンツとごちゃごちゃプリントされたTシャツ姿。冬織はプラチナブロンドの髪は茶髪に染め、ラフに1本三つ編みにして流している。エメラルドの瞳は茶のカラーコンタクトを入れて色を変え、化粧でそばかすやほくろも施して男勝りで元気で明るい印象にし、服装もカジュアルな短ジーンズ姿だ。
 冬織は知名度が高いので、こういった変装は欠かせない。知名度の高さでは夏姫も負けてはいないが、彼女は覆面レスラーなので素顔ならそれ程問題ない。この服装は半獣化を露呈させない為だ。尚、彩音は知名度の割に露出が多くなく、正体はロックアーティストといった芸能関係者以外には分かりにくい事もあり、変装はあまり必要としていない。
「問題は夏姫が言うように、一般人の目ね。ナイトウォーカーが正体を現して襲撃してきた時は、『実はプロモーションの撮影です』って、アクション系プロモーションの殺陣で誤魔化せると思うけど」
「一般人を戦闘から遠ざける誘導も合わせて、緒方はんと打ち合わせせんとな」
 竜華(fa1294)が指摘するように、獣人は自分達だけではなく、ナイトウォーカーの正体も一般人に知られないようにしなければならない。彼女がPVの撮影で戦闘を誤魔化すと告げると、ミゲールがフリップを使用して彩音と共に聴衆をどう誘導するか、ドワーフ太田(fa4878)を交え、路地を見ながら打ち合わせを始めた。
 ドワーフ太田は、ヴァニシングプロの副社長エレクトロンボルトが連絡を入れた人伝(ひとづて)に『アマチュアのアーティストを襲うナイトウォーカーの討伐作戦をやる』と聞いて協力していた。
 竜華はも白銀の髪を黒に染め、碧色の瞳をカラーコンタクトで黒くしている。また髪型は三つ編みのひっつめにし、伊達眼鏡を掛け、白衣を羽織った、一見、野暮ったい美大生風に変装している。ドワーフ太田も半獣化する事を見越して、夏姫同様、帽子をしっかり被り、長めの丈のサマージャケットを羽織っている。
「連絡はトランシーバーよりは携帯の方が不自然ではないな」
「儂は冬織殿達囮に引っ掛からなかった場合の遊撃的、保険的な位置取りをさせてもらうが、確かに今時、町中でトランシーバーで連絡を取っている方が却って違和感があるのぉ」
「んー、このナイトウォーカー、なかなかの曲者ね」
 彩音が指摘するように、ナイトウォーカーが出現するのは普通の路上ライブなので、トランシーバーといった日常生活にないものは却って違和感が生じる。ドワーフ太田達は携帯番号を交換し合い、携帯を忘れた竜華は彩音から借りて微苦笑を浮かべる。
「だけど、またナイトウォーカーは来るのかな?」
「‥‥来ますよ‥‥ここは、一度味を占めた、ナイトウォーカーの『狩り場』ですから‥‥」
 ラファエロの疑問はもっともだが、多くのナイトウォーカーと戦ってきた夏姫は、同じ方法でまたナイトウォーカーが獣人を狩ると確認していた。『ナイトウォーカーの狩り場』という言葉に、ラファエロはゴクリと唾を飲み込み、少女めいた顔立ちに涙を潤ませた。
 ちなみに、ラファエロは半袖のTシャツに半ズボン履きだ。眩しい生脚はお姉さまにとって目の保養とも、毒とも言えた。


●未来のロックアーティスト達を守れ!
 ロックアーティスト達は夕方過ぎからちらほらと集まり始め、それぞれお互いが邪魔にならない場所で路上ライブを始める。
「初心忘るべからずってね」
 路上ライブを行うロックアーティストの中に、水威 礼久(fa3398)の姿があった。彼はメジャーデビューする前からこの界隈でよく路上ライブをやっており、メジャーデビューした後も技術を高め、ライブの臨場感を忘れない為に、こうして時々フラリとやってきては路上ライブを行っている。
『ラファエロ達以外にも付近で演奏している獣人らしい者がいるので、儂はこちらの方を見張るのじゃ』
『了解や。ナイトウォーカーが現れたらすぐに連絡を頼むで』
 礼久の路上ライブの聴衆から少し離れたところで、ドワーフ太田はミゲールに連絡を入れた。

♪※I want make change world melody

  流れ行く日々の中 変わりゆく物多すぎて
  歩くスピード分からず 足が絡まってばかり

  どうにもならない運命なんて 多分ないから
  未来の事なんて思い悩まないで
  明日は明日の風が吹く

 『変えられる』んじゃなく 『変えて』生きたい
  そこら中溢れる小さな幸せ 気づける人になりたいよ
  傷つく事を恐れずに
  分かり合おう 変えていこう 世界を 

 ※Repeat
  Keep on singing
  It’s my goal in life!♪

 “FASTSTAR”の『Change World』は、ミドルテンポの明るく力強いロックだ。
 冬織がメインボーカルを務め、ラファエロはコーラスとギターを担当する。
 特にリピートからのラストパートは、しっとりと滑らかなラファエロのコーラスが自己主張せず、冬織の歌声を支え、伴奏と共に旋律を紡ぎ上げていった。
(「‥‥この中にも擬態化したナイトウォーカーがいるはずですが‥‥」)
 夏姫はライブの聴衆の輪から多少離れてライブを見ている振りをしながら、聴衆1人1人を観察している。もし、ナイトウォーカーが紛れているなら、内心舌なめずりをし、音楽を聴いていないだろう。
『歌の途中なのに、1人、輪を離れていく女がいるぜ』
『もしかしたら、冬織とラファエロが2人組だから諦めたのかも知れないわね』
 ホームレスに扮するのは諦め、どこかにいるであろう躑躅から連絡が入ると、竜華は輪を離れていったという少女の姿を探した。


