エリン島ヨーロッパ

種類 シリーズ
担当 菊池五郎
芸能 1Lv以上
獣人 10Lv以上
難度 難しい
報酬 128.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/16〜10/18

●本文

 『ストーンヘンジ』。この遺跡の名前を知らぬ者は少ないだろう。
 イギリスの首都ロンドンより西に約200km、美しい大聖堂のある町として知られるソールズベリーの郊外にある巨石群だ。
 直径30m程の円の内側に、馬蹄形に高さ7m程の石が二重に並べられ、中央には祭壇を思わせる石が置かれている。
 今は世界遺産として保護されている為、周囲にはロープが張られており、中に入る事はできない。
「でもぉ〜、ここから飛ばないと行けないんだよねぇ〜」
 夜も深まった頃、ストーンヘンジに間延びした女の子の可愛らしい声が聞こえた。深夜の遺跡に、女の子の声。不釣り合いな組み合わせといえる。
 女の子は背中から翼竜のような翼を生やしていた。その翼を羽ばたかせようとしたその時。
 ハンドボールの球を一回り小さくしたような弾が飛来する。直撃コースだ。
 しかし、女の子は寸前の所で弾をかわした。
「もう〜、危ないなぁ〜!」
「‥‥当たっていれば苦しみながら逝けたものを‥‥」
 女の子は弾が髪を掠めていき、自慢の髪が乱れた事に、頬を膨らませて怒る。
 すると、女の子に一筋の照明が浴びせられ、巨大な門の形の組石の影からCoolパイソンを構え、銃口を女の子に向けたまま、1人の女性が姿を現す。
「!? な、何でぇ〜!?」
「いいえ、“わたくし”は初めまして、になりますわね、メーフィル。リュシアン・リティウムですわ」
「そういえばぁ〜、双子の妹がいるとかいってたねぇ〜」
 女性――リュシアン・リティウム(fz0025)――の姿を認めた少女――メーフィル(fz0041)――は、円らな瞳を見開いて驚く。だが、目の前のリュシアンが、自分の知る人物と同一ではない事が分かると納得したように頷いた。
「それでぇ〜、今時分にぃ〜、メーフィルちゃんにぃ〜、何の用なのぉ〜? メーフィルちゃん〜、これから行くとこあるんだけどぉ〜?」
「お姉様の妹と分かったのでしたら、わたくしが銃を突き付けてあなたに要求する事は1つですわ!」
「カラドボルグ、だよねぇ〜?」
「素直に渡して戴ければ、わたくしも手荒な真似は致しませんわ。お姉様を手に掛けた事も、水に流しますわ」
「それメーフィルちゃんに対してぇ〜、本気で言ってるのぉ〜?」
「あなたがカラドボルグを手に入れたように、わたくしもタスラムを手に入れておりますの。神話級のオーパーツを持つという意味では、あなたと対等ですわ!」
 メーフィルの視線が刹那、背負った斬馬刀――カラドボルグ――へ向けられる。
 しかし、メーフィルは小馬鹿にするといった風ではなく、本当にリュシアンの言い種が可笑しいのかころころと笑う。
「タスラムってぇ〜、さっき投げた弾の事だよねぇ〜? 残念だけどぉ〜、ブリューナクやフラガラッハと違ってぇ〜、必ず当たる訳じゃないタスラムでぇ〜、このメーフィルちゃんを倒せると思うのぉ〜?」
 魔弾タスラムはメーフィルにかわされ、ストーンヘンジの祭壇の方へ転がっていた。
 メーフィルの言うように、ケトル神話において、光の神ルーが暗黒神バロールを倒したされる強力な力を秘めているであろうオーパーツでも、当たらなければ意味はない。
 事実、ケルト神話でも、ルーはリュシアンのように物陰に隠れてバロールを誘い出し、魔弾タスラムを当てている。
 既に一度策を見られている以上、最早、先程のような千載一遇の好機はない。
「という訳でぇ〜、カラドボルグは渡せないしぃ〜、メーフィルちゃんこれからぁ〜、エリン島へ行くからぁ〜」
 メーフィルは背負った機械の翼――オーニソプター(ornithopter)――を羽ばたかせ、上昇を始める。大英博物館に展示されていたものを、先のサーベルタイガー型ナイトウォーカー騒ぎに乗じて拝借してきたのだ。
「お待ちなさい! エリン島とは、アイルランドの事では!?」
「ぴんぽんだけどぶっぶぅ〜。ここのお空の上にはねぇ〜、エリン島っていう島が浮いてるんだよぉ〜。そこにはモリアンって女神様がぁ〜、封印されてるんだよぉ〜」
「女神モリアン‥‥」
 女神モリアンは、ケトル神話に登場する戦いの女神だ。アーサー王物語に登場する魔女モーガン・ル・フェイともいわれている。
「このカラドボルグはぁ〜、ナイトウォーカーだけじゃなくぅ〜、全ての獣人もぉ〜、封印したり解いたりできるって分かったからねぇ〜。も・ち・ろ・ん、最初に試したのはリュシアンちゃんのお姉ちゃんだけどねぇ〜」
「く! 言わせておけば!!」
 美しい顔を怒りに歪ませて357マグナム弾を放つリュシアン。彼女の姉はメーフィルの持つカラドボルグによって石に変えられ、今もメーフィルがカラドボルグを手に入れた遺跡に佇んでいるはずだ。
 あの後もメーフィルは全ての獣人にカラドボルグの封印の効果があるのか試したようだ。
 だが、マグナム弾はかわされ、飛翔するメーフィルの姿は次第に小さくなっていった。


 ストーンヘンジの上に島が浮いているなどと、誰が信じるだろうか? 少なくとも島が浮いている事は、科学的には発見されていない。
「‥‥オーパーツ‥‥そうですわ、エリン島がオーパーツだとしたら!」
 項垂れていたリュシアンは、祭壇近くに転がった魔弾タスラムを見てそう思い立った。エリン島はもしかしたらそれ自体がオーパーツなのかも知れない。
 だとしたら文明の利器ではなく、オーパーツや獣人の力を使わなければ行けないのだろう。メーフィルがあのオーニソプターにこだわったのも、オーパーツだという可能性もある。
「オーパーツで封印されている女神‥‥まさか!?」
 嫌な予感がリュシアンの脳裏を過ぎる。遺跡探索のパートナーだった姉を手に掛ける程だ。メーフィルが“ただ”女神に会いに行くとは考えられない。
 しかし、今のリュシアンにはメーフィルを追う手段はない。
 その間もころころと祭壇へ転がっていった魔弾タスラムが、祭壇にぶつかると同時に光り始めたではないか。
「祭壇に置けという事ですの?」
 リュシアンが魔弾タスラムを祭壇に置いた。すると、魔弾タスラムより閃光が迸り、内側の円のように並べられた石全てに放たれ、やがて光の幕が出来上がった。
「ト、トランポリンのようですわね‥‥これでエリン島まで飛んで行けと‥‥?」
 リュシアンの問いに答えるものはいない。だが、光の幕は柔軟性に富んでいるし、神話級のオーパーツが創り出したものだ。些か手段は原始的で手荒だが、本当に空に浮かぶエリン島まで撃ちだしてくれるかも知れない。
 リュシアンはもう一度、エメラルドの瞳でメーフィルが飛翔していったであろう夜空を見上げたのだった。


●技術傾向
 体力・格闘・軽業・射撃

●今回の参加者

 fa0190 ベルシード(15歳・♀・狐)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa0877 ベス(16歳・♀・鷹)
 fa1163 燐 ブラックフェンリル(15歳・♀・狼)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)

●リプレイ本文


●ストーンヘンジ・トランポリン作戦
 暗がりの中、魔弾タスラムによって創られた光の幕が、ストーンヘンジを仄かに照らしている。
「あの時のオーソニプターを使って、エリン島まで‥‥! 幼心であるが故の、天への憧憬と思っていたけども、この為にあれを使って目論見を達成しようとしていたとはな」
 凛とした雰囲気を纏う神保原和輝(fa3843)が、珍しく感情を露わにしていた。メーフィル(fz0041)への怒り、それとも自嘲、どちらとも取れる声音だ。
「更に、リュシアンさんの姉を手に掛けた事も関わっていたとするなら‥‥あの時、会って共に戦ってきた時から彼女の掌で既に踊らされていたという事か‥‥」
「‥‥和輝さん‥‥」
 彼女はメーフィルと一緒に、大英博物館近辺に出没したサーベルタイガー型ナイトウォーカー退治の依頼を受けた。メーフィルが使用したオーニソプターは、大英博物館に展示されていたオーパーツだという。
 メーフィルがダークサイド獣人で、子飼いのサーベルタイガーを放ち、欺いていたとしたら‥‥全ては辻褄が合う。
 以前、同様にメーフィルと共闘した事のある御影 瞬華(fa2386)は、和輝の胸中を慮ると声を掛けられなかった。
「薬おっけ。灯りおっけ。フック付きのロープや棒も持っていかないとね」
「ロリっ子をハードにオシオキする為に、景気付けにカレー食ってる」
 燐 ブラックフェンリル(fa1163)と竜華(fa1294)は、荷物の最終チェックを指差し確認中。ベルシード(fa0190)は、九条・運(fa0378)の方から芳ばしい香りが漂っているのに気付いた。彼は昇天カレーを食べていた。