♪たとえ強気で破天荒でも俺はそんな貴女に惚れたんだ
 地位とかじゃない
 外見でもない
 身内に似てる? それは大きな要因かもしれない
 でも貴女じゃなきゃダメなんだ

 誇れるものなんて何にも持てない俺だけど貴女の為に男を磨いて精一杯輝いてみせる
 だからいつかは俺の〇〇になってくれ!
 俺はきっと貴女にふさわしい男になってみせる

 ‥‥‥はっきり言えない情けない俺でごめん♪

 礼久の唄う曲調はバラードロック、間奏に想いを込めたギターの独奏が入った。
「もう1人の獣人というのは、水威クンだったか」
「知り合いかの?」
「まぁ、な。しかし‥‥歌に想いを込めるなら、恥ずかしがらずにもう少し思い切りがないと、口説けんぞ」
「?」
 ドワーフ太田の方を見回りに来た彩音は、彼が見張っているのが礼久だと気付いた。彼はサマージャケットを羽織り、Tシャツを着てジーンズ履きと、いつもと変わらないスタイルだ。
 しかし、『HORETA』の歌詞の内容に苦笑する。ただのラブソングだと思ったドワーフ太田は首を捻った。
 礼久が歌い終わり、集まった聴衆に挨拶をして、ギターを片付けようとしたその時!
「く‥‥!?」
 彼の肩を鋭い牙が抉ろうとする。礼久は咄嗟にかわしたが、肩を軽く持っていかれてしまう。
 片付けを見ていた少女の口から、吸血鬼よろしく不釣り合いな牙が生え、唾液に滑っている。
『後片付けしている隙を衝いてきたか! こっちに来たのじゃ!』
 ドワーフ太田は携帯で即座にミゲール達へ連絡を入れた。
『ヴァニシングプロのプロモーション映像の撮影中です。アクションシーンも撮りますので、危険ですから関係者以外退避して下さい』
 いち早く駆け付けたミゲールが、お詫びを書いたフリップを片手に、ドワーフ太田と騒ぎを聞き付けて集まり始めた野次馬の誘導を始める。押しの強い体格の彼がペコペコと頭を下げれば、流石に文句を言ってくる者はいない。その代わりに撮影風景を覗こうとする者がいるが、身体で視界を遮るのも忘れない。
「水威クン、大丈夫?」
「ええ、軽く肩を持っていかれただけですが、奴は馬鹿力で獣人を噛み砕くようですね‥‥おいおい、今の襲撃のタイミング、打ち合わせと違うだろう?」
 彩音からリカバリーメディシンを受け取りつつ、ナイトウォーカーの襲撃をアドリブ扱いにして、護身用に持ち歩いてる仕込み傘で応戦する礼久。
 ナイトウォーカーは人間型のようだが、牙を生やし、背中に翼を湛える他、怪力を有しているようだ。
「‥‥飛んで逃げる前にあの翼を何とかしないと‥‥」
 礼久と入れ替わるようにナイトウォーカーと対峙した夏姫は、細振切爪を発動させながら一気に間合いを詰めようとするが、ナイトウォーカーも翼を狙っている事に勘付いたようで、空を飛んで間合いを取る。上空からの攻撃に鋭敏視覚で動体視力を研ぎ澄まし、金剛力増を付与した爪でカウンターを狙うのがやっとだった。
 夏姫が被害者にコアの位置を聞いたところ、被害者はコアを見付ける前にやられていたので有力な情報は得られていない。
「アマチュアへのナイトウォーカーの襲撃か。物騒な世の中になったもんだぜ。だがな、ここは俺にとっていわば『庭』みたいなもんなんでな!」
「大喰らいも程々にせぬと‥‥手痛い竹箆返しを受けようぞ!」
 俊敏脚足で非常階段を駆け上り、上から仕込み傘を振るう礼久。
 冬織は竜華にリフトアップしてもらい、俊敏脚足にて跳躍すると、下から村雨を振るう。
 上下の斬戟は、寸分違わずナイトウォーカーの一対の羽根を切り落とした。
「少しは知恵の回るナイトウォーカーのようだけど‥‥弱いものイジメのツケは高く付くわよ?」
 落ちてきたところを、竜華は牙で迎撃する。三つ編みを解いた髪が、夜風に靡いてたゆたう。
 すると、竜華の目の前で背景がぶれ、斬戟と共に羽根の付け根に隠されていたコアが破壊された。ゆっくりとパンダ覆面を被り、ソードを携えた躑躅が姿を現す。彼は光学迷彩を使ったまま、紛潜陰行で気配も消し、潜伏しながらコアの位置を探していたのだ。そして、礼久と冬織が羽根を切り裂いた時、幸運付与のお陰か、幸運にもコアを見付けていた。
「もし、他にナイトウォーカーが潜んでいたとしても、これを見ればもうアーティストの卵ばっか狙う事はしねぇだろう。野郎共、とっとと撤収だ」
「常盤は今までどこにいたの?」
「ホームレスがダメってんでな。ボランティアの清掃員に化けてた」
 ナイトウォーカーの後処理は彩音に任せ、躑躅の一言で撤収を始める冬織達。途中からカメラで撮影の真似事をするミゲールに代わって野次馬の誘導をしていたラファエロが、今まで姿が見えなかった躑躅がどこにいたのか聞いた。彼はターミナルの広場を掃除するボランティアの清掃員に扮し、聴衆から少し離れた場所で路上ライブを見ていたのだ。


 やがてはここから巣立っていくであろう未来のロックアーティスト達も、安心してまたこの界隈で路上ライブが出来るだろう。