「まさかとは思うけど、このトランポリンの先にいきなりメーフィルちゃんが居たりとかしないよね?」
 準備が整うと、燐から光のトランポリンに乗った。ピョン、ピョン、と1、2回弾んで勢いを付けると、燐の身体を光の幕が覆い、そして3回目のジャンプで弾丸のように天空へと弾ませた。
「‥‥光のトランポリンとは、またメルヘンチックというか‥‥或る意味でシュールと言いますか」
「魔弾タスラムの造られた時代には、大砲とか無かったのでしょう」
「あ、皆さんどうぞお先に。私は一番最後に行きますので〜」
「わたくしが最後でも構いませんが?」
「‥‥だ、だってタスラムですよ!? メーフィルさんにも溢してしまいましたが、今、目の前に私の求めたオーパーツがある訳ですよ! 私は自分の翼で行きますからご心配なく。高速飛行も駆使すればどうにか‥‥それに、機械の翼でも行けるようですし?」
 探し求めた魔弾タスラムを前にごねる瞬華。
「でも、メーフィルも翼を持っていますが、自分の翼で飛んでいかなかった以上、獣人の力では飛んでいけない場所にあると思われますわ」
「‥‥やっぱり無理ですか? 諦めるしかないのですか〜‥‥くっ、ならばこの無念もメーフィルさんにぶつけなくては気が済みません‥‥!」
 リュシアン・リティウム(fz0025)に諭され、渋々光のトランポリンで宙を舞った瞬華だった。


●天空の島エリン
「エリンだ‥‥エリンは本当にあったんだ!」
 運がお約束の言葉を放つ。光の幕のお陰で上昇していても呼吸も会話も出来るし、上空の寒さも感じなかった。
 エリン島が見えてくると、富士川・千春(fa0847)達の身体は自然と島へ引き寄せられ、軟着陸した。
「ここがエリン島‥‥! まさか、神話の地を自分が調査出来るとは夢にも思いませんでした‥‥!」
「エリン島って言うくらいだから、アヴァロンならエクスカリバーじゃない湖の聖剣か、もしくはヌァザの剣クラウ・ソラスでも無いかな?」
 驚きの連続だからか、子供っぽくなっている瞬華を竜華が茶化す。
「女神モリアンか‥‥戦いの女神とか本当にここにいたら不気味よね」
 しかし、一転して真顔になって呟く。メーフィルが会いたがっている女神モリアンは、本当に女神なのだろうか?

 運が飛べる高さまで飛行してエリン島の外観を把握し、ベス(fa0877)が望遠視覚で更に上空からエリン島を見て地図を書く。
 エリン島はほぼ円形の直径数百mの浮島で、中央に神殿らしき石造りの建物があり、その周りを取り囲むように草木が生い茂っている。
 運は、メーフィルは神殿にいるだろうと当たりを付ける。ベスの夜の護符が光って崩れさったところを見ると、森の中にナイトウォーカーを配置しているようだ。
「メーフィルちゃんを止めて、みんなで生きて帰ってくるのが目標だからね」
 燐が目標を皆に言い聞かせると、ベルシードが灰代傀儡で作った身代わりを先行させ、森の中を突き進む。
 突然、炎の玉が飛来し、ベルシードの灰代傀儡を粉砕する。続いてサーベルタイガーが木の上から降りてきて、和輝達の行く手を塞いだ。
「サーベルタイガーは僕達に任せて!」
 燐がサーベルタイガーの目前へ躍り出る。彼女の隣にベルシードの灰代傀儡が向かい、瞬華はARASHIを、和輝はソルジャーボウを構えて援護の体制に入った。
 灰代傀儡へ攻撃をさせつつ、ベルシードは狂月幻覚で燐がいない方向から攻撃を仕掛ける幻覚を見せ、サーベルタイガーに見当違いの方向へ攻撃させる。
 燐は木々を遮蔽物代わりに巧みに使い、サーベルタイガーの爪や牙を受け流しながら、牙を突き立てる。瞬華と和輝の援護射撃もあって、サーベルタイガーの死角を衝き、付かず離れずの有利な位置を保ちながら攻撃を仕掛けるヒット・アンド・ウェイを続け、着実に弱らせていった。
 瞬華の弾丸が甲殻を破壊し、コアを露呈させると、和輝がソルジャーボウで射抜き、燐が止めを刺した。

 ベスに幸運付与を掛けてもらった千春が、メキドの炎に装弾したギャンブルブリッドを放つ。1mを越えるトカゲに翼を生やしたドラゴン型ナイトウォーカーに当たり、見事にダメージを負わせた。
 続けてベスが破雷光撃を複数回使用して放ち、これも当てる。
「ぴえぇ〜!? 流石はドラゴン、まだ生きてるよ〜!?」
 ベスが驚くように、メキドの炎に破雷光撃を受けても尚、ドラゴンは炎の弾を吐いてくる。
 千春が22口径結界弾とカースブリッドを当て、ようやく動きが鈍くなってきた。
 破山剣を構えた運と竜華が、それぞれ左右から、口の正面から半身ずらした状態を維持しつつ回り込むように接近して斬り付けてゆく。
 尻尾による攻撃を竜華はバトルガントレットで受け流そうとするが、予想以上に衝撃が強く、受け流し損ねる。そこへ炎の弾ではなく火炎放射が降り注いだ。竜華は直撃を虚闇黒衣で防ぐと、ベスもゼロ・ブレイブを構えて正面から斬り付けた。
 タフなドラゴンも、ベスと運、竜華の連係攻撃によってコアを破壊され、倒された。


●メーフィル
「燐さん‥‥!? 気を付けて下さいまし、近くにメーフィルが来ていますわ!!」
 リュシアンが悲愴めいた声を挙げる。彼女の目の前には燐の石像が佇んでいた。
「アイドルで売っているのに傷をつけられたから、お礼しにきてあげたわよー」
 千春はパニッシュメントに持ち替える。光学迷彩で姿を消そうとも、呼吸感知と超音感知でおおよその居場所は掴めている。後はメーフィルが声を出し、鋭敏聴覚で捉えられれば完璧だ。
『石になればぁ〜、歳を取らないからぁ〜、ずうっと綺麗なままでいられるんだよぉ〜?』
 声のした方へ22口径ショック弾を撃つも、弾かれるような金属音が聞こえた。しかし、それがメーフィルの居場所を示す証となった。
「‥‥あの時、私を石に変えたのもメーフィルさん、でしたか。渡鴉の性でしょうかね‥‥束縛される事を嫌うなら、利用される事も大嫌いなのですよ。奔放なる渡鴉の翼を縛るのは己が影だけで十分です。故に、以前の借りは必ず返させて戴きます‥‥えぇ、必ず」
 瞬華と和輝がオティヌスの銃で一斉射する。合わせてベルシードがありったけの飛操火玉を、メーフェルが居ると思しき場所に半包囲するように飛ばす。
「隠れんぼは終わりにしようぜ、メーフィルちゃん」
 メーフィルはカラドボルグで防いだようだが、オブラートに包んだゾンビパウダーを始め、手持ちの薬を全て飲み干した運が肉薄するだけの足止めにはなった。
 彼は能力解除を使用し、メーフィルの光学迷彩を解除。カラドボルグを構え、二又に分かれた捻れた槍を背負ったメーフィルの姿を露わにする。翼を湛えている事から半獣化していた。
「全力をお見せするわ」
 間髪入れず、竜華が仕掛ける。姿さえ見えれば鋭敏視覚で捉えられる。カラドボルグの軌道を見切ると、斬撃をバトルガントレットで逸らし、絶妙のタイミングで破山剣によるカウンターの一撃を叩き込む。
「嗚呼!? ‥‥竜華さん‥‥」
「カラドボルグを、こちらに、投げろ」
 攻撃の勢いで倒れながら竜華は石と化していた。見ればカラドボルグはバトルガントレットを斬り裂いていた。
 ベルシードが言霊操作で命じると、途端にメーフィルはゼンマイの切れたからくり人形のように動きを止め、カラドボルグを彼女へ放ろうとする。
「はい、どう‥‥ぞぉ〜!」
 しかし、二又の槍を投げ付けてきた。虚を衝かれたベルシードは腹部を貫かれてしまう。
「‥‥血が止まりません」
「言っとくけどぉ〜、ガ・デルグの傷はぁ〜、回復しないからねぇ〜」
 瞬華がガ・デルグを引き抜き、応急処置を施すが、出血は一向に止まらない。メーフィルはクスクスと笑う。
「メーフィルちゃん、女神モリアンって何!? 封印を解いてどうするつもりなの!?」
「女神モリアンはねぇ〜、ミテーラ・ナイトウォーカーモリアンなんだよぉ〜。封印を解いてぇ、メーフィルちゃんのお肌をつるつるにするんだぁ〜」
「ミテーラ・ナイトウォーカーを支配するのではなく、若さの為に使う!? その為に、私達を掌で弄び、物語の中の役者を演じさせただけならまだしも‥‥リュシアンさんの姉まで利用したというの!?」
 ベスの問い掛けに応えるメーフィル。だが、そのあまりにも意外すぎる真意に、和輝の口調もきつくなる。
「確かにぃ〜、リュシアンちゃんのおね〜さんはぁ〜、メーフィルちゃんのパートナーだったけどぉ〜、メーフィルちゃんがずうぅっと若くいらる為に必要だったしぃ〜」
「ふざけないで!! それだけの為にお姉様は‥‥今も冷たく固い石像として囚われているというの‥‥」
 しれっと応えるメーフィルへ、涙を溜めた目で睨め付けながらリュシアンがCoolパイソンから357マグナム弾を撃つ。それを皮切りに和輝が翼を狙ってソルジャーボウから矢を射り、運とベスが一気に距離を詰める。
 カラドボルグの剣戟を破山剣で受け、その勁力に対し、運の方で手を加えてベクトルを狂わせる。そのまま螺旋の動を以て懐へ飛び込むも、メーフィルも翼を持っているのでトリッキーな動きで回避し、肉薄するまでには至らない。
「ぴぇーい!」
 攻撃を受けたベスの身体が水滴となって四散する。身代水形だ。そのままメーフィルの背後へ移動し、ゼロ・ブレイブでカラドボルグを弾き飛ばそうとするが、こちらも防がれる。
「一発は一発よ、今回は改めてメーフィルちゃんへお礼しに来ただけよ☆ それに石に変えられたまま若さを保っても、それってアイドルとして全然嬉しくないもの」
 千春のパニッシュメントから、誘導弾がプレゼントされる。追尾するそれは、ようやくメーフィルにクリーンヒットする。
 するとメーフィルがにっこりと微笑んだ。和気穏笑にベスと運の戦意が失われてゆく。千春が知友心話でベスに飛羽針撃を使うよう指示するよりも早く、メーフィルが石化させてしまう。
「メ〜フィルちゃ〜ん」
 ところが運には却って逆効果だった。和んだ事で「ハードにオシオキ」する思考が高まり、某怪盗の孫を思わせる口振りと共に、パンツ一丁になってメーフィルへダイブしたではないか!
 これにはさしものメーフィルも意表を衝かれ、組みし抱かれた。
「チェックメイトだ」
 和輝がオティヌスの銃をメーフィルのこめかみに突き付け、リュシアンと千春が愛銃を片手に周囲を取り囲む。
 あっけない幕切れに、メーフィルはつまらなそうに頬をぷうっと膨らませると、カラドボルグを手放したのだった。


●女神モリアン
「ダークサイド獣人の刺青1個が、ナイトウォーカー1個体らしいけど‥‥」
 千春は命に危険がない範囲で、メーフィルの両方の手の甲に風穴を空け、ピンクロリの服を脱がせて調べる。メーフィルの身体には刺青はなく、子飼いのナイトウォーカーはいないようだ。
「後は石化したベスちゃんと竜華さん、燐さんを元に戻してもらうけど」
「‥‥その前にベルシードさんのガ・デルグの呪いも解いてもらわないと」
 千春が試しにカラドボルグを使ったが、燐達の石化は解けなかった。瞬華が口を挟んだように、ベルシードの出血は酷く、ヒーリングポーションやリカバリーメディシンも効果が薄いので、彼女の方を優先すべきだろう。

 身体検査に参加できない運と、感情に流される事を恐れたリュシアンは、警戒を兼ねて周辺の偵察へ出掛けた。
 その足で神殿へ向かうと、半ば朽ちた石造りの建物の中に台座があり、翼を湛えた女性の石像が安置されていた。瞳を閉じているが、優しそうな女性だ。
「これが女神モリアンか? 綺麗な女の人だな。とてもミテーラ・ナイトウォーカーには見えないんだが‥‥」
「運さん‥‥」
 リュシアンが指を差すと、石像が少しずつ色彩を取り戻し始めている。カラドボルグでは封印を解けなかったが、その力で封印が弱まり、自力で封印を解いているかもしれない。

 女神モリアン、いや、ミテーラ・ナイトウォーカーモリアンが、今、エリン島に復活しようとしていた。